説明

グルコース輸送関連遺伝子、ポリペプチド、およびその使用方法

グルコース輸送を調節するための方法および組成物を本明細書において提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、分子生物学、細胞生物学、グルコース輸送、および糖尿病に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年12月2日に出願した米国仮特許出願第60/632,462号の優先権の恩典を主張し、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
本明細書に記載の研究は、the National Institutes of Healthからの助成金 (Grant Nos. DK30898 and DK60837-03)を通じて部分的に助成された。したがって、米国政府は本発明における一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0004】
背景
インスリンは、筋肉および脂肪におけるグルコース輸送を促進する。インスリンが活性化する最も重要な経路の1つは、筋肉および脂肪組織における循環からグルコースを迅速に取り込むことである。これらの組織におけるグルコース取り込みに及ぼすインスリンの効果の大部分は、インスリン感受性グルコース輸送体、GLUT4に依存している(Czech and Corvera, 1999, J. Biol. Chem., 274:1865-1868(非特許文献1)、Martin et al., 1999, Cell Biochem. Biophys., 30:89-113(非特許文献2)、Elmendorf et al., 1999 Exp. Cell Res., 253:55-62(非特許文献3)に概説されている)。糖尿病ではインスリン作用の機構が損なわれ、筋肉および脂肪へのグルコース輸送が減少する。これは、II型糖尿病の主要な欠陥であると考えられている。インスリン作用を強化することは、II型糖尿病に有益な効果をもたらす。これは、薬剤レズリン(Rezulin)(トログリタゾン)の作用機序であると考えられている。
【0005】
II型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)とは、グルコースに対するインスリン分泌反応障害およびインスリン抵抗性を含み得る高血糖を特徴とする疾患群である。II型糖尿病で認められる1つの影響は、骨格筋によるグルコース取り込みの促進におけるインスリンの有効性の減少である。II型糖尿病は、全糖尿病症例の約85〜90%を占める。II型糖尿病の症例によっては、根底にある生理的欠陥は多因子性のようである。
【0006】
【非特許文献1】Czech and Corvera, 1999, J. Biol. Chem., 274:1865-1868
【非特許文献2】Martin et al., 1999, Cell Biochem. Biophys., 30:89-113
【非特許文献3】Elmendorf et al., 1999 Exp. Cell Res., 253:55-62
【発明の開示】
【0007】
概要
本発明は、少なくとも一部に、細胞におけるグルコース輸送を制御する遺伝子産物の発見に基づく。本明細書に記載する遺伝子および遺伝子産物は、糖尿病などの、グルコース代謝が脱制御される疾患の治療を調節するための新規標的である。
【0008】
したがって、1つの局面において、本発明は、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する候補薬剤を同定する方法を特徴とする。本方法は、例えば、(a) 表1もしくは表2記載の遺伝子の遺伝子産物またはその相同体(例えば、ヒト相同体)であるグルコース輸送関連ポリペプチド、またはそのポリペプチドをコードする核酸を含む試料を提供する段階;(b) 試料を被験化合物と接触させる段階;(c) 試料中のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を評価する段階;および(d) (c)のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を、被験化合物を欠く対照試料中のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性と比較する段階であって、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性の変化により、被験化合物がグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節し得る候補薬剤であることが示される、段階を含む。
【0009】
種々の態様において、グルコース輸送関連ポリペプチドは、表1記載の遺伝子の遺伝子産物、例えば、ペルオキシン13(Pex13)、ADPリボシル化因子様6相互作用タンパク質(Arl6ip2)、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD)、脂肪特異的遺伝子27の産物(FSP27)、Frizzled相同体4(Fzd4)、シナフィン(Synaphin)3(Sycp3)、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体A型(Ptpra)、保存的ヘリックス-ループ-ヘリックス遍在性キナーゼ(ChukまたはIKKα)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ(Map4k4)、PCTAIREモチーフプロテインキナーゼ1(Pctk1)、PCTAIREモチーフプロテインキナーゼ3(Pctk3)、PFTAIREプロテインキナーゼ1(Pftk1)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ8(JNK1)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ9(JNK2)、MAP/微小管親和性制御キナーゼ3(Mark3)、インターロイキン-1受容体関連キナーゼ1(IRAK1)、または非転移性細胞発現3(Nme3)である。種々の態様において、グルコース輸送関連ポリペプチドは、表1記載の遺伝子の遺伝子産物と少なくとも50、60、70、80、90、95、96、99、または100%同一であるアミノ酸配列を含む。ポリペプチドは、ヒトポリペプチド(例えば、表1記載の遺伝子または表1記載の遺伝子のヒト相同体によってコードされるヒトポリペプチド)であってよい。
【0010】
種々の態様において、グルコース輸送関連ポリペプチドは、表2記載の遺伝子の遺伝子産物、例えば、理化学研究所(RIKEN)による以下のクローン:9130022E05Rik、2900045N06Rik、4930402E16Rik、5730403B10Rik、F830029L24Rik、G430055L02Rikの1つの遺伝子産物、もしくはそのヒト相同体であるか;または遺伝子産物は、ATP結合カセット、サブファミリーF(Abcf1)、システインリッチ運動ニューロン1(Crim1)、Dishevelledセグメントポラリティータンパク質相同体(Dvl1)、NAD(P)依存性ステロイド脱水素酵素様タンパク質(Nsdhl)、インテグリン結合キナーゼ(Ilk)、Par-6分配欠損6相同体γ(Pard6g)、もしくはリピン(Lpin1)であるか;またはD11Ertd498もしくはD19Ertd703eの遺伝子産物である。種々の態様において、グルコース輸送関連ポリペプチドは、表2記載の遺伝子の遺伝子産物と少なくとも50、60、70、80、90、95、96、99、または100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0011】
本方法で使用する試料は細胞(例えば、脂肪細胞)であってよく、もしくは細胞を含み得、または無細胞試料であってもよい。グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性は、例えば無細胞アッセイ法または細胞に基づくアッセイ法を用いて評価し得る。発現の調節は、抗体を用いて評価し得る。1つの態様において、評価段階は、例えばグルコース取り込みを測定することにより、グルコース輸送が被験化合物の存在下で調節を受けるかどうかを決定する段階を含む。
【0012】
本方法において評価する被験化合物は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、非核酸有機小分子、無機小分子、または抗体であってよい。例えば、被験化合物は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抑制性(inhibitory)RNA、またはリボザイムであってよい。
【0013】
グルコース輸送は、被験化合物の存在下において増加または減少し得る。
【0014】
種々の態様において、グルコース輸送関連ポリペプチドはキナーゼである。そのような態様では、評価段階は、例えばキナーゼアッセイ法を用いて、キナーゼによる基質のリン酸化を測定する段階を含み得る。
【0015】
本方法は、被験化合物がグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性に及ぼす影響を、例えば糖尿病動物モデルなどの動物モデルを用いてインビボで評価する段階を含み得る。
【0016】
別の局面において、本発明は、細胞におけるグルコース輸送を調節する方法を特徴とする。これらの方法は、例えば、細胞を提供する段階;細胞をグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する薬剤と接触させ(例えば、インビトロまたはインビボで)、それにより細胞におけるグルコース輸送を調節する段階を含む。
【0017】
グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する被験化合物は、本明細書に記載の方法、例えば以下の段階:(a) グルコース輸送関連ポリペプチドまたはそのポリペプチドをコードする核酸を含む試料を提供する段階;(b) 試料を被験化合物と接触させる段階;(c) 試料中のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を評価する段階;および(d) (c)のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を、被験化合物を欠く対照試料中のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性と比較する段階であって、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性の変化により、被験化合物がグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節し得る候補薬剤であることが示される、段階を含む方法によって同定される薬剤であってよい。
【0018】
細胞におけるグルコース輸送を調節する方法で用いられる被験化合物は、表1または表2記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を調節し得る。被験化合物は、表1記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を減少または増加させ得る。被験化合物は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、非核酸有機小分子、無機小分子、または抗体であってよい。例えば、被験化合物は低分子抑制性RNAであってよい。被験化合物は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抑制性RNA、またはリボザイムからなる群より選択され得る。
【0019】
細胞におけるグルコース輸送を調節する方法は、細胞を、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する第2の薬剤と接触させる段階をさらに含み得る。
【0020】
本発明はまた、対象におけるインスリン促進性グルコース取り込みを増加させる方法を特徴とする。本方法は、対象に、表1記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を減少させる薬剤を、対象の細胞におけるグルコース代謝を調節するのに十分な量投与し、それによって対象におけるインスリン促進性グルコース取り込みを増加させる段階を含む。例えば、対象は、I型糖尿病、II型糖尿病、もしくは肥満などの、グルコース代謝に関連した疾患もしくは状態のリスクを有するか、またはグルコース代謝に関連した疾患もしくは状態に罹患していてよい。
【0021】
本発明はまた、対象に、表2記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を増加させる薬剤を、対象の細胞におけるグルコース代謝を調節するのに十分な量投与し、それによって対象におけるグルコース代謝を調節することにより、対象におけるグルコース代謝を調節する方法を提供する。
【0022】
本明細書では、表1記載の遺伝子によってコードされるRNAを標的化する抑制性RNAをコードする核酸を含む組成物もまた特徴とする。1つの態様において、抑制性RNAは低分子抑制性RNAである。
【0023】
本発明はさらに、表1記載の遺伝子の遺伝子産物の機能を阻害するアンチセンス核酸を含む組成物を提供する。
【0024】
本発明はまた、表1および2記載の遺伝子の1つまたは複数の遺伝子産物の発現または活性を評価することにより、グルコース代謝に関連した疾患または状態を診断する方法を特徴とする。
【0025】
特記しない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載する方法および材料と類似した、またはそれらと同等である方法および材料を、本発明の実施または試行において使用することも可能であるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。矛盾する場合には、本明細書が定義も含め優先する。さらに、材料、方法、および実施例は一例に過ぎず、限定することを意図していない。引用した特許、特許出願、および参考文献はすべて(公的配列データベースエントリーへの参照も含む)、すべての目的のために全体として参照により組み入れられる。2004年12月2日に出願した米国仮特許出願第60/632,462号は、すべての目的のために全体として参照により組み入れられる。
【0026】
発明の詳細な説明
本発明者らは、そのポリペプチド産物が、インスリンシグナルに応答して脂肪細胞におけるグルコース輸送を制御する遺伝子を同定した。ここに、これらポリペプチドの発現を調節するための、およびそれらの発現を調節する薬剤を同定するための方法および組成物を提供する。本発明者らが同定したポリペプチドをコードする遺伝子を、以下の表1および2に列挙する。本発明者らが同定した遺伝子の第1サブセットは、グルコース輸送の負の制御因子であるポリペプチドをコードする。第2サブセットは、グルコース輸送の正の制御因子をコードする。グルコース輸送の負の制御因子の発現または活性を減少させると(例えば、アンチセンスもしくはsiRNAによる遺伝子発現の阻害を介して、または遺伝子産物の活性を阻害する薬剤を用いて)、グルコース取り込みが増加し得、ひいては血糖値が低下し得る。正の制御因子の発現または活性を増加させると(例えば、遺伝子産物の過剰発現によるか、または制御因子の活性を増加させる薬剤の使用による)、インスリン活性が増強され得、ひいてはグルコース取り込みが促進され得る。
【0027】
グルコース輸送の負の制御因子
本発明者らは、表1に列挙する遺伝子の発現を阻害すると、インスリン促進性グルコース取り込みが増加することにより、インスリン作用が強化されることを見出した。インスリン作用の強化は、例えば糖尿病患者における、例えばインビボでの血糖作用の調節において有益である。したがって、これら遺伝子産物の発現または活性を阻害することは、インスリン活性またはグルコース輸送が脱制御される状態の治療に有益であり得る。
【0028】
(表1)グルコース輸送の負の制御因子


*本表におけるGenBank(登録商標)エントリーは、特記しない限りマウス配列を指す。
【0029】
ペルオキシン-13
ペルオキシン-13(Pex13)は、ペルオキシン-14およびペルオキシン-17と共に、ペルオキシソーム移行機構の成分である。Pex13のN末端およびC末端はいずれも、サイトゾルに配向している。Pex13は、ペルオキシン-14のような、タンパク質のペルオキシオームへの移入に必要なSH3含有ペルオキシソーム膜タンパク質をコードしている。ヒトでは、PEX13の変異はペルオキシソームの生合成を破壊し得、ペルオキシソーム代謝障害および神経変性疾患を招き得る。マウスPEX13は18 kbに及び、4つのエキソンからなる。Pex13転写産物は、試験したすべてのマウス組織で検出され、肝臓および精巣において最も高レベルであった。PEX13オープンリーディングフレームから、ヒトタンパク質と91%の配列同一性を示す44.5-kDaタンパク質が予測される。
【0030】
脂肪特異的遺伝子27
脂肪特異的遺伝子27(FSP 27)は、27 kDaのタンパク質をコードする(Danesch et al., J. Biol. Chem., 267(10):7185-93, 1992)。FSP27は、アポトーシス過程におけるDNA断片化およびクロマチン凝縮を誘導するカスパーゼ活性化(CAD)ヌクレアーゼ;ならびにCADヌクレアーゼの阻害因子である細胞死活性化タンパク質CIDE-AおよびCIDE-B中に見出されるドメインをコードする。2つのタンパク質はこのドメインを介して相互作用する(Enari et al., Nature, 391:43-50, 1998;Sakahira et al., Nature, 391:96-99, 1998)。
【0031】
マウスFSP27のヒト相同体、CIDE-3(細胞死誘導DFF45様エフェクター)が同定されている(Liang et al., Biochem J., 370:195-203, 2003)。CIDE-3の核酸配列は、GenBank(登録商標)アクセッション番号AY364640において見出される。
【0032】
Frizzled相同体4
「frizzled」(FZ)遺伝子ファミリーのメンバーは、Wntシグナル伝達タンパク質の受容体である7回膜貫通ドメインタンパク質をコードする。ヒトFZD4遺伝子は、N末端細胞外領域中のシステインリッチドメイン(CRD)、第2および第3細胞外ループ中の2つのシステイン残基、2つの細胞外N結合グリコシル化部位、ならびにC末端中のS/T-X-Vモチーフを有する推定537アミノ酸タンパク質をコードする(Kirikoshi et al., Biophys. Res. Commun., 264: 955-961, 1999;GenBank(登録商標)アクセッション番号AB032417も同様に参照されたい)。FZD4の変異は、末梢網膜血管新生の障害を特徴とする遺伝性眼疾患である家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)と関連づけられている(Robitaille et al., Nat Genet., 32(2):326-30, 2002)。
【0033】
シナフィン3
シナフィン3(シナプトネマ構造タンパク質3またはSycp3としても公知)は、シナプトネマ構造のタンパク質成分をコードする。SYCP3の変異のヒトヘテロ接合体は無精子性であり、Sycp3がヒト精子形成における減数分裂機能に必須であることが示される(Miyamoto et al., Lancet, 362(9397):1714-9, 2003)。
【0034】
タンパク質チロシンホスファターゼ受容体A型
タンパク質チロシンホスファターゼ受容体A型(Ptpra)は、チロシン特異的タンパク質ホスファターゼである。Ptpraは培養細胞においてインスリンシグナル伝達と関連づけられているが、Ptpraヌルマウスにより、このポリペプチドがインスリンの生理作用の媒介に必須ではないことが明らかにされている(Le et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 314(2):321-329, 2004)。
【0035】
保存的ヘリックス-ループ-ヘリックス遍在性キナーゼ
保存的ヘリックス-ループ-ヘリックス遍在性キナーゼ(Chuk;IκBキナーゼαまたはIKKαとしても公知)は、広範囲の組織で発現され、種間の高度の保存を示すセリン/スレオニンキナーゼである。Chukは、キナーゼ、ロイシンジッパー、およびヘリックス-ループ-ヘリックスドメインを含む(Mercurio et al., Science, 278(5339):860-6, 1997)。IKKαなどのキナーゼによるIKBタンパク質上のセリン残基のリン酸化は、ユビキチン化経路による破壊に関してそれらを標識し、それによってNF-κ-B複合体の活性化が可能になる。
【0036】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ4
マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ4(Map4k4;NCK相互作用キナーゼまたはNIKとしても公知;本明細書ではMap4k4/NIKとも称する)は、多様なシグナル伝達経路を制御するセリン/スレオニンキナーゼであり、哺乳動物の発生に必須である(Xue et al., Development, 128(9):1559-1572, 2001)。このキナーゼは、MAPK8/JNKを特異的に活性化することが示されている。Map4k4によるMAPK8の活性化は、MAP3K7/TAK1、MAP2K4/MKK4、およびMAP2K7/MKK7のドミナントネガティブ変異により阻害されることが判明しており、このキナーゼがMAP3K7-MAP2K4-MAP2K7キナーゼカスケードを介して機能し、TNFαシグナル伝達経路を媒介し得ることが示唆される。
【0037】
ヒトMap4k4の例示的な核酸配列およびアミノ酸配列は、それぞれGenBank番号NM_145686およびNP_663719において見出される。ヒトMap4k4ポリペプチドのN末端は、11個のキナーゼサブドメインを有する触媒キナーゼドメインを有する(Yao et al., J. Biol. Chem., 274:2118-2125, 1999)。Map4k4は、造血前駆細胞キナーゼ1(HPK1)、および胚中心キナーゼすなわちGCKの触媒ドメインとそれぞれ47%および48%のアミノ酸配列同一性を共有する。ヒトMap4k4と相互作用することが示されている他のポリペプチドには、カスパーゼ8、ドッキングタンパク質1;グアニル酸結合タンパク質3;インテグリンβ1;Nckアダプタータンパク質1;溶質輸送体ファミリー9、アイソフォームA1;RasGAP;溶質輸送体ファミリー9(ナトリウム/水素交換体)、メンバー1;およびMEKK1が含まれる。
【0038】
PCTAIRE-1
PCTAIRE-1(Pctk1)は、脳および精巣中の最終分化細胞において認められるサイクリン依存性キナーゼ関連タンパク質である。(Graeser et al., J. Cell Sci., 115: 3479-3490, 2002)。サイクリン依存性キナーゼと同様に、Pctk1は、細胞周期制御において役割を担い得る(Myerson, EMBO J., 11(8):2909-17, 1992)。
【0039】
PCTAIRE-3
PCTAIRE-3(Pctk3)はPctk1と65%相同であり、脳、腎臓、および腸において発現される(Okuda et al. Oncogene, 7(11):2249-58, 1992)。
【0040】
PFTAIREプロテインキナーゼ1
PFTAIREプロテインキナーゼ1(Pftk1)はcdk関連プロテインキナーゼであり、Pctk3と約50%の同一性を示す。Pftk1はマウス組織において広く発現され、減数分裂および神経機能において役割を担うと考えられている(Besset et al., Mol. Reprod. Dev., 50(1): 18-29, 1998)。
【0041】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ9
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ9(Mapk9;JNK2としても公知)は、インスリン受容体基質1(Irs1)のリン酸化を促進することにより、インスリンシグナル伝達を阻害し得る(Lee et al., J. Biol. Chem., 278(5): 2896-902, 2003)。
【0042】
グルコース輸送の正の制御因子
表2に列挙する遺伝子の発現または活性を増加させることで、インスリン促進性グルコース取り込みが増加することにより、インスリン作用を強化することができる。上記で負の制御因子について考察したように、インスリン作用の強化は、例えばインビボでの血糖作用の調節において有益である。したがって、これら遺伝子産物の発現または活性を増加させることは、糖尿病などの、インスリン活性またはグルコース輸送が脱制御される状態の治療に有益であり得る。
【0043】
(表2)グルコース輸送の正の制御因子

*本表におけるGenBank(登録商標)エントリーは、特記しない限りマウス配列を指す。
【0044】
9130022E05Rik
そのヌクレオチド配列がGenBank(登録商標)アクセッション番号AK078461において見出され得る9130022E05Rikによってコードされる遺伝子産物は、ヒト制御性溶質輸送体タンパク質、ファミリー1(RSC1A1)との相同性を示し、推定上のユビキチン結合(UBA)ドメインを含む。
【0045】
2900045N06Rik
2900045N06Rik(GenBank(登録商標)アクセッション番号NM_028385において見出される)は、推定上のSETメチルトランスフェラーゼドメインおよび推定上のZnF_NFX転写リプレッサードメインをコードする。
【0046】
4930402E16Rik
4930402E16Rik(GenBank(登録商標)アクセッション番号AK129472において見出される)は、ジメチルグリシン脱水素酵素と相同性を有するドメインおよびグリシン切断T-タンパク質(GCV_Tアミノメチルトランスフェラーゼ)ドメインをコードする。
【0047】
5730403B10Rik
5730403B10Rik(GenBank(登録商標)アクセッション番号NM_025670において見出される)によってコードされる遺伝子産物は、PIG7としても公知の、推定上のLPS誘導性腫瘍壊死因子α因子(LITAF)膜結合モチーフをコードする。
【0048】
ATP結合カセット、サブファミリーF、メンバー1
ATP結合カセット、サブファミリーF(GCN20)、メンバー1(Abcf1)遺伝子配列は、ヒトABC50配列と相同である。ヒトABC50は、ABC輸送体に典型的な膜貫通ドメインを欠くように見えるABCファミリーメンバーであり、mRNAの翻訳に関連するタンパク質をコードし得る(Richard et al., Genomics, 53(2):137-45, 1998)。
【0049】
システインリッチ運動ニューロン1
システインリッチ運動ニューロン1遺伝子(CRIM1)は、インスリン様増殖因子(IGF)結合タンパク質モチーフおよび複数のシステインリッチ反復を含む膜貫通タンパク質をコードする(Kolle et al., Mech. Dev., 90(2): 181-193, 2000)。
【0050】
Dishevelledセグメントポラリティータンパク質相同体
Dishevelledセグメントポラリティータンパク質相同体遺伝子産物(Dvl-1)は、微小管重合に関連づけられており(Krylova et al., J. Cell Biol., 151(1):83-94, 2000)、Wntタンパク質と協同して神経突起伸長を制御し得る(Kishida et al., Mol Cell Biol., 24(10):4487-501, 2004)。
【0051】
リピン
リピン遺伝子産物(Lpin1)は、マウスにおける脂肪生成遺伝子転写の誘導に必要であり、この遺伝子の変異は、脂肪肝ジストロフィー(fld)マウスにおけるリポジストロフィーを引き起こす(Phan et al., J. Biol. Chem., 279(28):29558-64, 2004)。
【0052】
NAD(P)Hステロイド脱水素酵素様遺伝子
NAD(P)Hステロイド脱水素酵素様遺伝子(NSDHL)は、スクアレン後コレステロール生合成に関与するステロール脱水素酵素またはデカルボキシラーゼをコードする。ヒト遺伝子の変異は、ヒトCHILD症候群(魚鱗癬様母斑および肢欠損を有する先天性片側性形成異常)と関連している(Caldas and Herman, Hum. Mol., Genet., 12(22):2981-2991, 2003)。NSDHLは小胞体に局在し、脂肪滴と会合している(Caldas and Herman、前記)。
【0053】
インテグリン結合キナーゼ
インテグリン結合キナーゼ(Ilk)は接着斑の成分であり、インテグリンの細胞質尾部に結合し、インテグリン接着部位におけるアクチン再構成を調節する(Sakai et al., Genes Dev., 17(7):926-920, 2003)。
【0054】
Par-6分配欠損6相同体γ
Par-6分配欠損6相同体γ(Pard6g)は、線虫(C. elegans) PDZドメインタンパク質PAR-6と類似している。Par6は、上皮細胞間接着における密着結合の形成に関与している(Joberty et al., Nat. Cell. Biol., 2(8): 531-539, 2000)。
【0055】
スクリーニングアッセイ法
グルコース輸送関連核酸またはポリペプチドの発現または活性の調節因子、すなわち候補薬剤または試薬を同定する方法を、本明細書において提供する。そのような候補薬剤または試薬には、1つまたは複数のグルコース輸送関連ポリペプチドまたは核酸の発現(タンパク質またはmRNA)または活性を調節するポリペプチド、オリゴヌクレオチド、ペプチド模倣体、炭水化物、または有機小分子もしくは無機小分子などの小分子(例えば、非核酸有機小化合物)が含まれる。一般に、スクリーニングアッセイ法は、被験薬剤が、被験試料(すなわち、グルコース輸送関連核酸またはポリペプチドを含む試料)中のグルコース輸送関連核酸またはポリペプチドの発現または活性に及ぼす影響をアッセイする段階を含む。被験化合物または薬剤の存在下における発現または活性を、対照試料(すなわち、被験化合物を含めないこと以外は同条件下でインキュベートした、グルコース輸送関連ポリペプチドを含む試料)中の発現または活性と比較する。被験試料中のグルコース輸送関連核酸またはポリペプチドの発現または活性が、対照と比較して変化していることにより、被験薬剤または化合物が、グルコース輸送関連核酸またはポリペプチドの発現または活性を調節し、よって候補薬剤であることが示される。
【0056】
1つの態様において、本発明は、グルコース輸送関連ポリペプチドもしくはそのポリペプチドをコードする核酸、またはそれらの生物活性部分に結合するか、またはそれらの活性を調節する被験薬剤をスクリーニングするアッセイ法を提供する。生物学的ライブラリー;空間的にアドレス可能な並列固相または液相ライブラリー;デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;およびアフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを用いて、スクリーニングする被験化合物を得ることができる。生物学的ライブラリーアプローチはペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、または低分子化合物ライブラリーに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des., 12:145, 1997)。
【0057】
分子ライブラリーを合成する方法の例は、文献中見出すことができ、例えば、DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6909, 1993;Erb et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:11422, 1994;Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37:2678, 1994;Cho et al., Science 261:1303, 1993;Carrell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059, 1994;Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 33:2061, 1994;およびGallop et al., J. Med. Chem., 37:1233, 1994に見出すことができる。
【0058】
化合物のライブラリーは溶液中に提示してもよく(例えば、Houghten, Bio/Techniques, 13:412-421, 1992)、またはビーズ(Lam, Nature 354:82-84, 1991)、チップ(Fodor, Nature 364:555-556, 1993)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号;同第5,403,484号;および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:1865-1869, 1992)、もしくはファージ(Scott and Smith, Science, 249:386-390, 1990;Devlin, Science, 249:404-406, 1990;Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6378-6382, 1990;およびFelici, J. Mol. Biol., 222:301-310, 1991)上に提示してもよい。
【0059】
1つの態様において、アッセイ法は、グルコース輸送関連ポリペプチド(例えば、表1または2の遺伝子の遺伝子産物)またはその生物活性部分を細胞表面上に発現している細胞を被験化合物と接触させる、細胞に基づくアッセイ法である。次いで、被験化合物がポリペプチドに結合する能力を決定する。細胞は例えば、酵母細胞または哺乳動物起源の細胞であってよい。被験化合物がポリペプチドに結合する能力は、例えば、複合体中の標識化合物を検出することでポリペプチドまたはその生物活性部分に対する被験化合物の結合が決定され得るように、被験化合物を放射性同位体または酵素標識と結合することによって、決定することができる。例えば、被験化合物は125I、35S、14C、または3Hで直接または間接的に標識することができ、放射線を直接カウントするかまたはシンチレーション計数によって、放射性同位体を検出することができる。
【0060】
または被験化合物は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはルシフェラーゼで酵素標識することもでき、酵素標識は、適切な基質の産物への変換を測定することにより検出することができる。1つの態様において、アッセイ法は、膜結合型のグルコース輸送関連ポリペプチドまたはその生物活性部分を細胞表面上に発現する細胞を、このポリペプチドに結合する公知化合物と接触させて、アッセイ混合物を形成する段階、アッセイ混合物を被験化合物と接触させる段階、および例えば公知化合物と比較して、被験化合物がポリペプチドまたはその生物活性部分に優先的に結合するかどうかを観察することにより、被験化合物がポリペプチドと相互作用する能力を決定する段階を含む。
【0061】
別の態様において、アッセイ法は、膜結合型のグルコース輸送関連ポリペプチドまたはその生物活性部分を細胞表面上に発現している細胞を被験化合物と接触させる段階、および被験化合物がポリペプチドまたその生物活性部分の活性を調節する(例えば、促進するまたは阻害する)能力を決定する段階を含む、細胞に基づくアッセイ法である。被験化合物がポリペプチドまたはその生物活性部分の活性を調節する能力は、例えば、ポリペプチドが標的分子と結合するかまたは相互作用する能力をモニターすることにより決定することができる。
【0062】
ポリペプチドまたは核酸が標的分子と結合するかまたは相互作用する能力は、本明細書に記載の直接結合法の1つにより決定することができる。本明細書で使用する「標的分子」とは、選択されたポリペプチドまたは核酸(例えば、表1もしくは表2の遺伝子、またはその遺伝子によってコードされるポリペプチド、またはそれらの相同体)が天然で結合または相互作用する分子、例えば、選択されたタンパク質を発現する細胞の表面上の分子、第2の細胞の表面上の分子、細胞外環境にある分子、細胞膜の内面に結合した分子、または細胞質分子である。標的分子は、グルコース輸送関連ポリペプチドもしくは核酸、または他の何らかのポリペプチド、タンパク質、もしくは核酸であってよい。例えば、標的分子は、細胞外シグナル(例えば、グルコース輸送関連ポリペプチドに対する化合物の結合によって生じるシグナル)の細胞膜を介したおよび細胞内への伝達を促進するシグナル伝達経路の成分、または触媒活性を有する第2の細胞内タンパク質、または下流シグナル伝達分子とグルコース輸送関連ポリペプチドとの会合を促進するタンパク質であってよい。
【0063】
ポリペプチドが標的分子と結合するかまたは相互作用する能力を決定することもできる。例えば、標的分子の活性は、標的の細胞二次メッセンジャー(例えば、細胞内Ca2+、ジアシルグリセロール、またはIP3)の誘導を検出する、適切な基質に対する標的の触媒/酵素活性を検出する(例えば、グルコース輸送関連ポリペプチドがキナーゼである場合には、キナーゼ活性を検出する)、レポーター遺伝子(例えば、検出可能なマーカー、例えばルシフェラーゼをコードする核酸に機能的に連結された、グルコース輸送関連ポリペプチドに応答する制御エレメント)の誘導を検出する、または細胞応答、例えば細胞分化もしくは細胞増殖を検出することにより決定することができる。標的分子が核酸である場合には、化合物は例えばリボザイムまたはアンチセンス分子であってよい。
【0064】
さらに別の態様において、本明細書に記載のアッセイ法は、グルコース輸送関連ポリペプチド(例えば、表1または2の遺伝子の遺伝子産物)もしくはそのポリペプチドをコードする核酸、またはそれらの生物活性部分を被験化合物と接触させる段階、および被験化合物がポリペプチドまたはその生物活性部分に結合する能力を決定する段階を含む。被験化合物のポリペプチドへの結合は、上記のように直接または間接的に決定することができる。1つの態様において、アッセイ法は、ポリペプチドまたはその生物活性部分を、そのポリペプチドに特異的に結合する公知化合物と接触させて、アッセイ混合物を形成する段階、アッセイ混合物を被験化合物と接触させる段階、および被験化合物がポリペプチドと相互作用する能力(例えば、公知化合物の結合と競合する能力)を決定する段階を含む。公知化合物と比較して、被験化合物がポリペプチドまたはその生物活性部分に優先的に結合するかどうかを決定することにより、被験化合物がポリペプチドと相互作用する能力を評価することができる。被験化合物を核酸に標的化する場合、被験化合物の核酸への結合は、例えば、結合により、核酸の断片化により(被験化合物がリボザイムである場合)、または被験化合物の存在下における転写もしくは翻訳の阻害により試験することができる。
【0065】
別の態様において、アッセイ法は、グルコース輸送関連ポリペプチドまたはその生物活性部分を被験化合物と接触させる段階、および被験化合物がポリペプチドまたはその生物活性部分の活性を調節する(例えば、促進するまたは阻害する)能力を決定する段階を含む無細胞アッセイ法である。例えば、被験化合物がポリペプチドの活性を調節する能力を決定する段階は、ポリペプチドが標的分子を修飾する能力を決定することにより達成され得る。またはそのような方法は、適切な基質に対する標的分子の触媒/酵素活性を測定し得る。表1および2記載の多くの遺伝子はキナーゼをコードする。これらの遺伝子の産物では、キナーゼアッセイ法を使用して、遺伝子産物の活性を調節する薬剤を同定することができる。一般に、ポリペプチド(またはその生物活性部分)の活性の調節は、キナーゼアッセイ法または別の形式のアッセイ法によって、被験化合物の非存在下における活性を、被験化合物の存在下における活性と比較することにより決定される。一般に、ポリペプチド(またはその生物活性部分)の活性の調節は、キナーゼアッセイ法または別の形式のアッセイ法によって、被験化合物の非存在下における活性を、被験化合物の存在下における活性と比較することにより決定される。例えば、被験化合物の存在下におけるキナーゼ(例えば、表1または表2に列挙されるキナーゼ)の活性を決定するには、タンパク質リン酸化に関する任意の標準的なアッセイを行い得る。キナーゼの天然基質、またはキナーゼがリン酸化する別のタンパク質もしくはペプチドを使用することができる。キナーゼ活性のアッセイはまた、キナーゼの生物活性断片(例えば、触媒活性を保持する断片)で行うこともできる。
【0066】
さらに別の態様において、無細胞アッセイ法は、グルコース輸送関連ポリペプチドもしくはそのポリペプチドをコードする核酸、またはそれらの生物活性部分を、ポリペプチドに結合する公知化合物と接触させて、アッセイ混合物を形成する段階、アッセイ混合物を被験化合物と接触させる段階、およびポリペプチドまたは核酸が標的分子(例えば、ポリペプチドの天然基質であるかまたは結合パートナーである標的分子)に優先的に結合するかまたはその活性を調節する能力をアッセイすることにより、被験化合物がポリペプチドまたは核酸と相互作用する能力を決定する段階を含む。
【0067】
無細胞アッセイ法は、可溶型または膜結合型のポリペプチド(ポリペプチドが膜含有ポリペプチドである場合)の使用に適している。膜結合型のポリペプチドを含む無細胞アッセイ法の場合には、膜結合型のポリペプチドが溶液中で維持されるように、可溶化剤を使用することが望ましいと考えられる。このような可溶化剤の例には、n-オクチルグルコシド、n-ドデシルグルコシド、n-オクチルマルトシド、オクタノイル-N-メチルグルカミド、デカノイル-N-メチルグルカミド、Triton X-100(登録商標)、Triton X-114(登録商標)、テシット(Thesit)、イソトリデシポリ(エチレングリコールエーテル)n、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸(CHAPS)、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸(CHAPSO)、およびN-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸などの非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0068】
新規アッセイ法の特定の態様では、グルコース輸送関連ポリペプチドまたはその標的分子のいずれかを固定化して、これらタンパク質の一方または両方の非複合体型からの複合体型の分離を容易にすること、およびアッセイを自動化することが望ましいと考えられる。被験化合物のポリペプチドへの結合、または、被験薬剤の存在下および非存在下におけるポリペプチドと標的分子との相互作用は、反応物の収容に適した任意の容器中で行うことができる。このような容器の例には、マイクロタイタープレート、試験管、および微量遠心管が含まれる。1つの態様では、タンパク質の一方または両方の基質への結合を可能にするドメインを付加した融合タンパク質が提供され得る。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ融合タンパク質またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ融合タンパク質をグルタチオンセファロースビーズ(Sigma Chemical;ミズーリ州、セントルイス)またはグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレートに吸着させ得、次いで被験化合物、または、被験化合物および吸着させていない標的タンパク質もしくはグルコース輸送関連タンパク質のいずれかと混合し、複合体形成を促す条件下で(例えば、塩およびpHの生理的条件で)インキュベートする。インキュベーション後、ビーズまたはマイクロタイタープレートウェルを洗浄して、非結合成分を除去し、複合体形成を例えば上記のように直接または間接的に測定する。または、複合体を基質から解離させてもよく、ポリペプチドの結合または活性のレベルを標準的な技法で決定することができる。
【0069】
タンパク質を基質上に固定化する他の技術もまた、本スクリーニングアッセイ法において使用することができる。例えば、グルコース輸送関連ポリペプチドまたはその標的分子のいずれかを、ビオチンとストレプトアビジンの結合を用いて固定化することができる。当技術分野で周知の技法を使用して(例えば、ビオチン化キット、Pierce Chemicals;イリノイ州、ロックフォード)、ビオチン-NHS(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)からビオチン化ポリペプチドまたは標的分子を調製し、ストレプトアビジンをコーティングした96ウェルプレート(Pierce Chemical)のウェルに固定化し得る。または、ポリペプチドまたは標的分子と反応するが、グルコース輸送関連ポリペプチドのその標的分子への結合を妨げない抗体を、プレートのウェルに誘導体化し、非結合の標的またはポリペプチドを抗体結合によりウェルに捕捉することができる。GST固定化複合体などの複合体を検出する方法には、ポリペプチドまたは標的分子と反応する抗体を用いる複合体の免疫検出法、およびポリペプチドまたは標的分子に関連した酵素活性の検出に基づく酵素結合測定法が含まれる。
【0070】
別の態様においては、ポリペプチドの発現の調節因子は、細胞を被験薬剤または化合物と接触させ、細胞内での選択されたmRNAまたはタンパク質(例えば、例えば表1または2記載のグルコース輸送関連ポリペプチドまたはそのポリペプチドをコードする遺伝子に対応するmRNAまたはタンパク質)の発現を決定する方法で同定される。被験薬剤の存在下における選択されたmRNAまたはタンパク質の発現レベルを、被験薬剤の非存在下における選択されたmRNAまたはタンパク質の発現レベルと比較する。次いで、この比較に基づいて、被験薬剤がポリペプチドの発現の調節因子(すなわち、候補化合物)として同定され得る。例えば、選択されたmRNAまたはタンパク質の発現が、被験薬剤の非存在下よりもその存在下において高い(統計的に有意に高い)場合には、被験薬剤は、選択されたmRNAまたはタンパク質の発現の促進因子である候補薬剤として同定される。または、選択されたmRNAまたはタンパク質の発現が、被験薬剤の非存在下よりもその存在下において低い(統計的に有意に低い)場合には、被験薬剤は、選択されたmRNAまたはタンパク質の発現の阻害因子である候補薬剤と同定される。細胞内での選択されたmRNAまたはタンパク質の発現レベルは、本明細書に記載する方法により決定し得る。
【0071】
さらに別の局面においては、グルコース輸送関連ポリペプチドをツーハイブリッドアッセイ法またはスリーハイブリッドアッセイ法における「ベイトタンパク質」として用いて(例えば、米国特許第5,283,317号; Zervos et al., Cell, 72:223-232, 1993;Madura et al., J. Biol. Chem. 268:12046-12054, 1993;Bartel et al., Bio/Techniques 14:920-924, 1993;Iwabuchi et al., Oncogene 8:1693-1696, 1993;およびWO 94/10300を参照されたい)、グルコース輸送関連タンパク質と結合するもしくは相互作用する、またはポリペプチドの活性を調節する他のタンパク質を同定することができる。そのような結合タンパク質はまた、例えばグルコース輸送に関するシグナル伝達経路の下流エレメントとして、グルコース輸送関連ポリペプチドによるシグナルの伝播に関与している可能性が高い。
【0072】
他種からの相同配列の単離
グルコース輸送関連遺伝子およびそれらの産物のヒト相同体は、調節因子のスクリーニングおよびII型糖尿病などのグルコース輸送関連疾患の診断を含む、本発明の種々の態様に有用である。ある種の遺伝子に関しては、相同体が既に同定されている。ヒト相同体が同定されていない場合には、いくつかのアプローチを用いてそのような遺伝子を同定することができる。これらの方法には、マウスグルコース輸送関連核酸配列を用いたヒトライブラリーの低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションスクリーニング、マウスグルコース輸送関連遺伝子由来の縮重オリゴヌクレオチドでプライミングするヒトDNA配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ツーハイブリッドスクリーニング、および相同配列に関するデータベーススクリーニングが含まれる。
【0073】
アンチセンス核酸
本明細書に記載のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現を調節する薬剤には、アンチセンス核酸分子、すなわちそのヌクレオチド配列がグルコース輸送関連ポリペプチドをコードする遺伝子の配列に基づく(例えば、表1または2の遺伝子の配列に基づく)mRNAの全体または一部と相補的である核酸分子が含まれる。アンチセンス核酸分子は、グルコース輸送関連ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のコード鎖の非コード領域の全体または一部に対してアンチセンスであってよい。非コード領域(「5'および3'非翻訳領域」)とは、遺伝子内でコード領域に隣接し、かつアミノ酸に翻訳されない5'および3'配列である。
【0074】
本明細書に開示する配列に基づき、当業者は、本明細書に記載の遺伝子を標的するための多くの適切なアンチセンス分子のうちのいずれかを容易に選択し、合成することができる。例えば、表1に記載する核酸の長さにわたる15〜30ヌクレオチドの一連のオリゴヌクレオチドを含む「遺伝子歩行」(gene walk)を調製し、続いて遺伝子発現の阻害に関して試験することができる。任意で、合成および試験するオリゴヌクレオチドの数を低減するために、5〜10ヌクレオチドのギャップをオリゴヌクレオチド間に残してもよい。
【0075】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、もしくは50ヌクレオチド長またはそれ以上の長さであってよい。アンチセンス核酸は、当技術分野で公知の手順を使用して、化学合成および酵素による連結反応により構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然ヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を増すように、もしくはアンチセンス核酸とセンス核酸との間に形成される二重鎖の物理的安定性を増すように設計された種々の修飾ヌクレオチドを用いて化学合成することができ、例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドを使用することができる。
【0076】
アンチセンス核酸の作製に使用することのできる修飾ヌクレオチドの例には、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β-D-ガラクトシルケオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルケオシン、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン(wybutoxosine)、シュードウラシル、ケオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6-ジアミノプリンが含まれる。または、アンチセンス核酸は、核酸がアンチセンス方向にサブクローニングされた発現ベクターを使用して、生物学的に生成することもできる(すなわち、挿入された核酸から転写されるRNAは、以下の節でさらに説明するように、関心対象の標的核酸に対してアンチセンス方向となる)。
【0077】
本明細書に記載のアンチセンス核酸分子は、インビトロで調製し、動物、例えば哺乳動物、例えばヒト患者に投与することができる。または、アンチセンス核酸分子は、本発明の選択されたポリペプチドをコードするmRNAおよび/またはゲノムDNAとハイブリダイズするかまたはそれに結合し、それによって例えば転写および/または翻訳を阻害することにより発現を阻害するように、インサイチューで作製することもできる。ハイブリダイゼーションは、安定な二重鎖を形成するための通常のヌクレオチド相補性によってもよいし、または例えば、DNA二重鎖に結合するアンチセンス核酸分子の場合には、二重らせんの主溝における特異的相互作用によってもよい。アンチセンス核酸分子の投与経路の例には、組織部位における直接注射が含まれる。または、アンチセンス核酸分子を選択された細胞を標的化するように修飾して、その後全身投与することもできる。例えば、全身投与のためには、選択された細胞表面上に発現される受容体または抗原にアンチセンス分子が特異的に結合するように、例えば細胞表面の受容体または抗原に結合するペプチドまたは抗体にアンチセンス核酸分子を連結することにより、アンチセンス分子を修飾することができる。アンチセンス核酸分子は、本明細書に記載のベクターを用いて細胞に送達することもできる。例えば、アンチセンス分子の十分な細胞内濃度を得るために、アンチセンス核酸分子を強力なpol IIまたはpol IIIプロモーターの調節下に置いたベクター構築物を使用することができる。
【0078】
本発明のアンチセンス核酸分子は、α-アノマー核酸分子であってよい。α-アノマー核酸分子は、通常のβ-ユニットとは異なり鎖が相互に平行に走行する、相補的RNAとの特異的な二本鎖ハイブリッドを形成する(Gaultier et al., Nucleic Acids Res. 15:6625-6641, 1987)。アンチセンス核酸分子はまた、2'-o-メチルリボヌクレオチド(Inoue et al., Nucleic Acids Res., 15:6131-6148, 1987)またはキメラRNA-DNA類似体(Inoue et al., FEBS Lett., 215:327-330, 1987)を含み得る。
【0079】
グルコース輸送関連遺伝子の全体または一部と相補的なアンチセンス分子はまた、当技術分野において公知のハイブリダイゼーション法を用いてそのような遺伝子の発現をアッセイするのに有用である。例えば、アンチセンス分子を標識し(例えば、放射性分子で)、過剰量の標識アンチセンス分子をRNA試料とハイブリダイズさせる。ハイブリダイズしなかった標識アンチセンス分子を除去し(例えば、洗浄により)、ハイブリダイズしたアンチセンス分子の量を測定する。ハイブリダイズした分子の量を測定し、これを用いて、グルコース輸送関連遺伝子の発現量を計算する。一般に、この目的のためのアンチセンス分子は、本明細書に記載するような高ストリンジェンシー条件下でグルコース輸送関連遺伝子の配列とハイブリダイズし得る。最初にRNA試料を用いてcDNAを合成する場合には、センス分子を使用し得る。二本鎖分子をハイブリダイゼーション前に適切に変性させるのであれば、二本鎖分子をそのようなアッセイにおいて使用することも可能である。
【0080】
リボザイム
本明細書に記載のグルコース輸送関連遺伝子をコードする配列に対して(例えば、表1または2記載の遺伝子の配列に対して)特異性を有するリボザイムもまた提供する。リボザイムとは、それらが相補的な領域を有する、mRNAなどの一本鎖核酸を切断することのできる、リボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNA分子である。したがって、リボザイム(例えば、ハンマーヘッドリボザイム(Haselhoff and Gerlach, Nature, 334:585-591, 1988に記載されている))を用いてmRNA転写産物を触媒切断して、それによりmRNAによってコードされるタンパク質の翻訳を阻害することができる。本発明の核酸分子に対して特異性を有するリボザイムは、本明細書に開示するcDNAのヌクレオチド配列に基づいて設計し得る。例えば、活性部位のヌクレオチド配列が、グルコース輸送関連mRNAにおいて切断されるべきヌクレオチド配列に対して相補的である、テトラヒメナL-19 IVS RNAの誘導体を構築することができる(Cech et al. 米国特許第4,987,071号;およびCech et al.、米国特許第5,116,742号)。または、本発明のポリペプチドをコードするmRNAを用いて、RNA分子のプールから特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNAを選択することもできる。例えば、Bartel and Szostak, Science, 261:1411-1418, 1993を参照されたい。
【0081】
三重らせん構造を形成する核酸分子もまた、本明細書において提供する。例えば、ポリペプチドをコードする遺伝子の制御領域(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に相補的なヌクレオチド配列を標的化して、標的細胞において遺伝子の転写を妨げる三重らせん構造を形成させることにより、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現を阻害することができる。一般的には、Helene, Anticancer Drug Des. 6(6):569-84, 1991;Helene, Ann. N.Y. Acad. Sci., 660:27-36, 1992;およびMaher, Bioassays, 14(12):807-15, 1992を参照されたい。
【0082】
種々の態様において、核酸分子(例えば、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現を調節するために用いられる核酸分子)は、例えば分子の安定性、ハイブリダイゼーション、または溶解度を改善するために、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において修飾することができる。例えば、核酸のデオキシリボースリン酸骨格を修飾して、ペプチド核酸を作製することができる(例えば、Hyrup et al., Bioorganic & Medicinal Chem., 4(1): 5-23, 1996を参照されたい)。ペプチド核酸(PNA)とは、デオキシリボースリン酸骨格が擬ペプチド骨格で置換され、4種類の天然核酸塩基のみが保持されている核酸模倣体、例えばDNA模倣体である。PNAの中性骨格は、低イオン強度の条件下におけるDNAおよびRNAへの特異的ハイブリダイゼーションを可能にする。PNAオリゴマーの合成は、例えば、Hyrup et al., 1996、前記; Perry-O'Keefe et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93: 14670-675, 1996に記載されている標準的な固相ペプチド合成手順を用いて行うことができる。
【0083】
PNAは治療および診断用途に用いることができる。例えば、PNAは、例えば転写もしくは翻訳停止を誘導するか、または複製を阻害することによって、遺伝子発現を配列特異的に調節するためのアンチセンス剤またはアンチ遺伝子剤として用いることができる。PNAはまた、例えばPNA指向性PCRクランピングにより、例えば遺伝子における単一塩基対の変異の解析において;他の酵素、例えばS1ヌクレアーゼと組み合わせて使用する場合の人工制限酵素として(Hyrup, 1996、前記);またはDNA配列決定およびハイブリダイゼーションのためのプローブもしくはプライマーとして(Hyrup, 1996、前記;Perry-O'Keefe et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93: 14670-675, 1996)用いることもできる。
【0084】
PNAは、例えばその安定性または細胞取り込みを増強するために、PNAに親油性基もしくは他の補助基を付加することにより、PNA-DNAキメラの形成により、またはリポソームもしくは当技術分野で公知の他の薬物送達技法の使用により修飾することができる。例えば、PNAとDNAの有利な特性を兼ね備え得るPNA-DNAキメラを作製することができる。このようなキメラにより、PNA部分が高い結合親和性および特異性を提供しつつ、例えばRNaseHおよびDNAポリメラーゼなどのDNA認識酵素がDNA部分と相互作用することが可能になる。PNA-DNAキメラは、塩基のスタッキング、核酸塩基間の結合数、および配向に関して選択される適切な長さのリンカーを用いて連結することができる(Hyrup, 1996、前記)。PNA-DNAキメラの合成は、Hyrup, 1996、前記、およびFinn et al., Nucleic Acids Res., 24:3357-63, 1996に記載されている通りに行うことができる。例えば、DNA鎖は、標準的なホスホラミダイトカップリング化学および修飾ヌクレオシド類似体を用いて固相支持体上で合成することができる。5'-(4-メトキシトリチル)アミノ-5'-デオキシ-チミジンホスホラミダイトなどの化合物を、PNAとDNAの5'末端との間の連結として使用することができる(Mag et al., Nucleic Acids Res., 17:5973-88, 1989)。次いでPNAモノマーを段階的様式で結合させ、5'PNA部分および3'DNA部分を有するキメラ分子を生成する(Finn et al., Nucleic Acids Res., 24:3357-63, 1996)。または、5'DNA部分および3'PNA部分を用いてキメラ分子を合成することもできる(Peterser et al., Bioorganic Med. Chem. Lett., 5:1119-11124, 1975)。
【0085】
いくつかの態様において、オリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、インビボで宿主細胞受容体を標的化するための)、または細胞膜(例えば、Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:6553-6556, 1989;Lemaitre et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:648-652, 1989;WO 88/09810を参照されたい)もしくは血液脳関門(例えば、WO 89/10134を参照されたい)を介した輸送を促進する薬剤などの他の付属基を含む。さらに、オリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーション誘発性切断剤(例えば、Krol et al., Bio/Techniques, 6:958-976, 1988を参照されたい)または挿入剤(例えば、Zon, Pharm. Res., 5:539-549, 1988を参照されたい)で修飾することもできる。この目的のために、オリゴヌクレオチドを別の分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発性架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発性切断剤などに結合することができる。
【0086】
siRNA
グルコース輸送関連ポリペプチドの発現を阻害し得る別の手段は、RNA干渉(RNAi)による。RNAiとは、mRNAが宿主細胞において分解される過程である。mRNAを阻害するには、サイレンシングしようとする遺伝子(例えば、グルコース輸送関連ポリペプチドをコードする遺伝子、例えば表1の遺伝子)の一部に対応する二本鎖RNA(dsRNA)を細胞に導入する。dsRNAは短い干渉RNA(またはsiRNA)と呼ばれる21〜23ヌクレオチド長二重鎖に消化され、これはヌクレアーゼ複合体に結合してRNA誘導型サイレンシング複合体(またはRISC)として知られるものを形成する。RISCは、siRNA鎖の一方と内因性mRNAとの間の塩基対形成相互作用により、相同的な転写産物を標的化する。RISCは次に、siRNAの3'末端から約12ヌクレオチドずつmRNAを切断する(Sharp et al., Genes Dev. 15:485-490, 2001、およびHammond et al., Nature Rev. Gen., 2:110-119, 2001を参照されたい)。
【0087】
RNA媒介性遺伝子サイレンシングは、多くの方法で、例えばRNAヘアピンを内因的に発現させることにより(Paddison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1443-1448, 2002)、または上記したように低分子(21〜23 nt) dsRNAをトランスフェクションすることにより(Caplen, Trends in Biotech., 20:49-51, 2002に概説されている)、哺乳動物細胞において誘導することができる。RNAiを用いて遺伝子発現を調節する方法は、例えば、米国特許第6,506,559号および米国特許出願公開第20030056235号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。
【0088】
標準的な分子生物学技法を用いて、siRNAを作製することができる。短い干渉RNAは、化学合成すること、例えばプラスミドなどの鋳型DNAからRNAを発現させるなどして組換えにより生成すること、またはDharmaconなどの製造供給元から入手することができる。RNAiを媒介するために使用するRNAは、ホスホロチオエートヌクレオチドなどの合成または修飾ヌクレオチドを含み得る。siRNAまたはsiRNAを作製するように設計されたプラスミドを細胞にトランスフェクションする方法は、当技術分野において日常的である。
【0089】
グルコース輸送関連ポリペプチドの発現を調節するために用いられるsiRNA分子は、多くの方法で異なり得る。例えば、siRNA分子は、3'ヒドロキシ基および21、22、または23個の連続したヌクレオチドを含み得る。それらは平滑末端化されてもよいし、または3'末端、5'末端、もしくは両末端において突出末端を含んでもよい。例えば、RNA分子の少なくとも一方の鎖は、約1〜約6ヌクレオチド(例えば、1〜5、1〜3、2〜4、または3〜5ヌクレオチド(ピリミジンヌクレオチドであろうとプリンヌクレオチドであろうと))長の3'突出部を有し得る。両鎖が突出部を含む場合には、突出部の長さは各鎖について同じであってもまたは異なってもよい。
【0090】
RNA二重鎖の安定性をさらに増強するために、3'突出部を分解に対して安定化することができる(例えば、アデノシンもしくはグアノシンヌクレオチドなどのプリンヌクレオチドを含めることによるか、またはピリミジンヌクレオチドを修飾類似体で置換することによる(例えば、ウリジン2ヌクレオチド3'突出部の2'-デオキシチミジンによる置換は許容され、RNAiの効率に影響しない))。関心対象の標的と十分な相同性を有するのであれば、任意のsiRNAをグルコース輸送関連ポリペプチドを調節する方法において使用することができる。使用し得るsiRNAの長さに上限はない(例えば、siRNAは、遺伝子の約21塩基対〜遺伝子の全長またはそれ以上の長さ(例えば、50〜100、100〜250、250〜500、500〜1000、または1000塩基対超)であってよい)。
【0091】
単離されたポリペプチド
本明細書に記載のグルコース輸送関連遺伝子によってコードされる単離されたポリペプチドもまた提供する。これらのポリペプチドは、例えば抗体を産生させるための免疫原として、スクリーニング法において、または例えばポリペプチドの投与により対象を治療する方法において使用することができる。核酸の翻訳産物を予測する方法は、当技術分野において周知である(例えば、予測されるポリペプチド配列、および3つの読み枠のうちどれが配列のオープンリーディングフレームであるかに関する指示を提供するコンピュータプログラムを用いる)。次いで、これらのポリペプチド配列を生物学的に(例えば、これらをコードする核酸配列を発現ベクター中にインフレームで配置し、適合する発現系にトランスフェクションすることにより)、または当技術分野で公知の方法を用いて化学的に生成することができる。ポリペプチド全体またはその断片を、治療方法において、または例えばスクリーニングアッセイにおいて有用である抗体を産生させるために使用することができる。
【0092】
「単離された」もしくは「精製された」タンパク質またはその生物活性部分は、そのタンパク質が由来する細胞または組織源からの細胞物質または他の混入タンパク質を実質的に含まず、または化学合成された場合には、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。「細胞物質を実質的に含まない」という用語は、タンパク質が単離されたまたは組換えによって生成された細胞の細胞成分からタンパク質が分離されているタンパク質調製物を含む。したがって、細胞物質を実質的に含まないタンパク質には、(乾燥重量で)約30%、20%、10%、または5%未満の異種タンパク質(本明細書では「混入タンパク質」とも称する)を有するタンパク質調製物が含まれる。一般に、タンパク質およびその生物活性部分が組換えによって生成される場合には、これは同様に培養液を実質的に含まず、すなわち培養液はタンパク質調製物の容量の約20%、10%、または5%未満を表す。一般に、タンパク質が化学合成によって生成される場合には、これは化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まず、すなわちタンパク質の合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質から分離されている。したがって、このようなタンパク質調製物は、化学的前駆体または関心対象のポリペプチド以外の化合物を(乾燥重量で)約30%、20%、10%、または5%未満有する。
【0093】
タンパク質およびポリペプチドの発現をアッセイして、発現量を決定することができる。タンパク質発現をアッセイする方法は当技術分野で公知であり、これにはウェスタンブロット法、免疫沈降法、および放射性免疫測定法が含まれる。
【0094】
グルコース輸送関連ポリペプチドの生物活性部分には、タンパク質のアミノ酸配列と十分に同一であるかまたはその配列に由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、全長タンパク質よりも少数のアミノ酸を含み、かつ対応する全長タンパク質の少なくとも1つの活性を示すポリペプチドが含まれる。典型的に、生物活性部分は、対応するタンパク質の少なくとも1つの活性を有するドメインまたはモチーフを含む。ポリペプチドの生物活性部分は、例えば10、25、50、100アミノ酸長、またはそれ以上の長さであってよい。さらに、所与のタンパク質の他の領域が除去された生物活性部分を組換え技法によって調製し、天然型ポリペプチドの機能活性の1つまたは複数に関して評価することができる。これらの短いポリペプチドは、表1および2に列挙される遺伝子の遺伝子産物の活性を競合的に阻害する処置において使用することができる。
【0095】
いくつかの態様において、グルコース輸送関連ポリペプチドは、表1および2記載の遺伝子から選択される遺伝子によってコードされる予測アミノ酸配列を有する。他の有用なタンパク質は、表1および2記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドの予測アミノ酸配列と実質的に同一(例えば、少なくとも約45%、好ましくは55%、65%、75%、85%、95%、または99%)であって、(a) 対応する天然タンパク質のタンパク質の機能活性を保持しているが、天然の対立遺伝子変化もしくは変異誘発によってアミノ酸配列が異なるか、または(b) 必要に応じて変化した機能活性(例えば、ドミナントネガティブとして)を示す。
【0096】
配列の比較および2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成される。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)中のGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunsch((1970) J. Mol. Biol. 48:444-453)アルゴリズムを用いて、Blossum 62行列またはPAM250行列のいずれか、ならびにギャップ加重16および長さ加重1を用いて決定される。2つのヌクレオチド配列間のパーセント同一性は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)中のGAPプログラムを用いて、NWSgapdna.CMP行列ならびにギャップ加重40および長さ加重1を用いて決定される。
【0097】
一般に、本明細書で参照するアミノ酸配列間のパーセント同一性は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTにおいて公的に利用可能なBLAST 2.0プログラムを用いて決定される。配列比較は、ギャップなしのアラインメントを用いて、および初期設定パラメータ(Blossum 62行列、ギャップ存在コスト11、残基あたりのギャップコスト1、およびラムダ比0.85)を用いて行われる。BLASTプログラムで盛りいられる数学的アルゴリズムは、Altschul et al., Nucleic Acids Research 25:3389-3402, 1997に記載されている。
【0098】
キメラまたは融合タンパク質もまた、本明細書において提供する。本明細書で使用する「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、異種ポリペプチド(すなわち、グルコース輸送関連ポリペプチド以外のポリペプチド)に機能的に連結されたグルコース輸送関連ポリペプチドの全体または一部(例えば、生物活性部分)を含む。融合タンパク質との関連において「機能的に連結した」という用語は、ポリペプチドと異種ポリペプチドが相互にインフレームで融合していることを意味するものとする。異種ポリペプチドは、グルコース輸送関連ポリペプチドのN末端またはC末端に融合させることができる。
【0099】
1つの有用な融合タンパク質は、グルコース輸送関連ポリペプチドがGST配列のC末端に融合されているGST融合タンパク質である。そのような融合タンパク質は、組換え体グルコース輸送関連ポリペプチドの精製を容易にし得る。
【0100】
別の態様において、融合タンパク質は、そのN末端で異種シグナル配列を含む。例えば、グルコース輸送関連ポリペプチドの本来のシグナル配列を除去して、別のタンパク質のシグナル配列で置換することができる。例えば、バキュロウイルスエンベロープタンパク質のgp67分泌配列を異種シグナル配列として用いることができる(Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al., eds., John Wiley & Sons, 1992)。真核生物異種シグナル配列の他の例には、メリチンおよびヒト胎盤アルカリホスファターゼの分泌配列が含まれる(Stratagene;カリフォルニア州、ラ・ホーヤ)。さらに別の例において、有用な原核生物異種シグナル配列には、phoA分泌シグナル(Sambrook et al., eds., Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)およびプロテインA分泌シグナル(Pharmacia Biotech:ニュージャージー州、ピスカタウェイ)が含まれる。
【0101】
さらに別の態様において、融合タンパク質は、グルコース輸送関連ポリペプチドの全体または一部が、免疫グロブリンタンパク質ファミリーのメンバーに由来する配列に融合されている免疫グロブリン融合タンパク質である。免疫グロブリン融合タンパク質を薬学的組成物に組み入れ、リガンド(可溶性または膜結合型)と細胞表面上のタンパク質(受容体)との相互作用を阻害して、それによってインビボでのシグナル伝達を抑制するために、対象に投与することができる。免疫グロブリン融合タンパク質を用いて、グルコース輸送関連ポリペプチドの同族リガンドの生物学的利用能に影響を及ぼすことができる。リガンド/受容体相互作用の阻害は、増殖性および分化性疾患を治療するため、ならびに細胞生存を調節する(例えば、促進するまたは阻害する)ために、治療的に有用であり得る。さらに、免疫グロブリン融合タンパク質は、対象においてグルコース輸送関連ポリペプチドに対する抗体を産生させるための免疫原として、リガンドを精製するため、および受容体とリガンドの相互作用を阻害する分子を同定するためのスクリーニングアッセイにおいて用いることができる。
【0102】
キメラおよび融合グルコース輸送関連ポリペプチドは、標準的な組換えDNA技法により生成することができる。別の態様において、融合遺伝子は、自動DNA合成機を含む従来の技法によって合成することができる。または、2つの連続した遺伝子断片間に相補的突出部を生じるアンカープライマーを用いて、遺伝子断片のPCR増幅を行い、その後これをアニーリングおよび再増幅してキメラ遺伝子配列を作製することができる。さらに、既に融合部分(例えば、GSTポリペプチド)を既にコードする多くの発現ベクターが市販されている。グルコース輸送関連ポリペプチドをコードする核酸を、融合部分がポリペプチドとインフレームで連結されるように、そのような発現ベクターにクローニングすることができる。
【0103】
ポリペプチドのシグナル配列を用いて、関心対象の分泌タンパク質または他のタンパク質の分泌および単離を容易にすることができる。シグナル配列は典型的に、1つまたは複数の切断事象における分泌過程において成熟タンパク質から一般的に切断される疎水性アミノ酸のコアによって特徴づけられる。そのようなシグナルペプチドは、成熟タンパク質が分泌経路を通過する際にそのタンパク質からのシグナル配列の切断を可能にするプロセシング部位を含む。したがって、シグナル配列を有する記載のポリペプチド、ならびにシグナル配列自体およびシグナル配列の非存在下におけるポリペプチド(すなわち、切断産物)が本明細書において提供される。1つの態様においては、シグナル配列をコードする核酸配列を、発現ベクターにおいて、通常は分泌されないかまたはさもなくば単離が困難であるタンパク質などの関心対象のタンパク質に機能的に連結することができる。シグナル配列は、発現ベクターを形質転換する真核生物宿主からなどのタンパク質の分泌を指向し、シグナル配列はその後または同時に切断される。タンパク質は次いで、当技術分野において公知の方法により、細胞外培地から容易に精製され得る。または、シグナル配列は、GSTドメインのような精製を容易にする配列を用いて、関心対象のタンパク質に連結することができる。
【0104】
グルコース輸送関連ポリペプチドの変種もまた提供する。そのような変種は、アゴニスト(模倣体)としてまたはアンタゴニストとして機能し得る変化したアミノ酸配列を有する。変種は、例えば不連続の点突然変異または切断などの突然変異誘発によって作製され得る。アゴニストは、天然型タンパク質の生物活性と実質的に同等であるかまたはその一部の活性を保持し得る。タンパク質のアンタゴニストは、例えば、関心対象のタンパク質を含む細胞シグナル伝達カスケードの下流または上流メンバーに競合的に結合することにより、天然型タンパク質の活性の1つまたは複数を阻害し得る。このように、限定された機能の変種で処置することにより、特定の生物学的効果を誘発することができる。天然型タンパク質の生物活性の一部を有する変種で対象を処置すると、天然型タンパク質で処置した場合と比較して、対象における副作用が少なくなり得る。
【0105】
抗体
単離されたグルコース輸送関連ポリペプチドまたはその断片を免疫原として用いて、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の調製に関する標準的技法により抗体を作製することができる。全長ポリペプチドもしくはタンパク質を用いることができ、または抗原性ペプチド断片を免疫原として用いることもできる。タンパク質の抗原性ペプチドは、例えば表1または表2記載の遺伝子によってコードされるグルコース輸送関連ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも8個(例えば、10、15、20、または30個)のアミノ酸残基を含み、ペプチドに対して産生された抗体がタンパク質と特異的免疫複合体を形成するように、タンパク質のエピトープを含む。
【0106】
典型的には免疫原を用いて、適切な対象(例えば、ウサギ、ヤギ、マウス、または他の哺乳動物)を免疫化することにより抗体を調製する。適切な免疫原調製物は、例えば、組換えにより発現されたまたは化学合成されたポリペプチドを含み得る。調製物は、フロイントの完全もしくは不完全アジュバントなどのアジュバント、または同様の免疫刺激剤をさらに含み得る。
【0107】
ポリクローナル抗体は、適切な対象を免疫原としてのグルコース輸送関連ポリペプチドで免疫化することにより、上記のように調製することができる。免疫化された対象における抗体力価は、固定化ポリペプチドを使用する酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)などの標準的な技法により、経時的にモニターすることができる。必要に応じて、哺乳動物から(例えば、血液から)抗体分子を単離し、プロテインAクロマトグラフィーなどの周知の技法によりさらに精製して、IgG画分を得ることができる。免疫化後の適切な時点で、例えば特異的抗体力価が最も高い時点で、抗体産生細胞を対象から得て、これを用いてKohler and Milstein, Nature 256:495-497, 1975により最初に記載されたハイブリドーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor et al., Immunol. Today 4: 72, 1983)、EBV-ハイブリドーマ技法(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96, 1985)、またはトリオーマ技法などの標準的な技法によりモノクローナル抗体を調製することができる。ハイブリドーマを作製する技術は周知である(一般的には、Current Protocols in Immunology, 1994, Coligan et al. (eds.) John Wiley & Sons, Inc., New York, NYを参照されたい)。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば標準的なELISAアッセイ法を使用して、関心対象のポリペプチドと結合する抗体に関してハイブリドーマ培養上清をスクリーニングすることにより検出される。
【0108】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製することに代えて、組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリー)を関心対象のポリペプチドでスクリーニングすることにより、ポリペプチドに対するモノクローナル抗体を同定および単離することができる。ファージディスプレイライブラリーを作製しスクリーニングするためのキットは、市販されている(例えば、Pharmacia組換えファージ抗体システム(Recombinant Phage Antibody System)、カタログ番号27-9400-01;およびStratagene SurfZAP(商標) ファージディスプレイキット(Phage Display Kit)、カタログ番号240612)。さらに、抗体ディスプレイライブラリーの作製およびスクリーニングにおける使用に特に適した方法および試薬の例は、例えば、米国特許第5,223,409号;WO 92/18619;WO91/17271;WO 92/20791;WO 92/15679;WO 93/01288;WO 92/01047;WO 92/09690;WO 90/02809;Fuchs et al., Bio/Technology 9:1370-1372, 1991;Hay et al., Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85, 1992;Huse et al., Science 246:1275-1281, 1989;Griffiths et al., EMBO J. 12:725-734, 1993に見出し得る。
【0109】
さらに、標準的な組換えDNA技法を用いて作製することのできる、ヒトおよび非ヒト部分を含むキメラおよびヒト化モノクローナル抗体などの組換え抗体も、本明細書において提供する。このようなキメラおよびヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野で公知の組換えDNA技法により、例えば、WO 87/02671;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号;WO 86/01533;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号;Better et al., Science, 240:1041-1043, 1988;Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443, 1987;Liu et al., J. Immunol., 139:3521-3526, 1987;Sun et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:214-218, 1987;Nishimura et al., Canc. Res. 47:999-1005, 1987;Wood et al., Nature, 314:446-449, 1985;およびShaw et al., J. Natl. Cancer Inst., 80:1553-1559, 1988);Morrison, Science, 229:1202-1207, 1985;Oi et al., Bio/Techniques, 4:214, 1986;米国特許第5,225,539号;Jones et al., Nature, 321:552-525, 1986;Verhoeyan et al., Science, 239:1534, 1988;およびBeidler et al., J. Immunol., 141:4053-4060, 1988に記載されている方法を用いて作製することができる。。
【0110】
完全なヒト抗体が、ヒト患者の治療的処置にとって特に望ましい。そのような抗体は、内因性免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子を発現し得ないが、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子を発現し得るトランスジェニックマウスを用いて作製することができる。トランスジェニックマウスを、選択した抗原、例えばポリペプチドの全体または一部で通常の様式により免疫化する。抗原に対するモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を用いて得ることができる。トランスジェニックマウスが所有するヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化の過程で再編成し、次いでクラススイッチおよび体細胞変異を起こす。したがって、このような技法を用いて、治療上有用なIgG、IgA、およびIgE抗体を作製することが可能である。ヒト抗体を作製するための本技術の総説に関しては、Lonberg and Huszar (Int. Rev. Immunol., 13:65-93, 1995)を参照されたい。ヒト抗体およびヒトモノクローナル抗体を作製するための本技術、ならびにそのような抗体を作製するための手順の詳細な考察に関しては、例えば、米国特許第5,625,126号;米国特許第5,633,425号;米国特許第5,569,825号;米国特許第5,661,016号;および米国特許第5,545,806号を参照されたい。さらに、Abgenix, Inc.(カリフォルニア州、フリーモント)などの企業が、上記と類似の技術を用いて、選択された抗原に対するヒト抗体の提供を請け負い得る。
【0111】
選択されたエピトープを認識する完全なヒト抗体は、「誘導選択」("guided selection")と称される技法を用いて作製することができる。このアプローチでは、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体を用いて、同じエピトープを認識する完全なヒト抗体の選択を誘導する。(Jespers et al., Biotechnology, 12:899-903, 1994)。
【0112】
グルコース輸送関連ポリペプチドに対する抗体(例えば、モノクローナル抗体)を用いて、アフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降法などの標準的技法によりポリペプチドを単離することができる。さらに、そのような抗体を用いて、ポリペプチドの発現の存在量およびパターンを評価するために、(例えば、細胞溶解物または細胞上清中で)タンパク質を検出することができる。抗体を診断において使用して、臨床試験法の一部として組織中のタンパク質レベルをモニターすること、例えば所与の治療計画の有効性を決定することもできる。検出は、抗体を検出可能な物質と結合させることにより容易になり得る。検出可能な物質の例には、種々の酵素、補欠分子団、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、および放射性物質が含まれる。適切な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが含まれ;適切な補欠分子団複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれ;適切な蛍光物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、またはフィコエリトリンが含まれ;発光物質の例にはルミノールが含まれ;生物発光物質の例には、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンが含まれ、ならびに適切な放射性物質の例には、125I、131I、35S、または3Hが含まれる。
【0113】
治療方法および薬学的組成物
グルコース代謝に関連した疾患を治療する方法を本明細書において提供する。「治療」は、疾患、疾患の症状、または疾患の素因を治療する、緩和する、軽減する、改変する、緩解させる、和らげる、改善する、またはそれらに影響を及ぼす方法を含む。本方法は、インビボでまたは培養下の細胞において、例えばインビトロもしくはエクスビボで使用することができる。インビボにおける態様では、本方法は対象において行われ、薬剤が細胞におけるポリペプチドの発現または活性を調節するのに有効な条件下で薬剤を対象に投与する段階を含む。
【0114】
インビトロでグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する薬剤は、動物モデルにおいてインビボでさらに試験する。例えば、グルコース輸送関連ポリペプチドの調節因子であると同定された被験化合物は、肥満または糖尿病の動物モデル(例えばII型糖尿病、例えばJackson Laboratoriesから入手されるob/obマウス(株名:B6.V-Lepob/J)、db/dbマウス;例えば、Sima AAF, Shafrir E. Animal Models in Diabetes: A Primer. Taylor and Francis, Publ Amsterdam, Netherlands, 2000を参照されたい)などの動物で試験する。被験薬剤の投与後の種々の時点において、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現もしくは活性のレベル、またはグルコース、耐糖性、および血漿インスリンのレベルをモニターして、被験化合物が対照と比較してグルコース代謝に有益な効果を有するどうか、すなわち被験化合物が高血糖または血漿インスリンレベルの減少をもたらすかどうかを決定する。
【0115】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトに使用するために所与の薬剤の適切な投与量を製剤化する際に用いることができる。薬剤の治療有効量は、客観的徴候(例えば、血糖値)の改善により明らかになろうと、疾患の自覚症状の改善により明らかになろうと、病態の1つもしくは複数の症状の進行を遅らせるか、またはその症状を改善する量である。特定の要因が、対象を有効に治療するために必要な投与量およびタイミングに影響し得る(例えば、疾患または障害の重症度、以前の治療、対象の全般的健康および/または年齢、ならびに存在する他の疾患)。
【0116】
グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性の調節に有用な組成物(公知であろうと、本明細書に記載のスクリーニングアッセイによって同定されたのであろうと)は、薬学的組成物に組み入れ、グルコース代謝に関連した(例えば、I型糖尿病、II型糖尿病、または肥満などの、グルコース代謝の脱制御に関連した)疾患もしくは状態を有するか、またはそのような疾患もしくは状態を発症するリスクがある対象に投与することができる。このような組成物は、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する1つまたは複数の薬剤、および薬学的に許容される担体(例えば、実質的に非毒性である溶媒、分散媒、コーティング、緩衝液、吸収遅延剤など)を含む。補足的な活性化合物を組成物に組み入れることも可能である。
【0117】
薬学的組成物は、経口であろうと非経口(例えば、静脈内、皮内、皮下、経粘膜(例えば、吸入用に経鼻スプレーが製剤化される)、または経皮的(例えば、糖技術分野で一般的に知られている局所軟膏(ointment)、軟膏(salve)、ゲル、パッチ、またはクリーム))であろうと、その目的とする投与経路に適合するように製剤化する。組成物は、滅菌希釈剤(例えば、蒸留水または生理食塩水)、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;ベンジルアルコールもしくはメチルパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの抗菌剤または抗真菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸、クエン酸、またはリン酸などの緩衝剤;および糖(例えば、デキストロース)、多価アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール)、または塩(例えば、塩化ナトリウム)などの等張剤を含み得る。リポソーム懸濁液(神経抗原に特異的なモノクローナル抗体により罹患細胞を標的化するリポソームを含む)もまた、薬学的に許容される担体として使用することができる(例えば、米国特許第4,522,811号を参照されたい)。組成物の調製物を製剤化し、アンプル、使い捨てシリンジ、または複数用量バイアル中に封入することができる。必要な場合には(例えば、注射製剤などの場合)、例えばレシチンなどのコーティングまたは界面活性剤を用いることにより、適切な流動性を維持し得る。有効成分の吸収は、吸収を遅延させる薬剤を含めることにより延長することができる(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)。または、生分解性の生体適合性ポリマー(例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸;Alza Corporation and Nova Pharmaceutical, Inc.)を含み得る植込錠およびマイクロカプセル化送達系により、制御放出が達成され得る。
【0118】
経口投与を意図する場合、薬剤は丸剤、カプセル剤、トローチ剤などに含めることができ、以下の成分のいずれかまたは同様の性質の化合物を含み得る:微結晶セルロース、トラガカントゴム、もしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、もしくはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;スクロースもしくはサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジフレーバーなどの香料添加剤。
【0119】
グルコース輸送関連ポリペプチドを調節する薬剤を含む組成物は、投与単位形態(dosage unit form)(すなわち、投与の容易さおよび投与量の均一性のために、所定量の活性化合物を含む物理的に別個の単位)で経口投与または非経口投与用に製剤化することができる。化合物の毒性および治療有効性は、細胞培養または実験動物において標準的な薬学的手順により決定することができる。例えば、LD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)、LD50:ED50比である治療指数を決定することができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。薬剤が望ましくない副作用を示す場合には、薬剤を罹患組織部位に標的化するよう注意すべきである(非罹患細胞に対して生じ得る損傷を最小限に抑えて、それにより副作用を軽減するためである)。毒性および治療有効性は、他の標準的な薬学的手順によって決定することもできる。
【0120】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトに使用するために所与の薬剤の適切な投与量を製剤化する際に用いることができる。薬剤の治療有効量は、客観的徴候(例えば、血糖値)の改善により明らかになろうと、疾患の自覚症状の改善により明らかになろうと、病態の1つもしくは複数の症状の進行を遅らせるか、またはその症状を改善する量である。特定の要因が、対象を有効に治療するために必要な投与量およびタイミングに影響し得る(例えば、疾患または障害の重症度、以前の治療、対象の全般的健康および/または年齢、ならびに存在する他の疾患)。
【0121】
上記のように、本明細書に記載の方法に従って同定および投与される薬剤は、小分子(例えば、ペプチド、ペプチド模倣体(例えば、ペプトイド)、アミノ酸残基(またはその類似体)、ポリヌクレオチド(またはその類似体)、ヌクレオチド(またはその類似体)、または有機もしくは無機化合物(例えば、ヘテロ有機化合物または有機金属化合物))であってよい。典型的にそのような分子は、約10,000グラム/モル未満(例えば、約7,500、5,000、2,500、1,000、または500グラム/モル未満)の分子量を有する。これらの化合物のいずれかの塩、エステル、および他の薬学的に許容される形態をアッセイし、所望の活性が検出された場合に、本明細書に記載の治療法に従って投与することができる。例示的な用量には、対象または試料の重量1キログラム当たりミリグラム量またはマイクログラム量の小分子(例えば、約1μg〜500 mg/kg;約100μg〜500 mg/kg;約100μg〜50 mg/kg;10μg〜5 mg/kg;10μg〜0.5 mg/kg;または1μg〜50μg/kg)が含まれる。これらの用量は広範囲をカバーしているが、当業者は、小分子を含む治療剤は効力が異なり、有効量は当技術分野で公知の方法により決定され得ることを理解すると考えられる。典型的には、最初に比較的低用量を投与し、その後、主治医もしくは獣医(治療用途の場合)または研究者(まだ臨床開発段階で研究している場合)が、適切な応答が得られるまで用量を徐々に増加させ得る。さらに、特定の対象に対する明確な用量レベルは、使用する特定の化合物の活性、対象の年齢、体重、全般的健康、性別、および食事、投与時間、投与経路、排出速度、任意の薬物の組み合わせ、ならびに調節しようとする発現または活性の程度を含む種々の要因に依存することが理解される。
【0122】
薬学的組成物は、投与のための説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサー中に含めることができる。
【0123】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、この実施例は特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0124】
実施例
実施例1. RNAiスクリーニングを使用した、グルコース輸送に対するインスリン作用を増強する遺伝子および遺伝子産物の同定
3T3-L1脂肪細胞の細胞培養およびsiRNAオリゴヌクレオチドによるエレクトロポレーション。
3T3-L1線維芽細胞を、10% FBS、50μg/mlストレプトマイシン、および50単位/mlペニシリンを添加したDMEMで培養し、記載される通りに脂肪細胞に分化させた(Jiang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100:7569-7574, 2003;Guilherme et al., J. Biol. Chem., 279:10593-10605, 2004)。エレクトロポレーションにより、3T3-L1脂肪細胞にsiRNA二重鎖をトランスフェクションした。簡潔に説明すると、分化を開始させてから4日または5日後に、脂肪細胞をPBS中の0.25%トリプシンおよび0.5 mgコラゲナーゼ/mlを用いて培養皿から剥がし、PBSで2回洗浄した。細胞を洗浄し、計数し、9 x 106細胞/mlの密度でPBSに再懸濁した。典型的には、1枚の150 mmディッシュを6種の異なるsiRNA二重鎖でトランスフェクションした。再懸濁した細胞(0.15 ml)を0.2 cmギャップキュベット(Bio-Rad(登録商標))に入れ、Dharmaconから購入した4ナノモルの各SMARTpool(登録商標) siRNA二重鎖と混合した。siRNAオリゴヌクレオチドは、0.09 kVおよび950μF容量に設定したBio-Rad(登録商標) ジーンパルサーIIシステムにより、エレクトロポレーションのパルスによって細胞に送達した。エレクトロポレーション後、細胞を直ちに新鮮な完全DMEM培地1 mlと混合した。次いで、細胞をキュベットから15 ml Falcon(商標)チューブ中のDMEM培地3 mlに移し、混合した。この細胞懸濁液の一定分量(125μl)を、96ウェルプレートのウェルに播種した。各エレクトロポレーションによる細胞を12個のそのようなウェルに拡大して、インキュベーター中に置き、72時間後に2-デオキシグルコースの取り込みを測定した。細胞懸濁液の残りは、ウェスタンブロットを行うため、ならびに/またはMAPKおよびAktリン酸化を評価するために、12ウェルプレートの2ウェルに同等に分注した。
【0125】
それぞれの2-デオキシグルコースアッセイについて、細胞にはまた、対照としてのscrambled(6ナノモル)、Akt1およびAkt2(4および6ナノモル)、ならびにPTEN(6ナノモル)のsiRNAをエレクトロポレーションした。各96ウェルプレートは、これら3つの対照のそれぞれを12ウェル分含んだ。
【0126】
2-デオキシグルコース取り込みアッセイ
3T3-L1脂肪細胞におけるインスリン刺激性グルコース輸送を、記載されている通りに2-デオキシグルコースの取り込みを測定することによって評価した(Guilherme et al., J Biol Chem, 279:10593-10605, 2004)。簡潔に説明すると、siRNAをトランスフェクションした細胞を96ウェルプレートに再播種して72時間培養し、2回洗浄して、0.5% BSAおよび2 mmピルビン酸ナトリウムを添加したクレブス・リンゲルHepes緩衝液(130 mM NaCl、5 mM KCl、1.3 mM CaCl2、1.3 mM MgSO4、25 mM Hepes、pH 7.4)で血清を2時間欠乏させた。次いで、細胞をインスリンで37℃で30分間刺激した。グルコースの取り込みは、[1,2-3H]2-デオキシ-D-グルコースを最終アッセイ濃度500μMになるように添加することによって開始させた。細胞を37℃で5分間インキュベートした。アッセイは、氷冷クレブス・リンゲルHepes緩衝液で3回洗浄することにより停止した。簡潔に説明すると、プレートを、氷冷クレブス・リンゲルHepes緩衝液600 mlを含む容器中に浸漬した。各浸漬後に、束にしたペーパータオル上でプレートを軽くたたくことにより、ウェル中の液体を除去した。次いで、ウェル当たり0.05 mlの1% SDSを添加することにより、細胞を可溶化した。[3H]の取り込みを、マイクロプレートシンチレーションカウント装置を用いて定量した。20μMサイトカラシンBの存在下でインキュベートした試料中の非特異的デオキシグルコース取り込みを決定し、この対照から得られた値を各実験測定値から減算することにより、特異的取り込みを測定した。
【0127】
約500種の異なる遺伝子に対する低分子抑制性RNAを取得し、上記のように脂肪細胞にトランスフェクションし、デオキシグルコースの取り込みアッセイで試験した。多くの遺伝子が、siRNAのトランスフェクションによりノックダウンした場合に、対照と比較してグルコースの取り込みの増加または減少をもたらした。58種の異なる遺伝子を標的化した実験の結果を図1に示す。
【0128】
遺伝子サイレンシングに選択した58個の候補プロテインキナーゼは、Affymetrix GeneChip(登録商標)解析プログラムの実行であるBioconductor統計プログラム、具体的にはrmaおよびmas5(Gentleman et al., Genome Biol. 5:R80, 2004)を用いて、3T3-L1前脂肪細胞および完全分化3T3-L1脂肪細胞から単離されたmRNAのAffymetrix GeneChip(登録商標)アレイ解析により同定された。簡潔に説明すると、培養液中で静止期になるまで7日間培養した3T3-L1線維芽細胞(脂肪細胞分化0日目)から、または分化培地を添加してから6日目の3T3-L1脂肪細胞から、全RNAを単離した。RNAは、それぞれ反復のために3つの異なる時点から単離した。cRNAを断片化し、Affymetrix GeneChip(登録商標)マウス発現セット430 Aおよび430 Bアレイにハイブリダイズさせた。発現生データを、rma(Bolstad et al., Bioinformatics, 19:185, 2003)およびMAS 5.0アルゴリズム(Affymetrix、インターネット上でaffymetrix.comにて利用可能)のBioconductor実行であるmas5を用いて、Bioconductor統計環境(Gentleman et al., Genome Biol. 5:R80, 2004)により解析した。mas5プログラムを適用して、GeneChip上の各プローブセットの存在または非存在コールを計算した。これらのコールの計算は、プローブセットのPMプローブとMMプローブ間のウィルコクソン順位検定に基づく。反復したハイブリダイゼーションのそれぞれにおいて存在コールを示したキナーゼのみを選別し、次の解析に使用した。
【0129】
いずれのキナーゼも、三つ組ハイブリダイゼーションのそれぞれにおいてmas5存在コールを有した場合に、脂肪細胞において発現されたと見なした。プロテインキナーゼに対する4つのsiRNA配列のプールを3T3-L1細胞にエレクトロポレーションし、96ウェルプレートにおいて72時間後に、トランスフェクションした脂肪細胞におけるデオキシグルコース輸送アッセイを行った。これらの実験では、scrambled siRNAを対照として使用し、それぞれインスリンシグナル伝達の正および負の制御因子として機能するAkt2プロテインキナーゼおよびPtdIns(3,4,5)P3ホスファターゼPTENに対するsiRNAも含めた。
【0130】
図1に列挙する以下のキナーゼを標的化するRNAは、グルコースの取り込みを増加させた:IKKα、IKKβ、Map4k4、PCTK1、およびPFTK1(図1中、矢印で示す)。1つのキナーゼ、ILKの欠乏は、取り込みの減少をもたらした(図1中、星印で示す)。
【0131】
siRNAに基づく遺伝子サイレンシングが脂肪細胞においてインスリン刺激性2-デオキシグルコース取り込みを増強したことを確認するため、スクリーニングによって同定された標的を独立して再試験するさらなる実験を行った。IKKβ、IKKα、ILK、MAP4k4、PCTK1、およびPFTK1による実験の結果を、対照として使用したscrambled siRNA、AKT2、およびPTEN siRNAによる実験の結果と共に図2に示す。ILK siRNAは3T3-L1脂肪細胞においてインスリンの最大および最大下用量でグルコース取り込みを阻害し、その他のsiRNAはグルコース取り込みを増加させ、以前のアッセイで得られた結果が確認された。
【0132】
培養脂肪細胞におけるこれらのプロテインキナーゼの機能性をさらに確認および確証するため、siRNAに基づく二次スクリーニングを行い、サイレンシング効率および生物学的効果を確認した。PCTAIRE-1、IKKβ、およびIKKαタンパク質は、ウェスタンブロット解析によって判定されるように、それぞれのsiRNA処理により実質的に減少した。同様に、MAP4K4/NIKおよびPFTAIRE-1をコードするmRNAのレベルも、RT-PCRまたはリアルタイムPCRによって検出されるように、細胞のsiRNA処理によって減少した。
【0133】
リアルタイムPCRは以下のように行った。簡潔に説明すると、Trizol(登録商標)(Invitrogen)を用いて全RNAを培養3T3-L1脂肪細胞から抽出した。RT-PCRには、SuperScript(登録商標)一段階RT-PCRキット(Invitrogen)を使用した。プラトー段階に入るポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を回避するため、少ないサイクル数を選択した。定量的mRNA解析のため、全RNA 1μgをBio-RadのiScript cDNA合成キット(Bio-Rad)を用いて逆転写した。各RT反応物の10パーセントを、Bio-RadのiQ SYBRグリーンスーパーミックスキットおよびリアルタイムPCR検出システムを製造業者の説明書に従って使用する(MyiQ、Bio-Rad)、定量的リアルタイムPCR解析に供した。本発明者らは、オンラインデータベース、PrimerBank(インターネット上でpga.mgh.harvard.edu/primerbankにて利用可能)(Wang and Seed, Nucleic Acids Res., 31(24):e154, 2003)を用いて、短いPCR産物を生じる特異的プライマー対を設計した。ヒポキサンチン・グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を標準的なハウスキーピング遺伝子とした使用した。標的遺伝子の閾値サイクル数(Ct)をHPRTのCt値から減算し、2にその差を乗じることにより、相対的遺伝子発現を算出した。
【0134】
siRNA標的化によりグルコース取り込みが強力に増加および減少した遺伝子は、上記の表1および表2に列挙されている。
【0135】
実施例2. グルコース輸送を調節する遺伝子および遺伝子産物の特徴づけ
ウェスタンブロッティング
表示のsiRNAをエレクトロポレーションした3T3-L1脂肪細胞を、無血清DMEM培地中で一晩欠乏させた。次いで、細胞を表示のインスリン濃度なしでまたはありで30分間インキュベートし、1% SDSを含む溶解緩衝液で回収した。タンパク質濃度を定量し、各溶解液試料による同等量のタンパク質をSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロース膜に転写した。膜を抗体と共に4℃で一晩インキュベートし、次いで西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体と共に室温で45分間インキュベートした。次に、高感度化学発光キットでタンパク質を検出した。本明細書に記載する実験のため、抗PTEN、抗Akt2、抗Akt、抗pAkt、および抗ラミンA/C抗体を記載される通りに取得した(Jiang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 100:7569-7574, 2003)。ヤギ抗GLUT4、ウサギ抗C/EBPα、抗C/EBPβ、抗PCTAIRE-1、マウス抗PPARγ、および抗SREBP-1抗体はSanta Cruz Biotechnologyから入手した。ウサギ抗IKKαおよび抗IKKβは、Cell Signaling Technology(マサチューセッツ州、ベバリー)から入手した。マウスモノクローナル抗TATA結合タンパク質(TBP)は、Abacam Inc.から入手した。
【0136】
Aktリン酸化
siRNAのサブセットがインスリン誘導性Aktリン酸化に及ぼす影響を、上記のようにウェスタンブロッティングにより検討した。Aktはインスリンシグナル伝達を媒介することが示されている(例えば、Jiang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100:7569-7574, 2003;およびその中で引用されている参考文献を参照されたい)。セリン473におけるAktのリン酸化は活性化を示す。scrambled、IKKα、IKKβ、PTEN、PCTK1、ILK、Map4k4、またはPFTK1 siRNAをトランスフェクションした脂肪細胞を欠乏させ、0、1、および100 nM濃度のインスリンで刺激した。溶解液をSDS-PAGEにより分離し、Aktのセリン473のリン酸化をウェスタンブロットにより解析した。ブロットの定量化を図3に示す。IKKβおよびPTEN siRNAは、Aktのインスリン誘導性リン酸化を増強した。siRNA作用によるILKの発現減少は、リン酸化Aktを穏やかに減少させた。対照的に、プロテインキナーゼPctk1、Pftk1、IKKα、およびMAP4K4/NIKはのsiRNA媒介性喪失は、インスリンの存在下または非存在下におけるリン酸化Aktのレベルに影響せず(図3)、これらがAkt2へのインスリンシグナル伝達を調節しないことが示唆された。
【0137】
グルコース輸送体の発現
次に、これらのプロテインキナーゼの欠乏が、3T3-L1脂肪細胞におけるグルコース輸送体タンパク質レベルを調節するかどうかを検討した。ILKの欠乏は、GLUT4 mRNAおよびタンパク質の顕著な減少を促進したが、GLUT1タンパク質の減少は促進しなかった(図4)。
【0138】
これらのデータから、ILKタンパク質を欠乏させた脂肪細胞におけるグルコース取り込みの阻害が、GLUT4タンパク質の減少(図4)およびAktへのインスリンシグナル伝達のわずかな減少(図3)に起因することが示される。PCTAIRE-1またはPFTAIRE-1の欠乏は、GLUT1またはGLUT4タンパク質レベルの検出可能な変化を生じなかった。対照的に、IKKαまたはMAP4K4/NIK発現のサイレンシングは、細胞GLUT4タンパク質の顕著な増加を促進したが、GLUT1の増加は促進せず(図4)、このことがIKKαまたはMAP4K4/NIKを欠乏させた脂肪細胞においてデオキシグルコース輸送が増強される原因である可能性がある。
【0139】
MAP4K4/NIKが、GLUT4再循環に対するインスリン作用もまた制御するかどうかを試験する試みにおいて、対照細胞またはsiRNAによるMAP4K4/NIK欠乏細胞で、GFP-GLUT4-myc移行アッセイ(Jiang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100:7569-7574, 2003)を行った。インスリン刺激性GFP-GLUT4-myc移行において、MAP4K4/NIK欠乏の影響は検出されなかった(データは示さず)。
【0140】
実施例3. グルコース輸送のMAP4K4/NIK調節の特徴づけ
3T3-L1脂肪細胞におけるグルコース取り込みの低減において、発現されるMAPキナーゼの中で独特であるMAP4K4/NIK。
MAP4K4/NIKがTAK1→MKK4/MKK7→JNKカスケードの活性化を介してSAPK/JNK経路のTNFα刺激を媒介し得ることが報告されている(Yao et al., J. Biol. Chem., 274:2118-2125, 1999)。大量のTNFαが肥満動物の脂肪組織内の脂肪細胞およびマクロファージによって分泌され(Wellen and Hotamisligil, J. Clin. Invest., 112: 1785-1788, 2003)、この因子は脂肪生成およびGLUT4発現の強力な負の制御因子である(Zhang et al., Mol Endocrinol., 10:1457-1466, 1996;Stephens et al., J. Biol. Chem., 272:97-976, 1997)。TNFαはまた、インスリン抵抗性の媒介にも関連づけられている(Hotamisligil et al., J. Clin. Invest., 95:2409-2415, 1995)。したがって、本発明者らは、MAP3K7/TAK1、MAP2K4/MKK4、MAP2K7/MKK7、MAPK8A/JNK1、またはMAPK9/JNK2を含むMAPKファミリーの他のメンバーの欠乏が、脂肪細胞において同様にグルコース輸送を増強し得るかどうかを調べた。
【0141】
MAP4K4/NIK発現の低減がインスリン誘導性グルコース取り込みを顕著に増強するのに対して、MAP3K7/TAK1、MAP2K4/MKK4、MAP2K7/MKK7、MAPK8A/JNK1、またはMAPK9/JNK2の欠乏はそのように増強しなかった(図5)。さらに、図5から、脂肪細胞で発現される他の22のMAPKファミリーメンバーのそれぞれに対するsiRNAプールにより培養脂肪細胞をエレクトロポレーションしても、デオキシグルコース輸送へのインスリンシグナル伝達は増強されず、MAP4K4/NIKサイレンシングがデオキシグルコース取り込みに及ぼす影響が著しく特異的であることが明らかになる。さらに、3T3-L1脂肪細胞におけるMAP4K4/NIKの欠除は、TNFαがMAPK8A/JNK1およびMAPK9/JNK2のリン酸化を誘導する能力に影響しなかった(データは示さず)。総合するとこれらの結果から、MAP4K4/NIKを欠乏させた細胞で認められるインスリン刺激性デオキシグルコース輸送の増強は、TNFα→JNKカスケードの破壊に起因しないことが示唆される。
【0142】
3T3-L1脂肪細胞においてトリグリセリド含量、PPARγおよびC/EBPα発現を低減するMAP4K4/NIK。
本発明者らは、MAP4K4/NIKが脂肪細胞分化を制御するかどうかを試験した。分化開始後4日目の3T3-L1細胞でMAP4K4/NIKを欠乏させたところ、数日後に測定した細胞内のトリグリセリド含量が実際に増強された。細胞のトリグリセリド含量は、トリグリセリド測定キット(Sigma)を用いて分光光度法で決定した。細胞をPBS中でリンスし、かき取った。細胞懸濁液を超音波処理し、トリグリセリドを測定した。分化開始後4日目の3T3-L1細胞でMAP4K4/NIKを欠乏させたところ、数日後に測定した細胞内のトリグリセリド含量は実際に増強された(図6)。
【0143】
さらに、ウェスタンブロットから、3T3-L1細胞におけるMAP4K4/NIK遺伝子サイレンシングに際して、脂肪生成転写因子、C/EBPβ、C/EBPα、およびPPARγの発現が増加することが明らかになった。一方、これらと同様の細胞において、SREBP-1、TBP、または構造核タンパク質ラミンA/Cの発現への影響は認められなかった。総合するとこれらの結果から、MAP4K4/NIKは、3T3-L1細胞におけるC/EBPβ、C/EBPα、およびPPARγ発現ならびに脂肪生成の内因性の負の制御因子として作用する点で、MAPキナーゼの中で独特であることが示唆される。
【0144】
培養脂肪細胞におけるMAP4K4/NIK発現を増強するTNFα処理およびPPARγの欠乏。
3T3-L1細胞の分化過程におけるMAP4K4/NIK、PPARγ、およびC/EBPαのmRNAレベルをさらに解析したところ、MAP4K4/NIKの発現減少とPPARγおよびC/EBPαの発現増加との間の逆の関係が明らかになった(図7Aおよび7B)。本発明者らは次いで、脂肪生成の過程で起こるPPARγ発現の増加が、MAP4K4/NIK発現のこの減少を媒介し得るかどうかを試験した。PPARγを欠乏させた完全に分化した3T3-L1脂肪細胞において、MAP4K4/NIKの発現レベルを調べた。図8に示すように、RNAiによるPPARγ発現の低減に際して、培養脂肪細胞においてMAP4K4/NIK mRNAレベルの非常に顕著な2倍の増加が認められた。したがって、PPARγは、脂肪生成の阻害因子であるMAP4K4/NIKの発現を阻害するように作用し、一方、MAP4K4/NIKは、脂肪生成の主要な促進因子であるPPARγの発現を阻害するように作用する。
【0145】
脂肪生成の駆動における主要な役割に加えて、PPARγは、完全に分化した脂肪細胞の特徴を付与する遺伝子の発現を維持することにより、成熟3T3-L1脂肪細胞において機能するようである(Morrison and Farmer, J. Nutr. 130:3116S-3121S, 2000;Tamori et al., Diabetes 51:2045-2055, 2002)。このような以前の知見と一致して、siRNAによりPPARγ発現を低減させると、成熟3T3-L1脂肪細胞におけるC/EBPα、GLUT4、PEPCK、aP2、ACS、およびFASをコードするmRNAの存在量が減少した(データは示さず)。驚くべきことに、これらの遺伝子の量を減少させるPPARγ欠乏のこの影響は、成熟3T3-L1脂肪細胞でMAP4K4/NIKを同様に欠乏させた場合に顕著に弱まった(データは示さず)。総合するとこれらのデータから、完全に分化した脂肪細胞におけるPPARγの欠除に応答して、増加したMAP4K4/NIKプロテインキナーゼが、成熟脂肪細胞の特徴を付与する遺伝子の発現の減少を促進することが示唆される。これらの結果から、成熟脂肪細胞におけるPPARγ応答遺伝子の維持が一部で、PPARγによるMAP4K4/NIK発現の抑制を介して達成されることもまた示唆される。
【0146】
最後に、本発明者らは、脂肪生成およびGLUT4発現の公知の負の制御因子であるTNFαが、MAP4K4/NIKを調節するかどうかを試験した。本実験の条件下において、3T3-L1脂肪細胞をTNFαで24時間処理すると、予想通りにPPARγおよびGLUT4の発現が顕著に減少した(図9B)。著しいことには、3T3-L1脂肪細胞をTNFαで24時間処理すると、MAP4K4/NIK mRNAレベルが3倍増加した(図9A)。細胞をTNFαと共にインキュベートする前にMAP4K4/NIKを欠乏させると、GLUT4およびPPARγ mRNAのレベルは上昇し、TNFαによる遺伝子発現の完全な阻害は妨げられた。したがってこれらのデータは、脂肪細胞のTNFα処理に応答して現れるMAP4K4/NIKレベルの増加が、TNFαによって媒介される脂肪生成およびGLUT4発現の低減に寄与するという仮説と一致する。これらのデータから、TNFαはMAP4K4発現を増強するように、かつ独立してPPARγ発現を抑制するように作用することが示唆される。
【0147】
実施例4. 動物モデルにおける薬剤の評価
グルコース輸送関連ポリペプチドまたはそのポリペプチドをコードする核酸の発現または活性をインビトロで調節する薬剤は、動物モデルにおいてインビボでさらに試験する。例えば、scrambled siRNAまたは表1に列挙される1つもしくは複数の遺伝子を標的化するsiRNAを、以前に記載されている通りにハイドロダイナミック注射によりob/obマウスに投与する(McCaffrey, Nature, 418:38-39, 2002;米国特許出願公開第20030153519号も参照されたい)。ob/obマウスは、Jackson Laboratoriesから入手することができる(株名:B6.V-Lepob/J)。siRNAの投与後の様々な時点で、表1の標的のmRNAレベルを測定する。さらに、siRNAを標識して、当技術分野で公知の方法により追跡することもできる。また、グルコース、耐糖性、および血漿インスリンのレベルをモニターして、siRNAが対照と比較してグルコース代謝に有益な効果を有するどうか、すなわちsiRNAが高血糖または血漿インスリンレベルの減少をもたらすかどうかを決定し得る。
【0148】
1つの態様においては、Map4K4を標的化するsiRNAを設計し、作製する。簡潔に説明すると、例えば米国特許出願公開第20040198682号に記載されているように、Map4K4遺伝子配列内の特定の長さ(例えば、23ヌクレオチド)の断片を同定する。40〜60%のGC含量およびより弱い内部折りたたみ構造(コンピュータ解析によって決定される)を含む断片を含む断片が好ましい。強力なヘアピンおよび3つもしくはそれ以上のCまたはGの連続を含む断片は回避する。4つまたは5つの標的断片を選択し、siRNA二重鎖として合成し、インビトロでスクリーニングして最も活性の高いsiRNAを同定する。
【0149】
次に、選択されたMap4K4 siRNAをob/obマウスにおいてインビボで試験する。ハイドロダイナミック注射を行うため、各ob/obマウスに、PBS 1.8 mL中の選択されたMap4K4 siRNA 40マイクログラムを投与する。siRNA/PBS溶液は、尾静脈から4〜5秒間かけて注射する。注射の24時間、48時間、72時間、または4日後に、組織におけるMap4K4 RNAおよび/またはタンパク質レベルを調べることにより、Map4K4の発現レベルを決定する。各動物における処置後1〜3日目の血漿グルコースレベルも測定し、対照と比較する(例えば、siRNA処置前のグルコースレベル、ならびにPBSおよびscrambled siRNAで処置した動物におけるグルコースレベル)。高血糖を減少させるMap4K4 siRNAは、糖尿病および肥満などのグルコース輸送関連疾患の治療において有用であり得る。
【0150】
他の態様
本発明の多くの態様を説明してきた。しかしながら、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更がなされ得ることが理解されよう。したがって、他の態様も特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0151】
種々の図面中の同様の参照記号は、同様の要素を示している。
【図1】siRNAをトランスフェクションした細胞におけるインスリン刺激性デオキシグルコース取り込みのレベルおよび用量依存性を示す一連のグラフである。細胞に、対照としてのscrambled(6ナノモル)、Akt1+Akt2(4+6ナノモル)、またはPTEN(6ナノモル)、および表示のSMARTpool(登録商標)(6ナノモル) siRNAをトランスフェクションし、インスリンで刺激し、対照siRNAまたは表示のSMARTpool(登録商標) siRNAで処理した細胞における放射性デオキシグルコース取り込みのカウント毎分(CPM)を測定することによりアッセイした。スクリーニングにより同定した各遺伝子産物の名称をX軸に記載する。この戦略を用いて、矢印および星印で示したプロテインキナーゼヒットが同定された。データは、3回の独立したスクリーニング実験の平均値を表す。
【図2】図1に示した実験において同定されたsiRNAをトランスフェクションした細胞における、インスリン刺激性デオキシグルコース取り込みのレベルおよび用量依存性を示すグラフである。細胞に対照siRNAまたは表示の各SMARTpool(登録商標)(6ナノモル) siRNAをエレクトロポレーションし、図1に関して記載したようにアッセイした。グルコース輸送の正および負の制御因子を調べた。データは、3回の独立したスクリーニング実験の平均値を表す。
【図3】特定遺伝子のRNAiに基づくサイレンシングがインスリン誘導性Aktリン酸化に及ぼす影響を示すグラフである。培養脂肪細胞にscrambled、PTEN、または表示のSMARTpool(登録商標) siRNAをエレクトロポレーションによってトランスフェクションし、再播種して72時間置き、血清を一晩欠乏させてから、インスリンで30分間処理した。細胞溶解液をSDS-PAGEにより分離し、リン酸化(Ser473)Aktをウェスタンブロットにより検出した。リン酸化Aktの定量化をプロットする。星印によって示したように、PTENおよびIKKβはインスリン刺激性Aktリン酸化を増強する。データは、3回の独立した実験の代表的なものである。
【図4】siRNAのGLUT4タンパク質発現に及ぼす影響を示すグラフである。培養脂肪細胞にscrambled、または表示のIKKα、IKKβ、Map4K4、もしくはILK SMARTpool(登録商標) siRNAをエレクトロポレーションによってトランスフェクションし、次いで再播種して72時間インキュベートした。細胞を溶解し、溶解液をSDS-PAGEにより分離した。ブロットを抗GLUT4抗体でプロービングした。星印によって示したように、IKKαおよびMap4K4 siRNAはGLUT4タンパク質を増強するが、IKKβ siRNAは増強しない。ILK siRNAは、GLUT4発現の減少をもたらした(同様に星印で示す)。データは、3回の独立した実験の代表的なものである。
【図5】MAPKファミリーメンバーに対するsiRNAをトランスフェクションした細胞における、インスリン刺激性デオキシグルコース取り込みのレベルおよび用量依存性を示すグラフである。培養脂肪細胞に、脂肪細胞で発現される22のMAPKファミリーメンバーのそれぞれに対するsiRNAプールをトランスフェクションし、細胞によるデオキシグルコース取り込みを測定した。矢印は、デオキシグルコース取り込みに影響を及ぼすsiRNAを示す(PTENおよびMap4K4)。
【図6】scrambled siRNAまたはMap4K4 siRNAをトランスフェクションした脂肪細胞におけるトリグリセリドレベルの変化を示すグラフである。データは、3回の独立した実験の代表的なものである。
【図7】図7Aおよび7Bは、11日間にわたる分化過程において単離された全RNAのリアルタイムPCR解析によって決定された、PPARγ、C/EBPα、およびMap4K4 mRNAレベルの変化を示すグラフである。データは2回の独立した実験の平均値であり、0日目に対する変化倍率として示してある。
【図8】scrambled、Map4K4、PPARγ、またはMap4K4+PPARγ siRNAをトランスフェクションした脂肪細胞におけるMap4K4レベルの変化を示すグラフである。脂肪細胞にsiRNAをトランスフェクションし、再度プレーティングして72時間置いた。RNAを抽出し、mRNAの相対存在量をリアルタイムPCR解析により評価した。データは、4回の独立した実験の平均値を表す。
【図9】図9Aおよび9Bは、10 ng/ml TNFαの存在下または非存在下で24時間インキュベートした脂肪細胞における、Map4K4およびGLUT4レベルの変化を示すグラフである。TNFα処理の前に、脂肪細胞にscrambledまたはMap4K4 siRNAをエレクトロポレーションした。Map4K4およびGLUT4発現は、リアルタイムPCR解析により測定した。データは、scrambled siRNA条件に対する変化倍率として示し、3回の独立した実験の平均値を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する候補薬剤を同定する方法:
(a) 表1もしくは表2記載の遺伝子の遺伝子産物であるグルコース輸送関連ポリペプチド、またはそのポリペプチドをコードする核酸を含む試料を提供する段階;
(b) 試料を被験化合物と接触させる段階;
(c) 試料中のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を評価する段階;および
(d) (c)のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を、被験化合物を欠く対照試料中のグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性と比較する段階であって、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性の変化により、被験化合物がグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節し得る候補薬剤であることが示される、段階。
【請求項2】
グルコース輸送関連ポリペプチドが表1記載の遺伝子の遺伝子産物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
グルコース輸送関連ポリペプチドが表2記載の遺伝子の遺伝子産物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
試料が細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
細胞が脂肪細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
試料が無細胞試料である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
評価段階が無細胞アッセイを行う段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
評価段階が、グルコース輸送が被験化合物の存在下で調節を受けるかどうかを決定する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
グルコース輸送関連ポリペプチドがヒトグルコース輸送関連ポリペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
評価段階がグルコース取り込みを測定する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
被験化合物が、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、非核酸有機小分子、無機小分子、および抗体からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
被験化合物が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抑制性RNA、およびリボザイムからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
グルコース輸送の調節が抗体を用いて評価される、請求項8記載の方法。
【請求項14】
グルコース輸送が被験化合物の存在下において増加する、請求項8記載の方法。
【請求項15】
グルコース輸送が被験化合物の存在下において減少する、請求項8記載の方法。
【請求項16】
グルコース輸送関連ポリペプチドがキナーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項17】
評価段階がキナーゼによる基質のリン酸化を測定する段階を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
以下の段階を含む、細胞におけるグルコース輸送を調節する方法:
細胞を提供する段階;
細胞をグルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する薬剤と接触させ、それにより細胞におけるグルコース輸送を調節する段階。
【請求項19】
グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する薬剤が請求項1記載の方法によって同定される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
薬剤が、表1または表2記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を調節する、請求項18記載の方法。
【請求項21】
薬剤が、表1記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を減少させる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
薬剤が、表2記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を増加させる、請求項20記載の方法。
【請求項23】
薬剤が、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、非核酸有機小分子、無機小分子、および抗体からなる群より選択される、請求項18記載の方法。
【請求項24】
薬剤が低分子抑制性RNAである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
薬剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抑制性RNA、およびリボザイムからなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項26】
細胞を、グルコース輸送関連ポリペプチドの発現または活性を調節する第2の薬剤と接触させる段階をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項27】
細胞をインビトロで接触させる、請求項18記載の方法。
【請求項28】
細胞をインビボで接触させる、請求項18記載の方法。
【請求項29】
以下の段階を含む、対象におけるインスリン促進性グルコース取り込みを増加させる方法:
対象に、表1記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を減少させる薬剤を、対象の細胞におけるグルコース代謝を調節するのに十分な量投与し、それによって対象におけるインスリン促進性グルコース取り込みを増加させる段階。
【請求項30】
対象がグルコース代謝に関連した疾患もしくは状態のリスクを有するか、またはグルコース代謝に関連した疾患もしくは状態に罹患している、請求項29記載の方法。
【請求項31】
疾患または状態がI型糖尿病、II型糖尿病、または肥満である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
以下の段階を含む、対象におけるグルコース代謝を調節する方法:
対象に、表2記載の遺伝子の遺伝子産物の発現または活性を増加させる薬剤を、対象の細胞におけるグルコース代謝を調節するのに十分な量投与し、それによって対象におけるグルコース代謝を調節する段階。
【請求項33】
対象がグルコース代謝に関連した疾患もしくは状態のリスクを有するか、またはグルコース代謝に関連した疾患もしくは状態に罹患している、請求項32記載の方法。
【請求項34】
疾患または状態がI型糖尿病、II型糖尿病、または肥満である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
表1記載の遺伝子によってコードされるRNAを標的化する抑制性RNAをコードする核酸を含む組成物。
【請求項36】
抑制性RNAが低分子抑制性RNAである、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
表1記載の遺伝子の遺伝子産物の機能を阻害するアンチセンス核酸を含む組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2008−521446(P2008−521446A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544576(P2007−544576)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/043817
【国際公開番号】WO2006/060743
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(505231659)ユニバーシティ オブ マサチューセッツ (23)
【Fターム(参考)】