説明

コイル内蔵基板の製造方法

【課題】コイル内蔵基板の表面のうねりを抑制することができるコイル内蔵基板の製造方法を提供する。
【解決手段】未焼成積層体は、積層された未焼成セラミック基材層と、積層方向から透視すると互いに重なり合う未焼成コイル要素と、未焼成セラミック基材層を貫通して未焼成コイル要素同士を接続する未焼成層間接続導体と、未焼成セラミック基材層が焼結する焼結温度では消失する空隙部形成用材料を用いて未焼成セラミック基材層と未焼成コイル要素との間に形成された消失層とを備える。未焼成積層体を焼成するとき、(i)未焼成セラミック基材層が収縮を開始する収縮開始温度まで昇温する第1期間に、消失層の空隙部形成用材料の一部のみを消失させ、(ii)さらに昇温して未焼成セラミック基材層の収縮を開始させた第2期間にも、消失層の空隙部形成用材料の消失を継続させ、空隙部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル内蔵基板の製造方法に関し、詳しくは、積層されたセラミック基材層の間にコイル要素を備えるコイル内蔵基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、未焼成のセラミック基材層を積層、圧着した未焼成の積層体を焼成して製造されたセラミック多層基板について、種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、未焼成のセラミック基材層を未焼成のセラミック補助層で挟み込んだ未焼成の積層体を同時に焼成してセラミック多層基板を製造する場合に、焼結後のセラミック基材層の線膨張係数α1と、焼結後のセラミック補助層の線膨張係数α2との差α1−α2を0.2〜5ppm/℃となるようにしておくことで、焼結したセラミック多層基板の機械的強度が増すことが開示されている。
【0004】
特許文献2には、積層されたセラミック基材層の間に内部電極を備えるセラミック多層基板において、内部電極となる導電体ペーストに接する収縮抑制用グリーン層を設けた未焼成の積層体を焼成し、焼成の際に導電性ペーストの面方向の収縮を収縮抑制用グリーン層によって抑制し、導電性ペーストの厚み方向の収縮を、周囲のセラミックグリーンシートの厚み方向の収縮度より大きくすることにより、基板表面のうねりを低減することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、フェライト基板用の未焼成の積層体を焼成する際に、炉内温度を段階的に昇温し、脱バインダ過程後に本焼過程を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2007/145189号
【特許文献2】特開2001−257473号公報
【特許文献3】特開2010−245088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セラミック基材層の間にコイル要素を備えているコイル内蔵基板は、積層方向から透視するとコイル要素が互いに重なり合うように配置されている。このようなコイル内蔵基板を製造する場合、未焼成のコイル要素が形成されたセラミックグリーンシートを積層すると、未焼成のコイル要素が重なり合う部分が他の部分よりも隆起する。この状態で圧下し、セラミックグリーンシートを圧着して、表面を平らにした未焼成の積層体を形成し、焼成すると、焼成後の積層体、すなわちコイル内蔵基板の表面にうねりが発生する。
【0008】
コイル内蔵基板には、コイル内蔵基板をマザーボード等の他の回路基板に実装するための端子電極が形成されている。また、コイル内蔵基板自体に電子部品が実装される場合、コイル内蔵基板には、ランド電極が形成されている。コイル内蔵基板の表面がうねっていると、コイル内蔵基板を他の回路基板に実装する場合や、コイル内蔵基板に電子部品を実装する場合に、不都合が生じる。
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑み、コイル内蔵基板の表面のうねりを抑制することができるコイル内蔵基板の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成したコイル内蔵基板の製造方法を提供する。
【0011】
コイル内蔵基板の製造方法は、第1乃至第3の工程を備える。前記第1の工程において、(a)互いに積層された複数の未焼成セラミック基材層と、(b)互いに隣接する前記未焼成セラミック基材層の異なる組の当該未焼成セラミック基材層間において、前記未焼成セラミック基材層が積層された積層方向に延在する仮想中心軸のまわりに形成され、前記積層方向から透視すると互いに重なり合う複数の未焼成コイル要素と、(c)前記未焼成セラミック基材層を貫通して前記未焼成コイル要素同士を接続する未焼成層間接続導体と、(d)前記未焼成セラミック基材層と少なくとも一つの前記未焼成コイル要素との間に、前記未焼成セラミック基材層が焼結する焼結温度では消失する空隙部形成用材料を用いて形成された少なくとも一つの消失層とを備えた未焼成積層体を形成する。前記第2の工程において、前記未焼成積層体を焼成して、前記未焼成セラミック基材層と前記未焼成コイル要素と前記未焼成層間接続導体とを焼結させるとともに、前記消失層の前記空隙部形成用材料を消失させて空隙部を形成する。前記第3の工程において、前記未焼成積層体の焼成により形成された焼結済み積層体を分割して、1個又は2個以上のコイル内蔵基板を取り出す。前記第2の工程において、前記消失層の前記空隙部形成用材料は、前記未焼成セラミック基材層が収縮を開始するときには一部が残るようにし、該一部を、前記未焼成セラミック基材層の収縮に伴って徐々に消失させて、前記空隙部を形成する。
【0012】
上記方法によれば、積層方向にコイル要素が重なり合う部分に空隙部が形成された未焼成積層体を焼成することにより、焼結済み積層体の表面のうねりを抑制し、焼結済み積層体から形成されるコイル内蔵基板の表面のうねりを抑制できる。また、空隙部により、焼結後のコイル要素の残留応力が抑制され、コイルのインダクタンス値の増加、効率の向上が得られる。
【0013】
好ましくは、前記未焼成積層体は、前記未焼成コイル要素の一方の主面と前記未焼成セラミック基材層との間に前記消失層が形成され、当該未焼成コイル要素の他方の主面は他の前記未焼成セラミック基材層と接している。
【0014】
この場合、コイル要素の片側のみに空隙部が形成される。コイル要素の両側に空隙部が形成される場合と比べると、基板強度の低下を抑制することができ、焼結済み積層体を分割するとき、基板にクラックが発生しにくい。
【0015】
好ましくは、前記空隙部の前記積層方向の厚さは25μm以下である。
【0016】
この場合、基板の強度を確保しながら、基板のうねりを抑制することができる。
【0017】
好ましくは、前記未焼成コイル要素の焼結後の前記積層方向の厚さは1μm以上、25μm以下である。
【0018】
この場合、コイルの特性を確保しながら、基板のうねりを抑制することができる。
【0019】
また、本発明は、以下のように構成されたコイル内蔵基板を提供する。
【0020】
コイル内蔵基板は、(a)互いに積層された複数のセラミック基材層と、(b)互いに隣接する前記セラミック基材層の異なる組の当該セラミック基材層間において、前記セラミック基材層が積層された積層方向に延在する仮想中心軸のまわりに形成され、前記積層方向から透視すると互いに重なり合う複数のコイル要素と、(c)前記セラミック基材層を貫通して前記コイル要素同士を接続する層間接続導体とを備える。少なくとも一つの前記コイル要素の一方の主面と前記セラミック基材層との間に空隙部が形成され、当該コイル要素の他方の主面は他の前記セラミック基材層と接する。前記空隙部の前記積層方向の厚さは25μm以下である。前記コイル要素の前記積層方向の厚さは1μm以上、25μm以下である。
【0021】
上記構成によれば、コイル要素とセラミック基材層とが重なり合った部分に空隙部を設けることにより、セラミック基材層のみが重なり合った部分との厚みの差を小さくして、コイル内蔵基板の表面のうねりを抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コイル内蔵基板の表面のうねりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】コイル内蔵基板の断面図である。(実施例1)
【図2】コイル内蔵基板の断面図である。(実施例2)
【図3】コイル内蔵基板の断面図である。(実施例3)
【図4】コイル内蔵基板の断面図である。(実施例4)
【図5】コイル内蔵基板の断面図である。(実施例5)
【図6】コイル内蔵基板の断面図である。(実施例6)
【図7】セラミックグリーンシートの焼成収縮を示すグラフである。(実施例1)
【図8】カーボンペーストのTG曲線及びDTA曲線を示すグラフである。(実施例1)
【図9】コイル内蔵基板の断面図である。(説明例)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図9を参照しながら説明する。
【0025】
<実施例1> 実施例1のコイル内蔵基板について、図1、図6及び図7を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、コイル内蔵基板10の主要な構成部分のみを模式的に図示した断面図である。図1に示すように、コイル内蔵基板10は、鎖線11で示すように、複数個分の基板本体12となる部分を含む集合基板がブレイク溝12x,12yに沿って切断され分割された個片である。
【0027】
基板本体12は、図1において上から順に、第1の非磁性体フェライト層16a、第1の磁性体フェライト層14a、中間非磁性体フェライト層16c、第2の磁性体フェライト層14b、第2の非磁性体フェライト層16bが積層されている。第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bは、磁性体セラミック材料、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニッケル及び酸化銅を主成分とする磁性体フェライトとセラミック材料を含む。第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bと中間非磁性体フェライト層16cとは、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛及び酸化銅を主成分とする非磁性体フェライトとセラミック材料を含む。基板本体12の各層14a,14b,16a,16b,16cは、1層又は積層された2層以上のセラミック材料を含むセラミック基材層からなる。
【0028】
図示していないが、基板本体12の下面12tには、コイル内蔵基板10をマザーボード等の他の回路基板に実装するための端子電極が形成されている。基板本体12の上面12sに、コイル内蔵基板10に電子部品を実装するためのランド電極を形成してもよい。
【0029】
基板本体12の内部には、コイル30と、不図示の層間接続導体及び面内接続導体が形成されている。層間接続導体は、セラミック基材層を貫通する導体である。面内接続導体は隣接するセラミック基材層の間に形成された導体である。層間接続導体及び面内接続導体は、コイル30と、基板本体12の表面12s,12tに形成された端子電極やランド電極とを接続したり、基板本体12の内部に抵抗やコンデンサなどの回路素子を形成したりする。
【0030】
コイル30は、第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bと中間非磁性体フェライト層16cの内部に形成されているコイル要素32を含む。コイル要素32は、互いに隣接するセラミック基材層の異なる組の当該セラミック基材層間に形成されている。コイル要素32は、基板本体12の各層14a,14b,16a,16b,16cが積層された積層方向(図1において上下方向)から基板本体12を透視すると、積層方向に延在する仮想中心軸31のまわりに略C字形状にそれぞれ形成され、環状の領域内において互いに重なり合っている。鎖線32sは、積層方向から透視したときにコイル要素32が互いに重なり合う領域の内周の位置を示している。鎖線32tは、積層方向から透視したときにコイル要素32が互いに重なり合う領域の外周の位置を示している。
【0031】
コイル30は、積層方向に隣接するコイル要素32の端部同士が不図示の層間接続導体を介して互いに接続されている。
【0032】
基板本体12の内部には、一つのコイル要素32xに接する空隙部40が形成されている。空隙部40内には、コイル要素32xの上面32yが露出しており、コイル要素32xの下面32zはセラミック基材層に接している。積層方向から透視すると、空隙部40は、コイル要素32が互いに重なり合う環状の領域に重なるように形成され、コイル要素32が互いに重なり合う環状の領域からはみ出ないように形成されている。例えば、空隙部40は、積層方向から透視すると、環状に形成され、コイル要素32xと重なり合う。
【0033】
コイル要素32が互いに重なり合う環状の領域の内周より内側や、外周より外側は磁束が通るため、空隙部が形成されていると、そこを通る磁束が減り、インダクタのL値が低下する。また、コイル要素32が互いに重なり合う環状の領域の外周より外側に空隙部が形成されていると、ブレイク溝12x,12yと空隙部との間のギャップが狭くなり、集合基板から基板本体12を分割するときに、空隙部を起点とするクラックが発生しやすい。これらの不都合を防ぐため、空隙部40は、積層方向から透視すると、コイル要素32が互いに重なり合う環状の領域からはみ出ないように形成する。すなわち、空隙部40は、積層方向から透視すると、コイル要素32が互いに重なり合う環状の領域の内周より内側にも、外周より外側にも形成しない。
【0034】
空隙部40は、コイル要素32xの片側のみに形成されるため、コイル要素32xの両側に空隙部が形成される場合と比べると、基板本体12の強度の低下を抑制することができ、焼結済み積層体を分割するとき基板本体12にクラックが発生しにくい。
【0035】
空隙部40を形成すると、焼結後のコイル要素32の残留応力が抑制され、コイル30のインダクタンス値の増加、効率の向上が得られる。
【0036】
空隙部40は、基板本体12を形成するための未焼成積層体の内部に配置されたカーボンペースト等の空隙部形成用材料が、焼成の際に消失することによって形成される。
【0037】
空隙部40は、積層方向の厚さを大きくし過ぎると、基板本体12の強度が低下する。そのため、空隙部40の積層方向の厚さは25μm以下として、基板本体12の強度を確保しながら、基板のうねりを抑制することが好ましい。
【0038】
コイル要素32の積層方向の厚さは、コイル要素32の積層方向の厚さや層数と、空隙部40の積層方向の厚さや層数とに応じて、1μm以上、25μm以下の範囲で選択し、コイルの特性を確保しながら、基板のうねりを抑制することが好ましい。
【0039】
次に、コイル内蔵基板10を、集合基板状態で作製する場合の製造工程について説明する。
【0040】
(1)まず、基板本体12の各層を形成するため、セラミック材料粉末を含み、シート状に成形された未焼結のセラミックグリーンシートを準備する。
【0041】
第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bを形成するためのセラミックグリーンシートには、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニッケル及び酸化銅を主成分とする磁性体フェライトを用いる。第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bと中間非磁性体フェライト層16cを形成するためのセラミックグリーンシートには、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛及び酸化銅を主成分とする非磁性体フェライトを用いる。
【0042】
図7のグラフは、セラミックグリーンシートの焼成時の収縮挙動を示すグラフである。セラミックグリーンシートを一定速度で温度を上げて焼成し、焼成前後の寸法L、Lから求めた収縮率(L−L)/Lを縦軸に示し、横軸に温度(℃)を示している。実線は、第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bを形成するためのセラミックグリーンシートを示す。破線は、第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bと中間非磁性体フェライト層16cを形成するためのセラミックグリーンシートを示す。図7から、セラミックグリーンシートが収縮を開始する温度は、約600℃であることが分かる。
【0043】
セラミックグリーンシートの適宜位置にレーザー加工やパンチング加工等により貫通孔を加工し、この貫通孔に導体ペーストを印刷等により埋め込むことによって、未焼成層間接続導体を形成する。
【0044】
また、セラミックグリーンシートの一方主面に、導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷して、コイル要素、面内配線導体、ランド電極、端子電極の導体パターンを形成する。
【0045】
さらに、コイル要素32xが形成されるセラミックグリーンシートについては、空隙部形成用材料として、溶媒にカーボン粒子が混合しているカーボンペーストを未焼成のコイル要素32xに塗布しておく。カーボンペースト中のカーボンのD50は、0.1〜5.0μmとする。D50とは、レーザー回折散乱法で測定された粒度分布における累積50体積%径である。
【0046】
図8のグラフに、コイル要素32xに塗布したカーボンペーストのTG曲線と、DTA曲線を示す。TG曲線は、雰囲気温度の上昇によるサンプルの重量変化を温度に対して記録したものである。DTA曲線は、サンプルホルダーに設けられた熱電対の起電力により、リファレンスとサンプルとの温度差を検出したものである。図8のTG曲線から、カーボンペーストは、昇温に伴い徐々に消失することが分かる。
【0047】
(2)次いで、基板本体12の各層を形成する未焼結のセラミックグリーンシートを積層して、未焼成積層体を形成する。このとき、台板上にセラミックグリーンシートを重ねると、コイル要素が重なり合う部分は他の部分より隆起するが、平面で圧下してセラミックグリーンシートを圧着することにより、表面が平らな未焼成積層体を形成する。
【0048】
(3)次いで、未焼成積層体を焼成する。
【0049】
まず、室温から、セラミックグリーンシートが収縮を開始する温度を越えない温度まで、例えば400℃まで、焼成炉の温度を上げる。焼成炉内の酸素濃度は、5〜25%とする。このとき、セラミックグリーンシートや消失層のカーボンペーストに含まれる溶媒が加熱に伴って気化したり、有機材料が熱分解して気化したりして、未焼成積層体内から消失するが、消失層にはカーボンペースト中のカーボンが残る。
【0050】
次いで、セラミックグリーンシートや導電ペーストが焼結する温度まで、例えば約900℃まで焼成炉の温度を上げる。焼成炉内の酸素濃度は、0.1〜10.0%とする。温度の上昇に伴ってセラミックグリーンシートが収縮し、焼結する。消失層に残っているカーボンペースト中のカーボンは、セラミックグリーンシートが収縮するときに、徐々に消失させることできる。これによって、基板のうねりを抑制しながら、焼結済み積層体の内部に空隙部40を形成できる。カーボンの消失速度は、カーボンの粒径を大きくすると遅くすることでき、小さくすると速くすることができる。
【0051】
(4)次いで、室温まで冷却した後、焼結済み積層体、すなわちコイル内蔵基板10の集合基板に、レーザー加工やダイシング加工によりブレイク溝12x,12yを形成する。必要に応じて、基板本体12の上面12sに形成されたランド電極と、下面12tに形成された端子電極にメッキを行い、ランド電極に表面実装部品やICチップなどの電子部品を実装する。
【0052】
(5)以上の工程により完成したコイル内蔵基板10の集合基板をブレイク溝12x,12y溝に沿って切断し、コイル内蔵基板10の個片に分割する。
【0053】
空隙部形成用材料(例えば、カーボンペースト中のカーボンの粒径)や焼成条件(例えば、酸素濃度、温度プロファイル)を調整し、焼成の際に空隙部形成用材料の消失速度と積層体の収縮速度を制御することにより、基板のうねり、すなわち基板本体12の表面12s,12tのうねりを抑制することができる。
【0054】
<実施例2> 実施例2のコイル内蔵基板10aについて、図2を参照しながら説明する。
【0055】
図2は、コイル内蔵基板10aの主要な構成部分のみを模式的に図示した断面図である。図2に示すように、コイル内蔵基板10aは、実施例1のコイル内蔵基板10と略同様に構成されている。以下では、実施例1と同じ構成部分には同じ符号を用い、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0056】
図2に示すように、コイル内蔵基板10aの基板本体12の内部には、コイル要素32aを含むコイル30aが形成されている。実施例1と同じく、コイル要素32aに接する空隙部40aが形成されることにより、基板本体12の表面12s,12tのうねりが抑制されている。
【0057】
各コイル要素32aは、実施例1と同様に仮想中心軸31のまわりに略C字形状にそれぞれ形成されているが、実施例1のコイル要素32よりも厚く、層数も多い。空隙部40aは、すべてのコイル要素32aに対して形成されている。コイル要素が厚いほど、コイル要素の層数が多いほど、コイル要素が積層方向に重なり合っているコイル部分の隆起量が大きくなるため、基板表面のうねり抑制効果を高めるように、空隙部の層数を増やしている。
【0058】
ただし、コイル要素の膜厚や層数に対して、空隙部の層数が多過ぎると、焼結するとコイル部分が陥没するため、基板本体の各層の厚みやコイル要素の厚みに応じて、適切な層数の空隙部を形成する必要がある。
【0059】
<実施例3> 実施例3のコイル内蔵基板10bについて、図3を参照しながら説明する。
【0060】
図3は、コイル内蔵基板10bの主要な構成部分のみを模式的に図示した断面図である。図3に示すように、基板本体12の内部に形成されたコイル30bは、第1のコイル要素32bと第2のコイル要素34bとを含んでいる。
【0061】
基板本体12を積層方向から透視すると、第1のコイル要素32bは、仮想中心軸31のまわりに略C字形状に形成され、互いに重なり合っている。
【0062】
基板本体12を積層方向から透視すると、第2のコイル要素34bは、仮想中心軸31のまわりに略C字形状に形成され、第1のコイル要素32bが互いに重なり合っている領域より内側において、互いに重なり合っている。
【0063】
積層方向に隣接する第1のコイル要素32bと第2のコイル要素34bとが層間接続導体を介して直列に接続されてコイル30bが構成されている。
【0064】
空隙部40bは、第1のコイル要素32bに接するように形成され、空隙部40b内には、第1のコイル要素32bの上面が露出しており、コイル要素32bの下面はセラミック基材層に接している。空隙部40は、積層方向から透視すると、第1のコイル要素32bが重なり合う環状の領域のみに重なるように、環状に形成され、第1のコイル要素32bが重なり合う環状の領域の内周より内側にも、外周より外側にも形成されていない。
【0065】
<実施例4> 実施例4のコイル内蔵基板10cについて、図4を参照しながら説明する。
【0066】
図4は、コイル内蔵基板10cの主要な構成部分のみを模式的に図示した断面図である。図4に示すように、基板本体12の内部に形成されたコイル30cは、実施例3と同様に、第1のコイル要素32bと第2のコイル要素34bとを含んでいる。
【0067】
実施例3と異なり、第2のコイル要素34bに接する空隙部40cが形成され、空隙部40c内には、コイル要素34bの上面が露出しており、コイル要素34bの下面はセラミック基材層に接している。空隙部40cは、積層方向から透視すると、第2のコイル要素34bが重なり合う環状の領域のみに重なるように、環状に形成され、第2のコイル要素34bが重なり合う環状の領域の内周より内側にも、外周より外側にも形成されていない。
【0068】
<実施例5> 実施例5のコイル内蔵基板10dについて、図5を参照しながら説明する。
【0069】
図5は、コイル内蔵基板10dの主要な構成部分のみを模式的に図示した断面図である。図5に示すように、基板本体12の内部に形成されたコイル30dは、実施例3及び実施例4と同様に、第1のコイル要素32bと第2のコイル要素34bとを含んでいる。
【0070】
実施例3及び実施例4と異なり、第1のコイル要素32bに接する空隙部40bと、第2のコイル要素34bに接する空隙部40cの両方が形成されている。
【0071】
上述した実施例3〜5のように、コイル要素30b〜30dが第1及び第2のコイル要素32b,34bを含む場合には、第1のコイル要素32bに接する空隙部40bと第2のコイル要素34bに接する空隙部40cとの少なくとも一方を形成すれば、基板本体12の表面12s,12tのうねりを抑制することができる。
【0072】
<実施例6> 実施例6のコイル内蔵基板10eについて、図6を参照しながら説明する。
【0073】
図6は、コイル内蔵基板10eの主要な構成部分のみを模式的に図示した断面図である。図6に示すように、コイル内蔵基板10eの基板本体12の内部には、9層のコイル要素32eを含むコイル30eが形成されている。コイル要素30eは、仮想中心軸31のまわりに形成されている。
【0074】
9層のコイル要素30eのうち3層に接する空隙部40eが形成されている。空隙部40eの内周40qは、基板本体12を積層方向から透視したときに、コイル要素30eが重なり合う領域の内周に接している。
【0075】
一方、空隙部40eの外周40pは、コイル要素30eが重なり合う領域の外周との間に間隔を設けて該外周より内側に延在している。これにより、ブレイク溝12x,12yと空隙部40eとの間のギャップが広くなるため、集合基板から基板本体12を分割するときに、空隙部40eを起点とするクラックが発生しにくくなる。
【0076】
空隙部40eを設けることにより、基板のうねりを抑制することができる。例えば、コイル要素32eの厚さが10〜12μm、コイル要素32eが9層、基板本体12の厚さが0.600mmの試作品において、空隙部40eを全く形成しない比較例では、基板本体12の表面12s,12tのうねり量(厚みの最大値と最小値の差)が50μmであったが、実施例6のように空隙部40eを3層形成することにより基板本体12の表面12s,12tのうねり量を15μmまで低減することができた。
【0077】
<まとめ> 以上に説明した製造方法により、コイル要素に接する空隙部を形成すると、コイル内蔵基板の表面のうねりを抑制することができる。
【0078】
すなわち、図9(a)の断面図に模式的に示すように、基板本体2xの内部に空隙部を形成しない場合には、コイル要素4が積層方向に重なり合う領域4xが焼成により隆起して、表面2sにうねりが発生する。図9(b)の断面図に模式的に示すように、基板本体2の内部に、コイル要素4に接する空隙部6を形成すると、焼成による隆起を抑制し、表面2tのうねりを抑制できる。
【0079】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
2,2x 基板本体
2s,2t 表面
4 コイル要素
6 空隙部
10,10a〜10e コイル内蔵基板
12 基板本体
12s 上面(表面)
12t 下面(表面)
12x,12y ブレイク溝
14a 第1の磁性体フェライト層
14b 第2の磁性体フェライト層
16a 第1の非磁性体フェライト層
16b 第2の非磁性体フェライト層
16c 中間非磁性体フェライト層
30,30a〜30e コイル
31 仮想中心軸
32 コイル要素
32b 第1のコイル要素
32e,32x コイル要素
34b 第2のコイル要素
40,40a〜40c,40e 空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層された複数の未焼成セラミック基材層と、
互いに隣接する前記未焼成セラミック基材層の異なる組の当該未焼成セラミック基材層間において、前記未焼成セラミック基材層が積層された積層方向に延在する仮想中心軸のまわりに形成され、前記積層方向から透視すると互いに重なり合う複数の未焼成コイル要素と、
前記未焼成セラミック基材層を貫通して前記未焼成コイル要素同士を接続する未焼成層間接続導体と、
前記未焼成セラミック基材層と少なくとも一つの前記未焼成コイル要素との間に、前記未焼成セラミック基材層が焼結する焼結温度では消失する空隙部形成用材料を用いて形成された少なくとも一つの消失層と、
を備えた未焼成積層体を形成する第1の工程と、
前記未焼成積層体を焼成して、前記未焼成セラミック基材層と前記未焼成コイル要素と前記未焼成層間接続導体とを焼結させるとともに、前記消失層の前記空隙部形成用材料を消失させて空隙部を形成する第2の工程と、
前記未焼成積層体の焼成により形成された焼結済み積層体を分割して、1個又は2個以上のコイル内蔵基板を取り出す第3の工程と、
を備え、
前記第2の工程において、前記消失層の前記空隙部形成用材料は、前記未焼成セラミック基材層が収縮を開始するときには一部が残るようにし、該一部を、前記未焼成セラミック基材層の収縮に伴って徐々に消失させて、前記空隙部を形成することを特徴とする、コイル内蔵基板の製造方法。
【請求項2】
前記未焼成積層体は、
前記未焼成コイル要素の一方の主面と前記未焼成セラミック基材層との間に前記消失層が形成され、当該未焼成コイル要素の他方の主面は他の前記未焼成セラミック基材層と接していることを特徴とする、請求項1に記載のコイル内蔵基板の製造方法。
【請求項3】
前記空隙部の前記積層方向の厚さは25μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコイル内蔵基板の製造方法。
【請求項4】
前記未焼成コイル要素の焼結後の前記積層方向の厚さは1μm以上、25μm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載のコイル内蔵基板の製造方法。
【請求項5】
互いに積層された複数のセラミック基材層と、
互いに隣接する前記セラミック基材層の異なる組の当該セラミック基材層間において、前記セラミック基材層が積層された積層方向に延在する仮想中心軸のまわりに形成され、前記積層方向から透視すると互いに重なり合う複数のコイル要素と、
前記セラミック基材層を貫通して前記コイル要素同士を接続する層間接続導体と、
を備え、
少なくとも一つの前記コイル要素の一方の主面と前記セラミック基材層との間に空隙部が形成され、当該コイル要素の他方の主面は他の前記セラミック基材層と接し、
前記空隙部の前記積層方向の厚さは25μm以下であり、
前記コイル要素の前記積層方向の厚さは1μm以上、25μm以下であることを特徴とする、コイル内蔵基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−129367(P2012−129367A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279695(P2010−279695)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】