説明

グリコシル化されたインターフェロンベータの調製方法

本発明は、インターフェロンベータの生産方法、及び独特のグリコシル化パターンを有するインターフェロンベータ組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無血清培養条件下で組換えヒトインターフェロンベータを生産する方法、組換えヒトインターフェロンベータを精製する方法、及び独特のグリコシル化パターンを有するインターフェロンベータタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、一般に「生物学的製剤」とも呼ばれる薬剤として商業的に重要になっている。最も大きな難題の一つは、工業規模で対費用効果が高く且つ効率のよい組換えタンパク質の生産方法の開発である。
【0003】
バイオテクノロジー産業では、ヒトの治療のための組換え糖タンパク質の製造に哺乳動物細胞を大量に使用する。
【0004】
ポリペプチドの生産に広く利用される好適な細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であることが判明している。
【0005】
CHO細胞は、最初にPuck(1958)により雌のチャイニーズハムスター由来の卵巣の生検から培養された。これらの原細胞より、種々の特徴を持つ多数の亜系統が調製された。これらのCHO細胞株の一つであるCHO-K1は、プロリン要求性であり、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子が二倍体である。この細胞株から誘導されたもう1つの細胞株はDHFR欠損CHO細胞株(CHO DUK B11)(PNAS 77, 1980, 4216-4220)であり、該細胞株は、一方のDHFR遺伝子中の変異の結果としてのDHFRの機能の喪失、及び他方の遺伝子のそれに続く喪失を特徴とする。
【0006】
ヒトに投与するためのタンパク質の生産に頻繁に使用されるその他の細胞には、ヒト繊維肉腫細胞株HT1080若しくはヒト胚性腎細胞株293、例えばPER.C6のようなヒト胚性網膜芽細胞由来細胞株、羊膜細胞由来細胞株又はニューロン由来細胞株のようなヒト細胞株がある。
【0007】
好適な細胞株由来の細胞は、生産すべき目的のタンパク質のコード配列、並びにプロモーター、エンハンサー、又はポリAシグナルのような、目的のタンパク質の安定した正確な発現を保証する調節配列を含む発現ベクターで安定的にトランスフェクトされる。発現ベクター上に通常存在するさらなる遺伝子は、例えば非トランスフェクト細胞及び一過的にトランスフェクトされた細胞から安定的にトランスフェクトされた細胞を選択するポジティブ選択マーカー(例えばneo遺伝子)のようなマーカー遺伝子である。DHFR遺伝子のような増幅可能な遺伝子は、コード配列の増幅に用いられる。
【0008】
一旦目的のタンパク質を発現するクローンを確立すれば、大量に且つヒトへの投与に用いられるタンパク質に要求されるような品質で製造することを可能にする、このクローンから始まる製造方法を確立しなければならない。
【0009】
そのような製造方法は、一般にバイオリアクター中で行われる。種々の実施態様が存在する。今日では、流加培養と灌流培養が、大量のタンパク質を必要とする哺乳動物細胞の培養方法のための生産工程の2つの主要な態様である(Hu及びAunins、1997)。最適な生産技術が何であれ、開発努力は、高容量の産生能、バッチ間の一貫性、均一な製品品質を低コストで保証する製造方法を得ることを目指す。
【0010】
流加生産法又は灌流生産法の間の決定は、主にクローンの生態と産物の特性により定まり、新規な製剤の開発過程の間にケースバイケースの原則で行なわれる(Kadouri及びSpier、1997)。
【0011】
選択が灌流方法である場合、最適な培養系の一つは、細胞が固体担体上に固定化される固定充填層型バイオリアクター(stationary packed-bed bioreactor)である。この系は、操作が容易であり、適切な担体と培養条件により非常に高い細胞密度(〜107−108細胞・ml-1)を達成することができる。
【0012】
この高い細胞密度の結果、細胞を生存及び増殖可能に維持するために、強度の培地灌流量(供給及び収穫)が必要となる。灌流量はこのような方法の中心的なパラメータの一つのようである:それは容積タンパク質産生能、タンパク質製品品質を促進し、該方法の全体の経済性に対し非常に強い影響力を有する。
【0013】
細胞培養法のため、従来、生物活性産物を生産する全ての哺乳動物細胞株の成長と維持のための万能の栄養素として働く血清が培地に添加された。血清は、ホルモン、成長因子、担体タンパク質、接合及び拡散因子、栄養素、微量元素等を含有する。培地は、通常、ウシ胎児血清(fetal calf serum)(FCS)とも呼ばれるウシ胎児血清(fetal bovine serum)(FBS)のような動物血清を最大約10%まで含有した。
【0014】
血清は広く用いられているものの、多くの制約がある。血清には、細胞により生産される目的の所望のタンパク質の限られた量に干渉する多数のタンパク質が高濃度で含まれる。血清に由来するこれらのタンパク質は、目的のタンパク質の精製のような後の処理工程で産物から分離しなければならず、これは製造方法を複雑にしコストを増大させる。
【0015】
潜伏期(latency又はincubation period)の長い畜牛の伝播性神経変性疾患であるBSE(ウシ海綿状脳症)の出現により、生物活性産物の生産に動物由来の血清を用いることに関して規制的な懸念が生じている。
【0016】
従って、生物活性産物の生産中に細胞の成長と維持を補助する、動物原料を含まない代替的な細胞培養培地の開発が強く望まれている。
【0017】
一般に、細胞培養培地には、アミノ酸、ビタミン、塩類、脂肪酸、及びさらなる化合物のような、異なるカテゴリーの多くの成分が含まれる:
【0018】
アミノ酸:例えば、US 6,048,728 (Inlowら)には、細胞培養培地には以下のアミノ酸を使用し得ることが開示されている:アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファン、チロシン、トレオニン、及びバリン。
【0019】
ビタミン:例えばUS 2003/0096414 (Ciccaroneら) 又はUS 5,811,299 (Rennerら)には、細胞培養培地には以下のビタミンを使用し得ることが記載されている:ビオチン、パントテナート、塩化コリン、葉酸、ミオ-イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、ビタミンB12、チアミン、プトレッシン。
【0020】
塩類:例えば、US 6,399,381 (Blumら)には、CaCl2、KCl、MgCl2、NaCl、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、CuSO4、ZnCl2を含む培地が開示されている。培地に用いられ得る無機塩類を開示する文献の他の例はUS 2003/0153042 (Arnoldら)である。該文献には、CaCl2、KCl、MgCl2、NaCl、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、CuCl2.2H20、ZnCl2を含む培地が記載されている。
【0021】
脂肪酸:培地に用いられることが公知の脂肪酸は、アラキドン酸、リノール酸、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、及びメチル−ベータ−シクロデキストリンである。例えばUS 5,045,468 (Darfler)を参照のこと。なお、シクロデキストリンはそれ自体脂質ではないが、脂質と複合体を形成する能力を有し、従って細胞培養培地中に脂質を可溶化するために用いられる。
【0022】
無血清細胞培養培地の構成に特に用いられるさらなる成分は、グルコース、グルタミン、ピルビン酸Na、インスリン若しくはエタノールアミンのような化合物(例えばEP 274 445)、又はプルロニック(Pluronic)F68のような保護剤である。プルロニック(登録商標)F68(ポロキサマー(Poloxamer)188としても知られる)は、エチレンオキシド(EO)とプロピレンオキシド(PO)とのブロック共重合体である。
【0023】
標準的な「基本培地」もまた当業者に公知である。これらの培地には、上記した培地成分のうちのいくつかが既に含まれている。広く用いられているそのような培地の例は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)、又はハム(Ham's)培地である。
【0024】
バイオリアクター中で目的のタンパク質を生産した後、目的のタンパク質を細胞培養収穫物から精製する必要がある。該細胞培養収穫物は、例えば、細胞内タンパク質については細胞抽出物、分泌タンパク質については細胞培養上清であり得る。
【0025】
現在多くの方法がタンパク質の大量調製に利用可能ではあるものの、細胞培養収穫物のような粗生成物には、所望の産物のみならず、所望の産物から分離しにくい不純物も含まれる。
【0026】
保健衛生当局は、ヒトに投与するためのタンパク質に高水準の純度を要求する。さらなる難点として、多くの精製方法には、低若しくは高pH、高塩濃度又は任意のタンパク質の生物活性を損ない得るその他の極限条件の適用を必要とする工程が含まれ得る。従って、いずれのタンパク質についても、該タンパク質の生物活性を維持しつつ十分な純度を可能にする精製方法を確立することは難題である。
【0027】
イオン交換クロマトグラフィー系は、主に電荷の差異に基づいてタンパク質を分離するために広く用いられている。イオン交換クロマトグラフィーにおいては、周囲の緩衝液のイオン強度が低い条件では、溶質表面の電荷を帯びたパッチが、クロマトグラフィーマトリックスに結合している反対の電荷に引き寄せられる。溶出は、一般に、緩衝液のイオン強度(すなわち導電率)を増大させ、イオン交換マトリックスの荷電部位に対して溶質と競合させることにより達成される。溶質の溶出を達成する他の方法は、pHを変化させ、それにより溶質の電荷を変化させることである。導電率又はpHの変更は漸進的(勾配溶離)又は段階的(段階溶離)であり得る。イオン交換クロマトグラフィーに用いることができる樹脂は異なる官能基を含み得る:例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)又はジエチル-(2-ヒドロキシ-プロピル)アミノエチル(QAE)はカウンターイオンとして塩素を有し、一方カルボキシメチル(CM)及びスルホプロピル(SP)はカウンターイオンとしてナトリウムを有する。
【0028】
疎水性固定相を有するクロマトグラフィー系は分離法の代替的な基礎を提供するものであり、同様にタンパク質の精製に広く利用されている。疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)及び逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)がこのカテゴリーに包含される。HIC及びRPLCによる分離の物理化学的基礎は疎水性効果であり、タンパク質は疎水性の差異に基づいて疎水性固定相上に分離される。
【0029】
逆相クロマトグラフィーはHICと非常に近いタンパク質精製法であり、いずれも生体分子表面上にある溶媒が到達できる非極性基とマトリックスの疎水性リガンドとの間の相互作用に基づいている。しかしながら、逆相クロマトグラフィーに用いられるリガンドは、HICリガンドよりも高度に疎水性リガンドで置換されている。HIC吸着剤の置換の度合いが10〜50μモル/mLの範囲のC2−C8アリールリガンドのマトリックスであり得る一方、逆相クロマトグラフィー吸着剤には通常数百μモル/mLのC4−C8アルキルリガンドのマトリックスが用いられる。
【0030】
ソース(Source)30RPCカラムは重合体の逆相マトリックスである。それは硬質で単サイズの(monosized)直径30ミクロンのポリスチレン/ジビニルベンゼンビーズを基礎としている。その特徴は次のように要約することができる:非常に広いpH範囲(1〜12)、高い選択性、高い耐化学薬品性、高流速における高いキャパシティー及び高い分離能。
【0031】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)とも呼ばれ、多孔性粒子を用いて種々のサイズの分子を分離するものである。それは、一般に、生体分子の分離並びにポリマーの分子量及び分子量分布の決定に用いられる。孔サイズよりも小さい分子は粒子内に入ることができるので、粒子内に入れない大きい分子よりも長い経路(path)及び長い通過時間を有する。孔サイズよりも大きい全ての分子は保持されず共に溶出する。孔に入ることができる分子は、粒子内で分子のサイズと形状に依存する平均滞留時間を有するだろう。異なる分子はそれ故にカラムを通じた総滞留時間が異なる。
【0032】
ブルーセファロースは、色素−リガンドアフィニティーマトリックスに基づいたクロマトグラフィー樹脂である。リガンドであるチバクロン(Cibacron)ブルーF3G-Aは、クロロトリアジン環を介してセファロース(商品名)に共有結合している(Clonisら、1987)。
【0033】
ブルーセファロースはインターフェロンベータの精製に用いられている(Moryら、1981)。
【0034】
インターフェロンベータ(インターフェロン-β又はIFN-β)は、サイトカインのクラスに属する天然の可溶性糖タンパク質である。インターフェロン(IFN)は、抗ウイルス性、抗増殖性及び免疫調節性といった広範囲の生物活性を有する。
【0035】
3種の主要なインターフェロンは、IFN-アルファ、IFN-ベータ及びIFN-ガンマと呼ばれる。これらのインターフェロンは当初それぞれの起始細胞(白血球、繊維芽細胞又はT細胞)に基づいて分類された。しかしながら、いくつかのタイプが1つの細胞により産生され得ることが明らかになった。それ故に、現在では白血球インターフェロンはIFN-アルファ、線維芽細胞インターフェロンはIFN-ベータ、T細胞インターフェロンはIFN-ガンマと呼ばれている。インターフェロンにはまた、「Namalwa」細胞株(バーキットリンパ腫由来)中で産生されるリンパ芽球腫IFNという第4のタイプが存在する。Namalwa細胞株は白血球及び線維芽細胞IFNの両者の混合物を産生するようである。
【0036】
ヒト線維芽細胞インターフェロン(IFN-ベータ)は、抗ウイルス活性を有し、細胞の増殖を抑制することも知られている。それはウイルス及び二本鎖RNAにより誘導される約20,000 Daのポリペプチドである。1980年にDerynckらの組換えDNA技術によりクローニングされた線維芽細胞インターフェロン遺伝子のヌクレオチド配列から、該タンパク質の完全アミノ酸配列が推定された。該配列の鎖長は166アミノ酸である。
【0037】
インターフェロン-βもまたクローニングされている。米国特許第5,326,859号には、ヒトIFN-β及びE. coliのような細菌中でのその組換え発現のためのプラスミドのDNA配列が記載されている。欧州特許第0 287 075号には、インターフェロン-βコード配列でトランスフェクトされ組換えインターフェロン-βを産生可能なCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞株が記載されている。該タンパク質は、単一のフコース部分を特徴とする、2つの触角を持つ(2分岐型の)オリゴ糖でグリコシル化されたものとして記載されている。
【0038】
インターフェロンベータは、CHO細胞、BHK21(仔ハムスター腎細胞)及びLTK(マウスL-チミジンキナーゼ陰性)細胞のような、数種類の細胞株中で発現されている(Reiser及びHauser、1987)。DHFR陰性CHO細胞もまたインターフェロンベータの発現に用いられている(Innis及びMcCormick、1982)、(Chernajovskyら、1984)。
【0039】
インターフェロンはしばしば異なる糖型でグリコシル化されることが知られている。例えば、IFN-βの糖類構造は単一のフコース糖及び末端のガラクトースシアリル化を特徴とする2分岐型構造を含むことが示された(Conradtら、1987)。IFN-βはグリコペプチダーゼFによる脱グリコシル化の後に沈殿したため、グリコシル化は可溶性にも重要であることが示された。さらに、細菌の発現系はグリコシル化を欠いているため、E. coliにより産生されるIFN-βは折り畳みの問題を呈した。
【0040】
欧州特許第0 529 300号には、特殊なグリコシル化パターンを有する、すなわちオリゴ糖単位当たり1個のフコースを特徴とする炭水化物構造でグリコシル化された組換えインターフェロン-βが記載されている。該炭水化物構造は、2つ、3つ及び4つの触角を持つ(それぞれ、2分岐型、3分岐型及び4分岐型の)オリゴ糖である。
【0041】
PCT出願番号WO 99/15193には、2つ、3つ及び4つの触角を持つオリゴ糖を特徴とする組換えインターフェロン-βのグリコシル化が記載されている。構成成分である単糖類には、マンノース、フコース、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース及びシアル酸が含まれる。
【0042】
種々の研究により、グリコシル化が安定性に重要であることが証明されている。例えば、組換えインターフェロン-βの非グリコシル化形態は、安定性が顕著に低く、生物活性も低いことが示された(Runkelら、1998)。
【0043】
他の研究では、組換えと天然のヒトインターフェロン-βタンパク質ではグリコシル化パターンが異なることが示されている(Kagawaら、1988)。
【0044】
インターフェロンベータは、タンパク質治療薬、いわゆる生物学的製剤として、例えば多発性硬化症、がん、又は例えばSARS若しくはC型肝炎ウイルス感染症のようなウイルス疾患といった多くの疾患に用いられている。
【0045】
従って、インターフェロンベータ及びインターフェロンを大量に発現する細胞の効率的な生産方法及び精製方法が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0046】
本発明の概要
本発明は、無血清培地で組換えヒトインターフェロンベータを生産する方法の開発に基づくものである。
【0047】
従って、第1の局面では、本発明は、グリコシル化された組換えの、好ましくはヒトのインターフェロン-βを製造する方法であって、インターフェロン-β産生細胞を無血清培地で培養する工程を含む方法に関する。該無血清培地は、
約10〜約30 mM HEPES、好ましくは20 mMのHEPESと;
約0.5〜約3 mMプロリン、好ましくは約1 mMのプロリンと;
約5500〜約7000 mg/L塩化ナトリウム、好ましくは約6100 mg/L塩化ナトリウム
とを含む。
【0048】
本発明は、さらには、液体から、特にインターフェロンベータを産生する細胞に由来する細胞培養収穫物から、組換えインターフェロンベータを精製する方法の開発に基づくものである。
【0049】
従って、第2の局面では、本発明は、
液体をアフィニティークロマトグラフィーにかける工程と;
アフィニティークロマトグラフィーの溶出物を陽イオン交換クロマトグラフィーにかける工程と;
陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出物をRP-HPLCによる疎水性クロマトグラフィーにかける工程
とを含む、組換えヒトインターフェロンを液体から精製する方法に関する。
【0050】
本発明の方法により生産されたインターフェロンベータの解析により、それが異なる態様でグリコシル化されたインターフェロンベータ、すなわち独特のグリコシル化パターンないしはプロファイルを有するインターフェロンベータの組成物であることが明らかとなった。従って、第3の局面では、本発明は、2個又は3個のフコース糖を含むオリゴ糖構造を含むインターフェロンベータ組成物に関する。
【0051】
本発明の方法により生産される組換えヒトインターフェロン-βの、腫瘍、多発性硬化症、ウイルス感染症の治療のための薬剤の製造への使用、並びに本発明の無血清細胞培養培地の、インターフェロンベータの生産のための使用は、本発明のさらなる局面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
発明の詳細な説明
本発明の第1の局面は、無血清細胞培養条件下でのインターフェロンベータの生産方法の開発に基づく。本発明によると、グリコシル化された組換えインターフェロンベータの製造方法は、無血清培地中でインターフェロンベータ産生細胞を培養する工程を含み、ここで、該無血清培地は、
約10〜約30 mM HEPES、好ましくは20 mMのHEPESと;
約0.5〜約3 mMプロリン、好ましくは約1 mMのプロリンと;
約5500〜約7000 mg/L塩化ナトリウム、好ましくは約6100 mg/L塩化ナトリウム
とを含む。
【0053】
該無血清培地は、例えば、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は21 mMのHEPES(2-(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル)エタンスルホン酸)緩衝液を含み得る。また、例えば、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3,1 mMのプロリンも含み得る。
【0054】
本発明の無血清培地中の塩化ナトリウム濃度は、例えば、約5400、5500、5600、5700、5800、5900、6000、6100、6200、6300、6400、6500、6600、6700、6800、6900、7000、7100 mg/Lであり得る。
【0055】
好ましい態様では、該無血清培地は、約10〜約20、好ましくは約15 mg/Lのフェノールレッドをさらに含む。フェノールレッド濃度は、例えば9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21 mg/Lであり得る。
【0056】
本発明の方法の構成では、上記した成分が、いかなる適当な公知の無血清培地中にも用いられ得る。そのような無血清培地の例を以下に記載する:
【0057】
【表1】

【0058】
本発明に従って培養し得るインターフェロンベータ産生細胞は、いかなる哺乳動物細胞であってもよく、例えば、インターフェロンベータを発現し、好ましくは分泌するように改変された、3T3細胞、COS細胞、ヒト骨肉腫細胞、MRC-5細胞、BHK細胞、VERO細胞、CHO細胞、CHO-S細胞、HEK 293細胞、HEK 293細胞、正常ヒト線維芽細胞、ストローマ細胞、肝細胞及びPER.C6細胞のような、動物又はヒト細胞が挙げられる。
【0059】
本発明の方法に用いる細胞は、好ましくは、例えばReiser及びHauser(1987年)により記載された細胞株やInnis及びMcCormick(1982年)により記載された細胞のような、インターフェロンベータ発現CHOクローンである。
【0060】
本明細書において、「インターフェロンベータ」という語は、IFNベータ、又はIFN-βとも呼ばれる。いかなる種に由来するインターフェロンベータも包含され、好ましくは、分子量およそ22,500ダルトンの166アミノ酸の糖タンパク質であるヒトインターフェロンベータが包含される。本明細書において、「インターフェロンベータ」という語には、IFN-ベータの機能性誘導体、突然変異タンパク質、類似体、又は断片も包含される。「インターフェロンベータ1a」という語は、グリコシル化されたインターフェロンベータを指す。
【0061】
インターフェロンベータの活性は、例えば、世界保健機構の天然インターフェロンベータ標準(インターフェロンに対する第2の国際標準、ヒト線維芽細胞 GB 23 902 531)に対して較正された標準品を用いて測定することができる。単位は、インターフェロンベータ-1aのmg当たり抗ウイルス活性の国際単位(IU)で表され、該活性は、WISH細胞と水疱性口内炎ウイルスとを用いたインビトロの細胞変性効果バイオアッセイにより決定される。
【0062】
IFN-ベータのMIU及びmcgに関する変換表
【表2】

【0063】
本発明の構成において用いられる「変種」又は「突然変異タンパク質」とは、天然のIFN-ベータの1以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸残基に置換され、若しくは欠失し、又は1以上のアミノ酸残基が天然の配列のIFN-ベータに付加されたものであって、その結果物の活性が野生型のIFN-ベータと比較して著しく減少してはいない、IFN-ベータの類似体をいう。これらの突然変異タンパク質は、公知の合成法により及び/若しくは部位特異的突然変異誘発技術により、又はそのために適した他のいずれの公知技術によっても調製することができる。
【0064】
本発明において、「変種」又は「突然変異タンパク質」という語には、例えばUS 4,738,931に開示されるような、IFN-ベータをコードするDNA又はRNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズする、DNA又はRNAのような核酸にコードされるタンパク質が包含される。「ストリンジェント条件」という語は、ハイブリダイゼーション及びそれに続く洗浄条件であって、この分野の当業者が従来「ストリンジェント」と言う条件のことをいう。アウスベル(Ausubel)ら、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、上巻、インターサイエンス(Interscience)、ニューヨーク、§§6.3及び6.4(1987年、1992年)を参照のこと。特に限定されないが、ストリンジェント条件の例としては、検討中のハイブリッドのTm計算値より12〜20℃低い洗浄条件、例えば、2×SSC及び0.5%SDSで5分間、2×SSC及び0.1%SDSで15分間;0.1×SSC及び0.5%SDSで37℃にて30〜60分間及び次いで0.1×SSC及び0.5%SDSで68℃にて30〜60分間のような条件が挙げられる。当業者は、ストリンジェンシー条件がDNA配列の鎖長、オリゴヌクレオチドプローブ(例えば10〜40塩基)又は混合オリゴヌクレオチドプローブにも依存することを理解する。混合プローブを用いる場合には、SSCに代えて塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を用いることが好ましい。上掲のAusubelを参照のこと。
【0065】
同一性は、2つ以上のポリペプチド配列間又は2つ以上のポリヌクレオチド配列間の関係を反映するものであり、配列を比較することにより決定される。一般に、同一性とは、比較される配列の鎖長にわたる、2つのポリヌクレオチド又は2つのポリペプチド配列の、正確なヌクレオチドとヌクレオチドとの又はアミノ酸とアミノ酸との一致をいう。
【0066】
正確な一致のない配列に対しては、「%同一性」が決定され得る。一般に、比較すべき2つの配列は、該配列間で相関関係が最大になるように整列される。これには、いずれか一方の又は両者の配列に「ギャップ」を挿入して整列化の程度を高めることも含まれる。%同一性は、比較されるそれぞれの配列の全長にわたって決定され得る(いわゆるグローバルアラインメント)。これは、同一の又は非常に近い鎖長の配列に特に適している。あるいは、より短い規定された鎖長において決定され得る(いわゆるローカルアラインメント)。これは等しくない鎖長の配列により適している。
【0067】
2以上の配列の同一性及び相同性を比較する方法はこの分野で周知である。例えば、ウィスコンシン配列解析パッケージ、バージョン9.1(Devereux Jら、1984年)で利用可能なプログラム、例えばBESTFIT及びGAPプログラムは、2つのポリヌクレオチド間の%同一性並びに2つのポリペプチド配列間の%同一性及び%相同性の決定に用いることができる。BESTFITは、Smith及びWaterman(1981年)の「ローカルホモロジー」アルゴリズムを用いており、2つの配列間で最も類似度の高い単一領域を見つける。同一性及び/又は類似性を決定するための他のプログラムもこの分野で公知であり、例えばBLASTファミリープログラム(Altschul SFら、1990年、Altschul SFら、1997年、www.ncbi.nlm.nih.govのNCBIホームページからアクセス可能)及びFASTA(Pearson WR、1990年)がある。
【0068】
そのような変種又は突然変異タンパク質はいずれも、好ましくは、IFN-ベータと実質的に類似した活性を有するように、IFN-ベータのアミノ酸配列と十分によく似たアミノ酸配列を有する。ある変種又は突然変異タンパク質がIFN-ベータと類似した活性を有するかどうかを評価するための機能分析は、例えば、Youcefiら、1985年に記載されるような、WISH細胞中での水疱性口内炎ウイルスの細胞変性効果に対するインターフェロンの活性を測定するアッセイが挙げられる。このように、ある任意の突然変異タンパク質がIFN-ベータと実質的に同一の活性を有するかどうかは、ルーチン的な実験方法により決定することができる。
【0069】
そのような変種又は突然変異タンパク質はいずれも、例えばUS 4,738,931に開示されるように、IFN-ベータの配列と少なくとも40%の同一性又は相同性を有し得る。より好ましくは、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、若しくは、最も好ましくは少なくとも90%の同一性又は相同性をそれに対して有する。
【0070】
本発明で用いることができるIFN-ベータの突然変異タンパク質、又はそれをコードする核酸には、当業者が本明細書に記載の教示及び指図に基づき過度の実験をすることなくルーチン的に得ることができる置換ペプチド又はポリヌクレオチドのような、実質的に相当する配列の有限集合が含まれる。
【0071】
本発明による突然変異タンパク質についての好ましい変更は、「保存的」置換として知られるものである。IFN-ベータポリペプチドの保存的アミノ酸置換には、グループのメンバー間での置換が分子の生物学的機能を維持するであろう、十分に類似した物理化学的特性を有するグループ内の同義アミノ酸が包含され得る(Grantham, 1974)。アミノ酸の挿入及び欠失もまた、特に、該挿入又は欠失が、例えば30個未満、好ましくは10個未満といった少数のアミノ酸のみが関与するものである場合には、及び例えばシステイン残基のように機能性高次構造に重要なアミノ酸を除去又は置換するものでない場合には、上記定義の配列内でその機能を変化させることなく行なわれ得ることは明らかである。そのような欠失及び/又は挿入により作られるタンパク質及び突然変異タンパク質は本発明の範囲に含まれる。
【0072】
本発明で用いられるIFN-ベータの突然変異タンパク質を得るために利用することができるタンパク質中のアミノ酸置換の例としては、Markらに対する米国特許第4,959,314号、第4,588,585号及び第4,737,462号; Kothsらに対する米国特許第5,116,943号、Namenらに対する米国特許第4,965,195号; Chongらに対する米国特許第4,879,111号; 及びLeeらに対する米国特許第5,017,691号に記載されるようないずれの公知の方法も挙げられ、また米国特許第4,904,584号 (Shawら)に記載されるリジン置換タンパク質も挙げられる。
【0073】
特殊な種類のインターフェロン変種が近年報告されている。そのいわゆる「コンセンサスインターフェロン」は、IFNの天然には生じない変種である(US 6,013,253)。コンセンサスインターフェロンもまた本発明に従って生産され得る。
【0074】
本明細書において、IFN-ベータの「機能性誘導体」には、残基の側鎖又はN若しくはC末端基として生じる官能基からこの分野で公知の手段により調製することができる誘導体が包含され、それらが医薬として許容されるままである限り、すなわち、それらが上記したタンパク質の生物活性すなわち対応するレセプターに結合しレセプターシグナル伝達を開始する能力を損なわない限り、そしてそれを含有する組成物に毒性を付与しない限りにおいて、該機能性誘導体は本発明に包含される。誘導体は、タンパク質の生物活性を保持し、且つ医薬として許容されるままである限り、例えば炭水化物又はリン酸残基のような化学成分を有し得る。
【0075】
インターフェロンベータの誘導体には、例えば、ポリエチレングリコール側鎖が含まれ得る。該ポリエチレングリコール側鎖は、該タンパク質の他の特性、例えば安定性、半減期、バイオアベイラビリティ、人体による耐性、又は免疫原性のような特性を向上させ得る。この目標を達成するため、IFN-ベータを例えばポリエチレングリコール(PEG)と結合させることができる。ペグ化は、例えばWO 92/13095に記載される公知の方法により行なうことができる。特に、PEG-IFNは、WO 99/55377の教示に従って調製することができる。
【0076】
IFN-ベータの機能性誘導体は、アミノ酸残基上の1以上の側鎖として生じる1以上の官能基に結合した少なくとも1つの成分を含み得る。該成分がポリエチレングリコール(PEG)成分である態様が非常に好ましい。本発明では、数個のPEG成分がIFN-ベータに結合することもあり得る。
【0077】
他の誘導体には、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニア若しくは第1級若しくは第2級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル成分と共に形成されるアミノ酸残基のフリーなアミノ基のN-アシル誘導体(例えばアルカノイル又は炭素環式アロイル基)又はアシル成分と共に形成されるフリーの水酸基の(例えばセリル又はスレオニル残基の)O-アシル誘導体が包含される。
【0078】
本発明の「断片」とは、IFN-ベータの部分集合、すなわち、例えば上記したバイオアッセイで測定可能な所望の生物活性を保持する短いペプチドのことをいう。断片は、分子のいずれかの末端からアミノ酸を取り除き、得られた物のレセプターアゴニストとしての特性を調べることにより、容易に調製することができる。ポリペプチドのN-末端又はC末端のいずれかから一度に1つずつのアミノ酸を除去するプロテアーゼは公知であり、所望の生物活性を保持するそのような断片の決定は、例えばYoucefiら、1985年に記載される試験で決定することができ、ルーチン的な実験のみを含む。
【0079】
本発明のインターフェロンベータの生産方法は、一定温度で、又は変動温度で実施することができる。例えば、全工程を通じて37℃で実施することができる。また、最初に、例えば増殖期の間は37℃で、次いで産生期では35℃、33℃又は30℃に低下させて実施することもできる。
【0080】
好ましい態様では、本発明の方法は、増殖期I、増殖期II及び産生期を含む。ここで、増殖期Iは約37℃で行なわれ、増殖期IIは約35℃で行なわれ、産生期は約33℃で行なわれる。
【0081】
各期の終了の決定は当業者の知識で十分に行うことができ、例えば細胞密度、グルコース消費又は他の代謝の指標に基づいて決定される。一般に、増殖期Iは例えば10〜12日であり得る。増殖期IIは一般により短く、主に細胞を低温に適応させる働きをする。増殖期IIは例えば1〜2日であり得る。
【0082】
本発明の方法は、流加又は灌流法として実施され得る。本発明では灌流が好ましい。
【0083】
好ましくは、該方法は、1日当たり約1〜約10の、好ましくは約1.5〜約7の範囲の希釈率での灌流方法である。
【0084】
本明細書で定義される「希釈率」という語は、1日当たりの合計系稼動体積のリットル当たりの培地のリットルとして算出される希釈率Dのことをいう(合計体積=固定層+順化タンク体積)。本発明では、希釈率は、例えば0.5、1、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5の範囲であり得る。
【0085】
より好ましくは、希釈率は、細胞培養のはじめの2〜3週間以内に、とりわけ産生期の間に、初期値である約1〜2/日から約7〜10/日の値まで増大される。
【0086】
本発明の方法の培養工程は、ペトリ皿、T型フラスコ又はローラーボトルのようないかなる適当な環境にて行なうこともできるが、例えばバイオリアクターのような大容量の容器中で行うことが好ましい。
【0087】
選択が灌流方法である場合、該系は、例えば、細胞が固体担体上に固定化される固定充填層型バイオリアクターであり得る。この系は操作が簡便であり、好適な担体及び培養条件を用いて非常に高い細胞密度(〜107-108細胞・ml-1)を達成することができる。
【0088】
本発明に従って用いることができる固体担体は、例えばマイクロキャリアーであり得る。マイクロキャリアーは、懸濁培養においてその表面上で細胞が成長し得る小さい固体の粒子である。細胞はマイクロキャリアーの表面上で接着及び増殖することができる。典型的には、マイクロキャリアーは、直径が90μm〜300μmのビーズから成る。マイクロキャリアーは、例えばガラス、ポリスチレン、ポリエチレン、デキストラン、ゼラチン及びセルロースのような、細胞の接着と増殖に好結果であることが証明されている種々の物質でできていてよい。さらに、マイクロキャリアーの表面は、例えば、N,N-ジエチルアミノエチル、ガラス、コラーゲン又は組換えタンパク質のような、細胞の接着と成長を促進する物質でコートされていてよい。マクロ多孔性及び非多孔性マイクロキャリアーの両者が存在する。マクロ多孔性の表面は、播種後にマイクロキャリアーの内部に細胞が接近し易く、一旦マイクロキャリアーの内部に入れば、細胞はバイオリアクター中の機械的撹拌及び通気により生成される剪断力から保護される。
【0089】
本発明に従って用いられ得るさらなる固体担体は、例えば、ポリプロピレンメッシュのシートに結合したポリエステル製不織線維から成るディスク(例えば米国特許第5,266,476号を参照)のようなディスクであり得る。そのようなディスクは、通常、懸濁培養細胞のディスクへの接着と繊維系中への捕捉を促進するために静電気的に処理され、培養方法の全工程にわたって細胞は該繊維系に残存する。ディスク上で育てられる細胞により達成される細胞密度及び産生能は、マイクロキャリアー上で成長する細胞による場合よりも10倍まで高くなり得る。
【0090】
グリコシル化されたインターフェロンベータの生産方法は、好ましくは、インターフェロンベータ含有細胞培養収穫物を収集する工程をさらに含む。
【0091】
好ましい態様では、細胞培養収穫物は、更に精製方法にかけられる。
【0092】
精製方法は、所要の純度のインターフェロンベータをもたらすいかなる方法であってもよく、クロマトグラフィー又は塩での分画等のようなその他の精製技術に基づく精製工程のいかなる組み合わせをも含み得る。精製は、好ましくは、本発明の第2の局面に従って行なわれる。
【0093】
第2の局面では、本発明は、
a) 液体をアフィニティークロマトグラフィーにかける工程と;
b) アフィニティークロマトグラフィーの溶出物を陽イオン交換クロマトグラフィーにかける工程と;
c) 陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出物をRP-HPLCによる疎水性クロマトグラフィーにかける工程と
を含む、組換えヒトインターフェロンを液体から精製する方法に関する。
【0094】
工程(a)は、好ましくは、例えばブルーセファロースファストフローカラムのようなブルーセファロース上で行なわれる。工程(b)は、好ましくは、例えばCMセファロースファストフローのようなカルボキシメチル樹脂上で行なわれる。
【0095】
好ましい態様では、本発明の精製方法は、工程(a)の前に、精密濾過により液体を清澄にする工程をさらに含む。
【0096】
さらなる好ましい態様では、該精製方法は、
d) 限外濾過及び透析を行なう工程と、
e) 透析物をサイズ排除クロマトグラフィーにかける工程と、
f) サイズ排除クロマトグラフィーの溶出物を濾過にかける工程と
をさらに含む。
【0097】
工程(f)は、例えば精密濾過又はナノ濾過により行なわれ得る。
【0098】
限外濾過は、先のクロマトグラフィー工程から生じる溶出物中の低分子量成分の除去に有用である。限外濾過は、例えば、前工程由来の有機溶媒、TFA及び塩類を除去して、インターフェロンベータを所要の緩衝液中に平衡化すること、又は分子を所要の濃度に濃縮することを許容する。そのような限外濾過は、例えば、5 kDa未満の分子量を有する成分を排除する限外濾過媒体上で行なうことができる。
【0099】
本発明の方法に従って精製されるタンパク質がヒトに投与するためのものである場合、ウイルス除去の工程をさらに含むことが有利である。ウイルス除去濾過工程は、例えば、工程(d)と(e)の間、又は工程(e)の後に行なわれ得る。より好ましくは、該方法は、2つのウイルス除去工程を含む。
【0100】
本発明の精製方法で得ることができる純度は、好ましくは>80%、より好ましくは>90%、最も好ましくは>98%である。
【0101】
本発明に係るインターフェロンベータの精製方法は、好ましくは、精製されたインターフェロンベータを、所望により医薬として許容される担体と共に、医薬組成物に調剤する工程をさらに含む。
【0102】
本発明に従って生産又は精製されるインターフェロンベータは、いかなる細胞株又はクローン中でも発現され得る。しかしながら、グリコシル化されたインターフェロンベータの調製のための宿主細胞としては、DHFR(ジヒドロ葉酸還元酵素)活性を欠いた、DUKX-B11と名付けられたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を用いることが好ましい。ヒトインターフェロン-βをコードするDNA配列は、例えば米国特許第5,326,859号に記載されている。
【0103】
本発明の好ましい態様は、比細胞産生能(specific cellular productivity)(IU/106細胞/24時間)で少なくとも約100000 IUの組換えヒトインターフェロン-βを生産可能なトランスフェクト細胞中にて組換えヒトインターフェロン-βを生産する方法に関する。好ましくは、細胞は、比細胞産生能で少なくとも約200000 IU又は少なくとも約200000 IU又は少なくとも約300000 IU又は少なくとも400000 IU又は少なくとも約500000 IUまたは少なくとも約600000 IUの組換えヒトインターフェロンベータを生産可能である。
【0104】
好ましくは、インターフェロンベータ産生細胞は、ヒトIFN-β遺伝子と機能的に連結された少なくとも1つのプロモーター/エンハンサー要素を含む核酸構築物でトランスフェクトされたCHO細胞である。より好ましくは、少なくとも1つのプロモーター/エンハンサー要素は、SV40プロモーター/エンハンサーを含む。最も好ましくは、核酸構築物は、SV40 T Ag初期ポリアデニル化領域(early polyadenylation region)と機能的に連結されているヒトIFN-β遺伝子と機能的に連結されたSV40プロモーター/エンハンサーから成る少なくとも第1の転写単位を含む。該核酸構築物は、SV40プロモーター/エンハンサー、マウスDHFR遺伝子及びSV40 T AgポリA含有初期ポリアデニル化領域から成る少なくとも第2の転写単位をさらに含むことも非常に好ましい。
【0105】
本発明の他の態様は、細胞中にトランスフェクトするためのヒトIFN-β遺伝子と機能的に連結された少なくとも1つのプロモーター/エンハンサー要素を含む核酸構築物に関し、ここで、トランスフェクトされた細胞は、比細胞産生能(IU/106細胞/24時間当たり)で少なくとも約100000 IU、少なくとも約200000 IU又は少なくとも約300000 IU又は少なくとも約400000 IU又は少なくとも約500000 IU又は少なくとも約600000 IUの組換えヒトインターフェロン-βを生産可能であることを特徴とする。
【0106】
好ましくは、少なくとも1つのプロモーター/エンハンサー要素は、SV40プロモーター/エンハンサーを含む。より好ましくは、核酸構築物は、SV40 T Ag初期ポリアデニル化領域と機能的に連結されているヒトIFN-β遺伝子と機能的に連結されたSV40プロモーター/エンハンサーから成る少なくとも第1の転写単位を含む。最も好ましくは、該核酸構築物は、SV40プロモーター/エンハンサー、マウスDHFR遺伝子及びSV40 T AgポリA含有初期ポリアデニル化領域から成る少なくとも第2の転写単位をさらに含む。
【0107】
本発明は、さらに、本発明の方法により得ることができるインターフェロンベータに関する。
【0108】
さらなる局面では、本発明は、独特のグリコシル化プロファイルを有するインターフェロンベータ組成物に関する。そのようなインターフェロンベータは、好ましくは、本発明の方法により生産される。
【0109】
1つの態様では、グリコシル化された組換えヒトインターフェロン-βタンパク質は、2個又は3個のフコース糖を有するオリゴ糖構造を含む。好ましい態様では、該オリゴ糖構造は、ジシアリル2分岐型トリフコシル化グリカン(Neu2Ac.Hex5.HexNAc4.Fuc3)をさらに含む。
【0110】
さらなる好ましい態様では、特有のグリコシル化パターンは、非シアリル化2分岐型構造(Hex5.HexNAc4.Fuc);ジシアリル化3分岐型構造又はN-アセチルラクトサミン反復構造を有するジシアリル化2分岐型(NeuAc2.Hex6.HexNAc5.Fuc);トリシアリル化3分岐型構造(NeuAc3.Hex6.HexNAc5.Fuc);N-アセチルラクトサミン反復構造を有するトリシアリル化3分岐型構造又はトリシアリル化4分岐型(NeuAc3.HeX7.HexNAc6.Fuc);2つのフコース単位を有するモノシアリル化及びジシアリル化2分岐型構造(NeuAc.Hex5.HexNAc4.Fuc2,NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc2)をさらに含む。
【0111】
好ましくは、独特のグリコシル化パターンは、天然のヒトタンパク質グリコシル化パターンと類似したレベルのN-アセチルノイラミン酸:N-グリコリルノイラミン酸を特徴とするグリカンを含む。
【0112】
さらなる好ましい態様では、本発明のインターフェロンベータ組成物は、約1〜約5%の非シアリル化N-グリカン、約5〜約25%のモノシアリル化グリカン、約55〜約75%のジシアリル化N-グリカン、約10〜約25%のトリシアリル化N-グリカンを含むシアリル化プロファイルにより特徴付けられる。
【0113】
本発明のさらなる局面は、本発明に係るインターフェロンベータの、ヒトの疾患、特に多発性硬化症、がん、又はウイルス感染症の治療用の医薬の製造のための使用に関する。
【0114】
多発性硬化症は、再発性、非再発性及び早期発症型の多発性硬化症から成る群より選択され得る。
【0115】
さらなる局面では、本発明は、本明細書に記載されるように被験者に組換えヒトインターフェロン-βタンパク質を投与することを含む、本発明のインターフェロン-βでの治療を必要とする被験者の治療方法に関する。
【0116】
好ましくは、該治療は、多発性硬化症に対するものである。より具体的には、多発性硬化症は、再発性、非再発性及び早期発症型の多発性硬化症から成る群より選択され得る。
【0117】
あるいは、該治療は、抗腫瘍治療である。
【0118】
あるいはまた、該治療は、抗ウイルス治療である。
【0119】
本発明のさらなる局面では、本発明は、本明細書に記載されるように単離され精製された組換えヒトインターフェロン-β組成物を活性成分として含み、かつ、医薬組成物の投与のための医薬として許容される担体を含む医薬組成物に関する。好ましくは、抗腫瘍若しくは抗ウイルス活性、又は多発性硬化症に対する活性を有する医薬組成物は、活性成分として、本明細書に記載されるように単離され精製された組換えヒトインターフェロン-βタンパク質を含み、かつ、医薬組成物の投与のための医薬として許容される担体を含む。
【0120】
本発明のさらなる局面では、本発明は、包装材料と、治療的に有効な量の単離され精製された組換えインターフェロン-βタンパク質とを含む製品であって、該包装材料は、本明細書に記載されるような組換えヒトインターフェロン-βタンパク質がヒトの治療のためにヒトに投与可能であることを示すラベル又は添付文書を含む製品に関する。
【0121】
本明細書に記載される、単離され精製された組換えヒトインターフェロン-βタンパク質又は医薬組成物は、好ましくは、再発性、非再発性及び早期発症型の多発性硬化症の治療用の医薬の製造に使用される。特定の被験者(患者)に対する投与計画は、これらの投与計画がこの分野で周知であるため、当業者により容易に決定され得る。
【0122】
以下、下記実施例を参照して、上記した説明とあわせ本発明を非限定的に説明する。
【0123】
一般に、本明細書で用いられる用語及び本発明で利用される実験法は、分子学的、生物化学的、微生物学的技術及び組換えDNA技術を含む。そのような技術は文献中で十分に説明されている。例えば、「モレキュラークローニング:実験マニュアル」(Molecular Cloning: A laboratory Manual)Sambrookら、(1989);「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」(Current Protocols in Molecular Biology)、I-III巻、Ausubel, R. M.編(1994);Ausubelら、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」(Current Protocols in Molecular Biology)、John Wiley and Sons、メリーランド州ボルティモア (1989);Perbal、「分子クローニングの解説書」(A Practical Guide to Molecular Cloning)、John Wiley & Sons、ニューヨーク(1988);Watsonら、「組換えDNA」(Recombinant DNA)、Scientific American Books、ニューヨーク;Birrenら(編)「ゲノム分析:実験マニュアルシリーズ」(Genome Analysis: A Laboratory Manual Series)、1-4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク(1998);米国特許第4,666,828号; 第4,683,202号; 第4,801,531号; 第5,192,659号及び第5,272,057号に記載される方法論;「細胞生物学:実験室ハンドブック」(Cell Biology: A Laboratory Handbook)、I-III巻、Cellis, J. E.編(1994); 「動物細胞の培養−基本技術マニュアル」(Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique)、Freshney、Wiley-Liss、 N. Y. (1994)、第3版; 「オリゴヌクレオチド合成」(Oligonucleotide Synthesis) Gait, M. J.編(1984); 「核酸ハイブリダイゼーション」(Nucleic Acid Hybridization) Hames, B. D.及びHiggins S. J.編. (1985); 「転写及び翻訳」(Transcription and Translation)Hames, B. D.及びHiggins S. J.編(1984); 「動物細胞培養」(Animal Cell Culture) Freshney, R. I.編(1986); 「固定化細胞及び酵素」(Immobilized Cells and Enzymes)IRL Press, (1986); 「分子クローニングの解説書」(A Practical Guide to Molecular Cloning)Perbal, B., (1984)及び「酵素学の手法」(Methods in Enzymology)1-317巻, Academic Press; 「PCRプロトコール:方法及び応用のガイド」(PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications)、Academic Press, San Diego, CA (1990); Marshakら、「タンパク質精製及び特徴づけのための戦略−実習コースマニュアル」(Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual) CSHL Press (1996)を参照;これらは全て、本明細書に完全に記載されているのと同様に、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0124】
以上に本発明を十分に記載したが、当業者であれば、均等なパラメータ、濃度及び条件の広い範囲内において、本発明の思想及び範囲から逸脱することなく、且つ過度の実験をすることなく、同様のことを実施可能であるということを理解するだろう。
【0125】
本発明はその具体的な態様とともに記載されているが、さらなる改変が可能であることが理解されるだろう。本発明の原理に従い、また、本発明が属する分野において公知又は慣行となるような、そして添付の特許請求の範囲において記載される後述の本質的な特徴に適用され得るような本開示からの逸脱を含め、本出願は、本発明のいかなる変形、利用又は修正も包含することを意図する。
【0126】
学術論文若しくは要約、公開若しくは非公開の米国若しくは外国特許出願、発行された米国若しくは外国特許又は他のいかなる文献も含め、本明細書に引用される全ての文献は、該引用文献中に存在する全てのデータ、表、図面及び本文を含め、その全体が引用により本明細書に組み入れられるものとする。さらに、本明細書に引用される文献において引用されている文献の全ての内容もまた、引用によりその全文が組み入れられるものとする。
【0127】
公知の方法工程、常法の工程、公知の方法又は常法の参照は、関連分野において本発明のいずれかの局面、説明又は態様が開示され、教示され又は示唆されているとの自認を表すものではない。
【0128】
前述の具体的態様の説明により本発明の一般的な性質が十分に明らかになるだろうため、他者は、当業者の範囲内の知識(本明細書に引用される文献の内容も含む)を利用することにより、過度の実験をすることなく、また本発明の一般的概念から逸脱することなく、そのような具体的態様を容易に改変及び/又は種々の応用に適合させることができるだろう。従って、そのような適合及び改変は、本明細書に存在する教示及び指示に基づき、開示された態様と均等の意義の範囲内にあるものとする。本明細書の語句ないしは専門用語は説明のためのものであって限定を目的とするものではなく、本明細書の語句ないしは専門用語は、当業者の1人の知識と組み合わせ、本明細書に存在する教示及び指示に照らして当業者により解釈されるものと理解される。
【実施例】
【0129】
実施例1 IFN-ベータを高水準で産生するチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) クローンの調製
本実施例ではインターフェロンベータを産生するCHO クローンの生成について述べる。
【0130】
基本的な手法、特に発現プラスミドの調製については Mory ら (1981) に記載されている。
【0131】
クローン生成方法の概観を図 1 に示す。ヒト末梢血細胞ゲノム DNA ライブラリーからヒトインターフェロン-β コード領域を含むDNA断片を単離した。ヒト IFN-β コード配列、及び選択可能かつ増幅可能なマーカーとしてのマウス DHFR 遺伝子をともに含む組み換えプラスミドで、DHFR 欠損 CHO 細胞株をトランスフェクトした。チミジンを含まない培地における選択、メトトレキサート (methotrexate) (MTX) を用いた遺伝子増幅、及びクローニングの後、IFN-β-1a を高水準で産生する細胞が単離された。該細胞は遺伝子型と表現型の特徴付けを行った。
【0132】
hIFN-β 及び mDHFR 遺伝子を持つ発現プラスミドの構築
ヒトゲノム IFN-β コード配列及びマウス DHFR 耐性遺伝子をともに含む発現ベクターを構築した。該構築物により、例えば Chernajovsky ら (1984) で公知のように、CHO 宿主細胞に対して、一方が IFN-β コード配列、他方がマウス DHFR 配列を含む 2 個の別々のプラスミドを用いて同時トランスフェクションを行う必要がなくなった。
【0133】
IFN-β コード配列を含む発現ベクターはIFN-β 3’UTR と、それに伴って IFN-β ポリアデニル化領域を欠いていた。
【0134】
本発明の発現ベクターは、従って、SV40 プロモーター・エンハンサー、ヒト IFN-β コード配列及び SV40 T Ag 初期ポリアデニル化領域からなる第 1 の IFN-β 転写単位と、SV40 プロモーター・エンハンサー、マウス DHFR 遺伝子及び SV40 T Ag ポリ A 含有初期ポリアデニル化領域からなる第 2 の DHFR 転写単位という、2 個の転写単位を含んだ。
【0135】
これらの転写単位には、ColEl バクテリア複製開始点及びアンピシリン耐性遺伝子を持つ pBR322 プラスミド由来の配列が続いた。
【0136】
該発現ベクターの構造は、制限酵素地図分析及び全長のシークエンシング (2本鎖、自動シークエンシング) によって確認した。その構築に用いた断片の正確な配列は両方向から確認を行った。
【0137】
宿主細胞の説明
DUKX-B11 と命名され、DHFR (ジヒドロ葉酸還元酵素) 活性を欠くチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞株を宿主細胞として用いた。該細胞株は、プロリン要求性 CHO-K1 細胞株 (Kao及びPuck, 1968) から、エチルメタン硫酸塩による突然変異生成とそれに続くガンマ線照射によって単離された。DHFR 欠損突然変異株は、高比放射能の [3H]-デオキシウリジンへの曝露によって選択された (Urlaub及びChasin, 1980)。
【0138】
完全欠損突然変異株は増殖の際にグリシン、ヒポキサンチン及びチミジンを要求する。DHFR が核酸前駆体合成において中心的な役割を持つことには、DHFR 欠損細胞がメトトレキサート (MTX) 等のアナログへ感受性を持つことと相まって、2つの利点がある。1つ目として、DHFR 遺伝子を含むプラスミドでこのような DHFR 欠損細胞をトランスフェクトすることにより、チミジンの含まれていない培地で増殖する組み換え細胞を選択することができるようになる。2つ目として、これらの細胞を MTX の濃度を漸次増やした選択培地で培養すると、DHFR 遺伝子とその近傍の DNA の増幅が起こる (Kaufman 及び Sharp 1982, 並びに Sambrook, J.、Fritsch, E. F.、分子クローニング: 実験マニュアル (Molecular Cloning: A laboratory manual) 、コールドスプリングハーバー研究所 (Cold Spring Harbor Laboratory) 出版、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、1989)。
【0139】
クローンの生成
図1に概説した通り、足場依存性の DHFR-欠損 CHO 細胞を、上記の h-IFN-β コード配列及び mDHFR マーカー遺伝子をともに含むプラスミドでリン酸カルシウム沈澱法 (Graham FL 及び Van Der EB, 1973; Busslinger ら, 1981) によってトランスフェクトした。トランスフェクトした遺伝子を増幅するため、選択されたクローンを MTX (メトトレキサート) 処理にかけた。該クローンを MTX 選択の後に単離した。
【0140】
トランスフェクション
CHO DHFR-欠損細胞株 DUKX-B11 を 10% FBS を添加したハム F12 培地 (Ham’s Nutrient Mixture F12) 中において 37℃、5% CO2で培養した。
【0141】
トランスフェクションの前日、CHO DUKX-B11 細胞を 5x105 細胞/9cm プレートで播種した。0.45 ml の10mM Tris-HCl pH 7.9、0.1mM EDTA に溶解したベクター DNA を 0.05 ml の 2.5M 塩化カルシウム溶液と混合して CaPO4-DNA 共沈物を調製した。
【0142】
次に、穏やかに振盪しながら 0.5 ml の 280mM Na2HPO4、50mM HEPES pH 7.1 を加え、混合物を室温で 30-40 分間静置して、沈澱を生じさせた。CaPO4-DNAを該細胞に 30 分間加えた後、9 ml の細胞培養培地を加えて細胞をインキュベーターに 4 時間戻した。その後、培地を除去し、培地中の 10% グリセロールによって細胞に浸透圧ショックを 4 分間与えた。そして、細胞をトリプシン処理し、チミジンを欠くが 150 μg/ml のプロリン及び 10% の透析済 FBS を添加したダルベッコ改変イーグル培地 (DMEM) からなる選択培地中で1:4 ないし 1:10 の分割比で継代培養した。該培養液を 37℃ で 8% CO2 に静置し、選択培地を 3-4 日間ごとに交換した。
【0143】
恒常的に hIFN-β を産生する細胞株の単離
10-12 日後、3mm トリプシン浸漬濾紙円盤を用いたトリプシン処理により、インターフェロンベータ産生細胞を単離した。43 クローンを採取し、個々のクローンを生育させ、ELISA によって細胞培養液上清の hIFN-β 産生を調べた。30,000 IFN-β IU/106 細胞/24 時間を上回る産生を示した3 個のクローンを遺伝子増幅用に選んだ。
【0144】
個々のクローンを低濃度の MTX を用いて培養にかけた。処理を生き残った細胞集団全体をより高い MTX 濃度下に置いた。サブクローニングとクローンの選択は最終増幅段階後にのみ行った。選択された高産生クローン (400,000 IU/106 細胞/24 時間を超えるもの) についてクローン安定性分析を行った。比較的安定な高産生クローンを選択し、サブクローニングした。得られたクローンから、高産生安定クローンを選択した。
【0145】
ELISA による測定によれば、増幅により、IFN-β-1a 産生量(比産生能 (specific productivity))が 30,000 から 500,000 IU/106 細胞/24 時間にまで増加した。
【0146】
高 IFN-β-1a 産生能のクローンを最初に単離した後、ノーザンブロット分析を行った。発現構築物から期待された通り、約 0.9 kb の単一の hIFN-β mRNA が発現していた (結果不掲載)。
【0147】
最初のクローンの全 RNA のノーザンブロット分析のため、次の通りブロットを準備した。
【0148】
アガロースホルムアルデヒドゲルを用いた電気泳動により、20 μg の全 RNA を単離した。RNA をナイロンメンブレンにトランスファーし、IFN-β DNA プローブとハイブリダイズさせた。サイズマーカー (M) には、それぞれ 4700 及び 1900 ヌクレオチドに相当する 28S 及び 18S rRNA を用いた (結果不掲載)。
【0149】
産生能
その後、細胞産生能を次の通り試験した。組織培養(増殖)培地はプロリン (150mg/l) 及び 10% FBS (牛胎児血清) を添加した DMEM (ダルベッコ改変イーグル培地)、 又は JRH の Ex-Cell 302 などの無血清培地であった。
【0150】
インターフェロン産生クローン由来の細胞を TC80 フラスコ中の 30ml の増殖培地 (DMEM 及び FBS、又は無血清培地のいずれか) に播種した (2 x 106 細胞/フラスコ)。顕微鏡検査で最初のコンフルエントに達したことが観測されたら、増殖培地を 20ml の新鮮な培地と交換し、培養液を約 32℃において 24 時間インキュベートした。培養培地の試料を各フラスコから得た。培養培地のIFN-β-1a の量は市販の ELISA キット (例えば、東レ株式会社 (日本) 製の 東レ ELISA キット) を用いてELISA によって測定した。
【0151】
細胞の比産生能を、24 時間に産生された IFN-β-1a の IU/ml に TC80 フラスコの容量を乗じ、さらにフラスコあたりの総細胞数 (百万単位) で除算して算出した。
【0152】
結果及び結論
インターフェロンベータを産生する該細胞クローンは安定な細胞株であり、約 100,000 IU の細胞の比産生能ないし約 600,000 IU の細胞の比産生能の範囲で、組み替えヒトインターフェロン-βの高い産生能を有していた。この新規細胞株の平均産生能は 556,000 ± 119,000 IU/106 細胞/24 時間であった。
【0153】
播種 1 ないし 4 日後、位相差顕微鏡によって一般的な細胞形態についても検査を行った。形態は顕微鏡写真によって記録した(結果不掲載)。その結果は、低密度 (播種後 24 ないし 48 時間) では細胞は丸みを帯びた紡錘形を示していることを示している (結果不掲載)。コンフルエントでは、細胞は、伸長した紡錘形で、より小さく、密に詰まった、上皮様の細胞からなる高密度の単層を形成する(結果不掲載)。これらの細胞が示す形態学的特徴は CHO 細胞として典型的なものであった。
【0154】
クローンの細胞における hIFN-β コード領域の DNA 配列の決定
mRNA 配列は RNA 転写物が正確にプロセッシングされていることを示す直接的な証拠となるため、hIFN-β メッセンジャー RNA (mRNA) から得られた PCR DNA 産物を用いてコード領域のヌクレオチド配列を決定した。
【0155】
DNA配列決定の方法
cDNA及び PCR 反応
T-フラスコ培養液中の対数増殖期の細胞から全細胞 RNA を調製した (Chomczynski 及び Sacchi, 1987)。2 マイクログラム (μg) の全 RNA、0.5 μM の任意の六量体、2.5 mM MgCl2、1x PCR II バッファー [10mM Tris-HCl (pH 8.3)、50mM KCl]、各 0.5mM の dATP、dCTP、dGTP 及び dTTP、40 ユニットの RNase 阻害剤、並びに 200 ユニットの逆転写酵素を最終容量 100μl 中に含む反応溶液にて、相補的 DNA (cDNA) を mRNA 試料から合成した。
【0156】
鋳型 RNA、プライマー及びヌクレアーゼフリーの水を合わせ、65℃ で 10 分間インキュベートし、その後氷浴中に置いた。残りの成分を加え、反応液を 42℃ で 60 分間、さらに 70℃ で 15 分間インキュベートし、そして 4 ℃ に無制限に維持した。RT 産物 (cDNA) は次の使用時まで -20℃ で保存した。コントロールとして、逆転写酵素以外の全ての成分を含む反応液を調製した。「RT 無し (no RT)」コントロールは、 RNA 調製物が DNA のコンタミネーションを起こしているという不測の可能性を排除するためのものである。
【0157】
PCR による増幅は SRB1 AP1 及び AP2 プライマーを鋳型 cDNA に対して用いて行った。これらのプライマーの配列は次の通りである:
SRB1 AP1: CCTCGGCCTCTGAGCTATTC (配列番号 1)
SRB1 AP2: CACAAATAAAGCATTTTTTT (配列番号 2)
【0158】
PCR 反応液は次のものから構成されていた: 50 μl の反応容量中の 4.0 μl cDNA 反応混合液、各 50 pmol のプライマーペア、及び 25 μl ホットスタータック(商標)マスターミックス (HotStarTaqTM Master Mix)。反応液は 95℃ で 15 分間加熱し、続いて: (a) 94℃ で 30 秒間、(b) 55 ℃ で 30 秒間、及び (c) 72 ℃ で 1 分間を 30-35 サイクル行った。続いて、72 ℃ におけるインキュベーション時間を 10 分間に延長した以外は最初の 30-35 サイクルと同一である最終サイクルを行った。
【0159】
hIFN-β PCR 産物を低融点 (LMP) アガロースゲル電気泳動によって精製し、次に QIAquick ゲル抽出キット (キアゲン(Qiagen)) を用いて抽出を行った。
【0160】
増幅した DNA の配列決定
PCR 産物を、アンプリタック (商標) DNA ポリメラーゼ(AmpliTaqR DNA Polymerase) を用いるビッグダイ (商標)・ターミネーター・サイクルシークエンシング・レディリアクション・キット (Big DyeTM Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit) によって直接シークエンシングした。全てのシークエンシング反応物を 5.75% ロングレンジャー (商標) (Long RangerTM) ゲル上で ABI373-S 自動 DNA シーケンサーを用いて分析した。粗データを追跡し、ABD 解析ソフトウェア (Analysis software) を用いて分析した。
【0161】
結果
PCR 増幅によって、予期したとおりの約 815 bp の断片が生成した。「RT 無し (no RT)」コントロールについても他のネガティブコントロールについても PCR 産物は観察されなかった。
【0162】
hIFN-β 遺伝子タンパク質コード領域から全長の配列データを得た。全てのヌクレオチドは2個又はそれよりも多くの電気泳動図において読まれた (結果不掲載)。配列を発現ベクターと比較したところ、違いは見つからなかった (結果不掲載)。
【0163】
結論
シークエンシングのデータは、細胞に取り込まれた、クローンのゲノム中の hIFN-β 遺伝子が、正確に hIFN-β mRNA に転写されていることを示している。
【0164】
遺伝子のコピー数の決定
遺伝子のコピー数を BamHI 消化物のサザンブロット分析で決定した。
【0165】
遺伝子のコピー数分析のためのプローブを構築するのに用いた特異的プライマーは次の通りである:
(i) 5': PR221626: ATGACCAACAAGTGTCTCCTCC (配列番号 3)
(ii) 3': PR231217: ACTTACAGGTTACCTCCGAAAC (配列番号4)
【0166】
ゲノム DNA 調製及びサザンブロッティングの方法
ゲノム DNA を、改変塩析法 (Martinez ら, 1998) を用いて、細胞の対数増殖期の T-フラスコ培養液から単離した。簡単にいうと、細胞を Tris-NaCl-EDTA バッファー中に再懸濁し、続いて Tris-NaCl-EDTA-SDS バッファーを用いて溶解した。この懸濁物を一晩プロテイナーゼ K で処理した。飽和塩溶液を加えて遠心分離した後、水層にイソプロパノールを加えてゲノム DNA を沈殿させた。70% エタノールで洗った後、DNA のペレットを TE/RNase A 溶液 (10mM Tris-HCl pH8.0、 1mM EDTA、20μg/ml RNase A) 中に再懸濁した。
【0167】
全てのゲノム DNA 調製物の一部を AflIII、BbsI、BglI、DraI、HincII、PstI 及び XmnI で消化した。ゲノム試料に用いたものと同じ制限エンドヌクレアーゼによって発現ベクターの DNA 試料を消化して標準試料を調製した。DNAをアガロースゲル電気泳動によってサイズ分画し、続いて 10x SSC 中で毛管作用によってナイロンメンブレンにトランスファーした。ロードしたゲノム DNA の量は 0.5 μg であった。ブロットは上記プライマーを用いてプラスミドから PCR で増幅した 32P 標識 hIFN-β 断片とのハイブリダイゼーション用に調製した。プレハイブリダイゼーションとハイブリダイゼーションを 65℃ で行った。
【0168】
サイズの決定はオートラジオグラフで 32P によって可視化されたバンドの移動度を基に行った。発現ベクターをコントロールとして用いた。
【0169】
コピー数の決定は、ホスホイメージャー (商標) (PhosphoImagerTM) モデル 445SI (モレキュラー・ダイナミクス (Molecular Dynamics); サニーベール (Sunnyvale)、カリフォルニア州) 上で定量化したバンドの32P相対量を基準に行った。オートラジオグラフを撮影し、結果の記録とした (結果不掲載)。
【0170】
結果
クローンのインターフェロンベータ産生細胞用に生成した断片のサイズの決定を、全ての消化物に対して行った。
【0171】
インターフェロンベータ産生細胞株から抽出した DNA を酵素で消化したところ、発現ベクターの BamHI、 BglI、 DraI 及び HincII 消化物に対して予想されるものと一致する明瞭なバンドが生成した。非常に薄いバンド (〜1.77 kb) が BglI で消化したゲノム DNA に観察されたが、これは不完全な消化の結果であった可能性が高い。これらの制限酵素は hIFN-β 発現単位に隣接していることから、無傷の、機能しうる、全長の単位がゲノム中に組み込まれていることが示された。
【0172】
残る消化物については、発現ベクターとゲノム DNA との間で異なるバンドパターンが観察された。環状ベクターが CHO 細胞ゲノムに組み込まれる際にいくらか再構成が起こるはずであることから、これは予期しなかったことではない。
【0173】
クローンの細胞で決定されたコピー数の水準は、平均で細胞あたり 96-105 コピーであった。例えば、あるグループの細胞では、平均の遺伝子コピー数 (n=3) は 105 であり、標準偏差は 23 で、CV (%) は 22 であった。
【0174】
mRNA のサイズの決定
全 RNA を、対数増殖期のインターフェロンベータ産生細胞及びトランスフェクションを行っていない CHO DUKX 細胞 (Chomczynski 及び Sacchi, 1987) から単離した。使用したプローブには、「遺伝子のコピー数の決定」節記載のとおり調製した 32P 標識 hIFN-β プローブ及びコントロールの G3PDH cDNA プローブ (クロンテック (Clontech); パロアルト (Palo Alto)、カリフォルニア州) を含めた。
【0175】
方法
レーンあたり 5 μg の全 RNA を、変性剤としてホルムアルデヒドを含むアガロースゲルによる電気泳動でサイズ分画した。試料はセットを重複させてロードした。RNA を 10x SSC 中で毛管作用によってナイロンメンブレンにトランスファーした。プレハイブリダイゼーションとハイブリダイゼーションを、65℃ で、「制限エンドヌクレアーゼ地図分析」節に記載した改変済 Church 及び Gilbert 溶液中で行った。ブロットを 32P 標識 hIFN-β プローブ及びコントロールの G3PDH cDNA プローブとハイブリダイズさせた。バンドサイズをブロットのオートラジオグラフを基に推定した。
【0176】
結果及び結論
該細胞に 1 個の主要な IFN-β mRNA 種が観察された。mRNA のサイズは 0.9 kb mRNA と推定された。このサイズは、SV40 転写開始点から始まり、ポリA尾部を考慮しない場合約 800 ヌクレオチドの転写物となる mRNA とよく一致している。
【0177】
一般的結論と要約
インターフェロンベータ産生細胞の表現型及び遺伝子型の研究により、細胞の同一性と一貫性が確認された。
【0178】
CHO 細胞ゲノムへの hIFN-β 遺伝子の染色体内組み込みが、インサイチュ (in situ) ハイブリダイゼーション分析によって示された。
【0179】
制限エンドヌクレアーゼのマッピングパターンの比較、DNA 配列及び細胞の mRNA 分析においては、hIFN-β 遺伝子の大規模な DNA 再構成又は点突然変異の証拠は見つからなかった。
【0180】
hIFN-β 遺伝子のコピー数の水準を、本発明によるクローンの細胞から抽出した DNA のサザンブロット分析によって測定した。その結果、遺伝子のコピー数の水準は全ての細胞において集団倍化数に関わらず同じ範囲にあることが示された。
【0181】
該細胞から調製した RNA のノーザンブロット分析において、約 0.9 kb のサイズの単一バンドが観察された。
【0182】
該細胞からの cDNAの配列分析によって、mRNA の配列が正確であることが確認された。また、hIFN-β 遺伝子の 5’ 及び 3’ コントロール領域のゲノム DNA 配列によって IFN-β 転写単位の全長が組み込まれていることが確認された。
【0183】
結論として、該インターフェロンベータ産生細胞は、正確なタンパク質コード領域配列を持つ hIFN-β mRNA 転写物を合成したことが示され、該インターフェロンベータ産生細胞が正確なアミノ酸一次配列を持つヒト組換え IFN-β (IFN-β-1a) を産生することが示唆された。
【0184】
遺伝子型の特徴付けに関しては、制限酵素地図分析をインターフェロンベータ産生細胞おいて行った。複数のダイジェストをアガロースゲル電気泳動で分離し、ナイロンメンブレンにトランスファーし、hIFN-β 特異的な標識プローブとハイブリダイズさせた。制限断片プロファイルが一貫していたことから、完全な機能的 hIFN-β 発現単位が全ての細胞バンクで組み込まれていることが示された。
【0185】
hIFN-β 遺伝子のコピー数をインターフェロンベータ産生細胞から抽出した DNA のサザンブロット分析によって決定した (結果不掲載)。その結果、遺伝子のコピー数は細胞あたり約 100 コピーであり、文献 (Chernajovsky ら, 1984) 記載のクローンよりも約 4 倍高いことが示された。
【0186】
ノーザンブロット分析では、クローンからの細胞において、hIFN-β 遺伝子をコードする約 0.9 kb の1種類の mRNA が同定された (結果不掲載)。
【0187】
細胞の mRNA から調製した hIFN-β cDNA をシークエンシングした結果、該細胞において hIFN-β 遺伝子の配列が期待された配列と 100% 同一であることが示された。従って、hIFN-β 遺伝子は mRNA に正確に転写されている。
【0188】
hIFN-β遺伝子に隣接する 5’ 及び 3’ 領域のゲノム DNA 配列を該クローンの細胞において決定したところ、対応する発現ベクターの配列及び公開済みの hIFN-β 遺伝子の配列と 100% 同一であることが明らかになった。
【0189】
蛍光 インサイチュ (in situ) ハイブリダイゼーション (FISH, 結果不掲載) によっても、hIFN-β 遺伝子が染色体上 1 箇所に組み込まれていることが示された。
【0190】
上記分析によって、該産生株の安定性もまた示された。
【0191】
従って、トランスフェクトされた遺伝子がインターフェロンベータ産生細胞のゲノム中に安定に組み込まれていることが推定できる。
【0192】
実施例2 インターフェロンベータの産生プロセス
本実験全体の目的は、無血清の状況下で実施例 1 記載のクローンから IFN ベータ-1a を産生する方法を開発することである。
【0193】
無血清の方法は内部充填層フィブラセル (登録商標) (Fibra-Cel) を担体とした 75L スケールのバイオリアクターにおいて開発を行った。
【0194】
細胞を溶かし、次の改変を加えた市販の無血清培地中で 21 日間以上増殖させた。
【0195】
表1 無血清培地の改変
【表3】

【0196】
30 x 109 個の細胞を 75L バイオリアクターに播種した (高播種)。
【0197】
運転は次の段階に分けて行った。
37℃ における増殖期 I (作業日 2 もしくは 作業日 4、またはグルコース消費率 (GCR)が ≧2.0±1.0 g.L-1.d-1 になった時まで)
35℃ における増殖期 II (作業日 7、又は GCR が ≧8.0±0.5 g.L-1.d-1 になった時まで)
33℃ における産生期
【0198】
この温度戦略により、1 日あたりおよそ 6.0 x 106 IU/ml バイオ (bio) の産生能を得た。この産生能は、文献 (Chernajovsky ら, 1984) 記載のクローンの血清添加培地中での産生能よりも約 5 倍高いことが示された。
【0199】
さらに、N-アセチルシステイン (NAC) を単独で添加した場合、又は亜鉛と組み合わせた場合 (NAC+Zn)、産生能に対し有益な効果があるかどうかを調べた。NAC 又は NAC+Zn の添加により、運転終了時における産生能は 1 日あたりおよそ 12 x 106 IU/ml バイオ (bio) にまで増加した。
【0200】
66% 低い播種細胞密度 (1.3.109 個の細胞) についても、それが増殖期の長さ、代謝及び産生能に影響があるか評価するために試験を行った。
【0201】
代謝及び産生能は低い播種密度による影響を受けなかった。低い播種密度によって受けた唯一の影響は、増殖期が 2 日間長くなったことであった。
【0202】
まとめると、インターフェロンベータの産生に用いられた最終的な条件は次の通りであった:
【0203】
【表4】

【0204】
実施例3 インターフェロンタンパク質産物の精製
細胞培養液上清からの IFN-β-1a 精製方法には、図 2 に示す通り、4 つのクロマトグラフィー及び 4 つの濾過の段階が含まれる。次の順番で精製段階を行った。
・段階 I: 回収物の濾過による清澄化
・段階 II: ブルーセファロース 6 ファストフロー (Blue Sepharose 6 fast flow) (6 FF) カラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー
・段階 III: 限外濾過
・段階 IV: 好ましくは CM セファロース FF (CM Sepharose FF) カラムを用いた、陽イオン交換クロマトグラフィー
・段階 V: 疎水性クロマトグラフィー RP-HPLC
・段階 VI: 限外濾過及び透析
・段階 VII: サイズ排除 (SE) クロマトグラフィー
・段階 VIII: 精密濾過
【0205】
活性成分の精製は、ブルーセファロース 6 FF (Blue Sepharose 6 FF) (BS 6 FF) による色素アフィニティークロマトグラフィーで開始したが、これは主要な精製段階であった。破裂した CHO 細胞からの宿主由来タンパク質及び DNA の量が数桁分減少し、その結果 BS 6 FF 溶出物中の IFN-β-1a は著しく濃縮された。溶出物を次のカラムにロードする前に、限外濾過を行って溶液の容量を減らし、低分子量の物質を除去した。
【0206】
高度に精製された IFN-β-1a を得るため、カラムを使った 3 つの主要な形式のタンパク質分離法を選択した。CM セファロース FF (CM-sepharose FF) 樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィーにより、核酸及び FBS/CHO 由来のタンパク質を除く。逆相 HPLC により、発熱物質、残存する宿主細胞由来のタンパク質及び IFN-β-1a の劣化した形のものを低減させた。ゲル濾過の最終精製段階は、セファクリル S-100 HR (Sephacryl S-100 HR) 樹脂を用いて行った。溶出物は精密濾過 (0.22 μm) し、-70℃ 又はそれ未満の温度で保管した。
【0207】
バッファー及び洗浄溶液の調製に用いる全ての出発物質は、ヨーロッパ薬局方 (Ph.Eur.) 及び/又は米国薬局方 (USP) の基準を満たしたものであるか、もしくは分析又は試薬用のものである。
【0208】
実施例4:シアル酸付加分析
精製した IFN-ベータ をES-MS (エレクトロスプレー質量分析 (Electro Spray-Mass Spectrometry)) によるシアリル化プロファイルの分析にかけ、次の結果を得た。
【0209】
【表5】

【0210】
実施例5 グリコフォーム分析
新規方法により得られた IFN-β-1a をさらに分析するため、該タンパク質のグリコフォームを解析した。前述したとおり、グルコシル化したタンパク質は異なるグリコフォーム、又はグリコシル化において異なる糖構造を持ったタンパク質の混合物として生ずることが多い。下記により詳細に記載するように、これらのグリコフォームの分析には、エレクトロスプレー質量分析、FAB-MS、MALDI-MS、タンデム質量分析 (MS/MS) 及び GC-MS (結合分析 (linkage studies)) を含む様々な技法を用いた。分析された異なる糖構造のうち 1 個の構造が、該クローンから得られた IFN-β-1a において新たに存在するものであることが、これらの様々な技法全てにおいて示された。
【0211】
エレクトロスプレー質量分析によるグリコフォーム分布 (glycoform distribution) の決定
方法
エレクトロスプレー質量分析 (ES-MS) を使用し、クローンから得たインターフェロンベータの IFN-β-1a 大量試料。方法は例えば Fenn ら (1989) に記載されている。
【0212】
グリカンの MS/MS。本技法により、大量試料におけるグリコフォーム分布 (glycoform distribution) を分子量レベルで迅速にモニタリングできる。本法は例えば Domon, B. 及び Costello, CE (1988) に記載されている。
【0213】
結果
結果を図 3-5 に示す。全ての図において、種々のオリゴ糖の概略図をそれぞれのピークの上に示してある。図 3 及び 4 には、新規方法により得られたインターフェロンベータ由来のいくつかの IFN-β-1a バッチを ES-MS 変換したスペクトルを示す。
【0214】
分析した全てのバッチにおいて、主要なグリコフォームはコア-フコシル化ジシアリル (ピーク C) 及び モノシアリル (ピークB) 2 分岐型炭水化物構造であり、マイナーなグリコフォームはコア-フコシル化非シアリル化 2 分岐型 (ピーク A)、コア-フコシル化 3 分岐型トリシアリル化 (ピーク E) 及び他の 2 つのコア-フコシル化マイナー複合構造 (ピーク D 及び F) に対応した。
【0215】
ジシアリル 2 分岐型 ジフコシル化グリカン (NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc2) に帰すると考えられる 22524 Da±0.01% の弱いシグナルが、新規方法によって得られたインターフェロンベータ由来の IFN-β-1a 試料の ES-MS によって検出された。このグリコフォームはまた、シアリルルイス x (LeX) 分岐を伴う 2 分岐型グリカンとも定義できる。注目すべきは、Hex からなるルイス x (LeX) グリカンである。HexNAc.Fuc 構造は、リンパ球 (L-セレクチン) 及び特化した内分泌細胞両方の表面の糖タンパク質によく見られる (Cummings, 1999; Dell 及び Morris, 2001)。
【0216】
平均分子量値 22670 Da±0.01% を中心としており、平均量で全グリコフォームの 4% であり、ジシアリル 2 分岐型トリフコシル化グリカン (Neu2Ac.Hex5.HexNAc4.Fuc3) によるものと考えられる他のマイナーなグリコフォームが、ES-MS によって、新規方法によって得られたインターフェロンベータ由来の IFN-β-1a バッチ中に、産生スケールに依存することなく検出された。このマイナーなグリコフォームの平均量は 4% であり、標準偏差 (SD) は 0.90 である。
【0217】
結論
新規方法によって得られたインターフェロンベータ由来の IFN-β-1a のグリコフォームのパターンを ES-MS を用いて分析した。
【0218】
新規方法によって得られたインターフェロンベータ由来の IFN-β-1a 中に ES-MS によって見つかった、ジフコシル化グリカンに帰するものと考えられる弱いシグナルが、MALDI-MS によって検出された。トリフコシル化構造に帰するものと考えられるもう一つのマイナーなグリコフォーム (平均で全グリコフォームの 4%) が、同様に、新規方法によって得られたインターフェロンベータ由来の産物中に ES-MS によって検出された。
【0219】
FAB-MS、MALDI-MS、タンデム質量分析 (MS/MS) 及び GC-MS (結合分析) による炭水化物分析
新規方法によって得られたインターフェロンベータ由来の IFN-β-1a の大量試料を、炭水化物の広範なキャラクタリゼーション解析にかけた。IFN-β-1a の炭水化物組成を得るため、トリプシン及びペプチド N-グリコシダーゼ F による消化に続く、完全メチル化した IFN-β-1a の FAB-MS, MALDI-MS, ナノスプレー-MS/MS 解析及び結合分析 (linkage studies) (GC-MS) を用いた。あらかじめトリプシン及び N-グリコシダーゼ F によって消化し、キモトリプシン消化したペプチドの FAB-MS 分析により、グリコシル化部位の決定を行った。
【0220】
方法
トリプシンによる切断を行った IFN-β-1a 由来のペプチド糖ペプチド混合物をペプチド-N-グリコシダーゼ F 酵素によって処理した (例えば、Tarentino ら 1985 に記載の通り)。
【0221】
(凍結乾燥によって) 反応停止後、生じた消化物を C18 Sep-pak カートリッジによって精製した。5% 酢酸画分中に溶出する炭水化物を、例えば Costello (1997) に記載の通り NaOH/ヨウ化メチルを用いて完全メチル化した。
【0222】
完全メチル化したグリカンの一部を、例えば Barber ら (1981) 及び Taylor (1983) に記載の通り、陽イオン FAB-MS (フラグメントイオンについては低質量範囲で、分子イオンにおいては高質量範囲で得られる) によって分析した。
【0223】
MALDI-質量分析を、例えば Hillenkamp ら (1991) に記載の通り行った。
【0224】
ナノスプレー-質量分析を、例えば Wilm 及び Mann (1996) に記載の通り行った。
【0225】
残った完全メチル化オリゴ糖は、例えば Gray (1990) に記載の通り、誘導体化の後のガス液体クロマトグラフィー/質量分析 (GC/MS) による結合分析 (linkage analysis) に使用した。
【0226】
最後に、Asn 80 の潜在的なグリコシル化部位を含むペプチドを観察するため、トリプシン消化したペプチドをペプチド-N-グリコシダーゼ F によって消化し、Sep-pak によって精製した。Sep-pak のプロパノール画分 (20%-40%) をキモトリプシンでさらに消化し、FAB/MS によって分析した。
【0227】
結果
完全メチル化した炭水化物の MALDI 及び FAB-MS
本研究は、新規方法により得られたインターフェロンベータ由来のタンパク質に対して行われた。代表的な MALDI スペクトルを図 6 に示す。完全メチル化スペクトル (MALDI-MS 及び FAB-MS) において観察された m/z シグナルの対応一覧を表 3 に示す。
【0228】
全バッチの結果は、NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc の組成を有する優勢なジシアリル化 2 分岐型構造、及び NeuAc.Hex5.HexNAc4.Fuc の組成を有するモノシアリル 2 分岐型構造の存在を示した。非フコシル化グリカンは観察されなかった。
【0229】
恐らく次のオリゴ糖構造に対応する弱いシグナルも、全てのバッチにおいて観察された。
・非シアリル化 2 分岐型構造 (Hex5.HexNAc4.Fuc)
・ジシアリル化 3 分岐型構造又は N-アセチルラクトサミン反復構造を有するジシアリル化 2 分岐型 (NeuAc2.Hex6.HexNAc5.Fuc)
・トリシアリル化 3 分岐型構造 (NeuAc3.Hex6.HexNAc5.Fuc)
・N-アセチルラクトサミン反復構造を持つトリシアリル化 3 分岐型構造又はトリシアリル化 4 分岐型構造 (NeuAc3.Hex7.HexNAc6.Fuc)
・2 個のフコース単位を持つモノシアリル化及びジシアリル化 2 分岐型構造 (NeuAc.Hex5.HexNAc4.Fuc2,NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc2)
・少量のトリフコシル化構造 (NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc3) も本発明による方法によって得られたインターフェロンベータ由来のバッチにおいて観察されたが、比較用 (reference) の IFN-β-1a においては存在しなかった
・グリカンのシアル酸の一部としての少量の N-グリコリルノイラミン酸
【0230】
N-グリコリルノイラミン酸の相対存在量を、完全メチル化 N-結合型グリカンの FAB 及び MALDI-TOF データにおけるシグナルのピークの高さから算出した。
【0231】
期待したとおり、ほとんどのヒト糖タンパク質と同様、IFN-β-1a グリコフォームは主に N-アセチルノイラミン酸を含む。
【0232】
ナノスプレー MS/MS
さらに極微量の N-結合型多フコシル化オリゴ糖構造物の構造を確認するため、NeuAc.Hex5.HexNAc4.Fuc2、NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc2 及び NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc3 それぞれの 3 価イオン ([M+3H]3+) と一致する、m/z 919、1040 及び 1098 のシグナルを示す完全メチル化オリゴ糖において MS/MS 分析を行った。MS/MS スペクトルにおいて観察された A 型イオンによって次の構造属性が確認された。
【0233】
【表6】

*しかし、MALDI においては対応するシグナルが観察された
【0234】
GC/MS による結合分析
新規方法によって得られたインターフェロンベータ由来の試験したバッチ全てに対して、誘導体化された試薬起源のいくつかの不純物ピークを伴う複雑な GC クロマトグラムが得られた。同一の GC 条件で実施した部分的メチル化アルジトール酢酸塩の標準混合物との GC における保持時間の比較により、糖含有物ピークの暫定的な同定を行うことができた。
【0235】
全試料の結合分析 (linkage analysis) の結果は基本的に同一であり、4-結合型 N-アセチルグルコサミン (4-GlcNAc)、4,6-結合型 N-アセチルグルコサミン (4,6-Glc-NAc)、3,6-結合型マンノース (3,6-Man)、2-結合型マンノース (2-Man)、末端ガラクトース (t-Gal)、3-結合型ガラクトース (3-Gal) 及び 末端フコース (t-Fuc) の存在が示され、FAB-MS のデータが強く支持された。2,6-結合型マンノースも少量の成分として全ての試料に観察され、複数の 3 分岐型構造が存在することが示された。IFN-β-1a 大量試料において観察された、想定的な主要なオリゴ糖構造を図 5 に示す。
【0236】
これらのデータにより、主要な炭水化物成分は 1 及び 2 個のシアル酸残基を持つコア-フコシル化 2 分岐型構造であることが示唆される。
【0237】
キモトリプシン消化物の FAB-MS による N-グリコシル化部位
ペプチド N-グリコシダーゼ F による炭水化物遊離後、アスパラギン酸に変換された Asn-80 を含むナトリウム化 (sodiated) ペプチド残基 80-88 (D.E.T.I.V.E.N.L.L +Na+) と同定された弱い FAB-MS シグナルが、分析した全ての IFN-β-1a バッチにおいて観察された。本実験は、Asn-80 が実際にグリコシル化されているということを支持する証拠を提供する。
【0238】
図 6 に 完全メチル化されたグリカンを持つ IFN-β-1a の MALDI スペクトルを示す (シグナルの一覧は表 3)。ここでも、この表及び付随する図に示したように、本発明による方法から得られた IFN-β-1a は前述のトリフコース構造 NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc3 を含む。
【0239】
表3 新規方法によって得られた IFN-β-1a のトリプシン及びペプチド N-グリコシダーゼ F 消化に続く完全メチル化スペクトル中のシグナルの一覧
【表7】

【0240】
【表8】

【0241】
結論
新規方法によって得られた大量試料の IFN-β-1a完全メチル化 N-グリカン に対する MALDI-MS 及び FAB-MS 分析において、次のコア-フコシル化炭水化物構造が示された (非フコシル化グリカンは観察されなかった)。
主要なグリコフォーム
・モノシアリル化 2 分岐型構造 (NeuAc Hex5.HexNAc4.Fuc)
・ジシアリル化 2 分岐型構造 (NeuAc2Hex5.HexNAc4.Fuc)
マイナーなグリコフォーム
・非シアリル化 2 分岐型構造 (Hex5.HexNAc4.Fuc)
・ジシアリル化 3 分岐型構造又は N-アセチルラクトサミン反復構造を持つジシアリル化 2 分岐型 (NeuAc2.Hex6.HexNAc5.Fuc)
・トリシアリル化 3 分岐型構造 (NeuAc3.Hex6.HexNAc5.Fuc)
・N-アセチルラクトサミン反復構造を持つトリシアリル化 3 分岐型又はトリシアリル化 4 分岐型構造 (NeuAc3.Hex7.HexNAc6.Fuc)
・2 個のフコース単位を持つジシアリル化及びモノシアリル化 2 分岐型構造 (NeuAc.Hex5.HexNAc4.Fuc2 及び NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc2)
・3 個のフコース単位を持つジシアリル化 2 分岐型構造 (NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc3)
【0242】
完全メチル化グリカンのナノスプレー MS/MS によって、全ての試料中に極微量のオリゴ糖 NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc2 が検出されることが確認された一方、極微量の NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc3 は本発明の方法からの IFN-β-1a においてのみ観察された。
【0243】
結合分析 (linkage analyses)によって、期待された単糖が FAB-MS データで検出されることが確認された。
【0244】
最後に、トリプシン及びキモトリプシン消化したペプチドの詳細な FAB-MS 分析によって、新規方法で得られた IFN-β-1a 産物中に Asn-80 に N-グリカン結合が存在することが示された。
【0245】
N-グリコリルノイラミン酸の相対存在量が完全メチル化 N-結合型グリカン FAB 及び MALDI-MS データにおけるシグナルのピークの高さから算出された。
【0246】
N-アセチルノイラミン酸:N-グリコリルノイラミン酸の比率は、サンプル中で 31.7:1.0 であり、シアル酸のうち 3.1% が N-グリコリルノイラミン酸であることが示唆された。これらの結果は、ヒト線維芽細胞によって産生される天然のヒトインターフェロンに対して得られる同様の水準 (5%) と合致している。期待した通り、IFN-β-1a グリコフォームは、ほとんどのヒト糖タンパク質と同様に、主に N-アセチルノイラミン酸を含んでいる。
【0247】
引用文献
【図面の簡単な説明】
【0248】
【図1】インターフェロンベータ産生細胞株の生成に用いられる方法のフローチャートである。
【図2】IFN-β-1aの新規精製方法のフローチャートである。
【図3】IFN-β-1aバッチのES-MS形質転換スペクトルを示す。オリゴ糖構造の概略図を上部に示す。
【図4】新規方法により得られたIFN-β-1aのES-MS形質転換スペクトルを示す。 P=タンパク質(IFN-β); Fuc Biant=フコシル化2分岐複合型オリゴ糖; Fuc Triant=フコシル化3分岐複合型オリゴ糖; Fuc Tetrant=フコシル化4分岐複合型オリゴ糖; SA=シアル酸
【図5】IFN-β-1a中のオリゴ糖構造を示す。 図5Aは主要なオリゴ糖を示す: I. ジシアリル化2分岐型(NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc) II. モノシアリル2分岐型(NeuAc.Hex5.HexNAc4 Fuc) 図5Bはマイナーなオリゴ糖を示す: I. 非シアリル化2分岐型(Hex5.HexNAc4.Fuc) II. モノ及びジシアリル化3分岐型構造又はN-アセチルラクトサミン反復構造を有するジシアリル化2分岐型(NeuAc2.Hex6.HexNAc5.Fuc) III. N-アセチルラクトサミン反復構造を有するトリシアリル化3分岐型又はトリシアリル化4分岐型構造(NeuAc3.Hex7.HexNAc6.Fuc) 図5Cは2個又は3個のフコース残基を有するマイナーなオリゴ糖を示す: I. 2個のフコースを有するモノシアリル2分岐型構造(NeuAc.Hex5.HexNAc4.Fuc2) II. 2個のフコースを有するジシアリル化2分岐型構造(NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc2) III. 3個のフコースを有するジシアリル化2分岐型構造(NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc3
【図6】完全メチル化グリカンを有する新規なIFN-β-1aのMALDIスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトインターフェロンベータ産生細胞を無血清培地中で培養する工程を含む、グリコシル化された組換えヒトインターフェロンベータの製造方法であって、該無血清培地は
約10〜約30 mM HEPES、好ましくは20 mMのHEPESと;
約0.5〜約3 mMプロリン、好ましくは約1 mMのプロリンと;
約5500〜約7000 mg/L塩化ナトリウム、好ましくは約6100 mg/L塩化ナトリウムと
を含む方法。
【請求項2】
前記無血清培地が、約10〜約20 mg/Lフェノールレッド、好ましくは約15 mg/Lフェノールレッドをさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項3】
増殖期I、増殖期II及び産生期を含み、増殖期Iは約37℃で行なわれ、増殖期IIは約35℃で行なわれ、産生期は約33℃で行なわれる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、約1〜約10/日、好ましくは約1.5〜約7/日の範囲の希釈率での灌流方法である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
希釈率が、細胞培養のはじめの2〜3週間以内に、初期値である約1〜2/日から約7〜10/日の値まで増大される請求項4記載の方法。
【請求項6】
液体、好ましくは細胞培養上清から、組換えヒトインターフェロンベータを精製する方法であって、
a) 前記液体をアフィニティークロマトグラフィーにかける工程と;
b) アフィニティークロマトグラフィーの溶出物を陽イオン交換クロマトグラフィーにかける工程と;
c) 陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出物をRP-HPLCによる疎水性クロマトグラフィーにかける工程と
を含む方法。
【請求項7】
工程(a)の前に、前記液体を濾過により清澄にすることを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
d) 限外濾過及び透析を行なう工程と、
e) 透析物をサイズ排除クロマトグラフィーにかける工程と、
f) サイズ排除クロマトグラフィーの溶出物を精密濾過にかける工程と
をさらに含む、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
工程(a)はブルーセファロース上で行なわれ、工程(b)はカルボキシメチルセファロース上で行なわれる、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の方法を後に続けて行なう、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
精製されたインターフェロンベータを、所望により医薬として許容される担体と共に、医薬組成物に調剤する工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法により得ることができる、グリコシル化された組換えインターフェロンベータ組成物。
【請求項13】
2個又は3個のフコース糖を含むオリゴ糖構造を含む、請求項12記載のインターフェロンベータ組成物。
【請求項14】
前記オリゴ糖構造はジシアリル2分岐型トリフコシル化グリカン(Neu2Ac.Hex5.HexNAc4.Fuc3)を含む、請求項12又は13記載のインターフェロンベータ組成物。
【請求項15】
1以上の下記オリゴ糖構造をさらに含む請求項12〜14のいずれかに記載のインターフェロンベータ組成物:
非シアリル化2分岐型構造(Hex5.HexNAc4.Fuc);
ジシアリル化3分岐型構造又はN-アセチルラクトサミン反復構造を有するジシアリル化2分岐型(NeuAc2.Hex6.HexNAc5.Fuc);
トリシアリル化3分岐型構造(NeuAc3.Hex6.HexNAc5.Fuc);
N-アセチルラクトサミン反復構造を有するトリシアリル化3分岐型構造又はトリシアリル化4分岐型(NeuAc3.Hex7.HexNAc6.Fuc);
2つのフコース単位を有するモノシアリル化及びジシアリル化2分岐型構造(NeuAc.Hex5.HexNAc4.Fuc2,NeuAc2.Hex5.HexNAc4.Fuc2)。
【請求項16】
約1〜約5%の非シアリル化N-グリカン、約5〜約25%のモノシアリル化グリカン、約55〜約75%のジシアリル化N-グリカン、約10〜約25%のトリシアリル化N-グリカンを含むシアリル化プロファイルを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載のインターフェロンベータ組成物。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれかに記載の組換えヒトインターフェロンベータの、多発性硬化症の治療用の医薬の製造のための使用。
【請求項18】
多発性硬化症が、再発性、非再発性及び早期発症型の多発性硬化症から成る群より選択される請求項17記載の使用。
【請求項19】
請求項12〜16のいずれかに記載の組換えヒトインターフェロンベータの、がんの治療用の医薬の製造のための使用。
【請求項20】
請求項12〜16のいずれかに記載の組換えヒトインターフェロンベータの、ウイルス感染症の治療用の医薬の製造のための使用。
【請求項21】
約10〜約30 mM HEPES、好ましくは20 mMのHEPESと;
約0.5〜約3 mMプロリン、好ましくは約1 mMのプロリンと;
約5500〜約7000 mg/L塩化ナトリウム、好ましくは約6100 mg/L塩化ナトリウムと
を含む無血清細胞培養培地の、組換えヒトインターフェロンベータを産生する細胞の培養のための使用。
【請求項22】
包装材料と、治療的に有効な量の、請求項12〜16のいずれか1項に記載の単離され精製された組換えインターフェロンベータ又は請求項1〜11のいずれかに記載の方法で得られる単離され精製された組換えインターフェロンベータとを含む製品であって、前記包装材料は、前記組換えヒトインターフェロンベータがヒトの治療のためにヒトに投与可能であることを示すラベル又は添付文書を含む製品。
【請求項23】
SV40 T Ag初期ポリアデニル化領域と機能的に連結されたヒトインターフェロンベータコード配列を含み、インターフェロンベータポリアデニル化シグナルを含まない核酸。
【請求項24】
ヒトインターフェロンベータ遺伝子がインターフェロンベータ3'UTRを含まない請求項23記載の核酸。
【請求項25】
インターフェロンベータコード配列に機能的に連結されたSV40プロモーター/エンハンサーをさらに含む請求項23又は24記載の核酸。
【請求項26】
マウスDHFR遺伝子をさらに含む請求項23〜25のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項27】
前記マウスDHFR遺伝子はSV40 T AgポリA含有初期ポリアデニル化領域と機能的に連結されている請求項26記載の核酸。
【請求項28】
マウスDHFR遺伝子と機能的に連結されたSV40プロモーター/エンハンサーをさらに含む請求項26又は27記載の核酸。
【請求項29】
請求項23〜28のいずれか1項に記載の核酸を含むプラスミド。
【請求項30】
請求項29記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項31】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である請求項30記載の宿主細胞。
【請求項32】
前記インターフェロンベータ産生細胞が請求項30又は31記載の宿主細胞である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−505645(P2009−505645A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527315(P2008−527315)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054220
【国際公開番号】WO2007/022799
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(504104899)アレス トレーディング ソシエテ アノニム (59)
【Fターム(参考)】