説明

グリシジルエーテル化合物の製造方法

【課題】フェノール性水酸基を複数個有する化合物およびカルボン酸アリルエステル化合物を出発原料として、効率よく対応するグリシジルエーテル化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】フェノール性水酸基を複数個有する化合物をカルボン酸アリルエステル化合物をアリル化剤として用いてアリル化することにより対応するアリルエーテル化合物を製造する第一の工程と、アリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合を過酸化水素を酸化剤として用いて酸化することにより対応するグリシジルエーテル化合物を製造する第二の工程とを有するグリシジルエーテル化合物の製造方法において、第一の工程が不均一系触媒を用いて行なわれ、第一の工程終了後の反応液から不均一系触媒を分離することによって得られた反応液中のアリルエーテル化合物を精製することなく、当該得られた反応液を第二の工程の反応液として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリシジルエーテル化合物の製造方法に関する。さらに詳しくはフェノール性水酸基を複数個有する化合物をカルボン酸アリルエステル化合物によりアリル化して対応するアリルエーテル化合物を製造する第一の工程と、アリルエーテル化合物を過酸化水素により酸化して対応するグリシジルエーテル化合物を製造する第二の工程と、を含むグリシジルエーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の原料として知られるグリシジルエーテル化合物は、工業的に大規模に生産されており、様々な分野で広く使用されている。
【0003】
従来知られているグリシジルエーテル化合物の製造方法としては、対応するアルコールまたはフェノールを触媒の存在下または不在下に塩基性条件下でエピクロロヒドリンと反応させて、グリシジルエーテル化合物を得る方法がある。この方法では有機塩素化合物がグリシジルエーテル化合物中に必ず残存してしまい、幾つかの用途、例えばエレクトロニクス用途で使用するには、絶縁特性が低くなるという欠点があるため好ましくない。
【0004】
そこで、ハロゲン化合物であるエピクロロヒドリンを用いないグリシジルエーテル化合物の合成法として、原料のアルコールまたはフェノールをアリル化(第一の工程)した後に、酸化剤を利用して、得られたアリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合を直接グリシジル化(第二の工程)することが検討されている。以下にフェノール化合物を出発原料としたアリルエーテル化合物およびアリルエーテル化合物を出発原料としたグリシジルエーテル化合物の合成例について触れる。
【0005】
第一の工程に対応するフェノール化合物をアリル化する方法としては、パラジウム触媒を用いた例として、アリル化試薬である酢酸アリルにより活性水素含有化合物であるフェノールをアリル化する方法が、例えば非特許文献1(J.Muzartら,J.Organomet.Chem.,326,pp.C23−C28(1987))に報告されている。特許文献1(米国特許第5578740号公報)には、カルボン酸のアリルエステルおよび炭酸アリルにより活性水素含有化合物であるフェノール系化合物をアリル化する方法が記載されている。特許文献2(米国特許第4507492号公報)および非特許文献2(S.SivaramおよびA.G.Shaikh,Macromolecular Reports,A32(Suppl.7),pp.1053−1060(1995))には、アリル化試薬であるアリルメチルカーボネートにより活性水素含有化合物であるビスフェノール−Aをアリル化する方法が記載されている。また、ニッケル触媒を用いた例としては、非特許文献3(A.Mortreuxら,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,pp.1863−1864(1995))にアリル化試薬である酢酸アリルにより活性水素含有化合物であるフェノールをアリル化する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、上記方法のように酢酸パラジウム等の塩を用いる均一系触媒系でのフェノール化合物のアリル化方法では、目的物であるアリルエーテル化合物中に触媒由来の不純物が混入する。そのため、混入した不純物は、次工程のグリシジル化反応における反応阻害剤として機能する場合があり、たとえグリシジル化反応に影響がなくとも、最終生成物中に混入することになる。この場合、触媒を除去する工程が必要となるが、この工程には手間がかかる。
【0007】
第二の工程に対応するアリルエーテル化合物をグリシジル(エポキシ)化する方法としては、例えば特許文献3(特表平10−511722号公報)および特許文献4(特開昭60−60123号公報)に、ビスフェノール−Aのジアリルエーテルやノボラック型フェノール樹脂のポリアリルエーテルをトルエン等の有機溶媒中でタングステン酸ナトリウムとリン酸触媒を用いて、第四級アンモニウム塩の存在下で過酸化水素によりエポキシ化する方法が記載されている。特許文献5(米国特許第5633391号公報)には、オレフィンを有機溶媒中、酸化レニウム触媒の存在下で、酸化剤としてのビス(トリメチルシリル)ペルオキシドと接触させることにより、オレフィンをエポキシ化する方法が記載されており、オレフィンとしてフェニルアリルエーテルの例示がある。特許文献6(特開平7−145221号公報)および特許文献7(特開昭58−173118号公報)には、フェノールノボラック樹脂をハロゲン化アリルによりアリルエーテル化後、有機溶媒中過酸によりエポキシ化する方法が記載されている。
【0008】
しかしながら、これらの先行技術文献のうち特許文献3以外には、第二の工程での原料となるアリルエーテル化合物がどのように調製されたものであるかに関する詳細は記載されていない。通常、フェノール化合物をアリル化剤によりアリル化して得られた反応混合液の処理方法としては、この反応混合液中に含まれる油層部と水層部とを、分離槽を用いて互に分液し、分液された油層部を蒸留することによって目的とするアリルエーテル化合物を収得する方法が行われる。しかし、低沸点化合物においては、蒸留等の精製は可能であろうが、高沸点化合物においては蒸留操作が困難となる。特にエポキシ樹脂に用いられるビスフェノール−Aやノボラック型フェノール樹脂は高沸点化合物であり、蒸留による精製は難しい。これら精製過程は、精製に溶媒や、精製設備を必要とするだけでなく、精製による原料の消失も大きく、工業的観点から効率的ではない。また、特許文献3では第二の工程前に第一の工程で得られた反応生成物よりアリルエーテル化合物を一旦精製する工程を設けている。
【0009】
第1の工程において得られた反応生成物を、当該反応生成物に含まれるアリルエーテル化合物を精製することなく直接的に第2の工程に用いることができれば、生産性、操作性などの観点から非常に有益と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5578740号公報
【特許文献2】米国特許第4507492号公報
【特許文献3】特表平10−511722号公報
【特許文献4】特開昭60−60123号公報
【特許文献5】米国特許第5633391号公報
【特許文献6】特開平7−145221号公報
【特許文献7】特開昭58−173118号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Muzartら,J.Organomet.Chem.,326,pp.C23−C28(1987)
【非特許文献2】S.SivaramおよびA.G.Shaikh,Macromolecular Reports,A32(Suppl.7),pp.1053−1060(1995)
【非特許文献3】A.Mortreuxら,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,pp.1863−1864(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、フェノール性水酸基を複数個有する化合物およびカルボン酸アリルエステル化合物を出発原料として、効率よく対応するグリシジルエーテル化合物を製造する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、以下の発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]フェノール性水酸基を複数個有する化合物をカルボン酸アリルエステル化合物をアリル化剤として用いてアリル化することにより対応するアリルエーテル化合物を製造する第一の工程と、アリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合を過酸化水素を酸化剤として用いて酸化することにより対応するグリシジルエーテル化合物を製造する第二の工程とを有するグリシジルエーテル化合物の製造方法であって、前記第一の工程が不均一系触媒を用いて行なわれ、第一の工程終了後の反応液から不均一系触媒を分離することによって得られた反応液中のアリルエーテル化合物を精製することなく、当該得られた反応液を第二の工程の反応液として用いることを特徴とするグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[2]前記第一の工程終了後不均一系触媒の分離前に、第一の工程終了後の反応液に第一の溶媒を添加する工程をさらに含む[1]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[3]前記不均一系触媒の分離時に分離された不均一系触媒を第二の溶媒により洗浄し、その洗浄液を前記不均一系触媒の分離時に得られた反応液と混合して第二の工程の反応液として用いる[2]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[4]前記第一の溶媒が脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族ハロゲン化炭化水素、ニトロアルカン、エーテル、グリコールエーテル、エステル、およびケトンからなる群から選択される少なくとも一種の有機溶媒を含む[2]または[3]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[5]前記第一の溶媒がペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジグリム、トリグリム、酢酸メチル、酢酸エチル、およびメチルエチルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の溶媒を含む[2]または[3]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[6]前記第一の工程を、遷移金属を含む不均一系触媒、錯化剤、およびアルカリ金属塩の存在下で行う[1]〜[5]のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[7]前記第二の工程を、タングステン化合物、第四級アンモニウム塩および鉱酸を含む触媒の存在下、過酸化水素水溶液を酸化剤として用いて行う[1]〜[6]のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[8]前記フェノール性水酸基を複数個有する化合物が、以下の式(1):
【化1】

{式中、R1、およびR2は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基であり、あるいは、R1とR2は一緒になって炭素数1〜6のアルキリデン基または炭素数3〜12のシクロアルキル基を形成してもよい。R3、R4、R5、およびR6は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基であり、そして、nは0または1の整数を表す。}で表される化合物、フェノール−ホルムアルデヒド重縮合物、およびクレゾール重縮合物からなる群より選択される[1]〜[7]のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[9]前記カルボン酸アリルエステル化合物が、酢酸アリルである[1]〜[8]のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[10]前記不均一系触媒が、0.1〜20質量%の遷移金属が活性炭に担持された触媒である[1]〜[9]のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[11]前記錯化剤が、有機モノホスフィン、および/または有機ジホスフィンである、[6]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[12]前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属炭酸塩である[6]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[13]前記第二の工程において反応温度を20〜100℃の範囲に制御する、[1]〜[12]のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[14]前記タングステン化合物が、タングステン酸ナトリウムとタングステン酸の混合物、タングステン酸ナトリウムと鉱酸の混合物、またはタングステン酸とアルカリ化合物の混合物である[7]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[15]前記第四級アンモニウム塩の窒素原子に結合した置換基の炭素数の合計が6以上50以下である[7]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[16]前記鉱酸が、リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、スルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸、およびホウ酸からなる群から選択される少なくとも一種である[7]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
[17]前記第二の工程後反応液を有機層と水層に分離し、有機層をトルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶媒により再結晶する工程をさらに含む[7]に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のグリシジルエーテル化合物の製造方法によれば、第一の工程(アリル化)と第二の工程(グリシジル化)との間に第一の工程で得られた反応生成物(反応液)中に含まれるアリルエーテル化合物を精製することなく対応するグリシジルエーテル化合物を効率的に製造することができる。そのため電子材料分野や、接着剤、塗料樹脂といった各種ポリマーの原料として化学工業をはじめとする様々な産業分野で幅広く用いられる有用な低塩素含有量のエポキシ樹脂を、低コストで製造でき、工業的に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のグリシジルエーテル化合物の製造方法は、フェノール性水酸基を複数個有する化合物をカルボン酸アリルエステル化合物をアリル化剤として用いてアリル化することにより対応するアリルエーテル化合物を製造する第一の工程と、アリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合を過酸化水素を酸化剤として用いて酸化することにより対応するグリシジルエーテル化合物を製造する第二の工程とを有し、前記第一の工程が不均一系触媒を用いて行なわれ、第一の工程終了後の反応液から不均一系触媒を分離することによって得られた反応液中のアリルエーテル化合物を精製することなく、当該得られた反応液を第二の工程の反応液として用いることを特徴とする。
【0017】
(第一の工程)
第一の工程は、フェノール性水酸基を複数個有する化合物をカルボン酸アリルエステル化合物をアリル化剤として用いてアリル化して対応するアリルエーテル化合物を製造する工程である。フェノール性水酸基を複数個有する化合物としては、フェノール系水酸基を2個以上有する化合物であれば特に制限はない。
【0018】
フェノール系水酸基を2つ有する化合物としては、以下の式(1):
【化2】

{式中、R1、およびR2は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基であり、あるいは、R1とR2は一緒になって炭素数1〜6のアルキリデン基または炭素数3〜12のシクロアルキル基を形成してもよい。R3、R4、R5、およびR6は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基であり、そして、nは0または1の整数を表す。}で表される化合物が挙げられる。ここでnが0の場合は、2つのベンゼン環が直接結合(ビフェニル骨格)していることを示す。これらの中でもR1〜R6が各々独立して水素原子またはメチル基であり、nが1または0のものがより好ましい。
【0019】
このような化合物としては、具体的には、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、2,6,2’,6’−テトラメチルビスフェノール−A、2,2’−ジアリルビスフェノール−A、2,2’−ジ−t−ブチルビスフェノール−A、2,2’−ジイソプロピルビスフェノール、4,4’−エチリデンビスフェノール、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4’−(1−α−メチルベンジリデン)ビスフェノール、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−メチル−ベンジリデン)ビスフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル−4,4’−ジオールなどが挙げられる。
【0020】
また、フェノール系水酸基を3つ以上有する化合物としては、フェノール重縮合物、例えばフェノール−ホルムアルデヒド重縮合物、クレゾール重縮合物等が挙げられる。
【0021】
本発明において有用なアリル化剤は、蟻酸アリル、酢酸アリル、プロピオン酸アリル、安息香酸アリル、およびシュウ酸ジアリル、グルタル酸ジアリル、コハク酸ジアリル等のカルボン酸アリルエステル化合物である。これらのカルボン酸アリルエステル化合物は単独で用いることもできるし、それらを複数任意に組み合わせて使用することもできる。本発明において使用するカルボン酸アリルエステル化合物として酢酸アリルが安価であることから最も好ましい。
【0022】
フェノール性水酸基を複数個有する化合物に対する、カルボン酸アリルエステル化合物の使用量は、フェノール性水酸基を複数個有する化合物のヒドロキシル基1当量当たりカルボン酸アリルエステル化合物が約0.1〜約500当量、好ましくは約0.5〜約50当量、より好ましくは約1〜約20当量である。フェノール性水酸基を複数個有する化合物のヒドロキシル基1当量当たりのカルボン酸アリルエステル化合物の当量が1(当量比が1)より著しく大きい場合には、過剰のカルボン酸アリルエステル化合物は、アリル化剤として使用されるだけでなく、溶媒としても使用される。フェノール性水酸基を複数個有する化合物のヒドロキシル基1当量当たりのカルボン酸アリルエステル化合物の当量が1(当量比が1)未満の場合には、部分的にアリル化されたアリルエーテル化合物、すなわち分子内にフェノール性水酸基が残存したアリルエーテル化合物を得ることができる。当量比が1未満の場合は、過剰のフェノール性水酸基を複数個有する化合物を必要に応じて回収して、このプロセスに再循環することができる。
【0023】
第一の工程では、遷移金属を含む不均一系触媒を用いることができる。この際、錯化剤、およびアルカリ金属塩の存在下で行うことができる。本明細書において「遷移金属を含む不均一系触媒」とは、遷移金属触媒が(i)アリル化反応液中に不溶であるか、または(ii)アリル化反応液中に不溶な固体担体材料上に担持されていることを意味する。
【0024】
不均一系触媒に含まれる遷移金属としては、ルテニウム、レニウム、モリブデン、タングステン、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、ランタン、イッテルビウム、サマリウムを単独でまたはそれらを任意に組み合わせて用いることができ、より好ましくはパラジウムまたは白金である。遷移金属触媒は担体に担持された形態であることが好ましく、担体としては活性炭を用いることが好ましい。活性炭においては特に制限はなく、例えば椰子ガラ、合成樹脂、コークス、ピッチなどを原料としたものを好適に使用することができる。また、活性炭の形状に特に制限はなく、粉末状、粒状、繊維状、成型体などの形態のものを適宜選択することができる。
【0025】
不均一系触媒の使用量は、様々な要因、例えば反応が回分反応であるかまたは連続式の固定床若しくは流動床反応であるか、あるいは後述する溶媒の使用量がどの程度であるかなどに応じて適宜調節可能である。一般に、基質であるフェノール性水酸基を複数個有する化合物に対する不均一系触媒の使用量は、基質のフェノール性水酸基1当量に対して、不均一系触媒の遷移金属約0.00001〜約10当量であり、好ましくは、回分反応においては、基質のフェノール性水酸基1当量に対して、不均一系触媒の遷移金属約0.00001〜約5当量、連続式の固定床または流動床反応においては、基質のフェノール性水酸基1当量に対して、不均一系触媒約1〜約10当量である。不均一系触媒は、約0.1〜約20質量%の遷移金属、例えばパラジウムなどが活性炭に担持されたものを好ましく使用できる。
【0026】
第一の工程において有用な錯化剤としては、有機ホスフィン化合物が挙げられる。具体的にはトリメチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等の有機モノホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,2−ビス(2,5−ジメチルホスホラノ)エタン等の有機ジホスフィンが挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いることもできるし、任意に組み合わせて使用することもできる。
【0027】
第一の工程は一般に塩基を用いて行われ、有用な塩基としては、アルカリ金属塩、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、若しくは炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸水素塩、またはメタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム等のアルカリ金属ホウ酸塩が挙げられる。より好ましくは安価で入手が容易なアルカリ金属炭酸塩である。緩衝剤を用いずにまたは用い、単独溶媒または補助溶媒として水を使用する場合には、第一の工程の進行に伴い副生成物としてカルボン酸が生成するため反応液のpHを約9以上とすることが好ましい。
【0028】
第一の工程において反応液の均一化、粘度調整等の目的のため必要に応じて水以外の溶媒を使用することもできる。使用できる溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族ハロゲン化炭化水素、ニトロアルカン、エーテル、グリコールエーテル、エステル、ケトン等が挙げられる。これらの中で好ましい溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジグリム、トリグリム、酢酸メチル、酢酸エチル、およびメチルエチルケトンが挙げられ、特に好ましい溶媒はシクロヘキサン、およびトルエンである。これらの溶媒は単独または任意に組み合わせて使用できる。
【0029】
上記溶媒は、フェノール性水酸基を複数個有する化合物100質量部に対して、約100質量部以内、好ましくは約0.5〜約20質量部、より好ましくは約1〜約10質量部の量で使用する。
【0030】
第一の工程であるアリル化反応は約10〜約200℃、好ましくは約50〜約150℃、より好ましくは約70〜約110℃の温度において、反応を本質的に完了させるのに充分な時間、通常は約0.1〜約72時間、好ましくは約0.1〜約48時間、より好ましくは約0.1〜約24時間実施することができる。最適なアリル化反応温度および時間は、使用する個々の化合物の反応性、溶媒および触媒によって異なる。反応は液相で実施することが好ましいので反応系が液相に保たれる圧力雰囲気下で実施することが好ましい。例えば約50〜約2000Paの圧力を使用できる。
【0031】
(第一の溶媒を添加する工程)
第一の工程で所望の転化度までアリル化反応を実施後、任意の適当な方法または手段を用いて、反応液から第二の工程に不要な成分を除去することができる。例えば不均一系触媒およびその付随錯化剤が反応液中に不均一相として存在するため、これらを反応液から濾過または反応液をデカンテーションすることにより分離することができるが、濾過することがより好ましい。また、第一の工程において使用され反応液中に含まれるアルカリ金属塩を、上記操作により反応液から除去することができる。不均一系触媒およびアルカリ金属塩を反応液から除去するには、不均一系触媒の分離前に反応液に第一の溶媒を添加することが好ましい。第一の溶媒を添加することにより、アリル化反応生成物を含む反応液の粘度を低下させて取り扱いを容易にすることができ、濾過分離する場合はさらに濾過効率を向上させることができる。添加する第一の溶媒は脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族ハロゲン化炭化水素、ニトロアルカン、エーテル、グリコールエーテル、エステル、およびケトンからなる群から選択される少なくとも一種の有機溶媒を含むことが好ましい。具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジグリム、トリグリム、酢酸メチル、酢酸エチル、およびメチルエチルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶媒が挙げられる。特に好ましい溶媒はシクロヘキサン、およびトルエンである。また、アルカリ金属塩は水溶性であるため、濾過時のアルカリ金属塩の析出を防ぐため水を同時に添加することが好ましい。濾液はアリルエーテル化合物を含む有機層とアルカリ金属塩を含む水層に分離するので、第二の工程に不要な水層は分離、除去する。分離した有機層にはアルカリ金属塩を一部含有するため、水で洗浄することが好ましい。
【0032】
不均一系触媒はアリル化反応液から分離した後、分離残渣を第二の工程の反応溶媒となる第二の溶媒で洗浄し、その洗浄液を不均一系触媒の分離時に得られた反応液と混合することで、生成物の回収率を高めることができる。第二の溶媒としては第一の溶媒と同種のものを用いることができる。また、濾過、洗浄、分別蒸留、抽出蒸留、液液抽出、固液抽出および結晶化またはこれらの方法の任意の組合せを用いて、反応液から第二の工程に不要な溶媒、未反応アリル化剤、カルボン酸副生成物等を除去することができる。例えば1つの生成物分離操作は、蒸留または蒸発によって反応液から、溶媒および未反応アリル化剤のような揮発分を除去し、次いで蒸留または抽出によってカルボン酸副生成物を回収することを含むことができる。上記操作は第二の工程に不要な成分を反応液から除去するものであって、反応液中に含有するアリルエーテル化合物を単離・精製することを意味しない。上記方法により第二の工程に不要な成分が分離されたアリルエーテル化合物を含む反応液は、第二の工程の反応液として直接使用することができる。
【0033】
(第二の工程)
第二の工程は、第一の工程で得られたアリルエーテル化合物を含む反応液を用いてアリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合を過酸化水素を酸化剤として用いて酸化することにより対応するグリシジルエーテル化合物を製造する工程である。
【0034】
第二の工程においては、アリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合を酸化する酸化剤として過酸化水素を用いる。過酸化水素は過酸化水素水溶液として用いることができる。過酸化水素の濃度には特に制限はないが、一般的には約1〜約80質量%、好ましくは約20〜約80質量%の範囲から選ばれる。過酸化水素の使用量についても、特に制限はないが、グリシジル(エポキシ)化しようとするアリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合に対して、約0.5〜約10当量、好ましくは約0.8〜約2当量の範囲から選ばれる。
【0035】
第二の工程は、タングステン化合物、第四級アンモニウム塩および鉱酸を含む触媒の存在下で実施することができる。触媒として用いるタングステン化合物としては、水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物が好適であり、例えば、タングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物等が挙げられるが、タングステン酸、三酸化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム二水和物等が好ましい。これらタングステン化合物類は単独で使用しても2種以上を混合使用してもよい。
【0036】
これらの水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物の触媒活性は、タングステン酸アニオン1.0モルに対して、約0.2〜約0.8モルの対カチオンが存在したほうが高い。このようなタングステン組成物の調製法としては、例えばタングステン酸とタングステン酸のアルカリ金属塩を、タングステン酸アニオンと対カチオンが前記比率となるように混合してもよいし、タングステン酸をアルカリ化合物(アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等)と混合するか、タングステン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩とリン酸、硫酸等の鉱酸のような酸性化合物を組み合わせてもよい。これらの好ましい具体例としては、タングステン酸ナトリウムとタングステン酸の混合物、タングステン酸ナトリウムと鉱酸の混合物、またはタングステン酸とアルカリ化合物の混合物が挙げられる。
【0037】
タングステン化合物の触媒としての使用量は、タングステン元素について、基質のアリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合に対して、約0.0001〜約20モル%、好ましくは約0.01〜約20モル%の範囲から選ばれる。
【0038】
触媒として用いる第四級アンモニウム塩としては、その窒素原子に結合した置換基の炭素数の合計が6以上50以下、好ましくは10以上40以下の第四級有機アンモニウム塩が、エポキシ化反応の活性が高くて好ましい。
【0039】
第四級アンモニウム塩としては、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルエチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化トリカプリルメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム等の塩化物;臭化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化トリオクチルエチルアンモニウム、臭化ジラウリルジメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、臭化トリカプリルメチルアンモニウム、臭化ジデシルジメチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム等の臭化物;ヨウ化トリオクチルメチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルエチルアンモニウム、ヨウ化ジラウリルジメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ステアリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、ヨウ化トリカプリルメチルアンモニウム、ヨウ化ジデシルジメチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリエチルアンモニウム等のヨウ化物;リン酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム、リン酸水素化トリオクチルエチルアンモニウム、リン酸水素化ジラウリルジメチルアンモニウム、リン酸水素化ラウリルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ステアリルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、リン酸水素化トリカプリルメチルアンモニウム、リン酸水素化ジデシルジメチルアンモニウム、リン酸水素化テトラブチルアンモニウム、リン酸水素化ベンジルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ベンジルトリエチルアンモニウム等のリン酸水素化物;硫酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム、硫酸水素化トリオクチルエチルアンモニウム、硫酸水素化ジラウリルジメチルアンモニウム、硫酸水素化ラウリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ステアリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、硫酸水素化トリカプリルメチルアンモニウム、硫酸水素化ジデシルジメチルアンモニウム、硫酸水素化テトラブチルアンモニウム、硫酸水素化ベンジルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ベンジルトリエチルアンモニウム等の硫酸水素化物等が挙げられる。
【0040】
これらの第四級アンモニウム塩は、単独で使用しても2種以上を混合使用してもよい。その使用量は基質のアリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合に対して約0.0001〜約10モル%が好ましく、より好ましくは約0.01〜約10モル%の範囲から選ばれる。
【0041】
第二の工程では、(助)触媒として、さらに鉱酸を用いる。鉱酸の例としては、リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、スルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸、およびホウ酸が挙げられる。その使用量は基質のアリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合に対して約0.0001〜約10モル%が好ましく、より好ましくは約0.01〜約10モル%の範囲から選ばれる。
【0042】
第二の工程において、有機溶媒を用いないか必要に応じて有機溶媒を用いて、過酸化水素水溶液と前記した触媒とを混合し、アリルエーテル化合物のグリシジル化反応を進行させることができる。溶媒を用いる場合には、反応速度が遅くなり、溶媒によっては加水分解反応等の望ましくない反応が進行しやすくなることがあるため、適切に選択する必要がある。反応基質としてのアリルエーテル化合物の粘度があまりに高い場合や固体である場合には必要最小限の有機溶媒を用いてもよい。用いることができる有機溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、または脂環式炭化水素が好ましく、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等が挙げられる。濃度については必要最小限の使用に留めた方が製造コスト等の点で有利であり、有機溶媒の使用量はアリルエーテル化合物100質量部に対して好ましくは約300質量部以下、より好ましくは約100質量部以下である。
【0043】
また、グリシジル(エポキシ)化反応において、工業的に安定に生産を行うことを考えると、触媒と基質を最初に反応器に仕込み、反応温度を極力一定に保ちつつ、過酸化水素については反応で消費されているのを確認しながら、徐々に加えていった方がよい。このような方法を採れば、反応器内で過酸化水素が異常分解して酸素ガスが発生したとしても、過酸化水素の蓄積量が少なく圧力上昇を最小限に留めることができる。
【0044】
反応温度があまりに高いと副反応が多くなるし、低すぎる場合には過酸化水素の消費速度が遅くなり、反応系内に蓄積することがあるので、反応温度は、好ましくは約−10〜約120℃、より好ましくは約20℃〜約100℃の範囲で制御する。
【0045】
反応終了後は、水層と有機層の比重差がほとんど無い場合があるが、その場合には水層に無機化合物の飽和水溶液を混合して、有機層と比重差をつけることにより有機抽出溶媒を使用しなくても二層分離を行うことができる。特にタングステン化合物の比重は重いので、水層を下層に持って来るために、本来触媒として必要な前記した使用量を超えるタングステン化合物を用いてもよい。この場合、水層からのタングステン化合物を再使用して、タングステン化合物の利用効率を高めることが望ましい。
【0046】
また、逆に基質によっては有機層の比重が1.2近くとなるものもあるので、このような場合には水を追添して、水層の比重を1に近づけることにより、上層に水層、下層に有機層を持って来ることもできる。また、反応液の抽出にトルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、塩化メチレンなどの有機溶媒を用いて抽出を実施することもでき、状況に応じて最適な分離方法を選択することができる。
【0047】
このようにして水層と分離した有機層を濃縮後、蒸留、クロマト分離、再結晶や昇華等の通常の方法によって、得られたグリシジルエーテル化合物を取り出すことができる。有機層をトルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶媒により再結晶することが、純度の高いグリシジルエーテル化合物が得るのに有利である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
[実施例1−1]
2000 mLのナス型フラスコに、炭酸カリウム(日本曹達(株)製)171.1 g (1.24 mol)を純水155.6 gに溶解した溶液、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオール(TMB)(沁陽市天益化工有限公司製)300.0 g (1.24 mol)、炭酸ナトリウム(関東化学(株)製)65.61 g(0.619 mol、固体のまま)を仕込み、反応器を窒素置換し85℃に加熱した。窒素気流下、酢酸アリル(昭和電工(株)製)272.7 g(2.72 mol)、トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)3.247 g (12.4 mmol)、50%含水5%-Pd/C-STDタイプ(エヌ・イーケムキャット(株)製)0.105 g (0.0248 mmol)を入れ、窒素雰囲気中、105℃に昇温した。2時間毎に、一部サンプリングし、酢酸エチルで希釈後、反応液をガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。反応4時間後に、酢酸アリル27.3 g (0.273 mol)を追添した。GC分析において、TMB、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオールモノアリルエーテル(TMBME)、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオールジアリルエーテル(TMBDE)の比率で、TMBDEが99%以上になるまで反応させた。反応液は有機層と水層の二層に別れ、有機層に5%Pd/Cが懸濁しており、高温ではほぼ沈殿は見られないが、冷えると有機層は固化し、水層には白色結晶が沈殿してくる。トルエン200 g、純水200 gを加え、80℃以上の温度に保持して白色沈殿が析出していないことを確認した後、Pd/Cを濾過(1ミクロンのメンブランフィルター(アドバンテック社製KST−142−JAを用いて加圧(0.3MPa))により回収した。この濾滓をトルエン100gで洗浄するとともに、水層を分離した。50℃以上で有機層を水200gで2度洗浄し、水層が中性であることを確認した。この段階で、トルエン300gに反応生成物として3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオールジアリルエーテル(TMBDE)を理論量として400.0 g (1.24 mol)を含む有機層が得られた。
【0049】
[実施例1−2]
2000 mLのナス型フラスコに、実施例1−1で得られた300 gのトルエンに3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオールジアリルエーテル(TMBDE)が溶解した有機層、タングステン酸ナトリウム二水和物(日本無機化学工業(株)製)16.4 g(49.6 mmol)、88質量%リン酸(関東化学(株)製)5.526 g(49.6 mmol)、硫酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム(MTOAHS)(旭化学(株)製) 23.17 g(49.6 mmol)、純水(150 g)を入れ、撹拌機で強力に攪拌しながら75℃に昇温した。温度が安定したことを確認した後、35質量%過酸化水素水溶液(三菱化学社製)241.1 g(2.48 mol)を内温が85℃を超えないようにゆっくりと滴下した(滴下時間約1時間)。滴下終了後、80℃で6時間攪拌を継続し、ガスクロマトグラフィーによる確認により反応がほぼ進行しなくなった時点で、反応終了とした。原料であるTMBDEの転化率は96.5% であり、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4'-ビフェニルジオールジグリシジルエーテル(ジエポキシ体)の収率は83.0%、モノグリシジルエーテル(モノエポキシ体)の収率は13.0% であることを確認した。アリル化、グリシジル(エポキシ)化を通した二段階の収率は83.0%となる。上記反応液を、ジャケット付きのセパラブルフラスコに移し、80℃で静置した。水層を分離した後、有機層を1質量%重亜硫酸ソーダ水溶液(日本曹達製)100 g、次に純水100 gで洗浄した。洗浄した有機層を減圧下(60 mmHg, 40℃)濃縮した後、トルエン140 g、イソプロピルアルコール1140 gを加え、70℃で粗生成物を溶解した。固形分がないことを確認した後、室温(約25℃)に冷却し、析出した目的物を濾過により分離した。イソプロピルアルコール126 gで洗浄し、乾燥後、目的物を白色固体として得た(264 g、45.2%収率)。
【0050】
[比較例1]TMBDEの合成において蒸留を実施、精製後、エポキシ化する方法
実施例1−1と全く同様の反応をおこない、TMBDEの粗生成物を得た。この粗生成物を分子蒸留装置(大科工業(株)製)により、薄膜蒸留(カラム温度 150℃、試料温度 120℃、受器温度 60℃、冷却管 70℃、回転数 9、処理時間2時間30分、供給速度 約500 g/h)し、留出物127.5g(単離収率66%、ジアリルエーテル97.9%、残りはモノアリルエーテル)、非留出物31.7g(ジアリルエーテル97.5%)を得た。留出物は融点が51.7℃の固体であり、60℃における粘度は、29mPa・sであった。
【0051】
上記操作により精製されたTMBDEの蒸留品を、実施例1−2と全く同じ条件下、グリシジル(エポキシ)化した。反応後の溶液を分析した結果、TMBDEの転化率は97.9%であり、モノエポキシ体の選択率が14.3%、そしてジエポキシ体への選択率は83.6%であった。アリル化、グリシジル(エポキシ)化を通した二段階の収率は55.2%となる。実施例1−2と同様に単離精製をおこなった結果単離収率は、30.0%収率であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るグリシジルエーテル化合物の製造方法によれば、フェノール性水酸基を複数個有する化合物をカルボン酸アリルエステル化合物を用いてアリル化する第一の工程から得られるアリルエーテル化合物を、精製することなく第二の工程に使用することができるので、簡便な操作で、高収率で、低コストで、かつ低塩素含有量のグリシジルエーテル化合物を製造できる。そのため電子材料分野や、接着剤、塗料樹脂といった各種ポリマーの原料として化学工業をはじめとする様々な産業分野で幅広く用いられる有用な低塩素含有量のエポキシ樹脂を、低コストで製造することができ、工業的に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性水酸基を複数個有する化合物をカルボン酸アリルエステル化合物をアリル化剤として用いてアリル化することにより対応するアリルエーテル化合物を製造する第一の工程と、アリルエーテル化合物のアリル基の炭素−炭素二重結合を過酸化水素を酸化剤として用いて酸化することにより対応するグリシジルエーテル化合物を製造する第二の工程とを有するグリシジルエーテル化合物の製造方法であって、前記第一の工程が不均一系触媒を用いて行なわれ、第一の工程終了後の反応液から不均一系触媒を分離することによって得られた反応液中のアリルエーテル化合物を精製することなく、当該得られた反応液を第二の工程の反応液として用いることを特徴とするグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第一の工程終了後不均一系触媒の分離前に、第一の工程終了後の反応液に第一の溶媒を添加する工程をさらに含む請求項1に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記不均一系触媒の分離時に分離された不均一系触媒を第二の溶媒により洗浄し、その洗浄液を前記不均一系触媒の分離時に得られた反応液と混合して第二の工程の反応液として用いる請求項2に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記第一の溶媒が脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族ハロゲン化炭化水素、ニトロアルカン、エーテル、グリコールエーテル、エステル、およびケトンからなる群から選択される少なくとも一種の有機溶媒を含む請求項2または3に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記第一の溶媒がペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジグリム、トリグリム、酢酸メチル、酢酸エチル、およびメチルエチルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の溶媒を含む請求項2または3に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記第一の工程を、遷移金属を含む不均一系触媒、錯化剤、およびアルカリ金属塩の存在下で行う請求項1〜5のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記第二の工程を、タングステン化合物、第四級アンモニウム塩および鉱酸を含む触媒の存在下、過酸化水素水溶液を酸化剤として用いて行う請求項1〜6のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記フェノール性水酸基を複数個有する化合物が、以下の式(1):
【化1】

{式中、R1、およびR2は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基であり、あるいは、R1とR2は一緒になって炭素数1〜6のアルキリデン基または炭素数3〜12のシクロアルキル基を形成してもよい。R3、R4、R5、およびR6は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基であり、そして、nは0または1の整数を表す。}で表される化合物、フェノール−ホルムアルデヒド重縮合物、およびクレゾール重縮合物からなる群より選択される請求項1〜7のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記カルボン酸アリルエステル化合物が、酢酸アリルである請求項1〜8のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項10】
前記不均一系触媒が、0.1〜20質量%の遷移金属が活性炭に担持された触媒である請求項1〜9のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項11】
前記錯化剤が、有機モノホスフィン、および/または有機ジホスフィンである、請求項6に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属炭酸塩である請求項6に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項13】
前記第二の工程において反応温度を20〜100℃の範囲に制御する、請求項1〜12のいずれか1項に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項14】
前記タングステン化合物が、タングステン酸ナトリウムとタングステン酸の混合物、タングステン酸ナトリウムと鉱酸の混合物、またはタングステン酸とアルカリ化合物の混合物である請求項7に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項15】
前記第四級アンモニウム塩の窒素原子に結合した置換基の炭素数の合計が6以上50以下である請求項7に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項16】
前記鉱酸が、リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、スルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸、およびホウ酸からなる群から選択される少なくとも一種である請求項7に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。
【請求項17】
前記第二の工程後反応液を有機層と水層に分離し、有機層をトルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶媒により再結晶する工程をさらに含む請求項7に記載のグリシジルエーテル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−116782(P2012−116782A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266996(P2010−266996)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「グリーン・サステナブルケミカルプロセス基盤技術開発/廃棄物、副生成物を削減できる革新的プロセス及び化学品の開発/革新的酸化プロセス基盤技術開発」に係る業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】