説明

グリース

【課題】低温性能に優れ、かつ油分離が少ないグリースの提供。
【解決手段】一般式(1)で表わされるグリコールの分岐カルボン酸ジエステルを含む基油と、増ちょう剤として一般式(2)で表わされるジウレア化合物を含有するグリース。


−NHCONH−R−NHCONH−R (2)
(式中、R,Rは分岐鎖を有するC3〜20のアルキル基を、R,RはC1〜6のアルキル基を、R,Rは炭化水素基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリースに関し、さらに詳しくは、低温性能に優れ、かつ油分離が少ないグリースであって、特に、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に好適に用いられるグリースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、オルタネータ等の自動車用補機、補機駆動装置やエンジンのクランクシャフト等には、所定方向の駆動力のみを伝達するために、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置が使用されるようになってきた。一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置とは、内径側部材と、前記内径側部材の外周に前記内径側部材と同心に配置された筒状の外径側部材と、前記内径側部材の外周面と前記外径側部材の内周面との間に設けられ、前記内径側部材と前記外径側部材とを相対回転自在に支持する転がり軸受と、前記外径側部材及び前記内径側部材の一方を他方に対し所定方向に相対回転させる回転力のみを伝達する一方向クラッチと、を備えた装置である。
【0003】
このオルタネータ等は、高性能化、高出力化が進んでいる。また、寒冷地を含み広い地域で使用される。これに伴い、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の使用条件も厳しくなっており、より回転速度が高く、負荷荷重の高い条件での動作が要求されるともに、寒冷地での使用に耐えるべく、極低温下における性能も重要視されるようになってきている。このように、苛酷な状況下で使用される一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に用いるグリースには、より高性能化が求められており、例えば、以下の性能を具備することが期待されている。
(i)低温におけるクラッチ係合性(噛み合い性)が良好であること。
冬季極寒冷地でエンジンを始動させるときに、オルタネータ等が低温下で、円滑に作動するために、良好なクラッチ係合性(噛み合い性)が求められる。
(ii)高遠心力下においても、油分離が少ないこと。
オルタネータ等の自動車用補機は、高速回転していて、高遠心力下で使用されるので、このような状況下でも、油分離が少ないことが求められる。
【0004】
ところで、低粘度の基油を用いると、グリースの低温性能は向上することは知られている。しかしながら、低粘度の基油を用いたグリースは、通常、油分離も多く、高遠心力下において油分離が多くなる傾向がある。逆に、高粘度の基油を用いたグリースは、油分離が少ない傾向はあるものの、低温性能は低下する。
つまり、前記(i)低温におけるクラッチ係合性が良好であることと、(ii)の、高遠心力下で油分離を少なくすることは、相反する性能であることが多い。したがって、これらの性能を同時に改善し向上することは必ずしも容易ではない。
【0005】
このような一方向クラッチ内臓型回転伝達装置に用いるグリースしては、従来、アルキルジフェニルエーテル等のエーテル系基油を用いるもの(例えば、特許文献1、2参照)、40℃動粘度が20mm2/s以下のポリオールエステルを用いるもの(例えば、特許文献3参照)、鉱油、ポリ−α−オレフィン油、ポリオールエステル油等とジウレア化合物からなる増ちょう剤を用いるもの(例えば、特許文献4参照)、圧力粘性係数が12Pa-1以上のエステル系あるいは合成油系基油にウレア系増ちょう剤を配合したグリース用いるもの(例えば、特許文献5参照)などが開示されている。
しかしながら、アルキルジフェニルエーテルを基油とするものは、低温性、すなわち低温におけるクラッチ係合性が充分とは言えず、またポリオールエステルからなる基油を用いたものも、一般に低温におけるクラッチ係合性が必ずしも充分ではない。またこれら以外の基油、例えばポリ−α−オレフィン油などについても同様な問題がある。したがって、一方向クラッチ内臓型回転伝達装置に用いるグリースとしてはさらに改良する余地があった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−162032号公報
【特許文献2】特開平11−82688号公報
【特許文献3】特開2006−161827号公報
【特許文献4】特開2006−132619号公報
【特許文献5】特開2000−234638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下で、低温性能に優れ、かつ油分離が少ないグリースであって、特に、一方向性クラッチ内臓型回転伝達装置に用いた場合、低温におけるクラッチ係合性(噛み合い性)が良好であり、しかも高遠心力下における油分離が少ないグリースを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有するグリースを開発すべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造を有するグリコールの分岐カルボン酸ジエステルを含む基油と、増ちょう剤として特定構造のジウレア化合物を含有するグリースが、前記課題を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
【0009】
一般式(1)
【化1】

【0010】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に分岐鎖を有する炭素数3〜20のアルキル基、R3及びR4は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物を50質量%以上含む基油と、増ちょう剤として、一般式(2)
6−NHCONH−R5−NHCONH−R7 (2)
[式中、R6及びR7は、それぞれ独立に、(X)炭素数6〜24の1価の鎖式炭化水素基、(Y)炭素数6〜12の1価の脂環式炭化水素基又は(Z)炭素数6〜12の1価の芳香族炭化水素基、R5は、炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R6及びR7における、X、Y及びZの各含有率(モル%)、x、y、zが下記の式(a)及び(b)を満たす。
(x+y)/(x+y+z)≧0.90 (a)
x/y=50/50〜0/100 (b)

で表されるジウレア化合物を含有するグリース、
(2)R1及びR2が、それぞれ独立に分岐鎖を有する炭素数3〜12のアルキル基である前記(1)に記載のグリース、
(3)R1及びR2が、それぞれ独立に分岐鎖を有する炭素数6〜10のアルキル基である前記(1)叉は(2)に記載のグリース、
(4)R1及びR2が、分岐鎖を有する炭素数8又は9のアルキル基である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のグリース、
(5)一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物の引火点が、170℃以上である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のグリース、
(6)一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物の流動点が−50℃以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のグリース、
(7)増粘剤を含む前記(1)〜(6)のいずれかに記載のグリース、
(8)潤滑性向上剤、酸化防止剤及び防錆剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む前記(1)〜(7)のいずれかに記載のグリース、
(9)グリースから増ちょう剤を除いた成分である油分の40℃における動粘度が、15〜150mm2/sである前記(1)〜(8)のいずれかに記載のグリース、及び
(10)一方向クラッチ内臓型回転伝達装置に用いられる前記(1)〜(9)のいずれかに記載のグリース、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温性能に優れ、かつ油分離が少ないグリースであって、特に、一方向性クラッチ内臓型回転伝達装置に用いた場合、低温におけるクラッチ係合性(噛み合い性)が良好であり、しかも高遠心力下における油分離が少ないグリースを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のグリースは、一般式(1)
【化2】

【0013】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に分岐鎖を有する炭素数3〜20のアルキル基、R3及びR4は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物を基油として含有するグリースである。
【0014】
一般式(1)におけるR1、R2は、それぞれ独立に分岐鎖を有する炭素数3〜20のアルキル基である。
1、R2の分岐鎖を有するアルキル基の代表例としては、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、1−エチルペンチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、2,4,4、−トリメチルペンチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソエイコシル基などの分岐鎖を有するアルキル基が挙げられる。
本発明におけるR1、R2は、これら分岐鎖を有するアルキル基から選択した1種であってもよく、また2種以上の混合物であってもよい。
また、R1、R2は、それぞれ独立であり、R1、R2は、互いに異なる分岐鎖を有するアルキル基であっても良い。
これらの中でも、クラッチ係合性等を高める作用が顕著である点で、R1、R2が、分岐鎖を有する炭素数3〜12のアルキル基であることが好ましく、R1、R2が共に分岐鎖を有する炭素数3〜12のアルキル基であることがより好ましい。
また、分岐鎖を有するアルキル基は、炭素数が6〜10の分岐鎖を有するアルキル基であることが一層好ましく、炭素数8叉は9の分岐鎖を有するアルキル基、例えば2,4,4−トリメチルペンチル基、イソオクチル基、イソノニル基であることが特に好ましい。
【0015】
一般式(1)におけるR3、R4は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である。
3、R4のアルキル基の代表例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基などのアルキル基が挙げられる。
本発明におけるR3、R4は、これらアルキル基から選択した1種であってもよく、また2種以上の混合物であってもよい。
また、R3、R4は、それぞれ独立であり、R3、R4は、互いに異なるアルキル基であっても良い。
これらの中でも、性能上及び製造上の理由で、R3、R4が、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、R3、R4が共にメチル基であることがより好ましい。
【0016】
本発明の一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物は、以下のような性状を有することが好ましい。
引火点が170℃以上(より好ましくは185℃以上)、動粘度(40℃)が8〜30mm2/s、粘度指数が30以上(より好ましくは70以上)、流動点が−45℃以下(より好ましくは−50℃以下)などである。
【0017】
本発明に用いる一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物は、例えば、以下の方法で製造することができる。
すなわち、炭素数4〜21の脂肪族分岐モノカルボン酸、好ましくは、炭素数4〜13の脂肪族分岐モノカルボン酸(A)と、ネオペンチルグリコール(B)を用いて、触媒の存在下又は不存在下でエステル化し、得られたエステル化反応物をアルカリ等で洗浄する。
【0018】
ここで、(A)成分の炭素数4〜21の脂肪族分岐モノカルボン酸は、一般式(1)のR1、R2に対応するカルボン酸を用いる。
具体的には、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、3,5,5,7,7−ペンタメチルオクタン酸等を挙げることができ、中でも、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソデカン酸が特に好ましい。
ここで、(B)成分のネオペンチルグリコールは、一般式(1)においてアシル基(R1CO及びR2CO)を除いた残基に対応するグリコールを用いる。
具体的には、ネオペンチルグリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等を挙げることができ、なかでも、ネオペンチルグリコールが特に好ましい。
エステル化反応の際、(A)成分(カルボン酸成分)は、例えば、(B)成分(グリコール成分)1モルに対し、好ましくは2.01〜2.10モル、より好ましくはグリコール成分1モルに対し2.01〜2.05モル用いられる。
【0019】
エステル化触媒としては、ルイス酸類、アルカリ金属化合物、スルホン酸類等が例示され、具体的にルイス酸類としては、アルミニウム誘導体、錫誘導体、チタン誘導体が例示され、アルカリ金属化合物としては、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等が例示され、更にスルホン酸類としてはp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等が例示される。
その使用量は、例えば、原料であるカルボン酸成分及びグリコール成分の総量に対して、通常0.1〜1.0質量%程度用いられる。
【0020】
本発明のグリースは、一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物を50質量%以上含む基油を用いる。好ましい含有量は、70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
基油中の該ジエステル化合物の含有量が50質量%以上であれば、本発明の目的を十分に達成することができる。
【0021】
本発明のグリースは、一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物と共に、他の基油を好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下の割合で含んでしてもよい。
そのような基油としては、例えば、脂環式炭化水素化合物、鉱油、各種合成油が挙げられる。
脂環式炭化水素化合物としては、例えば、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン、2,4−ジシクロヘキシルペンタンなどシクロヘキサン環を2個以上有するアルカン誘導体、1−シクロヘキシル−1−デカリルエタンなどのデカリン環とシクロヘキシル環をそれぞれ1個以上有するアルカン誘導体、endo−2−メチル−exo−3−メチル−exo−2−〔(exo−3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−exo−2−イル)メチル〕ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンなどのビシクロ[2.2.1]ヘプタン環、ビシクロ[3.2.1]オクタン環、ビシクロ[2.2.2]オクタン環及びビシクロ[3.3.0]オクタン環を少なくとも2個有する脂環式化合物が挙げられる。
また、鉱油としては、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油が、各種合成油としては、例えば1−デセンのオリゴマーなどのポリ−α−オレフイン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0022】
本発明においては、上記基油に増粘剤を含むことができる。増粘剤は、前記基油の粘度を必要に応じて高めるものであり、増粘剤を含む基油を適正な動粘度に調整するために配合する。
前記増粘剤の具体例としては、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート(PMA)、オレフィン共重合体(OCP)、ポリアルキルスチレン(PAS)、スチレン-ジエン共重合体(SCP)等が挙げられる。特に、数平均分子量が800〜10,000、より好ましくは1,000〜5,000のポリブテンやポリイソブチレン、スチレン−イソプレン共重合体及びエチレン−αオレフィン共重合体、並びに重量平均分子量が1万〜100万、好ましくは10万〜80万のポリメタアクリレートの中から選ばれる少なくとも1種以上を配合することが好ましい。これら増粘剤の配合量は、通常組成物基準で、樹脂量として0.01〜20質量%程度であるが、後述する、油分の粘度が目的の値になるよう適宜調整して配合量を選定する。
【0023】
本発明のグリースにおいては、油分の40℃における動粘度を調節することが好ましい。
本発明において油分とは、グリースから増ちょう剤を除いたものをいい、具体的には、前記基油、増粘剤及び後述する各種添加剤の混合物を意味している。つまり増粘剤及び添加剤を配合しない場合は、基油のみが油分であり、基油と増粘剤とを配合し、添加剤を配合しない場合は、基油と増粘剤の混合物が油分であり、基油、増粘剤及び添加剤を配合する場合は、これらの混合物が油分である。
この油分は、例えば、グリースを遠心分離することにより分離物として得ることができるものである。
本発明のグリースにおいては、油分の40℃における動粘度が、15〜150mm2/sであることが好ましく、20〜150mm2/sであることがより好ましく、20〜90mm2/sであることがさらに好ましく、30〜60mm2/sであることが特に好ましい。油分の40℃における動粘度が、15mm2/s以上であれば、グリースの油分離を抑制することができ、また油分の40℃における動粘度が、150mm2/s以下であればグリースの低温特性を良好に保つことができる。
【0024】
本発明のグリースは、前記一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物50質量%以上を含む基油に、増ちょう剤として、下記の一般式(2)
6NHCONHR5NHCONHR7 (2)
[式中、R6及びR7は、それぞれ独立に、(X)炭素数6〜24の1価の鎖式炭化水素基、(Y)炭素数6〜12の1価の脂環式炭化水素基又は(Z)炭素数6〜12の1価の芳香族炭化水素基、R5は、炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R6及びR7における、X、Y及びZの含有率(モル%)、x、y、zが下記の式(a)及び(b)を満たす。
(x+y)/(x+y+z)≧0.90 (a)
x/y=50/50〜0/100 (b)

で表されるジウレア化合物を配合することによって得られるグリースである。
【0025】
前記一般式(2)におけるR5で示される炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ジフェニルメタン基、トリレン基などが挙げられる。
【0026】
一方、前記一般式(2)におけるR6、R7で示される炭素数6〜24の1価の鎖式炭化水素基としては、直鎖状もしくは分岐状の飽和または不飽和のアルキル基が含まれ、例えば、各種ヘキシル基、各種ヘプシル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、各種オクタデセニル基、各種ノナデシル基、各種イコデシル基などの直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基が挙げられ、中でも炭素数13〜20直鎖状もしくは分岐状の飽和または不飽和のアルキル基が好ましく、特に、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、各種オクタデセニル基など炭素数16〜18のアルキル基か好ましい。
【0027】
また、前記一般式(2)における、R6、R7で示される炭素数6〜12の1価の脂環式炭化水素基としては、飽和脂環式炭化水素基が好ましく、シクロヘキシル基や炭素数7〜12のアルキル基置換シクロヘキシル基が含まれ、例えば、シクロヘキシル基の他に、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、1−メチル−プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、アミルシクロヘキシル基、アミル−メチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基などが挙げられる。これらの中でも、製造上の理由で、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基などが好ましい。
【0028】
また、前記一般式(2)における、R6、R7で示される炭素数6〜12の1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トルイル基、ベンジル基、エチルフェニル基、メチルベンジル基、キシリル基、プロピルフェニル基、クメニル基、エチルベンジル基、メチルフェネチル基、ブチルフェニル基、プロピルベンジル基、エチルフェネチル基、ペンチルフェニル基、ブチルベンジル基、プロピルフェネチル基、ヘキシルフェニル基、ペンチルベンジル基、ブチルフェネチル基、ヘプチルフェニル基、ヘキシルベンジル基、ペンチルフェネチル基、オクチルフェニル基、ブチルベンジル基、ヘキシルフェネチル基、ノニルフェニル基、オクチルベンジル基が挙げられる。
【0029】
本発明においては、ジウレア化合物の末端基である、前記一般式(2)におけるR6、R7で示される各炭化水素基の割合、すなわち、前記一般式(2)におけるR6、R7を形成する原料アミン(叉は、混合アミン)の組成(混合割合)は、R6、R7における鎖式炭化水素基の含有率(xモル%)、脂環式炭化水素基の含有率(yモル%)及び芳香族炭化水素基の含有率(zモル%)が、下記の式(a)及び(b)を満たすことを要する。
(x+y)/(x+y+z)≧0.90 (a)
x/y=50/50〜0/100 (b)
式(a)及び(b)を満たせば、油分離性、特に高遠心力下における油分離をより抑制することができる。
【0030】
前記(a)の(x+y)/(x+y+z)の値は、0.95以上であることが好ましく、0.98以上であることがさらに好ましい。
また、(b)のx/yは、30/70〜5/95であることが好ましく、25/75〜15/85であることがさらに好ましい。
【0031】
上記ジウレア化合物は、通常ジイソシアネートとモノアミンを反応させることによって得ることができ、ジイソシアネートとしては、ジフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられ、有害性が小さい点でジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。モノアミンとしては、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミンなど炭素数16〜18の鎖式炭化水素アミンやシクロヘキシルアミンなどの脂環式炭化水素アミンが用いられる。
【0032】
上記の各種増ちょう剤のグリース中の含有量はグリース性状が得られる範囲であれば特に制限されるものではなく、グリースを基準として、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%である。
本発明に係るグリースに用いる増ちょう剤は、ちょう度を付与するためのもので含有量が少なすぎると所望のちょう度が得られず、一方含有量が多すぎるとグリースの潤滑性が低下する。
【0033】
本発明のグリースには、本発明の目的が損なわれない範囲で公知の各種添加剤、例えば潤滑性向上剤、清浄分散剤、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤などを適宜添加することができる。
潤滑性向上剤としては、例えば硫黄化合物(硫化油脂、硫化オレフィン、ポリサルファイド、硫化鉱油、チオリン酸類、チオカルバミン酸類、チオテルペン類、ジアルキルチオジピロピオネート類等)、リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物(トリクレジルホスフェート、トリフェニルフォスファイト等)などが、清浄分散剤としては、例えばこはく酸イミド、ボロン系こはく酸イミドなどが挙げられる。
【0034】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を使用することができるが、これらの中でアミン系酸化防止剤が好適である。アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系化合物、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン、などのジアルキルジフェニルアミン系化合物、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系化合物、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系化合物が挙げられる。
【0035】
腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、チアゾール系などが、防錆剤としては、例えば、金属カルボキシレート系、金属スルホネート系、コハク酸エステル系などが、消泡剤としては、例えばシリコーン系、フッ素化シリコーン系などが挙げられる。
これらの添加剤の配合量は、目的に応じて適宜選定すればよいが、通常、これらの添加剤の合計が潤滑剤を基準にして30質量%以下になるように配合する。
【0036】
本発明に係るグリースの調製方法については、特に制限はなく、通常、次の方法を用いることができる。
先ず、基油に所定の割合の増ちょう剤及び所望により増粘剤を配合し、所定の温度に加熱して均質化する。
その後冷却し、所定の温度に達したところで所望により各種添加剤を、所定量配合することにより、本発明に係るグリースを得ることができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)基油、油分の40℃動粘度
JIS K2283に準拠して測定した。
(2)グリースの混和ちょう度
JIS K2220.7.5に準拠して測定した。
(3)低温特性:クラッチ係合性(噛み合い性)試験
特開2006−64136号公報の図−1に記載されるクラッチプーリユニット(実機)にグリースを封入し、ロックした状態において外輪を回転させた場合に、内輪の回転が追従しなくなる外輪の角加速度(限界角速度:rad/sec2)を測定した。この値が大きいほどクラッチ係合性(噛み合い性)が高い。
【0038】
(4)高遠心力下の油分離
日立工機(株)製の超遠心分離機「Himac CP70G」を用い、容器内にグリース組成物を充填し、グリース組成物充填部分に、1.8×105 m2 /s(2万G)の加速度を40℃で5時間与えた際、グリース組成物から分離した油分を重量(質量)比率で求め、油分離として表した。
【0039】
また、基油として、下記のものを用いた。
<基油1>
下記の製造例で得た、ネオペンチルグリコールの3,5,5−トリメチルヘキサン酸ジエステルである。
製造例
攪拌器、窒素ガス吹き込み管、温度計及び冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、3,5,5−トリメチルヘキサン酸483.5g(3.06モル)、ネオペンチルグリコール156.3g(1.5モル)、キシレン(カルボン酸及びグリコールの総量に対し、5質量%)及び触媒として酸化錫(カルボン酸及びグリコールの総量に対し、0.2質量%)を仕込み、窒素気流下230℃まで昇温した。
理論生成水量(72g)を目安にして、留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながら減圧下でエステル化反応を約8時間行なった。
反応終了後、過剰のカルボン酸を蒸留で除去した。
次いで、反応終了後の酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗してエステル化反応粗物を得た。更に、得られたエステル化反応粗物は、活性炭で処理後、ろ過して、ネオペンチルグリコールの3,5,5−トリメチルヘキサン酸ジエステル516gを得た。ネオペンチルグリコールの3,5,5−トリメチルヘキサン酸ジエステルは、40℃動粘度13mm2/s、引火点200℃、流動点−50℃以下である。
【0040】
<基油2>
アルキルベンゼン:40℃動粘度56mm2/s、引火点192℃、流動点−37.5℃、
<基油3>
無水フタル酸と3,5,5−トリメチルヘキシルアルコール(イソノニルアルコール)を用い、常法に従ってエステル化反応を行うことにより得られたフタル酸ジイソノニルを用いた。
このフタル酸ジイソノニルは、40℃動粘度28mm2/s、引火点236℃、流動点−50℃である。
【0041】
実施例1
基油1とウレア系増ちょう剤を用い、第1表に示す配合組成のグリースを、以下に示す方法で調製した。
使用すべき基油1(増粘剤を含む)の2/3量に、使用すべき量のジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートを加熱溶解した。一方、残りの基油1に、前記のジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート量に対し、2倍モルの混合アミン(n−オクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンのモル比20:80混合物)を加熱溶解した。
まず、グリース製造釜に、前記のジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートを含有する基油1を仕込み、50〜60℃で激しく攪拌しながら、これに前記の混合アミンを含有する基油1を徐々に加え、加熱した。グリースの温度が160℃に達した時点で、その温度にて1時間保持した。ウレア系増ちょう剤の配合量は、グリース全量基準で17質量%である。
次いで、50℃/hrで80℃まで冷却したのち、酸化防止剤、潤滑性向上剤及び防錆剤を添加した。さらに室温まで自然放冷したのち、3本ロール装置を用いて仕上げ処理を行うことにより、グリースを調製した。
このようにして得られたグリースについて、混和ちょう度、クラッチ係合性試験(−30℃、−20℃、0℃、80℃),及び高遠心力下における油分離試験を行った。その結果を第1表に示す。
【0042】
実施例2
増粘剤及び潤滑性向上剤を配合しなかったこと、並びにウレア系増ちょう剤の配合量を第1表に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2のグリースを調製した。得られたグリースについて、混和ちょう度、クラッチ係合性試験(−30℃、−20℃、0℃、80℃)及び高遠心力下における油分離試験を行った。その結果を第1表に示す。
【0043】
比較例1、2
第1表に示す基油とウレア系増ちょう剤を用い、実施例1と同様にして、第1表に示す配合組成の比較例1,2の各グリースを調製した。
このようにして得られた各グリースについて、混和ちょう度、クラッチ係合性試験(−30℃、−20℃、0℃、80℃),及び高遠心力下における油分離試験を行った。その結果を第1表に示す。
【0044】
比較例3〜5
市販品A、B及びCについて、混和ちょう度、クラッチ係合性試験(−30℃、−20℃、0℃、80℃),及び高遠心力下における油分離試験を行った。その結果を第1表に示す。
市販品Aは、アルキル置換ジフェニルエーテルを基油とする市販ウレアグリース、市販品Bは、ペンタエリスリトールエステルを基油とする市販ウレアグリース、市販品Cは、ポリアルファオレフィンを基油とする市販ウレアグリースである。
【0045】
【表1】

【0046】
[注]
1)増粘剤:ポリメタクリレート、重量平均分子量=45万
2)ウレア系増ちょう剤:ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートと、2倍モルの混合アミン(n−オクタデシルアミンとシクロヘキシルアミンの混合物)の反応物、(x+y)/(x+y+z)=1.00,x/y=20/80
3)酸化防止剤:オクチルフェニル−1−ナフチルアミン(2重量部)、p,p'−ジオクチルジフェニルアミン(2重量部)及びオクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(1重量部)の混合物
4)潤滑性向上剤:トリフェニルホスホロチオエート
5)防錆剤:ステアリン酸亜鉛
【0047】
第1表から、本発明のグリース(実施例1,2)は、−30〜80℃に亘ってクラッチ係合性が良好であり、特に低温におけるクラッチ係合性が優れていることが分る。また、高遠心力下における油分離についても、油分の動粘度が低いにもかかわらず比較的少なく、特に著しく悪化することはない。これに対し、基油としてアルキルベンゼンを用いる比較例1、基油としてフタル酸ジアルキルエステルを用いる比較例2、市販品である比較例3〜5のグリースは、いずれも低温(−30℃)におけるクラッチ係合性が不充分であり、低温性能が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のグリースは、低温性能に優れ、かつ油分離が少ないため、各種用途に用いられる。特に、一方向性クラッチ内臓型回転伝達装置に用いた場合、低温におけるクラッチ係合性(噛み合い性)が良好であり、しかも高遠心力下における油分離が少ないグリースとして、種々の一方向クラッチ内臓型回転伝達装置に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に分岐鎖を有する炭素数3〜20のアルキル基、R3及びR4は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物を50質量%以上含む基油と、増ちょう剤として、一般式(2)
6−NHCONH−R5−NHCONH−R7 (2)
[式中、R6及びR7は、それぞれ独立に、(X)炭素数6〜24の1価の鎖式炭化水素基、(Y)炭素数6〜12の1価の脂環式炭化水素基又は(Z)炭素数6〜12の1価の芳香族炭化水素基、R5は、炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R6及びR7における、X、Y及びZの含有率(モル%)、x、y、zが下記の式(a)及び(b)を満たす。
(x+y)/(x+y+z)≧0.90 (a)
x/y=50/50〜0/100 (b)

で表されるジウレア化合物を含有するグリース。
【請求項2】
1及びR2が、それぞれ独立に分岐鎖を有する炭素数3〜12のアルキル基である請求項1に記載のグリース。
【請求項3】
1及びR2が、それぞれ独立に分岐鎖を有する炭素数6〜10のアルキル基である請求項1叉は2に記載のグリース。
【請求項4】
1及びR2が、分岐鎖を有する炭素数8又は9のアルキル基である請求項1〜3のいずれかに記載のグリース。
【請求項5】
一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物の引火点が、170℃以上である請求項1〜4のいずれかに記載のグリース。
【請求項6】
一般式(1)で表されるグリコールの分岐カルボン酸ジエステル化合物の流動点が−50℃以下である請求項1〜5のいずれかに記載のグリース。
【請求項7】
増粘剤を含む請求項1〜6のいずれかに記載のグリース。
【請求項8】
潤滑性向上剤、酸化防止剤及び防錆剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項1〜7のいずれかに記載のグリース。
【請求項9】
グリースから増ちょう剤を除いた成分である油分の40℃における動粘度が、15〜150mm2/sである請求項1〜8のいずれかに記載のグリース。
【請求項10】
一方向クラッチ内臓型回転伝達装置に用いられる請求項1〜9のいずれかに記載のグリース。

【公開番号】特開2008−106147(P2008−106147A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290248(P2006−290248)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】