説明

ケーブルの保持部構造とそれを備えた電気機器

【課題】ケーブルとブッシングとの間における耐引張力を向上させた、安価なケーブルの保持部構造を提供する。
【解決手段】電気機器の筐体壁30に開設されたケーブル導入孔を介して筐体内に導入するケーブル10と、ケーブル導入孔付近においてケーブル10を外周から加締めるリング部材12と、ケーブル10及びリング部材12を外周から覆うようにモールドするブッシング20とを備えるケーブルの保持部構造において、リング部材12に、ケーブル10及びブッシング20の一部を食い込ませる開口部14を開設した。これにより、ケーブル10の外皮及びモールド材の双方がリング部材12の開口部14に食い込むので、ケーブル10とリング部材12との間における耐引張力を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の筐体壁に開設されたケーブル導入孔を介して筐体内に導入するケーブルの保持部構造に関し、特にケーブルの一部にモールド成形によるブッシングを取り付けたケーブルの保持部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器の筐体内に外部からケーブルを引き込む部分においては、筐体壁とケーブルとの間にブッシングを介在させる手法が用いられている。ブッシングは、ケーブルに引張力が加えられた場合であっても、筐体壁とケーブルとの間でずれが生じないものであることが好ましく、また、小型で安価であることが求められる。
【0003】
ブッシングがモールド成形の場合、ケーブルとモールド材は異なる材料のため融着せず引張力に対する耐性が弱い。そこで、ケーブルにリング部材を加締めて固定し、ケーブルとリング部材を外周から覆う様にモールドを行う事で引張力に対する耐性を高める手法が広く用いられている。
【0004】
ここで、引張力に対する耐性を更に高めるために、外周に突起部が形成されている金属製のリング部材をケーブルに加締めて固定し、当該リング部材を外周から覆うようにモールド成形したブッシングを備えたケーブルハーネスが開示されている(例えば特許文献1)。
【0005】
図4に、特許文献1に記載されているケーブルハーネスの一部断面図を示す。図4に示すケーブルハーネス900は、電気機器の筐体壁930を貫通するケーブル910と、ケーブル910に固定した突起部914付のリング部材912と、ケーブル910の一部及びリング部材912を覆うブッシング920とを備えている。ブッシング920の外周部には、筐体壁930を挟み込むための凹溝922を備えている。
【0006】
特許文献1に記載されているケーブルハーネス900によれば、ケーブル910に固定したリング部材912の突起部914が、ブッシング920に食い込んだ形でモールドされているので、ケーブル910と筐体壁930との固定を確実に行うことができるとしている。また、小型化を維持することができ、外観に支障が発生しないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平3−53880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているケーブルハーネス900では、リング部材912の外周に突起部914を形成することよって、リング部材912とブッシング920との間における摩擦力を高めている。しかし、リング部材912に突起部914を設けるためには、リング部材912を単純な板金加工のみで行うことが困難であるので、加工コストが高くなるという問題があった。ゆえに、リング部材912の素材として、引張強さが高く加締めに適した素材を用いると加工コストが上昇してしまうという問題を生じていた。
【0009】
また、特許文献1に記載されているケーブルハーネス900では、ケーブル910とリング部材912との間における摩擦力が不足するために、ケーブル910に加わる引張力が所定の力を超えるとケーブル910とリング部材912との間で滑りが生じてしまい、ブッシング920に対してケーブル910がずれたり、抜けてしまうという不具合を生ずる。
【0010】
そこで従来は、特許文献1にも示されているとおり、ケーブル910とリング部材912との間において生ずる滑りを防止するために、ケーブル910におけるリング部材912との固定部分に、ローレット加工を施すなど、別途対策を設ける必要あった。したがって、この加工工数の増加に伴って製品価格が上昇してしまうという問題があった。また、リング部材912に形成した突起部914の影響で、ブッシング920を細径化できないという問題もある。
【0011】
そこで本発明は、かかる従来の事情に鑑みて、ケーブルとブッシングとの間における耐引張力を向上させた安価なケーブルの保持部構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のケーブルの保持部構造は、ケーブルと、該ケーブルを外周から加締めるリング部材と、前記ケーブル及び前記リング部材を外周から覆うようにモールドしたブッシングとを備えるケーブルの保持部構造において、前記リング部材に開口部を設けたことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成により、ケーブルにリング部材を加締めた際には、その加締力によってリング部材に開設した開口部にケーブルの外皮を食い込ませることができる。このように、リング部材に開設した開口部にケーブルの外皮が食い込むことによりアンカーが形成され、リング部材とケーブルとの間における摩擦力を高めることができる。したがって、ケーブルに引張力が加わった際の耐力を高めることができる。
【0014】
また、ケーブル及びリング部材をモールド成形する際には、リング部材に開設した開口部にモールド材を流入させることができる。このように、リング部材に開設した開口部にブッシングの一部が食い込むことによりアンカーが形成され、リング部材とブッシングとの間における摩擦力を高めることができる。したがって、ケーブルに引張力が加わった際の耐力を高めることができる。
【0015】
また、本発明に使用するリング部材の素材として平板の板材を用いることができる。このリング部材における開口部の加工は、平板からリング部材を打ち抜くと同時に開設することができるので、加工工数に増加は無く、金型の変更のみで安価にて成形することができる。したがって、加工が難しい素材を用いてもコストの高騰を防ぐことができる。また、特許文献1に記載されているようなケーブルに対する加工は不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態として示すケーブルの保持部構造の要部平面図である。
【図2】図2は、平板状のリング部材を板材からパンチ加工によって切り抜いた状態を示す平面図である。
【図3】図3は、図2に示した平板状のリング部材をU字型に屈曲させた後の状態を示す図である。
【図4】図4は、従来のケーブルの保持部構造を示す一部断面図である。
【図5】図5は本発明の別の実施例を示すケーブル保持構造の要部平面図である。
【図6】図5は図2における別の実施例の状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態として示すケーブルの保持部構造の要部の平面図である。
【0019】
図1に示すケーブルハーネス100は、電気機器の筐体壁30に開設されたケーブル導入孔を貫通するケーブル10と、ケーブル導入孔付近においてケーブル10に加締めて固定したリング部材12と、ケーブル10の一部及びリング部材12を覆うブッシング20とを備えている。ブッシング20の外周には、筐体壁30を挟み込む凹溝22を形成してある。なお、図1に示す実施形態では、ケーブル10が筐体壁30の内部に進入した部分においては、ケーブル10の外装を除去して配線材24を露出させてある。そして、配線材24の先端部には、筐体内部に配されている電子機器と接続するコネクタ26を取り付けてある。
【0020】
リング部材12には、ケーブル10に対向する対向面15に1乃至複数の開口部14が開設されている。このリング部材12をケーブル10に加締めて固定すると、そのケーブル10を外周から圧迫する力によって、リング部材12の側淵部16及び開口部14の内周淵部が、ケーブル10の外皮に食い込む形となる。すると、ケーブル10の外皮がリング部材12の側淵部16及び開口部14の内周淵部にて引っ掛かることによりアンカーが形成されるので、ケーブル10とリング部材12との間における耐引張力が向上する。
【0021】
ケーブル10にリング部材12を固定した後に、図1に示すように、ケーブル10の一部及びリング部材12を外周から覆うように、樹脂によるモールド成形を行ってブッシング20を成形する。リング部材12に対して外周からモールド成形を行うと、リング部材12の側淵部16にてモールド材によるアンカーが形成されるとともに、リング部材12の対向面15に開設した開口部14にモールド材が流れ込むことで、ここにもアンカーが形成される。これらのアンカーの存在により、ブッシング20とリング部材12との間における耐引張力が向上する。
【0022】
次に、図2及び図3を用いて、本発明に係るリング部材12の製造過程について説明する。図2は、平板状のリング部材12を板材からパンチ加工によって切り抜いた状態を示す平面図である。図3は、図2に示した平板状のリング部材12をU字型に屈曲させた後の状態を示す図である。
【0023】
図2に示すように、平板状のリング部材12は、2辺の側淵部16と、2辺の噛合淵部18、19とで周囲を形成した略矩形板状の金属素材で構成してある。リング部材12の対向面15の中央部には、開口部14を3箇所開設してある。開口部14の形状は、図2に示す円形の他にも、正方形、長方形、三角形、その他の形状の開口を用いることができる。また、開口部14の数も、3箇所に限定するものではない。
【0024】
また、図2に示す実施形態では、噛合淵部18の平面形状を山形とし、噛合淵部19の平面形状を谷形とした実施形態を示してあるが、この形状の他にも、凸形と凹形との組み合わせなど、リング部材12とケーブル10との間において滑りが生じにくい形状を用いることができる。なお、リング部材12の対向面15に開口部14を開設したことにより、十分な耐引張力が確保されている場合には、噛合淵部18、19の形状として敢えて山形及び谷形等の組み合わせを用いずに、直線形状を用いることもできる。
【0025】
図6は図2に示す実施形態の別の実施例を示したものである。切欠き部21は半円状の切欠きとなっており、リング部材12をケーブル10に加締めて固定するとき突き合わされ開口部14と同じ働きを持たせることができ、耐引張力が更に向上する。尚、図5では切欠き部を半円状としているが、これに限るものではなく、突き合わせたときに正方形、長方形、三角形などリング部材12を加締めたときケーブル10の外被に食い込む形状を用いることができる。また、本実施例では開口部14は1つとしているがこれを複数個開設しても構わない。図6に示すリング部材12をケーブル10に加締めたケーブル保持構造の要部平面図を図5に示す。
【0026】
図2、図6に示すように、本発明に使用するリング部材12の素材は平板である。したがって、リング部材12の対向面15に開設する開口部14は、平板からリング部材12を打ち抜くと同時に開設することができる。したがって、開口部14を開設するにあたって、加工工数を増やすことなく、金型の変更のみで対処することができる。したがって、加工が難しいステンレス鋼等の素材を用いても、加工コストの上昇を防ぐことができる。なお、本発明に係るケーブルの保持部構造を、車両の外部に搭載するバックモニターカメラ用として用いる場合には、耐候性が要求されるので、リング部材12の素材としてステンレス鋼の使用が要求される場合がある。
【0027】
次に、図2に示したリング部材12をケーブル10に固定し易くするために、U字型に屈曲させた後の状態の図を、図3に示す。図3に示すように平板状のリング部材12を屈曲させた後、U字型の溝にケーブル10を入れて、工具を用いてリング部材12を加締める。このようにリング部材12を加締めることによって、ケーブル10の外皮に、リング部材12の側淵部16及び開口部14の内周淵部を食い込ませることができる。本発明によれば、ケーブル10にローレット加工を施すことなく、ケーブル10とリング部材12との間における耐引張力を向上させることができる。尚、図示はしていないが、図6に示したリング部材13についても上記と同じ加締め加工をすることにより同様な効果を得ることができる。
【0028】
ケーブル10にリング部材12またはリング部材13を固定した後に、図1または図5に示すように、ケーブル10の一部及びリング部材12を外周から覆うように、樹脂によるモールド成形を行ってブッシング20を成形する。リング部材12またはリング部材13に対して外周からモールド成形を行うと、リング部材12またはリング部材13の側淵部16にてモールド材によるアンカーが形成されるとともに、リング部材12またはリング部材13の対向面15に開設した開口部14にモールド材が流れ込むことで、ここにもアンカーが形成される。リング部材13の場合は切欠き部21にもアンカーが形成される。これらのアンカーの存在により、ブッシング20とリング部材12またはリング部材13との間における耐引張力が向上する。
【0029】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
100、900 ケーブルハーネス
10、910 ケーブル
12、912 リング部材
13 リング部材
14 開口部
15 対向面
16 側淵部
18、19 噛合淵部
20、920 ブッシング
21 切欠き部
22、922 凹溝
24 配線材
26 コネクタ
30 930 筐体壁
914 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルと、該ケーブルを外周から加締めるリング部材と、前記ケーブル及び前記リング部材を外周から覆うようにモールドしたブッシングとを備えたケーブルの保持部構造において、
前記リング部材に開口部を設けたことを特徴とするケーブルの保持部構造。
【請求項2】
前記リング部材の両端に切欠き部を形成したことを特徴とする請求項1記載のケーブル保持構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のケーブルの保持部構造を備えた電気機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−216775(P2012−216775A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22763(P2012−22763)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【出願人】(000006611)株式会社富士通ゼネラル (1,266)
【Fターム(参考)】