説明

ゲート駆動回路

【課題】MOSFETで発生するホットキャリア量を抑制して高信頼性のゲート駆動回路を提供する。
【解決手段】NOEMI回路を有するゲート駆動回路10において、ゲートチャージアップ用の回路12を構成するpチャネルMOSFET(QP1)とゲートディスチャージ用の回路13を構成するnチャネルMOSFET(QN1)に同型NOEMI回路14,15を直列接続することで、QP1,QN1で発生するホットキャリア量を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁ゲート型スイッチング素子を駆動するゲート駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)やパワーMOSFET(パワーMOS型電界効果トランジスタ)などの絶縁ゲート型スイッチング素子(以下、パワーMOSと称す)は、電力変換装置に多用されており、近年、ハイブリッド自動車や電気自動車などへの適用が注目されている。
【0003】
図8は、パワーMOSを駆動する従来のゲート駆動回路の回路図である。このゲート駆動回路50はpチャネルのMOSFETであるQP1とnチャネルのMOSFETであるQN1を直列接続(互いのドレイン同士が接続)したインバータ回路51で構成される。ゲート駆動回路50の電源の高電位側端子VccはQP1のソースに接続し、電源の低電位側端子GNDはQN1のソースに接続する。
【0004】
インバータ回路51の入力端子Vinは、QP1およびQN1のそれぞれのゲートに接続する。QP1とQN1の接続点にゲート抵抗R1の一端が接続し、他端は出力端子Voutに接続する。ダイオードD1のアノードがGNDに接続し、カソードがVoutに接続する。このダイオードD1はVoutに過電圧が印加されないようにするための保護ダイオードである。また、電圧Vd1はQP1とQN1の接続点とGNDの間の電圧であり、QN1のドレイン・ソース間電圧Vds1に等しい。
【0005】
図9は、パワーMOSとしてパワーMOSFETが用いられた主回路の図である。ここでは、電気自動車などに用いられる主回路60について説明する。この主回路60の電源と前記のゲート駆動回路50の電源は別であり、主回路60の電源の高電位側端子Vccoの電圧の方がゲート駆動回路50の電源の高電位側端子Vccの電圧より高い。電気自動車の場合は負荷は電気モータであり、その等価回路は抵抗R2とインダクタL1が直列接続された回路となる。また、パワーMOSFETはnチャネル型であり、ここではQN4で示す。また、QN4のCgdはゲート・ドレイン容量、Cgsはゲート・ソース容量およびCdsはドレイン・ソース容量である。また、Vd3はL1とQN4の接続点とGNDの間の電圧であり、QN4のドレイン・ソース間電圧Vds4に等しい。
【0006】
つぎに、主回路60の構成を説明する。主回路60の電源の高電位側端子Vccoに抵抗R2が接続し、インダクタL1にQN4のドレインが接続し、QN4のソースは電源の低電位側端子GNDに接続する。QN4のゲートはゲート端子Vgに接続する。QN4のゲートとドレインの間にはゲート・ドレイン容量Cgdが接続し、ゲートとソースの間にはゲート・ソース容量Cgsが接続し、ドレインとソースの間にはドレイン・ソース容量Cdsが接続している。QN4のゲート容量CgはCgs+Cgdである。
【0007】
図10は、図8のVoutに図9のVgを接続した場合のシミュレーションに用いた回路図である。ゲート駆動回路50のインバータ回路51を構成するQN1をオンさせ、QP1をオフさせることで、主回路60のQN4をターンオフさせる。
【0008】
図11は、図10において、QN1がオンしたときのQN1のドレイン・ソース間電圧Vds1に等しい電圧Vd1、QN1を流れる電流Id1、Vin電圧、QN4のドレイン・ソース間電圧Vds4に等しい電圧Vd3の各波形を示す図である。尚、電圧Vd1、電圧Vd3はGND電位を基準にしたときの電圧である。
【0009】
図12は、図10において、QN1がオンしたときの電圧Vd1、QN1を流れるドレイン電流Idの波形を示す図である。
図10のVinにHI電位の信号を入力すると、ゲート駆動回路50を構成するQN1がオン状態となり、VoutはLO電位となる。これによりVoutにゲートが接続しているQN4はターンオフする。
【0010】
QN1のドレイン・ソース間電圧Vds1に等しい電圧Vd1はVcc電圧から徐々に低下する。これはQN4のゲート容量Cg(=Cgs+Csd)に蓄積された電荷が、QN1のドレイン電流Id1となってGNDへ放電されるためである。QN1のドレイン・ソース間電圧Vds1に等しい電圧Vd1がA部で示すように高い状態で大きなId1が流れるため、QN1にはホットキャリアが発生し、QN1は素子特性劣化を引き起こす。素子特性劣化としてはゲートしきい値電圧の変動、ドレイン電流の低下などである。
【0011】
図9で示すように、負荷がモータ(図9ではL1で示す)の場合には、モータの誘導起電力によりQN4のドレイン・ソース間にサージ電圧Vsが印加され、QN4のドレイン・ソース間電圧Vds4が跳ね上がる。
【0012】
このサージ電圧Vsは、L1のインダクタンスLとQN4のターンオフ時の電流減少率di/dtの積で表される。つまり、Vs=L×di/dtとなる。GNDを基準とした電圧Vd3(=QN4のドレイン・ソース間電圧Vds4)はVcco電圧にVsが重畳された電圧になる。
【0013】
QN4のゲートとドレインはQN4のCgdを介して繋がっているため、このサージ電圧VsがQN4のゲートに影響を与えてQN4のVg電位を持ち上げる。
しかし、QN4のドレイン・ソース間電圧Vds4(=Vd3)の影響でVd1が持ち上げられる箇所は図12のBに示すようにVd1が低下する途中であり、しかも持ち上げられる程度はシミュレーションでは小さい。
【0014】
しかし、L1のインダクタンスLが大くなると、点線Cで示すようにVd1の立下りがフラットとなり、QN1のドレイン・ソース間電圧Vds1(=Vd1)は高い状態に維持される。そのため、QN1で発生するホットキャリア量はL1のインダクタンスLが大きくなると増大する。
【0015】
このように、QN1のドレイン・ソース間電圧Vds1(=Vd1)が高い状態でQN1にId1が流れるため、QN1にはホットキャリアが発生し、素子特性劣化を起こす要因になる。このホットキャリア量はQN1のドレイン・ソース間電圧Vds1が高いほど多くなり、電流(Id1)に比例し電圧(Vd1)の6乗に比例する。
【0016】
そのため、QN4のターンオフ時にはQN1に多くのホットキャリアが発生し、素子を劣化させる。
また、図8のQP1がオンしてQN4がターンオンするときに、QP1にホットキャリアが発生し前記と同様に素子を劣化させる。
【0017】
尚、ホットキャリアとは、高電界によりエネルギーを得たキャリア(電子と正孔)のことで、このホットキャリアがMOSデバイスのゲート絶縁膜などに入り込むことでMOSデバイスのゲートしきい値電圧を変動させたり、ドレイン電流を減少させるなど素子特性劣化を引き起こす要因になる。
【0018】
つぎに、ターンオフ時のサージ電圧Vsを下げる方法について説明する。
例えば、特許文献1には、サージ電圧Vsの発生時にパワーMOSのゲート電圧を積極的に上げ、サージ電流をパワーMOSに流すことでサージ電圧Vsを抑制する方法が記載されている。
【0019】
また、非特許文献1には、Normally−On Enhancement MOSFET Insertion(NOEMI)と呼ばれる技術を用いた回路(NOEMI回路)が記載されている。この回路は常にオン状態にあるNOEM(Normally−On Enhancement MOSFET)であるMOSFETを設置し、これに直列接続するMOSFETで発生するホットキャリア量を抑制する回路である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平7−99429号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】IEEE Journal of Solid−State Circuit、vol.SC−21.Feb.1986,pp187−192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかし、特許文献1の方法では、パワーMOSの保護には有効であるが、ゲート駆動回路50を構成するQN1のドレイン・ソース間電圧Vds1(=Vd1)が上昇するため、QN1に発生するホットキャリアを防止することはできない。
【0023】
また、非特許文献1には、SRAMやDRAMなどの集積回路にNOEMI回路を用いてホットキャリアの発生を抑制することは記載されているが、パワーMOSを駆動するゲート駆動回路にNOEMI回路を用いて、ゲート駆動回路を構成するMOSFETで発生するホットキャリア量を抑制することについては記載されていない。
【0024】
この発明の目的は、前記の課題を解決して、MOSFETで発生するホットキャリア量を抑制して高信頼性のゲート駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記の目的を達成するために、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明によれば、絶縁ゲート型スイッチング素子を駆動し、該絶縁ゲート型スイッチング素子のゲート容量を充電するゲートチャージアップ用の回路と、前記ゲートチャージアップ用回路に直列接続され前記ゲート容量の電荷を放電するゲートディスチャージ用の回路とを有するゲート駆動回路において、前記ゲートチャージアップ用の回路が第1pチャネルMOSFETと、該第1pチャネルMOSFETのドレインにソースが直列接続する第1同型NOEMI回路を構成する第2pチャネルMOSFETとからなり、前記ゲートディスチャージ用の回路が、第1nチャネルMOSFETと、該第1nチャネルMOSFETのドレインにソースが直列接続する第2同型NOEMI回路を構成する第2nチャネルMOSFETとからなり、前記第2pチャネルMOSFETのドレインに前記第2nチャネルMOSFETのドレインが直列接続し、前記第1pチャネルMOSFETのソースが電源の高電位側端子に接続し、前記第1nチャネルMOSFETのソースが前記電源の低電位側端子し接続し、前記第2pチャネルMOSFETのゲートが前記電源の低電位側端子に接続し、前記第2nチャネルMOSFETのゲートが前記電源の高電位側端子に接続し、前記第1pチャネルMOSFETのゲートと前記第1nチャネルMOSFETのゲートが互いに接続し、該接続点が入力端子に接続し、前記第2pチャネルMOSFETのドレインと前記第2nチャネルMOSFETのドレインとが接続する接続点に出力端子が接続する構成とする。
【0026】
また、特許請求の範囲の請求項2記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記第1pチャネルMOSFET、前記第2pチャネルMOSFET、前記第1nチャネルMOSFETおよび前記第2nチャネルMOSFETのそれぞれのチャネル幅が同じであるとよい。
【0027】
また、特許請求の範囲の請求項3記載の発明によれば、絶縁ゲート型スイッチング素子を駆動し、該絶縁ゲート型スイッチング素子のゲート容量を充電するゲートチャージアップ用の回路と、前記ゲートチャージアップ用回路に直列接続され前記ゲート容量の電荷を放電するゲートディスチャージ用の回路とを有するゲート駆動回路において、前記ゲートチャージアップ用の回路が第1pチャネルMOSFETと、該第1pチャネルMOSFETのドレインに直列接続するゲートチャージアップ用の回路の一部を構成する第1混成NOEMI回路とを有し、前記ゲートディスチャージ用の回路が第1nチャネルMOSFETと、該第1nチャネルMOSFETのドレインに直列接続するゲートディスチャージ用の回路の一部を構成する第2混成NOEMI回路とを有し、前記第1混成NOEMI回路が互いに並列接続する第2pチャネルMOSFETおよび第3nチャネルMOSFETからなり、前記第2混成NOEMI回路が互いに並列接続する第2nチャネルMOSFETおよび第3pチャネルMOSFETからなり、前記第2pチャネルMOSFETのゲートおよび第3pチャネルMOSFETのゲートがそれぞれ電源の低電位側端子に接続し、前記第2nチャネルMOSFETのゲートおよび第3nチャネルMOSFETのゲートがそれぞれ前記電源の高電位側端子に接続し、前記第2pチャネルMOSFETのソースが前記第1pチャネルMOSFETのドレインに接続し、前記第3nチャネルMOSFETのソースが前記第1nチャネルMOSFETのドレインに接続し、前記第1pチャネルMOSFETのソースが前記電源の高電位側端子に接続し、前記第1nチャネルMOSFETのソースが前記電源の低電位側端子に接続し、前記第1pチャネルMOSFETのゲートと前記第1nチャネルMOSFETのゲートが入力信号が入力される入力端子に接続し、前記第2pチャネルMOSFETのドレインと前記第3nチャネルMOSFETのドレインの接続点が抵抗を介して前記絶縁ゲート型スイッチング素子のゲートに接続する出力端子に接続する構成とする。
【0028】
また、特許請求の範囲の請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明において、前記第1混成NOEMI回路を構成する第2pチャネルMOSFETおよび第3nチャネルMOSFETのそれぞれのチャネル幅が、前記第1pチャネルMOSFETのチャネル幅の半分であり、前記第2混成NOEMI回路を構成する第2nチャネルMOSFETおよび第3pチャネルMOSFETのそれぞれのチャネル幅が、前記第1nチャネルMOSFETのチャネル幅の半分であるとよい。
【0029】
また、特許請求の範囲の請求項5に記載の発明によれば、請求項1または3に記載の発明において、前記ゲートチャージアップ用の回路と前記ゲートディスチャージ用の回路でインバータ回路を構成するとよい。
【0030】
また、特許請求の範囲の請求項6に記載の発明によれば、請求項1または3に記載の発明において、前記絶縁ゲート型スイッチング素子が、IGBTもしくはパワーMOSFETであるとよい。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、NOEMI回路を有するゲート駆動回路において、ゲートチャージアップ用の回路を構成するpチャネルMOSFET(QP1)とゲートディスチャージ用の回路を構成するnチャネルMOSFET(QN1)に同型NOEMI回路を直列接続することで、QP1,QN1および同型NOEMI回路で発生するホットキャリア量を抑制することができる。
【0032】
また、同型NOEMI回路を混成NOEMI回路に代えることで、NOEMI回路で発生するホットキャリアを一層抑制することができる。
ホットキャリアの発生を抑制することで、ホットキャリアによる素子特性劣化を防止できて高信頼性のゲート駆動回路を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の第1実施例のゲート駆動回路を示す要部回路図である。
【図2】QN1がオンしたときのQN1のドレイン電圧Vd1、QN2のドレイン電圧Vd2、QN4のドレイン電圧Vd3、QN1の電流Id1、Vin電圧、Vout電圧の各波形を示す図である。
【図3】QN2のドレイン・ソース間電圧Vds2(=Vd2−Vd1)、QN1の電流Id1の波形を示す図である。
【図4】図1のVoutを図9のQN4のVgに接続した回路図である。
【図5】この発明の第2実施例のゲート駆動回路を示す要部回路図である。
【図6】図6は、Vin電圧、QN1のドレインの電圧Vd1、QN2のドレイン電圧Vd2、QN4のドレイン電圧Vd3の各波形を示す図である。
【図7】図7は、QN2のドレイン・ソース間電圧Vds2(=Vd2−Vd1)、QN1の電流Id1の波形を示す図である。
【図8】パワーMOSを駆動する従来のゲート駆動回路の回路図である。
【図9】パワーMOSとしてパワーMOSFETが用いられた主回路の図である。
【図10】図8のVoutに図9のVgを接続した場合のシミュレーションに用いた回路図である。
【図11】QN1がオンしたときのQN1のドレイン電圧Vd1、QN1の電流Id1、Vin電圧、QN4のドレイン電圧Vd3の各波形を示す図である。
【図12】QN1がオンしたときのQN1のドレイン・ソース間電圧Vds1(=Vd1)、QN1のドレイン電流Idの波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
実施の形態を以下の実施例で説明する。尚、従来の構成と同一部位には同一符号を付した。
【実施例1】
【0035】
図1は、この発明の第1実施例のゲート駆動回路を示す要部回路図である。このゲート駆動回路10は同型NOEMI回路14,15を有するインバータ回路11で構成される。同型NOEMI回路14,15とは、インバータ回路11の主要素子であるMOSFET(QP1またはQN1)と、このMOSFETに直列接続するNOEM(QP2またはQN2)とが同一の導電型であるNOEMI回路のことをいう。
【0036】
ゲート駆動回路10はインバータ回路11で構成され、高電位側のゲートチャージアップ用の回路12(ターンオン回路)と低電位側のゲートディスチャージ用の回路13(ターンオフ回路)とで構成されている。
【0037】
ゲートチャージアップ用の回路12はpチャネルのMOSFETであるQP1、QP2で構成されている。このQP2は常にオン状態にあるゲートチャージアップ用の第1同型NOEMI回路14である。
【0038】
ゲートディスチャージ用の回路13はnチャネルのMOSFETであるQN1、QN2で構成されている。このQN2は常にオン状態にあるゲートディスチャージ用の第2同型NOEMI回路15である。
【0039】
また、QP1とQN1のゲートは互いに接続し、その接続点aは入力端子Vinに接続する。QP1のソースは電源の高電位端子Vccに接続し、QN1のソースは電源の低電位端子GNDに接続する。QP2とQN2のそれぞれのドレインは互い接続し、その接続点bは出力端子Voutに接続する。第1同型NOIMI回路14を構成するQP2のゲートはGNDに接続し、第2同型NOEMI回路15を構成するQN2のゲートはVccに接続する。
【0040】
尚、図中のVds1はQN1のドレイン・ソース間電圧、Vds2はQN2のドレイン・ソース間電圧である。Vd1はQN1とQN2の接続点とGNDの間の電圧であり、Vds1に等しい。Vd2はQP2とQN2の接続点bとGNDの間の電圧であり、Vds1+Vds2に等しい。
【0041】
図2は、QN1がオンしたときの電圧Vd1(=Vds1)、電圧V2(=Vds1+Vds2)、電圧Vd3(=Vds4)、QN1の電流Id1、Vin電圧の各波形を示す図である。時間T1でVinの入力信号ががLO電位からHI電位に切り替わる。Vd1,Vd2,Vd3はGND電位を基準にした電圧である。
【0042】
図3は、電圧Vd2−電圧Vd1(=Vds2)、QN1の電流Id1の波形を示す図である。この場合も時間T1でVinの入力信号がLO電位からHI電位に切り替わる。
図4は、図1のVoutを図9のQN4のVgに接続した回路図である。この回路で図2および図3に示す各部の波形をシミュレーションした。シミュレーションに用いた各素子のサイズについて説明する。QN1、QN2、QP1、QP2のチャネル幅Wとチャネル長Tはいずれも、例えば、W/T=1000μm/1μmとした。また、しきい値電圧Vthは、例えば、QN1、QN2は2V、QP1,QP2は1Vとした。
【0043】
図3で示すように、QN1がターンオンしたとき(T1の、QN1のドレイン・ソース間間電圧Vds1(=Vd1)は小さな値となり、QN1でのホットキャリア量は抑制される。ホットキャリア量が小さくなるため、QN1の素子特性劣化が防止される。
【0044】
また、図4のQN2のゲート・ソース間電圧Vgs2(=Vcc−Vd1)はQN1のゲート・ソース間電圧Vgs1(=Vin=Vcc)に比べて低いため、QN2のインピーダンスがQN1のインピーダンスより大きくなる。そのため、QN2のドレイン・ソース間電圧Vds2(=Vd2−Vd1)はQN1のドレイン・ソース間電圧Vds1(=Vd1)より高くなる。その高くなる程度が小さい間は、QN2にホットキャリアの発生は抑制され、QN2の素子特性劣化が防止される。その結果、高い信頼性のゲート駆動回路10を製作することができる。
【0045】
しかし、QN2のドレイン・ソース間電圧Vds2が大きくなると、QN2にホットキャリアが発生してQN2が素子特性劣化を起こしてゲート駆動回路10の信頼性を低下させる。それを防止する方策をつぎの実施例で説明する。
【実施例2】
【0046】
図5は、この発明の第2実施例のゲート駆動回路を示す要部回路図である。このゲート駆動回路20は混成NOEMI回路24,25を有するインバータ回路21で構成される。混成NOEMI回路24,25とは、インバータ回路21の主要素子であるMOSFET(QP1またはQN1)に直列接続する導電型が異なるNOEM(nチャネルMOSFET(QN2またはQN3)とpチャネルMOSFET(QP3またはQP2))が並列接続されたNOEMI回路のことをいう。
【0047】
ゲート駆動回路20はインバータ回路21で構成され、高電位側のゲートチャージアップ用の回路22(ターンオン回路)と低電位側のゲートディスチャージ用の回路23(ターンオフ回路)とで構成されている。
【0048】
ゲートチャージアップ用の回路22はpチャネルのMOSFETであるQP1、QP2と、nチャネルのMOSFETであるQN3で構成されている。このQN3とQP2は常にオン状態にあるゲートチャージアップ用の第1混成NOEMI回路24を構成する。
【0049】
ゲートディスチャージ用の回路23はnチャネルのMOSFETであるQN1、QN2と、pチャネルのMOSFETであるQP3で構成されている。このQN2とQP3は常にオン状態にあるゲートディスチャージ用の第2混成NOEMI回路25を構成する。
【0050】
また、混成NOEMI回路は第1混成NOEMI回路24と第2混成NOEMI回路25で構成される。
また、ゲートチャージアップ回路22のQP1とゲートディスチャージ用の回路23のQN1はVinの電位に応じて交互にオン状態またはオフ状態となる。
【0051】
また、図5のQN3とQP2を合せた占有面積は図1のQP2と同じであり、図5のQN2とQP3を合せた占有面積は図1のQN2と同じである。
つまり、図5の第1混成MOEMI回路24の面積または第2混成MOEMI回路25の面積と、図1の第1同型MOEMI回路14のQP2の面積または第2同型MOEMI回路のQN2の面積15とは同じである。
【0052】
以下に図5のゲート駆動回路20の動作について説明する。
VinにLO電位の信号が入力されているとき、QP1はオン状態、QN1はオフ状態にある。この時、VoutはHI電位にあり、チャージアップ電流がQP1、QN3,QP2を流れ、Voutに接続されたQN4のゲート容量Cg(=Cgs+Cgd)を充電する。そうするとQN4がオン状態となる。
【0053】
Vinに入力されている信号がLO電位からHI電位に切り替わると、QP1はオフ状態、QN1はオン状態になる。すると、VoutはLO電位に切り替わり、ディスチャージ電流がQN2,QP3,QN1を流れ、Voutに接続されたQN4のゲート容量Cg(=Cgs+Cgd)の電荷を放電する。
【0054】
前述のように、図1の第2同型NOEMI回路15では、入力信号をLO電位からHI電位に切り替える際、QN1ゲート・ソース間電圧Vgs1よりQN2のゲート・ソース間電圧Vgs2が低くくなり、このためにNOEMであるQN2のドレイン・ソース間電圧Vds2は高くなり、ホットキャリアが発生しやすくなるという問題があった。このときのQN2のドレイン・ソース間電圧Vds2はQN1のドレイン・ソース間電圧Vds1より高くなる。
【0055】
これに対して、図5の第2混成NOEM回路25では、Vinの入力信号をLO電位からHI電位に切り替える際には、QP3のゲート・ソース間電圧Vgs3はVccであり、QN1のゲート・ソース間電圧Vgs1はHI電位(=Vcc)となり、両者で同じ電圧となるため、QN1とNOEMであるQN2に印加されるドレイン・ソース間電圧Vds1,Vds2は均等化される。その結果、図5のQN2のドレイン・ソース間電圧Vds2(=QP3のソース・ドレイン電圧)は、図1のQN2のドレイン・ソース間電圧Vds2(>図1のQN1のドレイン・ソース間電圧Vds1)より低くなり、図5のQN2およびQP3に発生するホットキャリア量を抑制できる。この効果は、QP3の電流駆動能力が高くなるほどVds2が低くなるので顕著になる。
【0056】
また、QN2はVoutの電位が下がった際にQP3の電流駆動能力の低下を補う働きをする。QN2がない場合、QP3のゲート・ソース間電圧Vgs3が低くなり、ゲートしきい値電圧Vth以下となると、Voutの電位はGND電位まで下がらなくなる。QN2のゲート・ソース間電圧Vgs2はVoutの電位が下がるほど増加し、QP3を補うようにその電流駆動能力が増加する。これにより、VoutをGND電位にまで下げることができる。
【0057】
図6は、図5のVin電圧、電圧Vd1(=Vds1)、電圧Vd2(Vds1+Vds2)、電圧Vd3(Vds4)、Id1の各波形を示す図である。
図7は、図5のVds1(Vds1)、Vd2−Vd1(Vds2),Id1の各波形を示す図である。
【0058】
図6および図7は、図5の回路で図9の回路を駆動したときの電圧、電流のシミュレーション波形である。
各素子のサイズは、Wをチャネル幅、Tをチャネル長さとし、例えば、QN1、QP1はW/T=1000μm/1μm、QN2、QN3、QP2、QP3はW/T=500μm/1μmである。全体の混成NOEMの合計面積(QN2,QP3,QN3,QP2を合計した面積)は図1の同型NOEMI回路14、15の合計面積(QN2、QP2の合計の面積)と同一になるようにした。
【0059】
しきい値電圧はQN1、QN2、QN3は2Vであり、QP1、QP2、QP3は1Vである。また、Vinの入力信号は、図2のシミュレーションと同様であり、時間T1まではLO電位、T1以降はHI電位とした。
【0060】
図6のシミュレーション波形は図2のシミュレーション波形と同様に、時間T1でQN1とQN2がオフ状態からオン状態に切り替わる時点で、図6において、電圧Vd1(=Vds1)とVd2(Vds1+Vds2)は共に低下する。
【0061】
図7において、ターンオン直後のVd2−Vd1(=QN2のドレイン・ソース間電圧Vds2)の立下りはVd1(=QN1のドレイン・ソース間電圧Vds1)の立下りより緩くなる。また、図3のVd2−Vd1と比べて図7のVd2−Vd1は電圧値が低くなる。また、QP3のゲート・ソース間電圧Vgs3とQN1のゲート・ソース間電圧Vgs1がほぼ等しく(=Vcc)、またVout電圧をQN1と第2混成NOEMI回路25で分圧するため、切り替えた後のQN1のドレイン・ソース間電圧Vds1(=Vd1)の立下りは図3の場合(フラットな波形)に比べると図7の場合の方が大きくなる。
【0062】
その結果、図7に示すように、Vds2(=Vd2−Vd1)はVds1(=Vd1)より大きくなる。しかし、その大きさは図3で示すVds2(=Vd2−Vd1)よりも小さい。そのため、図5の第2混成NOEMI回路25のQN2およびQP3で発生するホットキャリア量は図1の第2同型NOEMI回路15のQN2で発生するホットキャリア量より小さくできる。その結果、QN2の素子特性劣化が防止されて高信頼性のゲート駆動回路20を製作することができる。
【0063】
尚、実施例1および実施例2ではゲートディスチャージ用の回路23を中心に説明したが、ゲートチャージアップ用の回路22でも同様の効果がある。つぎに、そのことを簡単に説明する。
【0064】
ゲートチャージアップ用の回路22の場合はQN4がターンオンするときにL1のインダクタンスLによりVd3が低下する。その影響でQP1および第1同型NOEMI回路12または第1混成NOEMI回路22に印加される電圧は大きくなる。しかし、その電圧の多くを第1同型NOEMI回路12で負担するため、QP1のドレイン・ソース間電圧Vdsp1が小さくなりホットキャリアの発生は抑制されると推測される。また、第1同型NOEMI回路12で負担する電圧が大きくなると、第1同型NOEMI回路12のQP2でホットキャリアが発生するようになる。
【0065】
しかし、第1混成NOEMI回路22に代えることで、負担する電圧を小さくできるので、第1混成NOEMI回路22のQP2およびQN3で発生するホットキャリア量を第1同型NOEMI回路12のQP2より小さくできる。
【0066】
また、実施例1および実施例2では、パワーMOSとしてパワーMOSFETを用いた場合で説明したが、IGBTの場合も同様である。
【符号の説明】
【0067】
10、20、50 ゲート駆動回路
11、21、51 インバータ回路
12、22 ゲートチャージアップ用の回路
13、23 ゲートディスチャージ用の回路
14 第1同型NOEMI回路
15 第2同型NOEMI回路
24 第1混成NOEMI回路
25 第2混成NOEMI回路
60 主回路
QP1,QP2,QP3 pチャネルMOSFET
QN1,QN2,QN3 nチャネルMOSFET
QN4 パワーMOSFET(nチャネル型)
Vcc、Vcco 電源の高電位側端子
GND 電源の低電位側端子
Vout 出力端子
Vin 入力端子
Vg ゲート端子
R1 ゲート抵抗
R2 抵抗
L1 インダクタ
a,b 接続点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ゲート型スイッチング素子を駆動し、該絶縁ゲート型スイッチング素子のゲート容量を充電するゲートチャージアップ用の回路と、前記ゲートチャージアップ用回路に直列接続され前記ゲート容量の電荷を放電するゲートディスチャージ用の回路とを有するゲート駆動回路であって、
前記ゲートチャージアップ用の回路が第1pチャネルMOSFETと、該第1pチャネルMOSFETのドレインにソースが直列接続する第1同型NOEMI回路を構成する第2pチャネルMOSFETとからなり、前記ゲートディスチャージ用の回路が、第1nチャネルMOSFETと、該第1nチャネルMOSFETのドレインにソースが直列接続する第2同型NOEMI回路を構成する第2nチャネルMOSFETとからなり、前記第2pチャネルMOSFETのドレインに前記第2nチャネルMOSFETのドレインが直列接続し、前記第1pチャネルMOSFETのソースが電源の高電位側端子に接続し、前記第1nチャネルMOSFETのソースが前記電源の低電位側端子し接続し、前記第2pチャネルMOSFETのゲートが前記電源の低電位側端子に接続し、前記第2nチャネルMOSFETのゲートが前記電源の高電位側端子に接続し、前記第1pチャネルMOSFETのゲートと前記第1nチャネルMOSFETのゲートが互いに接続し、該接続点が入力端子に接続し、前記第2pチャネルMOSFETのドレインと前記第2nチャネルMOSFETのドレインとが接続する接続点に出力端子が接続することを特徴とするゲート駆動回路。
【請求項2】
前記第1pチャネルMOSFET、前記第2pチャネルMOSFET、前記第1nチャネルMOSFETおよび前記第2nチャネルMOSFETのそれぞれのチャネル幅がおなじであることを特徴とする請求項1に記載のゲート駆動回路。
【請求項3】
絶縁ゲート型スイッチング素子を駆動し、該絶縁ゲート型スイッチング素子のゲート容量を充電するゲートチャージアップ用の回路と、前記ゲートチャージアップ用回路に直列接続され前記ゲート容量の電荷を放電するゲートディスチャージ用の回路とを有するゲート駆動回路であって、
前記ゲートチャージアップ用の回路が第1pチャネルMOSFETと、該第1pチャネルMOSFETのドレインに直列接続するゲートチャージアップ用の回路の一部を構成する第1混成NOEMI回路とを有し、前記ゲートディスチャージ用の回路が第1nチャネルMOSFETと、該第1nチャネルMOSFETのドレインに直列接続するゲートディスチャージ用の回路の一部を構成する第2混成NOEMI回路とを有し、前記第1混成NOEMI回路が互いに並列接続する第2pチャネルMOSFETおよび第3nチャネルMOSFETからなり、前記第2混成NOEMI回路が互いに並列接続する第2nチャネルMOSFETおよび第3pチャネルMOSFETからなり、前記第2pチャネルMOSFETのゲートおよび第3pチャネルMOSFETのゲートがそれぞれ電源の低電位側端子に接続し、前記第2nチャネルMOSFETのゲートおよび第3nチャネルMOSFETのゲートがそれぞれ前記電源の高電位側端子に接続し、前記第2pチャネルMOSFETのソースが前記第1pチャネルMOSFETのドレインに接続し、前記第3nチャネルMOSFETのソースが前記第1nチャネルMOSFETのドレインに接続し、前記第1pチャネルMOSFETのソースが前記電源の高電位側端子に接続し、前記第1nチャネルMOSFETのソースが前記電源の低電位側端子に接続し、前記第1pチャネルMOSFETのゲートと前記第1nチャネルMOSFETのゲートが入力信号が入力される入力端子に接続し、前記第2pチャネルMOSFETのドレインと前記第3nチャネルMOSFETのドレインの接続点が抵抗を介して前記絶縁ゲート型スイッチング素子のゲートに接続する出力端子に接続することを特徴とするゲート駆動回路。
【請求項4】
前記第1混成NOEMI回路を構成する第2pチャネルMOSFETおよび第3nチャネルMOSFETのそれぞれのチャネル幅が、前記第1pチャネルMOSFETのチャネル幅の半分であり、前記第2混成NOEMI回路を構成する第2nチャネルMOSFETおよび第3pチャネルMOSFETのそれぞれのチャネル幅が、前記第1nチャネルMOSFETのチャネル幅の半分であることを特徴とする請求項3に記載のゲート駆動回路。
【請求項5】
前記ゲートチャージアップ用の回路と前記ゲートディスチャージ用の回路でインバータ回路を構成することを特徴とする請求項1または3に記載のゲート駆動回路。
【請求項6】
前記絶縁ゲート型スイッチング素子が、IGBTもしくはパワーMOSFETであることを特徴とする請求項1または3に記載のゲート駆動回路。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−109773(P2012−109773A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256757(P2010−256757)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】