説明

グリコール溶液の精製方法

【解決課題】 ガスバリアーポリマーを含むPET成形品をエチレングリコールで分解した、ガスバリアーポリマーを含むグリコール溶液から効率良くガスバリアーポリマーを分離しグリコール溶液を精製する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、(1)(i)ポリエチレンテレフタレートおよびガスバリアーポリマーから主としてなる成形品を粉砕したフレーク(a)、または(ii)フレーク(a)とポリエチレンテレフタレートから主としてなる成形品を粉砕したフレーク(b)とを含む混合物を、エチレングリコールで分解するグリコール分解工程、(2)該グリコール溶液を特定温度で冷却して、ガスバリアーポリマーを析出させる析出工程、および(3)該析出物を、グリコール溶液を特定温度で維持しながら分離する分離工程、からなるグリコール溶液の精製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリコール溶液の精製方法に関する。さらに詳しくは、ガスバリアーポリマーを含むポリエチレンテレフタレート製成形品を粉砕したフレークをエチレングリコールで分解して得られたグリコール溶液から該ガスバリアーポリマーを効率良く分離し、グリコール溶液を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートは、その優れた特性(例えば、機械特性、熱安定性、耐溶剤性、保香性等)により、フィルム、シート、中空容器等の包装材料に広く使用されている。特に、ポリエチレンテレフタレート製ボトル(以下、PETボトルと略称することがある)は、例えば飲料用ボトルとして大量に生産され、使用されている。しかし、使用済PETボトルの廃棄が環境を悪化させるとして社会問題となり、この回収処理方法について種々検討され、例えばマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル等が検討され、またこれによる各種の提案がされている。
【0003】
このマテリアルリサイクルについては、例えば自治体を中心に回収した透明ペットボトル屑を粉砕、分離、精製処理に付して綺麗な透明フレークとし、次いで透明フレークをペット成形材料、殊に繊維成形材料として再利用することが実施されている。しかし、このマテリアルリサイクルの原料としては透明PETボトル屑に限られ、他種PETボトル(例えば、着色ボトル、ガスバリアーボトル等)の混入したものは使用することができない。そこで、他種ボトルの混入を回避する工夫を講じる必要がある。
【0004】
これに対してケミカルリサイクルは、ボトルを構成するポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称することがある)を一旦原料モノマーに戻し、これを再度重縮合反応に供して新しいPETにすることから、回収処理に伴う品質の低下が少なく、クローズドループのリサイクル法として適している。
【0005】
PETボトル屑をケミカルリサイクルする方法として、透明ペットボトル屑を過剰のエチレングリコール(以下、EGと略称することがある)により解重合し、得られたビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)のEG溶液を活性炭処理、イオン交換処理、晶析処理等を組み合わせた精製処理に付し、さらに分子蒸留処理に付して高純度BHETを得る方法が提案(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4等)されている。
【0006】
しかし、リサイクルするPETボトルには、内容物の味、風味などを維持するため、ガスバリアー成分を含有するいわゆるガスバリアーボトルも混在しているのが現状である。ガスバリアーボトルには、ガスバリアーポリマーがPET中に含有されているものや、ガスバリアーポリマーから主としてなるガスバリアー層とPET層が積層されているものがある。
【0007】
このようなガスバリアーボトルを上記文献記載の方法でケミカルリサイクルしようとしても、ガスバリアーポリマーにより吸着カラムやイオン交換カラムの閉塞などの工程トラブルが生じ、効率よく高純度BHETが得られない場合がある。
【特許文献1】特開2000−53802号公報
【特許文献2】特開2000−169623号公報
【特許文献3】特開2000−239233号公報
【特許文献4】特開2001−322967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者は、ガスバリアーポリマーを効率的に除去する方法を検討した。その結果、PETとガスバリアーポリマーとはEGによる分解され易さに違いがあることが見出された。即ち、PETとガスバリアーポリマーを同時にEGで分解処理すると、PETの大部分はエステルモノマーに分解されるが、ガスバリアーポリマーの大部分は分解されずそのままポリマーとして残存することが見出された。また、PETの分解物であるエステルモノマーとガスバリアーポリマーとではEGへの溶解性に違いがあり、この溶解性の違いを利用してガスバリアーポリマーを析出させ、効率良くエステルモノマーと分離できることを見出し、本発明に到った。
【0009】
従って、本発明の目的は、ガスバリアーポリマーを含むPET成形品を原料としたフレークをエチレングリコールで分解して得られた、溶質としてエステルモノマーおよびガスバリアーポリマーを含むグリコール溶液から、該ガスバリアーポリマーを効率良く分離し、グリコール溶液を精製する方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、上記精製方法で得られた、ガスバリアーポリマーを除去したグリコール溶液を、さらにモノマー精製処理に付して精製エステルモノマーを得る方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、本発明の目的は、第一に、(1)(i)ポリエチレンテレフタレートおよびガスバリアーポリマーから主としてなる成形品を粉砕したフレーク(a)、または(ii)フレーク(a)と、ポリエチレンテレフタレートから主としてなる成形品を粉砕したフレーク(b)とを含む混合物を、エチレングリコールで分解し、エチレングリコール中に溶質としてエステルモノマーおよびガスバリアーポリマーを含むグリコール溶液を得るグリコール分解工程、
(2)該グリコール溶液を飽和溶解度以上の温度から35〜50℃の範囲の温度まで冷却して、ガスバリアーポリマーを析出させる析出工程、および
(3)該析出物を、グリコール溶液の温度を35〜50℃の範囲に維持しながら分離する分離工程、
からなるグリコール溶液の精製方法(第一の発明)によって達成される。
【0012】
本発明の目的は、本発明によれば、第二に、上記方法でガスバリアーポリマーを効率良く分離したグリコール溶液を、さらにモノマー精製処理に付して精製エステルモノマーを得る方法(第二の発明)によって達成される。
【0013】
本発明の第一の発明においては、フレーク(a)が、成形品の少なくとも一部がガスバリアーポリマーからなる内層を含み、両表層がポリエチレンテレフタレートからなる積層構造の積層成形品を粉砕したフレークであることが好ましい。また、フレーク(a)が、成形品の少なくとも一部がガスバリアーポリマーを混合したポリエチレンテレフタレート組成物からなる単層成形品を粉砕したフレークであることが好ましい。また、成形品がボトルまたはフィルムであることが好ましい。また、ガスバリアーポリマーがポリメタキシリレンアジパミドであることが好ましい。さらに、ガスバリアーポリマーの含有割合が、フレーク総重量当り、0.5〜30重量%であることが好ましい。
【0014】
本発明の第二の発明においては、モノマー精製処理が、吸着処理、イオン交換処理、晶析処理、蒸留処理またはこれらの組み合わせからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、(i)フレーク(a)、または(ii)フレーク(a)とフレーク(b)とを含む混合物をエチレングリコールで分解して得られた、溶質としてエステルモノマーおよびガスバリアーポリマーを含むグリコール溶液から該ガスバリアーポリマーを効率良く分離することができ、グリコール溶液の精製効率を著しく高めることができる。
【0016】
本発明によれば、(i)フレーク(a)、または(ii)フレーク(a)とフレーク(b)とを含む混合物をエチレングリコールで分解して得られた、溶質としてエステルモノマーおよびガスバリアーポリマーを含有するグリコール溶液から効率良く精製エステルモノマーを得ることができる。
【0017】
この精製エステルモノマーを重合することにより高品質なポリマー(PET)を得ることができるため、例えばガスバリアーポリマーを含む使用済みPETボトルから再び新品同様のPETボトルを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<フレーク(a)>
フレーク(a)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびガスバリアーポリマーから主としてなる成形品を粉砕したフレークである。
【0019】
フレーク(a)は、いわゆるガスバリアーPET成形品を粉砕したフレークである。このガスバリアーPET成形品としては、例えばTダイ法、Iダイ法、共押出法等で得られた無延伸若しくは低延伸のシート(単層シート、多層シート)、これらシートを延伸したフィルム(単層フィルム、積層フィルム)および低延伸倍率の深絞り容器、ダイレクトブロー成形による中空容器、及び延伸ブロー成形による中空容器等を好ましく挙げることができる。これらのうち特に、ガスバリアーPETボトルを好ましく挙げることができる。このガスバリアーPETボトルを原料とするフレーク(a)の場合、本発明の方法を含むケミカルリサイクル法で処理することで、PET to PETの循環型リサイクルが可能となるという利点が得られる。上記シートの厚みとしては0.5〜1mmが好ましく、上記フィルムの厚みとしては0.5〜500μmが好ましく、上記中空容器の胴部壁の厚みとしては0.2〜0.5mmが好ましい。
【0020】
ガスバリアーPET成形品はガスバリアーポリマーを含む構造をとり、通常、内層の少なくとも1層がガスバリアーポリマーからなり、両表層がPETからなる積層構造か、ガスバリアーポリマーを混合したPET組成物からなる単層構造をとる。ガスバリアーPET成形品のうち、ガスバリアーPETボトルを例示すると、ガスバリアーPETボトルの少なくとも胴部はガスバリアーポリマーを含む構造をとり、通常、内層の少なくとも1層がガスバリアーポリマーからなり、両表層がPETからなる積層構造か、ガスバリアーポリマーを混合したPET組成物からなる単層構造をとる。この積層構造としては、例えば、3層構造、5層構造等が好ましく挙げられる。その際、3層構造では内層がガスバリアー層からなり、5層構造では2〜4層目の少なくとも1層、好ましくは2層目および/または4層目がガスバリアー層からなることが好ましい。ガスバリアーPETボトルに含まれるガスバリアー材であるガスバリアーポリマーの割合は、3〜15重量%、さらには4〜13重量%であることが好ましい。
【0021】
前記PETはホモポリマーであっても良いが、第三成分を小割合(例えば、全酸成分に対し20モル%以下、但し3官能以上の化合物はポリマーが溶融流動性を保持する範囲内)共重合させたコポリマーであるのが好ましい。この第三成分としては、酸成分としてイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、トリメリット酸等を好ましく例示することができ、またグリコール成分としてトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール等を好ましく例示することができる。
【0022】
また、PETは、他の縮合樹脂を小割合(例えば、全重量に対し20重量%以下)混合させたブレンドポリマーであっても良い。これらポリマーは、特性付与のための改質剤(例えば、着色剤、遮光剤、安定剤等)を含有することができる。
【0023】
着色剤としては顔料でも染料でも良い。着色顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ、シリカゲル等を挙げることができる。この遮光剤としては、例えばアンスラキノン、フタロシアニン、アゾ系色素、ベンズイミダゾロン、ウルトラマリン、ペリレン等を挙げることができる。この着色顔料や遮光剤は通常微粒子の形態をとるが、その大きさは0.01〜10μm、さらには0.1〜1.0μmであることが好ましい。また、改質剤の含量はこの種類によって違ってくるが、0.01〜5重量%、さらには0.1〜1.0重量%であることが好ましい。
【0024】
本発明においてガスバリアーボトルに使用されているガスバリアーポリマー(ガスバリアー材)としては、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)、66ナイロン、6ナイロン等を例示することができ、特に好ましくはポリメタキシリレンアジパミドを挙げることができる。これらガスバリアーポリマーは、主として炭酸ガスや酸素がボトル壁を通ってボトル外に或いはボトル内に移動するのを防止または小さくする作用をするものであり、特にビールや炭酸飲料を充填したボトルから炭酸ガスがボトル外に逃げるのを防止または小さくする作用をするものである。このガスバリアーポリマーの使用割合は、ガスバリアーボトルの重量当り、3〜15重量%、さらには4〜13重量%であることが好ましい。
【0025】
本発明におけるフレーク(a)は、前記したガスバリアーPETボトルを粉砕処理したもので、通常、ボトル口部の粉砕物(比較的肉厚のフレーク)、ボトル胴部の粉砕物(肉薄のフレーク)、ボトル底部の粉砕物(中肉厚のフレーク)の混合物である。このフレーク(a)中のガスバリアーポリマーの割合は、0.5〜30重量%、さらには1〜25重量%であることが好ましい。
【0026】
フレーク(a)の大きさ(一辺の最大長さ)は、0.3〜10cm、さらには0.5〜5cmであることが好ましい。この粉砕処理に供するPET成形品は、製造工程で発生したもの(屑成形品)でも、使用後回収されたもの(屑成形品)でも良い。また、大きさや形状はいずれでもよい。
<フレーク(a)とフレーク(b)を含む混合物>
フレーク(b)は、PETから主としてなる成形品(例えば、ボトル、フィルム、シート等)を粉砕したフレークであり、好ましくはPETボトルを粉砕したフレークである。フレーク(b)は、ガスバリアーポリマーを含まない以外は、前述のフレーク(a)と同じである。
【0027】
混合物中のフレーク(a)とフレーク(b)の含有割合は任意であるが、混合物中のガスバリアーポリマーの割合は、0.5〜30重量%、さらには1〜25重量%であることが好ましい。
【0028】
<グリコール分解工程>
本発明におけるグリコール溶液は、フレーク(a)、またはフレーク(a)およびフレーク(b)とを含む混合物を、エチレングリコール(EG)で分解することによって得られる。
【0029】
このグリコール分解工程は、PETを構成するエステル成分をエステルモノマー状態になるまで解重合(エチレングリコール分解)し、エチレングリコール中にエステルモノマーを主たる溶質として含むグリコール溶液を得る処理である。
【0030】
この分解処理において、フレークに含まれているガスバリアーポリマーはエステル成分と違った分解特性を示す。即ち、大部分のガスバリアーポリマーが実質的に分解しないか(全ガスバリアーポリマーの内、好ましくは80.0〜99.9重量%、さらに好ましくは85.0〜99.5重量%)、オリゴマー程度の分子量(好ましくは重合度2〜20、さらに好ましくは2〜10)までしか分解されないと推定される。このため、グリコール溶液は主たる溶質としてエステルモノマー、ガスバリアーポリマー(例えば、ガスバリアーポリマー、そのオリゴマー等)およびガスバリアー材のモノマー成分(例えば、メタキシリレンジアミン、アジピン酸のグリコールエステル等)を含むものである。このグリコール溶液におけるエステルモノマーの溶解性とガスバリアーポリマーの溶解性に違いがあり、グリコール溶液を降温していくとき、ガスバリアーポリマーの方がより高温側で析出するという特性を示す。
【0031】
前記PETを構成するエステル成分は、テレフタル酸成分とEG成分とがエステル結合を介して結合した単位のことをいい、重合度70〜200のポリマーから、重合度2〜10のオリゴマーまでを包含する。従って本発明におけるグリコール分解工程では、実質的に、PETを構成するエステル成分を1個のテレフタル酸単位を有するエステルモノマー、すなわちビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(以下、BHETと略称することがある)になるまで分解する。
【0032】
エチレングリコールでの分解温度は150〜270℃、さらには170〜250℃であることが好ましい。エチレングリコール分解処理時のPETとEGの量比は、重量比で1:9〜3:7であることが好ましい。グリコール分解の触媒としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ナトリウムメチラート、酢酸亜鉛等が好ましく挙げられる。また、触媒の量としては、PETに対し0.05〜0.50重量%、さらには0.15〜0.40重量%用いることが好ましい。分解(解重合)反応時間は、0.5〜7.0時間、さらには0.5〜5.0時間であることが好ましい。
【0033】
得られるグリコール溶液中の溶質(固形分)の濃度は10〜30重量%、さらには15〜25重量%であることが好ましい。この溶質は主としてエステルモノマーおよびガスバリアーポリマーからなる。さらに、溶質中のオリゴマー(エステルオリゴマー)の割合は1〜30重量%、さらには1〜20重量%であることが好ましく、ガスバリアー材のモノマー成分の割合は0.1〜1.5重量%、さらには0.2〜1.0重量%であることが好ましい。
【0034】
前記グリコール分解工程において、PETの量がEGに対して少なすぎると、生成するBHETの量がEGの飽和溶解度より小さくなり、精製処理に付される全液量に対して得られる最大の収量より少ない量でしかBHETが得られなくなるため経済的でない。一方、PETの量がEGに対して多すぎると、BHETに含まれるオリゴマーが増加してBHETの収率が低下する。また、BHETがEGの飽和溶解度を超えて存在すると、BHETが析出するために脱イオン処理のような精製処理ができなくなる。
【0035】
グリコール分解工程においては、反応装置に精留塔を設け、反応溶液から水分を系外へ留去しながら行うのが好ましい。その際、蒸発したEGは反応系内へ戻すようにするのが好ましい。エチレングリコール分解処理をこのようにして行うことで、得られるグリコール溶液中の水分量を少なくすることができるので、エステルモノマーの加水分解反応を抑制することができる。グリコール溶液中に含まれる水分量が0.5重量%以下となるように調整することが好ましい。水分量は、前記溶液を京都電子工業(株)製カールフィッシャー水分計MKC−510Nにより計測することで得られる。
【0036】
グリコール分解工程で得られたグリコール溶液には、原料のペットボトルに由来する改質剤(例えば、着色剤、遮光剤、安定剤等)が含有されていることが多い。着色剤としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ、シリカゲル等を挙げることができる。遮光剤としては、例えばアンスラキノン、フタロシアニン、アゾ系色素、ベンズイミダゾロン、ウルトラマリン、ペリレン等を挙げることができる。この着色剤や遮光剤は通常微粒子の形態をとる。その大きさは0.01〜10μm、さらには0.1〜1.0μmであることが好ましい。この微粒子はガスバリアーポリマーを析出させる工程(析出工程)より前の段階で凝集させておくことが好ましい。凝集させておくことで、濾過処理等で分離することが可能となる。この凝集はエチレングリコール分解前、エチレングリコール分解中またはエチレングリコール分解後のグリコール溶液に、アルカリ土類金属化合物、特に、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム化合物を添加することで行うことが好ましい。アルカリ土類金属化合物の添加量は、改質剤1重量部に対し好ましくは0.1〜5.0重量部である。
【0037】
また、本発明におけるグリコール溶液は、原料フレークと一緒に持ち込まれた異物や他素材を含むことが多いが、これら異物や他素材が含まれている場合当該異物や他素材に起因する粗大物質はガスバリアーポリマーを析出させる工程(析出工程)より前の段階で、濾過処理等で取り除くのが好ましい。この濾過処理は、グリコール溶液を150〜270℃、好ましくは170〜250℃で濾過し、グリコール分解で分解されなかった粗大物質、例えばラベル、ガラス片、金属片、顔料の凝集物、土砂等の固形異物を取り除くことが好ましい。例えば、グリコール溶液を、孔径0.1〜2mmの金属製のストレーナーに通すことが好ましい。
【0038】
<析出工程>
本発明における析出工程はグリコール溶液を飽和溶解度以上の温度から35〜50℃、好ましくは35〜48℃の範囲の温度まで冷却して、ガスバリアーポリマーを析出させる工程である。飽和溶解度は、通常、グリコール溶液に含まれる溶質の組成や濃度によって変化するので、グリコール溶液を析出工程に供するに際しては、予め該溶液の飽和溶解度を測定することが好ましい。しかし実務的には、上述した溶質濃度のグリコール溶液は、通常、150〜270℃(好ましくはエチレングリコール分解処理の温度)に加熱すると、「飽和溶解度以上の温度」を満足するので、この温度範囲を目安に工程管理をしても良い。
【0039】
グリコール溶液を飽和溶解度以上の温度から冷却する手段は特に制約はなく、通常の冷却手段(例えば、冷媒による冷却等)を用いることができる。冷却速度は、特に制約は受けないが、1〜10℃/分、さらには1〜5℃/分であることが好ましい。グリコール溶液は35〜50℃の範囲の温度まで冷却して保持する。グリコール溶液を35℃より低い温度に冷却すると、該溶液中のエステルモノマーの析出が多くなるため、例えば該溶液をモノマー精製処理に供したときに、エステルモノマー(BHET)の収率が低くなるため、好ましくない。他方50℃より高い温度までしか冷却しないと、ガスバリアーポリマーの析出に時間がかかり、析出しないものの濃度が高くなり、ガスバリアーポリマーの分離効率が悪くなるため、好ましくない。
【0040】
この温度範囲(35〜50℃の温度範囲)まで冷却したグリコール溶液は、溶質のエステルモノマーはEGに溶解しているが、ガスバリアーポリマーからなる溶質が析出した状態の固液混合液である。このグリコール溶液は、ガスバリアーポリマーから実質的になる析出物を固液分離するまで、上記温度に保持する。保持時間は、特に制約はないが、析出物が成長し固液分離が容易になる時間であることが好ましい。通常、0.5〜8時間、さらに1〜3時間であることが好ましい。
【0041】
本発明における析出工程では、ガスバリアーポリマー(特に、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)成分)が、析出の過程でグリコール溶液中に含まれている着色成分を取り込み、該溶液中の着色濃度を低減することがある。この着色成分としては、例えばフタロシアニン、アンスラキノン、モノアゾ系染料、ペリレン系染料等を挙げることができる。この現象が生じると、後述するモノマー精製工程における吸着処理(脱色処理)での負荷を低減することができ、精製効率を高める利点が得られる。
【0042】
<分離工程>
本発明における分離工程は、析出工程で析出させたガスバリアーポリマーを、グリコール溶液の温度を35〜50℃、好ましくは35〜48℃の範囲に維持しながら分離する工程である。
【0043】
分離手段は、特に制約はなく公知の固液分離方法を用いることができる。例えば、遠心分離機(例えば、デカンター、遠心濾過機等)、圧濾機(例えば、フィルタープレス、加圧タンク濾過機等)、真空回転濾過機(例えば、オリバーフィルター等)、プリコート濾過機、カートリッジ式フィルター、ファイバーフィルター等を挙げることができる。
【0044】
分離手段としては、グリコール溶液を、3〜20dtexの繊維(繊維状ポリエステル、ポリプロピレン繊維等)からなる濾材を空隙率70〜98%で充填した濾過装置に通すこともできる。この固液分離処理によって、ガスバリアーポリマーが実質的に除去されたまたはその含有量が著しく低減されたグリコール溶液が得られる。グリコール溶液中のガスバリアーポリマーの含有量は好ましくは0.7重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.4重量%以下である。
【0045】
この分離工程では、前記グリコール分解処理で分解されなかった比較的大きい固体粒子、例えば平均粒径が1〜500μm程度の固形異物(酸化チタン、カーボンブラック等の顔料等)をも取り除くことができる。このため、この分離工程で、原料フレークと一緒に持ち込まれた前記固体粒子を除去することができる。
【0046】
そして、析出物を除去したグリコール溶液は、その温度を40〜100℃、さらには40〜90℃に維持しまたは再加熱して後述するモノマー精製工程に供するのが好ましい。
【0047】
<モノマー精製工程>
本発明においては、上述した方法でガスバリアーポリマーを分離したグリコール溶液を、さらに、モノマー精製処理に付して精製エステルモノマーを得ることが好ましい。このモノマー精製処理は、吸着処理、イオン交換処理、晶析処理、蒸留処理またはこれらの組み合わせからなる。
【0048】
グリコール溶液に含まれる不純物や副反応促進成分等を取り除くには、吸着処理、イオン交換処理またはこれらの組み合わせによって除去することが好ましい。即ち、グリコール溶液は、通常、上述した分離工程で不溶性物質が除かれるが、かかる除去処理で除去しきれなかった微量の顔料などの微粒子やガスバリアー材のモノマー成分は活性炭での吸着処理で除去し、さらに触媒残渣等のイオン性物質や吸着処理されなかったガスバリアー材のモノマー成分はイオン交換処理で除去して精製することができる。
【0049】
また、ここまでの処理で除去できなかったグリコール可溶性不純物(例えば、前記吸着処理、イオン交換処理で処理されなかった染顔料、メタキシリレンジアミン、アジピン酸のグリコールエステル、ヘキサメチレンジアミン、ε−アミノカプロン酸およびそのグリコールエステル等のガスバリアー材モノマー成分等)や副反応物(例えば、モノ(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)、テレフタル酸のジエチレングリコールモノエステル(モノDEGエステル)、テレフタル酸のジエチレングリコールジエステル(ジDEGエステル)等)は、晶析処理で除去することが好ましい。さらに晶析処理では除去しきれない残存低沸点物やオリゴマー等の高沸点不純物を蒸留処理で除去することが好ましい。
【0050】
従って、本発明におけるモノマー精製処理は、吸着処理、イオン交換処理、晶析処理および蒸留処理をこの順番で行うことが好ましい。
【0051】
(吸着処理)
吸着処理は、グリコール溶液中の不純物を活性炭、骨炭等の吸着剤により吸着する処理である。吸着処理は、グリコール溶液を40〜100℃、好ましくは40〜90℃の温度に維持し、活性炭を充填した吸着塔に空間速度0.1〜5.0hr−1で通液して行うことが好ましい。この吸着処理は微小な顔料等の着色剤を除去するものでもあり、脱色処理と云えるものである。活性炭としては、例えば三菱化学(株)製「ダイアホープ006」、「ダイアホープ008」等を挙げることができる。
【0052】
この吸着処理では、前記した不純物の他に、エチレングリコール分解処理により分解されてしまったため、前記析出工程で析出しなかった微量のガスバリアー材のモノマー成分(例えば、メタキシリレンジアミン、アジピン酸のグリコールエステル、ヘキサメチレンジアミン、ε−アミノカプロン酸およびそのグリコールエステル等)を除去する効果も得られる。このモノマー成分の量は、グリコール溶液に対して好ましくは0.01〜0.45重量%である。
【0053】
(イオン交換処理)
イオン交換処理は、グリコール溶液中の触媒残渣のようなイオン性物質を取り除く処理である。イオン交換処理としては、グリコール溶液を40〜100℃、好ましくは40〜90℃の温度に維持し、カチオン交換体を充填した脱カチオン塔に空間速度1〜12hr−1で通液してカチオン交換処理し、その後、連結配管内を3秒〜10分で通過させてからアニオン交換体を充填した脱アニオン塔に空間速度0.5〜10hr−1で通液してアニオン交換処理するのが好ましい。この条件で処理を行うことにより、グリコール溶液の低pH状態の時間を短縮することができるため、pH低下による副反応(例えば、EGの脱水縮合によるジエチレングリコール(DEG)化)を抑制することができる。カチオン交換体としては、例えばロームアンドハース社製カチオン交換樹脂「アンバーライトIR−120B」等を好ましく挙げることができる。また、アニオン交換体としては、例えばロームアンドハース社製アニオン交換樹脂「アンバーライトIRA96SB」とカチオン交換樹脂「アンバーライトIR−120B」の混合物等を好ましく挙げることができる。このアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合割合(容量比)は1:3〜5:1であることが好ましい。
【0054】
このイオン交換処理では、イオン性物質を取り除く効果の他に、エチレングリコール分解により分解されてしまったため、前記析出工程で析出せず、前記吸着処理でも吸着除去されなかった微量のガスバリアー材のモノマー成分(例えば、メタキシリレンジアミン、アジピン酸のグリコールエステル、ヘキサメチレンジアミン、ε−アミノカプロン酸およびそのグリコールエステル等)を除去する効果も得られる。
【0055】
(晶析処理)
晶析処理は、グリコール溶液を冷却し、エステルモノマー等の固形分を析出させ固液分離する処理である。晶析処理は、イオン交換処理を行った後の溶液(イオン交換処理溶液)を晶析槽において飽和溶解度以上の温度から10〜30℃の範囲の温度まで冷却し、この範囲の温度に1〜12時間維持して、析出物の平均粒子径が40〜200μm(島津製作所製SALD−200V ERを用いて、EGで10倍希釈して測定)になるようにエステルモノマーを析出させるのが好ましい。このイオン交換処理溶液を飽和溶解度以上の温度から冷却する場合、例えば0.1〜0.5℃/分の速度でゆっくりと冷却するのが好ましい。
【0056】
得られた析出物は固液分離により固形分を分離する。固液分離は、晶析処理時の温度、すなわち10〜30℃の範囲の温度を維持しながら行うのが好ましい。固液分離の方法は特に制限はないが、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等の方法を好ましく挙げることができる。例えば、加圧濾過する場合、析出物を通気度が3〜30cm/min・cmの濾布を用いたフィルタープレスで濾別することが好ましく、吸引濾過する場合、保留粒子径が1〜30μmの濾紙または濾布を用いて濾別することが好ましい。
さらにイソプロピルアルコールなどの有機溶媒を用いて、再結晶精製処理を行ってもよい。
【0057】
この晶析処理では、エチレングリコール分解処理により分解されてしまったため、前記析出工程で析出せず、前記吸着処理および/またはイオン交換処理でも除去されなかった、微量のガスバリアー材の成分(例えば、アジピン酸のグリコールエステル、ε−アミノカプロン酸およびそのグリコールエステル等)や、PETのエチレングリコール分解処理により副生したMHET、モノDEGエステル、ジDEGエステル等の不純物が濾液中に溶解した状態となるため、固液分離することにより固形分から分離することができる。
【0058】
(蒸留処理)
蒸留処理は、晶析処理で得られたエステルモノマー等の固形分を蒸留精製して精製エステルモノマーを得る処理である。蒸留処理は、晶析処理で得られたエステルモノマー等の濾過ケークを70〜120℃で融解し、融解液を第一蒸発装置に導入し、温度130〜170℃、圧力300〜1,000Paの条件で低沸点成分を蒸発(第一蒸発)させ、次いで第一蒸発を経た融解液を第二蒸発装置に導入し、温度130〜170℃、圧力50〜250Paの条件で、低沸点成分を蒸発(第二蒸発)させるのが好ましい。次いで、第二蒸発を経た融解液を流下薄膜式分子蒸留装置に導入し、温度180〜220℃、圧力25Pa以下の条件で蒸留(分子蒸留)し、留分としてエステルモノマーを得ることが好ましい。
【0059】
エステルモノマーを上述の操作により精製することにより、効率良く高品質なエステルモノマー、好ましくはビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を得ることができる。この精製BHETの純度は、95重量%以上、さらに97重量%以上が好ましく、380nmにおける光学密度(OD380)は、0.000〜0.010、さらに0.000〜0.008、特に0.000〜0.006であることが好ましい。
【0060】
この精製BHETは、例えば重合触媒の存在下公知ないし周知の方法で重合せしめると、高品質の(例えば、色調に優れた)ポリエチレンテレフタレート、特にボトル用ポリエチレンテレフタレートを製造することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、例中の特性は次の方法で求めた。
(1)光学密度(OD380
試料5gをメタノールに溶解して10重量%メタノール溶液とし、UVmini−1240((株)島津製作所製)によりセル長10mmで、ブランクはメタノールを用いてゼロ点補正し、この溶液の380nmの吸光度を測定した。
(2)析出物の組成、およびBHETの純度
試料50mgを精秤し、クロロホルム/エタノール=1/1(容量比)を用いて1,000ppmの溶液を調製し、これを高速液体クロマトグラフLC−2010HT((株)島津製作所製)に展開し、ピーク面積より試料中の各成分の割合を求め、各成分の含有量を算出した。
(3)色相(b値)
カラーハンター法による、日本電子工業(株)製の色差計NZ−Σ80型を用いて、ポリマーのカラーb値を測定した。
(4)融点
試料を300℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷して得たサンプル10mgを用い、窒素気流中、示差走査型熱量計(DSC)((株)島津製作所社製DSC−60)を用いて10℃/分の昇温速度で発熱・吸熱曲線(DSC曲線)を測定したときの、融解に伴う吸熱ピークの頂点温度を融点Tm(℃)とした。
(5)固有粘度(IV)
試料をフェノール/テトラクロロエタン=1/1(容量比)の混合溶媒に濃度0.4g/100mlとなるように加えて溶解し、得られた溶液の粘度を25℃で測定して求めた。
(6)pH
試料をpHメーター((株)堀場製作所社製カスタニーACT D−24)に直接適用することにより測定した。
【0062】
<実施例1>
(グリコール分解工程)
ビール用ペットボトル(褐色単層構造で、MXD6ナイロン10重量%混入のガスバリアーペットボトル)を平均8mm角に粉砕したフレーク111重量部、エチレングリコール(EG)560重量部、エチレングリコール分解触媒として水酸化ナトリウム(NaOH)0.25重量部および微粒子凝集剤としての水酸化カルシウム(Ca(OH))0.25重量部を、還流コンデンサーを付した分解反応器に投入して、攪拌しつつ常圧沸点下で4時間、エチレングリコール分解を行った。得られたグリコール溶液は濃緑色を呈していた。
【0063】
(析出工程)
このグリコール溶液を攪拌しつつ冷却し、45℃に達した段階で30分間保持してガスバリアーポリマーおよび未分解物を析出させた懸濁したグリコール溶液を得た。
(分離工程)
得られたグリコール溶液を、保留粒子径1μmの濾材により45℃にて濾過して、析出物を分離した。得られた析出物は9.5重量部であり、そのうちの8.8重量部がMXD6ナイロン成分であり、0.7重量部がエステル成分であった。得られた濾液(グリコール溶液)は緑色を呈していた。グリコール溶液中のMXD6ナイロン成分の含有量は0.33重量%、BHETを主たるエステル成分とする固形分の含有量は19.9重量%であった。この結果から、MXD6ナイロンの80重量%が除去されたことが分かる。
【0064】
<実施例2>
(吸着処理)
実施例1で得られたグリコール溶液を45℃に保持したまま、15重量部の活性炭(三菱化学(株)製、ダイアホープ006)を充填した温水ジャケット付カラムに空間速度(SV)3.0で通液して吸着処理(脱色)を行ったところ、赤みがかった黄色となった。
【0065】
(イオン交換処理)
次いで15重量部のカチオン交換樹脂(ロームアンドハース社製「アンバーライトIR−120B」)を充填した温水ジャケット付カラムにSV5.0で通液して脱カチオンした。この脱カチオン処理後のグリコール溶液は淡赤黄色を呈し、pHは3であった。さらにこのグリコール溶液を、連結配管内を10秒で通過させた後、アニオン交換樹脂(ロームアンドハース社製「アンバーライトIRA96SB」)10重量部とカチオン交換樹脂(ロームアンドハース社製「アンバーライトIR−120B」)5重量部との混合物を充填した温水ジャケット付カラムにSV5.0で通液して脱アニオンし、イオン交換処理を行った。このイオン交換処理後のグリコール溶液はごく淡黄色を呈し、pHは6であった。
【0066】
(晶析処理)
イオン交換処理後のグリコール溶液を、45℃から1℃/分で徐冷して25℃となし、25℃で2時間保持して晶析処理した。得られたスラリーを保留粒子径5μmの濾材により濾過して、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を主成分とする固形分の濃度が54重量%であるケークを得た。
【0067】
(蒸留処理)
得られたケークを110℃で溶融し、薄膜式蒸発装置(第一蒸発装置)により、蒸発面の温度150℃、圧力600Paの条件でEGを主成分とする揮発分を留去し、続いて、薄膜式蒸発装置(第二蒸発装置)により、蒸発面の温度150℃、圧力106Paの条件でBHETより低い沸点の物質の含有量が0.4重量%になるまで濃縮して粗BHETを得た。
【0068】
得られた粗BHETは、流下薄膜式分子蒸留装置により、蒸発面の温度195℃、圧力13Paの条件で分子蒸留を行い、BHETの純度が97.85重量%であって、OD380が0.004である高純度BHETを得ることができた。
【0069】
(PETの合成)
この得られた高純度BHET60重量部を用いて、二酸化ゲルマニウム6.35×10−3重量部と85重量%リン酸水溶液3.6×10−3重量部を加えて温度260℃、圧力1.33kPaの条件で35分間保持してオリゴマー化した後、温度275℃、圧力13Paの条件で90分間重合を行ったところ、カラーb値が−0.3、融点が260℃、固有粘度(IV)が0.596である高品質のポリエチレンテレフタレート(PET)が得られた。
【0070】
<実施例3>
(グリコール分解工程)
ビール用ペットボトル(褐色3層構造で、MXD6ナイロン(ガスバリアー層として)10重量%を含むガスバリアーペットボトル)を平均8mm角に破砕したフレーク111重量部について、実施例1と同様の処理をしたところ、得られた析出物は10.0重量部であり、そのうちの9.1重量部がMXD6ナイロン成分であり、0.9重量部がエステル成分であった。得られた濾液(グリコール溶液)中のMXD6ナイロン成分の含有量は0.29重量%、BHETを主たるエステル成分とする固形分の含有量は19.9重量%であった。MXD6ナイロンの83重量%が除去されたことが分かる。
【0071】
<実施例4>
実施例3で得られた濾液(グリコール溶液)を、実施例2と同様に、吸着処理、イオン交換処理、晶析処理および蒸留処理をしたところ、BHETの純度が97.33重量%で、OD380が0.006である高純度BHETを得ることができた。
【0072】
この結果から、多層構造のペットボトルであっても、本発明の方法でケミカルリサイクルが可能であることが確認できた。
【0073】
<実施例5>
フレーク(a)とフレーク(b)との混合物の例
実施例1および3で使用したビール用ペットボトルのフレーク各々35重量部と、清涼飲料用ペットボトル(無色透明)を平均8mm角に破砕したフレーク37重量部の混合物の計107重量部について、実施例1と同様の処理をしたところ、得られた析出物は5.8重量部であり、そのうちの4.9重量部がMXD6ナイロン成分であり、0.9重量部がエステル成分であった。得られた濾液(グリコール溶液)中のMXD6ナイロン成分の含有量は0.32重量%、BHETを主たるエステル成分とする固形分の含有量は19.9重量%であった。MXD6ナイロンの70重量%が除去されたことが分かる。
【0074】
<実施例6>
実施例5で得られたグリコール溶液を実施例2と同様に吸着処理、イオン交換処理、晶析処理および蒸留処理をしたところ、BHETの純度が97.59重量%で、OD380が0.005である、高純度BHETを得ることができた。
【0075】
<実施例7>
ビール用ペットボトル(緑色5層構造で、MXD6ナイロン(ガスバリアー層として)6重量%を含むガスバリアーペットボトル)106重量部について、実施例1と同様に処理したところ、得られた析出物は5.7重量部であり、そのうちの4.4重量部がMXD6ナイロン成分であり、1.3重量部がエステル成分であった。グリコール溶液中のMXD6ナイロン成分の含有量は0.30重量%、BHETを主たるエステル成分とする固形分の含有量は19.7重量%であった。MXD6ナイロンの73重量%が除去されたことが分かる。
【0076】
<実施例8>
実施例7で得られたグリコール溶液を、実施例2と同様に吸着処理、イオン交換処理、晶析処理および蒸留処理をしたところ、BHETの純度が97.20重量%で、OD380が0.003である高純度BHETを得ることができた。
【0077】
<実施例9>
ガスバリアー性フィルム(透明単層構造で、MXD6ナイロン20重量%混入、厚み20μm。)を平均8mm角に粉砕したフレーク125重量部について、実施例1と同様の処理をしたところ、得られた析出物は23.6重量部であり、そのうちの22.7重量部がMXD6ナイロン成分であり、0.9重量部がエステル成分であった。得られた濾液(グリコール溶液)中のMXD6ナイロン成分の含有量は0.35重量%、BHETを主たるエステル成分とする固形分の含有量は19.9重量%であった。MXD6ナイロンの90.8重量%が除去されたことが分かる。
【0078】
<実施例10>
実施例9で得られたグリコール溶液を、実施例2と同様に吸着処理、イオン交換処理、晶析処理および蒸留処理をしたところ、BHETの純度が97.45重量%で、OD380が0.004である高純度BHETを得ることができた。
【0079】
<比較例1>
グリコール溶液を80℃で30分間保持してガスバリアーポリマーおよび未分解物を析出させ、80℃で濾過する以外は、実施例1と同じ処理をしたところ、得られた析出物は4.7重量部であり、そのうちの4.0重量部がMXD6ナイロン成分であり、0.7重量部がエステル成分であった。グリコール溶液中のMXD6ナイロン成分の含有量は1.05重量%、BHETを主たるエステル成分とする固形分の含有量は19.8重量%であった。MXD6ナイロンの除去率は36%であった。
【0080】
<比較例2>
比較例1で得られたグリコール溶液を80℃で吸着処理を行う以外は実施例2と同じ処理を行った。その結果、通液後まもなく活性炭充填カラム内で閉塞が起こり、通液不能に至った。閉塞物を取り出して水洗し、成分を調べたところ、MXD6ナイロン成分であった。
更に、閉塞前に得られたグリコール溶液を、実施例1と同様に、イオン交換処理、晶析処理および蒸留処理して得られたBHETの純度を測定したところ92.5重量%であり、MXD6ナイロン成分の含有率が1.4重量%であった。
このBHETを用いて、実施例2と同様に重合を行ったところ、IVは0.590であるがb値が3.5であって融点が255℃である品質的に好ましくないPET樹脂が得られた。
【0081】
<比較例3>
実施例1において、得られたグリコール溶液を、攪拌しつつ冷却し、30℃に達した段階で30分間保持したところ、懸濁液が得られた。該懸濁液を実施例1と同じ方法で濾過して、析出物を分離した。得られた析出物は22.7重量部であり、そのうちの8.9重量部がMXD6ナイロン成分であり、13.8重量部がエステル成分であった。得られたグリコール溶液中のMXD6ナイロン成分の含有量は0.32重量%、BHETを主たるエステル成分とする固形分の含有量は18.3重量%であった。したがって、この条件では、MXD6ナイロンの除去率は81%であるものの、余分にエステル成分が析出してしまい、低い収率での高純度BHETしか得られないことが解った。
【0082】
実施例1、3、5、7、9および比較例1、3の結果をまとめて表1に示す。
【0083】
【表1】

【産業上の利用分野】
【0084】
本発明の方法は、ガスバリアーポリマーを含むPET成形品のケミカルリサイクルを可能とする工業的方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(i)ポリエチレンテレフタレートおよびガスバリアーポリマーから主としてなる成形品を粉砕したフレーク(a)、または(ii)フレーク(a)と、ポリエチレンテレフタレートから主としてなる成形品を粉砕したフレーク(b)とを含む混合物を、エチレングリコールで分解し、エチレングリコール中に溶質としてエステルモノマーおよびガスバリアーポリマーを含むグリコール溶液を得るグリコール分解工程、
(2)該グリコール溶液を飽和溶解度以上の温度から35〜50℃の範囲の温度まで冷却して、ガスバリアーポリマーを析出させる析出工程、および
(3)該析出物を、グリコール溶液の温度を35〜50℃の範囲に維持しながら分離する分離工程、
からなるグリコール溶液の精製方法。
【請求項2】
フレーク(a)が、成形品の少なくとも一部がガスバリアーポリマーからなる内層を含み、両表層がポリエチレンテレフタレートからなる積層構造の積層成形品を粉砕したフレークである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フレーク(a)が、成形品の少なくとも一部がガスバリアーポリマーを混合したポリエチレンテレフタレート組成物からなる単層の成形品を粉砕したフレークである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
成形品がボトルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
成形品がフィルムである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ガスバリアーポリマーが、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ガスバリアーポリマーの含有割合が、フレーク総重量当り、0.5〜30重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
グリコール溶液中の溶質濃度が10〜30重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1の方法で精製したグリコール溶液を、さらにモノマー精製処理に付して精製エステルモノマーを得る方法。
【請求項10】
モノマー精製処理が、吸着処理、イオン交換処理、晶析処理、蒸留処理またはこれらの組み合わせからなる、請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2006−143622(P2006−143622A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333452(P2004−333452)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(598059468)株式会社アイエス (4)
【Fターム(参考)】