説明

コヒーレント光時分割多重伝送方式

【課題】高精度な光位相同期技術を用いて光変調パルス信号と局発光パルス信号間の位相同期を行い、超高速光多値変調パルス信号の長距離光ファイバ伝送を実現する。
【解決手段】送信装置10により光パルス信号を光多値変調及び光時分割多重化した光時分割多重多値変調パルス信号と、該光パルス信号と位相同期した基準光信号を生成および合波し、これらの信号を光ファイバ伝送路4中を伝搬させ、受信装置11により前記基準光信号を用いて前記光時分割多重多値変調パルス信号と局発光パルス信号との位相を同期し、前記光時分割多重多値変調パルス信号と局発光パルス信号とをコヒーレント検出回路7によって時分割多重分離及びコヒーレントホモダイン検波する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光の振幅及び位相に同時に情報を乗せるコヒーレント光多値伝送技術と、光時分割多重伝送技術を組み合わせ、低いシンボルレートで高い伝送速度を実現する、コヒーレント光時分割多重多値伝送方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットトラフィックの大幅な増加に伴い、近年の光通信分野では1波長当たりの伝送容量を拡大することが望まれている。このような要望を満たす新たな伝送方式として最近、高い周波数利用効率を実現する多値コヒーレント光伝送が注目されている。この伝送方式においては1シンボルで多ビットの情報を伝送できるため、低シンボルレートで高速伝送を実現することができる。これにより光ファイバ中における波長分散や偏波モード分散に対する高い耐力が得られる。
【0003】
図1は最近の多値コヒーレント光伝送の研究動向を示している。本研究の動向は大きく2つに分類することができる。一つはCW(Continuous-Wave)光を送信及び局発信号として用いた、コヒーレント光伝送である。本方式による光伝送としてはこれまで、偏波多重10 Gsymbol/s, 32-QAM(Quadrature Amplitude Modulation)信号(全伝送容量:100 Gbit/s)の200 km伝送が報告されている(非特許文献1)。この伝送システムにおいては、送信部におけるCW-送信光信号と受信部におけるCW-局発光信号間の光位相同期(OPLL:Optical Phase-Locked Loop)を行っていない。このため、両光信号間の光位相が非同期となり、そのために生ずる波形歪はディジタル信号処理によって補償されている。一方本発明者等はCW-多値コヒーレント光伝送の多値度の大幅な向上を図るため、送信光源と局発光源との高精度光位相同期システム(特許文献1)を出願している。本出願特許は送信部と局発部いずれもCW光を配置した光位相同期システムに関するものである。本発明者らはこの光位相同期技術を用いた多値コヒーレント光伝送システムにより、3チャンネルの偏波多重1 Gsymbol/s、128 QAM信号(全伝送容量:42 Gbit/s)の160 km伝送を報告している(非特許文献2)。本伝送においては42 Gbit/sのデータ信号を4.2 GHzの光周波数帯域で伝送することに成功しており、このとき周波数利用効率は10 bit/s/Hzに達している。このように本実験結果は光位相同期を用いた多値コヒーレント光伝送方式により、多値度の大きい多値変調光信号の伝送が可能であることを示している。
【0004】
これに対しもう一つの多値コヒーレント光伝送方式として、送信及び局発信号に光パルスを用いたコヒーレント光時分割多重伝送方式が新たに提案されている。図2に本伝送方式の概要を示す。本方式はコヒーレントなCW光を用いるのではなく、コヒーレントな光パルスを多値で振幅・位相変調する方式である。光時分割多重方式はよく知られているように超短光パルスを時間領域で多重化することにより伝送容量を拡大する方式である。例えば今日よく用いられる10 Gsymbol/sのシンボルレートで16倍の光時分割多重を行い160 Gsymbol/sと高速化した上で、偏波多重技術を併用して64 (=26)値のQAMフォーマットを使用すると、1シンボルで6ビットの情報を伝達できるため、160 Gsymbol/s×2×6 bit/Symbol=1.92 Tbit/sの伝送速度を実現できる。このように従来の超高速光伝送方式と比較して、160 Gsymbol/sという低いシンボルレートで1 Tbit/sを超える伝送速度を実現できることが本方式の特徴である。このような伝送システムにおいてもやはりCW-多値コヒーレント光伝送と同様に、伝送されてきたデータ光パルス列のキャリヤ周波数(光電界の周波数)と受信部で生成される局発光パルス信号のキャリヤ周波数との光位相同期技術が大変重要である。
【0005】
コヒーレント光時分割多重光伝送としてはこれまで、640 Gbit/s, QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)信号の1,073 km伝送が報告されている(非特許文献3)。この伝送システムにおいては、送信部における光変調パルス信号及び受信部における局発光パルス信号の両光パルス信号間の光位相同期を行っていない。このため、両光パルス信号間の位相が非同期となり、そのために生ずる波形歪はディジタル信号処理によって補償されている。また、同様にディジタル信号処理により光変調パルス信号と局発光パルス信号間の非同期位相揺らぎによる波形歪を補償する方式を用いた、5.1 Tbit/s、RZ-16 QAM信号の変復調実験の報告例もある(非特許文献4)。このシステムではモード同期レーザからの出力光パルス信号を変調してデータ光パルス列とし、また送信部で生成した光パルス信号の一部を局発光パルス信号として用いてコヒーレント検波を行っており、本実験においてもやはり両光パルス信号間の位相同期は行っていない。また、この報告例は非伝送時の実験結果のみを述べたものであり、光ファイバ伝送は実現されていない。
【0006】
以上のように、これまでの光パルス信号を用いた多値コヒーレント光時分割多重伝送では、光時分割多重多値変調信号及び局発パルス両信号間の光位相同期が行われておらず、多値度の高いコヒーレント光時分割多重伝送に成功した例は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−244369号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Mori, C. Zhang, M. Usui, K. Igarashi, K. Katoh, and K. Kikuchi, “200-km transmission of 100-Gbit/s 32-QAM dual-polarization signals using a digital coherent receiver,” presented at the European Conference on Optical Communication (ECOC), Vienna, Austria, Paper 8. 4. 6,(2009.9).
【非特許文献2】M. Nakazawa, “Challenges for FDM-QAM coherent transmission with ultrahigh spectral efficiency,” presented at the European Conference on Optical Communication (ECOC), Brussels, Belgium, Paper Tu. 1. E. 1,(2008.9).
【非特許文献3】C. Zhang, Y. Mori, M. Usui, K. Igarashi, K. Katoh, and K. Kikuchi, “Straight-line 1,073-km transmission of 640-Gbit/s dual-polarization QPSK signals on a single carrier,” presented at the European Conference on Optical Communication (ECOC), Vienna, Austria, Postdeadline Paper PD2. 8, (2009.9).
【非特許文献4】C. Schmidt-Langhorst, R. Ludwig, D.-D. Grob, L. Molle, M. Seimetz, R. Freund, and C. Schubert, "Generation and coherent time-division demultiplexing of up to 5.1 Tb/s single-channel 8-PSK and 16-QAM signals," presented at the Optical Fiber Communication Conference (OFC) 2009, San Diego, CA, Postdeadline Paper PDPC6, (2009.3).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献3に記載の光伝送システムでは、ディジタル信号処理による搬送波位相推定法を用いてM相PSKフォーマットによる光変調パルス信号と局発光パルス信号間の位相誤差を求め、これをキャンセルするようにデータ信号に補償演算を行っている。以下にその補償演算方法を述べる。復調部においてA/D変換されたデータ信号の複素振幅を、
【数1】

とすると、本信号の位相項は、
【数2】

と表される。ここでiはサンプリング番号、Tはシンボルレート、θ(iT)は位相変調項、θ(iT)は光変調パルス信号と局発光パルス信号間の位相誤差を表す項である。本搬送波位相推定法ではθ(iT)を算出してこれを式(2)より差し引くことにより、θ(iT)の推定を行う。θ(iT)の算出においてはまず式(1)をM(2のベキ乗)乗して位相変調項を除去する。M乗演算により位相角はM倍されるが、このとき2π/Mの整数倍である位相変調成分は除去される。すなわちA(iT)∝exp(jMθ(iT))である。したがって位相誤差成分θ(iT)は、このM乗して算出した位相角をMで割ることによって求まる。位相誤差成分を式(2)から差し引くことでθ(iT)を推定し、データ信号の波形歪を補償する。このような平均位相誤差信号を用いた歪補償はリアルタイム制御ではなく、かつ多値度が少ないうちは復調が可能であるが、多値度が16(=24)以上となる場合には復調アルゴリズムが複雑になり復調が困難となる。
【0010】
また非特許文献4においても同様に、復調部におけるディジタル信号処理装置上において光変調パルス信号と局発光パルス信号間の位相誤差により生ずるデータ信号の波形歪の補償をソフトウェア上で行っているため、その補償精度が十分ではない。その結果、16 QAMフォーマットで光多値変調した光時分割多重パルス信号を発生することには成功しているが、光ファイバ伝送することには成功していない。
【0011】
そこで本発明は、特許文献1で開示している高精度な光位相同期技術をコヒーレント光時分割多重パルス伝送システムへ応用できるように新たに考案し、これを用いて光変調パルス信号と局発光パルス信号間の位相同期を行い、超高速かつ高多値変調コヒーレント光パルス信号の長距離光ファイバ伝送を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決手段によると、送信部において光パルス信号を光多値変調及び光時分割多重化するポートと、該光パルス信号と位相同期した基準光信号を生成するポートを有し、各ポートから出力された光時分割多重多値変調パルス信号と該基準光信号を合波した後に、これらの信号を同時に光ファイバ伝送路を伝搬させ、受信部において前記基準光信号を用いて前記光時分割多重多値変調パルス信号と局発光パルス信号との位相を同期し、該光時分割多重多値変調パルス信号と局発光パルス信号とをコヒーレント検出回路によって時分割多重分離及びコヒーレントホモダイン検波(信号光のキャリヤ周波数と局発光の周波数が同じ)することを特徴としたコヒーレント光時分割多重伝送方式が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明を用いることにより、光多値変調パルス信号と局発光パルス信号との高精度な位相同期を実現し、コヒーレント光時分割多重伝送において多値度の向上による1チャネル当たりの伝送速度の拡大、および長距離化を実現することができる。また、本発明では低いシンボルレートで超高速な光伝送システムを構築できるため、低速動作の安価な光デバイスを使用することができる。そのため光ファイバ通信システム全体の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】近年の多値コヒーレント光伝送の研究動向を示す図である。
【図2】従来のコヒーレント光時分割多重伝送方式の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明のコヒーレント光時分割多重伝送方式の全体構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態で用いる位相同期及び局発パルス信号発生装置の詳細な構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態で用いる位相同期及び局発パルス信号発生装置の詳細な構成を示すブロック図である
【図6】(a)送信装置中において生成される光コム信号と(b)位相同期及び局発光パルス信号発生装置中において生成される局発光コム信号の周波数関係及び(9)両者のヘテロダインビートスペクトルを表す図である。
【図7】(a)第2の実施形態で行った光位相同期実験における局発光コム信号と基準光信号の光スペクトルである。(b)(a)の光スペクトルを一部拡大して示した図である。
【図8】第2の実施形態で行った光位相同期実験における基準光信号と光コム信号の6次の高調波とのヘテロダインビート信号スペクトルである。
【図9】図8のビート信号スペクトルのSSB位相雑音スペクトルである。
【図10】10 Gsymbol/s 32 QAMデータ信号のコンスタレーションマップである。
【図11】10 Gsymbol/s 32 QAMデータ信号の受信パワーに対する符号誤り率特性である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。図3は本発明の第1の実施形態のコヒーレント光時分割多重伝送方式の構成を示すブロック図である。本実施形態の伝送方式の構成は送信装置10、光ファイバ伝送路4、受信装置11から成る。
【0016】
送信装置10は、CW光源12a、光コム変調器13a、光フィルタ14a、14bから成る光パルス信号および基準光信号生成装置、光IQ変調器2、エンコーダ6、光時分割多重化回路3、偏波多重化回路15、光カプラ16a、クロック信号源5を備える。
光コム変調器13aはクロック信号源5から供給される信号R [Hz]で駆動され、CW光源12aから出力されるCW光信号を変調し、複数本のサイドバンドから成る光コム信号を発生する。該光コム信号は光フィルタ14aによってパルスカービングされ、繰り返し周波数R [Hz]のフーリエ限界光パルスを生成する、ここでフーリエ限界パルスとは、トランスフォームリミット(TL:Transform Limited)パルスと呼ばれ、時間波形に対して一切過不足のないスペクトル幅を有するパルスであり、例えばガウス型パルスの場合には時間パルス幅Δτとそのスペクトル幅Δνの積はΔτΔν≒0.44を満たしている。
【0017】
光フィルタ14bは該光コム信号からK次(Kは正整数)の高調波のサイドバンドを1本抽出しており、本信号は基準光信号として用いられる。ただし抽出するサイドバンドは該TL光パルス信号のスペクトルとは重ならない周波数の信号である必要がある。
【0018】
該TL光パルス信号は光IQ変調器2に入力され、そこでクロック信号源5に位相同期したエンコーダ6より生成される2M(Mは正整数)の多値変調信号によってデータ変調を受け、MR [bit/s]の光多値変調パルス信号列が出力される。例えば16 QAM信号は16=24であるので、M=4となる。光時分割多重化回路3は該光多値変調パルス信号列をN値の多重度で時分割多重してその伝送速度をN倍にし、伝送速度がNMR [bit/s]の光時分割多重多値変調パルス信号列を出力する。偏波多重化回路15では2つの直交する偏波軸にそれぞれデータ光パルス信号列を多重化し、2NMR [bit/s]の偏波多重光時分割多重多値変調パルス信号列を出力する。
【0019】
光カプラ16aは上記過程おいて生成された2NMR [bit/s]の偏波多重光時分割多重多値変調パルス信号列と基準光信号と合波し、それらの光信号を光ファイバ伝送路4へ結合する。
【0020】
送信装置10において、CW光源12aとしては狭線幅レーザが好適であり、例えばファイバレーザあるいは狭線幅の半導体レーザ、固体レーザでも良い。また光コム変調器13aとしては、例えばLiNbO3などの電気光学効果を用いた光変調器やEA(Electro-Absorption)変調器が用いられる。エンコーダ6は、例えばField Programmable Gate Array(FPGA)回路とD/A変換器から構成される。また、エンコーダ6として固定パターンを発生させる任意波形生成装置を用いてもよい。
【0021】
光ファイバ伝送路4は、任意の分散および偏波モード分散を有する各種光ファイバで構成される伝送線路である。
【0022】
受信装置11は、光カプラ16b、16c、光フィルタ14c、偏波多重分離回路17、クロック信号再生回路18、位相同期及び局発光パルス信号発生装置19、コヒーレント検出回路7、デコーダ8を備える。
【0023】
光フィルタ14cは伝送された偏波多重光時分割多重多値変調パルス信号列および基準光信号から基準光信号のみを抽出する。偏波多重分離回路17は2つの直交する偏波軸に多重化された偏波多重光時分割多重多値変調パルス信号列から、一方の偏波軸の光時分割多重多値変調パルス信号列を多重分離する。偏波多重分離回路17は例えば偏波コントローラとポラライザを用いる。クロック信号再生回路18は伝送された光時分割多重多値変調パルス信号列に含まれるR [Hz]のクロック信号(正弦波)を再生し出力する。位相同期及び局発光パルス信号発生装置19は光フィルタ14cによって抽出された基準光信号に位相同期した繰り返し周波数R [Hz]の局発光パルス信号を出力する。偏波多重分離後の光時分割多重多値変調パルス信号列は該光パルス信号列に位相同期した繰り返し周波数R [Hz]の局発光パルス信号と供にコヒーレント検出回路7に入射され、時分割多重分離およびコヒーレントホモダイン検波が同時に行われる。コヒーレント検出回路7は例えば90 °光ハイブリッド回路と光差動検出器から構成される。コヒーレント検出回路7から出力された光多値変調パルス信号列はその後デコーダ8によって復調される。デコーダ8は、例えばA/D変換器とFPGA回路から構成される。また、デコーダ8としてデジタルオシロスコープ(A/D変換器)とソフトウェアによるディジタル信号処理を組み合わせたオフラインの復調回路を用いてもよい。なお、同図で、実線および破線はそれぞれ光信号および電気信号の経路を表している。
【0024】
図4に位相同期及び局発パルス信号発生装置19の詳細な構成を示す。位相同期及び局発パルス信号発生装置19はCW光源12b、光コム変調器13b、光フィルタ14d、14e、光カプラ16d、16e、光検出器20、位相比較器21、負帰還回路22を備える。
【0025】
CW光源12bは狭線幅かつ高速な周波数応答特性を有する周波数可変レーザが好適であり、例えばLiNbO3光位相変調器を周波数調整機構として備えたファイバレーザを用いる。本レーザは発明者らが出願している(特許文献1)にて開示されているものである。
【0026】
CW光源からの出力信号は光コム変調器13bを用いて光コム変調され、複数のサイドバンドが生成される。光コム変調器13bは図3中のクロック信号再生回路18より抽出されたクロック信号の周波数R [Hz]で駆動される。ここで光コム変調器13bは例えばLiNbO3などの電気光学効果を用いた光変調器やEA変調器が用いられる。該光コム信号は光フィルタ14dによってパルスカービングされ、繰り返し周波数R [Hz]のTL局発パルスを生成する。
【0027】
光フィルタ14eは該光コム信号からK+1次の高調波のサイドバンドを1本抽出する。該サイドバンド信号と図3中の光フィルタ14cによって抽出された該基準光信号とは光カプラ16eで合波され、その合波した光は光検出器20へ入射される。光検出器20からは両レーザのビート信号が出力される。位相比較器21は該ビート信号の位相と図3中のクロック信号再生回路18より抽出された周波数R [Hz]クロック信号との位相差を誤差信号として出力する。例えば位相比較器21としてはDouble Balanced Mixer (DBM)を用いる。この誤差電圧信号をCW光源12bの周波数調整機構に負帰還する。以上の動作により光検出器20から出力されるビート信号の位相は周波数R [Hz]クロック信号に同期する。その結果、位相同期及び局発光パルス信号発生装置19中のCW光源12bのキャリヤ周波数fLは、送信装置10中のCW光源12aのキャリヤ周波数fTに完全に位相同期され、光フィルタ14dより出力される光パルス信号は、光ファイバ伝送路4を伝送された該光時分割多重多値変調パルス信号列に位相同期した信号となる。なお、同図で、実線および破線はそれぞれ光信号および電気信号の経路を表している。
【0028】
次にコヒーレント光時分割多重伝送の第2の実施形態について詳細に説明する。第2の実施形態におけるコヒーレント光時分割多重伝送方式の構成は、位相同期及び局発パルス信号発生装置19を除いて第1の実施形態における構成(図3)と等しい。ここでは位相同期及び局発パルス信号発生装置19の構成及びその動作について詳細に説明する。
【0029】
第1の実施形態における光位相同期動作では、伝送された該基準光信号と位相同期及び局発パルス信号発生装置19おいて生成される局発光コム信号のうち一本の高調波を光フィルタ14c及び14eにて高精度に抽出する必要がある。これは光フィルタで除去しきれない残留する隣接した高調波成分によって生成されるビート信号が光位相同期制御帯域内に雑音として混入してしまい、所望のビート信号(IF信号)の位相を基準信号へ位相同期することが困難となるためである。しかし第2の実施形態を用いることにより、上述のような光信号の抽出が不十分であった場合においても高精度な光位相同期動作が可能となる。
【0030】
図5に第2の実施形態で用いる位相同期及び局発パルス信号発生装置19の詳細な構成を示す。位相同期及び局発パルス信号発生装置19はCW光源12b、光位相変調器23、光コム変調器13b、光フィルタ14d、14f、光カプラ16f、16g、光検出器20、位相比較器21、負帰還回路22、マイクロ波信号発生装置24a、24bを備える。本実施形態においては、伝送信号より抽出したクロック信号の代わりにマイクロ波信号発生装置24aより出力される任意の周波数S [Hz]の信号によって光位相変調器23を動作させ、任意の繰り返し周波数を有する局発光コム信号を生成する。ここでCW光源12bは狭線幅かつ高速な周波数応答特性を有する周波数可変レーザが好適であり、例えばLiNbO3光位相変調器を周波数調整機構として備えたファイバレーザを用いる。本レーザは発明者らが出願している(特許文献1)にて開示されているものである。光位相変調器23としては例えばLiNbO3などの電気光学効果を用いた光変調器を用いる。
【0031】
図6(a)、(b)は図3中の光コム変調器13aより出力される光コム信号と、図5中の光位相変調器23より出力される局発光コム信号の周波数の関係を示している。なお図中の破線、実線は光フィルタ透過前後の光コム信号を示している。ここでは、光フィルタの帯域が広いためK次及び(K±1)次の3本の該基準光信号(図6(a)中の(1)、(2)、(3))が抽出され、さらに該局発光コム信号からJ次及び(J±1)次の3本の高調波信号(図6(b)中の(4)、(5)、(6))が抽出される場合を考える。光フィルタ14fによって抽出された該局発光コム信号の3本の高調波信号と、図3中の光フィルタ14b、14cによって抽出された3本の該基準光信号とは光カプラ16gで合波され、その合波した光信号は光検出器20へ入射される。光検出器20からは両信号間の複数のビート信号が出力される。図6(c)は光検出器20より出力されるビート信号である。ただし、本図では光位相同期に用いる所望のビート信号(図6(c)の(1))と、これに近接する2本の残留ビート信号(図6(c)の(2)、(3))のみを示している。ここで本実施形態においては、光位相同期を行うために用いる所望のビート信号は周波数fT-fL+KR-JS [Hz]の(1)の信号のみであり、その他の残留ビート信号は雑音信号となる。しかし、光位相変調器23を駆動する周波数S [Hz]を適当に設定することにより、残留成分は(1)の信号よりも十分離れた周波数に置くことができる。特に光位相同期の制御帯域よりも十分に離れた位置に残留成分を置くようS [Hz]を設定することにより、基準光信号及び局発光コム信号の高調波を一本のみ抽出することができない場合であっても光位相同期が実現できる。位相比較器21は光検出器20より出力されたビート信号とマイクロ波信号発生装置24bより出力される基準信号との位相比較を行い、その位相差を誤差電圧信号として出力する。この誤差電圧信号をCW光源12bの周波数調整機構に負帰還することで光検出器20から出力されるビート信号は基準マイクロ波信号に位相同期する。ここではマイクロ波信号発生装置24bより出力される基準信号の周波数UをU=|KR-JS|[Hz]と設定することで(1)のビート信号を基準信号へ位相同期する。その結果、位相同期及び局発光パルス信号発生装置19中のCW光源12bのキャリヤ周波数fLは、送信装置10中のCW光源12aのキャリヤ周波数fTに完全に位相同期され、光フィルタ14dより出力される光パルス信号は、光ファイバ伝送路4を伝送された該光時分割多重多値変調パルス信号列に位相同期した信号となる。
【0032】
以上のように光位相同期動作させたCW光源12bからの出力信号の一部は光コム変調器13bを用いて光コム変調され、複数のサイドバンドが生成される。光コム変調器13bは図3中のクロック信号再生回路18より抽出されたクロック信号の周波数R [Hz]で駆動される。ここで光コム変調器13bは例えばLiNbO3などの電気光学効果を用いた光変調器やEA変調器が用いられる。該光コム信号は光フィルタ14dによってパルスカービングされ、受信した時分割多重変調パルス信号列と同期した繰り返し周波数R [Hz]のTL局発パルスを生成する。なお、同図で実線および破線はそれぞれ光信号および電気信号の経路を表している。
【0033】
次に第2の実施形態で行った光位相同期及びコヒーレント光時分割多重伝送実験の一例を述べる。初めに光位相同期実験結果について説明する。本実験では送信装置10においてR=9.95328 [GHz]のクロック信号を用いて光コム変調を行い、光基準信号としてK=13番目の高調波(キャリヤ周波数からの離調:13R [GHz])を光フィルタ14bにて抽出した。位相同期及び局発光パルス信号発生装置19においてはマイクロ波信号発生装置24aより周波数S=2R-0.00167 [GHz]の信号を出力し、本信号によって光位相変調器23を動作させ光コム信号を生成させた。ここで離調周波数を1.67 MHzとしているが、この値は本光位相同期回路の制御帯域である1 [MHz]以上であれば任意の値でよい。図7(a)は光フィルタ14cにて抽出された該光基準信号と、光フィルタ14fによって抽出された該光コム信号の光スペクトルである。なお図7(a)中には光フィルタ14f透過前の光コム信号も併せて示してある。本実験では光フィルタ14fとして半値全幅1 nmのバンドパス光フィルタを用いており、該光コム信号の該光コム信号のJ=6番目の高調波(キャリヤ周波数からの離調:6S=12R-0.01002 [GHz])を抽出している。しかし、本光フィルタの帯域が広いため、1本のみ高調波を抽出することはできておらず、複数の高調波成分が残留していることがわかる。図7(b)は図7(a)の一部を拡大して示した図である。本図より、所望のビート信号が|KR-JS|=13R-6S=9.9633 [GHz]に立つのに対し、残留する局発光コムの7次の高調波と基準光信号間のビート信号は9.94159 [GHz]に立つ様子がわかる。この余分なビート信号は22 [MHz]離れていることにより光位相同期の制御帯域(1 [MHz])に混入しない。そのため残留ビート信号は一切光位相同期動作に影響を与えない。
【0034】
該光コム信号の6番目の高調波と、該光基準信号とのビート信号の位相は、マイクロ波発生装置24bからの出力される基準信号と位相比較され、その差は誤差信号としてDBMにより検出される。該誤差信号は負帰還回路22を介してCW光源12bへ負帰還される。本実験ではマイクロ波発生装置24bより出力される基準信号の周波数をU=13R-6S=R+0.01002=9.9633 [GHz]と設定することにより、位相同期及び局発光パルス信号発生装置19中のCW光源12bのキャリヤ周波数と、送信装置10中のCW光源12aのキャリヤ周波数を完全に位相同期することに成功している。その結果、光フィルタ14dより出力される局発光パルス信号は、光ファイバ伝送路4を伝送された該光時分割多重多値変調パルス信号列に位相同期した信号となっている。図8は光位相同期を行った状態の該基準光信号と該光コム信号の6番目の高調波とのヘテロダインビート信号スペクトルである。得られたビート信号スペクトルの線幅は10 Hz以下とその純度は非常に高い。また図9は電気スペクトラムアナライザで測定した図8のスペクトルのSSB(Single Sideband)位相雑音スペクトルである。ここから位相雑音の実効値を評価すると1.7度であり、該位相同期及び局発パルス信号発生装置19で実現できる光位相同期の精度は非常に高い。例えば64 値のQAM信号の場合、最隣接するシンボル間の位相差として求められる許容位相雑音は4.7 度であることから、本実験で実現した光位相同期回路は64 QAM信号を復調するに十分な性能を有する。
【0035】
次に上述した位相同期回路を用いた偏波多重、10 Gymbol/s 、4-光時分割多重 32 RZ/QAM(400 Gbit/s)信号の150 km伝送実験の結果を示す。図10(a)、(b)は伝送前後の10 Gsymbol/s(1 偏波かつ1-時分割多重信号)、32 QAMデータ信号のコンスタレーションマップである。150 km伝送後には光信号のS/Nが劣化するため、コンスタレーションの各シンボル点に拡がりがみられるものの、それぞれがはっきりと分離されていることがわかる。図11は10 Gsymbol/s データ信号の受信パワーに対する符号誤り率特性である。150 km伝送後、受信パワーが-27 dBm以上でエラーフリーを実現している。
【0036】
以上のように、光多値変調パルス信号と局発光パルス信号との高精度な位相同期技術を用いることで、多値度の高い変調方式を用いたコヒーレント光時分割多重伝送が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明を用いることにより、従来は連続光を利用した信号光と局発光間の位相同期であった技術を、多値変調パルス信号と局発光パルス信号との高精度な位相同期技術へ応用し、コヒーレント光時分割多重伝送において多値度の向上による1チャネル当たりの伝送速度の拡大を実現することができる。また、従来の超高速光伝送におけるパルス波形歪みに対する補償技術を組み合わせることにより、伝送距離を延伸することも可能である。さらに、本発明では低速で動作する安価な光デバイスを用いるため、全体として安価で高速な光伝送システムを構築できる。
【符号の説明】
【0038】
1 光パルス光源
2 光IQ変調器
3 光時分割多重回路
4 光ファイバ伝送路
5 クロック信号源
6 エンコーダ
7 コヒーレント検出回路
8 デコーダ
9 局発パルス光源
10 送信装置
11 受信装置
12a、b CW光源
13a、b 光コム変調器
14a、b、c、d、e、f 光フィルタ
15 偏波多重分化回路
16a、b、c、d、e、f、g 光カプラ
17 偏波多重分離回路
18 クロック信号再生回路
19 位相同期及び局発光パルス信号発生装置
20 光検出器
21 位相比較器
22 負帰還回路
23 光位相変調器
24a、b マイクロ波信号発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部において光パルス信号を光多値変調及び光時分割多重化するポート1と、前記光パルス信号と位相同期した基準光信号を生成するポート2を有し、各ポートから出力された光時分割多重多値変調パルス信号と該基準光信号を合波した後に、該合波を光ファイバ伝送路を伝搬させ、受信部において、前記基準光信号を用いて前記光時分割多重多値変調パルス信号と局発光パルス信号との位相を同期する光PLLのポート3と、前記光時分割多重多値変調パルス信号と局発光パルス信号とをコヒーレント検出回路によって時分割多重分離及びコヒーレントホモダイン検波するポート4からなることを特徴とするコヒーレント光時分割多重伝送装置及びコヒーレント光時分割多重伝送方式。
【請求項2】
送信部に光時分割多重多値変調パルス信号を偏波多重する回路を有し、受信部に偏波多重分離する回路を有したことを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光時分割多重伝送装置及びコヒーレント光時分割多重伝送方式。
【請求項3】
送信部における光パルス信号と基準光信号及び受信部における局発光パルス信号を生成する手段として、光コム生成器を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のコヒーレント光時分割多重伝送装置及びコヒーレント光時分割多重伝送方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−39290(P2012−39290A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176273(P2010−176273)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月2日 社団法人電子情報通信学会発行の「EIC 電子情報通信学会 2010年総合大会講演論文集(DVDーROM)」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】