説明

コイン形電池およびその製造方法

【課題】少ない界面活性剤の添加量で、活物質とカーボン、バインダーとの密着性を向上させ、高負荷電流特性を改良できるコイン形電池とその製造方法を提供する。
【解決手段】微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤を練合し、これに導電剤、バインダー、溶媒を加えて練合し、これを乾燥した後に粉砕したものを加圧成型してペレット状の電極1、2を形成し、この電極を乾燥させた後他方の電極とセパレータ3を介して対向配置したものを電解液と共に外装体に封入するコイン形電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器の電源として利用されるコイン形電池とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において高出力、高エネルギー密度の電池として、非水電解液を用いた電池であるリチウム電池やリチウム二次電池が多くの電子機器などの電源として用いられている。これらの非水電解液を用いた電池は、電解液が水溶液である電池に比べて放電電圧が高く、低温特性や長期保存特性に優れており、様々な形状のものが実用化されている。特に、コイン形状を有したコイン形電池は小型かつ軽量である。
【0003】
コイン形電池には一次電池と二次電池があり、一次電池は主に正極をマンガン酸化物、負極をリチウム金属とした二酸化マンガンリチウム電池が多くの電子機器で使用されている。また、近年では高温下で使われる車載用途にも使用され始め、その分野は広がってきている。
【0004】
一方、二次電池では、主に正極にマンガン酸リチウムを用い、負極にリチウムアルミニウム合金を用いたマンガンリチウム二次電池が小型電子機器のメモリーバックアップ用電源として使用されている。しかしながら、負極にリチウムアルミニウム合金を用いた場合、放電容量に対し100%深度まで放電する充放電サイクルを行うと、負極の表面が脆化し導電性が取れなくなるため、数十サイクルで放電容量が得られなくなり主電源用には向いていない。
【0005】
そこで、100サイクル以上の充放電サイクルが必要とされる主電源用として、正極にマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどを用い、負極にチタン酸リチウム、シリコン酸化物、黒鉛などを用いた二次電池が多く開発されている。これらの二次電池では、負極活物質構造の層間にリチウムが脱挿入しやすく劣化が少ないため放電容量に対し100%深度まで放電する充放電サイクルを行っても、100サイクル以上放電容量が得られる。
【0006】
さらに主電源用途では、機器の電波発信などの高負荷電流が必要とされることが多い。高負荷電流特性を向上するために、活物質や導電剤の単位質量当たりの表面積を増やす方法のひとつとして、材料の粒径を小さくする方法がある。この方法の場合、活物質の粒径が小さくなるほど単粒子あたりの質量が軽くなるため、活物質粒子同士の分子間力や静電気などによる帯電の影響が大きくなり活物質同士で凝集してしまい、粒径を小さくして表面積を増加した効果を得ることは容易ではない。
【0007】
凝集・分散を改善する方法としては、界面活性剤を使用して、混合・練合する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、界面活性剤を用いた場合、常圧(大気圧)雰囲気で200℃以上の高温で熱処理すると、界面活性剤によって正極活物質である二酸化マンガンの酸素が奪われ(酸素欠損)、放電性能に有効な二酸化マンガンが減少し放電性能に大きな影響を及ぼす。そのため、その使用は、0.1質量%から1.0質量%が好ましいと提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−310522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、従来の混合・練合方法では、活物質の粒径が小さくなるほど活物質粒子同士の分子間力や静電気などによる帯電の影響が大きくなり活物質同士で凝集するため、活物質の凝集を抑えて分散性を向上するためには界面活性剤を多く入れなければならなかった。
【0010】
本発明は、従来よりも少ない界面活性剤の添加量で、従来と同等以上に活物質とカーボン、バインダーとの密着性を向上させ、高負荷電流特性を改良できるコイン形電池とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、予め微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤とを練合したものに、さらに導電剤、バインダー、溶媒を加えて練合し、乾燥した後粉砕したものを加圧成型してペレット状の一方の電極を形成し、この電極を乾燥させた後、他方の電極とセパレータを介して対向配置させ、電解液とともに外装体に封入したコイン形電池である。
【0012】
また本発明は、予め微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤とを練合したものに、さらに導電剤、バインダー、溶媒を加えて練合し、乾燥した後粉砕したものを加圧成型してペレット状の一方の電極を形成し、この電極を乾燥させた後、他方の電極とセパレータを介して対向配置させ、電解液とともに外装体に封入するコイン形電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微粉末状の活物質と導電剤、バインダーの密着性が向上し、高負荷電流特性が向上するコイン形電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るコイン形電池の断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による第1の発明は、予め微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤とを練合したものに、さらに導電剤、バインダー、溶媒を加えて練合し、乾燥した後粉砕したものを加圧成型してペレット状の一方の電極を形成し、この電極を乾燥させた後、他方の電極とセパレータを介して対向配置させ、電解液とともに外装体に封入したコイン形電池である。
【0016】
すなわち予め微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤を練合することにより、微粉末状の活物質の間にノニオン界面活性剤が入り込み凝集を抑え、さらに導電剤を取り込みながら練合されるため、微粉末状の活物質と導電剤、バインダーの密着性を向上した電極が形成でき、高負荷電流特性が向上するコイン形電池を提供することができる。
【0017】
本発明による第2の発明は、第1の発明において、前記ノニオン界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテル系のものであるコイン形電池である。
【0018】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系を用いることで微粉末状の活物質と導電剤、バインダーの密着性をより向上し、更に200℃以上の高温熱処理で充分分解するので電池特性を低下させず、高負荷電流特性が向上するコイン形電池を提供することができる。
【0019】
本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記ノニオン界面活性剤が電極固形分に
対して0.1質量%以上0.4質量%以下添加されたコイン形電池である。
【0020】
添加量をこの範囲にすることで、従来よりも少ない量で高負荷電流特性が向上するコイン形電池を提供することができる。
【0021】
本発明の第4の発明は、第1の発明において、前記活物質の平均粒径が0.5μm以上10μm以下であるコイン形電池である。
【0022】
活物質の平均粒径をこの範囲にすることで、活物質の表面積が増え、活物質と導電剤、バインダーの密着箇所が増えるため従来よりも高負荷電流特性が向上するコイン形電池を提供することができる。
【0023】
本発明の第5の発明は、予め微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤とを練合したものに、さらに導電剤、バインダー、溶媒を加えて練合し、乾燥した後粉砕したものを加圧成型してペレット状の一方の電極を形成し、この電極を乾燥させた後、他方の電極とセパレータを介して対向配置させ、電解液とともに外装体に封入するコイン形電池の製造方法である。
【0024】
予め微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤を練合することにより、微粉末状の活物質の間にノニオン界面活性剤が入り込み凝集を抑え、さらに導電剤を取り込みながら練合されるため、微粉末状の活物質と導電剤、バインダーの密着性を向上した電極が形成でき、高負荷電流特性が向上するコイン形電池を提供することができる。
【0025】
本発明の第6の発明は、前記ペレット状の電極の乾燥温度を200℃以上300℃以下とするコイン形電池の製造方法である。
【0026】
電極の乾燥温度をこの範囲にすることで、ノニオン界面活性剤が活物質表面で抵抗成分になることなく加熱分解され、従来よりも高負荷電流特性に優れたコイン形電池を提供することができる。
【0027】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。なお、以下に示す一実施の形態は本発明を具現化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0028】
図1は、本発明のコイン形電池の断面図である。
【0029】
本発明に用いる非水電解液を用いたコイン形電池は、封口板5とガスケット4を一体化した内部に、負極2を設置した後、セパレータ3を挿入し、このセパレータ3に非水電解液を含浸した後、正極1を設置し、正極ケース6を嵌合後、折曲加工して封止することで作製される。
【0030】
正極1は、活物質と界面活性剤と導電剤とバインダーから構成される。その製造方法は、活物質と界面活性剤を練合した後に導電剤、バインダーを練合する。この練合の際には、スラリーにならない程度に適宜イオン交換水を添加しても良い。そして練合物を乾燥した後、秤量し加圧成型してペレット形状にし、ペレット形成後さらに乾燥させ、正極1を作製する。
【0031】
このように、微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤を練合することで、微粉末状の活物質の間に界面活性剤が入り込み凝集を抑え、さらに導電剤を取り込みながら練合するため、微粉末状の活物質と導電剤、バインダーの密着性が向上した電極を形成でき、高負荷電流特性が向上するコイン形電池を提供することができる。活物質と導電剤を先に練合さ
せた場合は、界面活性剤を混ぜ合わせる時点で活物質同士、導電剤同士が凝集しているので、後から界面活性剤を入れると活物質と導電剤両方の凝集を抑えるために多量の界面活性剤が必要である。しかし先に活物質と界面活性剤を混ぜると少量の界面活性剤で凝集が抑制され、活物質が導電剤と密着する機会が増加し、更に活物質と界面活性剤が導電剤を取り込みながら練合することができるため良好な結果が得られるものと考えられる。
【0032】
活物質は、リチウムの吸蔵・放出が可能である結晶構造を持つ金属酸化物、あるいは500℃以上で焼成して得られる金属酸化物であればいかなるものでも良く、二酸化マンガン、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、V、Nbなどが挙げられる。
【0033】
界面活性剤は、ノニオン界面活性剤であればいかなるものでも良く、特にポリオキシエチレンアルキルエーテル系を用いることで、活物質と導電剤、バインダーの密着性を向上し、更に200℃以上の高温熱処理で分解するので電池特性を低下させず、高負荷電流特性が向上するコイン形電池を提供することができる。
【0034】
また、その添加量は電極固形分に対して0.1質量%以上0.4質量%以下が最も良い。二酸化マンガンでは添加量が多いほど二酸化マンガンの酸素欠損が生じるため、より少ないほうが好ましい。
【0035】
活物質の平均粒径は0.5μm以上10μm以下が最も良い。ここでいう平均粒径は、メジアン径のことを示している。平均粒径が0.1μmより小さい場合、活物質同士の凝集が強いため導電剤、バインダーとの密着性が不足し高負荷放電特性が低下する。また、20μmより大きい場合、凝集性は弱くノニオン界面活性剤を添加しない場合と高負荷放電特性が同レベルであり、その効果が小さい。
【0036】
電極の乾燥温度は、200℃以上300℃以下がより好ましい。この温度範囲においてノニオン界面活性剤が加熱分解でき、活物質表面で抵抗成分になることなく反応性を維持できるため高負荷電流特性に優れる。200℃未満では界面活性剤が分解せずに活物質表面に残って、抵抗成分になるため高負荷電流特性が低下する。300℃より高い温度では、バインダーが分解するため活物質と導電剤の密着性が低下し、高負荷電流特性が低下する。
【0037】
導電剤は、カーボンが主に用いられ、鎖状構造のアセチレンブラック、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0038】
バインダーは、フッ素系、ゴム系、アクリル酸系などが挙げられる。特に耐熱性に優れるフッ素系が好ましい。
【0039】
負極2は、金属系ではリチウム金属、合金系ではリチウムアルミニウム合金、酸化珪素に金属添加した合金などが挙げられる。
【0040】
また、リチウムの吸蔵・放出が可能である層状構造あるいは結晶構造を持つ金属酸化物であればいかなるものでも良い。特にリチウムのインターカレーションに適している黒鉛、チタン酸リチウム、シリコン酸化物などが挙げられる。
【0041】
導電剤は、カーボンが主に用いられ、鎖状構造のアセチレンブラック、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0042】
バインダーは、フッ素系、ゴム系、アクリル酸系などが挙げられる。特に耐熱性に優れ
るフッ素系が好ましい。
【0043】
活物質にリチウムの吸蔵・放出が可能である層状構造あるいは結晶構造を持つ金属酸化物を用いる場合は、正極1と同様の製造方法にて電極を作製できる。
【0044】
セパレータ3は、負極2と正極1とを絶縁するものであればいかなるものでも良く、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などが挙げられる。
【0045】
ガスケット4は、融点が高い耐熱性に優れたテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素を含有した高分子材料が用いられる。
【0046】
封口板5は、ステンレス鋼であればいかなるものでも良く、負極2にリチウムとアルミニウムの合金を使用する場合には、内面にアルミニウムを配置した構造のステンレス鋼でも良い。
【0047】
正極ケース6は、ステンレス鋼、アルミニウム鋼などが用いられる。
【0048】
非水電解液は、非水溶媒液に電解質を溶かしたものであればいかなるものでも良い。非水溶媒液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメトキシエタン、ガンマーブチルラクトンなどが挙げられる。電解質としては、LiPF、LiBF、LiNCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiClOなどが挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0050】
(電池Aの作製)
正極1は、正極活物質として平均粒径が10μmである微粉末状のコバルト酸リチウムLiCoOを90質量%と、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを0.1質量%と、導電剤として粉末状のカーボンブラック5質量%と、バインダーとしてイオン交換水にディスパージョンしたポリテトラフルオロエチレンを5質量%から構成される。
【0051】
その製造方法は、微粉末状のコバルト酸リチウムとポリオキシエチレンアルキルエーテルをスラリー状にならない程度にイオン交換水を添加しながら練合する。その練合物に、カーボンブラックとイオン交換水にディスパージョンしたポリテトラフルオロエチレンを添加し、更に練合する。そして80℃下で24時間乾燥した後、粉砕を行い、正極合剤とする。
【0052】
この正極合剤を30mg秤量し、直径3.8mm、厚み0.90mmのペレット状に加圧成型した後、250℃にて24時間熱風乾燥し、正極1を作製した。
【0053】
負極2は、負極活物質としてチタン酸リチウムLi4/3Ti5/3を90質量%と、カーボンブラックを5質量%と、スチレンブタジエンラバーを5質量%とを練合する。そして80℃下で24時間乾燥した後、負極合剤とした。この負極合剤を24mg秤量し、直径4.0mm、厚み0.85mmのペレット状に加圧成型した後、100℃下で24時間乾燥し負極2を作製した。
【0054】
この負極2をガスケット4と一体化した封口板5の内部に設置した後、ポリプロピレンからなるセパレータ3を挿入する。このセパレータ3にエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネ―トを1:3の割合で混合した溶媒に、LiPFを1mol/lの濃度で溶解した非水電解液を含浸する。その後正極1を設置し、正極ケース6を嵌合後封口し、直径6.8mm、厚み2.1mmの電池Aを作製した。
【0055】
(電池Bの作製)
前記ノニオン界面活性剤の電極固形分当り0.05質量%添加した以外は電池Aと同様にして電池Bを作製した。
【0056】
(電池Cの作製)
前記ノニオン界面活性剤の電極固形分当り0.2質量%添加した以外は電池Aと同様にして電池Cを作製した。
【0057】
(電池Dの作製)
前記ノニオン界面活性剤の電極固形分当たり0.4質量%添加した以外は電池Aと同様にして電池Dを作製した。
【0058】
(電池Eの作製)
前記ノニオン界面活性剤の電極固形分当たり1.0質量%添加した以外は電池Aと同様にして電池Eを作製した。
【0059】
(電池Gの作製)
その製造方法は、微粉末状のコバルト酸リチウムを90質量%と、カーボンブラック5質量%とを混合した後、ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.1質量%をスラリー状にならない程度にイオン交換水を添加しながら練合する。その練合物に、イオン交換水にディスパージョンしたポリテトラフルオロエチレンを添加し、更に練合する。そして80℃下で24時間乾燥した後、粉砕を行い、正極合剤としたこと以外は電池Aと同様にして電池Gを作製した。
【0060】
(電池Fの作製)
前記ノニオン界面活性剤の電極固形分当り0.05質量%添加した以外は電池Gと同様にして電池Fを作製した。
【0061】
(電池Hの作製)
前記ノニオン界面活性剤の電極固形分当り0.2質量%添加した以外は電池Gと同様にして電池Hを作製した。
【0062】
(電池Iの作製)
前記ノニオン界面活性剤の電極固形分当り0.4質量%添加した以外は電池Gと同様にして電池Iを作製した。
【0063】
(電池Jの作製)
前記ノニオン界面活性剤の電極固形分当り1.0質量%添加した以外は電池Gと同様にして電池Jを作製した。
【0064】
以上のように作製した電池A〜Jをそれぞれ10個作製し、2.6Vにて充電した後、−10℃下で5mAの放電電流で5秒後の電池電圧を確認した。
【0065】
(表1)にその結果を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
先に界面活性剤を混ぜた電池A〜Eでは後から界面活性剤を混ぜた電池F〜Jに比較して、同じ放電試験の結果はいずれも高い電圧が得られている。これは、活物質と導電剤を先に練合させた場合は界面活性剤を混ぜ合わせる時点で活物質同士、導電剤同士が凝集しているので、活物質の凝集だけでなく導電剤の凝集を抑えることにも界面活性剤が使われてしまっているため、活物質が導電剤と密着する機会が減少したためと考えられる。
【0068】
電池A、C、Dでは、高負荷電流特性が1.65V以上の特性が得られた。ノニオン界面活性剤を0.05質量%、1.0質量%添加した電池B、Eでは、高負荷電流特性が1.55Vより低かった。
【0069】
ノニオン界面活性剤の添加が0.1質量%以上0.4質量%以下である電池A、C、Dでは、微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤を先に練合することにより、微粉末状の活物質の間に界面活性剤が入り込み活物質同士の凝集を抑えている。その後、導電剤を取り込みながら練合するため、微粉末状の活物質と導電剤、バインダーの密着性が向上した電極を形成でき、高負荷電流特性が向上した。
【0070】
ノニオン界面活性剤の添加が1.0質量%である電池Eでは、界面活性剤量が多いため活物質の凝集だけでなく導電剤の凝集も抑制しているが、活物質および導電剤の密着面が増加しているため練合時には密着しているが、ペレット状に加圧成型し熱風乾燥した後に膨張が大きいため、高負荷電流特性が低下したと考察される。
【0071】
続いて活物質の平均粒径について検討を行った。
【0072】
(電池Kの作製)
前記活物質として、平均粒径が0.1μmであるものを用いた以外は電池Dと同様にして電池Kを作製した。
【0073】
(電池Lの作製)
前記活物質として、平均粒径が0.5μmであるものを用いた以外は電池Dと同様にして電池Lを作製した。
【0074】
(電池Mの作製)
前記活物質として、平均粒径が5.0μmであるものを用いた以外は電池Dと同様にし
て電池Mを作製した。
【0075】
(電池Nの作製)
前記活物質として、平均粒径が10μmであるものを用いた以外は電池Dと同様にして電池Nを作製した。
【0076】
(電池Oの作製)
前記活物質として、平均粒径が20μmであるものを用いた以外は電池Dと同様にして電池Oを作製した。
【0077】
(表2)にその結果を示す。
【0078】
【表2】

【0079】
電池L、M、Nでは、高負荷電流特性が、1.65V以上の特性が得られた。活物質の平均粒径が0.1μmである電池K、活物質の平均粒径が20μmである電池Oでは、1.6Vより低かった。
【0080】
活物質の平均粒径が0.5μm以上10μm以下では活物質同士の凝集が抑えられ、さらに活物質の表面積が増加しているため高負荷電流特性が高かった。
【0081】
活物質の平均粒径が0.1μmである電池Kでは、活物質の粒子が小さいため凝集が強すぎるため高負荷電流特性が低下したと考察される。
【0082】
活物質の平均粒径が20μmである電池Oでは、活物質の粒子が大きいため高負荷電流特性が低下したと考察される。
【0083】
続いてペレット状の電極の乾燥温度を検討した。
【0084】
(電池Pの作製)
前記ペレット状の電極の乾燥温度を150℃とした以外は電池Dと同様にして電池Pを作製した。
【0085】
(電池Qの作製)
前記ペレット状の電極の乾燥温度を200℃とした以外は電池Dと同様にして電池Qを作製した。
【0086】
(電池Rの作製)
前記ペレット状の電極の乾燥温度を300℃とした以外は電池Dと同様にして電池Rを作製した。
【0087】
(電池Sの作製)
前記ペレット状の電極の乾燥温度を400℃とした以外は電池Dと同様にして電池Sを作製した。
【0088】
(表3)にその結果を示す。
【0089】
【表3】

【0090】
電池Q、Rでは、高負荷電流特性が1.65V以上得られた。電極の乾燥温度を150℃で行った電池P、400℃で行った電池Sでは、高負荷電流特性が1.6Vより低かった。
【0091】
電極の乾燥温度が200℃以上300℃以下では、電極中のノニオン界面活性剤が分解し、活物質表面で抵抗成分にならず高負荷電流特性が高かった。
【0092】
乾燥温度が150℃である電池Pでは、ノニオン界面活性剤が十分に分解していないため活物質表面の抵抗成分になり、高負荷電流特性が低下したと考察される。
【0093】
乾燥温度が400℃である電池Sでは、バインダーが分解しているため活物質と導電剤の密着性が低下し、高負荷電流特性が低下したと考察される。
【0094】
以上の結果から微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤を練合し、これに導電剤、バインダー、溶媒を加えて練合し、これを乾燥した後に粉砕したものを加圧成型してペレット上の電極を形成し、この電極を乾燥させた後他方の電極とセパレータを介して対向配置したものを電解液と共に外装体に封入することによって、導電性が向上し、高負荷電流特性に優れた電池を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、活物質と導電剤、バインダーの密着性が向上し、高負荷電流特性に優れたコイン形電池を提供することができ、各種電子機器の電源等として有用である。
【符号の説明】
【0096】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 封口板
6 正極ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤とを練合したものに、さらに導電剤、バインダー、溶媒を加えて練合し、乾燥した後粉砕したものを加圧成型してペレット状の一方の電極を形成し、この電極を乾燥させた後、他方の電極とセパレータを介して対向配置させ、電解液とともに外装体に封入したコイン形電池。
【請求項2】
前記ノニオン界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテル系のものである請求項1記載のコイン形電池。
【請求項3】
前記ノニオン界面活性剤が電極固形分に対して0.1質量%以上0.4質量%以下添加された請求項1記載のコイン形電池。
【請求項4】
前記活物質の平均粒径が0.5μm以上10μm以下である請求項1記載のコイン形電池。
【請求項5】
予め微粉末状の活物質とノニオン界面活性剤とを練合したものに、さらに導電剤、バインダー、溶媒を加えて練合し、乾燥した後粉砕したものを加圧成型してペレット状の一方の電極を形成し、この電極を乾燥させた後、他方の電極とセパレータを介して対向配置させ、電解液とともに外装体に封入するコイン形電池の製造方法。
【請求項6】
前記ペレット状の電極の乾燥温度を200℃以上300℃以下とする請求項5記載のコイン形電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−195129(P2012−195129A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57506(P2011−57506)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】