説明

グリース組成物及び機械部品

【課題】高粘度であり、かつ低温性に優れるグリース組成物、及び上記グリース組成物を使用した機械部品を提供すること。
【解決手段】増ちょう剤と基油を含むグリース組成物において、基油が、エチレン−プロピレン共重合体と40℃の動粘度が50mm/s以下の合成炭化水素油とを含み、40℃の基油動粘度が500〜1500mm/sであるグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関し、さらに詳細には、高粘度基油を使用しながら低温性に優れるグリース組成物及びこれを使用した機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースの基油動粘度を高くすることが、油膜形成能力を高めて高面圧条件下での油膜厚さの減少や油膜の破断を防ぎ、潤滑性を向上させることや摩耗を防止することは一般的に知られている。また上記以外にも、付着性を向上させることや機械要素の騒音を防ぐこと、離油・油滲みを防ぐこと等の機能を付与することも判っており、グリースの基油動粘度を高くするメリットは大きい。
【0003】
基油を高粘度化する手段としては、基油に分子量の大きい物質を混合する方法が挙げられる。例えば、低粘度基油に高粘度基油を混合して粘度を上げることで油膜を大きくし、十分な耐フレッチング性を確保する方法が提案されている(特許文献1)。
また、基油にポリマーを添加して増粘せしめ、グリースの耐水性および耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(特許文献2)。さらに、基油にポリマーを添加して増粘せしめたグリースを軸受に封入し、軸受の衝突振動やがたつきを抑制する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96814
【特許文献2】特表2007−500778
【特許文献3】特開2007−2872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基油を高粘度化すると、グリースの低温性が悪化するという問題がある。従って、高粘度基油を使用したグリースはその使用可能温度が制限されることになる。しかし、近年は幅広い温度範囲で良好な作動性を必要とされる場合が多く、高粘度基油を使用し、かつ低温性に優れるグリース組成物が求められている。例えば、家電用モーターの滑り軸受は一般的にシール機構が存在しないため、使用グリースは潤滑性に加え、低離油性・低油滲み性が要求される。離油・油滲みを防ぐには基油動粘度を高くすることが有効であり、通常は40℃における動粘度が500mm2/s以上であれば要求を満たすことができるとされている。しかし、上記の従来技術で基油動粘度を高くすると、低温環境下(−20℃)の作動性が著しく悪化するという欠点がある。
本発明の目的は、高粘度であり、かつ低温性に優れるグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、上記グリース組成物を使用した機械部品、軸受、特にモーターの滑り軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を達成するために種々検討した結果、特定のポリマーを低動粘度基油の増粘剤として使用することにより、これを改善し得ることを見出し本発明を完成するに至った。
本発明は以下に示すグリース組成物及び機械部品を提供するものである。
1.増ちょう剤と基油を含むグリース組成物において、
基油が、エチレン−プロピレン共重合体と40℃の動粘度が50mm2/s以下の合成炭化水素油とを含み、
40℃の基油動粘度が500〜1500mm2/sであるグリース組成物。
2.前記エチレン−プロピレン共重合体の重量平均分子量が10000〜100000である上記1に記載のグリース組成物。
3.増ちょう剤が12−ヒドロキシステアリン酸リチウムである上記1又は2に記載のグリース組成物。
4.モーターの滑り軸受用である上記3に記載のグリース組成物。
5.上記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した機械部品。
【発明の効果】
【0007】
本発明のグリース組成物は、高粘度であり、かつ低温性に優れる。エチレン−プロピレン共重合体は合成炭化水素油とのSP値(Solubility Parameter 溶解度パラメータ)の差が小さく、大きな増粘効果が得られるため、添加量は他のポリマーに比べて少量でよい。従って、低温時でもグリースの応力上昇を小さく抑制することができると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のグリース組成物に使用する増ちょう剤は、特に限定されないが、汎用性が高く、安価な点からLi石けんが好ましい。中でも12−ヒドロキシステアリン酸リチウムは、比較的少量で小さいちょう度のグリースが得られることから、グリースの低温性に与える影響も小さく、最も適している。
【0009】
本発明のグリース組成物に使用する基油は、合成炭化水素油とエチレン−プロピレン共重合体を含む。
本発明の基油に使用する合成炭化水素油は、40℃の動粘度が50mm2/s以下である。これによりグリース組成物の良好な低温性を保つことができる。
本発明の基油に使用するエチレン−プロピレン共重合体は増粘剤として機能する。エチレン−プロピレン共重合体の重量平均分子量は、好ましくは10000〜100000、さらに好ましくは50000〜90000である。10000未満では、増粘剤としての機能が弱く、100000より大きいと低温性を損ねる傾向がある。
本発明の基油全体に対するエチレン−プロピレン共重合体の使用量は、好ましくは2〜8質量%、さらに好ましくは4〜7質量%である。この範囲外では基油全体としての40℃の動粘度を500〜1500mm2/sとすることが困難になる。
【0010】
本発明のグリース組成物に使用する基油は、合成炭化水素油とエチレン−プロピレン共重合体以外の基油成分を含むこともできるが、基油全体としての40℃の動粘度は500〜1500mm2/s、好ましくは600〜1000mm2/sである。
本発明のグリース組成物には、必要により、グリース組成物に普通に使用される他の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては例えば、酸化防止剤、錆止め剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤などが挙げられる。
【0011】
水や油のような液体は、少しの力を加えるだけで容易に流動が始まる。流動する速度と流動抵抗は比例関係にあり、その比率を粘度と呼ぶ。このとき、流動する速度に対応する抵抗力をせん断応力(ずり応力)と呼ぶ。グリースのように構造を持った半固体状の物質は、ある一定以上の力を加えないと流動が始まらない。このとき、流動が始まるのに必要な力を降伏応力と呼ぶ。すなわち、降伏応力は、低温時の動き出しの抵抗力であり、せん断応力は、低温時に流動しているときの抵抗力、という違いがある。本発明の目的達成のためには、いずれの抵抗力も小さいことが望ましい。
【0012】
実施例
表1に示す配合のグリース組成物を調製した。
増ちょう剤として、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムあるいはステアリン酸リチウムを使用した。
使用した合成炭化水素油は以下のとおりである。
ポリαオレフィンA 基油動粘度(40℃):30.0mm2/s
ポリαオレフィンB 基油動粘度(40℃):47.5mm2/s
ポリαオレフィンC 基油動粘度(40℃):400mm2/s
ポリαオレフィンD 基油動粘度(40℃):1280mm2/s
合成炭化水素油1:ポリαオレフィンAとポリαオレフィンBの質量比50:50混合油
基油動粘度(40℃):37.9mm2/s
合成炭化水素油2:ポリαオレフィンB
合成炭化水素油3:ポリαオレフィンC
合成炭化水素油4:ポリαオレフィンAとポリαオレフィンDの質量比15:85混合油
基油動粘度(40℃):700mm2/s(40℃)
【0013】
基油の成分として使用したポリマーは以下のとおりである。
使用したエチレン−プロピレン共重合体(Mw:70000)
ポリブテン(Mw:2900)
ポリイソブチレン(Mw:50000)
グリース組成物のちょう度(JIS K 2220.7)は、325に統一した。40℃の動粘度はJIS K 2220.23に従って測定した。グリース組成物の低温性は以下のように評価した。
低温性評価

【0014】
レオメーター 降伏応力(Pa) -20℃
◎:750未満
○:750以上、1250未満
△:1250以上、2000未満
×:2000以上
レオメーター せん断応力(Pa)(せん断率=100s-1) -20℃
◎:4000未満
○:4000以上、5000未満
△:5000以上、6000未満
×:6000以上
結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
本発明の実施例1〜5は、動粘度(40℃)が50mm2/s以下のポリαオレフィンにエチレン−プロピレン共重合体を加えて、基油動粘度(40℃)を500〜1500mm2/sに調整している。実施例1〜5の低温性の評価結果は、−20℃の降伏応力及びせん断応力が小さく、優れた低温性を示している。
これに対して動粘度(40℃)が50mm2/sより高いポリαオレフィンC(400mm2/s)にエチレン−プロピレン共重合体を加えた比較例1では、基油全体の動粘度は700mm2/sであるが、−20℃の降伏応力及びせん断応力が高く、低温性が劣っている。ポリαオレフィンD(1280mm2/s)を使用した比較例2では、基油全体の動粘度を700mm2/sに調整しても、−20℃の降伏応力及びせん断応力が高く、低温性が劣っている。
また、エチレン−プロピレン共重合体の代わりにポリブテン(Mw:2900)を使用した比較例3では、基油動粘度を700mm2/sに調整しても、降伏応力及びせん断応力が高く、低温性が劣っている。エチレン−プロピレン共重合体の代わりにポリイソブチレン(Mw:50000)を使用した比較例4では、基油全体の動粘度を700mm2/sに調整しても、せん断応力が高く、低温性が劣っている。基油動粘度が1500mm2/sより高い、2300mm2/sの比較例5では、せん断応力が高く、低温性が劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤と基油を含むグリース組成物において、
基油が、エチレン−プロピレン共重合体と40℃の動粘度が50mm2/s以下の合成炭化水素油とを含み、
40℃の基油動粘度が500〜1500mm2/sであるグリース組成物。
【請求項2】
前記エチレン−プロピレン共重合体の重量平均分子量が10000〜100000である請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
増ちょう剤が12−ヒドロキシステアリン酸リチウムである請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
モーターの滑り軸受用である請求項3に記載のグリース組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した機械部品。

【公開番号】特開2010−248442(P2010−248442A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102058(P2009−102058)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】