説明

コイル

【課題】ケースに充填される樹脂の充填量が抑えられることにより小型化され、かつ信頼性も確保されたコイルを提供する。
【解決手段】コイル100は、ケース1と、巻線ボビン2と、出力ピン3a,3bと、巻線用電線4と、エポキシ樹脂部5とを有している。ケース1は、内面側に突起している凸部17a,17bを有し、かつ上方側に開口している。巻線ボビン2はケース1内に配されている。出力ピン3a,3bは巻線ボビン2の上方に設けられている。巻線用電線4は、巻線ボビン2に巻かれたコイル部4aと、出力ピンに固定されたピン巻付部4bとを有している。エポキシ樹脂部5は、コイル部4aを覆うようにケース1内に充填されている。出力ピン3a,3bおよびピン巻付部4bと凸部17a,17bとの間に、少なくとも一部がエポキシ樹脂部5により充填された隙間12が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルに関し、特に、ケースを充填する樹脂部を有するコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、入力電圧を昇圧するためのコイルが広く用いられている。このようなコイルを含む装置としては、たとえば特開2003−45611号公報に記載されたイオン発生装置がある。このイオン発生装置は、商用電源からの電圧を略4.6kVの高電圧に昇圧してイオン発生に用いている。このイオン発生装置は、ケースと、昇圧コイルと、回路基板と、第1および第2の充填材とを有してる。ケースは上側に開口部を有している。また昇圧コイルには端子が設けられている。またケースにはコイル収容室が設けられている。このイオン発生装置の製造工程は、以下の工程を含んでいる。
【0003】
まず、端子が上向きになるように昇圧コイルがコイル収容室に挿入される。次にエポキシ樹脂などの絶縁耐力に優れた樹脂材料がコイル収容室に充填されて固化されることで、昇圧コイルを絶縁モールドする第1の充填材が形成される。次にケースの内部に上側開口部を経て回路基板が挿入される。これにより昇圧コイルの上方に回路基板が配置される。次に昇圧コイルの端子と回路基板とが溶着される。次にウレタン樹脂などの流動性に優れた樹脂材料の充填と固化とが行なわれることにより、回路基板などを絶縁モールドする第2の充填材が形成される。
【特許文献1】特開2003−45611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1の技術では、ケースに第1の充填材が充填される。この第1の充填材の体積が抑制されれば装置を小型化することができる。しかし、第1の充填材の充填が不十分となって、第1の充填材により保護されるべきコイルの巻線用電線が露出するため、コイルの信頼性が低下するという問題があった。
【0005】
また上記の第1の充填材の充填が不十分な箇所に第2の充填材が充填されると、本来は第1の充填材により保護されるべきコイルの巻線用電線が、第2の充填材の熱膨張収縮によるストレスを受ける。第2の充填材として好適な流動性の高いウレタン樹脂などは熱膨張係数が大きいため、第2の充填材の熱膨張収縮により巻線用電線は大きなストレスを受ける。この結果、巻線用電線に断線などの不具合が生じるという問題があった。
【0006】
特に、コイルの小型化のために直径0.05mm以下の太さの巻線用電線が用いられている場合、巻線用電線の強度が高くないために、上記の各問題は、より深刻であった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ケースに充填される樹脂の充填量が抑えられることにより小型化され、かつ信頼性も確保されたコイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコイルは、ケースと、巻線ボビンと、端子部と、巻線用電線と、第1の樹脂部とを有している。ケースは、内面側に突起している凸部を有し、かつ上方側に開口している。巻線ボビンはケース内に配されている。端子部は巻線ボビンの上方に設けられている。巻線用電線は、巻線ボビンに巻かれた第1の部分と、端子部に固定された第2の部分とを有している。第1の樹脂部は、第1の部分を覆うようにケース内に充填されている。端子部および第2の部分と凸部との間に、少なくとも一部が第1の樹脂部により充填された隙間が形成されている。
【0009】
本発明のコイルによれば、端子部および第2の部分と凸部との間に、少なくとも一部が第1の樹脂部により充填された隙間が形成されている。第1の樹脂部の形成時に、このような隙間内では、開放された空間と比して、より上方まで液状の樹脂が充填される。よって、樹脂の充填量を増やさなくても、第2の部分の近傍において、より上方まで巻線用電線を保護することができる。これにより小型であり、かつ信頼性の高いコイルを得ることができる。
【0010】
上記のコイルにおいて好ましくは、隙間は少なくとも一の種類の樹脂が液状状態の場合に毛管現象が生じる寸法を有し、第1の樹脂部は硬化状態の前記樹脂からなる。
【0011】
第1の樹脂部の形成時に、この毛管現象に起因して、より上方まで液状の樹脂が隙間に充填される。これにより、より上方まで第1の樹脂部を形成することができる。
【0012】
上記のコイルにおいて好ましくは、凸部はケースの凸部以外の部分と一体成型されている。
【0013】
これにより凸部の取り付け作業が不要となる。また凸部以外の部分と凸部との間の強度を大きくすることができる。
【0014】
上記のコイルにおいて好ましくは、隙間の上端の高さが第2の部分の下端の高さよりも高い。
【0015】
これにより、この下端の高さよりも下方に存在する巻線用電線が第1の樹脂部により保護される。よって、コイルの信頼性を、より高めることができる。
【0016】
上記のコイルにおいて好ましくは、第2の部分が端子部にはんだ付けされた部分を有し、前記隙間の上端の高さがはんだ付けされた部分の下端の高さよりも高い。
【0017】
これにより、はんだ付けされた部分の下方の、はんだ付けにより確実に固定されていない部分が、第1の樹脂部により保護される。よってコイルの信頼性をより高めることができる。
【0018】
上記のコイルにおいて好ましくは、巻線用電線の太さは直径0.05mm以下である。
これにより、コイルの巻数を維持しつつ、コイルを小型化することができる。
【0019】
上記のコイルにおいて好ましくは、コイルは、第1の樹脂部の上に設けられ、かつ第1の樹脂部の熱膨張係数よりも大きい熱膨張係数を有する第2の樹脂部をさらに備えている。
【0020】
これにより、巻線用電線は熱膨張係数の大きい第2の樹脂部から第1の樹脂部で保護された構成を有する。このため熱膨張収縮する第2の樹脂部からのストレスにより巻線用電線が断線したりする不具合の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、小型であり、かつ信頼性の高いコイルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるコイルの構成を概略的に示す分解斜視図である。
【0023】
図1を参照して、本実施の形態のコイル100は、主に、ケース1と、巻線ボビン2と、出力ピン(端子部)3aおよび3bと、巻線用電線4(電線)と、エポキシ樹脂部(第1の樹脂部)(図1において図示せず)とを有している。
【0024】
ケース1は、上方側(図中の上側)に開口しており、内面側に突起している凸部17aおよび17bと、ケース1のうち凸部17aおよび17b以外の部分である基部16とを有している。凸部17aおよび17bと、基部16とは一体成型されている。巻線ボビン2は、ケース1内に配されており、凹部18aおよび18bを有している。凹部18aおよび18bのそれぞれに、凸部17aおよび17b各々の下部が嵌め込まれている。出力ピン3aおよび3bは、巻線ボビン2の上方に設けられている。
【0025】
巻線用電線4は、巻線ボビン2に巻かれた部分であるコイル部4a(第1の部分)と、出力ピン3aおよび3bのそれぞれに固定された部分であるピン巻付部4b(第2の部分)と、コイル部4aおよびピン巻付部4bの間の部分である配線部4c(第3の部分)とを有している。巻線用電線4の太さは、たとえば直径0.03mm以上0.05mm以下である。この巻線用電線4のコイル部4aを覆うように、エポキシ樹脂がケース1内に充填されている。
【0026】
なおコイル100は上記の構成に加えて、入力電圧が印加される入力ピン33aおよび33bと、この入力ピン33aおよび33bとのそれぞれに両端が接続された巻線用電線34と、磁心41とを有している。この構成により、入力ピン33aおよび33bの間に印加された電圧が昇圧されて出力ピン3aおよび3bの間に出力される。
【0027】
図2は、本発明の実施の形態1におけるコイルの出力ピンの近傍を概略的に示す部分斜視図である。なお図2においては、図を見やすくするために、ケース1の基部16およびエポキシ樹脂部を図示していない。
【0028】
主に図2を参照して、出力ピン3aの下部は、隙間12を介して凸部17aと対向している。出力ピン3aおよび凸部17aの間を隔てる隙間12の寸法は、エポキシ樹脂が液状状態の場合に毛管現象が生じる寸法を有している。この寸法は、たとえば0.5mmである。なお出力ピン3b(図1)の下部も、同様の隙間を介して凸部17b(図1)と対向している。
【0029】
図3は、本発明の実施の形態1におけるコイルの巻線用電線のピン巻付部の近傍を概略的に示す部分正面図である。なお図3においては、図を見やすくするために、ケース1の基部16およびエポキシ樹脂部を図示していない。
【0030】
図3を参照して、ピン巻付部4bはその上部に、はんだ部SDを有している。このはんだ部SDは、ピン巻付部4bのうちの、はんだ付けされた部分である。また出力ピン3aおよびピン巻付部4bと、凸部17aとの間に隙間12が形成されている。凸部17aの上端の高さHpは、ピン巻付部4bの下端の高さH1よりも高く、また、はんだ部SDの下端の高さH2よりも高い。
【0031】
図4は、図2のIV−IV線に沿った概略的な部分断面図である。なお図4においては、図2と異なり、ケースの基部も示されている。
【0032】
主に図4を参照して、ケース1(図1)の内部に、液状状態のエポキシ樹脂が充填されて硬化された部分であるエポキシ樹脂部5が設けられている。エポキシ樹脂部5のうち隙間12から遠い部分の上面は、大部分が高さHmを有しており、巻線用電線4のコイル部4a(図1)を被覆している。エポキシ樹脂部5のうち隙間12内の部分の高さは、高さHmよりも高く、凸部17aの上端の高さHpに近い高さである。このように隙間12においてエポキシ樹脂部5の上面の高さが高められているのは、エポキシ樹脂部5の形成時に液状状態のエポキシ樹脂に毛管現象が生じたためである。
【0033】
なお仮にケース1(図1)に凸部17aを設けずに出力ピン3a近傍で上記と同様の高さまでエポキシ樹脂部5を形成しようとすると、エポキシ樹脂部5の上面は図中破線に示すように上昇する。この結果、ケース1の大部分の位置において、エポキシ樹脂部5の上面の高さは、高さHmよりも高い高さHmCとなる。
【0034】
本実施の形態によれば、図3および図4に示すように、出力ピン3aおよびピン巻付部4bと凸部17aとの間に、エポキシ樹脂部5により充填された隙間12が形成されている。この隙間12内でエポキシ樹脂部5の上面の高さが高められているので、エポキシ樹脂部5の充填量を増やさなくても、ピン巻付部4bの近傍において、より上方まで巻線用電線4を保護することができる。この結果、小型であり、かつ信頼性の高いコイル100を得ることができる。
【0035】
また、隙間12はエポキシ樹脂が液状状態の場合に毛管現象が生じる寸法を有しているので、毛管現象により、隙間12におけるエポキシ樹脂部5の上面の高さを高めることができる。
【0036】
また、凸部17aおよび17bのそれぞれはケース1の基部16と一体成型されているので、凸部17aおよび17bの取り付け作業が不要となる。また、基部16と、凸部17aおよび17bのそれぞれとの間の強度を大きくすることができる。
【0037】
また、図3に示すように、隙間12の上端の高さHpがピン巻付部4bの下端の高さH1よりも高い。これにより、この下端の高さH1よりも下方に存在する配線部4cが、エポキシ樹脂部5により確実に保護される。よって、コイル100の信頼性を、より高めることができる。
【0038】
また、図3に示すように、隙間12の上端の高さHpがはんだ部SDの下端の高さH2よりも高い。これにより、はんだ部SDの下方のはんだ付けにより確実に固定されていない部分がエポキシ樹脂部5(図4)により確実に保護される。よってコイル100の信頼性をより高めることができる。
【0039】
また、巻線用電線4の太さは直径0.05mm以下であるので、コイル100の巻数を維持しつつ、コイル100を小型化することができる。
【0040】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2における、コイルを含むイオン発生装置の構成を概略的に示す一部断面正面図である。図6は、図5の破線部VIの位置におけるコイルの概略的な部分断面図である。なお、図5においては、図を見易くするために、ウレタン樹脂部(第2の樹脂部)については、その上面位置のみを実線で示している。
【0041】
図5および図6を参照して、本実施の形態のイオン発生装置200は、実施の形態1において説明したコイル100と、ウレタン樹脂部7(第2の樹脂部)とからなるコイルを有している。またこのイオン発生装置200はさらに、装置用ケース8と、回路基板9と、配線43と、イオン発生電極42とを有している。装置用ケース8にはコイル100が収納され、さらにウレタン樹脂部7が充填されている。これにより、エポキシ樹脂部5の上に、エポキシ樹脂部5よりも熱膨張係数の大きいウレタン樹脂部7が形成されている。回路基板9は、出力ピン3aおよび3bのそれぞれと接続されている。イオン発生電極42は、コイル100の出力ピン3aおよび3bに配線43を介して接続されており、高電圧の供給を受けることができる。
【0042】
なお仮にケース1(図1)に凸部17aを設けずに出力ピン3a近傍で実施の形態1と同様の高さまでエポキシ樹脂部5を形成しようとすると、エポキシ樹脂部5の上面は、図6の破線に示すように上昇する。すなわち、大部分の位置において、エポキシ樹脂部5の上面の高さは、高さHmよりも高い高さHmCとなる。この結果、イオン発生装置200の製造工程において回路基板9がコイル100の上方に取り付けられる際に、図6に示すように回路基板9の底面とエポキシ樹脂部5の上面とが衝突してしまい、回路基板9に故障が発生する可能性がある。
【0043】
本実施の形態のイオン発生装置200に含まれるコイルによれば、図6に示すように、ウレタン樹脂部7がエポキシ樹脂部5上に設けられている。このエポキシ樹脂部5は、実施の形態1で説明したように、巻線用電線4(図1)のうちの不具合が生じやすい部分を被覆している。このため熱膨張係数が大きいことにより周囲にストレスを与えやすいウレタン樹脂部7により巻線用電線4が断線するなどの不具合が生じることが防止される。
【0044】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ケースを充填する樹脂部を有するコイルに特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態1におけるコイルの構成を概略的に示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるコイルの出力ピンの近傍を概略的に示す部分斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるコイルの巻線用電線のピン巻付部の近傍を概略的に示す部分正面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿った概略的な部分断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2における、コイルを含むイオン発生装置の構成を概略的に示す一部断面正面図である。
【図6】図5の破線部VIの位置におけるコイルの概略的な部分断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ケース、2 巻線ボビン、3a,3b 出力ピン、4,34 巻線用電線、4a コイル部、4b ピン巻付部、4c 配線部、5 エポキシ樹脂部、7 ウレタン樹脂部、8 装置用ケース、9 回路基板、33a,33b 入力ピン、41 磁心、42 イオン発生電極、43 配線、100 コイル、200 イオン発生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面側に突起している凸部を有し、かつ上方側に開口しているケースと、
前記ケース内に配された巻線ボビンと、
前記巻線ボビンの上方に設けられた端子部と、
前記巻線ボビンに巻かれた第1の部分と、前記端子部に固定された第2の部分とを有する電線と、
前記第1の部分を覆うように前記ケース内に充填された第1の樹脂部とを備え、
前記端子部および前記第2の部分と前記凸部との間に、少なくとも一部が前記第1の樹脂部により充填された隙間が形成されている、コイル。
【請求項2】
前記隙間は少なくとも一の種類の樹脂が液状状態の場合に毛管現象が生じる寸法を有し、前記第1の樹脂部は硬化状態の前記樹脂からなる、請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記凸部は前記ケースの前記凸部以外の部分と一体成型されている、請求項1または2に記載のコイル。
【請求項4】
前記隙間の上端の高さが前記第2の部分の下端の高さよりも高い、請求項1〜3のいずれかに記載のコイル。
【請求項5】
前記第2の部分が前記端子部にはんだ付けされた部分を有し、前記隙間の上端の高さが前記はんだ付けされた部分の下端の高さよりも高い、請求項1〜3のいずれかに記載のコイル。
【請求項6】
前記電線の太さは直径0.05mm以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のコイル。
【請求項7】
前記第1の樹脂部の上に設けられ、かつ前記第1の樹脂部の熱膨張係数よりも大きい熱膨張係数を有する第2の樹脂部をさらに備えた、請求項1〜6のいずれかに記載のコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−146937(P2009−146937A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319661(P2007−319661)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】