説明

グリセロールから1,3−プロパンジオールを高収量で生物学的に製造する方法

本発明によれば、酪酸、乳酸、ブタノールおよびエタノールからなる群から選択されるグリセロール代謝の他の生成物を実質的に生産しないクロストリジウム株を、炭素源としてグリセロールを含んでなる適切な培養培地で培養すること、および1,3−プロパンジオールを回収することによる、1,3−プロパンジオールの嫌気的製造のための方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、代謝的に操作されたクロストリジウムにより、グリセロールを1,3−プロパンジオールへ高収量で生物変換する方法を含む。
【0002】
背景技術
1,3−プロパンジオールはポリエステル繊維の生産に用いられるモノマーであり、ポリウレタンおよび環状化合物の生産に有用である可能性もある。
【0003】
1,3−プロパンジオールは、i)アクロレイン水と水素から、ii)ホスフィンの存在下でエチレンオキシド一酸化炭素と水から、また、一酸化炭素の存在下でグリセロールと水素から、という異なる化学経路によって製造することができる。これらの方法は総て、一般にコストが高く、汚染物質を含有する廃流が生成する。
【0004】
1,3−プロパンジオールは、種々のクロストリディア(Clostridia)によるグリセロールの発酵によって、酢酸/酪酸/乳酸/1,3−プロパンジオールの混合物として生産することができる。クロストリディア(Clostridia)におけるグリセロールの一般的な代謝を図1に示す。
【0005】
1つの経路では、グリセロールは二段階の酵素反応で1,3−プロパンジオールへ変換される。第一段階では、グリセロールデヒドラターゼがグリセロールから3−ヒドロキシプロピオンアルデヒド(3−HPA)と水への変換を触媒する。第二段階では、3−HPAがNADH依存性1,3−プロパンジオールデヒドロゲナーゼによって1,3−プロパンジオールへと還元される。1,3−プロパンジオールを生産するクロストリディア(Clostridia)のほとんどは、dhaB1B2B3構造遺伝子によりコードされているB12依存性グリセロールデヒドラターゼを用いるが、クロストリジウム(Clostridum)・ブチリカムはdhaB1構造遺伝子によりコードされているB12非依存性酵素を用いる。B12依存性グリセロールデヒドラターゼでは、orfXおよびorfZがグリセロールデヒドラターゼ再活性化因子をコードし、他方、唯一の既知B12非依存性酵素では、dhaB2がS−アデノシル−メチオニン(SAM)依存性活性化因子をコードする。これらの構造因子および活性化因子をコードする遺伝子の近くには1,3−プロパンジオールデヒドロゲナーゼ(dhaT)をコードする遺伝子も存在する。グリセロールからの1,3−プロパンジオール生産はNADHを消費する。
【0006】
別の経路では、グリセロールが1,3−プロパンジオールへ変換されない場合には、それは、それぞれglpkおよびglpAによりコードされているグリセロールキナーゼおよびグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼか、それぞれdhaDおよびdhaK1K2によりコードされているグリセロールデヒドロゲナーゼの後にDHAキナーゼのいずれかによってジヒドロキシアセトンリン酸(dihydrohycetone-phosphate)(DHAP)へと酸化され、NADHの生産を伴う。次に、DHAPは解糖系へ入り、鍵となる中間体であるピルビン酸とアセチル−CoAの生成を伴う。ピルビン酸とアセチル−CoAは、それぞれldh遺伝子によりコードされている乳酸デヒドロゲナーゼとadhEによりコードされている二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼによって乳酸およびエタノールへ還元される。また、アセチル−CoAは、
i)それぞれptbおよびbuk遺伝子によりコードされているホスホトランスブチリラーゼおよび酪酸キナーゼによって酪酸へ変換可能であるか、または
ii)adhEによりコードされている二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼによってブタノールへ還元可能である、
中間生成物ブチリル−CoAへの変換も可能である。
【0007】
溶媒生成性のクロストリディア(Clostridia)では、アセトンは、アセト−アセチル−CoA(ブチリル−CoA生産の中間体)から、それぞれctfABおよびadc遺伝子によりコードされているCoA−トランスフェラーゼおよびアセト酢酸デカルボキシラーゼによって生産される。水素はhydA遺伝子によりコードされている鉄単独ヒドロゲナーゼによって生産される。
【0008】
天然クロストリディア(Clostridia)も組換えクロストリディア(Clostridia)も、酪酸(酪酸塩)、乳酸(乳酸塩)、エタノールまたはブタノールなどの還元化合物が同時に生成するために、1,3−プロパンジオールの最大収量はグリセロール1g当たり0.55gである。1,3−プロパンジオール生産の収量を高めるためには、総ての還元副生成物の生産を回避し、1,3−プロパンジオールの生産を酸化副生成物へ結びつけることが必要である。
【0009】
酪酸を生産することができないクロストリジウム・アセトブチリカム株は既に文献に記載されている(Green et al., 1996)。この酪酸の形成は、非複製プラスミドとの1回の交叉によって得られるbuk遺伝子の不活性化のために劇的に低減されている。この変異株は、(Gonzalez-Pajuelo, 2005, Metabolic Engineering)に示されているように、1,3−プロパンジオールの生産に関して試験された。この組換え株は、主要な発酵生成物として1,3−プロパンジオールを効率的に生産するが、1,3−プロパンジオールの収量を低下させるブタノールも生産する。
【0010】
クロストリディア(Clostridia)によるグリセロールの1,3−プロパンジオール発酵は、バッチ培養、フェッドバッチ培養または連続培養で行うことができる。
【0011】
本発明により解決される課題は、グリセロールから1,3プロパンジオールを、酪酸、乳酸またはアルコールなどの還元化合物を同時に生成することなく、高収量で生物学的に製造することである。この製造はクロストリディア(Clostridia)による嫌気性発酵によって行われる。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは上述の課題を解決した。本発明によれば、酪酸、乳酸、ブタノールおよびエタノールからなる群から選択されるグリセロール代謝の他の生成物を実質的に生産しないクロストリジウム株を、炭素源としてグリセロールを含んでなる適切な培養培地で培養すること、および1,3−プロパンジオールを回収することによる、1,3−プロパンジオールの嫌気的製造のための方法が提供される。
【0013】
1,3−プロパンジオールは、グリセロール代謝の単一の酸化生成物とともに生産され得る。
【0014】
本発明の特定の態様では、クロストリジウム株は、グリセロールからの1,3−プロパンジオール以外の代謝産物の生産(この生合成経路はNADHまたはNADPHを消費する)を制限するように改変されたものとされる。
【0015】
本発明の一つの態様では、1,3−プロパンジオールを自然状態で生産するクロストリジウムが、
i)酪酸の生産を回避するために酪酸キナーゼをコードする遺伝子(buk)またはホスホトランスブチリラーゼをコードする遺伝子(ptb)、
ii)所望により、乳酸の生産を回避するために乳酸デヒドロゲナーゼをコードする(ldh)遺伝子の全て、
iii)所望により、アルコールの形成を回避するために二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼ(adhE)をコードする遺伝子
を削除することにより、1,3−プロパンジオールを高収量で産生するように遺伝的に改変される。
【0016】
本発明の別の態様では、自然状態で酪酸を生産するが、1,3−プロパンジオールを生産することができないクロストリジウムが、1,3−プロパンジオールを高収量で生産するように遺伝的に改変される。これは、酪酸経路に関与する酵素をコードするptbまたはbuk遺伝子を、B12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードするC.ブチリカムのオペロンで置換し、
i)所望により、乳酸の生産を回避するために乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)の全て、
ii)所望により、アルコールの生成を回避するために二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(adhE)
を削除することによって達成される。
【0017】
本発明のさらなる態様では、自然状態でエタノールを生産するが、1,3−プロパンジオールを生産することができないクロストリジウム(Clostridum)が、1,3−プロパンジオールを高収量で生産するように遺伝的に改変される。これは、エタノール経路に関与する酵素をコードするadhE遺伝子の1つをB12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードするC.ブチリカムのオペロンで置換し、
i)所望により、乳酸の生産を回避するために乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)の全て、
ii)所望により、アルコールの生成を回避するために二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする残りの遺伝子(adhE)の全て
を削除することによって達成される。
【0018】
本発明の別の態様では、ヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(hydA)を減弱することにより、水素生産のフラックスが低減され、そして、還元当量のフラックスが1,3−プロパンジオールの生産にふり向けられる。
【0019】
本発明の別の態様では、1,3−プロパンジオール生産のフラックスが、C.ブチリカム由来の1,3−プロパンジオールオペロン(B12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードする)の追加のコピーを導入することにより増強される。
【0020】
本発明の目的はまた、1,3−プロパンジオールの高収量での製造方法に有用な組換えクロストリジウム株を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本明細書に組み込まれ、その一部をなす添付図面は、本発明を具体的に例示するものであり、本明細書とともに本発明の原理を説明するものである。
【0022】
【図1】種々のクロストリディア(Clostridia)の中枢代謝を示す。1:ピルビン酸−フェレドキシンオキシドレダクターゼ;2:チオラーゼ;3:β−ヒドロキシブチリル−CoAデヒドロゲナーゼ;4:クロトナーゼ;5:ブチリル−CoAデヒドロゲナーゼ;6:乳酸デヒドロゲナーゼ;7:ホスホトランスアセチラーゼ;8:酢酸キナーゼ;9:アセトアルデヒドエタノールデスヒドロゲナーゼ;10:ヒドロゲナーゼ.;11:CoAトランスフェラーゼ(アセトアセチル−CoA:酢酸/酪酸:CoAトランスフェラーゼ);12:アセト酢酸デカルボキシラーゼ;13:ホスホトランスブチリラーゼ;14:酪酸キナーゼ;15:ブチルアルデヒド−ブタノールデヒドロゲナーゼ;16:グリセロールデヒドラターゼ;17:1,3プロパンジオールデヒドロゲナーゼ
【発明の具体的説明】
【0023】
本明細書において、特許請求の範囲および明細書の解説のために下記の用語を用いることがある。
【0024】
「クロストリジウム」または「クロストリディア」とは、この科に属するあらゆる種類の細菌を指す。
【0025】
適切な培養培地とは、具体的に用いるクロストリジウム株の増殖およびジオール生産のために最適化された培養培地を指す。
【0026】
「炭素基質」または「炭素源」とは、基質が少なくとも1つの炭素原子を含む微生物によって代謝され得る任意の炭素源を意味する。本発明において、グリセロールが単一の炭素源である。
【0027】
「微生物が改変されている」とは、その株がその遺伝的特徴を変化させることを目的に形質転換されていることを意味する。内在する遺伝子を減弱、削除または過剰発現させることができる。外来の遺伝子を導入したり、プラスミドによって運ばせたり、あるいはその株のゲノムに組み込み、細胞内で発現させたりすることができる。
【0028】
「減弱」とは、遺伝子の発現の低下、または遺伝子の産物であるタンパク質の活性の低下を指す。当業者ならばこの結果を得るための多くの手段を知っており、例えば、
・遺伝子への、この遺伝子の発現レベルまたはコードされているタンパク質の活性レベルを低下させる変異の導入
・その遺伝子の天然プロモーターの、低い発現をもたらす低強度プロモーターとの置換
・対応するメッセンジャーRNAまたはタンパク質を脱安定化する要素の使用
・発現が必要なければ、その遺伝子の欠失
がある。
【0029】
「削除されている遺伝子」とは、その遺伝子のコード配列の実質的部分が除去されていることを意味する。好ましくは、コード配列の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%が除去されている。
【0030】
本明細書において「プラスミド」または「ベクター」とは、細胞の中枢代謝の一部ではない遺伝子を、通常は環状二本鎖DNA分子の形態で運ぶことが多い染色体外要素を指す。
【0031】
本発明の説明において、酵素はそれらの特異的活性によって同定される。従って、この定義には、他の生物、より詳しくは他の微生物にも存在する定義された特異的活性を有するあらゆるポリペプチドが含まれる。多くの場合、類似の活性を有する酵素は、PFAMまたはCOGとして定義される特定のファミリーへの分類によって同定することができる。
【0032】
PFAM(protein families database of alignments and hidden Markov models; http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)は、タンパク質配列アラインメントの大きなコレクションを表す。各PFAMは複数のアライメントの表示、タンパク質ドメインの表示、生物間の分布の評価、他のデータベースへのアクセス、および既知のタンパク質構造の表示を可能とする。
【0033】
COG(clusters of orthologous groups of proteins; http://www.ncbi.nlm.nih. gov/COG/)は、30の主要な系統発生的ラインを表す43の完全に配列決定されたゲノムに由来するタンパク質配列を比較することによって得られる。各COGは少なくとも3つのラインから定義され、これによりこれらによって保存されているドメインの同定が可能となる。
【0034】
相同配列とそれらの相同%を特定する手段は当業者によく知られており、特に、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/から使用可能なBLASTプログラム(このウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターを使用)が挙げられる。次に、得られた配列を、例えば、プログラムCLUSTALW(http://www.cbi.ac.uk/clustalw/)またはMULTALIN(http://prodes.toulouse.inra.fr/multalin/cgi-bin/multalin.pl)を用いて(これらのウェブサイトに示されているデフォルトパラメーターを使用)、活用(例えば、アライメント)することができる。
【0035】
当業者ならば、既知の遺伝子に関してGenBankで得られた参照番号を用い、他の生物、細菌株、酵母、真菌、哺乳類、植物などにおいて等価な遺伝子を決定することもできる。この慣用手段は、他の微生物から得られた遺伝子との配列アライメントを行い、別の生物で対応する遺伝子をクローニングするための縮重プローブをデザインすることによって決定できるコンセンサス配列を用いて行うのが有利である。これらの分子生物学の常法は当業者によく知られており、例えば、Sambrook et al. (1989 Molecular Cloning: a Laboratory Manual. 2nd ed. Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, New York)に記載されている。
【0036】
本発明によれば、酪酸、乳酸、ブタノールおよびエタノールからなる群から選択されるグリセロール代謝の他の生成物を実質的に生産しないクロストリジウム株を、炭素源としてグリセロールを含んでなる適切な培養培地で培養すること、および1,3−プロパンジオールを回収することによる、1,3−プロパンジオールの嫌気的製造のための方法が提供される。
【0037】
「実質的に」とは、培養培地中にごく微量のグリセロールの生成物または還元物しか見られないことを意味する。微量とは、好ましくは1,3−プロパンジオールの回収方法を妨げない量、より好ましくは10mM未満の量を意味する。
【0038】
「グリセロール代謝」とは、細菌内で起こるグリセロールのあらゆる生化学的修飾を指す。これには有機の生合成(同化作用)およびそれらの分解(異化作用)が含まれる。ある代謝反応はNADH/NADPHを消費し、またある代謝反応はNADH/NADPHを生成する。クロストリジウム株におけるグリセロール代謝を図1に示す。代謝反応の中間体ならびに最終生成物を代謝産物と呼ぶ。
【0039】
本発明の方法は、グリセロール代謝が1,3−プロパンジオール生産に向けられ、クロストリジウムによって1,3−プロパンジオールとともに酪酸、乳酸、ブタノール、エタノールなどのこの代謝経路からの他の還元生成物が生産されないことを特徴とする。実際、これらの還元生成物の生産は細胞のNADH/NADPHストックを消費する。この消費を制限すれば、その還元力を1,3−プロパンジオールの生産にふり向けることができる。
【0040】
本発明の特定の実施態様では、1,3−プロパンジオールは、酢酸、アセトンまたは二酸化炭素などのグリセロール代謝の単一の酸化生成物とともに生産される。「酸化生成物」とは、細胞のNADH/NADPHストックを消費せずに産生される生成物を指す。
【0041】
有利には、本方法で用いられるクロストリジウム株は、1,3−プロパンジオールと酢酸のみを生産するものとされる。
【0042】
本発明によれば、クロストリジウム株は、その生合成経路がNADHまたはNADPHを消費する、1,3−プロパンジオール以外のグリセロール由来の代謝産物の生産を制限するように改変することができる。
【0043】
有利には、この改変は、該代謝産物の生産に関与する酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子の削除からなる。
【0044】
特に、この酵素は、酪酸、乳酸、ブタノールおよびエタノールからなる群から選択される代謝産物の生産に関与するものとされる。
【0045】
本発明の特定の実施態様では、クロストリジウムは、1,3−プロパンジオールの生合成に関与する酵素をコードする機能的内在遺伝子を含むので、自然状態で1,3−プロパンジオールを生産する。これらの遺伝子は、特に、グリセロールデヒドラターゼおよび1,3−プロパンジオールデヒドロゲナーゼである。
【0046】
この株は、ブチリル−CoAから酪酸への変換を遮断するためにホスホトランスブチリラーゼ(ptb)または酪酸キナーゼ(buk)をコードする少なくとも1つの遺伝子を削除することにより、1,3−プロパンジオールを主生成物として生産するように遺伝的に改変することができる。
【0047】
別の特定の実施態様では、クロストリジウムはまた、乳酸の生産を遮断するために乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)の全てが削除されている。
【0048】
別の特定の実施態様では、クロストリジウムはまた、アルコールの生産を遮断するために二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(adhE)の全てが削除されている。
【0049】
クロストリディア(Clostridia)における遺伝子の削除は、i)削除する遺伝子をエリスロマイシン耐性遺伝子で置換し、ii)FLPレコンビナーゼを発現させることによってそのエリスロマイシン耐性遺伝子を除去することを可能とする、最近、特許出願PCT/EP2006/066997に記載された方法を用いて行うことができる。
【0050】
有利には、クロストリジウム株はC.ブチリカム(C. butyricum)およびC.パスツリアナム(C. pasteurianum)からなる群から選択される。
【0051】
本発明の特定の実施態様では、クロストリジウム株は、1,3−プロパンジオールを生産可能なように改変されなければならない。この改変は、B−12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードする少なくとも1つの異種遺伝子の導入からなる。これらの遺伝子としては限定されるものではないが、dhaB1、dhaB2、dhaTであり得る。
【0052】
有利には、この株は、B12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードするクロストリジウム・ブチリカムのオペロンを導入することにより改変される。染色体へのオペロンの挿入は、最近、特許出願PCT/EP2006/066997に記載された方法を用いて行うことができる。
【0053】
本発明の特定の実施態様では、用いるクロストリジウム(Clostridum)株は自然状態で酪酸を生産するが、改変前には1,3−プロパンジオールを生産することができないものであり、この特定のクロストリジウムが、
ブチリル−CoAから酪酸への変換を遮断し、
この株においてグリセロールから1,3−プロパンジオールの生産を可能とする
目的で、酪酸の形成に関与する酵素、特にホスホトランスブチリラーゼ(ptb)または酪酸キナーゼ(buk)をコードする少なくとも1つの遺伝子を、B−12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードする1つの異種遺伝子で置換することによって1,3−プロパンジオールを生産するように遺伝的に改変される。染色体へのオペロンの挿入およびこれらの遺伝子の削除は、最近、特許出願PCT/EP2006/066997に記載された方法を用いて行うことができる。
【0054】
好ましくは、このクロストリジウム株において、乳酸の生産を遮断するために乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)の全てが削除されている。
【0055】
好ましくは、このクロストリジウム株において、アルコールの生産を阻害するために二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(adhE)の全てが削除されている。
【0056】
有利には、このクロストリジウム株は、C.アセトブチリカム(C. acetobutylicum)、C.ベイジェリンキ(C. beijerinckii)、C.サッカロペルブチルアセトニカム(C. saccharoperbutylacetonicum)、C.サッカロブチリカム(C. saccharobutylicum)、C.ブチリカムまたはC.セルロリチカム(C. cellulolyticum)からなる群から選択される。
【0057】
本発明の特定の実施態様では、クロストリジウム(Clostridum)は自然状態でエタノールを生産するが、改変前には1,3−プロパンジオールを生産することができないものであり、この株が、二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子(adhE)をB12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードする少なくとも1つの異種遺伝子で置換することによって1,3−プロパンジオールを生産するように遺伝的に改変される。好ましくは、この異種遺伝子はB12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードするC.ブチリカムのオペロンである。
【0058】
この置換は、
アセチル−CoAからエタノールへの変換の低下、および
グリセロールからの1,3−プロパンジオールの生産
をもたらす。
【0059】
好ましくは、このクロストリジウム株において、乳酸の生産を阻害するために乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)の全てが削除されている。
【0060】
好ましくは、このクロストリジウム株において、アルコールの生産を遮断するために二機能性アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(adhE)の全てが削除されている。
【0061】
クロストリジウム染色体へのオペロンの挿入および従前に挙げた遺伝子の削除は、最近、特許出願PCT/EP2006/066997に記載された方法を用いて行うことができる。
【0062】
有利には、このクロストリジウム株は、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・サッカロリチカム(現サーモアナエロバクター・サッカロリチカム(Thermoanaerobacter saccharolyticum))、クロストリジウム・サーモスルフロゲネス(Clostridium thermosulfurogenes)(現サーモアナエロバクター・サーモスルフリゲネス(Thermoanaerobacter thermosulfurigenes))またはクロストリジウム・サーモヒドロスルフリカム(Thermoanaerobacter thermohydrosulfuricum)(現サーモアナエロバクター・エタノリカス(Thermoanaerobacter ethanolicus))からなる群から選択される。
【0063】
本発明の特定の実施態様では、クロストリジウム株において、水素生産のフラックスが低減され、その結果、還元当量のフラックスが1,3−プロパンジオール生産にふり向けられる。これは、種々の手段、特に、水素生産の形での還元当量のシンクを提供する酵素であるヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(hydA)を減弱することにより行うことができる。hydAの減弱は、天然プロモーターを低強度プロモーターで置換するか、または対応するメッセンジャーRNAもしくはタンパク質を脱安定化する要素を用いることによって行うことができる。必要であれば、対応するDNA配列の部分的または完全な削除によって、遺伝子の完全な減弱を行うこともできる。
【0064】
本発明の別の実施態様では、使用するクロストリジウム株は、1,3−プロパンジオール生産のフラックスの増強をもたらし、これは、C.ブチリカム由来の1,3−プロパンジオールオペロン(B12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードする)の追加のコピーを導入するか、プラスミドにより過剰発現させるか、または組換えクロストリジウムの染色体に組み込むことによって達成される。1,3−プロパンジオールオペロンの過剰発現のためには、例えば、pSPD5プラスミドを使用することができる。
【0065】
本発明の別の態様において、クロストリジウム株は、酢酸からアセトンへの変換が可能なように改変される。この改変は、それぞれチオラーゼ、CoA−トランスフェラーゼおよびアセト酢酸デカルボキシラーゼ(これらの酵素はC.アセトブチリカムおよびC.ベイジェリンキにおけるアセトンの形成に関与する)をコードするthl、ctfABおよびadc遺伝子を含む人工「アセトンオペロン」を微生物に導入することによって得ることができる。この人工オペロンはプラスミドに運ばせることもできるし、あるいは形質転換されたクロストリジウムの染色体に組み込むこともできる。
【0066】
別の実施態様では、本発明により、
(a)発酵工程として、クロストリジウム株をグリセロールと接触させ、それにより1,3−プロパンジオールを生産すること、
(b)1,3−プロパンジオールおよび所望によりグリセロール代謝の単一の酸化生成物を、蒸留によって単離すること
を含んでなる、1,3−プロパンジオールを高収量で発酵製造する方法が提供される。この発酵は一般に、少なくともグリセロールおよび必要であれば代謝産物の生産に必要な補助基質を含有する、用いる細菌に適合した既知の定義された組成の無機培養培地の入った発酵槽で行われる。
【0067】
この方法はバッチ法ならびに連続法で実現可能である。当業者ならば、これらの各実験条件をどのように管理すればよいか、また、本発明の微生物のための培養条件をどのように定義すればよいかが分かる。特に、クロストリディア(Clostridia)は20℃〜60℃、好ましくは、中温性クロストリディア(Clostridia)では25℃〜40℃、好熱性クロストリディア(Clostridia)では45〜60℃で発酵させる。
【0068】
本発明はまた、上記に記載されたような微生物に関する。好ましくは、この微生物は、C.ブチリカム、C.パスツリアナム、C.アセトブチリカム、C.ベイジェリンキ、C.サッカロペルブチルアセトニカム、C.サッカロブチリカム、C.ブチリカム、C.セルロリチカム、クロストリジウム・サーモセラム、クロストリジウム・サッカロリチカム(現サーモアナエロバクター・サッカロリチカム)、クロストリジウム・サーモスルフロゲネス(現サーモアナエロバクター・サーモスルフリゲネス)またはクロストリジウム・サーモヒドロスルフリカム(現サーモアナエロバクター・エタノリカス)からなる群から選択される。
【実施例】
【0069】
実施例1
1,3−プロパンジオールを生産するが、酪酸およびブタノールを生産することができない組換えクロストリジウム・アセトブチリカム:C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac1515ΔuppΔbuk::PDOの構築
遺伝的に操作可能であり、ブタノールおよびアセトンを生産することができない株を得るために、本発明者らはまず、i)グルコースMS培地で20回の継代培養を行い、寒天プレート(Sabathe et al (2003)が記載しているようにデンプン(2%)およびグルコース(0.2%)を含有する)上でデンプン加水分解の小さなハローを生じるクローンを選択してC.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac1515Δupp株を同定することで、C.アセトブチリカムΔcac1515Δupp株(特許出願PCT/EP2006/066997に記載)からpSOL1メガプラスミドを救済した。buk遺伝子を削除し、C.ブチリカム由来の1,3−プロパンジオールオペロンを導入するために、Croux & Soucaille (2006)が特許出願PCT/EP2006/066997に記載している相同組換え戦略を用いる。pCons::uppベクターにおいてC.ブチリカム由来の1,3−プロパンジオールを組み込むbuk削除カセットは次のようにして構築した。
【0070】
buk前後の2つのDNA断片を、鋳型としてのC.アセトブチリカム由来の全DNAと2つの特異的オリゴヌクレオチド対とともにPwoポリメラーゼを用いてPCR増幅した。プライマー対BUK 1−BUK 21とBUK 31−BUK 4を用い、2つのDNA断片をそれぞれ得た。両プライマーBUK 1およびBUK 4はBamHI部位を導入し、プライマーBUK 21およびBUK 31はpvuII部位およびNruI部位を導入する相補的領域を有する。DNA断片BUK 1−BUK 21とBUK 31−BUK 4を、プライマーBUK 1およびBUK 4を用いたPCR融合実験で連結し、得られた断片をpCR4−TOPO−Bluntにクローニングし、pTOPO:bukを得た。pTOPO:bukのユニークなnruI部位に、pUC18−FRT−MLS2の1372bpのStuI断片から、両側にFRT配列を有する抗生物質耐性MLS遺伝子を導入した。得られたプラスミドのBamHI消化の後に得られたBUK削除カセットをpCons::uppのBamHI部位にクローニングして、pREPΔBUK::uppプラスミドを得た。pREPΔBUK::uppのユニークなpvuII部位に、1,3−プロパンジオールオペロンを、pSPD5プラスミドの、4854bpの平滑末端クレノウ処理したSalI断片として導入した。
【0071】
このpREPΔBUK::PDO::uppプラスミドを用い、エレクトロポレーションにより、C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac15Δupp株を形質転換した。ペトリプレート上でエリスロマイシン(40μg/ml)耐性クローンを選択した後、1つのコロニーを、エリスロマイシン40μg/mlを含むグリセロール液体合成培地で24時間培養し、100μlの非希釈培養物をエリスロマイシン40μg/mlと5−FU 400μMを含むRCGA(炭素源としてデンプンおよびグルコースがグリセロールで置換された強化クロストリジウム培地(Reinforced Clostridium medium where starch and glucose are replaced by glycerol as a carbon source))上にプレーティングした。エリスロマイシンと5−FUの双方に耐性のあるコロニーを、エリスロマイシン40μg/mlを含むRCAとチアムフェニコール50μg/mlを含むRCAの双方にレプリカプレーティングし、5−FU耐性にチアムフェニコール感受性も伴っているクローンを選択した。エリスロマイシン耐性で、チアムフェニコール感受性であるクローンの遺伝子型をPCR分析(buk削除カセットの外側に位置するプライマーBUK 0およびBUK 5を使用)により確認した。pREPΔbuk::uppが欠失したΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDO::mls株を単離した。
【0072】
ΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDO::mlsを、S.セレビシエ(S. cerevisiae)由来のFlpレコンビナーをコードするFlp1遺伝子を発現するpCLF1.1ベクターで形質転換した。形質転換し、ペトリプレート上でチアムフェニコール(50μg/ml)耐性に関して選択した後、1つのコロニーを、チアムフェニコール50μg/mlを含む合成液体培地で培養し、適当な希釈物をチアムフェニコール50μg/mlを含むRCA上にプレーティングした。チアムフェニコール耐性クローンを、エリスロマイシン40μg/mlを含むRCAとチアムフェニコール50μg/mlを含むRCAの双方にレプリカプレーティングした。エリスロマイシン感受性で、チアムフェニコール耐性であるクローンの遺伝子型を、プライマーBUK 0とBUK 5を用いたPCR分析により確認した。pCLF1.1を消失させるため、エリスロマイシン感受性で、チアムフェニコール耐性であるΔcac15ΔuppΔbuk株の2連続の24時間培養を行った。pCLF1.1を消失したΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDO株を、エリスロマイシンとチアムフェニコールの双方に対するその感受性に従って単離した。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例2
酪酸、アセトンおよび乳酸を生産することができない株:C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac1515ΔuppΔbuk::PDOΔldhの構築
ldh遺伝子を削除するために、Croux & Soucaille (2006)が特許出願PCT/EP2006/066997に記載している相同組換え戦略を用いる。この戦略によって、関連する遺伝子の大部分が削除されるとともにエリスロマイシン耐性カセットの挿入が可能となる。pCons::uppにおけるldh削除カセットは次のようにして構築した。
【0075】
ldh(CAC267)前後の2つのDNA断片を、鋳型としてのC.アセトブチリカム由来の全DNAと2つの特異的オリゴヌクレオチド対とともにPwoポリメラーゼを用いてPCR増幅した。プライマー対LDH 1−LDH 2とLDH 3−LDH 4を用い、1135bpと1177bpのDNA断片をそれぞれ得た。両プライマーLDH 1およびLDH 4はBamHI部位を導入し、プライマーLDH 2およびLDH 3はStuI部位を導入する相補的領域を有する。DNA断片LDH 1−LDH 2とLDH 3−LDH 4を、プライマーLDH 1およびLDH 4を用いたPCR融合実験で連結し、得られた断片をpCR4−TOPO−Bluntにクローニングし、pTOPO:LDHを得た。pTOPO:LDHのユニークなStuI部位に、pUC18−FRT−MLS2の1372bpのStuI断片から、両側にFRT配列を有する抗生物質耐性MLS遺伝子を導入した。得られたプラスミドのBamHI消化の後に得られたUPP削除カセットをpCons::uppのBamHI部位にクローニングして、pREPΔLDH::uppプラスミドを得た。
【0076】
このpREPΔLDH::uppプラスミドを用い、エレクトロポレーションにより、C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDO株を形質転換した。ペトリプレート(RCGA)上でエリスロマイシン(40μg/ml)耐性クローンを選択した後、1つのコロニーを、エリスロマイシン40μg/mlを含む液体グリセロール合成培地で24時間培養し、100μlの非希釈培養物をエリスロマイシン40μg/mlと5−FU 400μMを含むRCGA上にプレーティングした。エリスロマイシンと5−FUの双方に耐性のあるコロニーを、エリスロマイシン40μg/mlを含むRGCAとチアムフェニコール50μg/mlを含むRGCAの双方にレプリカプレーティングし、5−FU耐性にチアムフェニコール感受性も伴っているクローンを選択した。エリスロマイシン耐性で、チアムフェニコール感受性であるクローンの遺伝子型をPCR分析(ldh削除カセットの外側に位置するプライマーLDH 0およびLDH 5を使用)により確認した。pREPΔLDH::uppが欠失したΔΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldh::mls株を単離した。
【0077】
ΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldh::mls株を、S.セレビシエ由来のFlpレコンビナーをコードするFlp1遺伝子を発現するpCLF1.1ベクターで形質転換した。形質転換し、ペトリプレート上でチアムフェニコール(50μg/ml)耐性に関して選択した後、1つのコロニーを、チアムフェニコール50μg/mlを含む合成液体培地で培養し、適当な希釈物をチアムフェニコール50μg/mlを含むRCA上にプレーティングした。チアムフェニコール耐性クローンを、エリスロマイシン40μg/mlを含むRCAとチアムフェニコール50μg/mlを含むRCAの双方にレプリカプレーティングした。エリスロマイシン感受性で、チアムフェニコール耐性であるクローンの遺伝子型を、プライマーLDH 0とLDH 5を用いたPCR分析により確認した。pCLF1.1を消失させるため、エリスロマイシン感受性で、チアムフェニコール耐性であるΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldh株の2連続の24時間培養を行った。pCLF1.1を消失したΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldh株を、エリスロマイシンとチアムフェニコールの双方に対するその感受性に従って単離した。
【0078】
【表2】

【0079】
実施例3
低水素生産株:C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac1515ΔuppΔbuk::PDOΔldhΔhydAの構築
hydA遺伝子を削除するために、Croux & Soucaille (2006)が特許出願PCT/EP2006/066997に記載している相同組換え戦略を用いる。この戦略によって、関連する遺伝子の大部分が削除されるとともにエリスロマイシン耐性カセットの挿入が可能となる。pCons::uppにおけるhydA削除カセットは次のようにして構築した。
【0080】
hydA(CAC028)前後の2つのDNA断片を、鋳型としてのC.アセトブチリカム由来の全DNAと2つの特異的オリゴヌクレオチド対とともにPwoポリメラーゼを用いてPCR増幅した。プライマー対HYD 1−HYD 2とHYD 3−HYD 4を用い、1269bpと1317bpのDNA断片をそれぞれ得た。両プライマーHYD 1およびHYD 4はBamHI部位を導入し、プライマーHYD 2およびHYD 3はStuI部位を導入する相補的領域を有する。DNA断片HYD 1−HYD 2とHYD 3−HYD 4を、プライマーHYD 1およびHYD 4を用いたPCR融合実験で連結し、得られた断片をpCR4−TOPO−Bluntにクローニングし、pTOPO:HYDを得た。pTOPO:HYDのユニークなStuI部位に、pUC18−FRT−MLS2の1372bpのStuI断片から、両側にFRT配列を有する抗生物質耐性MLS遺伝子を導入した。得られたプラスミドのBamHI消化の後に得られたUPP削除カセットをpCons::uppのBamHI部位にクローニングして、pREPΔHYD::uppプラスミドを得た。
【0081】
このpREPΔHYD::uppプラスミドを用い、エレクトロポレーションにより、C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDO株を形質転換した。ペトリプレート(RCGA)上でエリスロマイシン(40μg/ml)耐性クローンを選択した後、1つのコロニーを、エリスロマイシン40μg/mlを含むグリセロール液体合成培地で24時間培養し、100μlの非希釈培養物をエリスロマイシン40μg/mlと5−FU 400μMを含むRCA上にプレーティングした。エリスロマイシンと5−FUの双方に耐性のあるコロニーを、エリスロマイシン40μg/mlを含むRGCAとチアムフェニコール50μg/mlを含むRCAの双方にレプリカプレーティングし、5−FU耐性にチアムフェニコール感受性も伴っているクローンを選択した。エリスロマイシン耐性で、チアムフェニコール感受性であるクローンの遺伝子型をPCR分析(hydA削除カセットの外側に位置するプライマーHYD 0およびHYD 5を使用)により確認した。pREPΔHYD::uppが欠失したΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldhΔhydA::mls株を単離した。
【0082】
ΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldhΔhydA::mlsを、S.セレビシエ由来のFlpレコンビナーをコードするFlp1遺伝子を発現するpCLF1.1ベクターで形質転換した。形質転換し、ペトリプレート上でチアムフェニコール(50μg/ml)耐性に関して選択した後、1つのコロニーを、チアムフェニコール50μg/mlを含む合成液体培地で培養し、適当な希釈物をチアムフェニコール50μg/mlを含むRCA上にプレーティングした。チアムフェニコール耐性クローンを、エリスロマイシン40μg/mlを含むRCAとチアムフェニコール50μg/mlを含むRCAの双方にレプリカプレーティングした。エリスロマイシン感受性で、チアムフェニコール耐性であるクローンの遺伝子型を、プライマーHYD 0とHYD 5を用いたPCR分析により確認した。pCLF1.1を消失させるため、エリスロマイシン感受性で、チアムフェニコール耐性であるΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldhΔhydA株の2連続の24時間培養を行った。pCLF1.1を消失したΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldhΔhydA株を、エリスロマイシンとチアムフェニコールの双方に対するその感受性に従って単離した。
【0083】
【表3】

【0084】
実施例4
1,3−プロパンジオール経路のフラックスが増強された株:C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac1515ΔuppΔbuk::PDOΔldh pSPD5の構築
より高いフラックスでグリセロールを1,3−プロパンジオールと酢酸へ変換する株を構築するために、本発明者らはオペロンとしてC.ブチリカム由来のB12非依存性1,3−プロパンジオール経路を発現するpSPD5プラスミド(特許出願WO01/04324に記載)を導入する。このpSPD5プラスミドを用い、エレクトロポレーションにより、C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk:PDOΔldh株を形質転換した。ペトリプレート(RCGA)上でエリスロマイシン(40μg/ml)に耐性のあるクローンを選択した後、1つのコロニーを、エリスロマイシン40μg/mlを含むグリセロール液体合成培地で24時間培養し、pSPD5プラスミドの抽出に用い、その制限プロフィールにより特性決定した。
【0085】
実施例5
1,3−プロパンジオールとアセトンを生産する株:C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac1515ΔuppΔbuk::PDOΔldh pSOS95thlの構築
酢酸をアセトンへ変換する株を構築するために、合成アセトンオペロンを発現するpSOS 95 thlプラスミドを構築した。この目的で、チオラーゼをコードするthl遺伝子(C.アセトブチリカム由来)を、合成オペロンとしてctfAB遺伝子とadc遺伝子を既に発現するpSOS95ベクター(genbank受託番号AY187686)のBamHI部位に導入した。このthl遺伝子を、鋳型としてのC.アセトブチリカム由来の全DNAと2つの特異的オリゴヌクレオチド対とともにPwoポリメラーゼを用いてPCR増幅した。プライマー対THL 1−THL 2を用い、1.2kbpのDNA断片を得、BamHIおよびBglIIで消化し、それぞれプライマーTHL 1およびTHL 2によって2つの制限部位が導入された。BamhIで消化したpSOS95と連結した後、pSOS95−thlプラスミドを得た。
【0086】
このpSOS95−thlプラスミドを用い、エレクトロポレーションにより、C.アセトブチリカムΔpSOL1Δcac15ΔuppΔbuk::PDOΔldh株を形質転換した。ペトリプレート(RCGA)上でエリスロマイシン(40μg/ml)に耐性のあるクローンを選択した後、1つのコロニーをエリスロマイシン40μg/mlを含むグリセロール液体合成培地で24時間培養し、pSOS95−thlプラスミドの抽出に用い、その制限プロフィールにより特性決定した。
【0087】
【表4】

【0088】
実施例6
1,3−プロパンジオール生産株のバッチ発酵
株をまず、嫌気性フラスコ培養のSoni et al (Soni et al, 1986, Appl. Microbiol. Biotechnol. 32:120-128)が記載している合成培地に2.5g/lの酢酸アンモニウムを添加し、グルコースをグリセロールに置き換えたものにて分析した。35℃での一晩培養物を用い、30ml培養物をOD600が0.05となるまで接種した。培養物を35℃で3日間インキュベートした後、グリセロール、有機酸および1,3−プロパンジオールを、分離にBiorad HPX 97Hカラム、検出に屈折計を用い、HPLCにより分析した。
【0089】
次に、適当な表現型を有する株を、嫌気性バッチプロトコールを用い、300mlの発酵槽(DASGIP)での生産条件下で試験した。
【0090】
この目的で、発酵槽に250mlの合成培地を満たし、窒素で30分スパージし、25mlの前培地物を0.05〜0.1の間の光学密度(OD600nm)まで接種した。
【0091】
培養温度は35℃に一定維持し、pHはNHOH溶液を用い、常に5.5に調節した。発酵中、振盪速度は300rpmで維持した。
【0092】
実施例7
1,3−プロパンジオールおよび酢酸生産株の連続発酵
【0093】
最良の1,3−プロパンジオールおよび酢酸生産株を、グルコースをグリセロールに置き換えたこと以外はSoni et al (Soni et al, 1987, Appl. Microbiol. Biotechnol.)が記載している合成培地中のケモスタット培養にて分析した。35℃での一晩培養物を用い、嫌気性ケモスタットプロトコールを用いて、300mlの発酵槽(DASGIP)に接種した。
【0094】
この目的で、発酵槽に250mlの合成培地を満たし、窒素で30分スパージし、25mlの前培地物を0.05〜0.1の間の光学密度(OD600nm)まで接種した。35℃、pH5.5(NHOH溶液を用いて調節)および振盪速度300rpmで12時間のバッチ培養の後、発酵培地を連続的に除去することにより容量を維持しつつ、希釈率0.05h−1で酸素不含合成培地を発酵槽に連続的に供給した。培養の安定性を、これまでに記載されているHPLCプロトコールを用いた生成物分析によって追跡した。
【0095】
参照文献
Gonzalez-Pajuelo M, Meynial-Salles I, Mendes F, Andrade JC, Vasconcelos I, Soucaille P.
Metabolic engineering of Clostridium acetobutylicum for the industrial production of 1,3-propanediol from glycerol.
Metab Eng. 2005,;7:329-36..
Green EM, Boynton ZL, Harris LM, Rudolph FB, Papoutsakis ET, Bennett GN.
Genetic manipulation of acid formation pathways by gene inactivation in Clostridium acetobutylicum ATCC 824.
Microbiology. 1996,142 :2079-86.
Soni B. K., Soucaille P. Goma G.
Continuous acetone butanol fermentation : influence of vitamins on the metabolic activity of Clostridium acetobutylicum.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 1987. 27 : 1-5.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−プロパンジオールの嫌気的製造のための方法であって、
酪酸、乳酸、ブタノールおよびエタノールからなる群から選択されるグリセロール代謝の他の生成物を実質的に生産しないクロストリジウム株を、炭素源としてグリセロールを含んでなる適切な培養培地で培養すること、および1,3−プロパンジオールを回収することによる、方法。
【請求項2】
1,3−プロパンジオールがグリセロール代謝の単一の酸化生成物とともに生産される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グリセロール代謝の単一の酸化生成物が、酢酸、アセトンまたは二酸化炭素からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
クロストリジウム株が、グリセロールから1,3−プロパンジオールと酢酸のみを生産するものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
クロストリジウム株が、グリセロールからの1,3−プロパンジオール以外の代謝産物の生産(この生合成経路はNADHまたはNADPHを消費する)を制限するように改変されたものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記代謝産物の生産に関与する酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子が削除されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子が、酪酸、乳酸、ブタノールおよびエタノールからなる群から選択される代謝産物の生産に関与する酵素をコードするものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
クロストリジウム株が、1,3−プロパンジオールの生産のための機能的内因性遺伝子を含むものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
クロストリジウムが、酪酸の形成に関与する下記:
・ホスホトランスブチリラーゼをコードするptb
・酪酸キナーゼをコードするbuk
から選択される少なくとも1つの遺伝子を与えるものであり、それが削除されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
乳酸デヒドロゲナーゼをコードする全てのldh遺伝子が削除されている、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする全てのadhE遺伝子が削除されている、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
クロストリジウム株がC.ブチリカムおよびC.パスツリアナムからなる群から選択される、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
クロストリジウム株が、B−12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードする少なくとも1つの異種遺伝子を導入することによって、1,3−プロパンジオールを生産するように改変されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記株が、B12非依存性1,3−プロパンジオール経路に関与する酵素をコードするクロストリジウム・ブチリカムのオペロンを導入することによって改変されている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
改変前のクロストリジウム株が酪酸を生産することができるものであり、酪酸の形成に関与する酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子を置換するために少なくとも1つの前記異種遺伝子が導入される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
酪酸の形成に関与する酵素をコードする遺伝子が、
・ホスホトランスブチリラーゼをコードするptb
・酪酸キナーゼをコードするbuk
から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
乳酸デヒドロゲナーゼをコードする全てのldh遺伝子が削除されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする全てのadhE遺伝子が削除されている、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
クロストリジウム株が、C.アセトブチリカム、C.ベイジェリンキ、C.サッカロペルブチルアセトニカム、C.サッカロブチリカム、C.ブチリカムまたはC.セルロリチカムからなる群から選択される、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
改変前のクロストリジウム株がエタノールを生産することができるものであり、エタノールの形成に関与する酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子を置換するために少なくとも1つの前記異種遺伝子が導入される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項21】
エタノールの形成に関与する酵素をコードする遺伝子が、アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードするadhE遺伝子から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
乳酸デヒドロゲナーゼをコードする全てのldh遺伝子が削除されている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
アルデヒド−アルコールデヒドロゲナーゼをコードする残りの全てのadhE遺伝子が削除されている、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
クロストリジウム株が、クロストリジウム・サーモセラム、クロストリジウム・サッカロリチカム(現サーモアナエロバクター・サッカロリチカム)、クロストリジウム・サーモスルフロゲネス(現サーモアナエロバクター・サーモスルフリゲネス)またはクロストリジウム・サーモヒドロスルフリカム(現サーモアナエロバクター・エタノリカス)からなる群から選択される、請求項20〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
水素フラックスが低減され、その還元力が1,3プロパンジオールの生産にふり向けられる、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
hydA遺伝子が減弱されている、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
微生物が、酢酸をアセトンへ変換するように改変されている、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
アセトンの形成に関与する酵素をコードする遺伝子が外因性であり、クロストリジウム株に導入されている、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
・1,3プロパンジオールを生産する微生物を発酵させる工程、
・1,3プロパンジオールおよび所望によりグリセロール代謝の単一の酸化生成物を、蒸留により単離する工程
を含んでなる、請求項1〜25のいずれか一項に記載の1,3プロパンジオールの発酵製造のための方法。
【請求項30】
培養が連続的である、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
培養がバッチでなされる、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜28のいずれか一項において定義されている、微生物。

【図1】
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【公表番号】特表2010−508013(P2010−508013A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533669(P2009−533669)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067987
【国際公開番号】WO2008/052595
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(505311917)メタボリック エクスプローラー (26)
【Fターム(参考)】