説明

ケーシングパイプの布設方法

【課題】内径が100〜500mmで延長が1000〜3000mの鉛直、水平又は任意の曲線をもつ地中孔のケーシングパイプを、多段にすることなく、短工期で安価に布設する。
【解決手段】ケーシングパイプ11内を挿通しケーシングパイプ11の外径より大径に拡径する拡径掘削刃物4を取付たドリルストリング2を用い、ケーシングパイプ11の外径より大きい地中孔1を先行掘削し、先行掘削した地中孔1にケーシングパイプ11を挿入し、以上の動作を繰返して一連の同径のケーシングパイプ11を地中に連接して布設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長距離調査ボーリング、温泉堀削、ガス、石油採取、その他地中掘削時におけるケーシングパイプの布設方法に関し、例えば、内径100〜500mmφ、布設長1000m以上に及ぶケーシングパイプを効率よく布設する方法に関する。
【0002】
ケーシングパイプとは、長距離孔の掘削を行う際、孔壁の維持、圧力の異なる地層間の流体移動防止、堀削用ドリルパイプの孔壁抵抗を軽減することを目的として裸孔に挿入されるパイプをいう。
【背景技術】
【0003】
長距離調査ボーリング、温泉堀削、石油や天然ガス採取用の坑井を掘削する場合、まず、大径の地中孔を掘削し、掘削刃物を引き抜き、大径の第1のケーシングパイプをこの地中孔に挿入して掘削孔の崩壊を防止し、次に、この第1のケーシングパイプ内を通る径を有する掘削刃物を用いて、第1のケーシングパイプの先方の地中孔を掘削し、掘削刃物を引抜き、この先方の掘削孔に、地表から第1のケーシングパイプ中を通って、第2のケーシングパイプを挿入し、これを繰返して最終深度まで掘削するのが一般的であった(例えば非特許文献1,2参照。)。
【0004】
このような従来技術では、地層の状況に応じて、例えば、掘削孔の崩落を防止するために、堀削孔長数百mごとに順次小径のケーシングパイプを挿入して掘削する必要がある。例えば、延長2000mの掘削を行う場合には3〜4段階の順次小径となる異径ケーシングパイプを用いて、段階的に大径ケーシングパイプから最終径のケーシングパイプまで布設する必要がある。
【0005】
このような場合、異径の多段のケーシングパイプの挿入埋設を要し、口元において所望径の最終ケーシングパイプよりはるかに大径の掘削孔の掘削、大径のケーシングパイプの挿入を要し、工事量の増大、資材量の増加、所要費用の増大、施工工期の長期化をもたらすなどの問題があった。
【0006】
また、多段のケーシングパイプを用いることなく、1段のケーシングパイプを布設する技術もある(例えば特許文献1参照。)。
【0007】
その技術は、ケーシングパイプの先端に掘削刃物を取り付けて前進掘削し、ケーシングパイプをそのまま布設する技術である。ケーシングパイプは本来、大きな回転トルク及び推力を伝達する構造のものではないが、この技術では、継手効率を改善したカップリングや、トルク伝達性を付与した接続ねじ構造を備え、金属接触のトルクショルダーを設けたカップリングなど、適切な寸法、材質、構造のケーシングパイプを使用することによって、適切な回転トルク及び推力を伝達することができる。
【特許文献1】特許第3,542,108号公報
【非特許文献1】石油天然ガス金属鉱物資源機構:石油/天然ガス用語辞典(1986)
【非特許文献2】石油技術協会:石油/天然ガス堀削用語集(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
地中に長距離調査ボーリング、温泉掘削、ガス、石油採取、その他地中掘削時のケーシングパイプ布設する場合、掘削孔の崩落を防止するために、大径から順次小径のケーシングパイプを挿入する従来技術では工事量の増大、施工工期の長大化、施工費の増大を招く問題があった。
【0009】
ケーシングパイプ先端に掘削刃物を取付け、ケーシングパイプを前進させる技術もあるが、ケーシングパイプを、大きな回転トルクや推力を伝達する構造とすることが容易ではなく、長さの長いケーシングパイプの布設に適用することは容易でなかった。
【0010】
本発明はこのような従来技術の短所を改善し、長さの長いケーシングパイプを容易に短工期で安価に布設することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために創案されたもので、その技術手段は、ケーシングパイプ外径より大径の地中孔を掘削する堀削刃物を、ケーシングパイプ内を通ってケーシングパイプの先方の地中に突出させ、ケーシングパイプの外径より大きい地中孔を掘進し、該掘進した地中孔にケーシングパイプを推進させ、以上の動作を繰返して一連の同径のケーシングパイプを地中に連接して布設することを特徴とするケーシングパイプの布設方法である。
【0012】
また、この技術は流体の輸送、採取、排出を行う管路や通信、電力ケーブル等の保護管路の布設にも利用することができる。
【0013】
前記大径の地中孔を掘削する掘削刃物は、どのような型式、構造でもよいが、縮径時にケーシングパイプ内径より小径となり拡径時にケーシングパイプ外径より大径となる掘削刃物、又は周方向に突出した偏心掘削刃物を備えると共にケーシングパイプ内を通る断面を有し、該掘削刃物が偏心回転することによりケーシングパイプ外径より大径の地中孔を掘削する刃物とすれば好適である。
【0014】
上記ケーシングパイプの布設方法において、前記地中孔としては、鉛直孔、水平孔、又は任意の曲線孔に適用することができる。
【0015】
また、前記地中孔は延長が短い地中孔にも適用できるが、特に200〜3000mに及ぶ規模の地中孔を好適に掘削することができる。特に500mを超えるケーシング布設時に有効であり、1000mを超える布設時にはさらに適度を増す。また、前記同径のケーシングパイプは、内径が100〜1000mmとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、最終目標径の長大な同一径のケーシングパイプを、ケーシングパイプ外径より大径の地中孔を掘削する掘削刃物を取付けたドリルストリングを用いて連続的に施工することができる。従って、異径の複数種類のケーシングパイプを用いる従来技術や、特別の大強度のケーシングパイプを用いる技術等に比し、工事量、資材、労力を節減することができ、短工期に所望のケーシングパイプの布設を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。まず従来技術について説明する。
【0018】
図4は従来の油井のケーシングパイプの配列例を示す鉛直坑井100の断面図である。
【0019】
地表101から、地中孔を掘削する。地層102の状況やその特性に応じて、地中孔の孔壁の崩壊防止、圧力の異なる地層間の流体移動防止などのために、適時に、大径から小径のケーシングパイプを順次、地中孔中に挿入する。
【0020】
図4の例では、坑井100の口元に地上101から大径のコンダクターパイプ(第1のケーシングパイプ)110を挿入している。コンダクタパイプ110の長さは例えば数百mである。次にこのコンダクタパイプ110内を通る掘削ビットを下端に備えたドリルストリングを下降させ、コンダクタパイプ110の下端より下方の地中孔の掘削を行う。掘削した掘削孔にサーフェイスケーシング(第2のケーシングパイプ)111を地表101からコンダクタパイプ110内を通って挿入する。
【0021】
次に、サーフェイスケーシング111内を通る掘削ビットを下端に備えたドリルストリングを下降させ、サーフェイスケーシング111の下端より下方の地中孔を掘削し、この掘削孔に中間ケーシング(第3のケーシングパイプ)112を地表101からサーフェイスケーシング111内を通って挿入する。
【0022】
次いで、同様に、中間ケーシング112内を通って掘削ビットを下降させ、中間ケーシング112の下端より下方の地中孔を掘削し、プロダクションケーシング(第4のケーシングパイプ)113を地表111から挿入する。
【0023】
第1から第4のケーシングパイプは、順次、大径のケーシングパイプから小径のケーシングパイプとなる。各ケーシングパイプと地中孔壁との間にはセメンチング114を施して孔壁を保護する。第1から第4のケーシングパイプの地中孔壁を保護する長さは、地球物理学的情報や物理探査データ等に基いて、坑壁の崩壊等を起さない限度の長さに設計される。例えば、1つのケーシングパイプの孔壁保護長は数百m程度に設計される。
【0024】
このようにして設計されたケーシングパイプの配列は『ケーシング・プログラム』と呼ばれている。
【0025】
地中孔の長さが長くなり、掘進に多大の日数を要すると、長期間掘削のままの地中孔の側壁崩壊の可能性が高くなる。従って、適宜の掘進長に応じてケーシングパイプを挿入し、その後はそのケーシングパイプ内を通る径の掘削刃物で掘進し、第2段以降のケーシングパイプ挿入を行う。
【0026】
従って、ケーシングパイプは大口径から次第に径を減ずる複数段となる。
【0027】
図4の例は、油井ケーシングパイプの例であり、プロダクションケーシング113の下端にケーシングシュー115が取り付けられている。
【0028】
図3の実線で示した部分は以上のようにして設計されたケーシング・プログラム20の例を示す設計図である。但し、図3中に仮想線で描かれた部分は後述の実施例を説明するために付加されたもので、ケーシング・プログラムの変更を示したものである。
【0029】
この設計例の具体例を表1に示した。表1中の数字は、掘進径、浚い径、ケーシングパイプ径をインチで表示したものである。
【0030】
【表1】

【0031】
図3の例では、表1に示すように、地表31から深さ32が600mまでの第1段ケーシングパイプ21の径は13−3/8インチであり、地表31から深さ33が1200mまでの第2段ケーシングパイプ22の径は10−3/4インチであり、地表31から深さ34が1800mまでの第3段ケーシングパイプ23の径は8−5/8インチとなっている。
【0032】
深さ34(地表から1800m)と深さ35(地表から2000m)の区間は最終掘削孔24でケーシングパイプを挿入しない部分である。
【0033】
次に、図1は本発明方法の実施例を模式的に示す説明図である。拡径掘削刃物3を先端に備えたドリルストリング2に駆動推進装置5から回転力及び推力を付与してパイロットホール4を拡掘して掘削孔1を形成する。この掘削孔1中に、地表13から、ケーシングパイプ11を挿入装置12を用いて挿入する。なお、地表13から、安定地層までの間にコンダクタパイプ14を設けて地中孔の口元を保護することは任意である。
【0034】
図1に示す拡径掘削刃物3は、ケーシングパイプ11内を通るときは縮径してケーシングパイプ11の内径より小径となり、ケーシングパイプ11より先方の地中では、ケーシングパイプ11の外径より大径に拡径するようになっている。このような拡径掘削刃物3の拡縮径機構は公知の技術を用いる。
【0035】
掘削刃物としては、図2に示すようにドリルストリング2に偏心刃物6を1個備えたものでもよい。この偏心刃物6を含むドリルストリング2はケーシングパイプ11内を通る断面寸法であり、このドリルストリング2をケーシングパイプ11の中心軸まわりに回転させることによって、ケーシングパイプ11の外径より大径の地中孔1を掘削することができる。
【0036】
また、ベントサブを用いて曲線孔を掘削する場合には、ベントサブをケーシングパイプの中心軸まわりに回転させることによって、拡径孔を掘削することも可能である。
【0037】
ケーシングパイプ11は同一径のものを順次連結して挿入する。従って従来のように、順次大径から小径に亘る多段のケーシングパイプの挿入を要しない。
【0038】
次に、図3に実線で示す深さ2000mまでのケーシング・プログラムに従って地中孔を掘削し、地表31から1800mまでケーシングパイプ21,22,23を挿入し1800m〜2000m間に最終掘削孔24を設けて完了の予定であったが、実際には、仮想線で示すように、さらに深さ34(地表から1800m)から深さ36(地表から2500m)の掘削を必要とすることが判明した。この場合、本発明方法を好適に適用することができる。
【0039】
すなわち、深さ34(地表から1800m)から深さ36(地表から2500m)までを、縮径してケーシングパイプ23内を通り、先方で拡径する掘削刃物を備えたドリルストリングを用いて地中孔の掘削を行い、ケーシングパイプ23を前進させて、ケーシングパイプ25を挿入した。その後、その下方に最終掘削孔26を設けた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明方法の実施例を模式的に示す説明図である。
【図2】別の実施例の掘削刃物を説明する説明図である。
【図3】ケーシング・プログラムの一例を示す設計図である。
【図4】従来の油井のケーシングの配列例を示す抗井の断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 掘削孔
2 ドリルストリング
3 拡径掘削刃物
4 パイロットホール
5 駆動推進装置
6 偏心刃物
11,21,22,23,25 ケーシングパイプ
12 挿入装置
13,31,101 地表
14 コンダクタパイプ
20 ケーシング・プログラム
24,26 最終掘削孔
32,33,34,35,36 深さ
100 坑井
102 地層
110 コンダクタパイプ
111 サーフェイスケーシング
112 中間ケーシング
113 プロダクションケーシング
114 セメンチング
115 ケーシングシュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングパイプ外径より大径の地中孔を掘削する掘削刃物を、ケーシングパイプ内を通ってケーシングパイプの先方の地中に突出させ、ケーシングパイプの外径より大きい地中孔を掘進し、該掘進した地中孔にケーシングパイプを推進させ、以上の動作を繰返して一連の同径のケーシングパイプを地中に連接して布設することを特徴とするケーシングパイプの布設方法。
【請求項2】
前記大径の地中孔を掘削する堀削刃物は、縮径時にケーシングパイプ内径より小径となり拡径時にケーシングパイプ外径より大径となる掘削刃物、又は周方向に突出した偏心掘削刃物を備えると共に、ケーシングパイプ内を通る断面を有し、該掘削刃物が偏心回転することによりケーシングパイプ外径より大径の地中孔を掘削する刃物であることを特徴とする請求項1記載のケーシングパイプの布設方法。
【請求項3】
前記地中孔は、鉛直孔、水平孔、又は任意の曲線孔であることを特徴とする請求項1又は2記載のケーシングパイプの布設方法。
【請求項4】
前記地中孔は延長が200〜3000mであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のケーシングパイプの布設方法。
【請求項5】
前記同径のケーシングパイプは内径が100〜1000mmであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のケーシングパイプの布設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−101060(P2010−101060A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273301(P2008−273301)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(395022018)日本海洋掘削株式会社 (10)
【Fターム(参考)】