説明

グリセロールの脱水によるアクロレインの製造方法

【課題】グリセロールの脱水によるアクロレインの製造方法。
【解決手段】本発明は分子酸素の存在下でグリセロールを脱水してアクロレインを製造する。この反応は固体触媒の存在下で液相または気相で行われる。酸素の添加で触媒が非活性化され、副生成物の生成が抑制され、高いグリセロール変換率を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子酸素の存在下でグリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクロレインは最も単純な不飽和アルデヒドである。アクロレインは2−プロペナール、アクリルアルデヒドまたはアクリルアルデヒドとしても知られる。アクロレインはその構造物から強い反応性を示し、その2つの反応性官能基は別々または一緒に反応して高い反応力を示す。そのためアクロレインは多くの用途、特に合成中間体として使用されている。特に、アクロレインはメチオニンの合成にとって特に重要な中間体で、このメチオニンはフィッシュミールの代用品としての地位を確立している動物飼料補給剤として用いられる合成蛋白質である。アクロレインは気相でプロピレンを触媒酸化してアクリル酸を工業生産する際にアクリル酸を単離しないで得られる合成中間体である。アクリル酸およびその誘導体の化学における重要性はよく知られている。また、アクロレインをメチルビニルエーテルと反応させ、加水分解してグルタルアルデヒドにされる。このグルタルアルデヒドには多くの用途、例えば革なめし剤、石油採掘や切削油を用いた加工時の殺生剤、診療器具の化学的消毒剤、滅菌剤としての用途がある。
【0003】
通常、アクロレインは製造メーカーから顧客へのアクロレインの輸送を最短にするために、製造現場で合成される誘導体の合成中間体として用いられる。輸送を最短にする主たる理由はアクロレインには毒性があり、工業的にはこの化学製品の貯蔵および輸送を避けている。
【0004】
最も一般的に用いられているアクロレイン製造法は大気酸素を用いてプロピレンを気相触媒酸化する反応をベースにしたものである。得られたアクロレインはアクリル酸製造プロセスに直接加えることができる。アクロレインをメチオニン合成やファインケミストリー反応の出発材料として用いる場合には反応副成物(主として酸化炭素、アクリル酸、酢酸およびアセトアルデヒド)を精製部で除去する。
【0005】
従って、アクロレイン製造は出発材料のプロピレンに大きく依存し、このプロピレンは石油留分のスチーム分解または接触分解で得られる。しかし、化石由来のこの出発材料は温室効果を増大させる。従って、資源としてプロピレンに依存せずに、好ましくは再生可能な別の出発材料を用いてアクロレインを合成する方法が必要と思われる。そうした方法はメチオニン合成に特に有利であり、「バイオマスから得られた」といえる。特に、動物飼料中に用いたメチオニンは急速に代謝され、二酸化炭素として大気中に放出され、温室効果を増大させる。アクロレインを再生可能な出発材料、例えば植物油から得た場合には、バイオマスの成長で使用する二酸化炭素で上記CO2排出が補償されるので、上記CO2排出はプロセス収支に入らなくなり、温室効果の増大はない。この方法は持続可能な開発というグローバルな時代の新しい概念である「環境に優しい化学」の基準を満たしている。
【0006】
グリセロールからアクロレインを製造することは古くから知られている。グリセロール(グリセリンともよばれる)は植物油のメタノリシス(methanolysis)でメチルエステルと同時に得られる。メチルエステル自体は特にディーゼルオイルまたは家庭用燃料油で燃料または可燃物として用いられている。天然物は「環境に優しい」イメージを有し、多量に入手可能で、しかも、容易に貯蔵、輸送できる。グリセロールの経済的な改良は純度に応じた種々の研究が行われており、グリセロールの脱水によるアクロレインの製造法もその一つである。
【0007】
グリセロールからアクロレインを得る反応は下記である:
CH2OH−CHOH−CH2OH −> CH2=CH−CHO+2H2
【0008】
一般に、水和反応は低温が良く、脱水反応は高温が良い。従って、アクロレインを得るためには、反応をシフトするのに十分な温度および/または分圧を用いる必要がある。反応は液相または気相で行うことができる。この種の反応が酸で触媒されることは公知である。
【0009】
下記文献にはグリセロール蒸気を十分に高い温度で少なくとも3種の酸官能基を有する酸の塩、例えばフォスフェート中を通してアクロレインを得ている。
【特許文献1】フランス国特許第695,931号公報
【0010】
分別蒸留後の収率は75%以上である。下記文献では脱水反応を芳香族溶剤中に懸濁したフォスフェートで含浸した珪藻土の存在下で気/液相で行う。
【特許文献2】米国特許第2,558,520号明細書
【0011】
この条件下で得られるグリセロールのアクロレインへの変換率は72.3%である。下記文献に記載の方法はCO/H2雰囲気下、20/40barの圧力でスルホラン水溶液のような溶剤の存在下での複雑な均一系触媒作用を用いている。
【特許文献3】国際特許出願第99/05085号公報
【0012】
下記文献の対象はグリセロールから3−ヒドロキシプロパンアルデヒドを製造する方法である。
【特許文献4】中国特許出願第1,394,839号
【0013】
反応中間体として製造されるアクロレインは硫酸カリウムまたは硫酸マグネシウム型の触媒に、気化された純粋なグリセロールを通して得られる。反応収率は記載がない。
下記文献には、ハメットの酸度によって定義された酸性固体触媒上で、液相または気相で、グリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法が記載されている。
【特許文献5】米国特許第5,387,720号明細書
【0014】
この触媒のハメット酸度(Hammett acidity) H0は+2以下でなければならず、好ましくは−3以下である。この触媒は例えば天然または合成のシリカ質材料、例えばモルデン沸石、モンモリロナイト、酸性ゼオライト;モノ、ジ、トリ酸性無機酸で被覆された担体、例えば酸化物またはシリカ質材料、例えばアルミナ(Al23)、酸化チタン(TiO2);酸化物または混合酸化物、例えばγ−アルミナ、混合酸化物ZnO−Al23、またはヘテロポリ酸に対応する。この特許では10〜40%のグリセロールを含む水溶液を用い、上記方法は液相では180〜340℃、気相では250〜340℃の温度で行う。上記特許の著者によれば気相反応が好ましく、グリセロールの変換率は100%に近く、副生成物を含むアクロレイン水溶液が作られる。約10%のグリセロールはヒドロキシプロパノンに変換され、このヒドロキシプロパノンはアクロレイン溶液中に主たる副生成物として存在する。このアクロレインは分別凝縮または蒸留で回収、精製される。液相反応では選択率が過度に低下しないようにするために変換率を15〜25%に制限するのが望ましい。
下記文献に記載の方法でも上記と同じ気相方法でグリセロールを脱水してアクロレインを得るが、得られたアクロレインを水和および水素添加して1,2−および1,3−プロパンジオールを作る。
【特許文献6】米国特許第5,426,249号明細書
【0015】
従って、グリセロールのアクロレインへの脱水反応では一般に副反応が伴い、ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテルなどの副生成物、さらには、触媒上のコークス生成の原因であるフェノールおよび芳香族ポリ化合物のような副生成物も生成する。その結果、アクロレインの収率およびアクロレインの選択率が低下し、触媒が非活性化する。アクロレイン中の副生成物、例えばヒドロキシプロパンまたはプロパンアルデヒド(これらのうちのいくつかはまた単離が困難である)の存在によって、分離および精製段階が必要となり、精製アクロレインを得るために高い回収コストがかかる。さらに、十分な触媒活性を回復するためには極めて定期的に触媒を再生する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者は、上記の問題を解決する研究中に、グリセロールのアクロレインへの脱水反応中に分子酸素を用いることで多くの利点があることを見出した。
驚くべきことに、酸素を供給することでフェノールのような芳香族化合物の生成が防止され、脱水生成物の水素添加で生じる副生成物、例えばプロパンアルデヒドおよびアセトンや、ヒドロキシプロパンからの副生成物の生成が減少するということを見出した。さらに、触媒上へのコークスの生成が減少し、その結果、触媒の非活性化が抑制され、触媒の再生頻度が減る。ある種の副生成物の量は著しく少なくなり、従って、次の精製段階が容易になる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の対象は、分子酸素の存在下でグリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法にある。この分子酵素は空気の形か、分子酸素を含む気体混合物の形で存在できる。分子酸素の量はプラント中の全ての場所が燃焼範囲外となるような量を選択する。下記文献の[図4]から、完全に燃焼範囲外にするためのアクロレイン/O2/N2混合物中の最大酸素含有率は約7容量%である。
【特許文献7】米国特許出願第2004/15012号明細書
【0018】
一般に、本発明方法での酸素含有率は反応に入る気体混合物(グリセロール/H2O/酸素/不活性気体の混合物)の7容積%を超えないように選択する。酸素含有率は反応器を出る乾燥気体混合物(アクロレイン/酸素/不活性気体の混合物)の7容積%以下であるのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
脱水反応は酸性固体触媒上で行われる。適切な触媒は均質または多相材料で、これらの均質または多相材料は反応媒体に不溶で、ハメット酸度(H0)が+2以下である。ハメットの酸度は化学指示薬を用いるアミン滴定によってまたは気相中の塩基の吸着で測定される。これは下記文献で言及している特許文献5(米国特許第5,387,720号明細書)に記載されている。
【非特許文献1】K.Tanabe達、「表面化学研究と触媒」、第51巻、1989年、第1章、2章
【0020】
この触媒は+2以下の酸度基準H0を満足する天然または合成のシリカ質材料または酸性ゼオライト;モノ、ジ、トリまたはポリ酸性無機酸で被覆された無機物担体、例えば、酸化物;酸化物または混合酸化物、またはヘテロポリ酸の中から選択できる。
【0021】
触媒はゼオライト、ナフィオン(Nafion、登録商標)複合材料(フッ素化ポリマースルホン酸ベース)、塩素化アルミナ、燐タングステンおよび/またはシリカタングステン酸および酸の塩並びにボレートBO3、スルフェートSO4、タングステートWO3、フォスフェートPO4、シリケートSiO2またはモリブデートMoO3のような酸基を含浸した酸化タンタルTa25、酸化ニオブNb25、アルミナAl23、酸化チタンTiO2、ジルコニアZrO2、酸化スズSnO2、シリカSiO2またはアルミノケイ(珪)酸SiO2−Al23のような金属酸化物型の各種固体の中から選択するのが有利である。文献データによればこれらの触媒は全てハメットの酸度H0が+2以下である。
【0022】
触媒は硫酸ジルコニア、燐酸ジルコニア、タングステンジルコニア、シリカ質ジルコニア、硫酸チタンまたは酸化錫および燐酸アルミナまたはシリカであるのが好ましい。
これらの触媒は全てハメット酸度H0が+2以下である。この酸度H0はハメットインジケータを用いた参照スケールでの値−20まで広範囲で変えることができる。酸−ベースの触媒に関する下記文献の第71頁の表には上記酸度範囲の固体触媒の例が示されている。
【非特許文献2】ISBN番号2-7108-0841-2(C.Marcilly、第1巻、Technip発行)
【0023】
反応媒体に導入する分子酸素の比率は用いる触媒の種類、その酸度およびそのコークス生成能力によって変えることができる。
【0024】
本発明の反応は気相または液相、好ましくは気相で行うことができる。反応を気相で行うときには種々の製造技術すなわち固定床プロセス、流動床プロセスまたは循環流動床プロセスを用いることができる。後者の2つのプロセスでは触媒の再生を固定床または流動床で反応と分けて行うことができる。触媒の再生は例えば製造現場で触媒を取り出し、空気中または分子酸素を含む気体混合物中で燃焼して行うことができる。この場合は、再生温度および圧力を反応温度および圧力と同じにする必要はない。
【0025】
本発明方法では反応器内に少量の分子酸素または分子酸素を含む気体が存在するため、触媒の再生は反応と同時に製造現場で連続して行なわれる。この場合、再生は非活性化の抑制とも言え、反応温度および圧力で行われる。
【0026】
循環流動床プロセスでは触媒を2つの容器すなわち反応器と再生器とを循環させる。脱水反応は吸熱反応であるため第1容器にはエネルギーを供給する必要がある。一方、コークスの燃焼から成る再生は発熱反応であるため熱を第2容器からは熱を除去しなければならない。循環流動床プロセスではこれら2つの系は互いに補償し合う。すなわち、本発明方法では酸素流下での燃焼による触媒再生で触媒は加熱され、この加熱された触媒を反応器に戻し、脱水反応に必要なエネルギーを供給する。各容器内の滞留時間は触媒の非活性化速度と、触媒上に生成するコークスの量に依存する。特に、固体を正確な温度にするためには最小限の量のコークスが存在するのが望ましく、また、燃焼中の焼結による固体の分解を避けるには最大限の量のコークスが必要にある。
【0027】
種々の基準に応じた最適プロセスを選択する。固定床プロセスは単純であるという利点がある。流動床プロセスは製造を停止せずに使用済み触媒を連続的に排出して常に未使用の触媒を再導入でき、等温で運転できるという利点がある。循環流動床プロセスは新規に再生した触媒を常に反応器に戻すと同時に反応器と再生器との間のエネルギー交換を補償して反応選択性を最適化できるという利点がある。
【0028】
本発明の一実施例では、本発明方法はプレート熱交換器型の反応器で行われる。この反応器は複数の平板で構成され、プレートの間に形成される循環チャネルに触媒を入れることができる。この技術は熱交換能力の点で高い熱交換が行える点で多くの利点がある。すなわち、この反応器は発熱反応では熱を容易に除去でき、また、反応開始時または吸熱反応では熱を供給するのに適している。この反応器では触媒を加熱も冷却もできる。熱交換は系中に熱交換流体を循環することで特に効率的に行える。プレートはモジュールを組み立ててでき、反応器の寸法、メンテナンスまたは触媒交換に関して融通性が大きい。本発明方法に適合可能なシステムは例えば下記文献に記載の反応器で、これら特許の内容は本明細書の一部を成す。
【特許文献8】欧州特許第995,491号公報
【特許文献9】欧州特許第1,147,807号公報
【0029】
これらの反応器は反応媒体、特に本発明で用いるような気体反応媒体の触媒変換に特に適している。下記文献に記載のC3またはC4先駆体の触媒酸化の(メタ)アクロレインまたは(メタ)アクリル酸の製造で用いられる平板熱交換器も本発明の対象であるグリセロールの脱水によるアクロレインの製造にも適している。
【特許文献10】米国特許第2005/0020851号明細書
【0030】
グリセロールの脱水は固体触媒上での液相反応のための標準反応器や触媒蒸留型の反応器内で液相で行うこともできる。グリセロール(280℃)とアクロレイン(53℃)の沸点の差が大きいため、製造されたアクロレインの連続蒸留を可能にするかなり低温の液相プロセスを考えることもできる。反応が常にシフトするので、平衡移動する連続反応器内でのアクロレイン上の連続反応が制限される。
【0031】
気相反応の実験条件は250〜350℃の温度および1〜5barの圧力であるのが好ましい。液相では反応は150〜350℃の温度および3〜70barの圧力で行うのが好ましい。低温になるとグリセロールの変換度が低下するが、アクロレイン選択率は高くなることが観察される。連続反応および望ましくない生成物の生成を避けるためには反応器内での滞留時間を制限することが重要である。さらに、滞留時間を増やすことで変換率を高くすることもできる。低い反応温度を用いた時には変換度の低下を補償するために触媒の領域内の成分の接触時間(滞留時間)を長くするのが特に望ましい。
【0032】
グリセロールは水溶液の形で安価に入手可能である。10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%の濃度のグリセロール水溶液を反応器で用いるのが有利である。グリセロールエーテルの生成または製造したアクロレインとグリセロールとの反応のような疑似反応を避けるために、濃度は過度に高くなり過ぎないようにする。さらに、グリセロール水溶液の蒸発に伴うエネルギーコストの理由でグリセロール溶液は過度に稀釈してはならない。いずれの場合も、反応で生成する水を再利用することによってグリセロール溶液の濃度を調節できる。グリセロールの輸送および貯蔵コストを下げるために、40〜100重量%の濃縮液を反応器に供給することができる。最適含有量への稀釈は反応で生じた蒸気および稀釈水の一部を再利用することによって行う。同様に、反応器出口での熱の回収によっても、反応器に供給されるグリセロール溶液を気化することができる。
【0033】
塩基性媒体中の植物油のメタノリシスで得られるグリセロールはある種の不純物、例えば塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウム、非グリセロール有機物およびメタノールを含むことがある。ナトリウム塩の存在は酸サイトを汚染する危険があり、特に接触脱水反応の毒になるので、イオン交換によるグリセロールの前処理が可能である。
【0034】
従来のプロピレンの選択的酸化によるアクロレインの製造法と比較して、本発明方法で製造されたアクロレインは種々の種類または種々の量の不純物を含むことがある。このアクロレインは用途や、アクリル酸合成、メチオニン合成またはファインケミストリー反応に応じて当業者に周知の方法で精製できる。特に、副生成物を回収、灰化して蒸気またはエネルギーを生成することができる。本発明プロセスはグリセロール脱水反応の副生成物のエネルギー向上によって、化石炭素を用いた従来プロセス(副生成物の灰化中に生成CO2が生じる)と比べて、温室効果ガスの放出を大幅に低減することができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
実施例では、長さ85cm、内径が6mmの管から成る管型反応器を用いて大気圧の気相でグリセロール脱水反応を行う。この反応器を300℃の反応温度に維持された加熱室中に配置する。用いる触媒は粉砕および/またはペレット化して0.5〜1.0mmの粒子を得る。10mlの触媒を反応器に充填して長さが35cmの触媒床を形成する。この触媒床を5〜10分間、反応温度に維持した後、成分を導入する。本実施例では反応器に20重量%のグリセロールを含む水溶液を12ml/時の平均供給流量で供給し、分子酸素を0.8l/時の流量で供給する。この場合のO2/気化グリセロール/蒸気相の相対比は6/4.5/89.5である。グリセロール水溶液は加熱室で気化させて触媒に通す。計算された接触時間は約2.9秒である。触媒試験の時間は約7時間であり、これは約80mlのグリセロール水溶液が触媒を通ることに相当する。反応後、砕いた氷で冷却したトラップ中で生成物を凝縮する。
【0036】
排出液のサンプルを定期的に採取する。サンプル採取の度に、流れを止めて緩やかな窒素流を反応器に通してパージする。次いで、反応器出口のトラップを替え、窒素流を止めて反応器に成分の流れを戻す。試験は触媒の相当の非活性化が見られるまで続ける。
【0037】
各実験毎に入ってくるものと出ていくものとの全質量を測定する。それよって物質収支を基塗ることができる。同様に、生成物をクロマトグラフィで分析する。2種類の分析を行う:
(1)TCD検出器を備えたCarlo Erbaクロマトグラフ上の充填カラム(FFAPカラム 2m×1/8’’)でのクロマトグラフィによる分析。定量分析は外部標準(2−ブタノン)で行う。
(2)FID検出器を備えたHP6890クロマトグラフ上の毛管カラム(FFAPカラム 50m×0.25mm)でのクロマトグラフィによる分析。
【0038】
第1の方法は生成物を迅速に分析するのに敵し、特にアクロレインの収率の分析に適している。第2の方法は全ての反応副生成物の詳細分析に用いられる。さらに、シリル化後にGC−MSまたはクロマトグラフィ分析で、これらの結果を確認した。
【0039】
こうして定量化された生成物は未反応グリセロール、生成アクロレイン、ヒドロキシプロパン、アセトアルデヒド、プロパンアルデヒド、アセトンおよびフェノール等の副生成物である。
以下の実施例では、グリセロール変換率、アクロレイン選択率および各種生成物の収率を下記のように定義する:
グリセロール変換率(%)=100−残留グリセロールのモル数/導入グリセロールのモル数
アクロレイン収率(%)=生成アクロレインのモル数/導入グリセロールのモル数
アクロレイン選択率(%)=100×生成アクロレインのモル数/反応グリセロールのモル数。
【0040】
アクロレイン収率用にアセトンまたはヒドロキシプロパンの収率を計算する:
アセトアルデヒド収率(%)=2/3×生成アセトアルデヒドのモル数/導入グリセロールのモル数
フェノール収率(%)=2×生成フェノールのモル数/導入グリセロールのモル数。
全ての結果は導入したグリセロールに対するmolパーセンテージで表される。
【0041】
実施例1(比較例と本発明)
用いた触媒はゼオライトHZSM5(Zeocat PZ−2/54H 15% Aerosil-Ueticon)である。10ml(質量6.41g)を反応器に充填する。結果は[表1]に示してある。
【0042】
【表1】

【0043】
分子酸素の添加で触媒の非活性化と副生成物の生成の抑制ができ、グリセロール変換率およびアクロレイン収率を維持できることが分かる。
【0044】
実施例2(本発明による)
実施例2では下記の2種類の触媒(10ml)を試験した:
Daiichi Kigensoから入手した硫酸ジルコニア(90%ZrO2−10%SO4)(供給者番号H1416)
Daiichi Kigensoから入手したタングステンジルコニア(90.7%ZrO2−9.3%WO3)(供給者番号H1417)。
第1触媒は1000℃での強熱減量が8.81%で、比表面積が54.3m2/g(BET、1ポイント)である。第2触媒は1000℃での強熱減量が1.75%で、比表面積が47.4m2/g(BET、1ポイント)である。
結果は[表2]に示してある。
【0045】
【表2】

【0046】
分子酸素の存在下でヒドロキシプロパンおよびフェノールの生成が完全に抑制されることが分かる。
【0047】
実施例3(比較例、本発明)
ValforのゼオライトHベータ(CP 811BL−25)10ml(質量4.23g)を反応器に充填した。この実施例で用いる分子酸素の流量は0.34l/時である。結果は[表3]に示してある。
【0048】
【表3】

【0049】
分子酸素の添加でグリセロール変換率およびアクロレイン収率が維持でき、副生成物の生成が減少する。
実施例4(比較例、本発明)
Daiichi Kigensoから入手した燐酸ジルコニア(91.5%ZrO2−8.5%PO4)(参照番号H1418)を用いた。この触媒は1000℃での強熱減量が4.23%で、比表面積が128.7m2/gである。この触媒10ml(質量12.7g)を反応器に充填した。結果は[表4]に示してある。
【0050】
【表4】

【0051】
実施例5(従来法の比較例)
特許文献5(米国特許第5,387,720号明細書)に記載の方法で製造したH3PO4/α−アルミナ触媒10ml(質量10g)を反応器に充填した。この触媒は下記方法で製造した:
Ceramtecから入手したα−アルミナ(参照番号EO−19、比表面積0.7m2/g、平均孔径2.5μm、見掛け気孔率65%、リングの形で供給され、粉砕して粒径が1〜1.4mmの粒子のみを保持)15.9gを4gの20重量%燐酸溶液(16.25mlの水と、5gの85重量%燐酸を添加して製造)で含浸した。この固体を次いで80℃のrotavaporで乾燥し、直ぐに用いた。結果は[表5]に示してある。
【0052】
【表5】

【0053】
実施例6(従来法の比較例)
10mlのH3PO4/α−アルミナ触媒(質量8.55g)を反応器に充填した。触媒は実施例5と同じ方法で製造したが、80℃で乾燥後、固体を300℃の空気中で3時間活性化し、燐酸を担体に固定した。結果は[表6]に示してある。
【0054】
【表6】

【0055】
これらの2つの比較例5、6では触媒が急速に非活性化することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント中の全ての場所が燃焼範囲外となるように選択された量の分子酸素の存在下でグリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法。
【請求項2】
分子酸素が空気か、分子酸素を含む気体混合物の形をしている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グリセロールが水溶液の形をしており、この水溶液の反応器内での濃度が10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ハメット酸度(Hammett acidity) H0が+2以下である酸性固体触媒を用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
触媒が天然または合成のシリカ質材料または酸性ゼオライト、無機物担体、例えばモノ−、ジ−、トリ−またはポリ−酸性(acidic)無機酸で被覆された酸化物、酸化物または混合酸化物またはヘテロポリ酸の中から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
触媒がゼオライト、ナフィオン(Nafion、登録商標)複合材料(フッ素化ポリマースルホン酸ベース)、塩素化アルミナ、ホスホタングステンおよび/またはシリカタングステン酸および酸塩並びに酸性の基、例えばボレートBO3、スルフェートSO4、タングステートWO3、フォスフェートPO4、シリケートSiO2、または、モリブデートMoO3で含浸した金属酸化物、例えば酸化タンタルTa25、酸化ニオブNb25、アルミナAl23、酸化チタンTiO2、ジルコニアZrO2、酸化スズSnO2、シリカSiO2またはシリコアルミネートSiO2−Al23型の各種固体の中から選択される請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
触媒が硫酸ジルコニア、燐酸ジルコニア、タングステンジルコニア、シリカ質ジルコニア、硫酸チタンまたは酸化錫および燐酸アルミナまたはシリカの中から選択される請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
脱水反応を気相で行う請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応を固定床反応器、流動床反応器または循環流動床反応器で行う請求項8に記載の方法。
【請求項10】
プレート熱交換器で行う請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
脱水反応を液相で行う請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−530150(P2008−530150A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555481(P2007−555481)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000735
【国際公開番号】WO2006/087083
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】