コネクタ及びコネクタの製造方法
【課題】大型化や製造コスト増大を招くことなく多種多様な製品に対しても端子金具の係止力を高めて抜け出しを防止することができるコネクタ及びコネクタの製造方法を提供する。
【解決手段】端子金具3と、該端子金具3を収容する端子収容室42を有するコネクタハウジング4とを備え、コネクタハウジング4は、端子収容室42の一つの内面を構成する壁部44Bと、端子金具3を係止する係止部45とを備え、該係止部45は、壁部44Bの内面に設けられる基端部から端子金具3の挿入方向Xの奥側に向かって先端部が延びる係止アーム部45Aと、該係止アーム部45Aから挿入交差方向Yに突出する係止突部45Bとを有し、壁部44Bには、係止突部45Bを外部に臨ませる貫通孔47が形成され、端子金具3を係止アーム部45Aの先端部45Cと係止突部45Bとで係止する。
【解決手段】端子金具3と、該端子金具3を収容する端子収容室42を有するコネクタハウジング4とを備え、コネクタハウジング4は、端子収容室42の一つの内面を構成する壁部44Bと、端子金具3を係止する係止部45とを備え、該係止部45は、壁部44Bの内面に設けられる基端部から端子金具3の挿入方向Xの奥側に向かって先端部が延びる係止アーム部45Aと、該係止アーム部45Aから挿入交差方向Yに突出する係止突部45Bとを有し、壁部44Bには、係止突部45Bを外部に臨ませる貫通孔47が形成され、端子金具3を係止アーム部45Aの先端部45Cと係止突部45Bとで係止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに配索されるワイヤハーネスを構成するコネクタ、及び該コネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体としての自動車には、多種多様な電子機器が搭載され、電子機器に電力や制御信号などを伝えるために、ワイヤハーネスが配索されている。ワイヤハーネスは、複数の電線と、コネクタとを備え、このコネクタを電子機器のコネクタや他のワイヤハーネスのコネクタに嵌合させることで、電子機器や他のワイヤハーネスに接続されている。
【0003】
このようなワイヤハーネスに用いられるコネクタとしては、筒状のコネクタハウジングと、該コネクタハウジングに収容されるとともに電線の端末に取り付けられる端子金具とを備えたものが一般的であり、使用環境や使用目的に応じた各種形態のコネクタが利用されている。
【0004】
通常、コネクタの端子金具は、導電性の板金を折り曲げる等して形成され、端子金具は、ワイヤハーネスの電線と接続される電線接続部と、相手方のコネクタの端子金具と接続される電気接触部とを備えている。コネクタハウジングは、端子金具を内部に収容する直線孔状の端子収容室と、端子収容室内に突出しかつ弾性変形自在に設けられて端子金具を端子収容室内に係止する係止ランスとを備えて形成されている。
【0005】
このようなコネクタにおいて、係止ランスによって端子金具を係止するだけでは係止力が不足し、ワイヤハーネスの製造工程等において引き回した際にコネクタハウジングから端子金具が抜け出す場合がある。このことから、コネクタハウジングから端子金具が抜け出ることを防止するために、係止ランスの移動を規制して端子金具の係止が外れないように本係止するものとして、スペーサを備えたコネクタ(例えば、特許文献1、2参照)や、フロントホルダを備えたコネクタ(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0006】
特許文献1に記載されたコネクタ100は、図9及び図10に示すように、コネクタハウジング101と、スペーサ102と、電線が接続された雌型の端子金具(以下、雌端子と記す)103とを備えている。コネクタハウジング101は、絶縁性の合成樹脂等から全体箱状に形成され、雌端子103を収容する端子収容室(ターミナル収容室)104と、スペーサ102を収容するスペーサ収容室(貫通孔)105とを備えている。なお、特許文献2に記載のコネクタも略同様の構成を備えるため、以下では、特許文献1のコネクタ100について説明する。
【0007】
端子収容室104は、複数設けられて互いに並設されるとともに、それぞれ直線状に延びており、長手方向の両端がコネクタハウジング101の端面に開口している。端子収容
室104には、その長手方向(端子金具の挿入方向)に沿って雌端子103が挿入され、その挿入方向奥側の端子収容室104内部に臨んで係止ランス106が形成されている。スペーサ収容室105は、コネクタハウジング101の複数の外面のうち端子収容室104の長手方向と直交する一つの外面から凹に形成され、それぞれの端子収容室104の長手方向略中央を横切って設けられている。
【0008】
スペーサ102は、絶縁性の合成樹脂等で構成され、スペーサ収容室105に挿入される複数の挿入ピン107と、各挿入ピン107に設けられた係止突起108とを備えている。係止突起108は、各挿入ピン107の側面において上下二段で設けられ、これら二段の係止突起108間に雌端子103が挿通可能な間隔が形成されている。このようなスペーサ102は、スペーサ収容室105に挿入されると、先ず、図10(A)に示すように、挿入ピン107の先端がコネクタハウジング101に係止され、仮係止位置に位置付けられる。
【0009】
スペーサ102が仮係止位置に位置付けられた状態において、スペーサ102の挿入ピン107及び係止突起108間の間隔部分と、端子収容室104とが互いに連通して、端子収容室104に雌端子103が挿入可能になる。そして、雌端子103を端子収容室104に挿入すると、係止ランス106が弾性変形して雌端子103の先端部の凹みを係止する。この雌端子103の仮係止状態において、係止ランス106による係止力が十分ではないことから、大きな力で引っ張られた場合には雌端子103がコネクタハウジング101から抜け出ることがある。
【0010】
そこで、仮係止位置に位置付けられたスペーサ102をさらにスペーサ収容室105に挿入していくと、図10(B)に示すように、スペーサ102の本体部がコネクタハウジング101に係止され、本係止位置に位置付けられる。スペーサ102が本係止位置に位置付けられると、係止突起108が端子収容室104内に突出して雌端子103の中間部の突起103Aを係止する。このように、本係止位置に位置付けられたスペーサ102は、雌端子103がコネクタハウジング101から抜け出ることを防止する。
【0011】
一方、特許文献3に記載されたコネクタ110は、図11及び図12に示すように、コネクタハウジング111と、フロントホルダ112と、雌型の端子金具(以下、雌端子と記す)113とを備えている。コネクタハウジング111は、雌端子113を収容する端子収容室114を備え、この端子収容室114内部に臨んで係止ランス115が形成されている。係止ランス115は、端子収容室114の壁部116から雌端子113の挿入方向奥側に向かって傾斜して形成され、係止ランス115と壁部116との間に隙間117が形成されている。
【0012】
フロントホルダ112は、コネクタハウジング111の前方側から装着されるものであって、他のコネクタの雄型の端子金具を挿通させる挿通孔を有した前面部118と、この前面部118から突出してコネクタハウジング111の端子収容室114に挿入される規制突起119とを備えている。規制突起119は、コネクタハウジング111にフロントホルダ112を装着した際に、係止ランス115と壁部116との隙間117に入り込み、これによって係止ランス115の弾性変形を規制するものである。
【0013】
このようなコネクタ110では、コネクタハウジング111の端子収容室114に雌端子113を挿入すると、係止ランス115が弾性変形して雌端子113の凹み113Aを係止する。この雌端子113の仮係止状態において、フロントホルダ112をコネクタハウジング111の前方側から装着し、規制突起119を隙間117に挿入する。これにより、係止ランス115の弾性変形が規制され、雌端子113の凹み113Aの係止が外れない本係止状態となることから、コネクタハウジング101からの雌端子103の抜け出しが防止できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭64−54678号公報
【特許文献2】特開2007−115614号公報
【特許文献3】特開2011−108578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前述した特許文献1〜3に示されたような従来のコネクタでは、コネクタハウジングにスペーサやフロントホルダを挿入して本係止状態としなければ、端子金具の係止力を高めることができず、仮係止状態における端子金具の抜け出しを防止することが困難である。即ち、コネクタとしては、前述したようなスペーサ102を備えるものやフロントホルダ112を備えるものに限らず、これらを備えないコネクタ、形態やサイズが異なるコネクタ等も多種存在する。即ち、各種のコネクタに対して一様にスペーサやフロントホルダを設けることは現実的ではなく、また一方、端子金具の係止力を高めるためにスペーサやフロントホルダを設けてしまうと、コネクタが大型化したり、構造が複雑化して成形のための高度な装置が必要になったり、部品点数が増加して製造及び管理コストが増大したり、などの様々な問題を招来することにもなる。
【0016】
本発明は、上記した点に鑑み、大型化や製造コスト増大を招くことなく多種多様な製品に対しても端子金具の係止力を高めて抜け出しを防止することができるコネクタ及びコネクタの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために、請求項1に記載された本発明のコネクタは、端子金具と、該端子金具を収容する端子収容室を有するコネクタハウジングと、を備えたコネクタであって、前記コネクタハウジングは、前記端子収容室と外部とを仕切るとともに該端子収容室の一つの内面を構成する壁部と、前記端子収容室に収容された前記端子金具を係止して当該端子金具の抜け出しを規制する係止部とを備え、前記係止部は、前記壁部の内面に設けられる基端部から前記端子金具の挿入方向の奥側に向かって先端部が延びる係止アーム部と、該係止アーム部から前記端子金具の挿入交差方向に突出する係止突部と、を有し、前記壁部には、該壁部を貫通するとともに前記係止突部を外部に臨ませる貫通孔が形成され、前記端子金具が、前記係止アーム部の先端部に係止される第一被係止部と、前記係止突部に係止される第二被係止部とを有して構成されることを特徴とする。
【0018】
上記構成により、係止部が係止アーム部と係止突部とを有し、係止アーム部の先端部で端子金具の第一被係止部を係止するとともに、係止突部で端子金具の第二被係止部を係止する、即ち、少なくとも二箇所で端子金具を係止することで係止力を高めることができ、端子金具の抜け出しを防止することができる。また、係止突部を外部に臨ませる貫通孔がコネクタハウジングの壁部に形成されていることから、端子金具の挿入交差方向に突出して形成される係止突部を容易に成形することができる。即ち、コネクタハウジングは、絶縁性の合成樹脂を射出成形して製造されることが一般的であり、端子金具の挿入方向(以降、第一方向と記すことがある)に沿って端子収容室が形成されることから、第一方向に型開き可能な成形型が用いられる。このため、第一方向と交差して係止突部が突出していると、係止突部の成形が困難になるのであるが、コネクタハウジングの壁部に貫通孔が形成され、この貫通孔を介して外部に臨むように係止突部が位置していれば、貫通孔部分に挿通させたスライド金型を用いて係止突部を容易に成形することができる。
【0019】
請求項2に記載された本発明のコネクタは、請求項1に記載のコネクタにおいて、前記壁部の内面には、前記コネクタハウジングにおける前記端子金具の挿入方向の入口側から奥側に延びる案内溝が形成され、前記端子金具には、前記案内溝に挿入されて該端子金具の挿入方向に沿って案内される突片が形成され、該突片の一部によって前記第二被係止部が構成されていることを特徴とする。
【0020】
上記構成により、コネクタハウジングの案内溝に沿って案内される突片を端子金具が備えることで、コネクタハウジングに挿入する際における端子金具の回転や傾斜を防止することができ、不正な状態で挿入されることによるコネクタハウジングや端子金具の破損を防止しつつ、挿入作業の作業性を高めることができる。また、端子金具を案内するための突片(スタビライザ等と呼ばれる)で第二被係止部を構成し、この突片の一部を係止突部で係止することで、別途の第二被係止部を形成する必要がなくなり、端子金具の製造コストを抑制することができる。なお、スタビライザ等の突片は、端子金具の挿入方向に交差する方向に突出して形成されることが一般的であり、このように突出した部分が係止突部で係止されることで、係止アーム部の先端部によって第一被係止部を係止する第一の係止位置と、係止突部によって突片を係止する第二の係止位置との距離を離隔させることができる。従って、互いに離れた二箇所で端子金具が係止されることから、係止位置のいずれか一方に外力が作用して係止が外れるような場合であっても、他方の係止を維持させることができ、端子金具の係止状態を維持させやすくできる。
【0021】
請求項3に記載されたコネクタは、請求項1又は2記載のコネクタにおいて、前記端子収容室における前記端子金具の挿入方向の奥側には、収容した前記端子金具の先端部に当接して支持する当接部が形成され、該当接部と前記係止突部とが前記端子金具の挿入方向に互いに重なって設けられていることを特徴とする。
【0022】
上記構成により、端子収容室の奥側に当接部を形成し、収容した端子金具の先端部に当接部を当接させて支持することで、端子金具をコネクタハウジング内部の所定位置かつ所定姿勢で良好に保持することができる。また、当接部と係止突部とが端子金具の挿入方向に互いに重なって設けられていれば、挿入方向と交差する方向への端子金具の幅寸法を拡大させることなく、端子金具の先端部に当接部を当接させ、かつ、端子金具の第二被係止部を係止突部に係止させることができる。ここで、当接部が端子収容室の奥側に位置するため、係止突部を成形するための金型を端子収容室の奥側(コネクタハウジングの前方側)に位置させることが困難になるものの、前述のように、端子収容室の奥側ではないコネクタハウジングの壁部の貫通孔にスライド金型を挿通させることで、当接部との干渉を回避しつつ係止突部を成形することができる。
【0023】
請求項4に記載されたコネクタの製造方法は、請求項1〜3の何れか一項に記載のコネクタを製造するための製造方法であって、前記コネクタハウジングの成形時において、前記端子金具の挿入方向に交差する方向に沿ってスライド可能なスライド金型を用い、前記貫通孔が形成される部分を通して前記スライド金型を挿入し、該スライド金型によって前記係止突部を成形することを特徴とする。
【0024】
上記構成により、前述したコネクタと同様に、第一方向と交差して係止突部が突出していても、コネクタハウジングの壁部に形成される貫通孔の部分を通してスライド金型を挿入し、このスライド金型によって係止突部を成形することで、係止突部を容易に成形することができる。従って、コネクタハウジングを製造するための設備や装置の複雑化を回避することができ、製造コストの増加を防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の発明によれば、少なくとも二箇所で端子金具を係止することで係止力を高めて端子金具の抜け出しを防止することができるので、従来のコネクタのようなスペーサやフロントホルダを必ずしも設けなくてもよくなることから、多種多様なコネクタに対応することができるとともに、コネクタの大型化や構造の複雑化を回避して製造コストを抑制することができる。また、コネクタハウジングの壁部に設けた貫通孔を利用し、スライド金型を用いて係止突部を容易に成形することができるので、コネクタハウジングの製造コストをさらに抑制することができる。
【0026】
請求項2記載の発明によれば、端子金具に設けたスタビライザ等の突片を係止突部で係止することで、端子金具の係止状態が維持しやすくなって、端子金具の抜け出しをより確実に防止することができる。また、元々スタビライザを備えた端子金具の場合であれば、別途の第二被係止部を形成するような設計変更の必要がなく、端子金具をそのまま利用することができるので、製造コストをさらに抑制しつつ係止力を高めることができる。
【0027】
請求項3記載の発明によれば、当接部と干渉せずに係止突部が成形できるので、製造コストを抑制しつつ、端子金具の抜け出し防止と所定位置での良好な保持とが実現できる。
【0028】
請求項4記載の発明によれば、コネクタハウジングを製造するための設備や装置の複雑化を回避して製造コストを抑制しつつ、スペーサやフロントホルダの有無に関わらずに多種多様な製品に対応して端子金具の係止力を高めたコネクタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態にかかるコネクタを分解して示す斜視図である。
【図2】前記コネクタにおけるコネクタハウジングを示す斜視図である。
【図3】図2にA−A線で示す位置で前記コネクタハウジングを断面して示す斜視図である。
【図4】前記コネクタハウジングの要部を拡大して示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は平面図である。
【図5】前記コネクタにおける端子金具の係止手順を示す部分斜視図である。
【図6】前記コネクタの製造方法を示す部分断面である。
【図7】(A)〜(C)は前記コネクタの組み立て手順を示す断面図である。
【図8】(A),(B)は前記コネクタの組み立て手順を示す斜視図である。
【図9】従来のコネクタの一形態を示す分解斜視図である。
【図10】前記従来のコネクタを示す断面図である。
【図11】従来のコネクタの他の形態を示す分解斜視図である。
【図12】前記従来のコネクタを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態にかかるコネクタを、図1〜図8を参照して説明する。本実施形態のコネクタ1は、自動車などに配索されるワイヤハーネスを構成するものであって、自動車等に搭載される多種多様な電子機器や他のワイヤハーネスに設けられた相手方のコネクタに嵌合して接続されるものである。ワイヤハーネスは、複数の電線2と、コネクタ1とを備えている。電線2は、導電性の芯線と、この芯線を被覆する絶縁性の被覆部とを備え、その端部がコネクタ1の端子金具3に圧着されている。
【0031】
コネクタ1は、図1に示すように、所謂雌型端子金具である端子金具3と、端子金具3を収容するコネクタハウジング4と、コネクタハウジング4に挿入されるスペーサ5とを備えている。即ち、コネクタ1は、雌型端子金具である端子金具3を備えた雌型コネクタであり、相手方の雄型コネクタと嵌合して接続されるものである。なお、本実施形態においては、雌型コネクタであるコネクタ1を例示して説明するが、本発明のコネクタは、雄型コネクタであってもよい。
【0032】
端子金具3は、導電性の板金に打ち抜き加工と折り曲げ加工が施されて形成され、電線接続部31と電気接触部32とを一体に備えている。電線接続部31は、帯状の底板部と、底板部の幅方向両端に連なる加締め片とを備え、底板部上に芯線が露出された電線2の端部が載置され、加締め片がこの電線2の端部を加締めることによって、電線2の芯線と電気的かつ機械的に接続される。
【0033】
電気接触部32は、四角筒状に形成され、電線接続部31の底板部に連なっている。電気接触部32内には、図示しない相手方のコネクタの雄型端子金具が挿入され、この雄型端子金具を電気接触部32の内面との間に挟持する弾性片33が設けられている。このように電気接触部32の内面と弾性片33との間に雄型端子金具を挟持することで、端子金具3と雄型端子金具とが電気的かつ機械的に接続される。
【0034】
また、電気接触部32には、その四角筒状の一辺(又は二辺)から突出した突片としてのスタビライザ34が形成されている。スタビライザ34は、後述するコネクタハウジング4内部の案内溝46に挿通され、この案内溝46に沿って案内される。このようにスタビライザ34が案内溝46に挿通されることで、端子金具3を所定の向きでコネクタハウジング4に挿入することができるとともに、挿入の際にスタビライザ34が案内溝46に案内されることで、端子金具3の倒れや挿入方向(図1等に矢印Xで示す方向)に対する傾斜等が防止できるようになっている。
【0035】
コネクタハウジング4は、絶縁性の合成樹脂等で構成され、図1〜図3に示すように、箱状のハウジング本体40と、相手方のコネクタをロックするためのロックアーム41とを備えている。ハウジング本体40は、端子金具3を収容する端子収容室42と、スペーサ5を収容するスペーサ収容室43とを備えている。
【0036】
また、ハウジング本体40は、相手側コネクタに対向する前面40Aと、前面40Aの反対側で端子金具3が挿入される側の背面40Bと、スペーサ5が挿入される側の上面40Cと、上面40Cの反対側の底面40Dと、ロックアーム41が設けられる側の第一側面40Eと、第一側面40Eの反対側の第二側面40Fとを有している。なお、ここで、上面40Cや底面40D等は、あくまで説明を簡明にするための便宜的な呼称に過ぎず、コネクタ1の利用状態における上下左右の方向を規定するものでない。
【0037】
端子収容室42は、複数(本実施形態では2個)設けられ、互いに平行に並設されている。複数の端子収容室42は、コネクタハウジング4の前後方向に延びて直線筒状に形成されており、長手方向の両端がハウジング本体40の前面40A及び背面40Bに開口している。2個の端子収容室42のうち、図1中右側かつ図2中上側の端子収容室42は、ハウジング本体40の上面40Cを構成する上壁部44Aと、底面40Dを構成する底壁部44Bと、第一側面40Eを構成する第一側壁部44Cと、上壁部44Aと底壁部44Bとに渡って設けられる中間壁部44Dとに囲まれている。一方、図1中左側かつ図2中下側の端子収容室42は、上壁部44Aと、底壁部44Bと、第二側面40Fを構成する第二側壁部44Eと、中間壁部44Dとに囲まれている。
【0038】
このような端子収容室42の内部には、ハウジング本体40の背面40B側から端子収容室42の長手方向に沿って端子金具3が挿入され、この端子金具3が挿入される方向を図1等において矢印Xで示し、この方向を端子金具3の挿入方向Xと呼ぶ。また、端子金具3の挿入方向Xと交差し第一側壁部44Cと第二側壁部44Eとが対向する方向を矢印Yで示し、この方向を第一交差方向Yと呼び、挿入方向Xと交差し上壁部44Aと底壁部44Bとが対向する方向を矢印Zで示し、この方向を第二交差方向Zと呼ぶ。なお、端子収容室42の内部において、ハウジング本体40の背面40B側を挿入方向Xの入口側、前面40A側を挿入方向Xの奥側と呼ぶことがある。
【0039】
各端子収容室42の内部には、図3〜図5に示すように、係止部としての係止ランス45が設けられている。この係止ランス45は、端子金具3を係止することによって端子収容室42からの端子金具3の抜け出しを規制するものである。係止ランス45は、底壁部44Bから挿入方向Xの奥側に向かって片持ち状に延びる係止アーム部45Aと、この係止アーム部45Aの基端部から突出する係止突部45Bとを有して形成されている。係止アーム部45Aは、その基端部が底壁部44Bの内面に連続し、挿入方向Xの奥側かつ第二交差方向Zの上壁部44A側に傾斜して延びている。また、係止アーム部45Aは、自由端である先端部側が底壁部44Bに向かって弾性変形可能になっており、この係止アーム部45Aを弾性変形させつつ乗り越えた端子金具3が係止アーム部45Aの先端部45Cに係止されるようになっている。
【0040】
ここで、端子金具3には、電気接触部32のスタビライザ34よりも前方側(電線接続部31の反対側)にて外面から凹んで設けられた第一被係止部としての段部35が形成され、この段部35を係止アーム部45Aの先端部45Cが係止するようになっている。また、係止アーム部45Aの先端部には、係止解除突起45Dが形成されている。この係止解除突起45Dに端子抜き用の治具を引っ掛けて、係止アーム部45Aを弾性変形させることで、係止アーム部45Aと段部35との係止を外すことができる。
【0041】
係止突部45Bは、係止アーム部45Aの基端部から第一交差方向Yの第二側壁部44E側に向かって突出するとともに、挿入方向Xの奥側に向かって第二側壁部44Eに近づく傾斜を有して形成されている。この係止突部45Bは、係止アーム部45Aの弾性変形に伴って底壁部44Bに向かって変形可能、かつ、第二側壁部44Eから離れる方向(係止アーム部45Aに没入する方向)へ弾性変形可能になっており、この係止突部45Bを弾性変形させつつ乗り越えた端子金具3のスタビライザ34が係止突部45Bに係止されるようになっている。また、ハウジング本体40の底壁部44Bと第二側壁部44Eとの交差部には、挿入方向Xに沿って延び、スタビライザ34を案内する案内溝46が形成されている。即ち、係止突部45Bは、案内溝46に突出して形成されている。
【0042】
また、ハウジング本体40の底壁部44Bには、図2〜図4に示すように、各端子収容室42に対応した位置の該底壁部44Bを貫通する貫通孔としてのスリット47が形成されている。このスリット47は、案内溝46に沿うとともに、係止アーム部45Aの側面に沿って形成され、図4(B)に示すように、該スリット47を介して係止突部45Bを外部に臨ませるように形成されている。即ち、ハウジング本体40を底壁部44B側から見た場合に、係止突部45Bの底面略全体がスリット47を通して外部に露出するようになっている。このような係止突部45Bによるスタビライザ34の係止は、スリット47から挿入した治具によって係止突部45Bを弾性変形させることで外すことができる。そして、前述したように、係止アーム部45Aと段部35との係止を外すとともに、係止突部45Bとスタビライザ34との係止を外してから、電線2を引っ張って端子金具3を挿入方向Xの入口側に移動させることで、端子収容室42から端子金具3を引き抜くことができるようになっている。
【0043】
端子収容室42の内部における挿入方向Xの奥側には、挿入された端子金具3の電気接触部32に当接して支持する当接部48が形成されている。この当接部48は、上壁部44Aとの間に電気接触部32を挟持することで、端子金具3を位置決めしつつ保持するもので、第一交差方向Yに並んで一対で構成されている。また、当接部48は、係止突部45Bに対して端子金具3の挿入方向Xに重なって設けられている。即ち、当接部48と係止突部45Bとは、図4(A)に示すように、第二交差方向Zの略同一位置に設けられ、図4(B)に示すように、第一交差方向Yに沿って互いに逆向きから互いの先端よりも長く突出して設けられ、挿入方向Xに沿って互いの少なくとも一部を対向させて設けられている。
【0044】
スペーサ5は、図1及び図3に示すように、ハウジング本体40の上壁部44Aと平行なスペーサ本体部51と、このスペーサ本体部51から延びてスペーサ収容室43に挿入される複数の挿入片部52とを備える。スペーサ本体部51には、スペーサ5全体がスペーサ収容室43に収容された本係止位置において、前記各端子収容室42の内部に位置して端子金具3に当接可能な規制片部53が形成されている。また、スペーサ収容室43には、本係止位置でスペーサ本体部51を係止する係止片43Aが設けられている。一方、複数の挿入片部52のうち、両端部側の2個の挿入片部52には、スペーサ5の一部がスペーサ収容室43に収容された仮係止位置において、ハウジング本体40の第一及び第二側壁部44C,44E内面に係止される突起54が形成されている。また、中間部の挿入片部52は、スペーサ5がスペーサ収容室43に収容された状態で、中間壁部44Dと連続して各端子収容室42間の仕切り壁を構成するようになっている。
【0045】
このようなスペーサ5は、突起54がハウジング本体40の第一及び第二側壁部44C,44E内面に係止された仮係止位置において、端子金具3が端子収容室42から抜け出ることを許容し、スペーサ本体部51が係止片43Aに係止された本係止位置において、端子金具3が端子収容室42から抜け出ることを規制する。このような仮係止位置と本係止位置とに渡って移動自在にスペーサ5はコネクタハウジング4に取り付けられる。また、スペーサ5は、本係止位置において、端子収容室42の内部に位置する規制片部53が、電気接触部32の後端縁36(図5及び図7参照)に当接することで、端子金具3の抜け出しを規制できるようになっている。
【0046】
以下、前述した構成のコネクタ1の製造方法について、図6〜図8も参照して説明する。
先ず、端子金具3を板金から打ち抜き加工及び折り曲げ加工によって製造し、圧着装置を用いて電線2を電線接続部31に圧着しておく。一方、コネクタハウジング4及びスペーサ5を合成樹脂から射出成形によって製造する。
【0047】
コネクタハウジング4の射出成形に際しては、図6に示すように、ハウジング本体40の底壁部44Bからスリット47となる部分を通してハウジング本体40の内部に挿入可能なスライド金型Mを用いる。このスライド金型Mは、第二交差方向Zに沿ってスライド自在に支持されるとともに、係止突部45Bの底面を成形する第一成形面M1を有している。さらに、スライド金型Mは、係止突部45Bと当接部48との間に挿入されて、これらの側面を成形する第二成形面M2及び第三成形面M3を有している。また、図示しない主金型は、挿入方向Xに型開き可能な雄雌少なくとも一対で構成され、雄型及び雌型のいずれか一方にスライド金型Mが挿入されるようになっている。また、スペーサ収容室43なども適宜なスライド金型を用いて成形される。以上の主金型にスライド金型Mを挿入した状態で金型内に溶融樹脂を充填し、スライド金型Mによって係止突部45Bを成形してから、スライド金型Mを主金型から抜き、その後、主金型を開くことでコネクタハウジング4が製造される。
【0048】
次に、コネクタ1の組立手順としては、先ず、図7(A)及び図8(A)に示すように、コネクタハウジング4のスペーサ収容室43にスペーサ5を仮係止位置まで挿入しておく。この仮係止状態で電線2付きの端子金具3をコネクタハウジング4の背面40B側から端子収容室42に挿入する。この際、端子金具3のスタビライザ34を案内溝46に挿通させることで、端子金具3の転倒や傾斜が防止できるようになっている。さらに、端子金具3を挿入方向Xの奥側に向かって挿入すると、電気接触部32の前方側底面部が係止ランス45に当接して係止アーム部45Aの上面に摺接し、この係止アーム部45Aを底壁部44Bに向かって押圧して弾性変形させる。これとともに、スタビライザ34が係止突部45Bに摺接しつつ、この係止突部45Bを弾性変形させる。
【0049】
さらに、端子金具3を端子収容室42の奥まで挿入すると、図7(B)に示すように、端子金具3の段部35が係止アーム部45Aを乗り越え、この係止アーム部45Aの先端部45Cが段部35を係止する。これとともに、スタビライザ34が係止突部45Bを乗り越え、この係止突部45Bがスタビライザ34を係止する。これによって、端子金具3は、段部35とスタビライザ34との2箇所がコネクタハウジング4の係止ランス45に係止された仮係止状態となる。また、端子金具3の電気接触部32の前方端は、端子収容室42奥側の上壁部44A内面と当接部48との間に挟持され、第一及び第二交差方向Y,Zに移動不能に保持される。
【0050】
なお、仮係止状態を解除して端子金具3を端子収容室42から引き抜く場合には、前述したように、端子抜き用の治具を係止解除突起45Cに引っ掛けて係止アーム部45Aを底壁部44Bに向かって弾性変形させ、係止アーム部45Aと段部35との係止を外すとともに、係止突部45Bとスタビライザ34との係止を外してから、電線2を引っ張って端子金具3を挿入方向Xの入口側に引き抜く。
【0051】
次に、仮係止状態からスペーサ5をコネクタハウジング4に押し込み、スペーサ本体部51を係止片43Aに係止させることで、図7(C)及び図8(B)に示すように、スペーサ収容室43にスペーサ5全体が収容される本係止位置にスペーサ5を移動させる。この本係止状態では、前述したように、段部35とスタビライザ34との2箇所が係止ランス45に係止されるとともに、電気接触部32の後端縁36がスペーサ5の規制片部53に係止される。これによって、端子金具3が3箇所で係止されて、その抜け出しが強固に規制された本係止状態となる。以上の手順によって、コネクタ1が完成する。
【0052】
本実施形態によれば、仮係止状態において、端子金具3は、段部35とスタビライザ34との2箇所がコネクタハウジング4の係止ランス45に係止されるので、係止力を高めることができ、端子金具3の抜け出しを防止することができる。また、端子金具3が端子収容室42奥側の上壁部44A内面と当接部48との間に保持され、端子収容室42の内部における端子金具3の移動が規制されるので、係止ランス45による係止が外れることを防止して、端子金具3の抜け出しをより確実に防止することができる。さらに、スペーサ5を本係止位置に移動させて規制片部53を当接させることで、端子金具3が3箇所で係止されることとなって、本係止状態における係止力を一層向上させることができる。
【0053】
また、ハウジング本体40の底壁部44Bにスリット47が形成され、このスリット47を介して係止突部45Bをハウジング本体40の外部に臨ませるようにしたことで、スリット47が形成される部分に挿入したスライド金型Mを用いて、係止突部45Bを容易に成形することができる。即ち、ハウジング本体40の前方側に従来のようなフロントホルダが設けられず、前方側から型抜きできない本実施形態のコネクタハウジング4であっても、端子金具3の挿入方向Xと交差する第二交差方向Z(あるいは第一交差方向Y)から挿入可能なスライド金型Mを用いることで、係止突部45Bを容易に成形することができる。このようなスライド金型Mを用いて係止突部45Bを容易に成形することができるので、射出成形装置の金型構造の複雑化や成形工程の煩雑化を招くことなく、コネクタハウジング4の製造コストを抑制することができる。
【0054】
なお、前記実施形態では、コネクタ1は雌型端子金具である端子金具3を備えた雌型コネクタであったが、本発明のコネクタは雌型コネクタに限らず、雄型端子金具を備えた雄型コネクタであってもよい。また、前記実施形態では、スペーサ5を備えたコネクタ1について説明したが、本発明のコネクタは、スペーサやフロントホルダ等を用いて本係止状態とするものに限らず、係止部(係止ランス45)単体で端子金具を係止する構造のものでもよい。このように係止部単体で端子金具を係止する構造であっても、前述したように、係止部の係止アーム部45A先端部45Cと係止突部45Bとの2箇所で端子金具を係止することで、高い係止力を得ることができる。
【0055】
また、前記実施形態では、コネクタハウジング4には2箇所の端子収容室42が形成され、2個の端子金具3が収容されるコネクタ1を例示したが、端子収容室の数や配列などは特に限定されない。また、前記実施形態のコネクタハウジング4では、対向壁部である上壁部44Aにスペーサ収容室43が開口して設けられ、壁部である底壁部44Bに貫通孔であるスリット47が形成されていたが、これらの配置は特に限定されず、スペーサ収容室43とスリット47とが、コネクタハウジング4の同一面に形成されていてもよいし、互いに交差する面に形成されていてもよい。また、前記実施形態では、係止アーム部45Aの先端部45Cが端子金具3の段部35を係止し、係止突部45Bが端子金具3のスタビライザ34を係止する構造であったが、端子金具における第一被係止部や第二被係止部の部位は特に限定されず、端子金具の適宜な位置に設けられていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るコネクタ及びコネクタの製造方法は、例えば自動車などに配索されるワイヤハーネスを構成するコネクタや、電子機器側に設けられてワイヤハーネス等が接続されるコネクタとして利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 コネクタ
3 端子金具
4 コネクタハウジング
5 スペーサ
34 スタビライザ(第二被係止部、突片)
35 段部(第一被係止部)
42 端子収容室
43 スペーサ収容室
44A 上壁部(対向壁部)
44B 底壁部(壁部)
45 係止ランス(係止部)
45A 係止アーム部
45B 係止突部
45C 先端部
46 案内溝
47 スリット(貫通孔)
48 当接部
M スライド金型
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに配索されるワイヤハーネスを構成するコネクタ、及び該コネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体としての自動車には、多種多様な電子機器が搭載され、電子機器に電力や制御信号などを伝えるために、ワイヤハーネスが配索されている。ワイヤハーネスは、複数の電線と、コネクタとを備え、このコネクタを電子機器のコネクタや他のワイヤハーネスのコネクタに嵌合させることで、電子機器や他のワイヤハーネスに接続されている。
【0003】
このようなワイヤハーネスに用いられるコネクタとしては、筒状のコネクタハウジングと、該コネクタハウジングに収容されるとともに電線の端末に取り付けられる端子金具とを備えたものが一般的であり、使用環境や使用目的に応じた各種形態のコネクタが利用されている。
【0004】
通常、コネクタの端子金具は、導電性の板金を折り曲げる等して形成され、端子金具は、ワイヤハーネスの電線と接続される電線接続部と、相手方のコネクタの端子金具と接続される電気接触部とを備えている。コネクタハウジングは、端子金具を内部に収容する直線孔状の端子収容室と、端子収容室内に突出しかつ弾性変形自在に設けられて端子金具を端子収容室内に係止する係止ランスとを備えて形成されている。
【0005】
このようなコネクタにおいて、係止ランスによって端子金具を係止するだけでは係止力が不足し、ワイヤハーネスの製造工程等において引き回した際にコネクタハウジングから端子金具が抜け出す場合がある。このことから、コネクタハウジングから端子金具が抜け出ることを防止するために、係止ランスの移動を規制して端子金具の係止が外れないように本係止するものとして、スペーサを備えたコネクタ(例えば、特許文献1、2参照)や、フロントホルダを備えたコネクタ(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0006】
特許文献1に記載されたコネクタ100は、図9及び図10に示すように、コネクタハウジング101と、スペーサ102と、電線が接続された雌型の端子金具(以下、雌端子と記す)103とを備えている。コネクタハウジング101は、絶縁性の合成樹脂等から全体箱状に形成され、雌端子103を収容する端子収容室(ターミナル収容室)104と、スペーサ102を収容するスペーサ収容室(貫通孔)105とを備えている。なお、特許文献2に記載のコネクタも略同様の構成を備えるため、以下では、特許文献1のコネクタ100について説明する。
【0007】
端子収容室104は、複数設けられて互いに並設されるとともに、それぞれ直線状に延びており、長手方向の両端がコネクタハウジング101の端面に開口している。端子収容
室104には、その長手方向(端子金具の挿入方向)に沿って雌端子103が挿入され、その挿入方向奥側の端子収容室104内部に臨んで係止ランス106が形成されている。スペーサ収容室105は、コネクタハウジング101の複数の外面のうち端子収容室104の長手方向と直交する一つの外面から凹に形成され、それぞれの端子収容室104の長手方向略中央を横切って設けられている。
【0008】
スペーサ102は、絶縁性の合成樹脂等で構成され、スペーサ収容室105に挿入される複数の挿入ピン107と、各挿入ピン107に設けられた係止突起108とを備えている。係止突起108は、各挿入ピン107の側面において上下二段で設けられ、これら二段の係止突起108間に雌端子103が挿通可能な間隔が形成されている。このようなスペーサ102は、スペーサ収容室105に挿入されると、先ず、図10(A)に示すように、挿入ピン107の先端がコネクタハウジング101に係止され、仮係止位置に位置付けられる。
【0009】
スペーサ102が仮係止位置に位置付けられた状態において、スペーサ102の挿入ピン107及び係止突起108間の間隔部分と、端子収容室104とが互いに連通して、端子収容室104に雌端子103が挿入可能になる。そして、雌端子103を端子収容室104に挿入すると、係止ランス106が弾性変形して雌端子103の先端部の凹みを係止する。この雌端子103の仮係止状態において、係止ランス106による係止力が十分ではないことから、大きな力で引っ張られた場合には雌端子103がコネクタハウジング101から抜け出ることがある。
【0010】
そこで、仮係止位置に位置付けられたスペーサ102をさらにスペーサ収容室105に挿入していくと、図10(B)に示すように、スペーサ102の本体部がコネクタハウジング101に係止され、本係止位置に位置付けられる。スペーサ102が本係止位置に位置付けられると、係止突起108が端子収容室104内に突出して雌端子103の中間部の突起103Aを係止する。このように、本係止位置に位置付けられたスペーサ102は、雌端子103がコネクタハウジング101から抜け出ることを防止する。
【0011】
一方、特許文献3に記載されたコネクタ110は、図11及び図12に示すように、コネクタハウジング111と、フロントホルダ112と、雌型の端子金具(以下、雌端子と記す)113とを備えている。コネクタハウジング111は、雌端子113を収容する端子収容室114を備え、この端子収容室114内部に臨んで係止ランス115が形成されている。係止ランス115は、端子収容室114の壁部116から雌端子113の挿入方向奥側に向かって傾斜して形成され、係止ランス115と壁部116との間に隙間117が形成されている。
【0012】
フロントホルダ112は、コネクタハウジング111の前方側から装着されるものであって、他のコネクタの雄型の端子金具を挿通させる挿通孔を有した前面部118と、この前面部118から突出してコネクタハウジング111の端子収容室114に挿入される規制突起119とを備えている。規制突起119は、コネクタハウジング111にフロントホルダ112を装着した際に、係止ランス115と壁部116との隙間117に入り込み、これによって係止ランス115の弾性変形を規制するものである。
【0013】
このようなコネクタ110では、コネクタハウジング111の端子収容室114に雌端子113を挿入すると、係止ランス115が弾性変形して雌端子113の凹み113Aを係止する。この雌端子113の仮係止状態において、フロントホルダ112をコネクタハウジング111の前方側から装着し、規制突起119を隙間117に挿入する。これにより、係止ランス115の弾性変形が規制され、雌端子113の凹み113Aの係止が外れない本係止状態となることから、コネクタハウジング101からの雌端子103の抜け出しが防止できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭64−54678号公報
【特許文献2】特開2007−115614号公報
【特許文献3】特開2011−108578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前述した特許文献1〜3に示されたような従来のコネクタでは、コネクタハウジングにスペーサやフロントホルダを挿入して本係止状態としなければ、端子金具の係止力を高めることができず、仮係止状態における端子金具の抜け出しを防止することが困難である。即ち、コネクタとしては、前述したようなスペーサ102を備えるものやフロントホルダ112を備えるものに限らず、これらを備えないコネクタ、形態やサイズが異なるコネクタ等も多種存在する。即ち、各種のコネクタに対して一様にスペーサやフロントホルダを設けることは現実的ではなく、また一方、端子金具の係止力を高めるためにスペーサやフロントホルダを設けてしまうと、コネクタが大型化したり、構造が複雑化して成形のための高度な装置が必要になったり、部品点数が増加して製造及び管理コストが増大したり、などの様々な問題を招来することにもなる。
【0016】
本発明は、上記した点に鑑み、大型化や製造コスト増大を招くことなく多種多様な製品に対しても端子金具の係止力を高めて抜け出しを防止することができるコネクタ及びコネクタの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために、請求項1に記載された本発明のコネクタは、端子金具と、該端子金具を収容する端子収容室を有するコネクタハウジングと、を備えたコネクタであって、前記コネクタハウジングは、前記端子収容室と外部とを仕切るとともに該端子収容室の一つの内面を構成する壁部と、前記端子収容室に収容された前記端子金具を係止して当該端子金具の抜け出しを規制する係止部とを備え、前記係止部は、前記壁部の内面に設けられる基端部から前記端子金具の挿入方向の奥側に向かって先端部が延びる係止アーム部と、該係止アーム部から前記端子金具の挿入交差方向に突出する係止突部と、を有し、前記壁部には、該壁部を貫通するとともに前記係止突部を外部に臨ませる貫通孔が形成され、前記端子金具が、前記係止アーム部の先端部に係止される第一被係止部と、前記係止突部に係止される第二被係止部とを有して構成されることを特徴とする。
【0018】
上記構成により、係止部が係止アーム部と係止突部とを有し、係止アーム部の先端部で端子金具の第一被係止部を係止するとともに、係止突部で端子金具の第二被係止部を係止する、即ち、少なくとも二箇所で端子金具を係止することで係止力を高めることができ、端子金具の抜け出しを防止することができる。また、係止突部を外部に臨ませる貫通孔がコネクタハウジングの壁部に形成されていることから、端子金具の挿入交差方向に突出して形成される係止突部を容易に成形することができる。即ち、コネクタハウジングは、絶縁性の合成樹脂を射出成形して製造されることが一般的であり、端子金具の挿入方向(以降、第一方向と記すことがある)に沿って端子収容室が形成されることから、第一方向に型開き可能な成形型が用いられる。このため、第一方向と交差して係止突部が突出していると、係止突部の成形が困難になるのであるが、コネクタハウジングの壁部に貫通孔が形成され、この貫通孔を介して外部に臨むように係止突部が位置していれば、貫通孔部分に挿通させたスライド金型を用いて係止突部を容易に成形することができる。
【0019】
請求項2に記載された本発明のコネクタは、請求項1に記載のコネクタにおいて、前記壁部の内面には、前記コネクタハウジングにおける前記端子金具の挿入方向の入口側から奥側に延びる案内溝が形成され、前記端子金具には、前記案内溝に挿入されて該端子金具の挿入方向に沿って案内される突片が形成され、該突片の一部によって前記第二被係止部が構成されていることを特徴とする。
【0020】
上記構成により、コネクタハウジングの案内溝に沿って案内される突片を端子金具が備えることで、コネクタハウジングに挿入する際における端子金具の回転や傾斜を防止することができ、不正な状態で挿入されることによるコネクタハウジングや端子金具の破損を防止しつつ、挿入作業の作業性を高めることができる。また、端子金具を案内するための突片(スタビライザ等と呼ばれる)で第二被係止部を構成し、この突片の一部を係止突部で係止することで、別途の第二被係止部を形成する必要がなくなり、端子金具の製造コストを抑制することができる。なお、スタビライザ等の突片は、端子金具の挿入方向に交差する方向に突出して形成されることが一般的であり、このように突出した部分が係止突部で係止されることで、係止アーム部の先端部によって第一被係止部を係止する第一の係止位置と、係止突部によって突片を係止する第二の係止位置との距離を離隔させることができる。従って、互いに離れた二箇所で端子金具が係止されることから、係止位置のいずれか一方に外力が作用して係止が外れるような場合であっても、他方の係止を維持させることができ、端子金具の係止状態を維持させやすくできる。
【0021】
請求項3に記載されたコネクタは、請求項1又は2記載のコネクタにおいて、前記端子収容室における前記端子金具の挿入方向の奥側には、収容した前記端子金具の先端部に当接して支持する当接部が形成され、該当接部と前記係止突部とが前記端子金具の挿入方向に互いに重なって設けられていることを特徴とする。
【0022】
上記構成により、端子収容室の奥側に当接部を形成し、収容した端子金具の先端部に当接部を当接させて支持することで、端子金具をコネクタハウジング内部の所定位置かつ所定姿勢で良好に保持することができる。また、当接部と係止突部とが端子金具の挿入方向に互いに重なって設けられていれば、挿入方向と交差する方向への端子金具の幅寸法を拡大させることなく、端子金具の先端部に当接部を当接させ、かつ、端子金具の第二被係止部を係止突部に係止させることができる。ここで、当接部が端子収容室の奥側に位置するため、係止突部を成形するための金型を端子収容室の奥側(コネクタハウジングの前方側)に位置させることが困難になるものの、前述のように、端子収容室の奥側ではないコネクタハウジングの壁部の貫通孔にスライド金型を挿通させることで、当接部との干渉を回避しつつ係止突部を成形することができる。
【0023】
請求項4に記載されたコネクタの製造方法は、請求項1〜3の何れか一項に記載のコネクタを製造するための製造方法であって、前記コネクタハウジングの成形時において、前記端子金具の挿入方向に交差する方向に沿ってスライド可能なスライド金型を用い、前記貫通孔が形成される部分を通して前記スライド金型を挿入し、該スライド金型によって前記係止突部を成形することを特徴とする。
【0024】
上記構成により、前述したコネクタと同様に、第一方向と交差して係止突部が突出していても、コネクタハウジングの壁部に形成される貫通孔の部分を通してスライド金型を挿入し、このスライド金型によって係止突部を成形することで、係止突部を容易に成形することができる。従って、コネクタハウジングを製造するための設備や装置の複雑化を回避することができ、製造コストの増加を防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の発明によれば、少なくとも二箇所で端子金具を係止することで係止力を高めて端子金具の抜け出しを防止することができるので、従来のコネクタのようなスペーサやフロントホルダを必ずしも設けなくてもよくなることから、多種多様なコネクタに対応することができるとともに、コネクタの大型化や構造の複雑化を回避して製造コストを抑制することができる。また、コネクタハウジングの壁部に設けた貫通孔を利用し、スライド金型を用いて係止突部を容易に成形することができるので、コネクタハウジングの製造コストをさらに抑制することができる。
【0026】
請求項2記載の発明によれば、端子金具に設けたスタビライザ等の突片を係止突部で係止することで、端子金具の係止状態が維持しやすくなって、端子金具の抜け出しをより確実に防止することができる。また、元々スタビライザを備えた端子金具の場合であれば、別途の第二被係止部を形成するような設計変更の必要がなく、端子金具をそのまま利用することができるので、製造コストをさらに抑制しつつ係止力を高めることができる。
【0027】
請求項3記載の発明によれば、当接部と干渉せずに係止突部が成形できるので、製造コストを抑制しつつ、端子金具の抜け出し防止と所定位置での良好な保持とが実現できる。
【0028】
請求項4記載の発明によれば、コネクタハウジングを製造するための設備や装置の複雑化を回避して製造コストを抑制しつつ、スペーサやフロントホルダの有無に関わらずに多種多様な製品に対応して端子金具の係止力を高めたコネクタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態にかかるコネクタを分解して示す斜視図である。
【図2】前記コネクタにおけるコネクタハウジングを示す斜視図である。
【図3】図2にA−A線で示す位置で前記コネクタハウジングを断面して示す斜視図である。
【図4】前記コネクタハウジングの要部を拡大して示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は平面図である。
【図5】前記コネクタにおける端子金具の係止手順を示す部分斜視図である。
【図6】前記コネクタの製造方法を示す部分断面である。
【図7】(A)〜(C)は前記コネクタの組み立て手順を示す断面図である。
【図8】(A),(B)は前記コネクタの組み立て手順を示す斜視図である。
【図9】従来のコネクタの一形態を示す分解斜視図である。
【図10】前記従来のコネクタを示す断面図である。
【図11】従来のコネクタの他の形態を示す分解斜視図である。
【図12】前記従来のコネクタを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態にかかるコネクタを、図1〜図8を参照して説明する。本実施形態のコネクタ1は、自動車などに配索されるワイヤハーネスを構成するものであって、自動車等に搭載される多種多様な電子機器や他のワイヤハーネスに設けられた相手方のコネクタに嵌合して接続されるものである。ワイヤハーネスは、複数の電線2と、コネクタ1とを備えている。電線2は、導電性の芯線と、この芯線を被覆する絶縁性の被覆部とを備え、その端部がコネクタ1の端子金具3に圧着されている。
【0031】
コネクタ1は、図1に示すように、所謂雌型端子金具である端子金具3と、端子金具3を収容するコネクタハウジング4と、コネクタハウジング4に挿入されるスペーサ5とを備えている。即ち、コネクタ1は、雌型端子金具である端子金具3を備えた雌型コネクタであり、相手方の雄型コネクタと嵌合して接続されるものである。なお、本実施形態においては、雌型コネクタであるコネクタ1を例示して説明するが、本発明のコネクタは、雄型コネクタであってもよい。
【0032】
端子金具3は、導電性の板金に打ち抜き加工と折り曲げ加工が施されて形成され、電線接続部31と電気接触部32とを一体に備えている。電線接続部31は、帯状の底板部と、底板部の幅方向両端に連なる加締め片とを備え、底板部上に芯線が露出された電線2の端部が載置され、加締め片がこの電線2の端部を加締めることによって、電線2の芯線と電気的かつ機械的に接続される。
【0033】
電気接触部32は、四角筒状に形成され、電線接続部31の底板部に連なっている。電気接触部32内には、図示しない相手方のコネクタの雄型端子金具が挿入され、この雄型端子金具を電気接触部32の内面との間に挟持する弾性片33が設けられている。このように電気接触部32の内面と弾性片33との間に雄型端子金具を挟持することで、端子金具3と雄型端子金具とが電気的かつ機械的に接続される。
【0034】
また、電気接触部32には、その四角筒状の一辺(又は二辺)から突出した突片としてのスタビライザ34が形成されている。スタビライザ34は、後述するコネクタハウジング4内部の案内溝46に挿通され、この案内溝46に沿って案内される。このようにスタビライザ34が案内溝46に挿通されることで、端子金具3を所定の向きでコネクタハウジング4に挿入することができるとともに、挿入の際にスタビライザ34が案内溝46に案内されることで、端子金具3の倒れや挿入方向(図1等に矢印Xで示す方向)に対する傾斜等が防止できるようになっている。
【0035】
コネクタハウジング4は、絶縁性の合成樹脂等で構成され、図1〜図3に示すように、箱状のハウジング本体40と、相手方のコネクタをロックするためのロックアーム41とを備えている。ハウジング本体40は、端子金具3を収容する端子収容室42と、スペーサ5を収容するスペーサ収容室43とを備えている。
【0036】
また、ハウジング本体40は、相手側コネクタに対向する前面40Aと、前面40Aの反対側で端子金具3が挿入される側の背面40Bと、スペーサ5が挿入される側の上面40Cと、上面40Cの反対側の底面40Dと、ロックアーム41が設けられる側の第一側面40Eと、第一側面40Eの反対側の第二側面40Fとを有している。なお、ここで、上面40Cや底面40D等は、あくまで説明を簡明にするための便宜的な呼称に過ぎず、コネクタ1の利用状態における上下左右の方向を規定するものでない。
【0037】
端子収容室42は、複数(本実施形態では2個)設けられ、互いに平行に並設されている。複数の端子収容室42は、コネクタハウジング4の前後方向に延びて直線筒状に形成されており、長手方向の両端がハウジング本体40の前面40A及び背面40Bに開口している。2個の端子収容室42のうち、図1中右側かつ図2中上側の端子収容室42は、ハウジング本体40の上面40Cを構成する上壁部44Aと、底面40Dを構成する底壁部44Bと、第一側面40Eを構成する第一側壁部44Cと、上壁部44Aと底壁部44Bとに渡って設けられる中間壁部44Dとに囲まれている。一方、図1中左側かつ図2中下側の端子収容室42は、上壁部44Aと、底壁部44Bと、第二側面40Fを構成する第二側壁部44Eと、中間壁部44Dとに囲まれている。
【0038】
このような端子収容室42の内部には、ハウジング本体40の背面40B側から端子収容室42の長手方向に沿って端子金具3が挿入され、この端子金具3が挿入される方向を図1等において矢印Xで示し、この方向を端子金具3の挿入方向Xと呼ぶ。また、端子金具3の挿入方向Xと交差し第一側壁部44Cと第二側壁部44Eとが対向する方向を矢印Yで示し、この方向を第一交差方向Yと呼び、挿入方向Xと交差し上壁部44Aと底壁部44Bとが対向する方向を矢印Zで示し、この方向を第二交差方向Zと呼ぶ。なお、端子収容室42の内部において、ハウジング本体40の背面40B側を挿入方向Xの入口側、前面40A側を挿入方向Xの奥側と呼ぶことがある。
【0039】
各端子収容室42の内部には、図3〜図5に示すように、係止部としての係止ランス45が設けられている。この係止ランス45は、端子金具3を係止することによって端子収容室42からの端子金具3の抜け出しを規制するものである。係止ランス45は、底壁部44Bから挿入方向Xの奥側に向かって片持ち状に延びる係止アーム部45Aと、この係止アーム部45Aの基端部から突出する係止突部45Bとを有して形成されている。係止アーム部45Aは、その基端部が底壁部44Bの内面に連続し、挿入方向Xの奥側かつ第二交差方向Zの上壁部44A側に傾斜して延びている。また、係止アーム部45Aは、自由端である先端部側が底壁部44Bに向かって弾性変形可能になっており、この係止アーム部45Aを弾性変形させつつ乗り越えた端子金具3が係止アーム部45Aの先端部45Cに係止されるようになっている。
【0040】
ここで、端子金具3には、電気接触部32のスタビライザ34よりも前方側(電線接続部31の反対側)にて外面から凹んで設けられた第一被係止部としての段部35が形成され、この段部35を係止アーム部45Aの先端部45Cが係止するようになっている。また、係止アーム部45Aの先端部には、係止解除突起45Dが形成されている。この係止解除突起45Dに端子抜き用の治具を引っ掛けて、係止アーム部45Aを弾性変形させることで、係止アーム部45Aと段部35との係止を外すことができる。
【0041】
係止突部45Bは、係止アーム部45Aの基端部から第一交差方向Yの第二側壁部44E側に向かって突出するとともに、挿入方向Xの奥側に向かって第二側壁部44Eに近づく傾斜を有して形成されている。この係止突部45Bは、係止アーム部45Aの弾性変形に伴って底壁部44Bに向かって変形可能、かつ、第二側壁部44Eから離れる方向(係止アーム部45Aに没入する方向)へ弾性変形可能になっており、この係止突部45Bを弾性変形させつつ乗り越えた端子金具3のスタビライザ34が係止突部45Bに係止されるようになっている。また、ハウジング本体40の底壁部44Bと第二側壁部44Eとの交差部には、挿入方向Xに沿って延び、スタビライザ34を案内する案内溝46が形成されている。即ち、係止突部45Bは、案内溝46に突出して形成されている。
【0042】
また、ハウジング本体40の底壁部44Bには、図2〜図4に示すように、各端子収容室42に対応した位置の該底壁部44Bを貫通する貫通孔としてのスリット47が形成されている。このスリット47は、案内溝46に沿うとともに、係止アーム部45Aの側面に沿って形成され、図4(B)に示すように、該スリット47を介して係止突部45Bを外部に臨ませるように形成されている。即ち、ハウジング本体40を底壁部44B側から見た場合に、係止突部45Bの底面略全体がスリット47を通して外部に露出するようになっている。このような係止突部45Bによるスタビライザ34の係止は、スリット47から挿入した治具によって係止突部45Bを弾性変形させることで外すことができる。そして、前述したように、係止アーム部45Aと段部35との係止を外すとともに、係止突部45Bとスタビライザ34との係止を外してから、電線2を引っ張って端子金具3を挿入方向Xの入口側に移動させることで、端子収容室42から端子金具3を引き抜くことができるようになっている。
【0043】
端子収容室42の内部における挿入方向Xの奥側には、挿入された端子金具3の電気接触部32に当接して支持する当接部48が形成されている。この当接部48は、上壁部44Aとの間に電気接触部32を挟持することで、端子金具3を位置決めしつつ保持するもので、第一交差方向Yに並んで一対で構成されている。また、当接部48は、係止突部45Bに対して端子金具3の挿入方向Xに重なって設けられている。即ち、当接部48と係止突部45Bとは、図4(A)に示すように、第二交差方向Zの略同一位置に設けられ、図4(B)に示すように、第一交差方向Yに沿って互いに逆向きから互いの先端よりも長く突出して設けられ、挿入方向Xに沿って互いの少なくとも一部を対向させて設けられている。
【0044】
スペーサ5は、図1及び図3に示すように、ハウジング本体40の上壁部44Aと平行なスペーサ本体部51と、このスペーサ本体部51から延びてスペーサ収容室43に挿入される複数の挿入片部52とを備える。スペーサ本体部51には、スペーサ5全体がスペーサ収容室43に収容された本係止位置において、前記各端子収容室42の内部に位置して端子金具3に当接可能な規制片部53が形成されている。また、スペーサ収容室43には、本係止位置でスペーサ本体部51を係止する係止片43Aが設けられている。一方、複数の挿入片部52のうち、両端部側の2個の挿入片部52には、スペーサ5の一部がスペーサ収容室43に収容された仮係止位置において、ハウジング本体40の第一及び第二側壁部44C,44E内面に係止される突起54が形成されている。また、中間部の挿入片部52は、スペーサ5がスペーサ収容室43に収容された状態で、中間壁部44Dと連続して各端子収容室42間の仕切り壁を構成するようになっている。
【0045】
このようなスペーサ5は、突起54がハウジング本体40の第一及び第二側壁部44C,44E内面に係止された仮係止位置において、端子金具3が端子収容室42から抜け出ることを許容し、スペーサ本体部51が係止片43Aに係止された本係止位置において、端子金具3が端子収容室42から抜け出ることを規制する。このような仮係止位置と本係止位置とに渡って移動自在にスペーサ5はコネクタハウジング4に取り付けられる。また、スペーサ5は、本係止位置において、端子収容室42の内部に位置する規制片部53が、電気接触部32の後端縁36(図5及び図7参照)に当接することで、端子金具3の抜け出しを規制できるようになっている。
【0046】
以下、前述した構成のコネクタ1の製造方法について、図6〜図8も参照して説明する。
先ず、端子金具3を板金から打ち抜き加工及び折り曲げ加工によって製造し、圧着装置を用いて電線2を電線接続部31に圧着しておく。一方、コネクタハウジング4及びスペーサ5を合成樹脂から射出成形によって製造する。
【0047】
コネクタハウジング4の射出成形に際しては、図6に示すように、ハウジング本体40の底壁部44Bからスリット47となる部分を通してハウジング本体40の内部に挿入可能なスライド金型Mを用いる。このスライド金型Mは、第二交差方向Zに沿ってスライド自在に支持されるとともに、係止突部45Bの底面を成形する第一成形面M1を有している。さらに、スライド金型Mは、係止突部45Bと当接部48との間に挿入されて、これらの側面を成形する第二成形面M2及び第三成形面M3を有している。また、図示しない主金型は、挿入方向Xに型開き可能な雄雌少なくとも一対で構成され、雄型及び雌型のいずれか一方にスライド金型Mが挿入されるようになっている。また、スペーサ収容室43なども適宜なスライド金型を用いて成形される。以上の主金型にスライド金型Mを挿入した状態で金型内に溶融樹脂を充填し、スライド金型Mによって係止突部45Bを成形してから、スライド金型Mを主金型から抜き、その後、主金型を開くことでコネクタハウジング4が製造される。
【0048】
次に、コネクタ1の組立手順としては、先ず、図7(A)及び図8(A)に示すように、コネクタハウジング4のスペーサ収容室43にスペーサ5を仮係止位置まで挿入しておく。この仮係止状態で電線2付きの端子金具3をコネクタハウジング4の背面40B側から端子収容室42に挿入する。この際、端子金具3のスタビライザ34を案内溝46に挿通させることで、端子金具3の転倒や傾斜が防止できるようになっている。さらに、端子金具3を挿入方向Xの奥側に向かって挿入すると、電気接触部32の前方側底面部が係止ランス45に当接して係止アーム部45Aの上面に摺接し、この係止アーム部45Aを底壁部44Bに向かって押圧して弾性変形させる。これとともに、スタビライザ34が係止突部45Bに摺接しつつ、この係止突部45Bを弾性変形させる。
【0049】
さらに、端子金具3を端子収容室42の奥まで挿入すると、図7(B)に示すように、端子金具3の段部35が係止アーム部45Aを乗り越え、この係止アーム部45Aの先端部45Cが段部35を係止する。これとともに、スタビライザ34が係止突部45Bを乗り越え、この係止突部45Bがスタビライザ34を係止する。これによって、端子金具3は、段部35とスタビライザ34との2箇所がコネクタハウジング4の係止ランス45に係止された仮係止状態となる。また、端子金具3の電気接触部32の前方端は、端子収容室42奥側の上壁部44A内面と当接部48との間に挟持され、第一及び第二交差方向Y,Zに移動不能に保持される。
【0050】
なお、仮係止状態を解除して端子金具3を端子収容室42から引き抜く場合には、前述したように、端子抜き用の治具を係止解除突起45Cに引っ掛けて係止アーム部45Aを底壁部44Bに向かって弾性変形させ、係止アーム部45Aと段部35との係止を外すとともに、係止突部45Bとスタビライザ34との係止を外してから、電線2を引っ張って端子金具3を挿入方向Xの入口側に引き抜く。
【0051】
次に、仮係止状態からスペーサ5をコネクタハウジング4に押し込み、スペーサ本体部51を係止片43Aに係止させることで、図7(C)及び図8(B)に示すように、スペーサ収容室43にスペーサ5全体が収容される本係止位置にスペーサ5を移動させる。この本係止状態では、前述したように、段部35とスタビライザ34との2箇所が係止ランス45に係止されるとともに、電気接触部32の後端縁36がスペーサ5の規制片部53に係止される。これによって、端子金具3が3箇所で係止されて、その抜け出しが強固に規制された本係止状態となる。以上の手順によって、コネクタ1が完成する。
【0052】
本実施形態によれば、仮係止状態において、端子金具3は、段部35とスタビライザ34との2箇所がコネクタハウジング4の係止ランス45に係止されるので、係止力を高めることができ、端子金具3の抜け出しを防止することができる。また、端子金具3が端子収容室42奥側の上壁部44A内面と当接部48との間に保持され、端子収容室42の内部における端子金具3の移動が規制されるので、係止ランス45による係止が外れることを防止して、端子金具3の抜け出しをより確実に防止することができる。さらに、スペーサ5を本係止位置に移動させて規制片部53を当接させることで、端子金具3が3箇所で係止されることとなって、本係止状態における係止力を一層向上させることができる。
【0053】
また、ハウジング本体40の底壁部44Bにスリット47が形成され、このスリット47を介して係止突部45Bをハウジング本体40の外部に臨ませるようにしたことで、スリット47が形成される部分に挿入したスライド金型Mを用いて、係止突部45Bを容易に成形することができる。即ち、ハウジング本体40の前方側に従来のようなフロントホルダが設けられず、前方側から型抜きできない本実施形態のコネクタハウジング4であっても、端子金具3の挿入方向Xと交差する第二交差方向Z(あるいは第一交差方向Y)から挿入可能なスライド金型Mを用いることで、係止突部45Bを容易に成形することができる。このようなスライド金型Mを用いて係止突部45Bを容易に成形することができるので、射出成形装置の金型構造の複雑化や成形工程の煩雑化を招くことなく、コネクタハウジング4の製造コストを抑制することができる。
【0054】
なお、前記実施形態では、コネクタ1は雌型端子金具である端子金具3を備えた雌型コネクタであったが、本発明のコネクタは雌型コネクタに限らず、雄型端子金具を備えた雄型コネクタであってもよい。また、前記実施形態では、スペーサ5を備えたコネクタ1について説明したが、本発明のコネクタは、スペーサやフロントホルダ等を用いて本係止状態とするものに限らず、係止部(係止ランス45)単体で端子金具を係止する構造のものでもよい。このように係止部単体で端子金具を係止する構造であっても、前述したように、係止部の係止アーム部45A先端部45Cと係止突部45Bとの2箇所で端子金具を係止することで、高い係止力を得ることができる。
【0055】
また、前記実施形態では、コネクタハウジング4には2箇所の端子収容室42が形成され、2個の端子金具3が収容されるコネクタ1を例示したが、端子収容室の数や配列などは特に限定されない。また、前記実施形態のコネクタハウジング4では、対向壁部である上壁部44Aにスペーサ収容室43が開口して設けられ、壁部である底壁部44Bに貫通孔であるスリット47が形成されていたが、これらの配置は特に限定されず、スペーサ収容室43とスリット47とが、コネクタハウジング4の同一面に形成されていてもよいし、互いに交差する面に形成されていてもよい。また、前記実施形態では、係止アーム部45Aの先端部45Cが端子金具3の段部35を係止し、係止突部45Bが端子金具3のスタビライザ34を係止する構造であったが、端子金具における第一被係止部や第二被係止部の部位は特に限定されず、端子金具の適宜な位置に設けられていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るコネクタ及びコネクタの製造方法は、例えば自動車などに配索されるワイヤハーネスを構成するコネクタや、電子機器側に設けられてワイヤハーネス等が接続されるコネクタとして利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 コネクタ
3 端子金具
4 コネクタハウジング
5 スペーサ
34 スタビライザ(第二被係止部、突片)
35 段部(第一被係止部)
42 端子収容室
43 スペーサ収容室
44A 上壁部(対向壁部)
44B 底壁部(壁部)
45 係止ランス(係止部)
45A 係止アーム部
45B 係止突部
45C 先端部
46 案内溝
47 スリット(貫通孔)
48 当接部
M スライド金型
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具と、該端子金具を収容する端子収容室を有するコネクタハウジングと、を備えたコネクタであって、
前記コネクタハウジングは、前記端子収容室と外部とを仕切るとともに該端子収容室の一つの内面を構成する壁部と、前記端子収容室に収容された前記端子金具を係止して当該端子金具の抜け出しを規制する係止部とを備え、
前記係止部は、前記壁部の内面に設けられる基端部から前記端子金具の挿入方向の奥側に向かって先端部が延びる係止アーム部と、該係止アーム部から前記端子金具の挿入交差方向に突出する係止突部と、を有し、前記壁部には、該壁部を貫通するとともに前記係止突部を外部に臨ませる貫通孔が形成され、
前記端子金具が、前記係止アーム部の先端部に係止される第一被係止部と、前記係止突部に係止される第二被係止部とを有して構成されることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記壁部の内面には、前記コネクタハウジングにおける前記端子金具の挿入方向の入口側から奥側に延びる案内溝が形成され、
前記端子金具には、前記案内溝に挿入されて該端子金具の挿入方向に沿って案内される突片が形成され、該突片の一部によって前記第二被係止部が構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記端子収容室における前記端子金具の挿入方向の奥側には、収容した前記端子金具の先端部に当接して支持する当接部が形成され、該当接部と前記係止突部とが前記端子金具の挿入方向に互いに重なって設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のコネクタ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のコネクタを製造するための製造方法であって、
前記コネクタハウジングの成形時において、前記端子金具の挿入方向に交差する方向に沿ってスライド可能なスライド金型を用い、
前記貫通孔が形成される部分を通して前記スライド金型を挿入し、該スライド金型によって前記係止突部を成形することを特徴とするコネクタの製造方法。
【請求項1】
端子金具と、該端子金具を収容する端子収容室を有するコネクタハウジングと、を備えたコネクタであって、
前記コネクタハウジングは、前記端子収容室と外部とを仕切るとともに該端子収容室の一つの内面を構成する壁部と、前記端子収容室に収容された前記端子金具を係止して当該端子金具の抜け出しを規制する係止部とを備え、
前記係止部は、前記壁部の内面に設けられる基端部から前記端子金具の挿入方向の奥側に向かって先端部が延びる係止アーム部と、該係止アーム部から前記端子金具の挿入交差方向に突出する係止突部と、を有し、前記壁部には、該壁部を貫通するとともに前記係止突部を外部に臨ませる貫通孔が形成され、
前記端子金具が、前記係止アーム部の先端部に係止される第一被係止部と、前記係止突部に係止される第二被係止部とを有して構成されることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記壁部の内面には、前記コネクタハウジングにおける前記端子金具の挿入方向の入口側から奥側に延びる案内溝が形成され、
前記端子金具には、前記案内溝に挿入されて該端子金具の挿入方向に沿って案内される突片が形成され、該突片の一部によって前記第二被係止部が構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記端子収容室における前記端子金具の挿入方向の奥側には、収容した前記端子金具の先端部に当接して支持する当接部が形成され、該当接部と前記係止突部とが前記端子金具の挿入方向に互いに重なって設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のコネクタ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のコネクタを製造するための製造方法であって、
前記コネクタハウジングの成形時において、前記端子金具の挿入方向に交差する方向に沿ってスライド可能なスライド金型を用い、
前記貫通孔が形成される部分を通して前記スライド金型を挿入し、該スライド金型によって前記係止突部を成形することを特徴とするコネクタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−110067(P2013−110067A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256098(P2011−256098)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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