説明

グルココルチコイドレセプターに特異的なアンタゴニストを使用して、せん妄を処置する方法

【課題】せん妄と診断された患者を処置するためにグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを投与する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、概して、精神医学の分野に関する。特に、本発明は、コルチゾルのそのレセプターへの結合を阻害する薬剤が、せん妄を処置するための方法において使用され得るという発見に関する。強力な特異的グルココルチコイドレセプターアンタゴニストであるミフェプリストンが、これらの方法において使用され得る。本発明はまた、ヒトにおけるせん妄を処置するためのキットを提供する。このキットは、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストならびにその徴候、投薬量、および投薬スケジュールを教示する指示書を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本願は、2001年5月4日付けで出願された仮出願番号第60/288,619号の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般的に、精神医学の分野に関する。詳細には、本発明は、グルココルチコイドレセプターへのコルチゾルの結合を阻害する薬剤が、せん妄を処置する方法において使用され得るという発見に関する。
【背景技術】
【0003】
(序論)
せん妄は、代表的に潜在的な身体的状態から生じる意識の障害である。せん妄に罹患した患者は、短期間の間に発症しかつその日の過程の間に変動する傾向がある認知の変化(例えば、記憶障害、見当識障害、および言語障害または知覚障害)を示す。
【0004】
せん妄の神経生理学な原因は、詳細には知られていない。せん妄の原因について有力な神経化学的仮説は、脳の特定領域におけるコリン作用性神経伝達の不活化に焦点を当てている(非特許文献1を参照のこと)。しかし、他の神経伝達物質(例えば、セロトニン、ドパミン、γ−アミノ酪酸およびグルタメート)における異常もまた、特定の条件下で、せん妄の発症に関与し得る(非特許文献2を参照のこと)。
【0005】
コルチゾルは、ACTH(コルチコトロピン)に応答して分泌されるグルココルチコイドホルモンであり、概日リズム変動を示し、そしてさらに、多くの身体的ストレスおよび心理的ストレスに対する応答性における重要な因子である。年齢と共にコルチゾル調節系は、いくらかの個体において過剰活性化されるようになって、高コルチゾル血症(hypercortisolemia)を引き起こすことが報告されている。さらに、高レベルのコルチゾルは、特に、海馬(複雑な情報および記憶の処理および一時的貯蔵の中心となると考えられている脳の構造)において、神経毒性であることが想定されている(例えば、非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5を参照のこと)。
【0006】
しかし、コルチゾルおよび他のグルココルチコイドの脳およびCNSでの作用は、神経毒性に限定されない。大脳の血流、酸素消費および大脳の興奮性に影響を及ぼすことに加えて、グルココルチコイドは、神経伝達機能に対して広範な作用を有する(非特許文献6を参照のこと)。これらの作用としては、中枢のムスカリン性コリン作用性レセプターへの結合阻害、ならびに、セロトニン代謝回転、視床下部性ドパミン平衡、および脳におけるβ−エンドルフィンレベル抑制の調節が挙げられる。グルココルチコイドが、せん妄の病因に関与する神経伝達をかき乱す能力は、グルココルチコイド調節の障害が、せん妄において役割を果たし得ることを示唆する。しかし、(副腎の機能不全または合成ホルモンの摂取に起因した)グルココルチコイドレベルの病理学的上昇は、せん妄の誘導と関連付けられたが(非特許文献7を参照のこと)、生理的なグルココルチコイドレベルとせん妄との間の関係は依然として不明である(概説として、非特許文献8を参照のこと)。せん妄状態の患者における、デキサメタゾン抑制試験による、視床下部−下垂体−副腎軸機能の評価は、矛盾を示した(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11を参照のこと)。さらに、直接的にグルココルチコイドレベルを測定するいくつかの研究は、せん妄と持続性の高コルチゾル血症との間に関係を見出したが(非特許文献12)、他の研究は、コルチゾルレベルの上昇とせん妄の発生とを関連付けることに失敗している(非特許文献13;非特許文献14)。
【0007】
しかし、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、特に、正常な範囲内に入るコルチゾルレベルを有する患者におけるせん妄のための有効な処置であり得るとの証拠は、本発明の前にはなかった。コルチゾルの作用の多くは、生理学的コルチゾルレベルで、II型(グルココルチコイド)レセプターに比べて優先的に占められるI型(ミネラルコルチコイド)レセプターに結合することによって媒介される。コルチゾルが増加するにつれて、より多くのグルココルチコイドレセプターが占有され、活性化される。しかし、コルチゾルが代謝において重要な役割を担うため、全てのコルチゾル媒介活性の阻害が、致命的である。それ故に、II型グルココルチコイドレセプター機能を特異的に抑制するアンタゴニストは、本発明における特定の使用のI型ミネラルコルチコイドレセプター機能を拮抗しない。ミフェプリストン(RU486)および同様のアンタゴニストは、レセプターアンタゴニストのこのカテゴリーの例である。
【0008】
本発明者らは、RU486のようなグルココルチコイドレセプターアンタゴニストが正常または減少したコルチゾルレベルを有する患者におけるせん妄の特異的処置のための有効な因子であることを決定した。それ故に、本発明は、せん妄と診断された患者を処置するためにグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを投与する方法を提供することによって、せん妄の症状の有効な処置の必要性を満たす。
【非特許文献1】Trzepacz,Dement Geriatr Cogn Disord 10:330−334(1999)
【非特許文献2】Flacker&Lipsitz,J Gerontol A Biol Sci Med Sci 54:B239−46(1999)
【非特許文献3】Sapolskyら,Ann.NY Acad.Sci.746:294−304,1994
【非特許文献4】Silva,Annu.Rev.Genet.31:527−546,1997
【非特許文献5】de Leonら,J Clin.Endocrinol&Metab.82:3251,1997
【非特許文献6】DeKloetら,Handbook Neurochem 8:47−91(1985)
【非特許文献7】Stroudemireら,Gen Hosp Psychiatry 18 :196−202(1996)
【非特許文献8】Flacker & Lipsitz,J Gerontol A Biol Sci Med Sci 54:B239−46(1999)
【非特許文献9】Koponenら,Nord Psykiatr Tidsskr 43:203−207(1987)
【非特許文献10】McKeith,Br J Psychiatry 145:389−393(1984)
【非特許文献11】O’Keefe & Devline,Neuropsychobiology 30:153−156(1994)
【非特許文献12】Gustafsonら,Cerebrovasc Dis 3:33−38(1993)
【非特許文献13】van der Mastら,Filippini編,Recent Advances in Tryptophan Research,New York:Plenum Press,93−96(1996)
【非特許文献14】McIntoshら,Psychoneuroendocrinology 10:303−313(1985)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下を提供する。
(項目1)
せん妄の症状を改善するに有効な量のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを投与することによって、せん妄の症状の改善を必要とする患者において、せん妄の症状を改善する方法であって、ただし該患者は、せん妄の症状の改善を必要としないのであれば、該グルココルチコイドレセプターアンタゴニストで処置される必要がない、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、ステロイド骨格を含み、該ステロイド骨格は、該ステロイド骨格の11−β位置に少なくとも1つのフェニル含有部分を有する、方法。
(項目3)
項目2に記載の方法であって、前記ステロイド骨格の11−β位置における前記フェニル含有部分は、ジメチルアミノフェニル部分である、方法。
(項目4)
項目3に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、ミフェプリストンを含む、方法。
(項目5)
項目4に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、RU009およびRU044からなる群より選択される、方法。
(項目6)
項目1に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、1日あたり体重1kgあたり約0.5〜約20mgの間の量で毎日投与される、方法。
(項目7)
項目6に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、1日あたり体重1kgあたり約1〜約10mgの間の量で毎日投与される、方法。
(項目8)
項目7に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、1日あたり体重1kgあたり約1〜約4mgの間の量で毎日投与される、方法。
(項目9)
項目1に記載の方法であって、前記投与が1日あたり1回である、方法。
(項目10)
項目1に記載の方法であって、投与様式が経口である、方法。
(項目11)
項目1に記載の方法であって、投与様式が、経皮適用によるか、霧状化させた懸濁物によるか、またはエアロゾルスプレーによる、方法。
(項目12)
ヒトにおいてせん妄を処置するためのキットであって、該キットは、以下:
特異的なグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト;および
せん妄を有する患者に対する、該グルココルチコイドレセプターアンタゴニストの投与に関する適応、投薬量およびスケジュールを教示する、指示書
を備える、キット。
(項目13)
項目12に記載のキットであって、前記指示書は、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、1日あたり体重1kgあたり約0.5〜約20mgの量で毎日投与され得ることを示す、キット。
(項目14)
項目12に記載のキットであって、前記指示書は、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、1日あたり体重1kgあたり約1〜約10mgの量で毎日投与され得ることを示す、キット。
(項目15)
項目12に記載のキットであって、前記指示書は、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、1日あたり体重1kgあたり約1〜約4mgの量で毎日投与され得ることを示す、キット。
(項目16)
項目12に記載のキットであって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストがミフェプリストンである、キット。
(項目17)
項目12に記載のキットであって、ミフェプリストンが錠剤形態にある、キット。
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、正常または減少したコルチゾルレベルを有する患者におけるせん妄の症状を回復する方法を提供する。本方法は、治療的有効量のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストの患者への投与を包含する。
【0011】
本発明の1実施形態において、せん妄を処置する方法は、ステロイド様骨格の11−β位に少なくとも1個のフェニル含有部分を有するステロイド様骨格を含むグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを使用する。ステロイド様骨格の11−β位におけるフェニル含有部分は、ジメチルアミノフェニル部分であり得る。代替の実施形態において、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストはミフェプリストンを含むか、またはこのグルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、RU009およびRU044からなる群から選択される。
【0012】
他の実施形態において、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、1日あたり体重1kgあたり約0.5〜約20mgの間;1日あたり体重1kgあたり約1〜約10mgの間;または1日あたり体重1kgあたり約1〜約4mgの間の日量で投与される。この投与は、1日あたり1回であり得る。代替の実施形態において、グルココルチコイドレセプターアンタゴニスト投与の形態は、経口であるか、または経皮適用によるか、噴霧された懸濁液によるか、もしくはエアロゾル噴霧による。
【0013】
本発明はまた、ヒトにおけるせん妄の処置のためのキットを提供し、このキットは、グルココルチコイドレセプターアンタゴニスト;およびグルココルチコイドレセプターアンタゴニストの投与の指示、投薬量およびスケジュールを教示する指示書(instructional material)を含む。代替の実施形態において、この指示書は、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、1日あたり体重1kgあたり約0.5〜約20mgの間;1日あたり体重1kgあたり約1〜約10mgの間;または1日あたり体重1kgあたり約1〜約4mgの間の日量で投与され得ることを指示する。この指示書は、コルチゾルがせん妄を有する患者におけるせん妄症状に寄与し、このグルココルチコイドレセプターアンタゴニストがせん妄を処置するために使用され得ることを指示し得る。1実施形態において、キット内のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、ミフェプリストンである。このミフェプリストンは、錠剤形態であり得る。
【0014】
本発明の特徴および利点のさらなる理解は、本明細書および特許請求の範囲の残りの部分を参照することによって行われる。
【0015】
本明細書中で引用された全ての刊行物、特許および特許出願は、全ての目的のために、本明細書によって明確に参考として援用される。
【0016】
(定義)
用語「処置する」とは、寛解;緩解;症状の遅延または傷害、病理もしくは状態を患者に対してより耐性にすること;変性または衰弱の速度を遅延すること;変性の最終地点をあまり衰弱させないようにすること;患者の肉体的または精神的な健康を改善することのような任意の客観的または主観的パラメータを含む、傷害、病理または状態の処置または回復における任意の成功の指標(indicia)をいう。症状の処置または回復は、肉体的試験、神経精神医学的な試験、および/または精神医学的評価の結果を含む客観的または主観的パラメータに基づき得る。例えば、本発明の方法は、自覚または認識における障害の頻度を減少させることによって患者のせん妄を首尾よく処置する。
【0017】
用語「せん妄」とは、American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of
Mental Disorders,第4編、Text Revision,Washington,D.C.,2000(「”DSM−IV−TR」)に規定されるような、広義の意味の精神医学的状態をいう。DSM−IV−TRは、「せん妄」を短期間にわたって進展する自覚の障害であり、既存または発展する痴呆によってうまく説明され得ない認識の変化を伴う、障害であると定義する。このDSM−IV−TRは、せん妄を診断または分類するための一般に受容された基準を記載する。
【0018】
用語「コルチゾル」とは、ヒドロコルチゾンおよびその任意の合成または天然のアナログとも呼ばれる組成物のファミリーをいう。
【0019】
用語「グルココルチコイドレセプター(「GR」)」は、コルチゾルおよび/またはコルチゾルアナログに特異的に結合するコルチゾルレセプターとも呼ばれる細胞内レセプターのファミリーをいう。この用語は、GRのアイソフォーム、組換えGRおよび変異したGRを含む。
【0020】
用語「ミフェプリストン」とは、代表的に高親和性でGRに結合し、GRレセプターに対する任意のコルチゾルまたはコルチゾルアナログの結合によって開始/媒介される生物学的効果を阻害する、RU486、またはRU38.486、つまり17−β−ヒドロキシ−11−β−(4−ジメチル−アミノフェニル)−17−α−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン、または11−β−(4−ジメチルアミノフェニル)−17−β−ヒドロキシ−17−α−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン、またはそのアナログとも呼ばれる組成物のファミリーをいう。RU−486についての化学名は変動し;例えば、RU486はまた、11B−[p−(ジメチルアミノ)フェニル]−17B−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;11B−(4−ジメチル−アミノフェニル)−17B−ヒドロキシ−17A−(プロプ−1−イニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;17B−ヒドロキシ−11B−(4−ジメチルアミノフェニル−1)−17A−(プロピニル−1)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;17B−ヒドロキシ−11B−(4−ジメチルアミノフェニル−1)−17A−(プロピニル−1)−E;(11B,17B)−11−[4−ジメチルアミノ)−フェニル]−17−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン;および11B−[4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]−17A−(プロプ−1−イニル)−D−4,9−エストラジエン−17B−オール−3−オンと名付けられている。
【0021】
用語「特異的なグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト」とは、GRに対する、コルチゾル、または合成もしくは天然のコルチゾルアナログのようなグルココルチコイドレセプター(GR)アゴニストの結合を部分的にまたは完全に阻害(拮抗)する任意の組成物または化合物をいう。「特異的なグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト」とはまた、アゴニストに対するGRの結合に関連した任意の生物学的応答を阻害する任意の組成物または化合物をいう。「特異的」とは、本発明者らはミネラルコルチコイドレセプター(MR)に比べて、少なくとも100倍(頻繁には1000倍で)の親和力で、薬物がGRと優先的に結合することを意図する。
【0022】
「他にグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを用いた処置を必要としない」患者は、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストを用いて効果的に処置可能であることが当該分野で公知である状態に罹患していない患者である。グルココルチコイドレセプターアンタゴニストを用いて効果的に処置可能であることが当該分野で公知の状態として、クッシング病、麻薬禁断症状、精神病、痴呆、ストレス障害、および精神病性大鬱病が挙げられる。
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、グルココルチコイド誘導性の生物学的応答を阻害し得る薬剤が、せん妄の処置のために有効であるという、驚くべき発見に関する。せん妄の処置において、本発明の方法は、好ましくは、せん妄の症状を緩和し得るか、またはその基礎にある障害自体の完全な解決を導き得る。1つの実施形態において、本発明の方法は、GRとコルチゾルとの相互作用をブロックするGRアンタゴニストとして作用する薬剤を使用して、せん妄またはせん妄に関連する症状を処置または緩和する。本発明の方法は、正常か、増加したか、または減少したレベルのコルチゾルまたは天然もしくは合成の他のグルココルチコイドのいずれかに罹患したせん妄患者の症状を緩和する際に有効である。
【0024】
コルチゾルは、細胞内グルココルチコイドレセプター(GR)に結合することによって作用する。ヒトにおいて、グルココルチコイドレセプターは、2つの形態で存在する:777アミノ酸のリガンド結合GR−α;および少なくとも15アミノ酸のみが異なるGR−βアイソフォーム。2つの型のGRは、それらの特異的リガンドに対して高い親和性を有し、そして同じ伝達経路を介して機能すると考えられる。
【0025】
コルチゾルの生物学的効果(副腎皮質機能亢進によって引き起こされる病理または機能不全を含む)は、レセプターアンタゴニストを使用して、GRレベルにて調節および制御され得る。いくつかの異なるクラスの薬剤は、GRアンタゴニストとして作用し得る、すなわち、GR−アゴニスト結合の生理学的効果をブロックし得る(天然のアゴニストは、コルチゾルである)。これらのアンタゴニストとしては、GRに結合することによって、アゴニストがGRに効果的に結合する能力、および/またはGRを活性化する能力をブロックする組成物が挙げられる。既知のGRアンタゴニストの1つのファミリーである、ミフェプリストンおよび関連化合物は、ヒトにおける有効かつ強力な抗グルココルチコイド剤である(Bertagna、J.Clin.Endocrinol.Metab.59:25、1984)。ミフェプリストンは、高い親和性で、10−9M未満の解離Kで、GRに結合する(Cadepond、Annu.Rev.Med.48:129、1997)。従って、本発明の1実施形態において、ミフェプリストンおよび関連化合物は、せん妄を処置するために使用される。
【0026】
せん妄は、代表的に、種々の症状(記憶障害、見当識障害、知覚障害、睡眠−覚醒サイクルの障害および混乱した精神運動挙動を含む)を伴って、それ自体現れる。従って、せん妄を診断し、そして処置の成功(すなわち、成功および本発明の方法によって低減されるせん妄の症状の程度)を評価する種々の手段が使用され得、そしていくつかの例示的手段が、本明細書中に示される。これらの手段としては、古典的な主観的心理学的評価および以下に記載されるような神経精神病学的試験が挙げられ得る。
【0027】
本発明の方法は、アゴニストに結合したGRの生物学的効果を阻害する任意の手段の使用を含むので、せん妄を処置するために使用され得る例示的な化合物および組成物もまた、示される。本発明の方法の実施の際に使用するための、GR−アゴニスト相互作用によって引き起こされる生物学的応答をブロックし得るさらなる化合物および組成物を同定するために使用され得る慣用的な手順もまた、記載される。本発明は、これらの化合物および組成物を医薬として投与するために提供するので、本発明の方法を実施するためのGRアンタゴニスト薬物レジメンおよび処方を決定するための慣用的な手段は、以下に示される。
【0028】
(1.せん妄の診断)
せん妄は、比較的短時間にわたって発生する意識障害および認識の変化によって特徴付けられる。意識障害は、しばしば、周辺環境の認識の明確さの減少によって明らかである。患者は、注意を集中させるか、維持するか、または転換する能力の減少を示す(DSM−IV−TR診断基準A)。意識障害に伴って、せん妄患者は、認識障害(例えば、記憶障害、見当識障害、言語困難)または知覚障害(例えば、誤った解釈、錯覚または幻覚)を示す(基準B)。せん妄とみなされるには、意識、認識または知覚におけるこれらの障害は、短時間にわたって発生するべきであり、そして数日間の過程の間に変動する傾向がある(基準C)。
【0029】
本発明のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストは、いくつかの可能な病因論のいずれかから生じるせん妄を処置する際に有効である。せん妄は、多数の一般的な医学的状態(中枢神経系障害(例えば、外傷、発作、脳障害)、代謝障害(例えば、腎不全または肝不全、流体または電解質の不均衡)、心肺障害(例えば、うっ血性心不全、心筋梗塞、ショック)および全身的な病気または影響(例えば、感染、感覚遮断および術後状態)を含む)から生じ得る。グルココルチコイドレセプターアンタゴニストはまた、物質誘発性せん妄(例えば、物質中毒または離脱症状、医学的副作用および毒素暴露によって誘発されるせん妄)を処置するためにも有効である。せん妄は、複数の刺激性病因(例えば、一般的な医学的状態と物質中毒との組み合わせ)から生じ得、そしてこのようなせん妄、および起源が未知もしくは分類されていないせん妄は、本発明のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを用いて処置され得る。
【0030】
せん妄の診断は、痴呆または精神病の診断とは別個である。記憶障害は、せん妄および痴呆の両方に共通であるが、痴呆のみを有する患者は機敏であり、そして通常せん妄に特徴的な意識障害を示さない。痴呆患者は、代表的に、せん妄を特徴付ける、24時間を超える症状の盛衰を欠く。同様に、妄想、幻覚および動揺は、せん妄および精神病の両方の特徴であり得るが、精神病患者は、思考内容における基本的な障害に罹患している。対照的に、せん妄患者は、内部思考内容ではなく、知覚および見当識における障害に罹患している。存在する場合、精神病的症状は、全身性ではなく細分化される傾向がある。せん妄はまた、特徴的な症状の盛衰、本明細書に記載される顕著なEEG異常、および促進(precipitating)因子(例えば、一般的な医学的状態または物質中毒)の存在によって、痴呆、精神病、ストレス障害および気分障害から識別される。
【0031】
せん妄は、当該分野で公知のいくつかの客観的な標準化試験装置のいずれか1つを用いて診断および評価され得るが、熟練の臨床医は、体系化されていない臨床的相互作用によって、せん妄を容易に診断し得る。標準化試験装置は、DSM診断基準に基づいて、経験を積んだ臨床研究者によって構築され、そして種々の患者集団の統計的研究および比較によって、代表的には確認される。一般に、標準化装置は、精神学的症状および生理学的症状の両方、ならびに内部思考プロセスを評価する。せん妄の存在および重篤度は、覚醒障害、意識レベル、認識機能(例えば、記憶、注意、見当識、思考障害)および精神運動活性を評価することによって、決定され得る。せん妄の診断のための標準化試験装置は、通常、専門のヘルスケア専門医によって施行され、そしてインタラクティブ試験および患者の挙動の観察を比較し得る。
【0032】
せん妄を評価するための標準化された試験機器としては、Delirium Rating Scale(概説については、Trzepacz,Psychosomatics
40:193−204(1999)を参照のこと)、Memorial Delirium Assessment Scale(Breitbartら,J Pain Symptom Manage 13:128−137(1997))、Delirium Severity Scale(Bettinら,Am J Geriatr Psychiatry 6:296−307(1998))、およびDelirium Symptom Interview(Albertら,J Geriatr Psychiatry Neurol 5:14−21(1992))が挙げられる。最も統計学的に有効に患者をせん妄集団および非せん妄集団へと分類するカットオフスコアは、最適な陽性および陰性予測力(predictive power)に基づいて算出され、そして各々の試験について確立および報告されており(例えば、Memorial Delirium Assessment Scaleにおける13もしくはそれより大きいスコア、またはDelirium Rating Scaleにおける10もしくはそれより大きいスコア)、そして治療について患者を選択するために使用され得る。
【0033】
せん妄はまた、脳波記録法(EEG)の使用により診断および等級付けされ得る(概説については、Jacobson & Jerrier,Semin Clin Neuropsychiatry,5:86−92(2000)を参照のこと)。せん妄患者の脳波記録法は、後部の主要な律動の特徴的な遅延または減少、θ徐波活性またはδ徐波活性の生成、背景の律動の乏しい組織化、および目の開閉に対するEEGの反応性の喪失より特徴付けられる。せん妄患者はまた、定量EEG(QEEG)により診断され得る。QEEGにおいて、せん妄患者は、増加した絶対的および相対的な徐波(θおよびδ)力、高速帯域力(fast band power)対 低速帯域力の減少した比、減少した平均周波数、および減少した後頭部ピーク周波数を示す。従って、EEGまたはQEEGは、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストによる処置について患者を選択するためか、またはグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト療法の効果をモニタリングするために使用され得る。
【0034】
(2.一般的な研究室手順)
本発明の方法を実施する場合、多くの一般的な研究室試験を使用してせん妄患者の診断、経過、および予後(血液コルチゾル、薬物代謝、脳構造、および機能などのようなパラメータのモニタリングを含む)において補助し得る。これらの手順は、全ての患者が、薬物を独特に代謝しそして薬物と反応するので、助けとなり得る。さらに、このようなモニタリングは、各GRアンタゴニストが異なる薬物動態を有することから、重要であり得る。異なる患者および疾患状態は、異なる投薬レジメンおよび処方を必要とし得る。投薬レジメンおよび処方を決定するためのこのような手順および手段は、科学文献および特許文献に十分に記載されている。以下に、いくつかの代表的な実施例を示す。
【0035】
(a.血液コルチゾルレベルの決定)
血液コルチゾルのレベルの変化は、せん妄に関連するが、本発明はまた、見かけ上正常レベルの血液コルチゾルを有する患者においても実施され得る。従って、血液コルチゾルのモニタリングおよび基底コルチゾルレベルの決定は、せん妄患者の診断、処置、および予後における補助に有用な研究室試験である。個体が正常であるか、低コルチゾル血症であるか、または高コルチゾル血症であるかを決定するために使用され得る広範な種々の研究室試験が存在する。せん妄患者は、代表的に、正常レベルのコルチゾルを有し、しばしば午前中には25μg/dl未満であり、そして頻繁に、午後には約15μg/dl以下であるが、この値はしばしば、正常範囲の上限であり、一般的に、午後には5〜15μg/dlであるとみなされる。
【0036】
イムノアッセイ(例えば、ラジオイムノアッセイ)は、それらが、正確であり、実行するのが容易であり、そして比較的安価なために、一般的に使用されている。循環コルチゾルのレベルは、副腎皮質機能の指標であるので、種々の刺激および抑制試験(例えば、ACTH刺激、ACTH貯蔵、またはデキサメタゾン抑制)(例えば、Greenwald,Am.J.Psychiatry 143:442−446,1986を参照のこと)はまた、本発明の方法において付属的に使用される診断情報、予後情報、または他の情報を提供し得る。
【0037】
キット形態で利用可能な1つのこのようなアッセイは、「Double Antibody Cortisol Kit」(Diagnostic Products Corporation,Los Angeles,CA)(Acta Psychiatr.Scand.70:239−247,1984)として利用可能なラジオイムノアッセイである。この試験は、125I標識コルチゾルが、抗体部位について、臨床サンプル由来のコルチゾルと競合する競合性ラジオイムノアッセイである。この試験において、抗体の特異性および任意の有意なタンパク質効果の欠落に起因して、血清および血漿サンプルは、前抽出も前希釈も必要としない。このアッセイは、以下の実施例2においてさらに詳細に記載される。
【0038】
(b.血液/尿ミフェプリストンレベルの決定)
患者の代謝、浄化率、毒性レベルなどは、根底にある主要疾患状態または二次的疾患状態、薬物履歴、年齢、全般的な医学的状態などの変化に伴い異なるので、GRアンタゴニストの血液レベルおよび尿レベルを測定する必要があり得る。このようなモニタリングのための手段は、科学文献および特許文献に十分記載されている。本発明の1つの実施形態において、ミフェプリストンは、せん妄を処置するために投与されるので、血液ミフェプリストンレベルおよび尿ミフェプリストンレベルを決定する代表的な例を、以下の実施例に示す。
【0039】
(c.他の研究室手順)
せん妄の発症は複雑であり得るので、多くのさらなる研究室試験が、診断、処置効果、予後、毒性などにおいて補助となるよう、本発明の方法において付随的に使用され得る。例えば、増加した高コルチゾル血症もまた、せん妄に関連するので、診断および処置評価は、グルココルチコイド感受性の変数(空腹時の血糖、経口グルコース投与後の血糖、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血漿濃度、コルチコステロイド結合グロブリン、黄体形成ホルモン(LH)、テストステロン−エストラジオール結合グロブリン、ならびに/または総テストステロンおよび遊離テストステロンが挙げられるがこれらに限定されない)をモニタリングおよび測定することによって増強され得る。
【0040】
GRアンタゴニスト代謝産物生成、血漿濃度および浄化率(アンタゴニストおよび代謝産物の尿濃度を含む)をモニタリングおよび測定する研究室試験もまた、本発明の方法を実施する上で有用であり得る。例えば、ミフェプリストンは、2つの疎水性の、N−モノメチル化代謝産物およびN−ジメチル化代謝産物を有する。(RU486に加えて)これらの代謝産物の血漿濃度および尿濃度は、例えば、Kawai,Pharmacol.and Experimental Therapeutics 241:401−406,1987に記載されるように、薄層クロマトグラフィーを用いることで決定され得る。
【0041】
(3.せん妄を処置するためのグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト)
本発明は、GRに対するコルチゾルまたはコルチゾルアナログの結合に関連する生物学的応答をブロックし得る任意の組成物または化合物を用いてせん妄を処置する方法を提供する。本発明の方法において使用されるGR活性のアンタゴニストは、科学文献および特許文献に十分に記載されている。以下に、いくつかの代表的な実施例を示す。
【0042】
(a.GRアンタゴニストとしてのステロイド性抗グルココルチコイド)
ステロイド性グルココルチコイドアンタゴニストは、本発明の種々の実施形態におけるせん妄の処置のために投与される。ステロイド性抗グルココルチコイドは、グルココルチコイドアゴニストの基本構造を改変することにより獲得され得る(ステロイド骨格の変更された形態)。コルチゾルの構造は、種々の方法で改変され得る。グルココルチコイドアンタゴニストを作製するための、2つの最も一般的に公知のクラスのコルチゾルステロイド骨格の構造的改変としては、11−β水酸基の改変および17−β側鎖の改変が挙げられる(例えば、Lefebvre,J.Steroid Biochem.33:557−563,1989を参照のこと)。
【0043】
(i)11−β水酸基の除去または置換
11−β水酸基の除去または置換を含む改変されたステロイド骨格を有するグルココルチコイドアゴニストは、本発明の1つの実施形態において投与される。このクラスとしては、天然の抗グルココルチコイド(コルテキソロン、プロゲステロン、およびテストステロン誘導体を含む)、ならびに合成組成物(例えば、ミフェプリストン)が挙げられる(Lefebvreら,前出)。本発明の好ましい実施形態としては、全ての11−β−アリールステロイド骨格誘導体が挙げられる。なぜならば、これらの化合物は、プロゲステロンレセプターPR)結合活性を欠くからである(Agarwal,FEBS 217:221−226,1987)。別の好ましい実施形態は、効果的な抗グルココルチコイド剤および抗プロゲステロン剤である11−βフェニル−アミノジメチルステロイド骨格誘導体(すなわち、ミフェプリストン)を含む。これらの組成物は、可逆的結合性ステロイドレセプターアンタゴニストとして機能する。例えば、11−βフェニル−アミノジメチルステロイドに結合される場合、ステロイドレセプターは、その天然のリガンド(例えば、GRの場合は、コルチゾル)と結合し得ないコンホメーションで維持される(Cadepond,1997,前出)。
【0044】
合成の11−βフェニル−アミノジメチルステロイドとしては、RU486としても公知のミフェプリストン、または17−β−ヒドロキシ−11−β−(4−ジメチル−アミノフェニル)17−α−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン)が挙げられる。ミフェプリストンは、プロゲステロンレセプターおよびグルココルチコイドレセプター(GR)の両方の強力なアンタゴニストであることが示されている。GRアンタゴニスト効果を有することが示された別の11−βフェニル−アミノジメチルステロイドとしては、RU009(RU39.009)、11−β−(4−ジメチル−アミノエトキシフェニル)−17−α−(プロピニル−17β−ヒドロキシ−4,9エストラジエン−3−オン)が挙げられる(Bocquel,J Steroid Biochem.Molec.Biol.45:205−215,1993を参照のこと)。RU486に関する別のGRアンタゴニストは、RU044(RU43.044)17−β−ヒドロキシ−17−α−19−(4−メチル−フェニル)−アンドロスタ−4,9(11)−ジエン−3−オン)である(Bocquel,1993,前出)。また、Teutsch,Steroids 38:651−665,1981;米国特許第4,386,085号および同第4,912,097号も参照のこと。
【0045】
1つの実施形態は、不可逆的な抗グルココルチコイドである基本的なグルココルチコイドステロイド構造を含む組成物を含む。このような化合物は、コルチゾルのα−ケト−メタンスルホネート誘導体(コルチゾル21−メシラート(4−プレグネン−11−β,17−α,21−トリオール−3,20−ジオン−21−メタン−スルホネート)およびデキサメタゾン−21−メシラート(16−メチル−9α−フルオロ−1,4−プレグナジエン−11 β,17−α,21−トリオール−3,20−ジオン−21−メタン−スルホネート)を含む)を含む。Simons,J Steroid Biochem.24:25−32 1986;Mercier,J Steroid Biochem.25:11−20,1986;米国特許第4,296,206号を参照のこと。
【0046】
(ii)17−β側鎖基の改変
17−β側鎖の種々の構造改変によって得られ得るステロイド性の抗グルココルチコイドもまた、本発明の方法において使用される。このクラスは、デキサメタゾン−オキセタノンのような合成の抗グルココルチコイド、デキサメタゾンの種々の17,21−アセトニド誘導体および17−β−カルボキサミド誘導体を含む(Lefebvre,1989,前出;Rousseau,Nature 279:158−160,1979)。
【0047】
(iii)他のステロイド骨格の改変
本発明の種々の実施形態において使用されるGRアンタゴニストは、GR−アゴニスト相互作用から生じる生物学的応答をもたらす任意のステロイド骨格改変を含む。ステロイド骨格のアンタゴニストは、コルチゾルの任意の天然または合成のバリエージョン(例えば、C−19メチル基を欠いている副腎ステロイド(例えば、19−ノルデオキシコルチコステロンおよび19−ノルプロゲステロン))であり得る(Wynne,Endocrinology 107:1278−1280,1980)。
【0048】
概して、11−β側鎖置換基、および特にその置換基の大きさが、ステロイドの抗グルココルチコイド活性の程度の決定において重要な役割を果たし得る。ステロイド骨格のA環における置換基もまた、重要であり得る。17−ヒドロキシプロペニル側鎖は、一般に、17−プロピニル側鎖含有化合物と比較して、抗グルココルチコイド活性を減少させる。
【0049】
当該分野で公知でありかつ本発明の実施に適切な、さらなるグルココルチコイドレセプターアンタゴニストとしては、21−ヒドロキシ−6,19−オキシドプロゲステロン(Vicent,Mol.Pharm.52:749−753(1997)を参照のこと)、Org31710(Mizutani,J Steroid Biochem Mol
Biol 42(7):695−704(1992)を参照のこと)、Org34517、RU43044、RU40555(Kim,J Steroid Biochem Mol Biol.67(3):213−22(1998)を参照のこと)、RU28362、およびZK98299が挙げられる。
【0050】
(b.アンタゴニストとしての非ステロイド性の抗グルココルチコイド)
非ステロイド性のグルココルチコイドアンタゴニストはまた、本発明の方法においてせん妄を処置するために使用される。これらは、タンパク質の合成の模倣物およびアナログ(部分的ペプチド性分子実体、偽ペプチド性分子実体および非ペプチド性分子実体を含む)を含む。例えば、本発明において有用なオリゴマーのペプチド模倣物としては、(α−β不飽和)ペプチドスルホンアミド、N−置換グリシン誘導体、オリゴカルバーメート、オリゴ尿素ペプチド模倣物、ヒドラジノペプチド、オリゴスルホンなどが挙げられる(例えば、Amour,Int.J Pept.Protein Res.43:297−304,1994;de Bont,Bioorganic&Medicinal Chem.4:667−672,1996を参照のこと)。合成分子の巨大なライブラリーの作製および同時スクリーニングは、コンビナトリアルケミストリーにおける周知の技術を用いて実施され得る(例えば、van Breemen,Anal Chem 69:2159−2164,1997;およびLam,Anticancer Drug Des 12:145−167,1997を参照のこと)。GRに特異的なペプチド模倣物の設計は、コンビナトリアルケミストリー(コンビナトリアルライブラリー)スクリーニングアプローチと組み合わせて、コンピュータープログラムを用いて設計され得る(Murray,J of Computer−Aided Molec.Design 9:381−395,1995;Bohm,J.of Computer−Aided Molec.Design 10:265−272,1996)。このような「合理的な薬物デザイン」は、(Chorev,TibTech 13:438−445,1995において考察されるように)ペプチド異性体、および配座異性体(シクロ異性体、逆−逆性(retro−inverso)異性体、逆異性体などを含む)の開発を助け得る。
【0051】
(c.特異的グルココルチコイドレセプターアンタゴニストの同定)
任意の特異的GRアンタゴニストが、本発明の方法においてせん妄の処置に使用され得るので、上記の化合物および組成物に加えて、さらなる有用なGRアンタゴニストが、当業者によって決定され得る。種々の、このような慣用的な周知の方法が使用され得、そして科学的文献および特許文献に記載される。これらは、さらなるGRアンタゴニストの同定のための、インビトロおよびインビボのアッセイを含む。いくつかの例示的な例は、以下に記載される。
【0052】
本発明のGRアンタゴニストを同定するために使用され得る1つのアッセイは、Granner,Meth.Enzymol.15:633,1970の方法に従って、チロシンアミノ−トランスフェラーゼ活性に対する推定のGRアンタゴニストの影響を測定する。この分析は、ラット肝癌細胞(RHC)の培養物中での肝酵素チロシンアミノ−トランスフェラーゼ(TAT)の活性の測定に基づく。TATは、チロシンの代謝における第一の工程を触媒し、そして肝細胞および肝癌細胞の両方において、グルココルチコイド(コルチゾル)によって誘導される。この活性は、細胞抽出物中で容易に測定される。TATは、チロシンのアミノ基を2−オキソグルタル酸に変換する。p−ヒドロキシフェニルピルベートもまた、形成される。これは、アルカリ溶液中で、より安定なp−ヒドロキシベンズアルデヒドに転換され得、そして331nmでの吸光度によって定量化され得る。推定のGRアンタゴニストは、インビボおよびエクスビボで肝臓全体に、あるいは肝癌細胞または細胞抽出物に、コルチゾルと一緒に同時投与される。化合物は、その投与が、コントロール(すなわち、コルチゾルのみまたはGRアゴニストのみを加えた)と比較して、誘導されるTAT活性の量を減少させる場合、GRアンタゴニストとして同定される(Shirwany,Biochem.Biophys.Acta 886:162−168,1986もまた参照のこと)。
【0053】
TATアッセイに加えて、本発明の方法において利用される組成物を同定するために使用され得る多くのアッセイのさらなる例証は、インビボでのグルココルチコイド活性に基づくアッセイである。例えば、推定のGRアンタゴニストが、グルココルチコイドによって刺激された細胞中のDNAへの3H−チミジンの取り込みを阻害する能力を評価するアッセイが、使用され得る。あるいは、推定のGRアンタゴニストは、肝癌組織培養物GRへの結合について、3H−デキサメタゾンと競合し得る(例えば、Choiら、Steroids 57:313−318,1992を参照のこと)。別の例として、推定のGRアンタゴニストが3H−デキサメタゾン−GR複合体の核結合をブロックする能力が、使用され得る(Alexandrovaら、J Steroid Biochem.Mol.Biol.41:723−725,1992)。推定のGRアンタゴニストをさらに同定するために、(Jones,Biochem J.204:721−729,1982に記載されるような)レセプター結合の反応速度論による、グルココルチコイドのアゴニストとアンタゴニストとの間の識別を可能にする動力学的アッセイもまた、使用され得る。
【0054】
別の例示的な例において、Daune,Molec.Pharm.13:948−955,1977;および米国特許第4,386,085号に記載されるアッセイが、抗グルココルチコイド活性を同定するために使用され得る。手短に言うと、副腎摘出されたラットの胸腺細胞は、デキサメタゾンを含む栄養培地中で、種々の濃度での試験化合物(推定のGRアンタゴニスト)と一緒に、インキュベートされる。3H−ウリジンは、細胞培養物に添加され、この培養物はさらにインキュベートされ、そしてポリヌクレオチドへの放射標識の取り込みの程度が測定される。グルココルチコイドアゴニストは、3H−ウリジンの取り込み量を減少させる。従って、GRアンタゴニストは、この効果に対抗する。
【0055】
本発明の方法において利用され得るさらなる化合物、ならびにこのような化合物を同定および作製するための方法について、米国特許第4,296,206号(上記を参照のこと);同第4,386,085号(上記を参照のこと);同第4,447,424号;同第4,477,445号;同第4,519,946号;同第4,540,686号;同第4,547,493号;同第4,634,695号;同第4,634,696号;同第4,753,932号;同第4,774,236号;同第4,808,710号;同第4,814,327号;同第4,829,060号;同第4,861,763号;同第4,912,097号;同第4,921,638号;同第4,943,566号;同第4,954,490号;同第4,978,657号;同第5,006,518号;同第5,043,332号;同第5,064,822号;同第5,073,548号;同第5,089,488号;同第5,089,635号;同第5,093,507号;同第5,095,010号;同第5,095,129号;同第5,132,299号;同第5,166,146号;同第5,166,199号;同第5,173,405号;同第5,276,023号;同第5,380,839号;同第5,348,729号;同第5,426,102号;同第5,439,913号;および同第5,616,458号;ならびにWO96/19458(これらは、6置換1,2−ジヒドロN−1保護化キノリンのようなステロイドレセプターについて高度に親和性かつ高度に選択的なモジュレータオ(アンタゴニスト)である非ステロイド化合物を記載する)を参照のこと。
【0056】
MRに対するGRについてのアンタゴニストの特異性は、当業者に公知の種々のアッセイを用いて測定され得る。例えば、特異的アンタゴニストは、MRと比較したGRに結合するアンタゴニストの能力を測定することによって同定され得る(例えば、米国特許第5,606,021号;同第5,696,127号;同第5,215,916号;同第5,071,773号を参照のこと)。このような分析は、直接結合アッセイか、または既知のアンタゴニストの存在下で精製されたGRまたはMRへの競合的結合を評価することのいずれかを用いて実行され得る。例示的なアッセイにおいて、高レベルでグルココルチコイドレセプターまたは鉱質コルチコイドレセプター(例えば、米国特許第5,606,021号を参照のこと)を安定に発現する細胞が、精製されたレセプターの供給源として使用される。次いで、このレセプターに対するアンタゴニストの親和性が、直接測定される。ついで、MRに対するGRについて、少なくとも100倍高い親和性(しばしば、1000倍)を示すこれらのアンタゴニストが、本発明の方法における使用のために選択される。
【0057】
GR特異的アンタゴニストはまた、GR媒介活性を阻害するが、MR媒介活性を阻害しない能力を有する化合物として規定され得る。このようなGR特異的アンタゴニストを同定する1つの方法は、トランスフェクションアッセイを用いてレポーター構築物の活性を妨げるアンタゴニストの能力を評価することである(例えば、Bocquelら、J.Steroid Biochem Molec.Biol.45:205〜215,1993,米国特許第5,606,021号、同第5,929,058号を参照のこと)。例示的なトランスフェクションアッセイにおいて、レセプター特異的調節エレメントに連結したレポーター遺伝子を含むレセプターおよびレポータープラスミドをコードする発現プラスミドは、適切なレセプターネガティブな宿主細胞に同時トランスフェクトされる。次いで、トランスフェクトされた宿主細胞は、ホルモン(例えば、コルチゾールまたはそのアナログ)の存在下および非存在下で培養され、レポータープラスミドのホルモン応答性プロモーター/エンハンサーエレメントを活性化し得る。次に、トランスフェクトされた宿主細胞および培養された宿主細胞は、レポーター遺伝子配列の生成物の導入(すなわち、存在)についてモニターされる。最終的に、ホルモンレセプタータンパク質(発現プラスミド上のレセプターDNA配列によってコードされ、そしてトランスフェクトされて培養された宿主細胞中で生成される)の発現および/またはステロイド結合能力は、アンタゴニストの存在下、および非存在下でレポーター遺伝子の活性を決定することによって測定される。化合物のアンタゴニスト活性は、GRおよびMRレセプターの既知のアンタゴニストと比較して決定され得る(例えば、米国特許第5,696,127号を参照のこと)。次いで、参照のアンタゴニスト化合物に対するそれぞれの化合物について観察される最大の応答の割合として、有効性が報告される。GR特異的アンタゴニストは、MRに比べ、少なくとも100倍、しばしば1000倍よりも高いGRに対する活性を示すと考えられる。
【0058】
(4.グルココルチコイドレセプターアンタゴニストを用いたせん妄の処置)
抗グルココルチコイド(例えば、ミフェプリストン)は、せん妄を処置する本発明の方法において使用される製薬として処方される。GRに対するコルチゾールまたはコルチゾールアナログの結合に関する生物学的応答を遮断し得る任意の組成物または化合物は、本発明において製薬として使用され得る。本発明の方法を実行するためのGRアンタゴニスト薬物レジメンおよび処方を決定する慣用の手段は、特許文献および科学文献に十分に記載され、そしていくつかの例示的な実施例が、以下に記載される。
【0059】
(a.薬学的組成物としてのグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト)
本発明の方法において使用されるGRアンタゴニストは、当該分野において公知の任意の手段(例えば、非経口、局部、経口、または局所投与(例えば、エアロゾルまたは経皮によって))によって投与され得る。本発明の方法は、予防処置および/または治療処置を提供する。薬学的処方物としてのGRアンタゴニストは、状態または疾患およびせん妄の程度、各患者の通常の医学的状態、得られた投薬の好ましい方法などに依存して種々の単位投薬形態で投与され得る。処方および投与のための技術の詳細は、科学文献および特許文献に十分に記載される。例えば、最新版のRemington’s Pharmaceutical Sciences,Maack Publishing Co,Easton PA(「Remington’s」)を参照のこと。
【0060】
GRアンタゴニスト薬学的処方物は、製薬の製造について当該分野で公知の任意の方法に従って調製され得る。このような薬物は、甘味剤、香料、着色剤および保存剤を含み得る。任意のGRアンタゴニスト処方物は、製造に適した非毒性の薬学的に受容可能な賦形剤と混合され得る。
【0061】
経口投与についての薬学的処方物は、適当(appropriate)および適切(suitable)な投薬量で当該分野において周知の薬学的に受容可能なキャリアを用いて処方され得る。このようなキャリアは、薬学的処方物が、患者による摂食に適した、錠剤、丸剤、粉末剤、糖剤、カプセル、液剤、菓子錠剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物などのような単位投薬形態で処方されることを可能にする。経口の使用のための薬学的調製物は、GRアンタゴニスト化合物と固体賦形剤の組み合わせを介して得られ得、必要に応じて得られた混合物を粉砕し、そして混合物を顆粒に処理し、適切なさらなる化合物を添加した後、所望の場合、錠剤または糖剤の核を得る。適切な固体賦形剤は、炭水化物またはタンパク質充填剤であり、これらとしては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:糖(ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む);トウモロコシ、コムギ、コメ、ジャガイモ、または他の植物由来の澱粉;セルロース(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、またはカルボキシメチルセルロースナトリウム);およびガム(アラビアガムおよびトラガカントガムを含む);ならびにタンパク質(例えば、ゼラチンおよびコラーゲン)。所望の場合、崩壊剤または可溶性剤(例えば、架橋したポリビニルピロリドン、寒天、アルギニン酸またはその塩(例えばアルギニン酸ナトリウム))が添加され得る。
【0062】
糖剤の核は、濃縮された糖溶液のような適切なコーティングを用いて提供され、これらはまた、アラビアガム、滑石、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル(carbopol gel)、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含み得る。染料および顔料は、生成物の同定のためか、または活性な化合物の量(すなわち、投薬量)を特徴づけるために錠剤または糖剤のコーティングに添加され得る。本発明の薬学的調製物はまた、例えば、ゼラチン製のプッシュフィット(push−fit)カプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールのようなコーティング製のソフトな封入されたカプセル、を用いて経口的に使用され得る。プッシュフィットカプセルは、ラクトースまたは澱粉のような充填剤または結合剤、潤滑剤(例えば、滑石またはステアリン酸マグネシウム)および必要に応じて安定化剤と混合されたGRアンタゴニストを含み得る。ソフトカプセルにおいて、GRアンタゴニスト化合物は、適切な液体(例えば、脂肪油、液体パラフィン、または安定化剤を伴なうか、もしくは伴なわない液体ポリエチレングリコール)に溶解され得るか、または懸濁され得る。
【0063】
本発明の水性懸濁物は、水性懸濁物の製造に適切な賦形剤と混合されたGRアンタゴニストを含む。このような賦形剤としては、懸濁剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギニン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、およびアカシアガム)、ならびに分散剤または湿潤剤(例えば、天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール由来の部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレイン酸)、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトール由来の部分エステルとのの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸)が挙げられる。この水性懸濁物はまた、1つ以上の防腐剤(例えば、エチルもしくはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾエート)、1つ以上の着色剤、1つ以上の香料、および1つ以上の甘味剤(例えば、スクロース、アスパルテームまたはサッカリン)を含み得る。処方物は、浸透圧について調整され得る。
【0064】
油状懸濁液は、GRアンタゴニストを植物油(例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油またはココナッツ油)もしくは鉱油(例えば、流動パラフィン);またはこれらの混合物中に懸濁することによって処方され得る。この油状懸濁液は、増粘剤(例えば、蜜蝋、固形パラフィンまたはセチルアルコール)を含み得る。甘味剤(例えば、グリセロール、ソルビトールまたはスクロース)が添加されて、口当たりの良い経口調製物を提供し得る。これらの処方物は、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)の添加によって保存され得る。注射可能な油状ビヒクルの例としては、Minto,J.Pharmacol.Exp.Ther.281:93〜102,1997を参照のこと。本発明の薬学的処方物はまた、水中油乳濁液の形態であり得る。この油相は、上記の植物油もしくは鉱油、またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤としては、天然に存在するゴム(例えば、アラビアゴムおよびトラガカントゴム)、天然に存在するリン脂質(例えば、ダイズレシチン)、脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導されるエステルまたは部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート)、ならびにこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。この乳濁液はまた、シロップおよびエリキシルの処方物におけるように、甘味剤および香味剤を含み得る。このような処方物はまた、粘滑薬、保存薬、または着色剤を含み得る。
【0065】
水の添加による水性懸濁液の調製に適している本発明の分散可能な散剤および顆粒剤は、分散剤、懸濁剤および/または湿潤剤ならびに1つ以上の防腐剤と混合されたGRアンタゴニストから処方され得る。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤は、上記の薬剤によって例証される。さらなる賦形剤(例えば、甘味剤、香味剤および着色剤)もまた存在し得る。
【0066】
本発明のGRアンタゴニストはまた、薬物の直腸投与のための坐剤の形態で投与され得る。これらの処方物は、薬物を適切な刺激性のない賦形剤と混合することによって調製され得、この賦形剤は、通常の温度で固体であるが、直腸温度で液体であり、従って直腸で融解して薬物を放出する。このような物質は、カカオ脂およびポリエチレングリコールである。
【0067】
本発明のGRアンタゴニストはまた、坐剤、ガス注入処方物、散剤処方物およびエアロゾル処方物(ステロイド吸入剤の例については、Rohatagi,J.Clin.Pharmacol.35:1187〜1193,1995;Tjwa,Ann.Allergy Asthma Immunol.75:107〜111,1995を参照のこと)を含む、経鼻経路、眼内経路、静脈経路、および直腸内経路で投与され得る。
【0068】
本発明のGRアンタゴニストは、塗布器スティック(applicator stick)、溶液、懸濁液、乳濁液、ゲル、クリーム、軟膏剤、ペースト、ゼリー、ペイント、散剤、およびエアロゾルとして処方されて、経皮的に、局所的経路で送達され得る。
【0069】
本発明のGRアンタゴニストはまた、体内にゆっくりと放出するためのミクロスフェアとして送達され得る。例えば、ミクロスフェアは、薬物(例えば、ミフェプリストン)含有ミクロスフェアの皮内注射を介して投与され得、これを皮下にゆっくり放出する(Rao,J.Biomater Sci.Polym.Ed.7:623〜645,1995;生分解性かつ注射可能ゲル処方物として(例えば、Gao Pharm.Res.12:857〜863,1995を参照のこと);または経口投与のためのミクロスフェアとして(例えば、Eyles,J.Pharm.Pharmacol.49:669〜674,1997を参照のこと))。経皮経路および皮内経路の両方は、数週間または数ヵ月間の一定な送達を与える。
【0070】
本発明のGRアンタゴニスト薬学的処方物は、塩として提供され得、そして多くの酸(塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない)と共に形成され得る。塩は、対応する遊離塩基の形態である、水性溶媒または他のプロトン性溶媒中により可溶性である傾向がある。他の場合において、好ましい調製物は、4.5〜5.5の範囲のpHで、1mM〜50mMヒスチジン、0.1%〜2%スクロース、2%〜7%マンニトール中で凍結乾燥した散剤であって、使用する前に緩衝液と混合され得る。
【0071】
別の実施形態において、本発明のGRアンタゴニスト処方物は、静脈内(IV)投与または体腔もしくは器官の管腔への投与のように、非経口投与について有用である。投与のための処方物は、一般的に、薬学的に受容可能なキャリアに溶解したGRアンタゴニスト(例えば、ミフェプリストン)の溶液を含む。使用され得る受容可能なビヒクルおよび溶媒の中では、水およびリンガー溶液、等張性塩化ナトリウムである。さらに、滅菌不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として都合よく利用され得る。この目的のために、任意のブランドの不揮発性油が利用され、合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドを含み得る。さらに、脂肪酸(例えば、オレイン酸)は、注射用の調製物中に同様に使用され得る。これらの溶液は、滅菌であり、そして一般に好ましくない物質を含まない。これらの処方物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌され得る。この処方物は、生理学的状態(例えば、pH調整剤およびpH緩衝化剤、毒性調整剤(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなど))に近づけるために必要とされるような薬学的に受容可能な補助物質を含み得る。これらの処方物中のGRアンタゴニストの濃度は、広範に変動し得、そして選択される投与の特定の様式および患者の要求に従って、主に、流体容積、粘度、体重などに基づいて選択される。IV投与について、処方物は、滅菌で注射可能な調製物(例えば、滅菌で注射可能な水性または油性の懸濁液)であり得る。この懸濁液は、これらの適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用する公知の技術に従って処方され得る。滅菌性注射可能調製物はまた、滅菌性注射可能溶液または無毒で非経口的に受容可能な希釈剤もしくは溶媒(例えば、1,3−ブタンジオールの溶液)中の懸濁液であり得る。
【0072】
別の実施形態において、本発明のGRアンタゴニスト処方物は、細胞膜と融合するかエンドサイトーシスを受けるリポソームの使用によって、すなわちリポソームに結合されるか、またはオリゴヌクレオチドに直接結合されるリガンドを使用することによって送達され得、このリポソームは、エンドサイトーシスを起こす細胞の表面膜タンパク質レセプターに結合する。リポソームを使用することによって、特に、リポソーム表面が、標的細胞に特異的なリガンドを保有するか、さもなければ、特定の器官に優先的に指向される場合、インビボでの標的細胞中へのGRアンタゴニストの送達に焦点を合わせ得る。(例えば、Al−Muhammed,J.Microencapsul.13:293〜306,1996;Chonn,Curr.Opin.Biotechnol.6:698〜708,1995;Ostro,Am.J.Hosp.Pharm.46:1576〜1587,1989を参照のこと)。
【0073】
(b.グルココルチコイドレセプターアンタゴニストについての投薬レジメンの決定)
本発明の方法は、せん妄を処置する。すなわち、認知性障害、知覚性障害、または意識性障害の発生および重症度を減少させる。このことを達成するために適切なGRアンタゴニストの量は、「治療的に有効な用量」として規定される。この使用のための投薬スケジュールおよび有効量、すなわち、「投薬レジメン」は、疾患または状態の段階、疾患または状態の重症度、患者の健康の一般的状態、患者の肉体の状態、年齢などを含む、種々の因子に依存する。患者への投薬レジメンの計算において、投与の様式もまた考慮される。
【0074】
投薬レジメンは、当該分野で周知である薬物動態学パラメーター(すなわち、GRアンタゴニストの吸収速度、生物学的利用能、代謝、クリアランスなど)もまた考慮する(例えば、Hidalgo−Aragones(1996)J.Steroid Biochem.Mol.Biol.58:611−617;Groning(1996)Pharmazie 51:337−341;Fotherby(1996)Contraception 54:59−69;Johnson(1995)J.Pharm.Sci.84:1144−1146;Rohatagi(1995)Pharmazie 50:610−613;Brophy(1983)Eur.J Clin.Pharmacol.24:103−108;Remington’sの最新版(上述)を参照のこと)。例えば、1つの研究において、ミフェプリストンの一日用量の0.5%未満は、尿中に排出され;この薬物は、循環するアルブミンに大量に結合した(Kawai(1989)(上述)を参照のこと)。技術水準は、臨床医が、各個々の患者、GRアンタゴニスト、および処置される疾患または状態に対する投薬レジメンの決定することを可能にする。例示的な例として、以下にミフェプリストンについて提供される指針は、本発明の方法を実施する場合に、投与される任意のGRアンタゴニストの投薬レジメン(regiment)(すなわち、用量スケジュールおよび用量レベル)を決定するための指針として使用され得る。
【0075】
単回投与または複数回投与のGRアンタゴニスト処方物は、患者によって必要とされ、かつ許容される用量および頻度に依存して、投与され得る。処方物は、せん妄を有効に処置するために十分な量の活性な薬剤(すなわち、ミフェプリストン)を提供するべきである。従って、ミフェプリストンの経口投与のための1つの代表的な薬学的処方物は、1日当たり体重1kg当たり、約0.5〜約20mgの間の一日用量である。代替的な実施形態において、用量は、1日当たり患者の体重1kg当たり、約1mg〜約4mgの間が使用される。より低い用量は、特に、薬物が、経口的に(血流、体腔または器官の内腔へと)投与される場合と対照的に、解剖学的に隔離された部位(例えば、脳脊髄液(CSF)空間)へと投与される場合に使用され得る。実質的により高い用量は、局所投与において使用され得る。非経口投与可能なGRアンタゴニスト処方物を調製するための実際の方法は、当業者に公知または明らかであり、Remington’s(上述)のような刊行物により詳細に記載される。Nieman,「Receptor Mediated Antisteroid Action」、Agarwalら編 De Gruyter,New York(1987)もまた参照のこと。
【0076】
投与の持続時間は、5〜14日である。本発明のGRアンタゴニストを含有する医薬が、受容可能なキャリア中に処方された後、この医薬は適切な容器中に配置され得、示された状態の処置について標識される。GRアンタゴニストの投与のために、このような標識は、例えば、投与の量、頻度および方法に関する指示書を含む。1つの実施形態において、本発明は、ヒトにおけるせん妄の処置のためのキットを提供し、このキットは、GRアンタゴニスト、ならびにGRアンタゴニストの投与に関する適応、投薬量およびスケジュールを教示する指示書を備える。
【実施例】
【0077】
(実施例)
以下の実施例は、例示のために提供されるが、本願発明を限定しない。
【0078】
(実施例1:ミフェプリストンを用いたせん妄の処置)
以下の実施例は、どのように本発明の方法を実施するかを示す。
【0079】
(患者の選択)
個体は、上記に記載されるDSM−IV−TRによって示される判断基準を含む、自覚的判断基準および他覚的判断基準を使用して、せん妄であると診断される。せん妄患者は、代表的には、彼または彼女の年齢に対して、通常レベルのコルチゾルを有する。
【0080】
(ミフェプリストンの投薬レジメンおよび投与)
グルココルチコイドレセプター(GR)アンタゴニスト(ミフェプリストン)が、本研究で使用される。このGRアンタゴニストは、毎日600〜1200mgの用量で、1週間投与される。患者は、以下に記載されるように評価される。用量は、必要に応じて調整され、そしてさらなる評価が、処置の間に周期的に実施される。
【0081】
ミフェプリストン錠剤は、Shanghai HuaLian Pharmaceuticals Co.,Ltd.,Shanghai,Chinaから入手可能である。
【0082】
(せん妄の処置の評価)
せん妄の症状の改善における、ミフェプリストンの有効性を詳細に描写しかつ評価するために、正式な精神医学評価ならびに一連の心理検査および評価を、全ての患者に対して行う。研究の下で、せん妄の形態に適切な標準化された試験器具に対する患者の振る舞いを決定する。これらの試験および診断的評価は、ベースライン(患者が処置に入る)で、および処置の間に周期的に行われる。
【0083】
(実施例2:コルチゾルレベルの測定)
実施例1の患者のコルチゾルレベルを測定するために、午後のコルチゾル試験の測定値を調べ、ベースラインコルチゾル測定値として使用する。コルチゾルレベルを、0日目に、薬物適用を受けた2週間後(14日目)に、その後周期的に6ヶ月まで各来診時に調べる。
【0084】
「Double Antibody Cortisol Kit」(Diagnostic Products Corporation,Los Angeles,CA)は、血液のコルチゾルレベルを測定するために使用される。この試験は、125I−標識化コルチゾルが、臨床的サンプル由来のコルチゾルと抗体部位について競合する競合放射免疫アッセイであり、本質的に製造業者の指示書に従って、製造業者によって提供される試薬を使用して、実施される。簡単には、血液は、静脈穿刺によって採血され、血清は、細胞から分離される。サンプルは、2〜8℃で7日間まで、または−20℃で凍結して2ヶ月間まで保存される。アッセイの前に、サンプルを、緩やかな旋回または反転によって、室温(15〜28℃)にする。1チューブ当たり25μlの血清として16チューブの複製を調製した。コルチゾル濃度を、調製された較正チューブから計算した。正味の計数は、平均CPMマイナス平均非特異的CPMに等しい。未知物質に対するコルチゾル濃度を、内挿によって較正曲線から見積もる(Dudleyら、(1985)Clin.Chem.31:1264−1271)。
【0085】
本明細書中に記載される実施例および実施形態は、例示の目的のみのためであり、本明細書中に記載される実施例および実施形態に照らした種々の改変および変化は、当業者に示唆され、本願の精神および範囲ならびに特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ん妄の症状の改善を必要とする患者において、せん妄の症状を改善する方法。

【公開番号】特開2009−102346(P2009−102346A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313766(P2008−313766)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【分割の表示】特願2002−592943(P2002−592943)の分割
【原出願日】平成14年5月6日(2002.5.6)
【出願人】(503345477)コーセプト セラピューティクス, インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】