説明

グリース塗布装置

【課題】余剰のグリースが発生しない又は発生したとしても微量で済ませることができるグリース塗布装置を提供する。
【解決手段】円筒部材16の内周面17にグリースを塗布するグリース塗布装置10において、このグリース塗布装置10は、内周面17に対応する外周面14が備えられ円筒部材16に嵌合される円柱部材20及びこの円柱部材20を支える大径部12からなるワーク支持部材21と、このワーク支持部材21に設けられ外部から供給されたグリースを外周面14まで導くグリース供給路47と、ワーク支持部材21に設けられ余剰のグリースを吸引し外部に臨む排出穴まで導くグリース排出路46と、を備えている。
【効果】余剰のグリースの拭き取り作業等を行わなくてもよく、作業工程を少なくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒部材の内周面にグリースを塗布するグリース塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱部材やパイプ部材に、円筒部材を回転自在に取付けるときには、円筒部材の内周面に、予めグリースを塗布することが望まれる。塗布作業の能率を上げるには、グリース塗布装置で自動的に円筒部材の内周面にグリースを塗布することが望まれる。
【0003】
従来、グリース自動塗布装置には、各種のものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開平5−67369号公報(図1)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図10は従来の技術の基本構成を説明する図であり、(a)に示すようにグリース自動塗布装置100は、円筒部材101の内面102にグリースを塗布するためのグリース塗布部103と、このグリース塗布部103が支持される支持体104と、この支持体104に軸105を介して接続されるシリンダユニット106と、軸105を回転させるロータリアクチュエータ107とから構成される。
【0005】
グリース塗布部103には、グリース塗布部103の外面に繋がれグリースを塗布するためのグリース塗布路108と、このグリース塗布路108に繋げられグリース塗布路108へグリースを供給するためのグリース供給路109と、このグリース供給路109へ外部からグリースを供給するためのグリース供給手段111とが配置される。
112は円筒部材101を支持するためのフレームである。
【0006】
円筒部材101にグリースを塗布するには、シリンダユニット106を作動させて、軸105を前進させ、グリース塗布部103を円筒部材101に挿入する。
【0007】
次に、(b)に示すように、ロータリアクチュエータ107で軸105を回転させる。軸105と共に支持体104及びグリース塗布部103が回転する。
このとき、グリース供給手段111はグリース供給路109へグリースを供給し、グリース供給路109から供給されたグリースは、グリース塗布路108を通過し内面102へ塗布される。
【0008】
内面102へのグリースの塗布が終了すると、(c)に示すようにシリンダユニット106を作動させて、支持体104及びグリース塗布部103を図面右側へ移動させグリースの塗布作業は終了する。
【0009】
ところで、このグリース自動塗布装置100によれば、塗布作業の終了後に必ず円筒部材101の端部及びグリース塗布部103の端部に余剰のグリース114が存在することになる。
【0010】
円筒部材101に余剰のグリース114が存在すると、余剰のグリース114の拭き取り作業が必要となり好ましくない。
加えて、グリース塗布部103に余剰のグリース114を残したままグリース塗布作業を続けて行った場合にも、余剰のグリース114の量が多くなり、やがて地面等に落下するため好ましくない。
【0011】
余剰のグリースが発生しない又は発生したとしても微量で済ませることができるグリース塗布装置の提供が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、余剰のグリースが発生しない又は発生したとしても微量で済ませることができるグリース塗布装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、円筒部材の内周面にグリースを塗布するグリース塗布装置において、
このグリース塗布装置は、前記内周面に対応する外周面が備えられ前記円筒部材に嵌合される円柱部材及びこの円柱部材を支えるベースからなるワーク支持部材と、このワーク支持部材に設けられ外部から供給されたグリースを前記外周面まで導くグリース供給路と、前記ワーク支持部材に設けられ余剰のグリースを吸引し外部に臨む排出穴まで導くグリース排出路と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明は、円柱部材は縦向きに配置され、グリースの塗布エリアの下端位置にてワーク支持部材に主環状溝が設けられ、この主環状溝がグリース排出路に接続されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明は、グリースの塗布エリアの上端位置にて、ワーク支持部材に副環状溝が設けられ、この副環状溝がグリース排出路に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、ワーク支持部材に設けられ余剰のグリースを吸引し外部に臨む排出穴まで導くグリース排出路を設けた。余剰のグリースは、吸引され外部に臨む排出穴まで導かれる。円筒部材の端部及び円柱部材の端部に余剰のグリースが残らない。余剰のグリースが残らないため、余剰のグリースの拭き取り作業等を行わなくてもよい。作業工程を少なくすることができ、有益である。
【0017】
請求項2に係る発明では、円柱部材は縦向きに配置され、グリースの塗布エリアの下端位置にてワーク支持部材に主環状溝が設けられ、この主環状溝がグリース排出路に接続されている。円柱部材を縦向きに配置するため、余剰のグリースは、重力の作用で下方に溜まる。溜まった余剰のグリースは、下方に設けられている主環状溝により効率よく、排出される。
【0018】
請求項3に係る発明では、グリースの塗布エリアの上端位置にて、ワーク支持部材に副環状溝が設けられ、この副環状溝がグリース排出路に接続されている。グリースの塗布エリアの下端位置に主環状溝が設けられ、グリースの塗布エリアの上端位置に副環状溝が設けられ、グリースの塗布エリアの上端及び下端から余剰のグリースを吸引することができる。余剰のグリースが下方だけでなく、上方に溜まった場合に、上方に溜まった余剰のグリースは副環状溝により効率よく、排出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係るグリース塗布装置の正面図であり、グリース塗布装置10は、ベース11と、このベース11に支持される大径部12と、この大径部12の上面13に配置され外周面14が円筒部材16の内周面17に対応する小径部18と、この小径部18及び大径部12から構成される円柱部材20と、この円柱部材20及びベース11から構成されるワーク支持部材21と、このワーク支持部材21の上部に配置され余剰のグリースが溜まる副環状溝23と、この副環状溝23上に配置され余剰のグリースを排出するために図面表裏方向へ延びる第1排出路24と、この第1排出路24に繋げられ鉛直方向に延びる第2排出路25と、上面13に小径部18を囲うよう設けられ余剰のグリースが溜まる主環状溝26と、この主環状溝26上に配置され余剰のグリースを排出するために鉛直方向へ延びる第3排出路28と、この第3排出路28及び第2排出路25に繋げられ余剰のグリースを排出させるために水平方向に延びる第4排出路29と、この第4排出路29に繋げられ外部に臨む排出穴31と、この排出穴31にチューブ継手等の接続金具32を介して繋げられ外部へ余剰のグリースを排出するための排気ホース33と、大径部12の図面左側に設けられ外部からグリースを供給するためのグリース供給ホース35と、このグリース供給ホース35の先端にチューブ継手等の接続金具36を介して繋がれるグリース供給口37と、このグリース供給口37から供給されたグリースを供給するため水平方向に延びる第1供給路41と、この第1供給路41から鉛直方向に延びる第2供給路42と、この第2供給路42の上部から外周面14に向かって水平に延びる第3供給路43と、この第3供給路43及び外周面14を繋ぎ内周面17へグリースを塗布するためのグリース吐出口44とから構成される。
【0020】
第1〜第4排出路24、25、28、29を、まとめてグリース排出路46と呼び、第1〜第3供給路41、42、43を、まとめてグリース供給路47と呼ぶ。
また、主環状溝26の上面から副環状溝23の下面までがグリースの塗布エリア49である。
【0021】
第2供給路42の下端及び第2排出路25の下端には、グリースの漏れを防止するための鉄鋼性の鋼球51、52が配置される。
ワーク支持部材21の頂上部53は、内周面17に嵌合しやすいようテーパ面に構成される。
【0022】
図2は図1の2−2線断面図であり、第1排出路24は十文字形に構成され、先端はそれぞれ副環状溝23に繋げられる。第1排出路24の交差する場所には第2排出路25が配置される。即ち、副環状溝23に溜まった余剰のグリースは、吸引され第1排出路24から第2排出路25を通過する。
【0023】
図3は図1の3−3線断面図であり、円柱部材20の中心部には第2排出路25が配置される。この第2排出路25の図面左下側には第2供給路42が配置される。この第2供給路42から外周面14に向かって第3供給路43が延び、第3供給路43の先端から外周面14まで広がりながら第3供給路43と外周面14を繋ぐグリース吐出口44が配置される。
【0024】
即ち、グリースは第2供給路42から第3供給路43を通過し、グリース吐出口44から内周面(図1の内周面17)に向かって塗布される。
【0025】
図4は図1の4−4線断面図であり、上面13には外周面14を囲うように主環状溝26が配置され、この主環状溝26から図面表裏方向に延びる複数の第3排出路28が配置される。第3排出路28が繋げられる第4排出路29は十文字形に構成され、第4排出路29の交点には第2排出路25が繋がれる。
【0026】
主環状溝26に溜まった余剰のグリースは第3排出路28から第4排出路29を通過し排出ホース(図1の排気ホース33)により外部へ排出される。このとき第4排出路29に繋がれた第2排出路25を通過した余剰のグリースも第4排出路29から排出ホースにより外部へ排出される。第2供給路42はグリース排出路46と交錯しないように配置される。
【0027】
以上の構成からなるグリース塗布装置の作用を次に述べる。
図5はグリース塗布装置の作用を説明する図であり、グリースの塗布を(a)で説明し、余剰のグリースの排出(除去)を(b)で説明する。
【0028】
(a)に示すように、グリースを塗布する際には円筒部材16に円柱部材20を嵌合させ、矢印(10)で示すようにグリース供給口37からグリースを供給する。グリースは矢印(11)及び矢印(12)で示すように第1供給路41、第2供給路42及び第3供給路43を通過し、矢印(13)及び矢印(14)で示すようにグリース吐出口44から内周面17に塗布される。
【0029】
グリースの塗布を続けると、グリース吐出口44から塗布されるグリースの圧力により、矢印(15)で示すようにグリースは内周面17の全体に塗布される。
【0030】
次に(b)に示すようにグリースの塗布が終了すると、円筒部材の上端位置54、円筒部材の下端位置55、グリースの塗布エリアの上端位置56及びグリースの塗布エリアの下端位置57に余剰のグリース58が発生する。この余剰のグリース58を吸引するために、排出ホース(図1の排気ホース33)を作動させる。
【0031】
図面上側に溜まった余剰のグリース58は矢印(20)、(21)、(22)、(23)で示すように、第1排出路24、第2排出路25及び第4排出路29を通過して排出穴31から外部へ排出される。図面下側に溜まった余剰のグリース58は、矢印(24)、(25)、(26)で示されるように第3排出路28及び第4排出路29を通過して排出穴31から外部へ排出される。
【0032】
図6は余剰のグリースを排出した後の作用を説明する図であり、余剰のグリース(図5の余剰のグリース58)が排出されると、円筒部材16及び円柱部材20は離される。
円筒部材の上端位置54、円筒部材の下端位置55、グリースの塗布エリアの上端位置56及びグリースの塗布エリアの下端位置57には、余剰のグリースが残存しない。
【0033】
余剰のグリースが残らないため、余剰のグリースの拭き取り作業等を行わなくてもよい。作業工程を少なくすることができ、有益である。
【0034】
加えて、余剰のグリースが下方だけでなく、上方に溜まった場合に、上方に溜まった余剰のグリースは副環状溝により効率よく、排出される。
【0035】
以下に本発明に係るグリース塗布装置の別実施例を説明する。
図7は本発明に係るグリース塗布装置の別実施例図であり、図1と共通要素は符号を流用して、詳細な説明は省略する。副環状溝(図1の副環状溝23)の代わりにOリング等のグリースの漏れを防止することができるシール部材59を配置し、第1排出路(図1の第1排出路24)及び第2排出路(図1の第2排出路25)を配置しない。即ち、第3排出路28及び第4排出路29でグリース排出路61を構成する。
【0036】
図8は別実施例におけるグリースの塗布から余剰のグリースを排出するまでを説明する図であり、(a)に示すように、グリースを塗布する際には円筒部材16に円柱部材20を嵌合させ、矢印(30)で示すようにグリース供給口37からグリースを供給する。グリースは矢印(31)及び矢印(32)で示すように第1供給路41、第2供給路42及び第3供給路43を通過し、矢印(33)及び矢印(34)で示すようにグリース吐出口44から内周面17に塗布される。
【0037】
グリースの塗布を続けると、グリース吐出口44から塗布されるグリースの圧力により、矢印(35)で示すようにグリースは内周面17の全体に塗布される。
【0038】
このとき、グリースの塗布エリアの上端位置56にはシール部材59が配置されているため、グリースの塗布エリアの上端位置56より上部には、グリースは塗布されない。
【0039】
次に(b)に示すようにグリースの塗布が終了すると、円筒部材の下端位置55及びグリースの塗布エリアの下端位置57に余剰のグリース58が発生する。この余剰のグリース58を吸引するため排出手段(図1の排気ホース33)を作動させる。
【0040】
矢印(40)、(41)、(42)、(43)で示されるように第3排出路28及び第4排出路29を通過して排出穴31から外部へ排出される。余剰のグリース58は、第3排出路28及び第4排出路29を通過して外部へ排出される。
【0041】
図9は別実施例における余剰のグリースを排出した後の作用を説明する図であり、余剰のグリース(図8(b)の余剰のグリース58)が排出されると、円筒部材16及び円柱部材(図8(a)の円柱部材20)は離される。
円筒部材の上端位置54には、Oリングの形状等によるわずかな余剰のグリース62が残存する。わずかな余剰のグリース62の量は別途拭き取り工程を行う必要がないくらいに微量である。
【0042】
円柱部材を縦向きに配置するため、余剰のグリースは、重力の作用で下方に溜まる。溜まった余剰のグリースは、下方に設けられている主環状溝により効率よく、排出される。
【0043】
尚、グリース塗布装置を縦向きに配置した例を基に説明をしたが、横向きに配置した場合においても実施は可能であり、グリース塗布装置の配置の方向は縦向きに限られるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のグリース塗布装置は、円柱部材やパイプ部材に、円筒部材を回転自在に取付ける際に行うグリースの塗布作業に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るグリース塗布装置の正面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】グリースの塗布から余剰のグリースを排出するまでの作用を説明する図である。
【図6】余剰のグリースを排出した後の作用を説明する図である。
【図7】本発明に係るグリース塗布装置の別実施例図である。
【図8】別実施例におけるグリースの塗布から余剰のグリースを排出するまでを説明する図である。
【図9】別実施例における余剰のグリースを排出した後の作用を説明する図である。
【図10】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0046】
10…グリース塗布装置、11…ベース、14…外周面、16…円筒部材、17…内周面、20…円柱部材、21…ワーク支持部材、23…副環状溝、26…主環状溝、31…排出穴、46、61…グリース排出路、47…グリース供給路、56…グリースの塗布エリアの上端位置、57…グリースの塗布エリアの下端位置、58…余剰のグリース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部材の内周面にグリースを塗布するグリース塗布装置において、
このグリース塗布装置は、前記内周面に対応する外周面が備えられ前記円筒部材に嵌合される円柱部材及びこの円柱部材を支えるベースからなるワーク支持部材と、このワーク支持部材に設けられ外部から供給されたグリースを前記外周面まで導くグリース供給路と、前記ワーク支持部材に設けられ余剰のグリースを吸引し外部に臨む排出穴まで導くグリース排出路と、を備えていることを特徴とするグリース塗布装置。
【請求項2】
前記円柱部材は縦向きに配置され、グリースの塗布エリアの下端位置にて前記ワーク支持部材に主環状溝が設けられ、この主環状溝が前記グリース排出路に接続されていることを特徴とする請求項1記載のグリース塗布装置。
【請求項3】
グリースの塗布エリアの上端位置にて、前記ワーク支持部材に副環状溝が設けられ、この副環状溝が前記グリース排出路に接続されていることを特徴とする請求項2記載のグリース塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−112984(P2009−112984A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291054(P2007−291054)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(507369936)ホンダ太陽株式会社 (17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】