説明

コイル部品及びその製造方法

【課題】所望のフィルタ性能を確保しつつ、小型化且つ低背化され、低コストで製造可能なコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品100は、磁性セラミック材料からなる磁性基板11と、磁性基板11の一方の主面に形成されたコイル導体を含む薄膜コイル層12と、薄膜コイル層12の主面にめっきにより形成された肉厚なバンプ電極13a〜13dと、バンプ電極13a〜13dの形成位置を除いた薄膜コイル層12の主面に形成された磁性樹脂層14とを備えている。バンプ電極13a〜13dは、めっきにより形成された厚膜電極であり、好ましくは薄膜コイル層12内の導体パターンよりも厚い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及びその製造方法に関し、特に、コイル導体を内蔵する薄膜コモンモードフィルタの構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高速な信号伝送インターフェースとしてUSB2.0規格やIEEE1394規格が広く普及し、パーソナルコンピュータやデジタルカメラなど数多くのデジタル機器に用いられている。これらのインターフェースでは一対の信号線を用いて差動信号(ディファレンシャル信号)を伝送する差動伝送方式が採用されており、従来のシングルエンド伝送方式よりも高速な信号伝送が実現されている。
【0003】
高速差動伝送路上のノイズを除去するためのフィルタにはコモンモードフィルタが広く使用されている。コモンモードフィルタは、一対の信号線を伝わる信号の差動成分に対するインピーダンスが低く、同相成分(コモンモードノイズ)に対するインピーダンスが高いという特性を有している。そのため、一対の信号線上にコモンモードフィルタを挿入することにより、ディファレンシャルモード信号を実質的に減衰させることなくコモンモードノイズを遮断することができる。
【0004】
図8は、従来の表面実装型コモンモードフィルタの構造を示す略分解斜視図である。
【0005】
図8に示すように、従来のコモンモードフィルタ1は、互いに磁気結合された一対のコイル導体5,6を含む薄膜コイル層2と、薄膜コイル層2の上下に設けられたフェライトからなる磁性基板3,4とを備えている。コイル導体5,6の端部は外部端子電極7a〜7dにそれぞれ接続されており、外部端子電極7a〜7dは磁性基板3,4の側面及び上下面に形成されている。通常、外部端子電極7a〜7dは磁性基板の表面へのスパッタリングやめっきにより形成される。
【0006】
特許文献1には、コモンモードフィルタの端子電極構造が開示されている。このコモンモードフィルタの端子電極は、部品の表面にAgを含む導電性ペーストを塗布し、或いはスパッタリングや蒸着等でAg膜を形成した後、このAg膜上に湿式電解めっき処理を行って、Niの金属膜をさらに形成している。
【0007】
また、特許文献2には、シリコン基板上に絶縁層、コイル導体を含むコイル層、コイル導体に電気的に接続された外部電極を薄膜形成技術で順次形成し、全体として直方体状の外形を有するコモンモードチョークコイルが開示されている。このコモンモードチョークコイルにおいて、外部電極は絶縁層の上面(実装面)に広がって形成されている。また、内部電極端子は、複数の導電層が積層された多層構造の電極として構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表WO2006/073029号公報
【特許文献2】特開2007−53254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図8に示した従来のコモンモードフィルタ1は、薄膜コイル層を2つの磁性基板で挟み込んだ構造であるため、コモンモードフィルタの磁気特性が高く、高周波特性に優れるだけでなく、機械的強度も高いという特長を有している。しかしながら、従来のコモンモードフィルタの構造は、上下にフェライトからなる磁性基板を使用しており、フェライト基板はあまり薄くすると割れやすいことから薄型化が困難であり、さらに2つの磁性基板を重ねることで肉厚となり、低背化されたチップ部品として提供することが難しかった。また、高価な磁性材料を多量に使用するため製造コストが高く、使用用途によってはフィルタ性能が過剰スペックであるという問題もある。
【0010】
また、従来のコモンモードフィルタは、個々のチップ部品の表面に微小な端子電極をスパッタリング等で形成するものであるため、端子電極を高精度に形成することが非常に難しいという問題がある。さらに、特許文献2に記載のコモンモードチョークコイルでは、何層にも重ねた導体層によって内部電極端子を形成しているため、不良電極が形成される確率が高く、また電極形成のための工数の増加により製造コストが増加するという問題がある。
【0011】
したがって、本発明の目的は、所望のフィルタ性能を確保しつつ小型化且つ低背化され、低コストで製造可能なコイル部品を提供することにある。また、本発明の目的は、そのようなコイル部品を容易且つ低コストで製造することが可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明によるコイル部品は、磁性セラミック材料からなる磁性基板と、前記磁性基板の一方の主面に形成されたコイル導体を含む薄膜コイル層と、前記薄膜コイル層の主面に形成されたバンプ電極と、前記バンプ電極の形成位置を除いた前記薄膜コイル層の前記主面に形成された絶縁樹脂層とを備え、前記バンプ電極は前記コイル導体と平面視にて重なる部分を有することを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、一方の磁性基板が省略された薄型なコイル部品を低コストで提供することができる。また、外部端子電極としてバンプ電極を用いているので従来よりも高精度に電極を形成できる。また、バンプ電極の周囲に絶縁樹脂層が設けられているので、バンプ電極を補強することができ、バンプ電極の剥離等を防止することができる。さらに、バンプ電極の一部がコイル導体と平面視にて重なることから、コイル部品の小型化を図ることができる。
【0014】
本発明において、前記絶縁樹脂層と接する前記バンプ電極の側面は、エッジのない曲面形状を有することが好ましい。絶縁樹脂層は、バンプ電極を形成した後に軟化した樹脂を流し込むことにより形成されるが、バンプ電極の側面にエッジの効いたコーナー部があるとバンプ電極の周囲に流動性のある絶縁樹脂がうまく入り込めず、気泡を抱き易い。しかし、バンプ電極の側面が湾曲面である場合には、粘性のある樹脂が隅々まで行き渡るので、気泡を含まない高品質な樹脂層を形成することができる。しかも、絶縁樹脂層とバンプ電極との密着性が高まるので、バンプ電極に対する補強力を高めることができる。
【0015】
本発明において、前記絶縁樹脂層は磁性粉含有樹脂材料からなり、前記コイル導体は、互いに磁気結合する第1及び第2のスパイラルパターンを含み、前記第1及び第2のスパイラルパターンはコモンモードフィルタを構成していることが好ましい。これによれば、絶縁樹脂層が磁性材料を含むことから、磁性基板と絶縁樹脂層との間に挟まれたコモンモードフィルタの磁気結合を高めることができる。
【0016】
また、上記課題を解決するため、本発明によるコイル部品の製造方法は、磁性セラミック材料からなる磁性基板の一方の主面にコイル導体を含む薄膜コイル層を形成する工程と前記薄膜コイル層の主面に露出する前記コイル導体の端子電極上にバンプ電極をめっきにより形成する工程と、前記バンプ電極が形成された前記薄膜コイル層の前記主面に絶縁樹脂のペーストを充填し、前記ペーストを硬化させることにより、前記バンプ電極の周囲に絶縁樹脂層を形成する工程と、前記絶縁樹脂層の上面を研磨又は研削して前記バンプ電極の上面を露出させる工程とを備えることを特徴としている。
【0017】
本発明によれば、従来使用していた上下の磁性基板の一方を省略し、その代わりに絶縁樹脂層を形成していることから、コイル部品を簡易且つ低コストで製造することができる。また、端子電極としてバンプ電極を用い、バンプ電極をめっきにより形成しているので、外部電極の加工精度を高めることができる。また、バンプ電極の周囲が絶縁樹脂層で囲まれているので、バンプ電極を補強することができる。
【0018】
本発明においては、前記磁性セラミック材料からなるウェハー上に前記コイル部品を複数形成する工程と、前記複数のコイル部品を個片化する工程とを備えることが好ましい。この場合において、前記ウェハー上に形成された複数のコイル部品を個片化した後、各コイル部品の外表面をバレル研磨してエッジを除去する工程と、前記各コイル部品の表面に露出するバンプ電極の表面をめっきする工程をさらに備えることが好ましい。本発明によれば、外部端子電極を容易に形成することができ、さらにチップ欠け等の破損が生じにくいコイル部品を製造することができる。
【0019】
本発明において、前記ウェハー上の前記複数のコイル部品を個片化する工程は、前記バンプ電極上を通過する位置でダイシングする工程を含むことが好ましい。こうした場合には、コイル部品の側面にバンプ電極が露出するので、実装時の半田フィレットを形成でき、半田の固着強度を高めることができる。
【0020】
本発明において、前記ウェハー上の前記複数のコイル部品を個片化する工程は、前記バンプ電極の外側を通過する位置でダイシングする工程を含むことが好ましい。本発明によれば、コイル部品の側面にバンプ電極が露出しないので、実装時に半田フィレットが形成されないコイル部品を提供することができる。したがって、省スペースでの実装が可能であり、高密度実装を実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、所望のフィルタ性能を確保しつつ小型化且つ低背化され、低コストで製造可能なコイル部品を提供することができる。また、本発明によれば、そのようなコイル部品を容易且つ低コストで製造することが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるコイル部品100の概観構造を示す略斜視図であり、実装面が上向きの状態を示している。
【図2】コイル部品100の層構造を詳細に示す略分解斜視図である。
【図3】コイル部品100の導体パターンの平面的な位置関係を示す平面図である。
【図4】コイル部品100の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】多数のコイル部品100が形成されたダイシング前の磁性ウェハーの構成を示す略平面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態によるコイル部品200の概観構造を示す略斜視図であり、実装面が上向きの状態を示している。
【図7】多数のコイル部品200が形成されたダイシング前の磁性ウェハーの構成を示す略平面図である。
【図8】従来のコモンモードフィルタの構造を示す略分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるコイル部品100の概観構造を示す略斜視図であり、実装面が上向きの状態を示している。
【0025】
図1に示すように、本実施形態によるコイル部品100はコモンモードフィルタであって、磁性基板11と、磁性基板11の一方の主面(上面)に設けられたコモンモードフィルタ素子を含む薄膜コイル層12と、薄膜コイル層12の主面(上面)に設けられた第1〜第4のバンプ電極13a〜13dと、バンプ電極13a〜13dの形成位置を除いた薄膜コイル層12の主面に設けられた磁性樹脂層14とを備えている。図示のように、コイル部品100は略直方体状の表面実装型チップ部品であり、第1〜第4のバンプ電極13a〜13dは、磁性基板11、薄膜コイル層12及び磁性樹脂層14からなる積層体の外周面に露出するように形成されている。このうち、第1及び第2のバンプ電極13a,13bは積層体の長手方向と直交する第1の側面10aから露出しており、第3及び第4のバンプ電極13c,13dは第1の側面10aと対向する第2の側面10bから露出している。なお、実装時には上下反転し、バンプ電極13a〜13d側を下向きにして使用することは言うまでもない。本明細書においては説明の便宜上、図1に示す実装面が上向きの状態を基準にして上下方向を定義し、磁性樹脂層14の露出面をコイル部品100の上面とする。
【0026】
磁性基板11は、コイル部品100の機械的強度を確保すると共に、コモンモードフィルタの閉磁路としての役割を果たすものである。磁性基板11の材料としては例えば焼結フェライト等の磁性セラミック材料を用いることができる。特に限定されるものではないが、チップサイズが1.0×1.25×0.56(mm)であるとき、磁性基板11の厚さは0.55〜0.6mm程度とすることができる。
【0027】
薄膜コイル層12は、磁性基板11と磁性樹脂層14との間に設けられたコモンモードフィルタ素子を含む層である。詳細は後述するが、薄膜コイル層12は絶縁層と導体パターンとを交互に積層して形成された多層構造を有している。このように、本実施形態によるコイル部品100はいわゆる薄膜タイプであって、磁性コアに導線を巻回した構造を有する巻線タイプとは区別されるものである。
【0028】
磁性樹脂層14は、コイル部品100の実装面(底面)を構成する層であり、磁性基板11と共に薄膜コイル層12を保護すると共に、コイル部品100の閉磁路としての役割を果たすものである。ただし、磁性樹脂層14の機械的強度は磁性基板11よりも小さいため、強度面では補助的な役割を果たす程度である。磁性樹脂層14としては、フェライト粉を含有するエポキシ樹脂(複合フェライト)を用いることができる。特に限定されるものではないが、チップサイズが1.0×1.25×0.6(mm)であるとき、磁性樹脂層14の厚さは0.08〜0.1mm程度とすることができる。
【0029】
図2は、コイル部品100の層構造を詳細に示す略分解斜視図である。
【0030】
図2に示すように、薄膜コイル層12は、磁性基板11側から磁性樹脂層14側に向かって順に積層された第1〜第4の絶縁層15a〜15dと、第2の絶縁層15b上に形成された第1のスパイラル導体16及び端子電極24a〜24dと、第1の絶縁層15a上に形成された第2のスパイラル導体17及び端子電極24a〜24dと、第3の絶縁層15c上に形成された第1及び第2の引き出し導体20,21及び端子電極24a〜24dと、第4の絶縁層15d上に形成された端子電極24a〜24dとを備えている。
【0031】
第1〜第4の絶縁層15a〜15dは、異なる層に設けられた導体パターン間を絶縁すると共に、導体パターンが形成される平面の平坦性を確保する役割を果たす。特に、第1の絶縁層15aは、磁性基板11の表面の凹凸を吸収し、導体パターンの加工精度を高める役割を果たす。絶縁層15a〜15dの材料としては、電気的及び磁気的な絶縁性に優れ、加工の容易な樹脂を用いることが好ましく、特に限定されるものではないが、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂を用いることができる。
【0032】
第1のスパイラル導体16の内周端は、絶縁層15cを貫通する第1のコンタクトホール導体18及び第1の引き出し導体20を介して、第1の端子電極24aに接続されている。また、第1のスパイラル導体16の外周端は、第3の引き出し導体22を介して第3の端子電極24cに接続されている。
【0033】
第2のスパイラル導体17の内周端は、絶縁層15c及び15bを貫通する第2のコンタクトホール導体19及び第2の引き出し導体21を介して、第2の端子電極24bに接続されている。また、第2のスパイラル導体17の外周端は、第4の引き出し導体23を介して第4の端子電極24dに接続されている。
【0034】
第1及び第2のスパイラル導体16,17は共に同一の平面形状を有しており、しかも平面視で同じ位置に設けられている。第1及び第2のスパイラル導体16,17は完全に重なり合っていることから、両者の間には強い磁気結合が生じている。以上の構成により、薄膜コイル層12内の導体パターンはコモンモードフィルタを構成している。
【0035】
第1及び第2のスパイラル導体16,17の外形は共に円形スパイラルである。円形スパイラル導体は高周波での減衰が少ないため、高周波用インダクタンスとして好ましく用いることができる。なお、本実施形態においては、第2の引き出し導体21が第1の引き出し導体20と共通の絶縁層15c上に設けられているが、第1の引き出し導体20と異なる絶縁層上に設けられていてもよい。さらに、本発明においては、第1及び第2のスパイラル導体16,17と第1及び第2の引き出し導体18,19の上下関係は特に限定されず、どのような位置関係であってもかまわない。
【0036】
第1〜第4の絶縁層15a〜15dの中央領域であって第1及び第2のスパイラル導体16,17の内側には、第1〜第4の絶縁層15a〜15dを貫通する開口25が設けられており、開口25の内部には、磁路を形成するための磁性コア26が形成されている。磁性コア26の材料としては、磁性樹脂層14と同一の材料である磁性粉含有樹脂(複合フェライト)を用いることが好ましい。
【0037】
絶縁層15d上には第1〜第4のバンプ電極13a〜13dがそれぞれ設けられている。第1のバンプ電極13aは端子電極24aに接続され、第2のバンプ電極13bは端子電極24bに接続され、第3のバンプ電極13cは端子電極24cに接続され、第4のバンプ電極13dは端子電極24dに接続されている。なお、本明細書において「バンプ電極」とは、フリップチップボンダーを用いてCu,Au等の金属ボールを熱圧着することにより形成されるものとは異なり、めっき処理により形成された厚膜めっき電極を意味する。バンプ電極の厚さは、磁性樹脂層14の厚さと同等かそれ以上であり、0.08〜0.1mm程度とすることができる。すなわち、バンプ電極13a〜13dの厚さは薄膜コイル層12内の導体パターンよりも厚く、特に、薄膜コイル層12内の導体パターンの5倍以上の厚さを有している。
【0038】
第1〜第4のバンプ電極13a〜13dが形成された第4の絶縁層15d上には磁性樹脂層14が形成されている。磁性樹脂層14はバンプ電極13a〜13dの周囲を埋めるように設けられている。
【0039】
図3は、薄膜コイル層12内の導体パターンとバンプ電極13a〜13dとの位置関係を示す略平面図である。
【0040】
図3に示すように、第1及び第2のスパイラル導体16,17は、平面視にて完全に重なり合っているので、両者の間には強い磁気結合が生じている。また、本実施形態においては、第1〜第4のバンプ電極13a〜13dの一部がスパイラル導体16,17と重なっている。プリント基板への半田実装を確実にするためには、バンプ電極13a〜13dの実装面側の面積をある程度確保しなければならないが、バンプ電極13a〜13dがスパイラル導体16,17と重なるように配置した場合には、チップ面積を大きくすることなく電極面積を確保することができる。もちろん、バンプ電極13a〜13dがスパイラル導体16,17と重ならないように構成することも可能であるが、その場合にはチップ部品が大型化することになる。
【0041】
また図示のように、磁性樹脂層14と接するバンプ電極13a〜13dの側面13eは、エッジのない曲面形状であることが好ましい。詳細は後述するが、磁性樹脂層14は、バンプ電極13を形成した後、複合フェライトのペーストを流し込むことにより形成されるが、このときバンプ電極13a〜13dの側面13eにエッジの効いたコーナー部があるとバンプ電極の周囲にペーストが完全に充填されず、気泡を含む状態となりやすい。しかし、バンプ電極13a〜13dの側面が湾曲面である場合には、流動性のある樹脂が隅々まで行き渡るので、気泡を含まない緻密な絶縁樹脂層を形成することができる。しかも、磁性樹脂層14とバンプ電極13a〜13dとの密着性が高まるので、バンプ電極13a〜13dに対する補強性を高めることができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によるコイル部品100は、薄膜コイル層12の片側にのみ磁性基板11が設けられ、反対側の絶縁基板が省略され、その代わりに磁性樹脂層14が設けられているので、薄型なチップ部品を低コストで提供することができる。また、磁性樹脂層14と同等な肉厚を有するバンプ電極13a〜13dを設けたことにより、チップ部品の側面や上下面に外部電極面を形成する工程を省略することができ、外部電極を容易且つ高精度に形成することができる。さらに、本実施形態によれば、バンプ電極13a〜13dの一部がコイル導体パターンと平面視にて重なるように設けられていることから、チップ部品の小型化を図ることができる。
【0043】
次に、コイル部品100の製造方法について詳細に説明する。
【0044】
図4は、コイル部品100の製造方法を示すフローチャートである。また、図5は、多数のコイル部品100が形成された磁性ウェハーの構成を示す略平面図である。
【0045】
図4及び図5に示すように、コイル部品100の製造では、一枚の大きな磁性基板(磁性ウェハー)上に多数のコモンモードフィルタ素子(コイル導体パターン)を形成した後、各素子を個別に切断することにより多数のチップ部品を製造する量産プロセスが実施される。そのため、まず磁性ウェハーを用意し、(ステップS11)、磁性ウェハーの表面に多数のコモンモードフィルタ素子がレイアウトされた薄膜コイル層12を形成する(ステップS12)。
【0046】
薄膜コイル層12はいわゆる薄膜工法によって形成される。ここで、薄膜工法とは、感光性樹脂を塗布し、これを露光及び現像して絶縁層を形成した後、絶縁層の表面に導体パターンを形成する工程を繰り返すことにより、絶縁層及び導体層が交互に形成された多層膜を形成する方法である。以下、薄膜コイル層12の形成工程について詳細に説明する。
【0047】
薄膜コイル層12の形成では、まず絶縁層15aを形成した後、絶縁層15a上に第2のスパイラル導体17及び端子電極24a〜24dを形成する。次に、絶縁層15a上に絶縁層15bを形成した後、絶縁層15b上に第1のスパイラル導体16及び端子電極24a〜24dを形成し、さらに絶縁層15bを貫通するコンタクトホール導体19を形成する。次に、絶縁層15b上に絶縁層15cを形成した後、絶縁層15c上に引き出し導体20,21及び端子電極24a〜24dを形成し、さらに絶縁層15cを貫通するコンタクトホール導体18,19をそれぞれ形成する。最後に、絶縁層15dを形成した後、端子電極24a〜24dを形成する。
【0048】
ここで、各絶縁層15a〜15dは、下地面に感光性樹脂をスピンコートし、これを露光及び現像することにより形成することができる。特に、絶縁層16b〜16dは開口25を有する絶縁層として形成され、絶縁層15b,15cはコンタクトホール導体18,19を有する絶縁層として形成される。また、導体パターンの材料としてはCu等を用いることができ、蒸着法又はスパッタリングにより導体層を形成した後、これをパターニングすることにより形成することができる。
【0049】
次に、絶縁層15d上にバンプ電極13(13a〜13d)を形成する(ステップS13)。バンプ電極13の形成方法は、まず端子電極24a〜24dが露出した絶縁層15dの全面にCu膜を無電解めっきにより形成する。その後、シートレジストを貼り付け、露光及び現像することにより、バンプ電極を形成すべき位置にあるシートレジストを選択的に除去し、絶縁基板15d上の端子電極24a〜24dを含む電極形成領域を露出させる。この露出領域に、肉厚なバンプ電極13a〜13dを電気めっきにより形成する。その後、シートレジストを除去し、全面をエッチングすることにより不要なCu膜を除去し、バンプ電極13を端子電極24a〜24dの上方にのみ残すことにより、略柱状のバンプ電極13が完成する。このとき、図5に示すように、略柱状のバンプ電極13は、チップ部品の長手方向に隣接する2つのチップ部品に共通の電極として形成される。バンプ電極13は後述のダイシングによって2分割され、これにより各素子に対応する個別のバンプ電極13a〜13dが形成される。
【0050】
次に、バンプ電極13が形成された磁性ウェハー上に複合フェライトのペーストを充填し、硬化させて、磁性樹脂層14を形成する(ステップS14)。このとき、磁性樹脂層14を確実に形成するため多量のペーストが充填され、これによりバンプ電極13は樹脂内に埋没した状態となる。そのため、バンプ電極13の上面が露出するまで磁性樹脂層14を研磨して所定の厚さにすると共に表面を平滑化する(ステップS15)。さらに、磁性ウェハーについても所定の厚さとなるように研磨する(ステップS16)。その後、磁性ウェハーのダイシングによって各コモンモードフィルタ素子を個片化(チップ化)し、図1に示すチップ部品を作製する(ステップS17)。このとき、図5に示すように、チップ部品の長手方向(Y方向)と直交する方向(X方向)に延びる切断ラインC1はバンプ電極13の中央を通過し、得られたバンプ電極13a〜13dの切断面は、コイル部品100の側面に露出することになる。バンプ電極13a〜13dの側面は実装時において半田フィレットの形成面となるので、半田実装時の固着強度を高めることができる。
【0051】
次に、チップ部品100のバレル研磨を行ってエッジを除去した後(ステップS18)、電気めっきを行い(ステップS19)、薄膜コイル層12の側面に露出する端子電極24a〜24dとバンプ電極13a〜13dとが完全に一体化された平滑な電極面を形成し、これにより図1に示すバンプ電極13a〜13dが完成する。このように、チップ部品の外表面をバレル研磨することによりチップ欠け等の破損が生じにくいコイル部品を製造することができる。また、チップ部品の外周面に露出するバンプ電極3a〜13dの表面をめっき処理するため、バンプ電極13a〜13dの表面を平滑面とすることができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によるコイル部品100の製造方法は、従来において使用していた上下の磁性基板の一方を省略し、その代わりに絶縁樹脂層を形成することから、コイル部品を簡易且つ低コストで製造することができる。また、バンプ電極の周囲に樹脂を充填しているので、バンプ電極を補強することができ、バンプ電極の剥離等を防止することができる。また、本実施形態によるコモンモードフィルタの製造方法は、バンプ電極をめっきにより形成しているので、例えばスパッタリングで形成する場合よりも加工精度の高く安定した外部端子電極を提供することができる。
【0053】
図6は、本発明の第2の実施形態によるコイル部品200の構造を示す略概観斜視図である。また、図7は、多数のコイル部品200が形成された磁性ウェハーの構成を示す略平面図である。
【0054】
図6及び図7に示すように、このコイル部品200の特徴は、バンプ電極27の側面がチップ部品の外周面から露出せず、バンプ電極27の上面のみが露出している点にある。そのため、コイル部品200の製造では、バンプ電極27は各素子の実装領域の内側に形成される。また、磁性ウェハー上に形成された多数のコモンモードフィルタ素子をダイシングにより個片化する際、切断ラインC1はバンプ電極27a〜27dの外側を通過する。本実施形態によれば、バンプ電極27a〜27dの側面がコイル部品200の側面に露出しないので、実装時の半田フィレットが形成されない外部端子電極を提供することができる。したがって、省スペースでの実装が可能であり、高密度実装を実現できる。また、磁性ウェハーのダイシングの際にバンプ電極27が切断対象とならず、磁性ウェハー及び樹脂層のみが切断対象となるので、ダイシングも容易となる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明に包含されるものであることは言うまでもない。
【0056】
例えば、上記実施形態においては、磁性ウェハー上に薄膜コイル層及び磁性樹脂層を形成し、ダイシングによって個片化し、さらにバレル研磨した後に電気めっきしているが、本発明はこの方法に限らず、ダイシング前のウェハーに無電解めっき処理を施した後、ダイシングを行ってもよい。
【0057】
また、上記実施形態においては、薄膜コイル層12の主面に複合フェライトからなる磁性樹脂層14を形成しているが、磁性を有しない単なる絶縁樹脂層を形成してもよい。また、コイル部品として薄膜コモンモードフィルタを例に挙げたが、本発明はコイル導体層の上下を磁性基板で挟み込むタイプの各種コイル部品に適用可能である。
【0058】
また、上記実施形態においては、磁性コア26を設けているが、本発明において磁性コア26は必須でない。ただし、磁性コア26は磁性樹脂層14と同一材料で形成することができるので、開口25を形成しさえすれば、特別な工程を経由することなく、磁性コア26と磁性樹脂層14とを同時に形成することができる。
【符号の説明】
【0059】
10a,10b 積層体(コイル部品)の側面
11 磁性基板
12 薄膜コイル層
13,13a〜13d バンプ電極
14 磁性樹脂層
15,15a〜15d 絶縁層
16 第1のスパイラル導体
17 第2のスパイラル導体
18 第1のコンタクトホール導体
19 第2のコンタクトホール導体
20〜23 引き出し導体
24,24a-24d 端子電極
25 開口
26 磁性コア
27 バンプ電極
100 コイル部品
200 コイル部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性セラミック材料からなる磁性基板と、
前記磁性基板の一方の主面に形成されたコイル導体を含む薄膜コイル層と、
前記薄膜コイル層の主面に形成されたバンプ電極と、
前記バンプ電極の形成位置を除いた前記薄膜コイル層の前記主面に形成された絶縁樹脂層とを備え、
前記バンプ電極は、めっきにより形成された厚膜電極であることを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記バンプ電極の厚さは、前記薄膜コイル層内の導体パターンよりも厚いことを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記バンプ電極は、前記薄膜コイル層内の前記導体パターンの5倍以上の厚さを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記バンプ電極の厚さは、0.08mm以上0.1mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記バンプ電極は、前記絶縁樹脂層と同等かそれ以上の厚さを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記絶縁樹脂層と接する前記バンプ電極の側面がエッジのない曲面形状を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記絶縁樹脂層は磁性粉含有樹脂材料からなり、
前記コイル導体は、互いに磁気結合する第1及び第2のスパイラル導体を含み、前記第1及び第2のスパイラル導体はコモンモードフィルタを構成していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記第1及び第2のスパイラル導体の内側に設けられた磁性コアをさらに備え、
前記磁性コアは、前記絶縁樹脂層と同一の材料で同時に形成されたものであることを特徴とする請求項7に記載のコイル部品。
【請求項9】
磁性セラミック材料からなる磁性基板の一方の主面にコイル導体を含む薄膜コイル層を形成する工程と
前記薄膜コイル層の主面に露出する前記コイル導体の端子電極上にバンプ電極をめっきにより形成する工程と、
前記バンプ電極が形成された前記薄膜コイル層の前記主面に絶縁樹脂のペーストを充填し、前記ペーストを硬化させることにより、前記バンプ電極の周囲に絶縁樹脂層を形成する工程と、
前記絶縁樹脂層の上面を研磨又は研削して前記バンプ電極の上面を露出させる工程とを備えることを特徴とするコイル部品の製造方法。
【請求項10】
前記バンプ電極は、前記薄膜コイル層内の前記導体パターンの5倍以上の厚さを有することを特徴とする請求項9に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項11】
前記バンプ電極の厚さは、0.08mm以上0.1mm以下であることを特徴とする請求項9又は10に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項12】
前記バンプ電極は、前記絶縁樹脂層と同等かそれ以上の厚さを有することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項13】
前記薄膜コイル層を形成する工程は、互いに磁気結合する第1及び第2のスパイラル導体を形成する工程と、前記第1及び第2のスパイラル導体の内側に設けられた磁性コアを形成する工程とを含み、
前記磁性コアは、前記絶縁樹脂層と同一の材料で同時に形成されることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか一項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項14】
前記磁性セラミック材料からなるウェハー上に前記コイル部品を複数形成する工程と、前記複数のコイル部品を個片化する工程とを備えることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか一項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項15】
前記ウェハー上に形成された複数のコイル部品を個片化した後、各コイル部品の外表面をバレル研磨してエッジを除去する工程と、
前記各コイル部品の表面に露出するバンプ電極の表面をめっきする工程をさらに備えることを特徴とする請求項14に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項16】
前記ウェハー上の前記複数のコイル部品を個片化する工程は、前記バンプ電極上を通過する位置でダイシングする工程を含むことを特徴とする請求項15に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項17】
前記ウェハー上の前記複数のコイル部品を個片化する工程は、前記バンプ電極の外側を通過する位置でダイシングする工程を含むことを特徴とする請求項15に記載のコイル部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−84936(P2012−84936A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21754(P2012−21754)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2009−158259(P2009−158259)の分割
【原出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】