説明

ココア製品及び心血管状態を無糖ココアで処置する方法

本発明は、一態様では、血管内皮機能を改善するために、固形カカオ含有ココアパウダー又はココアポリフェノール含有エキスを含む製品を投与する方法を提供する。この無糖組成物及びその使用方法は、他の組成物と比較して、心血管に対する相乗的に改善された利益を示す。好ましい無糖チョコレート製品及びココア飲料も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、これに先立つ2006年2月16日出願の米国特許仮出願第60/777,708号の完全な優先権の利益を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、無糖ココア含有製品、ココアポリフェノール含有製品、関連製品、及び、心血管リスク因子を減らし健康を改善するための処置におけるその使用に関する。ヒト又は動物の摂取又は使用のためのさまざまな組成物を、心血管機能、心血管の健康及び全身の健康を改善するための処置計画とともに記載する。一実施形態では、無糖ココア含有製品は、低脂肪又は無脂肪製品とすることもでき、及び/又は付加的な食品添加物又は栄養補助食品を含有することもできる。このような製品は、とりわけ、健康維持、心血管若しくは血管の多様な状態の改善のための、及び/又は減量のための方法及び/又は食餌計画において使用できる。
【背景技術】
【0003】
心疾患、及びより一般的には心血管疾患は、35歳以上の米国人における第一位の死因である。心血管疾患の発症を予測できる定量化可能なリスク指標を同定することには多くの研究が捧げられてきた。血管内皮機能検査として一般に知られている手法は、心事象への総合的な罹患しやすさについての、拡大しつつある強力な評価尺度を代表している。血管内皮機能は、血管の挙動の評価尺度である。血管が適切に拡張又は収縮すれば、血管内皮機能は正常とみなされる。血流の変化に対する血管の反応性が、心臓の健康の指標である。具体的には、異常な血管内皮機能は、心血管疾患の初期マーカーとして認識されている。Bugiardiniら、「血管内皮機能が将来的な冠動脈疾患発症を予測する(Endothelial Function Predicts Future Development of Coronary Artery Disease)」、Circulation 109、2518〜2523(2004)を参照。
【0004】
血流依存性血管拡張反応(FMD)は、血管内皮機能の非侵襲的な検査法である。Celermajer D.S.ら、「アテローム性動脈硬化症リスクがある小児及び成人における血管内皮機能異常の非侵襲的検出(Non−invasive detection of endothelial dysfunction in children and adults at risk of atherosclerosis)」、Lancet 340、1111〜1115(1992)を参照。FMDは、カフにより誘導した虚血期間後の血流速度の増加に対応した、動脈の直径の増加を測定するものである。この手法は、伝統的に腕の上腕動脈で行われる。
【0005】
上腕動脈は、その機能が冠動脈と類似していることで注目されている。そのため上腕動脈は、堂々とした利用しやすい血管であると同時に、本明細書に記載の上腕動脈のFMD分析のように、冠動脈の状態を知るための非侵襲的で予測に役立つモデルであり、したがって将来的な心血管合併症を予測するうえで多大な力になるものと考えられている。Schroeder Sら、「冠動脈疾患のためのスクリーニング検査としての血管内皮依存性血管拡張反応の非侵襲的測定:狭心症と比較した予測値、運動負荷心電図検査、及び心筋血流撮像を評価する試験的研究(Noninvasive determination of endothelium−mediated vasodilation as a screening test for coronary artery disease:pilot study to assess the predictive value in comparison with angina pectoris,exercise electrocardiography,and myocardial perfusion imaging)」、Am Heart J.138(4 パート1)、731〜9(1999)を参照。
【0006】
さまざまな調査により、ココアポリフェノールと血管内皮機能との間の関連性が示されている。事実、抗酸化活性を有するいくつかの食品化合物が、血管内皮機能に対する顕著な効果を有することが示唆されている。例えば、Vita,J.A.、「ポリフェノールと心血管疾患:血管内皮及び血小板の機能に対する効果(Polyphenols and cardiovascular disease:effects on endothelial and platelet function)」、Am J Clin Nutr 81、292S〜7S(2005)を参照。ダークチョコレート又はココアを使用した2つの研究からは、健常志願者の血管内皮の機能全般が顕著に向上することが見出された。Engler MBら、「フラボノイドに富むチョコレートは健常成人において血管内皮機能を向上させ血漿エピカテキン濃度を上昇させる(Flavonoid−rich chocolate improves endothelial function and increases plasma epicatechin concentrations in healthy adults)」、J Am Coll Nutr 2004 23、197〜204;Heiss Cら、「フラバン3オールに富むココアの血管作用(Vascular effects of cocoa rich in flavan−3−ols)」、JAMA 2003 290、1030〜1を参照。別の研究では高血圧の被験者におけるこの効果を調査し、100gのダークチョコレートを15日間毎日摂取すると血管内皮機能、並びにインスリン抵抗性及び血圧に関する他の健康因子が顕著に改善することが見出された。Grassi Dら、「ココアは高血圧者における血圧及びインスリン抵抗性を低下させ血管内皮依存性血管拡張反応を改善する(Cocoa reduces blood pressure and insulin resistance and improves endothelium−dependent vasodilation in hypertensives)」、Hypertension 2005 46、1〜8を参照。
【0007】
このような研究によりココアフラバノール若しくはポリフェノールは潜在的な健康上の有益性を有し得ることが示されているものの、他の食品組成物とともに、又は特定のココア組成物若しくは配合物の形でココアを摂取することの相乗効果の可能性については、示唆さえ一切されていない。以下及び一態様で詳細に示すように、本発明は、栄養糖入りの従来のココア及びチョコレート組成物と比較した場合に血管内皮機能における明白でこれまでに開示されていない改善された特徴を有する新しい組成物及び、ココアの無糖配合物の新規の使用を提供する。別の態様では、本発明は、血管内皮機能に糖が関わっていない状態でココア又はココアポリフェノールを投与することの、これまでに知られていない相乗効果を新規に使用する。無糖ココアを摂取する対象において見られる改善は、対象の類似群に投与されるダークチョコレート組成物の使用と比較できる。無糖組成物のために改善された効果は、他の新規若しくは従来の食用製品及び食餌計画中で、又はその中に組み込んで使用することもでき、これにより例えば、健康上の相乗効果及び健康に有益な効果を生み出すために、ココアパウダー、エキス、及びココアポリフェノール入りの低脂肪又は無脂肪製品を製造及び使用できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、配合物から栄養糖が実質的に排除されている状態のココアを使用して血管内皮機能を改善するための組成物及びその方法に関する。より一般的には、この組成物及び方法は、心血管状態を改善し及び/又は心血管疾患を防止するための予防的若しくは治療的処置、例えばアテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、高血圧、心臓発作、卒中、若しくは血管循環状態の症状若しくは状況の処置、及び/又はこのような疾患若しくは状態、或いは、同様の又は関連する疾患若しくは状態のいずれかと関係があるリスク因子の改善などに使用できるが、これらに限定されない。リスク因子の特徴及び/又は改善は、例えばFMD法などいくつかの使用可能又は公知の方法のいずれかにより評価できる。具体的には、又、一実施形態では、本発明は、有害な心血管の状態若しくは疾患状況を防止、最小化又は好転させるために、ココアフラバノールが損なわれていない天然ココアを含有し非栄養甘味料を配合した組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下に示すように、ヒトの血管内皮機能の無作為化プラセボ対照臨床試験では、無糖ココアは血管内皮機能の状況に対する非常に強い効果を有することが実証されている。又、この試験から得られたデータは、ココア製品の中身を2群間でコントロールした場合、この効果が栄養糖入りのココアの作用と比較して驚くほど改善されたことを示してもいる。驚くべきことに、この無糖組成物は、栄養的には釣り合っているがココアを含有していないプラセボの効果の6倍を超える有益な効果を有し、又、加糖ココア(シュガーココア)と比較して2倍超又は3倍超の有益な効果を有している。本発明の無糖ココアの調合物及び組成物並びに方法は、オートミール、大豆食品、抗酸化ビタミンC及びE、並びに他の食品及び食品化合物よりはるかに強力に、血管内皮機能の状況を改善した(Katz,D.L.ら、J Am Coll Nutr、23(5)、397〜403(2004);Katz,D.L.ら、Prev Med、33(5)、476〜84(2001)を参照)。しかしながら、先ほども言及したように、この無糖組成物は、例えば、抗酸化剤、可溶性繊維、アルギニン、ω−3脂肪酸、オートミール、大豆、及びビタミンA及びCなどのビタミン添加物入りの食品など、他の健康成分、添加物、又は食用製品を配合することができる。形成される配合物は、本明細書で言及し実証される相乗効果を保持する新しい食用製品中の、当技術分野で公知であり使用されているような非栄養甘味料、糖アルコール、ポリオール、及び/又は高甘度甘味料などの1種又は複数種の糖代替品を、有利に含有できる。
【0010】
したがって、一態様では、本発明は天然ココアパウダー又はココアエキスを含有し糖代替品を配合した組成物を含むが、この場合ココアパウダー又はエキスは乾燥重量で組成物の約60%超又は約80%超、又は乾燥重量で組成物の約85〜95%に相当する量を占める。本発明の別の態様は、天然ココアパウダー及び糖代替品を投与することを含む、ヒトの血管内皮機能を改善するための方法であり、この場合ココアパウダーは乾燥重量で配合物の少なくとも約60%又は少なくとも約80%、又は少なくとも85〜95%を構成する。当技術分野で公知のように、天然ココアは、発酵させた及び/又は焙炒したココア豆ニブから含有脂質を圧搾する結果得られる製品である。脂質画分(ココアバター)のおよそ10〜25%が天然ココア中に保持される。さらに、天然ココアは、ココアの加工、すなわち「ダッチング」として公知のプロセス中で使用されるアルカリ又は同様の作用剤で処理されない。
【0011】
特に好ましい実施形態では、本発明は、有効なココア含有飲料、及び、心血管状態、血管内皮機能を改善し、又は心血管疾患を防止するためのその使用方法を含む。図2は、糖代替品(例えば、アスパルテーム、Ace−K、及びその混合物)入りの本発明の無糖ココア含有飲料組成物の摂取後2時間でのFMDの変化を、栄養甘味料(糖、又はより詳細にはショ糖)入りココア及びココアポリフェノールを含有しないプラセボとの比較で示すものである。したがって、本発明の一態様又は目的は、血管内皮機能の改善における測定可能な有効性があり、飲料、バー、菓子製品、丸剤、錠剤、カプセル、液体、又は食用製品若しくはミックス中の材料などの摂取しやすい製品として十分な濃度で投与することが可能な、ココアの無糖組成物を提供することである。本発明の特定の実施形態は、水又は他の液体中に入れて飲料を作るためのミックス又は組成物を提供するように作製し大きさを調整した、個別化した小さな包み又は小袋に仕立てることができる。当業者であれば、いくつかの他の摂取可能な製品及びミックスを工夫し得る。
【0012】
本発明の別の態様は、糖がない状態でのココアポリフェノールによりもたらされる相乗効果を維持しながらも味の良いココア製品を作製するために、1種又は複数種の非栄養甘味料を配合した無糖ココア組成物を提供することである。本発明の別の態様は、血管拡張をもたらすことが知られているもの、又は血管状態を改善することが知られているものなど入手可能若しくは公知の他の食用製品、成分、又は作用剤を配合した無糖ココア組成物を提供することである。緑茶、緑茶エキス、ブルーベリー又はブルーベリーエキス、赤又は白ワイン製品、ブドウエキス、及びポリフェノール化合物を有する他の食品及び成分を検討し、このような配合物中に使用してよい。本発明のさらに別の態様は、他の入手可能又は公知の栄養補助食品、活性成分、食欲抑制剤、及び同様の作用剤又は成分、特に抗酸化物質含有食品、ハーブ、又は食用製品成分中にも見られるものを配合した無糖ココア組成物を提供することである。さらに、この組成物は、栄養補助食品を提供するために、ビタミン、ミネラル、アミノ酸など1種又は複数種の他の食物栄養素を併せて又は追加で配合してもよい。本発明のこのような配合物のいずれも、ヒトの健康に対する利益を有利にもたらし、又、カロリー摂取量の低減など、心血管及び全身の健康に対する有益な付加的効果を獲得することができる。上述のように、全ての成分又は配合物は、適切な丸剤、錠剤、カプセル、液体、又は健康バー及び飲料を含めた食品中の成分を製造する業界の当業者に公知の妥当な結合剤、保存剤及び可食又は摂取可能な他の化合物を配合してよい。
【0013】
本発明のさらなる態様は、血管内皮機能の改善における受入れ可能な又は測定可能な有効性を達成するために、無糖ココア摂取の量及び回数の両方を最適化する処置計画を提供することである。本実施形態の一例としては、約10〜約20グラム、又は約20〜約30グラム、又は約30〜約40グラム、又は約40〜約50グラムのアルカリ化していないココアパウダーを、栄養糖を入れずに、又はショ糖を入れずに1日1回又は2回投与する処置計画がある。加えて、本発明の実施形態は、ブドウ糖と比較してゆっくり吸収され又は活性状態になる、糖アルコールなどの甘味料を組み入れることができる。同様に、この組成物及び方法は、約70以下、又は約60以下、又は約50以下、又は約40以下、又は約30以下のGIなど比較的低い又は低い血糖指数の食品又は成分を組み入れることができる。
【0014】
本開示を通じて、出願人は学術論文、特許文献、出版されている参考文献、ウェブページ、及び他の情報源を参照している。当業者は、本発明の態様を実施及び使用するためにあらゆる引用情報源の全内容を使用できる。1つ1つの引用情報源は、引用によりその全体が本明細書に具体的に組み込まれる。このような情報源の一部を、許可されたものとして又は必要に応じ本文書中に含むこともできる。しかし、本開示中で具体的に定義又は説明する任意の用語又は語句の意味は、いかなる情報源の内容によっても改変されるべきではない。本文書内の項目の見出しは、いずれかの特定の文書又は引用研究の関連性を認めたものとして受け取られるべきではなく、構成上の目的でのみ示すものである。以下の記載及び実施例は、本発明の範囲及び本開示の内容の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。事実、当業者は本発明の範囲から逸脱せずに、以下に掲載の実施例に対する多数の改変形を工夫及び構成してよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
一般に、又、本発明で使用する場合、本明細書に記載のさまざまなチョコレート及びココアを含有する製品及び組成物は、参照により本明細書に具体的に組み込まれるMinifie(Chocolate,Cocoa,and Confectionery、第3編、Aspen Publishers)中で使用される用語を参照している。カカオ豆は、ココア豆とも呼ばれるカカオ豆を本来指し、ココア含有製品は、ココア豆に由来する製品、又はココア豆に由来する何らかの成分を有する製品である。ニブは、殻を除去したカカオ豆を指し、乾燥基準でおよそ54%が脂肪分で、46%が脂肪分のない固体である。無脂肪の固形ココアは、チョコレートリカーの加工済無脂肪固形物である。ココアパウダーは、典型的には全体で脂肪分10%〜25%、又はより典型的には脂肪分10%〜12%を有する固形ココアを指し、ここでいう脂肪分は通常ココアバターである。又、ココアパウダーは、抽出法により加工することもでき、この場合は実質的に全ての脂肪分が除去される。本明細書で使用する場合、天然ココア及び天然ココアパウダーは、以下に記載のように、ダッチングされたココアでない限り、このようなココアパウダーのいずれであってもよい。本発明のココアポリフェノール組成物は、一般に、発酵及び焙炒したカカオ豆ニブから含有脂質を圧搾した結果得られる製品である天然ココア又は天然ココアパウダーを含有する。脂質画分(ココアバター)のおよそ10〜25%は、天然ココア中に保持される。さらに、天然ココア及び天然ココアパウダーは、具体的にダッチココア、アルカリ化ココア、又はダッチプロセスココアとして示されている場合を除き、「ダッチング」として知られるプロセス中で使用するものとしてココア加工業界にとって公知のアルカリ又は他の作用剤で処理されていない。ブレックファストココアは脂肪分20〜24%の固形ココアであり、ここでいう脂肪分は通常ココアバターである。チョコレートリカー(又はココアリカー)は、磨砕されたカカオ豆ニブのことで、ココアバターと固形ココアとに分離できる。ココアバターはチョコレートリカーの脂肪成分のことで、これに対しチョコレートリカーの残りの部分が固形ココア又はココアマスである。当業者には理解されるように、食品成分中の固形ココアの特定の量又は比率(%)は、とりわけ、ある量のココアパウダー、チョコレートリカー、又は必要量の固形ココアを含有する他のチョコレート又はココア成分を使用し又は加えることにより達成できる。同様に、食品成分中の天然ココアのある特定の量又は比率(%)は、とりわけ、ある量のココアパウダー、チョコレートリカー又は血管拡張をもたらすことが知られている活性化合物を含有するココアエキスなど他のチョコレート又はココア成分を使用し又は加えることにより達成できる。さらに、米国を含む多くのさまざまな国が、特定の範囲又は成分を有するものとして、ココアを含有する食用製品又はココア製品を具体的に定義しているものの、チョコレート、ミルクチョコレート、及びダークチョコレートという用語は米国の食品業界で普通に使われており、別の形で示されない限りは具体的な中身についての意味をもたない。加えて、特定の抗酸化物質又はポリフェノール濃度を有するココア含有製品が求められているわけでもないが、本発明は、従来のココア含有製品と比較して向上した、改変した、又は増加した濃度の抗酸化物質又はポリフェノール化合物を有するココア含有製品の使用を網羅している。さまざまな製造方法、抽出方法、及びエキス又はココア由来のポリフェノールの添加について記載してあり、当業者は本発明のココア組成物を作製するためにこれらを使用できる。又、当技術分野で公知のように、他の栄養成分、治療成分、又は予防成分を加えることもできる。
【0016】
ココアポリフェノールに関しては、数多くの研究により、心疾患とポリフェノール含有化合物の摂取との間の強い逆相関が示されている(Vita,J.A.、Am J Clin Nutr 81(Suppl)、292S〜7S(2005))。ココア豆及びその製品は、古代中米文明以来何千年もの間、健康を増進させる特性を有すると考えられてきたが、最近の分析技術によりココア豆の具体的な化学的性質の特徴付けが可能になっている(Hurst,W.J.ら、Nature 418、289〜90(2002))。カカオ豆から作られる主要製品でありチョコレート及び多くのベーカリー製品用の基本材料であるココアの分析により、ココアは特定のポリフェノール化合物、具体的にはフラバノイド群を高濃度で含有していることが示されている。ココア中の最も豊富なフラバノイドは、エピカテキン及びカテキンの単量体型、並びにプロシアニジンと呼ばれるオリゴマー型を含むフラバノールである。単量体型並びに分子量が低い高分子は、生体内での利用が可能であり、摂取の2時間後に最大血漿濃度に到達することが実証されている(Baba,S.、Free Radic Res 33(5)、635〜412(2000))。
【0017】
血管内皮機能異常は心血管疾患と強く相関し、リスクを減らす努力(例えば、栄養改善又は運動行動改善)に応じて好転させることができるため、このバイオマーカーは、本発明の効果を試験するためのものとして選択できる。血管内皮機能は、血管内皮からの一酸化窒素(血管拡張)、及びエンドセリン(血管収縮)の放出に主に依存する動脈の血管運動反応を指し、アテローム性動脈硬化症、高血圧、心血管疾患、卒中、及び糖尿病の発症機序において重要な役割を果たす。他にも多くのマーカーがあり、これには低密度リポタンパク質(LDL)、高密度リポタンパク質(HDL)、総コレステロール、トリグリセリド、リポタンパク質A、フィブリノーゲン、抗酸化物質濃度、アポリポタンパク質、白血球数、C反応性タンパク質、ホモシステインなど心血管リスクの血清マーカーが挙げられるが、これらに限定されない。このようなマーカーのいずれかを使用して、本発明の組成物又は方法の効果を評価又は測定できる。しかし、血管内皮機能検査は、心事象への罹患しやすさについての処置、介入又は曝露の総合的な効果の優れたマーカーを代表すると考えられ、心血管にとって又は健康にとっての利益を測定又は実証する好ましい方法である。循環している全ての化学伝達物質により影響を受ける血管生理の評価尺度として、血管内皮機能検査は、食餌操作の総合的な影響を評価する唯一の非侵襲的手段として、非常に有望である。
【0018】
血管内皮機能は、血流のせん断応力の増加により誘導された血管拡張反応(血流依存性血管拡張反応:FMD)をモニターすることにより抹消循環中で非侵襲的に評価できる。血管内皮依存性の血流依存性血管拡張反応(FMD)を評価するための上腕動脈の高周波超音波撮像は、標準的な手法である(Katzら、Int'l J.of Cardiology 22(2005)、65〜70、参照により本明細書に組み込まれる)。冠動脈又は上腕の循環のいずれかで評価される血管内皮機能の先行臨床研究では、FMDはその後の心血管リスクを予測することが示されている。例えば、心リスク因子を有する群は、健康な対照群と比較してFMD<10%となる傾向が顕著に高い。
【0019】
本発明の配合物、組成物、及び製品は、さまざまな入手可能又は公知のココア製品から作製できる。例えば、ココアエキス又はココアパウダーが使用できる。このエキス又はこれに由来する化合物は、ココアプロシアニジン(1種又は複数種)を含有することになり、ポリフェノール、フラバノール、又は他の化合物の濃度を維持し又は増加させる方法で加工し得る。例えば、ココアエキス又はこれに由来する化合物は、カカオ豆をパウダーまで細かくすること、このパウダーを脱脂すること、及び任意選択でこのパウダーから特定の化合物又は活性化合物(1種又は複数種)を抽出及び精製することを含むプロセスにより入手できる。このエキス又はパウダーは、果肉付きのカカオ豆を凍結乾燥すること、凍結乾燥した豆から果肉をはずし皮を除去すること、及び皮を除去した豆を磨砕することにより調製できる。抽出ステップは任意選択で使用できるが、その場合には、溶媒抽出法により特定の化合物を除去又は分離できる。又、エキスは、ゲル浸透クロマトグラフィー、調製用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、又は当業者に公知の他の手法により精製できる。
【0020】
血管内皮機能に対する効果に加え、本発明の組成物及び方法は、高血圧の処置においても有用であり得る。高血圧は、体内を循環する際に血管内の血圧が正常より高い状態のことである。ある持続した期間、収縮期血圧が150mmHgを超えるか又は拡張期血圧が90mmHgを超えると、体組織、特に腎臓に損傷が加わる。例えば、高すぎる収縮期血圧は、どのような場所の血管でも破裂させかねない。脳内で破裂が起きると、その結果動脈瘤が生じる。又、これにより、アテローム性動脈硬化症をまねく恐れのある血管の肥厚及び狭窄が生じる可能性もある。血圧が高いと、血液が送り出される際に安静時(拡張期)の高い血圧を抑える心筋の働きが増加するため、心筋を肥大させる恐れもある。高血圧又は血圧に対する効果の測定は当技術分野では日常的な作業であり、使用可能又は公知の任意の手法を採用してよい。
【0021】
上述のように、さまざまな食品添加物、栄養補助食品、ミネラル及びビタミン、並びに摂取可能なハーブエキスを本発明のココア配合物又は組成物に添加し、又はその方法において使用することができる。食欲抑制剤を採用しているものであれば、一般に、このような化合物又は組成物又はエキスは一定の期間、食欲を低下させる。市販の食欲抑制剤としては、アンフェプラモン(ジエチルプロピオン)、フェンテルミン、マジンドール及びフェニルプロパノールアミン、フェンフルラミン、デクスフェンフルラミン、及びフルオキセチンが挙げられるが、これらに限定されない。又、この目的のために多様なペプチド及びポリペプチド化合物も試験及び/又は提案されており、例としてニューロペプチドY、PYY、擬似ペプチド、CCK、及びその断片が挙げられるが、これらに限定されない。多様な植物エキス及びハーブエキスも試験及び提案されており、例として緑茶エキス由来のエピガロカテキンガレート及び緑茶エキスそのもの、テオブロミン及び高用量のテオブロミン(「高」とは1日当り250mg超、好ましくは1日当り1000mg超を意味する)、及び桂皮エキスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
付加的な食品成分又は可食成分は、本発明の組成物及び配合物のいずれに配合してもよい。特に好ましいのは、USP成分(米国薬局方の標準品)として調製されているもの及びGRAS(generally recognized as safe:一般に安全と認められる)香味料として知られる、入手可能又は公知のもののうちの1種又は複数種である。上述のように、甘味料、糖代替品及び高甘度甘味料、並びにその誘導体を使用でき、その例としてスクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン、シクラメート、グリチルヒジン(glycyrrhizine)、ジヒドロカルコン、ステビオシド、タウマチン、モネリン、ネオヘスペリジン、及びいずれかのポリオール化合物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましいポリオール又は糖アルコールはエリスリトール及びマルチトールであるが、他の任意のものを、例えば、マンニトール、ソルビトール、及びキシリトールから、単独で又は考え得るさまざまないずれかの組合せで選択してもよい。又、当技術分野において公知で入手可能なものとして、糖代替品を単独で又はさまざまな組合せで使用してもよい。加えて、他の食品成分、エキス、又は栄養補助食品との配合物を使用してもよく、これにはガラナ、タウリン、柑橘類、ベリー類、オレンジ、レモン、ライム、タンジェリン、マンダリン、グレープフルーツ、アセロラ、ブドウ、洋ナシ、パッションフルーツ、パイナップル、バナナ、リンゴ、クランベリー、サクランボ、ラズベリー、チョークベリー、グレープシード、モモ、プラム、ブドウ、スグリ、クロフサスグリ、クランベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、ザクロ、アカイ、ノニ、ニワトコ、ゴジベリー、ローズヒップ、ビルベリー、ホーソンベリー、銀杏、ゴツコラ、ルイボス、ボイセンベリー、カツアバ、イカリソウ、ヨヒンベ、ダミアナ、レッドラズベリー葉、バイテックスベリー、ブレストシスル、クコ、イチゴ、ミラベル、スイカ、甘露メロン、カンタロープ、マンゴー、パパイヤ、コーラ由来の植物フレーバー、茶、白茶、緑茶、コーヒー、バニラ、アーモンド、野菜類、トマト、キャベツ、セロリ、キュウリ、ホウレンソウ、ニンジン、レタス、クレソン、タンポポ、ルバーブ、ビート、ココナ、グアバ、及びハングオから選択される1種又は複数種のエキス、栄養補助食品、又は成分との配合物が挙げられる。
【0023】
本発明の態様又は実施形態のいずれも、錠剤、ゼラチン被覆カプセル、懸濁液、非経口溶液、即時飲用可能なミックス及び飲料、粉末状の飲料ミックス、香辛調味料、ヨーグルトベース飲料又はミックス、乳ベース飲料又はミックス、豆乳ベース飲料又はミックス、無糖菓子、無糖チョコレート、及び/又は無糖ベーカリー製品であるココアエキス、ココアパウダー、又はココア含有製品の配合物を含み又は含有することができる。好ましい実施例は、1種又は複数種の非栄養甘味料又は糖アルコールを含むバー製品又は健康バーである。この組成物の固形カカオ若しくは固形ココア、又はカカオマス若しくはココアマスの含有量は、一般に、ココアパウダーのパーセントなど、他のココア製品の比率(%)と等しくしてよい。例えば、ココアパウダーは約10%〜25%の間の脂肪分、又はより典型的には10%〜12%の脂肪分を有してよく、ここでいう脂肪分は、通常ココアバターである。したがって、ココアパウダーを85%含有する組成物は、固形カカオ又はカカオマスを約60%〜約77%含有するココア製品に相当し得る。したがって、ココアバターを約10〜12%含有する好ましい天然ココアパウダー85%は、固形カカオ又はカカオマス約77%〜約74%に相当し得ることになる。上述のように、使用するココアパウダーを抽出法により加工することもできるが、この場合は実質的に全ての脂肪分が除去される。
【0024】
以下の実施例は、本発明の考え得る実施形態のいくつかを示すにすぎず、この組成物及び方法の優位性及び使用のいくつかを実証するにすぎない。実施例の中身は全般に、本発明の範囲の限定として受け取られるべきではない。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
無糖ココア組成物
さまざまなチョコレート組成物が血管内皮機能に及ぼす効果を調査するために、一連のヒト試験を実施する。無糖チョコレート、加糖チョコレート、及びココアを含有していないプラセボから成る組成物群を、体格指数が25〜35kg/mの間である健常者45名に投与する。血圧(収縮期及び拡張期の両方)、及び血流依存性血管拡張反応(FMD)及び刺激補正反応値(SARM)を測定することにより、血管内皮機能に対するさまざまな組成物の効果を評価する。
【0026】
血流依存性血管拡張反応は、本試験の主要な評価尺度であり、超音波技術の使用による検査を実施して、血管、この場合は上腕動脈(腕の主要動脈)の直径を測定する。この手法は当業者には公知であり、ここに記載されており参照により本明細書に組み込まれるものを含め、いくつかの査読された研究論文に記載されている。血圧カフを使用して腕への循環を遮断し、その後開放する。カフをはずして1分後、超音波により動脈の拡張の程度(直径)の画像を得る。この測定値は、ベースラインとして(チョコレート又はココア組成物を食べる前)、又、その後チョコレート又はココアを食べてから2時間後に得る。チョコレート中のフラバノールが摂取後2時間前後で最大限に吸収されることは、当業者には公知である。ベースラインを2時間後の測定値と比較し、動脈の機能のパーセント変化を得る。パーセント変化が高いほど、ココアの投与が動脈及び血流に対し、ひいては心血管の健康又は予防に対し多くの利益をもたらしていることになる。
【0027】
この測定尺度を標準化するために、刺激補正反応値(SARM)の概念を使う。SARMを計算するには、カフの空気を抜いてから15秒後の血流の変化量でFMDを割る。収縮期及び拡張期の血圧の読みも記録する。表1は、無糖ココア群、加糖ココア群、及びプラセボ群の各被験者群における44名分の測定値(n=44)を使ってベースラインの結果を表している。
【0028】
表1 各被験者群のベースライン値:急性投与フェーズ
【表1】


SD=標準偏差。全ての変数において群間の有意差は認められない(p値>0.05)(一元配置分散分析)。
【0029】
表2 例証的な無糖ココア配合物
【表2】

【0030】
表3A 対照配合物の加糖ココア
【表3】

【0031】
表3B ココアポリフェノールなしの対照(プラセボ)
【表4】

【0032】
上記の1人分を8オンスの湯で混合する。
【0033】
表4は、介入的な飲料の摂取2時間後に測定した、ベースラインの変化を報告するものである。この結果は、図1〜3にもグラフによりまとめてある。
【0034】
表4 処置後の結果測定値のベースラインからの変化:急性投与フェーズ
【表5】

【0035】
表4において、†はプラセボと比較して有意差がある(p値<0.05)ことを示し、‡は加糖ココアと比較して有意差がある(p値<0.05)ことを示す。SD=標準偏差。p値は対応のあるt検定から得ている。
【0036】
無糖ココア及び加糖ココアを摂取すると、被験者の血管内皮機能は顕著に改善し血圧は低下しているが、その全員がわずかに太り気味からやや肥満であった(BMI=25〜35kg/m)。これに対しプラセボ(フラバノールなしのココア)は、この測定値においてやや悪化を示している。
【0037】
又、無糖ココアは、収縮期血圧が低下する統計的傾向(−2.14mmHg)も示しているが、一方で拡張期血圧に対しての効果はみられない。加糖ココアはいずれの血圧測定値にも効果を及ぼしておらず、プラセボでは血圧が悪化している。(図1を参照)
【0038】
無糖ココアを2杯飲んだ後、FMDはベースライン値から有意に(p<0.0001)改善しており(5.7%±2.64)、これに対し加糖ココアでは、FMDは2.03%(±1.82)改善している(図2を参照)。又、SARMも、無糖ココアについても(0.041±0.047)、加糖ココアについても(0.024±0.048)、有意に改善している(図3を参照)。プラセボではFMDが1.49%±2.80悪化している。
【0039】
まとめると、この結果は、本発明の無糖ココア組成物がダークチョコレートについて従来知られていた結果よりさらに大きく動脈機能を改善し、一方で加糖ココアが示した改善度はダークチョコレートで見られた結果よりわずかに低いということを示している。
【0040】
本発明のココア配合物及び方法についての処置計画は、変化させることができる。しかし、好ましい投与処置は、約10〜20グラムのココアパウダー相当量を1日2回、約20〜30グラムのココアパウダー相当量を1日2回、約30〜40グラムの天然ココアパウダー相当量を1日1回又は2回、約40〜50グラムの天然ココアパウダー相当量を1日1又は2回、10グラムの天然ココアパウダー相当量を1日2回以上、などである。いずれの場合も、好ましい投与方法は、ココア投与前約10〜30分以内、ココア投与後約2時間以内、ココア投与前10〜30分以内及び投与後約2時間以内の両方、ココア投与後約90〜約120分以内、ココア投与前約90〜約120分以内、ココア投与前90〜120分以内及び投与後90〜120分以内の両方、並びに投与ココア投与後約2〜3時間は、糖、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、又は栄養糖の投与を避け、又は実質的に避けることであろう。さらに、処置計画は、朝起床後に1回、及び夜就寝前に1回、このココア組成物を摂取することを含んでよい。他のさまざまな投与計画を工夫してもよい。ココア投与後約1時間、又は2時間、又は約3時間の間、低い、又は平均より実質的に低い血流中の糖又はブドウ糖の濃度を維持する投与計画が好ましい。
【0041】
約10グラム未満の天然ココアパウダーを投与、又はココアポリフェノールでその相当量を投与するさらなる実施形態も開発できる。FMD又は他の測定可能なリスク因子の改善のための有効量に到達するように投与されるココア又はココアポリフェノールの量は、例えば、より頻回な投与などによって変えることができる。したがって本発明は、10グラム超の天然ココアパウダーを投与、又はココアポリフェノールでその相当量を投与する方法、並びに10グラム未満を投与する方法を網羅する。いずれの場合も、本明細書に記載の相乗的な結果を達成するために、1日当り又は期間当りの投与回数は変えることができる。
【0042】
(実施例2)
ダークチョコレート
ダークチョコレート組成物が血管内皮機能に及ぼす効果を調査するために、一連のヒト試験を実施する。ダークチョコレートから成る組成物(ココアパウダー22グラムに相当する固形のダークチョコレートのバー74グラム)を、ホワイトチョコレートの対照と比較する。一晩絶食の後、各群にダークチョコレート又はホワイトチョコレートを投与し、投与前及び投与2時間後のFMDに及ぼす効果を測定する。7日間の後、ダークチョコレート群をホワイトチョコレート群と交代し、同じ測定内容での別の7日間のクロスオーバー試験を実施する。
【0043】
表5は、クロスオーバー試験における被験者のベースライン値であり、表6は血管反応性試験の結果のまとめを示している。
表5 人口統計的特性及びベースライン値
【表6】


は一部欠測値があることを示す。SD=標準偏差。p値はスチューデントt検定から得ている。
表6 結果測定値のベースラインからの変化
【表7】


†は処置群間に有意差がある(p値<0.05)ことを示す。SD=標準偏差。は一部欠測値があることを示す。p値は対応のあるt検定から得ている。
【0044】
ダークチョコレートを摂取すると、BMIが25〜35kg/mの間の群において血管内皮機能が改善し血圧が低下する(表6)。ダークチョコレートの1回量を摂取の後、FMDはベースラインから有意に(p<0.0001)改善する(4.28±3.43)。SARMも有意に改善する(0.04±0.10、p=0.0129)。ダークチョコレートの1回量を摂取すると、収縮期(−3.24±5.82、p=0.0005)及び拡張期(−1.40±3.91、p=0.0206)の両血圧がベースラインから低下する(図4)。
【0045】
ホワイトチョコレートのプラセボを摂取すると、BMIが25〜35kg/mの間の群について血管内皮機能(−1.84±3.33、p=O.0007)及び血圧の悪化が示される。しかし、SARMは有意に変化しなかった(0.01±0.18、p=0.7902)。プラセボの1回量を摂取の後、収縮期及び拡張期の両血圧は上昇している(それぞれ2.68±6.64、p=0.0104、及び2.73±6.36、p=0.0067)。ダークチョコレートの1回量の摂取後は、プラセボの1回量摂取と比較してFMD及び血圧が有意に改善している(p<0.05)。
【0046】
本実施例の結果には、BMIの高い成人において、フラボノイドに富むダークチョコレート製品の急性摂取の後、血管内皮機能が改善し同時に収縮期及び拡張期血圧が低下することを実証している初の臨床試験が含まれている。加えて、本実施例の結果は、血管機能のこのようなバイオマーカーに対する無糖ココア摂取の効果を初めて調査したものである。
【0047】
ダークチョコレートを急性摂取すると、プラセボと比較して、上腕動脈の拡張期の血流依存性血管拡張反応が顕著に改善する。プラセボ(プロシアニジンに乏しいホワイトチョコレート)の急性摂取後は、血管内皮機能に悪影響が出た。本発明を何らかの特定の作用機序又は生理的効果に限定するものではないが、ダークチョコレート摂取後に認められるFMDの改善は、おそらく血漿エピカテキン濃度の上昇に関連しており、このことにより内皮由来の血管拡張物質が増加し、それによって血管内皮機能が改善すると思われる。又、ダークチョコレートを摂取すると、刺激補正反応値(SARM)も顕著に上昇し、収縮期血圧及び拡張期血圧が低下する。収縮期血圧の低下幅は、拡張期血圧の低下幅より大きい。
【0048】
われわれの結果は、いくつかの異なる集団群におけるダークチョコレート摂取について実施された大部分の研究と一致している。血圧に及ぼすココア摂取の効果を調査する先行研究では、一様でない効果が報告されている。
【0049】
無糖ココア組成物の急性摂取により、血管内皮機能及び血圧は同様の改善を示す。先行研究では、食後の高血糖及び急性的な血糖負荷が炎症反応及び血管内皮機能異常を引き起こすことが示されている。本実施例の結果はこのような知見を裏付ける。しかし、本実施例の結果は、ココアを摂取すると無糖ココア群及び加糖ココア群の両方において上腕動脈の血流依存性血管拡張反応が改善するが、この改善は無糖ココア群の場合のほうが予想外に大きいことを示してもいる。無糖ココアは収縮期及び拡張期血圧を低下させたが、これに対し加糖ココアを摂取した場合は収縮期及び拡張期血圧の上昇がもたらされている。プロシアニジンに富む無糖ココアは、糖の負の影響を弱め、心保護的な反応を誘発するようである。
【0050】
本実施例に記載の試験には限界があり、結果は、測定されていない又は不正確に測定された食事摂取データ、身体活動の変化、摂取不履行、血管作動性薬剤の使用、及び遺伝因子を含め、栄養摂取と血管内皮反応及び生理反応との間の関連などの潜在的交絡因子により影響を受けている可能性も考えられる。しかし、厳しい適格基準、無作為化、及びクロスオーバーを通じてこのような交絡因子は制御でき、そうすれば被験者は、重要な仮説の試験のために普段のままで役立てる。
【0051】
本実施例に記載の結果は、収縮期及び拡張期血圧の低下及び血管内皮機能の改善により明らかなように、ダークチョコレート及び無糖ココア組成物の急性摂取が心血管状況に及ぼす有益な作用を支持する。BMIが25〜35kg/mの間の群は、太りすぎ又は肥満とみなされ、心血管疾患リスクが高い。この集団におけるダークチョコレート及び無糖ココア摂取の持続的な効果を評価するためのさらなる調査が必要ではあるが、実証されたこの改善は試験集団に利益を与えている。
【0052】
上に示した実施例及び本出願の内容は、本発明に従って作製又は使用できる多くのココア組成物、製品、及び方法の実施例を定義し説明するものである。一切の実施例、及び説明のいかなる部分も、本発明の範囲全体に対する限定又は添付の特許請求の範囲の意味の限定として受け取られるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】7日間の急性投与試験期間中、さまざまな組成物の摂取後の血圧の変化を示すグラフである。血圧の変化は、mmHgで表されるようにY軸に沿って測定している。収縮期血圧(SBP)及び拡張期血圧(DPB)の両方の変化を、3種の組成物それぞれについて別々の棒で示す。3種の組成物の構成は、プラセボ、加糖ココア組成物及び本発明の無糖組成物である。血圧の低下は好ましい結果とみなされるが、これに対し血圧の上昇は好ましくないものとみなされる。
【図2】図1に示したものと同じ3種の組成物の摂取後の血流依存性血管拡張反応(FMD)の変化を示すグラフである。FMDの変化はY軸に沿って比率(%)として示してあり、FMDの上昇が好ましい結果とみなされ、FMDの低下は好ましくない。
【図3】図2及び図3に示したものと同じ3種の組成物について、刺激補正反応値(SARM)の変化をY軸に沿って示すグラフである。SARMは、血流依存性血管拡張反応(FMD)を、カフにより誘導した虚血が終了した15秒後に血管を流れる血流の変化量で割ったものとして定義される。SARMの上昇が好ましい結果とみなされ、SARMの低下は好ましくない。
【図4】7日間の急性投与試験期間中、ダークチョコレートの摂取後の血圧の変化を、対照のホワイトチョコレートと比較して示すグラフである。血圧の変化は、mmHgで表されるY軸に沿って測定している。収縮期血圧(SBP)及び拡張期血圧(DPB)の両方の変化を、別々の棒で示す。血圧の低下は好ましい結果とみなされるが、これに対し血圧の上昇は好ましくないものとみなされる。
【図5】図4のものと同じチョコレート組成物の摂取後の血流依存性血管拡張反応(FMD)の変化を示すグラフである。FMDの変化はY軸に沿って比率(%)として示してあり、FMDの上昇が好ましい結果とみなされ、FMDの低下は好ましくない。
【図6】図4及び図5のものと同じチョコレート組成物について、刺激補正反応値(SARM)の変化をY軸に沿って示すグラフである。SARMは、血流依存性血管拡張反応(FMD)を、カフにより誘導した虚血が終了した15秒後に血管を流れる血流の変化量で割ったものとして定義される。SARMの上昇が好ましい結果とみなされ、SARMの低下は好ましくない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アテローム性動脈硬化症、血栓症、心臓発作、卒中、又は血管循環状態を処置する治療的又は予防的な方法であって、天然固形ココアを少なくとも60%含有する配合物を少なくとも約10グラム含む無糖組成物を、それを必要とする対象に1日2回投与することを含む方法。
【請求項2】
無糖組成物が糖代替品をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
無糖組成物が食欲抑制化合物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
無糖組成物の投与後約2時間、食事から食用糖及びショ糖を排除することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
無糖組成物が、天然固形ココアを少なくとも約80%含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
無糖組成物が、天然固形ココアを約85〜95%含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
無糖組成物が糖代替品をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
糖代替品が糖アルコールである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
投与後約1時間、前記対象が糖又はショ糖を実質的に含まない食事をとる状態を維持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
投与後約2時間、前記対象が糖又はショ糖を実質的に含まない食事をとる状態を維持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
天然ココアパウダーを少なくとも約85%と、1種又は複数種の糖代替品とを含む、血管内皮機能を改善するための無糖ココア配合物。
【請求項12】
香味料をさらに含む、請求項11に記載の無糖配合物。
【請求項13】
香味料がバニリンである、請求項12に記載の無糖配合物。
【請求項14】
天然ココアパウダーを少なくとも約90%含む、請求項13に記載の無糖配合物。
【請求項15】
天然ココアパウダーを約92〜95%含む、請求項15に記載の無糖配合物。
【請求項16】
錠剤、ゼラチン被覆カプセル、懸濁液、非経口溶液、即時飲用可能なミックス、飲料、粉末状の飲料ミックス、香辛調味料、ヨーグルトベース飲料又はミックス、乳ベース飲料又はミックス、豆乳ベース飲料又はミックス、無糖菓子、無糖のチョコレート又はチョコレートコーティング、及び無糖ベーカリー製品のうちの1つから選択される製品として存在する、請求項11に記載の無糖配合物。
【請求項17】
錠剤、ゼラチン被覆カプセル、懸濁液、非経口溶液、即時飲用可能なミックス、飲料、粉末状の飲料ミックス、香辛調味料、ヨーグルトベース飲料又はミックス、乳ベース飲料又はミックス、豆乳ベース飲料又はミックス、無糖菓子、無糖のチョコレート又はチョコレートコーティング、及び無糖ベーカリー製品のうちの1つから選択される製品として存在する、請求項14に記載の無糖配合物。
【請求項18】
糖代替品が、糖アルコール、ace−K、及びアスパルテームのうちの1つ又は複数である、請求項17に記載の無糖配合物。
【請求項19】
少なくとも1つの心血管リスク因子に効果をもたらすための無糖ココア組成物を含む食事を評価する方法であって、天然ココアパウダーを少なくとも85%含み、さらにショ糖又は栄養甘味料を実質的に含まない少なくとも約10グラムの組成物をヒト対象に経口的に投与すること、投与後少なくとも約1時間ショ糖又は栄養甘味料を実質的に含まない食事を維持すること、及び投与後に前記対象の心血管リスク因子を測定することを含む方法。
【請求項20】
測定がFMDによる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が10グラムの前記組成物を1日2回投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が10グラムの前記組成物を1日2回投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物が天然ココアパウダーを約90〜95%含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ヒト対象の血圧に及ぼす無糖組成物の効果を試験する方法であって、天然ココアパウダーを少なくとも85%含み、さらにショ糖又は栄養甘味料を実質的に含まない少なくとも約10グラムの組成物をヒト対象に経口的に投与すること、投与後少なくとも約1時間ショ糖又は栄養甘味料を実質的に含まない食事を維持すること、及び投与後に前記対象の血圧を測定することを含む方法。
【請求項25】
有害なアテローム性動脈硬化症、血栓症、心臓発作、卒中、又は血管循環状態に対するいずれか1つ又は複数の個体リスクの測定可能な状態又は状況に及ぼす無糖組成物の効果を試験する方法であって、天然ココアパウダーを少なくとも85%含み、さらにショ糖又は栄養甘味料を実質的に含まない少なくとも約10グラムの組成物を個体に経口的に投与すること、投与後少なくとも約1〜2時間、ショ糖又は栄養甘味料を実質的に含まない食事を維持すること、及び血管内皮機能の1つ又は複数の状況を、投与後にFMD、LDL濃度、HDL濃度、トリグリセリド濃度、リポタンパク質A濃度、又は総コレステロール濃度により測定することを含む方法。
【請求項26】
前記試験が繰り返される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記試験が、約2週間から約2ヶ月の期間、実質的に毎日繰り返される、請求項26に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2009−527487(P2009−527487A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555423(P2008−555423)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/004517
【国際公開番号】WO2007/098205
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(507101484)ザ ハーシー カンパニー (7)
【Fターム(参考)】