説明

コア/シェル型のPd/Fe2O3ナノ粒子、その製造方法、およびそれを用いて得られるFePd/Feナノ粒子

【課題】水素還元熱処理することによってFeの粗大化部分の形成が抑制されて個々の粒子が孤立したFePd/Fe磁性ナノ粒子を与え得るPd/Feナノ粒子、その製造方法、およびFeの粗大化部分の形成が抑制されて個々の粒子が孤立しているFePd/Fe磁性ナノ粒子を提供する。
【解決手段】TEM像、HAADF像およびEDXによる元素分析の少なくとも1つで評価してコア/シェル構造が確認できるPdコア相とFeシェル相とからなり、EDXで求めた平均のPd組成比率が50atm%以下であるコア/シェル型のPd/Feナノ粒子、そのコア/シェル型のPd/Feナノ粒子の製造方法、コア/シェル型Pd/Feナノ粒子を水素還元熱処理してなるFePd/Feナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア/シェル型のPd/Feナノ粒子、その製造方法、およびそれを用いて得られるFePd/Feナノ粒子に関し、さらに詳しくは水素還元熱処理後にFeの粗大化部分の形成が抑制されたFePd/Fe磁性ナノ粒子を与え得るコア/シェル型のPd/Feナノ粒子、その製造方法、およびそれを用いて得られるFePd/Feナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石は、我々の生活を支える基礎資材の1つであり、その性能を向上させる重要性は省エネおよび地球温暖化防止の観点から益々増している。例えば、家電製品や自動車(ハイブリッド自動車又は電気自動車)においては、それらの発電機やモーターに適用される永久磁石の高性能化や小型化が求められている。
【0003】
一方、近年、ナノテクノロジーを用いた材料設計が導入され、永久磁石の分野においても次世代型のナノコンポジット磁石の開発が試みられている。
このナノテクノロジーによる永久磁石であるナノコンポジットの1つとしてFePd/Fe磁性ナノ粒子が提案されている。
例えば、特開2007−208144号公報には、Pt又はPdのいずれかの金属からなる柱状部材と、該柱状部材の表面をFe等の金属で被覆する工程と、熱処理により両金属を含む金属相を形成する構造体の製造方法、それによって得られる永久磁石が記載されている。そして、具体例としてPtにメッキ法でFeを被覆した後に熱処理して得られた構造体が記載されている。
また、特開2008−138238号公報には、粒径1〜100nmのPdナノ粒子、界面活性剤、Feの塩及び還元剤を混合、加熱するPd又はPdFeをコア層としFeをシェル層とする複合ナノ粒子の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特開2008−138243号公報には、Feの塩とPdの塩とを界面活性剤を含む溶媒中に溶解させ、還元剤を加え、加熱してのFe塩を構成するイオン及びPdの塩を構成するイオンを還元するFe/Pd複合ナノ粒子の製造方法が記載されている。
さらに、再公表特開2006−070572号公報には、FePd等の合金ナノ微粒子の各微粒子をSiO、Al、TiOのいずれかである金属酸化物の被膜によって覆う被覆過程と、前記合金ナノ微粒子の組織を規則化させるための熱処理を行う熱処理過程と、前記被膜を除去する被膜除去過程と、からなる規則合金相ナノ微粒子の製造方法、それによって得られる規則合金相ナノ微粒子、超高密度磁気記録用媒体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−208144号公報
【特許文献2】特開2008−138238号公報
【特許文献3】特開2008−138243号公報
【特許文献4】再公表特開2006−070572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの従来技術によってはPdコア/Feシェル構造のナノ粒子が得られず水素還元熱処理しても一律に磁性ナノ粒子にコア/シェル構造が形成されず一部にFeの粗大化部分が形成され、ナノコンポジット磁石として硬軟磁性相分率(FePd/Fe比率)を単一の複合粒子上で制御することが不可能である。
従って、本発明の目的は、水素還元熱処理することによってFeの粗大化部分の形成が抑制されて個々の粒子が孤立したFePd/Fe磁性ナノ粒子を与え得るPd/Feナノ粒子、その製造方法、およびFeの粗大化部分の形成が抑制されて個々の粒子が孤立しているFePd/Fe磁性ナノ粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、Pdナノ粒子を界面活性剤、Feの塩及び還元剤の存在下に通常の条件で加熱処理したのでは、Pdナノ粒子表面にFeナノ粒子が最大で3個付着したものが形成され、これを水素還元熱処理してもFeの粗大化部分が形成するなどして均一なFePd/Fe磁性ナノ粒子が得られないことを見出し、さらに検討を行った結果、本発明を完成した。
本発明は、TEM像、HAADF像およびEDXによる元素分析の少なくとも1つで評価してコア/シェル構造が確認できるPdコア相とFeシェル相とからなり、EDXにより求めた平均のPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が50atm%以下であるコア/シェル型のPd/Feナノ粒子に関する。
【0008】
また、本発明は、Pdナノ粒子、Fe前駆物質、界面活性剤、溶媒およびヒドラジンからなり、Pdナノ粒子とFe前駆物質とのPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%である混合物を180℃以上250℃未満の温度で加熱処理することを特徴とする前記のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子の製造方法に関する。
また、本発明は、Pdナノ粒子、Feナノ粒子、溶媒および界面活性剤からなり、Pdナノ粒子とFeナノ粒子とのPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%である混合物を200℃以上で300℃未満の温度で加熱処理することを特徴とする前記のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、前記のいずれかの製造方法によって得られる前記のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子に関する。
さらに、本発明は、前記のコア/シェル型Pd/Feナノ粒子を水素還元熱処理してなるFePd/Feナノ粒子に関する。
本発明においてEDXにより求めた平均のPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]とは、任意の複数の粒子についての後述の実施例の欄に詳細に説明される測定法に基づいてEDXにより求めたPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]を意味する。
前記の任意の粒子とは、後述の実施例の欄に詳細に説明されるTEM、HAADFの測定において、一般的なサンプリングにより1回の測定で得られた画像に示される範囲のうちの不作為に選択した粒子という意味で理解されるべきである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水素還元熱処理することによってFeの粗大化部分の形成が抑制されて個々の粒子が孤立したFePd/Fe磁性ナノ粒子を与え得るPd/Feナノ粒子を得ることができる。
また、本発明によれば、水素還元熱処理することによってFeの粗大化部分の形成が抑制されて個々の粒子が孤立したFePd/Fe磁性ナノ粒子を与え得るPd/Feナノ粒子を容易に得ることができる。
さらに、本発明によれば、Feの粗大化部分の形成が抑制されて個々の粒子が孤立していて硬/軟磁性相を持つナノコンポジット磁石を与え得るFePd/Fe磁性ナノ粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子の1つの実施態様の粒子についてのTEM写真の写しである。
【図2】図2は、本発明のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子の1つの実施態様の粒子についてのHAADF写真の写しおよびEDXによる元素分析の測定結果である。
【図3】図3は、本発明のコア/シェル型のFePd/Feナノ粒子の1つの実施態様の粒子についてのTEM写真の写しである。
【図4】図4は、本発明のFePd/Feナノ粒子の1つの実施態様の粒子についてのHAADF写真の写しおよびEDXによる元素分析の測定結果である。
【0012】
【図5】図5は、本発明のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子から本発明のFePd/Feナノ粒子に変化する概念図である。
【図6】図6は、従来のPd/Fe複合ナノ粒子およびこの複合粒子を水素還元熱処理して得られた従来のFePd/Fe複合ナノの粒子各々のTEM写真の写しとそれらの部分拡大概念図である。
【図7】図7は、本発明の製造方法の1つの実施態様で使用したPDナノ粒子のTEM写真の写しである。
【図8】図8は、本発明の製造方法の1つの実施態様で得られたコア/シェル型のPd/Feナノ粒子のTEM写真の写しである。
【図9】図9は、本発明のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子の1つの実施態様の粒子についての結晶構造解析結果を示すグラフである。
【0013】
【図10】図10は、本発明の製造方法の他の実施態様で使用したFeナノ粒子のTEM写真の写しである。
【図11】図11は、本発明の製造方法の他の実施態様で使用したPDナノ粒子のTEM写真の写しである。
【図12】図12は、実施例2で得られたコア/シェル型Pd/Feナノ粒子のTEM写真の写しである。
【図13】図13は、比較例4で得られたナノ粒子のTEM写真の写しである。
【図14】図14は、比較例5で得られたナノ粒子のTEM写真の写しである。
【図15】図15は、比較例6で得られたナノ粒子のTEM写真の写しである。
【図16】図16は、実施例3で得られたFePd/Feナノ粒子の磁気特性評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のPd/Feナノ粒子は、TEM像、HAADF像およびEDXによる元素分析の少なくとも1つ、好適にはTEM像、HAADF像およびEDXによる元素分析で評価してコア/シェル構造が確認できるPdコア相とFeシェル相とからなるコア/シェル型のナノ粒子である。本発明のPd/Feナノ粒子は、EDXにより求めた平均のPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が50atm%以下、好適には5〜50atm%である。前記のPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が50atm%より大きいとPd/Feナノ粒子を水素還元熱処理して得られるFePd/Feナノ粒子から硬/軟磁性相を持つナノコンポジット磁石に得ることが困難となる。また前記のPd組成比率が余りに少ないとコア/シェル構造をとり難くなる。
【0015】
図1のTEM像および図2のHAADF像を参照すると、本発明のPd/Feナノ粒子は重い元素と軽い元素とでコントラストがついた像(重い元素に白いコントラストがつく)を示しコア/シェル構造が確認される。さらに、図2のHAADF像およびEDXによる元素分析結果により、任意の1つの粒子の中心部の位置である位置1ではFe:92.8atm%、Pd:7.2atm%の金属組成比率で、同じ粒子の周辺部(シェル部)の位置である位置2ではFe:100atm%、Pd:0atm%の金属組成比率であることから、Pdコア/Feシェル型ナノ粒子であることが確認される。また、複数のナノ粒子を含む領域3の平均のEDXによる元素分析結果により、Fe:93.1atm%、Pd:6.2atm%の金属組成比率である。
本発明のナノ粒子のシェル相のFe成分の組成については、後述の実施例の欄に測定法が詳細に説明されるXRDによる結晶構造解析結果を示すグラフから、Feシェルであることが確認される。
【0016】
そして、図3のTEM像を参照すると、本発明のFePd/Feナノ粒子はFeの粗大化部分の形成が抑制されていて(図3では粗大化は確認されない)、各ナノ粒子が孤立していることが確認される。そして、図4のHAADF像およびFDXによる元素分析結果を参照すると、任意の1つの粒子の位置1ではFe:93.7atm%、Pd:6.3atm%の金属組成比率で、隣の粒子の位置2ではFe:97.9atm%、Pd:2.1atm%の金属組成比率であり、Fe粗大化が生じていないことが確認される。
そして、本発明のPdコア/Feシェル型ナノ粒子を出発原料として水素還元熱処理することにより、図5に示すようにコア/シェル構造のFePd/Feナノ粒子に変化させ得ると考えられる。
【0017】
これに対して、従来法によって得られるPd/Feナノ粒子では、図6の左に示すようにPdコア/Feシェル型構造ではなく、Pdナノ粒子の周囲に最大3個のFeナノ粒子が一体化した構造体の複合粒子が確認される。このような構造体が生成する理由についてはPdナノ粒子が多結晶体である面方向に優先的にFeが成長するためであると考えられる。そして、このような不均一な構造体を有する従来のナノ粒子ではPdナノ粒子とFeナノ粒子とが隣接していない部分が存在するため、水素還元雰囲気下に熱処理すると、図6の右側の図に示すように一部Feナノ粒子が粗大化した磁性粒子が得られる。これは水素還元熱処理時に相互拡散よりもFeの表面拡散が優位に起こりFe粒子が粗大化しやすいためであると考えられる。このような従来の複合Pd/Feナノ粒子を出発原料として水素還元雰囲気下で熱処理すると各粒子が孤立したFeFe/Pdナノコンポジット粒子ではなく、複合粒子同士が融合した集合組織が得られる。
【0018】
また、従来法で得られるPd/Feナノ粒子では、Pd粒子の粒子径が固定されていて、Feナノ粒子を担持すると、現状では毎回同じ組成となる。このため、得られるFePd/Feナノ粒子でもFe:Pd=8:2の固定した金属組成比率を有するものが得られ、このようなFePd/Feナノ粒子を出発原料として用いると硬軟磁性相分率(FePd/Fe比率)を制御したナノコンポジット磁石を得ることができない。
【0019】
本発明の前記Pd/Feナノ粒子は、例えば以下の方法によって得ることができる。
第1の方法としては、Pdナノ粒子、Fe前駆物質、界面活性剤、溶媒およびヒドラジンを含み、Pd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%である混合物を180℃以上250℃未満の温度で加熱処理する方法が挙げられる。
第2の方法としては、Pdナノ粒子、Feナノ粒子、溶媒および界面活性剤を含み、Pdナノ粒子とFeナノ粒子とのPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%である混合物を200℃以上300℃未満の温度で加熱処理する方法が挙げられる。
【0020】
前記の第1の方法におけるPdナノ粒子としては、粒径が1〜100nm、好適には1〜10nmの粒子が挙げられる。前記のPdナノ粒子はPd先駆体物質、例えばPd塩を溶媒中、界面活性剤の存在下に還元剤で180℃以上250℃未満の温度で例えば10分間以上加熱処理して還元することによってPd粒子を析出させて形成することができる。析出したPdナノ粒子は通常精製して使用される。
【0021】
前記のPdナノ粒子を得るためのPd前駆物質としては、Pdの有機配位子との金属錯体、例えばアセチルアセトナー塩や、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、テトラアンミンパラジウム、ジクロロジアミンパラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、ジクロロテトラアンミンパラジウム、水酸化アンミンパラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム等が挙げられる。
【0022】
また、前記のPdナノ粒子を得るための還元剤として、一価アルコール、ポリオール、アミン系物質、ジフェニルシランを用いることが好ましい。一価アルコールとしては特に制限されないが例えば1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール等、ポリオールとしては1,2−オクタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール等の比較的高い沸点を有するものを用いることができる。また、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、テトラブチルアンモニウムボロンハイドレイト、ジボランなども挙げられる。還元剤の量は通常Pd前駆物質の等倍モル以上の量であることが好ましい。
【0023】
また、Pdナノ粒子を得るための界面活性剤としては、オレイルアミン、オレイン酸、TOP(トリオクチルリン酸)、トリブチルリン酸、テトラエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸、ミリスチル酸、ドデカンチオール、ドデシルアミン等が挙げられる。前記界面活性剤の添加量はPd前駆物質の5倍モル以上とすることが好ましい。
【0024】
また、前記のPdナノ粒子を得るための溶媒としては、界面活性剤としてTOP、トリブチルリン酸、オレイルアミン、オレイン酸、又はテトラエチレングリコールを用いる場合、これらは溶媒としても機能するが必要に応じて溶媒を添加してもよい。このような溶媒として、沸点の高い且つ安定なものが好ましく、例えば1−オクタノール、オクチルエーテル、オクタデセン、トリフェニルメタン等が挙げられる。
【0025】
前記の第1の方法におけるFe前駆物質としては、特に制限はなく、例えばFeの有機配位子との金属錯体、例えばアセチルアセトナート塩、例えば鉄(II)アセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート等、フェロセン[ビス(シクロペンタジエニル)鉄(II)]や、酢酸鉄、塩化鉄、水酸化鉄等が挙げられる。Fe前駆物質の添加量はFeがPdの等倍〜19倍モル程度、特に等倍〜4倍モル程度とすることが好ましい。
【0026】
前記の第1の方法における界面活性剤としては、オレイルアミン、オレイン酸、TOP(トリオクチルリン酸)、トリブチルリン酸、テトラエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸、ミリスチル酸、ドデカンチオール、ドデシルアミン等が挙げられる。前記界面活性剤の添加量はFe前駆物質の等倍モル以上とすることが好ましい。
【0027】
前記の第1の方法における溶媒としては、界面活性剤としてTOP、トリブチルリン酸、オレイルアミン、オレイン酸、又はテトラエチレングリコールを用いる場合これらは溶媒としても機能するが、必要に応じて溶媒を添加してもよい。このような溶媒として、沸点の高い且つ安定なものが好ましく、例えば1−オクタノール、オクチルエーテル、オクタデセン、トリフェニルメタン等が挙げられる。
【0028】
前記の第1の方法においては、還元剤としてヒドラジンを用いることが必要である。それ以外の還元剤を用いるとFe前駆物質からFeナノ粒子が単独で生成してしまい、コアシェル構造にはならない。還元剤であるヒドラジンの添加量はFe前駆物質の等モル倍以上、特にFe前駆物質の等倍モル〜10倍モル、その中でも等倍モル〜5倍モル程度であることが好ましい。
【0029】
本発明の前記第1の方法において、前記のPdナノ粒子、Fe前駆物質、界面活性剤、溶媒およびヒドラジンを含み、Pdナノ粒子とFe前駆物質とがPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%となる割合で混合した混合物を180℃以上250℃未満の温度、好適には180〜200℃の温度で、好適には10分間以上、特に30分間以上、そして30分〜10時間、その中でも1〜5時間加熱処理することによって、コア/シェル型のPd/Feナノ粒子を生成させることができる。前記のPd組成比率が10atm%以下ではFeナノ粒子が単独で生成してしまいナノ粒子がPd/Feのコア/シェル構造をとり難く、Pd組成比率が50atm%より大きいとPd/Feナノ粒子を水素還元熱処理してもFePd/Feナノ粒子から硬/軟磁性相を持つナノコンポジット磁石になり得ない。また、前記の加熱処理温度が前記の範囲外であるとシェル構造を有する粒子が得られない。また、還元剤としてヒドラジン以外の還元剤を用いてもシェル構造を有する粒子が得られない。
前記の加熱処理後、反応混合物を冷却、分離精製してナノ粒子を得ることができる。
【0030】
本発明の前記の第2の方法において、Pdナノ粒子とFeナノ粒子と、溶媒および界面活性剤を含み、Pdナノ粒子とFeナノ粒子とのPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%となる割合で混合した混合物を加熱処理する。
前記第2の方法におけるPdナノ粒子としては、前記第1の方法におけるPdナノ粒子と同様に粒径が1〜100nm、好適には1〜10nmの粒子が挙げられる。前記第2の方法におけるPdナノ粒子は、前記の第1の方法と同様のPd先駆体物質、溶媒、界面活性剤、還元剤、処理条件を用いて形成することができる。
前記第2の方法においては、Fe成分としてFeナノ粒子が使用される。Feナノ粒子としては、粒径が1〜100nm、好適には2〜20nmの粒子が挙げられる。
【0031】
前記第2の方法におけるFeナノ粒子は、Fe前駆物質、界面活性剤、溶媒および還元剤を含む混合物を150〜250℃、好適には180〜200℃の温度で、好適には10分間以上、特に30分〜10時間、その中でも1〜5時間加熱処理することによって生成させることができる。前記の加熱処理後、反応混合物を冷却、分離精製してFeナノ粒子を得ることができる。
【0032】
前記のFeナノ粒子を得るためのFe先駆体物質としては、特に制限はなく、例えばFeの有機配位子との金属錯体、例えばアセチルアセトナート塩、例えば鉄(II)アセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート等、フェロセン[ビス(シクロペンタジエニル)鉄(II)]や、酢酸鉄、塩化鉄、硫化鉄、水酸化鉄等が挙げられる。
【0033】
また、Feナノ粒子を得るための還元剤として、一価アルコール、ポリオール、アミン系物質、ジフェニルシランを用いることが好ましい。一価アルコールとしては特に制限されないが例えば1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール等、ポリオールとしては1,2−オクタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール等の比較的高い沸点を有するものを用いることができる。また、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、テトラブチルアンモニウムボロンハイドレイト、ジボランなども挙げられる。還元剤の量は通常Fe先駆物質の等倍モル以上の量であることが好ましい。
【0034】
また、前記のFeナノ粒子を得るための界面活性剤としては、オレイルアミン、オレイン酸、TOP(トリオクチルリン酸)、トリブチルリン酸、テトラエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸、ミリスチル酸、ドデカンチオール、ドデシルアミン等が挙げられる。前記界面活性剤の添加量はFe前駆物質の倍モル以上とすることが好ましい。
【0035】
また、前記のFeナノ粒子を得るための溶媒としては、界面活性剤としてTOP、トリブチルリン酸、オレイルアミン、オレイン酸、又はテトラエチレングリコールを用いる場合これらは溶媒としても機能するが、必要に応じて溶媒を添加してもよい。このような溶媒として、沸点の高い且つ安定なものが好ましく、例えば1−オクタノール、オクチルエーテル、オクタデセン、トリフェニルメタン等が挙げられる。
【0036】
本発明の前記第2の方法において、Pdナノ粒子、Feナノ粒子、溶媒および界面活性剤を含みPdナノ粒子とFeナノ粒子とのPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%である混合物を200℃以上で300℃未満の温度、好適には250℃以上で300℃未満の温度で、好適には10分間以上、特に10分〜10時間、その中でも10分間〜5時間加熱処理することによって、コア/シェル型のPd/Feナノ粒子を生成させることができる。前記のPd組成比率が10atm%以下ではPd/Feナノ粒子がコア/シェル構造をとり難く、Pd組成比率が50atm%より大きいとPd/Feナノ粒子を水素還元熱処理して得られるFePd/Feナノ粒子から硬/軟磁性相を持つナノコンポジット磁石に得ることができない。また、前記の加熱処理温度が200℃未満ではシェル構造を有する粒子が得られず、300℃以上では得られるPd/Feナノ粒子の粗大化が始まるので適当ではない。
前記の加熱処理後、反応混合物を冷却、分離精製してコア/シェル型のPd/Feナノ粒子を得ることができる。
【0037】
本発明のFePd/Feナノ粒子は、前記のようにして得られるPd/Feナノ粒子を水素還元熱処理することによって得られる。
前記の水素還元熱処理は、450〜550℃の温度で30分間以上、特に1時間以上行うことが好ましい。
前記の水素還元熱処理によって、Feの粗大化部分の形成が抑制されて個々の粒子が孤立していて粒径制御されたFePd/Feナノ粒子、特にFePdコア/Feシェル構造のナノ粒子を得ることができる。
【0038】
本発明によって得られるFePd/Feナノ粒子は、熱処理後も孤立したFePd/Feナノコンポジット粒子であり、交換相互作用長内に常にFe相が存在する、硬軟磁性相のナノコンポジット構造を制御した構造体の作製を可能とし得る。
【実施例】
【0039】
以下、この発明の実施例を示す。
以下の実施例において、Pd/Feナノ粒子およびFePd/Feナノ粒子の核試料についての評価法は以下に示す方法によって行った。なお、以下の測定法は例示であって、他の同等の装置、条件を用いて測定し得る。
以下の測定において、粒子についてコア/シェル構造が確認されるとは、任意の1つの粒子について以下の測定法によってコア/シェル構造が確認されるということを示す。
1.TEM測定
任意の複数の粒子の二次元的配列を作って試料とし、TEM(Transmission Electron Microscope 透過型電子顕微鏡)写真を撮った。TEMの条件は以下の通りである。
装置の機種:FEI製TECNAI G2 F30
加速電圧:300kV
2.HAADF測定
任意の複数の粒子の二次元的配列を作って試料とし、HAADF(High-angle Annular Dark Field ハーディフ:高角度環状暗視野検出器)写真を撮った。HAADFの条件は以下の通りである。
装置の機種:FEI製TECNAI G2 F30
【0040】
3.EDXによる元素分析
HAADFで撮った写真画像の任意の1つの粒子の特定のポイント(位置)および複数の粒子について、EDX(Energy Dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer エネルギー分散型蛍光X線分析装置)により元素分析を行った。この測定法は半定量分析である。EDXの条件は以下の通りである。
装置の機種:FEI製TECNAI G2 F30
4.結晶構造解析
任意の粒子を試料とし、粉末XRD(X-Ray Diffractometer 粉末X線回折装置)により結晶構造の確認を行った。粉末XRDの条件は以下の通りである。
装置の機種:Rigaku製RINT−2000
5.磁気特性評価
FePd/Feナノ粒子について、VSM(Vibrating Sample Magnetometer 試料振動型磁力計)を用いて磁気特性評価を行った。VSMの条件は以下の通りである。
装置の機種:Lake shore製7410型
【0041】
実施例1
Pd(acac)0.17mmol、TOP1.1mmolおよびオレイルアミン1.1mmolの混合物を250℃までゆっくり昇温し、250℃で30分間保持することによって加熱処理した後、精製して5nmPdナノ粒子を得た。
ヘキサン溶液にして保存しておいたこのTOPおよびオレイルアミン保護単分散5nmPdナノ粒子0.17mmolを三口フラスコに入れ、溶媒を留去した。その中にFe(acac)0.34mmol、オレイン酸とオレイルアミンをそれぞれ1.1mmol、還元剤として無水ヒドラジン0.51mmolを加えた。反応容器内に攪拌子を入れマグネチックスターラーを用いて攪拌し、マントルヒーターを用いて加熱した。溶液中の不純物や溶存酸素を除くために反応容器内を減圧状態にし、溶液を攪拌しながら110℃まで加熱し1時間保持した。その後、反応容器内を窒素置換し、昇温速度2℃/分で200℃まで昇温させ、200℃で2時間加熱処理して反応させた。
加熱処理後、室温まで放冷し、オレイン酸200μLを加え、室温で30分間攪拌した後、エタノールとヘキサンとの混合溶媒(1:1)で精製して、ナノ粒子を得た。
【0042】
用いたPdナノ粒子について、TEM観察を行った結果を図7に示す。また、得られたPd/Feナノ粒子についてXRD測定を行った。TEM写真のコピーを図8に、XRD測定結果を図9に各々示す。
図8の結果はPdナノ粒子の周りをシェルで被覆されている粒子であることを示している。これは無水ヒドラジンにより、Pd粒子表面でFe(acac)の還元反応が進行したためと考えられる。
また、図9のXRD測定結果から、Pd粒子のピークの他にFeのピークが検出され、Pd粒子の周りに生成しているシェルの結晶構造はFeであることが確認され、Pdコア相/Feシェル相のコア/シェル構造であることが確認された。
【0043】
比較例1〜2
加熱処理温度を200℃から150℃に変えた(比較例1)か、250℃に変えた(比較例2)他は実施例1と同様に実施した。
得られたナノ粒子について評価した結果、いずれもPdナノ粒子の周りをシェルで被覆した粒子は確認されなかった。
これは、150℃では温度が低すぎて無水ヒドラジンによる還元反応が起こらず、250℃では温度が高すぎて反応が激しくなりFe成分がPd粒子表面ではなく単独で酸化鉄粒子になったと考えられる。
【0044】
比較例3
還元剤として無水ヒドラジンに代えて1,2−ヘキサデカンジオール0.68mmolを用いた他は実施例1と同様に実施した。
得られたナノ粒子について評価した結果、Pdナノ粒子の周りをシェルで被覆した粒子は確認されなかった。
【0045】
実施例2
オレイン酸、オレイルアミン保護のFeナノ粒子と、Fe:Pd=81:19(atm比)の割合となる量のPdナノ粒子とオレイルアミン10mLとを真空中、70℃で15分間攪拌し、窒素置換し、285℃で30分間攪拌して加熱処理た後、室温まで放冷し、オレイン酸200μLを加え、室温で30分間攪拌した後、エタノールとヘキサンとの混合溶媒(1:1)で精製して、ナノ粒子を得た。
用いたFeナノ粒子およびPdナノ粒子について、TEM観察を行った結果を各々図10および図11に示す。また、得られたナノ粒子についてTEM測定、HAADF測定およびEDXによる元素分析測定を行った。TEMの結果を図1に、HAADFおよびEDX測定結果を図2に各々示す。
図1、図2の結果から、いずれもPdナノ粒子の周りをシェルで被覆されている粒子であることが確認され、Feの粗大化部分の形成のないPdコア相/Feシェル相のコア/シェル構造であることが確認された。
【0046】
実施例3
オレイン酸、オレイルアミン保護のFeナノ粒子とPdナノ粒子との割合をFe:Pd=6:1(atm比)に変え、温度を280℃に変えた他は実施例2と同様に実施した。
得られたナノ粒子についてTEM測定を行った結果を図12に示す。
図12の結果から、Pdナノ粒子の周りをシェルで被覆されている粒子であることが確認され、Feの粗大化部分の形成のないPdコア相/Feシェル相のコア/シェル構造であることが確認された。
【0047】
比較例4
オレイン酸、オレイルアミン保護のFeナノ粒子とPdナノ粒子との割合をFe:Pd=10:1(atm比)[Pd/(Pd+Fe)=9at%]に変えた他は実施例2と同様に実施した。
得られたナノ粒子についてTEM測定を行った結果を図13に示す。
図13の結果から、Pdナノ粒子とFeナノ粒子とが別々に析出していることが確認された。
【0048】
比較例5
オレイン酸、オレイルアミン保護のFeナノ粒子とPdナノ粒子との割合をFe:Pd=10:1(atm比)[Pd/(Pd+Fe)=9atm%]に変え、加熱時間を120分間に変えた他は実施例2と同様に実施した。
得られたナノ粒子についてTEM測定を行った結果を図14に示す。
図14の結果から、Pdナノ粒子とFeナノ粒子とが別々に析出していることが確認された。
【0049】
比較例6
オレイン酸、オレイルアミン保護のFeナノ粒子とPdナノ粒子との割合をFe:Pd=6:1(atm比)に変え、加熱温度を300℃に変えた他は実施例2と同様に実施した。
得られたナノ粒子についてTEM測定を行った結果を図15に示す。
図15の結果から、粒子の粗大化がわずかに確認された。
【0050】
実施例4
実施例2で得られたコア/シェル型のナノ粒子を水素還元雰囲気下、500℃で1時間熱処理を行った。
得られたナノ粒子について、TEM、HAADFおよびEDXの測定を行った。TEM測定結果を図3に、HAADFおよびEDXの測定結果を図4に示す。
また、得られたナノ粒子についてVSMにて磁気特性を評価した。結果を図13に示す。
【0051】
これらの結果から、図3の白くコントラストのついた部分にパラジウムが多く含まれていることが分かる。図4のHAADF像から、コア粒子径が熱処理前後で3nmから5nm程度に増加していることから、コアが熱処理によりPdナノ粒子からFePdに相変態していると考えられる。
以上の結果は、Pd/Feのコア/シェル粒子を出発原料とすると、水素還元熱処理して硬軟磁性相がナノオーダーで複合化した、孤立したPdFeコア/Feシェルのナノコンポジット構造体を与える、Feの粗大化部分の形成が認められず個々の粒子が、孤立したPdFeコア/Feシェルのナノ粒子が得られたことを示している。
また、磁気特性評価結果から、保磁力は0.5kOe程度であった。この結果は、実施例で得られたナノ粒子のFePd相分率が低かったため保磁力は小さいが、コアが硬磁性相(FePd)になっていることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によって得られるFePd/Feナノ粒子は、熱処理後も孤立したFePd/Feナノコンポジット粒子であり、交換相互作用長内に常にFe相が存在する、硬軟磁性相のナノコンポジット構造を制御した構造体の作製を可能とし得る。
また、本発明によって前記のFePd/Feナノ粒子を容易に与えPd/Feコアシェル構造のナノ粒子を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TEM像、HAADF像およびEDXによる元素分析の少なくとも1つで評価してコア/シェル構造が確認できるPdコア相とFeシェル相とからなり、EDXにより求めた平均のPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が50atm%以下であるコア/シェル型のPd/Feナノ粒子。
【請求項2】
Pdナノ粒子、Fe前駆物質、界面活性剤、溶媒およびヒドラジンを含み、Pdナノ粒子とFe前駆物質とのPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%である混合物を180℃以上250℃未満の温度で加熱処理することを特徴とする請求項1に記載のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
Pdナノ粒子、Feナノ粒子、溶媒および界面活性剤を含み、Pdナノ粒子とFeナノ粒子とのPd組成比率[Pd/(Pd+Fe)]が10〜50atm%である混合物を200℃以上で300℃未満の温度で加熱処理することを特徴とする請求項1に記載のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のコア/シェル型のPd/Feナノ粒子を水素還元熱処理してなるFePd/Feナノ粒子。
【請求項5】
任意の粒子についてTEM像、HAADF像およびEDXによる元素分析の少なくとも1つで評価してコア/シェル構造が確認できる請求項4に記載のFePd/Feナノ粒子。

【図9】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−189721(P2010−189721A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35685(P2009−35685)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】