説明

グリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法

【課題】グリセロールの脱水によるアクロレインの製造方法。
【解決手段】ハメット酸度H0が−9〜−18、好ましくは−10〜−16の強酸性固体触媒の存在下でグリセロールを気相で脱水してアクロレインを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセロールの気相脱水によるアクロレインの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクロレインは最も単純な不飽和アルデヒドであり、2−プロペナール、アクリルアルデヒドまたはアクリルアルデヒドともよばれる。アクロレインはその構造から強い反応性を有し、その2つの反応性官能基は別々または一緒に反応して高い反応力を示す。そのためアクロレインは多くの用途、特に合成中間体として使用されている。特に、アクロレインはフィッシュミールの代用品としての地位を確立している動物飼料補給剤として用いられる合成蛋白質であるメチオニン合成の重要な中間体である。アクロレインはプロピレンを気相触媒酸化してアクリル酸を工業的に生産する際のアクリル酸の未単離合成中間体である。アクリル酸およびその誘導体の重要性はよく知られている。また、アクロレインをメチルビニルエーテルと反応させ、加水分解するとグルタルアルデヒドになる。このグルタルアルデヒドにも多くの用途、例えば革なめし剤、石油採掘や切削油を用いた切削加工時の殺生剤、診療器具の化学的消毒剤、滅菌剤としての用途がある。
【0003】
製造メーカから顧客へのアクロレインの輸送を最短にするために、通常、アクロレインは製造現場で合成される誘導体の合成中間体として用いられる。輸送を最短にする主たる理由はアクロレインには毒性があり、工業的にはこの化学製品の貯蔵および輸送を避けているためである。
【0004】
最も一般的に用いられているアクロレインの製造法は大気酸素を用いてプロピレンを気相触媒酸化する反応をベースにしたものである。この方法で得られたアクロレインはアクリル酸製造プロセスに直接加えることができる。アクロレインをメチオニン合成やファインケミカルの反応の出発材料として用いる場合には反応副成物(主として酸化炭素、アクリル酸、酢酸およびアセトアルデヒド)を精製部で除去する。
【0005】
従って、アクロレイン製造は石油留分のスチーム分解または接触分解で得られる出発材料のプロピレンに大きく依存する。しかし、化石由来のこの出発材料は温室効果を増大させるため、プロピレンに依存せずに、好ましくは再生可能な別の出発材料を資源として用いてアクロレインを合成する方法が必要と思われる。そうした方法はメチオニン合成に特に有利であり、「バイオマスから得られた」といえる。特に、動物飼料中に用いるメチオニンは急速に代謝され、二酸化炭素として大気中に放出され、温室効果を増大させる。しかし、アクロレインを再生可能な出発材料、例えば植物油から得た場合には、バイオマスの成長で使用する二酸化炭素によって上記CO2の排出量が補償されるので、上記のCO2排出量はプロセス収支に入らなくなり、温室効果の増大はない。この方法は持続可能な開発というグローバル時代の新しい概念である「環境に優しい化学」の基準を満たしている。
【0006】
グリセロールからアクロレインを製造することは古くから知られている。グリセロール(グリセリンともよばれる)は植物油のメタノリシス(methanolysis)でメチルエステルと同時に得られる。メチルエステル自体は特にディーゼルオイルまたは家庭用燃料油で燃料または可燃物として用いられる。天然物は「環境に優しい」イメージを有し、多量に入手可能で、しかも、容易に貯蔵、輸送できる。グリセロールの経済的な改良は純度に応じた種々の研究が行われており、グリセロールの脱水によるアクロレインの製造法もその一つである。
【0007】
グリセロールからアクロレインを得る反応は下記である:
CH2OH−CHOH−CH2OH −> CH2=CH−CHO+2H2
【0008】
一般に、水和反応は低温が良く、脱水反応は高温が良い。従って、アクロレインを得るためには、反応をシフトするのに十分な温度および/または分圧を用いる必要がある。反応は液相または気相で行うことができる。この種の反応が酸で触媒されることは公知である。
【0009】
下記文献にはグリセロール蒸気を十分に高い温度で少なくとも3種類の酸官能基を有する酸の塩、例えばフォスフェート中を通してアクロレインを得ている。
【特許文献1】フランス国特許第695,931号公報
【0010】
分別蒸留後の収率は75%以上である。下記文献では脱水反応を芳香族溶剤中に懸濁したフォスフェートで含浸した珪藻土の存在下で気/液相で行う。
【特許文献2】米国特許第2,558,520号明細書
【0011】
この条件下で得られるグリセロールのアクロレインへの変換率は72.3%である。下記文献に記載の方法はCO/H2雰囲気下、20/40barの圧力でスルホラン水溶液のような溶剤の存在下での複雑な均一系触媒作用を用いている。
【特許文献3】国際特許出願第99/05085号公報
【0012】
下記文献の対象はグリセロールから3−ヒドロキシプロパンアルデヒドを製造する方法である。
【特許文献4】中国特許出願第1,394,839号
【0013】
反応中間体として製造されるアクロレインは硫酸カリウムまたは硫酸マグネシウム型の触媒に、気化された純粋なグリセロールを通して得られる。反応収率は記載がない。
下記文献には、ハメットの酸度によって定義された酸性固体触媒上で、液相または気相で、グリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法が記載されている。
【特許文献5】米国特許第5,387,720号明細書
【0014】
この触媒のハメット酸度(Hammett acidity) H0は+2以下でなければならず、好ましくは−3以下である。この触媒は例えば天然または合成のシリカ質材料、例えばモルデン沸石、モンモリロナイト、酸性ゼオライト;モノ、ジ、トリ酸性無機酸で被覆された担体、例えば酸化物またはシリカ質材料、例えばアルミナ(Al23)、酸化チタン(TiO2);酸化物または混合酸化物、例えばγ−アルミナ、混合酸化物ZnO−Al23、またはヘテロポリ酸に対応する。この特許では10〜40%のグリセロールを含む水溶液を用い、上記方法は液相では180〜340℃、気相では250〜340℃の温度で行う。上記特許の著者によれば気相反応が好ましく、グリセロールの変換率は100%に近く、副生成物を含むアクロレイン水溶液が作られる。約10%のグリセロールはヒドロキシプロパノンに変換され、このヒドロキシプロパノンはアクロレイン溶液中に主たる副生成物として存在する。このアクロレインは分別凝縮または蒸留で回収、精製される。液相反応では選択率が過度に低下しないようにするために変換率を15〜25%に制限するのが望ましい。気相反応の場合には、ハメット酸度H0が+2〜−8、好ましくは−3〜−5.6の触媒が用いるのに最も有利な触媒である。一方、液相反応は、ハメット酸度H0が−8.2〜−20の触媒を用いて行うのが好ましい。
下記文献に記載の方法でも上記と同じ気相方法でグリセロールを脱水してアクロレインを得るが、得られたアクロレインを水和および水素添加して1,2−および1,3−プロパンジオールを作る。
【特許文献6】米国特許第5,426,249号明細書
【0015】
従って、グリセロールのアクロレインへの脱水反応では一般に副反応が伴い、ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテルなどの副生成物、さらには、触媒上のコークス生成の原因であるフェノールおよび芳香族ポリ化合物のような副生成物も生成する。その結果、アクロレインの収率およびアクロレインの選択率が低下し、触媒が非活性化する。アクロレイン中の副生成物、例えばヒドロキシプロパノンまたはプロパンアルデヒド(これらのいくつかは単離が困難でもある)の存在によって、分離および精製段階が必要となり、精製アクロレインを得るために高い回収コストがかかる。さらに、十分な触媒活性を回復するためには極めて定期的に触媒を再生する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者は、驚くことに、ハメット酸度H0が−9〜−18の特定の酸性固体はグリセロールの気相脱水反応において特許文献5(米国特許第5,387,720号明細書)に記載の活性の低い固体よりも高い触媒活性を有するということを見出した。本発明の触媒は活性に優れ、非活性化が緩慢であり、製造サイクルを長くでき、反応器の容量を小さくすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の対象は、ハメット酸度が−9〜−18、好ましくは−10〜−16である強酸性固体触媒の存在下でグリセロールを気相脱水してアクロレインを製造する方法にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
ハメット酸度は指示薬を用いたアミン滴定か、気相での塩基吸着で測定される。これに関しては特許文献5(米国特許第5,387,720号明細書)に記載の下記文献で説明されている。
【非特許文献1】K.Tanabe達、「表面化学研究と触媒」、第51巻、1989年、第1章、2章
【0019】
−9〜−18の酸度基準H0を満足する触媒は天然または合成のシリカ質材料または酸性ゼオライト;モノ、ジ、トリまたはポリ酸性無機酸で被覆された無機物担体、例えば、酸化物;酸化物または混合酸化物またはヘテロポリ酸の中から選択できる。
【0020】
上記触媒はゼオライト、ナフィオン(Nafion、登録商標)複合材料(フッ素化ポリマースルホン酸ベース)、塩素化アルミナ、燐タングステン酸および/またはシリカタングステン酸およびこれらの酸の塩、ボレートBO3、スルフェートSO4、タングステートWO3、フォスフェートPO4、シリケートSiO2またはモリブデートMoO3のような酸基を含浸した酸化タンタルTa25、酸化ニオブNb25、アルミナAl23、酸化チタンTiO2、ジルコニアZrO2、酸化スズSnO2、シリカSiO2またはアルミノ珪酸SiO2−Al23のような金属酸化物型の各種固体の中から選択するのが有利である。
【0021】
触媒は硫酸ジルコニア、燐酸ジルコニア、タングステン酸ジルコニア、シリカ質ジルコニア、硫酸チタンまたは酸化錫および燐酸アルミナまたはシリカであるのが好ましい。反応は分子酸素の存在下で行うことができる。この分子酵素は空気の形か、分子酸素を含む気体混合物の形で存在できる。分子酸素の量はプラント中の全ての場所が燃焼範囲外となるような量を選択する。下記文献の[図4]から、完全に燃焼範囲外にするために、アクロレイン/O2/N2混合物中の最大酸素含有率を約7容積%にする。
【特許文献7】米国特許出願第2004/15012号明細書
【0022】
一般に、本発明方法での酸素含有率は反応に入る気体混合物(グリセロール/H2O/酸素/不活性気体の混合物)の7容積%を超えないように選択する。酸素含有率は反応器を出る乾燥気体混合物(アクロレイン/酸素/不活性気体の混合物)の7容積%以下であるのが好ましい。
【0023】
本発明の反応は気相で行われる。種々の製造技術を用いることができ、これらは当業者に周知である。すなわち固定床プロセス、流動床プロセスまたは循環流動床プロセスである。
【0024】
種々の基準に応じた最適プロセスを選択する。固定床プロセスは単純であるという利点がある。流動床プロセスは製造を停止せずに使用済み触媒を連続的に排出して常に未使用の触媒を再導入でき、等温で運転できるという利点がある。循環流動床プロセスは新規に再生した触媒を常に反応器に戻すと同時に反応器と再生器との間のエネルギー交換を補償して反応選択性を最適化できるという利点がある。触媒の再生は酸素、水素またはその他の処理、例えば溶剤による洗浄および/またはH22による処理によって行うことができる。
【0025】
本発明の一実施例では、本発明方法はプレート熱交換器型の反応器で行われる。この反応器は複数のプレートで構成され、プレートの間に形成される循環チャネルに触媒を入れることができる。この技術は熱交換能力の点で高い熱交換が行える点で多くの利点がある。すなわち、この反応器は発熱反応では熱を容易に除去でき、また、反応開始時または吸熱反応では熱を供給するのに適している。この反応器では触媒を加熱も冷却もできる。熱交換は系中に熱交換流体を循環することで特に効率的に行える。プレートはモジュールを組み立ててでき、反応器の寸法、メンテナンスまたは触媒交換に関して融通性が大きい。本発明方法に適合可能なシステムは例えば下記文献に記載の反応器で、これら特許の内容は本明細書の一部を成す。
【特許文献8】欧州特許第995,491号公報
【特許文献9】欧州特許第1,147,807号公報
【0026】
これらの反応器は反応媒体、特に本発明で用いるような気体反応媒体の触媒変換に特に適している。下記文献に記載のC3またはC4先駆体の触媒酸化の(メタ)アクロレインまたは(メタ)アクリル酸の製造で用いられるプレート熱交換器は本発明の対象であるグリセロールの脱水によるアクロレインの製造にも適している。
【特許文献10】米国特許第2005/0020851号明細書
【0027】
反応の実験条件は250〜350℃の温度および1〜5barの圧力であるのが好ましい。低温になるとグリセロールの変換度が低下するが、アクロレイン選択率は高くなることが観察される。連続反応および望ましくない生成物の生成を避けるためには反応器内での滞留時間を制限することが重要である。さらに、滞留時間を増やすことで変換率を高くすることもできる。低い反応温度を用いた時には変換度の低下を補償するために触媒の領域内での成分の接触時間(滞留時間)を長くするのが特に望ましい。
【0028】
グリセロールは水溶液の形で安価に入手可能である。10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%の濃度のグリセロール水溶液を反応器で用いるのが有利である。グリセロールエーテルの生成または製造したアクロレインとグリセロールとの反応等の疑似反応を避けるために、濃度は過度に高くなり過ぎないようにする。さらに、グリセロール水溶液の蒸発に伴うエネルギーコストの理由でグリセロール溶液は過度に稀釈してはならない。いずれの場合も、反応で生成する水を再利用することによってグリセロール溶液の濃度を調節できる。グリセロールの輸送および貯蔵コストを下げるために、40〜100重量%のグリセロール濃縮液を反応器に供給することができる。最適含有量への稀釈は反応で生じた蒸気および稀釈水の一部を再利用することによって行う。同様に、反応器出口での熱の回収によっても、反応器に供給されるグリセロール溶液を気化することができる。
【0029】
塩基性媒体中での植物油のメタノリシスで得られるグリセロールはある種の不純物、例えば塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウム、非グリセロール有機物およびメタノールを含むことがある。ナトリウム塩の存在は酸サイトを汚染する危険があり、特に接触脱水反応の毒になるので、イオン交換によるグリセロールの前処理が可能である。
【0030】
従来のプロピレンの選択的酸化によるアクロレインの製造法と比較して、本発明方法で製造されたアクロレインは種々の種類または種々の量の不純物を含むことがある。このアクロレインは用途や、アクリル酸合成、メチオニン合成またはファイン化学の反応に応じて当業者に周知の方法で精製できる。特に、副生成物を回収、灰化して蒸気またはエネルギーを生成することができる。本発明プロセスはグリセロール脱水反応の副生成物のエネルギー向上によって、化石炭素を用いた従来プロセス(副生成物の灰化中に生成CO2が生じる)と比べて、温室効果ガスの放出を大幅に低減することができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例では、長さ85cm、内径が6mmの管から成る管型反応器を用いて大気圧の気相中でグリセロール脱水反応を行う。反応器を300℃の反応温度に維持された加熱室中に配置する。用いる触媒は粉砕および/またはペレット化して0.5〜1.0mmの粒子にする。10mlの触媒を反応器に充填して長さが35cmの触媒床を形成する。この触媒床を5〜10分間、反応温度に維持した後、成分を導入する。本実施例では反応器に20重量%のグリセロールを含む水溶液を12ml/時の平均供給流量で供給する。グリセロール水溶液は加熱室で気化して触媒に通す。計算された接触時間は約2.9秒である。触媒試験の時間は約7時間であり、これは約80mlのグリセロール水溶液が触媒を通ることに相当する。反応後、砕いた氷で冷却したトラップ中で生成物を凝縮する。
【0032】
排出液のサンプルを定期的に採取する。サンプル採取の度に、流れを止めて緩やかな窒素流を反応器に通してパージする。次いで、反応器出口のトラップを替え、窒素流を止めて反応器に成分の流れを戻す。試験は触媒に明らかな非活性化が見られるまで続ける。
【0033】
各実験毎に入ってくる質量と出ていく質量の全質量を測定する。それによって物質収支を決めることができる。同様に、生成物をクロマトグラフィで分析する。2種類の分析を行う:
(1)TCD検出器を備えたCarlo Erbaクロマトグラフ上の充填カラム(FFAPカラム 2m×1/8’’)でのクロマトグラフィによる分析。定量分析は外部標準(2−ブタノン)で行う。
(2)−15℃で貯蔵された上記と同じサンプルを用いたFID検出器を備えたHP6890クロマトグラフ上の毛管カラム(FFAPカラム 50m×0.25mm)でのクロマトグラフィによる分析。
【0034】
第1の方法は生成物を迅速に分析するのに適し、特にアクロレインの収率の分析に適している。第2の方法は全ての反応副生成物の詳細分析に用いられる。さらに、シリル化後にGC−MSまたはクロマトグラフィ分析で、これらの結果を確認した。
【0035】
こうして定量化された生成物は未反応グリセロール、生成アクロレイン、ヒドロキシプロパノン、アセトアルデヒド、プロパンアルデヒド、アセトンおよびフェノール等の副生成物である。
【0036】
以下の実施例では、グリセロール変換率、アクロレイン選択率および各種生成物の収率を下記のように定義する:
グリセロール変換率(%)=100−残留グリセロールのモル数/導入グリセロールのモル数
アクロレイン収率(%)=生成アクロレインのモル数/導入グリセロールのモル数
アクロレイン選択率(%)=100×生成アクロレインのモル数/反応グリセロールのモル数。
【0037】
アクロレイン収率用にアセトンまたはヒドロキシプロパノンの収率を計算する:
アセトアルデヒド収率(%)=2/3×生成アセトアルデヒドのモル数/導入グリセロールのモル数
フェノール収率(%)=2×生成フェノールのモル数/導入グリセロールのモル数。
全ての結果は導入したグリセロールに対するmolパーセンテージで表される。
【0038】
実施例1、1a(比較例、従来法)
特許文献5(米国特許第5,387,720号明細書)に記載の方法で製造したハメット酸度H0が−3〜−5.6のH3PO4/α−アルミナ触媒10ml(質量10g)を反応器に充填した。この触媒は下記方法で製造した:
Ceramtecから入手したα−アルミナ(参照番号EO−19、比表面積0.7m2/g、平均孔径2.5μm、見掛け気孔率65%、リングの形で供給され、粉砕して粒径が1〜1.4mmの粒子のみを保持)15.9gを4gの20重量%燐酸溶液(16.25mlの水と、5gの85重量%燐酸を添加して製造)で含浸した。次いで、この固体を80℃のrotavaporで乾燥し、直ぐに用いた。実施例1aではこの固体を300℃の空気中でさらに3時間活性化し、燐酸を担体に固定した。結果は[表1]に示してある。
【0039】
【表1】

【0040】
触媒が急速に非活性化することが分かる。
【0041】
実施例2
Daiichi Kigensoから入手した硫酸ジルコニア(90%ZrO2−10%SO4)(供給者番号H1416)を触媒として用いた。この触媒は1000℃での強熱減量が8.81%で、比表面積が54.3m2/g(BET、1ポイント)である。酸度H0は酸−ベースの触媒に関する下記文献の第71頁の表から−16である。
【非特許文献2】ISBN番号2-7108-0841-2(C.Marcilly、第1巻、Technip発行)
【0042】
10ml(質量16.5g)の触媒を反応器に充填した。
結果は[表2]に示してある。
【0043】
【表2】

【0044】
この型の触媒は実施例1ほど急速に非活性化しない。
【0045】
実施例3、3a
下記文献に記載の方法で製造した40%Nafion/SiO2複合材料10ml(質量4.77g)を反応器に充填した。この型の触媒は酸度H0が商品情報から約−12である。結果は[表3]に示してある。
【非特許文献3】Holderich and Harmer, Green Chemistry 2000,2,pp.7-14
【0046】
【表3】

【0047】
上記と同じ触媒を今度は反応温度を300℃ではなく280℃にして試験した。結果は[表4]に示してある。
【0048】
【表4】

【0049】
この型の触媒は活性および選択性があり、実施例1ほど急速に非活性化しない。
【0050】
実施例4
Daiichi Kigensoから入手した燐酸ジルコニア(91.5%ZrO2−8.5%PO4)(参照番号H1418)を用いた。この触媒は1000℃での強熱減量が4.23%で、比表面積が128.7m2/gである。この触媒10ml(質量12.7g)を反応器に充填した。結果は[表5]に示してある。
【0051】
【表5】

【0052】
実施例5
Daiichi Kigensoから入手したタングステンジルコニア(90.7%ZrO2−9.3%WO3)(供給者番号H1417)を用いる。この触媒は1000℃での強熱減量が1.75%で、比表面積が47.4m2/g(BET、1ポイント)である。酸度H0は酸−ベースの触媒に関する非特許文献2〔ISBN番号2-7108-0841-2(C.Marcilly、第1巻、Technip発行)〕の第71頁の表から−14.5である。
10ml(質量17g)の触媒を反応器に充填した。結果は[表6]に示してある。
【0053】
【表6】

【0054】
この触媒は実施例1の触媒の性能よりもはるかに優れた高い収率を維持する。
【0055】
実施例6
実施例2に記載のDaiichi Kigensoから入手した硫酸ジルコニア(H1416)10ml(質量16.5g)を反応器に充填した。本実施例では反応を分子酸素の存在下に0.8l/時の流量で行う。結果は[表7]に示してある。
【0056】
【表7】

【0057】
分子酸素の添加で副生成物の生成の抑制ができ、より高い収率を達成できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハメット酸度H0が−9〜−18である強酸性固体触媒の存在下でグリセロールを気相脱水してアクロレインを製造する方法。
【請求項2】
触媒のハメット酸度H0が−10〜−16である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒が天然または合成のシリカ質材料または酸性ゼオライト、無機物担体、例えばモノ−、ジ−、トリ−またはポリ−酸性(acidic)無機酸で被覆された酸化物、酸化物または混合酸化物またはヘテロポリ酸の中から選択される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
触媒がゼオライト、ナフィオン(Nafion、登録商標)複合材料(フッ素化ポリマースルホン酸ベース)、塩素化アルミナ、ホスホタングステン酸および/またはシリカタングステン酸およびその酸塩、酸性の基、例えばボレートBO3、スルフェートSO4、タングステートWO3、フォスフェートPO4、シリケートSiO2またはモリブデートMoO3を含浸した金属酸化物、例えば酸化タンタルTa25、酸化ニオブNb25、アルミナAl23、酸化チタンTiO2、ジルコニアZrO2、酸化スズSnO2、シリカSiO2またはシリコアルミネートSiO2−Al23型の金属酸化物の各種固体の中から選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
触媒が硫酸ジルコニア、燐酸ジルコニア、タングステンジルコニア、シリカ質ジルコニア、硫酸チタンまたは酸化錫の中から選択される請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
グリセロールが水溶液の形をしており、この水溶液の反応器内での濃度が10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
プラント中の全ての場所が燃焼範囲外となるように選択された量の分子酸素の存在下で反応を行う請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分子酸素が空気か、分子酸素を含む気体混合物の形をしている請求項7に記載の方法。
【請求項9】
反応を固定床反応器、流動床反応器、循環流動床反応器またはプレート熱交換器で行う請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−530151(P2008−530151A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555482(P2007−555482)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000736
【国際公開番号】WO2006/087084
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】