説明

グリーンタイヤ変形矯正装置

【課題】 成型完了後のグリーンタイヤの加硫待機中に生じたビード部の変形を、加硫前に、より真円に近い状態まで矯正することができるグリーンタイヤ変形矯正装置を提供すること。
【解決手段】グリーンタイヤの加硫待機中に生じたビード部の変形を加硫前に矯正するグリーンタイヤ変形矯正装置であって、グリーンタイヤのビードの真円状態に合致した円弧形状のプレートを有する複数個の矯正治具と、複数個の矯正治具をそれぞれグリーンタイヤの径方向に移動させて、矯正治具をグリーンタイヤのビード部に押し付け、保持させる駆動手段とを備えているグリーンタイヤ変形矯正装置。矯正治具が、駆動手段に対して着脱自在に構成されているグリーンタイヤ変形矯正装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫待機中にグリーンタイヤに発生したビード部の変形を矯正するグリーンタイヤ変形矯正装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成型が完了したグリーンタイヤは、一旦受台に横置きされて、センターリングが行われた後、加硫機に装着されて加硫が行われることにより、製品タイヤとされる。
【0003】
しかし、グリーンタイヤは未加硫状態のゴムであるため、受台に横置きされている間に、塑性変形してビード部の変形を招く恐れがある。
【0004】
そして、このビード部の変形が解消されないままでグリーンタイヤが加硫機に装着されると、グリーンタイヤのセンターリングを行ったとしても、グリーンタイヤを加硫機の加硫金型の中心に正しくセットすることができず、傾いた状態で加硫されたタイヤや、ビードトウ部にゴムがはみ出したタイヤなどが作製されて不良タイヤとなる。
【0005】
そこで、従来より、加硫待機中に、ローラータイプの支持棒を用いてビード部を拡張することによりグリーンタイヤのセンターリングを図ると共に、この支持棒をビード部に生じた変形に押し付けて変形を矯正することが行われている(例えば、特許文献1)。
【0006】
これを図7を用いて説明する。図7において、2はグリーンタイヤ(図示せず)が載置される受台、10はローラータイプの支持棒、11は受台2に設けられたセンターリング機構である。センターリング機構11が複数の支持棒10をグリーンタイヤの径方向に移動させることにより、支持棒10がグリーンタイヤのビード部に接触して、グリーンタイヤのセンターリングが行われるが、このとき支持棒10がビード部を押し付けることによりビード部の変形が矯正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−269338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この方法は、本来、グリーンタイヤのセンターリングを目的とするものであり、支持棒11を充分な時間、ビード部の変形部に押し付けて保持することが行われないため、この変形を充分に矯正させることができないという問題がある。
【0009】
また、矯正が行われたとしても、その矯正はビード部に支持棒11を点で押し付けて行われるものであるため、所望する真円に近い状態にまでは矯正することができず、多角形の状態に矯正されるという問題もある。
【0010】
このため、加硫待機中に、成型完了後のグリーンタイヤに生じたビード部の変形を、より真円に近い状態まで矯正することができるグリーンタイヤ変形矯正装置を提供することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るグリーンタイヤ変形矯正装置は、
グリーンタイヤの加硫待機中にビード部の変形を矯正するグリーンタイヤ変形矯正装置であって、
前記グリーンタイヤのビードの真円状態に合致した円弧形状のプレートを有する複数個の矯正治具と、
前記複数個の矯正治具をそれぞれ前記グリーンタイヤの径方向に移動させて、前記矯正治具を前記グリーンタイヤのビード部に押し付け、保持させる駆動手段と
を備えていることを特徴とする。
【0012】
そして、前記のグリーンタイヤ変形矯正装置は、
前記矯正治具が、前記駆動手段に対して着脱自在に構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記のグリーンタイヤ変形矯正装置は、
前記矯正治具が、前記グリーンタイヤが載置される受台に設けられたグリーンタイヤセンターリング機構部に取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
さらに、前記のグリーンタイヤ変形矯正装置は、
前記ビード部の変形がビードの真円状態に合致した形状に矯正されるように、前記複数個の矯正治具を、所定圧力および所定時間、前記ビード部に押し付け、保持する制御手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加硫待機中に、成型完了後のグリーンタイヤに生じたビード部の変形を、より真円に近い状態まで矯正することができ、不良タイヤの発生を充分に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るグリーンタイヤ変形矯正装置の一実施の形態を模式的に示す図である。
【図2】矯正治具の一例を模式的に示す図である。
【図3】矯正治具のプレート高さと、楕円度、不良率との関係を示す図である。
【図4】矯正治具のプレート幅と、楕円度、不良率との関係を示す図である。
【図5】駆動手段の拡張圧力と、楕円度、不良率との関係を示す図である。
【図6】駆動手段の拡張保持時間と、楕円度、不良率との関係を示す図である。
【図7】従来のグリーンタイヤの変形矯正方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態に基づき、図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。
【0018】
1.グリーンタイヤ変形矯正装置
最初に、本発明に係るグリーンタイヤ変形矯正装置につき説明する。
【0019】
(1)全体構成
図1は、本発明に係るグリーンタイヤ変形矯正装置の一実施の形態を模式的に示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。図1に示すように、本実施の形態に係るグリーンタイヤ変形矯正装置1は、グリーンタイヤのビード部が形成する円の内部に配置された複数個の矯正治具3、3、・・・と、各々の矯正治具3をグリーンタイヤの径方向に移動させてグリーンタイヤのビード部に押し付け、保持する駆動手段4、4、・・・と、駆動手段4を制御する制御手段(図示せず)を備えている。
【0020】
グリーンタイヤ変形矯正装置1は、成型完了後のグリーンタイヤが横置きされる受台2に装着されているグリーンタイヤセンターリング機構部(図示せず)に取り付けられていることが好ましい。これにより、成型完了後のグリーンタイヤのセンターリングと変形矯正とを同時に行うことができる。
【0021】
駆動手段4としては、矯正治具3をグリーンタイヤの径方向に移動させてグリーンタイヤのビード部に押し付け、保持することができる手段であれば特に限定されず、例えば、図1に示すようなスライド機構を用いることができる。
【0022】
(2)矯正治具
図2は、矯正治具3の一例を模式的に示す図であり、(a)は平面図、(b)は斜視図である。図2に示すように、矯正治具3は、ビードリムが形成する円形に沿った円弧形状のプレート3aと、プレート3aの裏側(中心方向)に設けられ、駆動手段4に対して着脱自在に構成されている連結部3bとを備えている。
【0023】
このようにビードリムが形成する円形に沿った円弧形状のプレート3aを有する矯正治具3を複数個(通常は4個)用いることにより、駆動手段4によりビード部に押圧された際、ビード部に生じている変形をビードの真円状態に近い形状に矯正することができる。
【0024】
上記したように、プレート3aはビードの真円状態に合致した円弧形状に形成され、その半径rはビードリム径毎に、ビードリム径とほぼ同じ値に設定される。そして、生産されるタイヤに応じて、そのビードサイズに適したプレート3aを備えた矯正治具3に適宜交換される。設定される半径rとビードリム径との関係の一例を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
そして、このプレート3aは、駆動手段4によりグリーンタイヤのビード部に押し付け、保持されることにより、ビード部の変形を矯正するものであるため、プレート高さaとしてはグリーンタイヤのビード部の高さを十分に上回る高さが好ましい。また、プレート幅bとしては前記したように複数個で十分にビードの真円状態に近い形状まで矯正することができる幅が好ましい。具体的には、プレート高さaは20〜60mm、プレート幅bは80〜220mmの範囲で、ビードリム径に合わせた値に適宜設定される。
【0027】
2.グリーンタイヤの変形矯正方法
次に、上記のグリーンタイヤ変形矯正装置を用いたグリーンタイヤの変形矯正方法につき、図1を用いて説明する。
【0028】
(1)グリーンタイヤの載置
最初に、成型が完了したグリーンタイヤを、横置き状態で受台2に載置する。
【0029】
(2)矯正治具の取り付け
次に、載置されたグリーンタイヤのビードリム径に合致したサイズのプレート3aを備えた矯正治具3を複数個(図1においては4個)準備し、連結部3bを介して駆動手段4に取り付ける。このとき、駆動手段4は、受台2の中心部近傍にあることが好ましい。
【0030】
(3)変形の矯正
次に、取り付けられた矯正治具3のそれぞれを、駆動手段4により、グリーンタイヤの径方向外方に移動させる。矯正治具3の移動に伴って、プレート3aがビード部に押し付けられる。そして、プレート3aにより、ビード部を所定の拡張圧力、好ましくは0.25〜0.50MPaの圧力で押し付け、この状態を所定時間(拡張保持時間)、好ましくは4.5分以上保持する。これにより、ビード部に生じた変形が十分に矯正される。
【0031】
即ち、前記したように、プレート3aは、ビードリム径に対応した半径で十分な幅の円弧を形成すると共に、ビード部を上回る十分な高さを有しているため、ビード部を真円に近い状態で確実に支持することができる。そして、加硫時間に応じた所定時間、所定圧力で保持することにより、ビード部の変形を真円に近い状態にまで矯正することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本実施の形態に基づくグリーンタイヤ変形矯正装置を用いた具体的な実施例について説明する。
【0033】
サイズ195/65R15のタイヤを製造する過程で、上記のグリーンタイヤ変形矯正装置1を用いてグリーンタイヤの変形を矯正した。
【0034】
このタイヤのビードリム径は15インチであるため、矯正治具3のプレート3aの半径を、表1より380mmに設定した。なお、使用する矯正治具3の個数は4個とした。
【0035】
そして、プレート3aの寸法(高さ、幅)及びビード部の拡張条件(圧力、保持時間)を以下に示すように適宜変更して、上記に従いビード部の矯正を行った。
【0036】
そして、矯正後のグリーンタイヤの楕円度(楕円度=長径/短径)を測定し、評価した。評価については1.050以下の楕円度であれば良とした。
【0037】
その後、矯正後のグリーンタイヤを加硫し、グリーンタイヤの変形に起因する不良(TWIST)の発生率を集計し、評価した。評価については、0.020%以下の不良率であれば良と評価した。
【0038】
1.プレート寸法変更
(1)プレート高さを変更した場合
プレート幅b=150mm、拡張圧力=0.30MPa、拡張保持時間=8.0分に固定して、表2に示すように、プレート高さaを10〜70mmの範囲で10mmずつ変更して、上記楕円度の測定と不良率の集計を行った。
【0039】
結果を表2および図3に示す。なお、図3において、(a)は楕円度の測定結果であり、(b)は不良率の集計結果である。
【0040】
【表2】

【0041】
表2および図3(a)より、プレート高さを17mm程度以上に設定することにより、楕円度を1.050以下に十分矯正できることが分かる。
【0042】
また、表2および図3(b)より、プレート高さを19〜63mm程度に設定することにより、不良率を0.020%以下に十分維持できることが分かる。
【0043】
(2)プレート幅を変更した場合
プレート高さa=40mm、拡張圧力=0.30MPa、拡張保持時間=8.0分に固定して、表3に示すように、プレート幅bを30〜250mmの範囲で変更して、上記楕円度の測定と不良率の集計を行った。
【0044】
結果を表3および図4に示す。なお、図4において、(a)は楕円度の測定結果であり、(b)は不良率の集計結果である。
【0045】
【表3】

【0046】
表3および図4(a)より、プレート幅を80mm程度以上に設定することにより、楕円度を1.050以下に十分矯正できることが分かる。
【0047】
また、表3および図4(b)より、プレート幅を80〜220mm程度に設定することにより、不良率を0.020%以下に十分維持できることが分かる。
【0048】
2.拡張条件変更
(1)拡張圧力を変更した場合
プレート高さa=40mm、プレート幅b=150mm、拡張保持時間=8.0分に固定して、表4に示すように、拡張圧力を0.05〜0.45MPaの範囲で変更して、上記楕円度の測定と不良率の集計を行った。
【0049】
結果を表4および図5に示す。なお、図5において、(a)は楕円度の測定結果であり、(b)は不良率の集計結果である。
【0050】
【表4】

【0051】
表4および図5(a)より、拡張圧力を0.25MPa程度以上に設定することにより、楕円度を1.050以下に十分矯正できることが分かる。
【0052】
また、表4および図5(b)より、拡張圧力を0.25MPa程度以上に設定することにより、不良率を0.020%以下に十分維持できることが分かる。
【0053】
(2)拡張保持時間を変更した場合
プレート高さa=40mm、プレート幅b=150mm、拡張圧力=0.30MPaに固定して、表5に示すように、拡張保持時間を1.0〜10.0分の範囲で変更して、上記楕円度の測定と不良率の集計を行った。
【0054】
結果を表5および図6に示す。なお、図6において、(a)は楕円度の測定結果であり、(b)は不良率の集計結果である。
【0055】
【表5】

【0056】
表5および図6(a)より、拡張保持時間を4.5分程度以上に設定することにより、楕円度を1.050以下に十分矯正できることが分かる。
【0057】
また、表5および図6(b)より、拡張保持時間を4.5分程度以上に設定することにより、不良率を0.020%以下に十分維持できることが分かる。
【0058】
以上のように、本発明に係るグリーンタイヤ変形矯正装置を用い、矯正治具のプレート形状、拡張圧力、拡張保持時間を適切に設定、制御することにより、ビード部に生じた変形を真円に近い状態にまで矯正することができ、不良タイヤの発生を低減させることができる。
【0059】
以上、実施の形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一及び均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 グリーンタイヤ変形矯正装置
2 受台
3 矯正治具
3a プレート
3b 連結部
4 駆動手段
10 支持棒
11 センターギング機構
a プレート高さ
b プレート幅
r プレートの半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンタイヤの加硫待機中にビード部の変形を矯正するグリーンタイヤ変形矯正装置であって、
前記グリーンタイヤのビードの真円状態に合致した円弧形状のプレートを有する複数個の矯正治具と、
前記複数個の矯正治具をそれぞれ前記グリーンタイヤの径方向に移動させて、前記矯正治具を前記グリーンタイヤのビード部に押し付け、保持させる駆動手段と
を備えていることを特徴とするグリーンタイヤ変形矯正装置。
【請求項2】
前記矯正治具が、前記駆動手段に対して着脱自在に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のグリーンタイヤ変形矯正装置。
【請求項3】
前記矯正治具が、前記グリーンタイヤが載置される受台に設けられたグリーンタイヤセンターリング機構部に取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のグリーンタイヤ変形矯正装置。
【請求項4】
前記ビード部の変形がビードの真円状態に合致した形状に矯正されるように、前記複数個の矯正治具を、所定圧力および所定時間、前記ビード部に押し付け、保持する制御手段を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のグリーンタイヤ変形矯正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−31944(P2013−31944A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168564(P2011−168564)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】