説明

コラーゲン生成促進剤

【課題】 諸種の香粧品における基本処方を大幅に変更することなく配合でき、しかも、表皮から経皮的に適用することによって著明なコラーゲン生成促進作用を発揮する手段とその用途を提供する。
【解決手段】 有効成分として、特定のオニウム塩と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体とをそれぞれ含んでなるコラーゲン生成促進剤と、コラーゲン生成促進成分として、特定のオニウム塩と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体とをそれぞれ含んでなる皮膚外用剤を提供することによって前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はコラーゲン生成促進剤に関するものであり、とりわけ、有効成分として、オニウム塩と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体とをそれぞれ含んでなるコラーゲン生成促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、皮膚の老化防止を標榜する、コラーゲンを配合した香粧品が市場を賑わしている。ところが、コラーゲンは、周知のとおり、分子量約100,000ダルトンの高分子物質であることから、表皮から経皮的に適用したのでは、皮下へ浸透する量に限界がある。また、これまで、香粧品へコラーゲンを0.01乃至10質量%配合することが提案されているれども(例えば、特許文献1などを参照)、香粧品へ10質量%にも達する、大量の高分子物質を配合するとなると、使用感も含めて、香粧品の形態ごとに基本処方を丹念に見直し、コラーゲンを比較的大量に配合し得る処方を試行錯誤的に検索しなければならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−72332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
斯かる状況に鑑み、この発明の課題は、諸種の香粧品における基本処方を大幅に変更することなく配合でき、しかも、生体の表皮から経皮的に適用することによってコラーゲンの生成を著明に促進する手段とその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が鋭意研究し、検索した結果、分子内にアミノビニル基を有し、その一端にフェニル基又はピリジル基のいずれかが結合してなるオニウム塩は、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体と組み合わせて生体の表皮から経皮的に適用すると、後者の単用によっては容易に達成されない、高レベルのコラーゲン生成をもたらし、香粧品などの皮膚外用剤において極めて有用であることを見出した。
【0006】
すなわち、この発明は、有効成分として、一般式1又は一般式2のいずれかで表されるオニウム塩と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体とをそれぞれ含んでなるコラーゲン生成促進剤を提供することによって前記課題を解決するものである。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
(一般式1及び一般式2において、R乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を、また、X及びXは対イオンを表す。)
【0010】
さらに、この発明は、コラーゲン生成促進成分として、一般式1又は一般式2のいずれかで表されるオニウム塩と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体とをそれぞれ含んでなる皮膚外用剤を提供することによって前記課題を解決するものである。
【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
(一般式1及び一般式2において、R乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を、また、X及びXは対イオンを表す。)
【発明の効果】
【0014】
この発明は、特定のオニウム塩が、生体において、L−アスコルビン酸類と組み合わせて適用すると、後者だけでは容易に達成されない、高レベルのコラーゲン生成をもたらすという独自の知見に基づくものである。この発明のコラーゲン生成促進剤におけるオニウム塩及びL−アスコルビン酸類は、人をはじめとする哺乳類の表皮へ経皮的に適用すると、コラーゲンの生成を著明に促進することから、香粧品などの皮膚外用剤へ含有せしめることによって、例えば、生理的老化(加齢)や光老化などによるコラーゲンの欠乏が直接又は間接の要因となる皮膚の不都合、例えば、肌あれ、小じわ、しみ、そばかす、くすみ、かさつき、湿疹、かぶれなどの予防や解消に著明な効果を発揮することとなる。また、この発明のコラーゲン生成促進剤は、比較的少量で著明な効果を発揮することから、香粧品などの皮膚外用剤へ適用する場合、香粧品における基本処方を大幅に変更しなくても済む実益がある。さらに、この発明のオニウム塩を、コラーゲンの生成促進を使用目的の一つとする、L−アスコルビン酸類を含有する香粧品などの皮膚外用剤へ配合するときには、皮膚外用剤へ本来配合すべきL−アスコルビン酸類の量を著減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の実施の形態について説明すると、この発明でいうオニウム塩とは、分子内にアミノビニル基を有し、かつ、その一端にフェニル基又はピリジル基が結合してなる、一般式1又は一般式2のいずれかで表されるピリジニウム塩及びオキサゾリウム塩を意味する。一般式1及び一般式2において、R乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。R乃至Rにおける置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1,3−ブタジエニル基、2−ブテニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、2−ペンテン−4−イニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの脂肪族炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基などの芳香族炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、フェノキシ基などのエーテル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイル基などのエステル基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基などのアミノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、さらには、それらの組合わせによる置換基が挙げられる。
【0016】
一般式1及び一般式2におけるX及びXは対イオンを表し、この発明の目的を逸脱しない範囲で、適宜のものを選択すればよい。個々の対イオンとしては、例えば、弗素イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過沃素酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオンなどの無機酸アニオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオン、ヒドロキシ安息香酸イオン、スルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、エチル硫酸イオン、アスパラギン酸イオン、オロチン酸イオン、ニコチン酸イオンなどの有機酸アニオンが挙げられ、このうち、抗菌作用を有する点で、沃素イオンが好ましい。
【0017】
上記したごときオニウム塩のうちで特に好ましいものとしては、一般式1及び一般式2におけるR、R、R及びRがメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基などの炭素数5以下の直鎖状又は分岐を有する短鎖長脂肪族炭化水素基であって、R及びRが水素原子か、あるいは、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基又はメトキシ基、エトキシ基などのエーテル基である、例えば、化学式1で表されるピリジニウム塩(「感光素301号」、株式会社林原生物化学研究所製造)及び化学式2で表されるオキサゾリウム塩(「感光素401号」、株式会社林原生物化学研究所製造)などが挙げられる。なお、この発明で用いるオニウム塩は、いずれも、例えば、速水正明監修、『感光色素』、産業図書株式会社、1997年10月17日発行、11乃至32頁などに記載された方法に準じて所望量を得ることができ、市販品がある場合には、必要に応じて、それを適宜精製したうえで用いればよい。
【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
この発明でいうL−アスコルビン酸の塩とは、例えば、L−アスコルビン酸のカリウム塩やナトリウム塩などの無機塩、さらには、アンモニウム塩などの有機塩を意味する。また、L−アスコルビン酸の誘導体とは、生体内において、化学反応や酵素などの作用によってL−アスコルビン酸を遊離する、例えば、L−アスコルビン酸の燐酸エステルや、L−アスコルビン酸のグルコシル誘導体並びにその塩及びアシル化誘導体などが挙げられる。これらのうち、安定性が高く、取扱い易い点で、例えば、2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸、2−O−α−D−マルトシル−L−アスコルビン酸などの、L−アスコルビン酸のグルコシル誘導体とその塩が好ましい。なお、上記したごときL−アスコルビン酸誘導体は、例えば、同じ出願人らによる特開平3−139288号公報や特開平11−286497号公報などに記載された方法により所望量を得ることができる。なお、以下においては、L−アスコルビン酸並びにその塩及び誘導体を一括して「L−アスコルビン酸類」と呼称することがある。
【0021】
この発明によるコラーゲン生成促進剤は、一般式1又は一般式2で表されるオニウム塩の1又は複数と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体の1又は複数を含んでなる。既述したごとく、斯かる成分を含んでなるこの発明のコラーゲン生成促進剤は、生体の表皮から経皮的に適用すると、コラーゲンの生成を著明に促進することから、香粧品などの皮膚外用剤において極めて有用である。
【0022】
そこで、この発明によるコラーゲン生成促進剤の用途に関連して、その主要な用途である皮膚外用剤について説明すると、この発明によるコラーゲン生成促進成分を含有せしめて皮膚外用剤とする場合、通常、一般式1又は一般式2のいずれかで表されるオニウム塩の1又は複数と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体の1又は複数とともに、香粧品の分野において汎用される、例えば、水、アセトン、トルエン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、シクロヘキサン、ブタノール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの溶剤、アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、バーシック油、ヒマシ油、ミンク油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、卵黄油などの油脂類、マッコウ鯨油、槌鯨油、ミツロウ、鯨ロウ、ラノリン、ホホバ油、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、モンタンロウなどのロウ類、流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレン末、スクワレン、スクワラン、プリスタンなどの炭化水素類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、トール油、ラノリン脂肪酸などの脂肪酸類、エタノール、イソプロパノール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、2−ヘキシルデカノール、2−オクタデカノール、酸化エチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、酸化プロピレン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ブチルアルコール、ペンタエリトリトール、ソルビトール、マルチトール、グルコース、蔗糖、マルトース、トレハロースなどのアルコール類及び糖類、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、酢酸ラノリン、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリンサンプロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコールなどのエステル類、アラビアガム、ベンゾインガム、ダンマルガム、グアヤク脂、アイルランド苔、カラヤガム、トラガカントガム、キャロブガム、クインスシード、寒天、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、ペクチン、ペクチン酸ナトリウム、澱粉、デキストラン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、結晶セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミンなどのポリマー類、脂肪酸石鹸、カルボン酸系、カルボン酸塩系、スルホン酸系、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、燐酸エステル系、燐酸エステル塩系、アミン塩系、四級アンモニウム塩系、硫酸エステル系、ベタイン系、エーテル系、エーテルエステル系、エステル系、ブロックポリマー系、含窒素系のカチオン、アニオン、両性又は非イオン性界面活性剤、トコフェロール、セザモール、セザモリン、ゴシボール、燐脂質、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピルなどの酸化防止剤、p−アミノ安息香酸エチル、サリチル酸フェニル、シノキサート、グアイアズレン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、オキシベンゾンなどの紫外線吸収剤、乳酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、硼酸、アラントイン、アラントインヒドロキシアルミニウム、アラントインジヒドロキシアルミニウム、塩化亜鉛、カラミン、硫酸亜鉛、p−フェノールスルホン酸亜鉛、硫酸アルミニウムカリウム、レソルシン、レソルシノール、塩化第二鉄などの皮膚収斂剤、エデト酸二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム、メタ燐酸ナトリウムなどの金属イオン封鎖剤、コンドロイチン硫酸ナトリウム、1,3−ブチレングリコール、乳酸ナトリウム、マルチトール、キシリトールなどの保湿剤、さらには、香粧品に汎用されるアミノ酸類、ビタミン類、ホルモン類、香料、色材、防腐剤、防黴剤、殺菌剤、抗生物質、発汗防止剤、消臭剤、皮膚漂白剤、有機塩基、エアゾール噴射剤、有機薬品、無機薬品、防虫剤、創傷治癒剤、抗ヒスタミン剤などの1又は複数が組み合わせて配合される。
【0023】
皮膚外用剤におけるオニウム塩の配合量としては、皮膚外用剤の使用目的にもよるけれども、通常、0.0001質量%を超え、0.01質量%を超えない範囲、好ましくは、0.0005乃至0.005質量%の範囲で加減する。L−アスコルビン酸類は、通常、0.001質量%を超え、10質量%を超えない範囲、好ましくは、0.005乃至5質量%の範囲で加減する。オニウム塩及びL−アスコルビン酸は、いずれも、上記した範囲を下回って配合すると、所期のコラーゲン生成促進が得られ難くなり、また、上記した範囲を上回って配合しても、配合量に見合ったコラーゲン生成が得られなくなることから、通常、上記した範囲で加減するのが望ましい。
【0024】
この発明によるコラーゲン生成促進剤を含んでなる皮膚外用剤は、通常の香粧品としての形態である、例えば、クレンジングフォーム、クレンジングクリーム、化粧水、バニシングクリーム、ハイゼニッククリーム、ナリッシングクリーム、エモリエントクリーム、コールドクリーム、乳液、パックなどの基礎化粧品、ファンデーション、ほほ紅、アイライナー、マスカラ、アイシャドー、まゆずみ、おしろいなどの仕上化粧品、ボディクリーム、ボディローション、マッサージクリーム、ボディパウダーなどのボディ化粧品、さらには、浴用剤などの形態に調製することができ、皮膚へ塗布、貼付又は噴霧するか、あるいは、液状に調製した皮膚外用剤へ皮膚を浸漬したり皮膚を洗浄する。皮膚外用剤の形態にもよるけれども、用法としては、通常、例えば、1日当たり1乃至5回の頻度で、1週間当たり1乃至7日間適用する。
【0025】
この発明によるコラーゲン生成促進剤を含んでなる皮膚外用剤は、後述する実験例などからも明らかなように、人をはじめとする哺乳類において、表皮から経皮的に適用することによって、コラーゲンの生成を著明に促進することから、例えば、コラーゲンの欠乏が直接又は間接の要因となる皮膚の不都合、例えば、肌あれ、小じわ、しみ、そばかす、くすみ、かさつき、湿疹、かぶれなどの予防や解消に効果を発揮する。また、一般式1又は一般式2のいずれかで表されるオニウム塩は、L−アスコルビン酸類と組み合わせて用いることによって、生体内においてL−アスコルビン酸類単独では容易に達成できない、高レベルのコラーゲン生成をもたらすことから、コラーゲンの生成促進を目的の一つとする、L−アスコルビン酸類を含有する香粧品などの皮膚外用剤へ配合することによって、皮膚外用剤へ本来配合すべきL−アスコルビン酸類の量を著減することができる実益がある。皮膚外用剤の種類やその使用目的にもよるけれども、この発明のコラーゲン生成促進剤は、一般に、少量配合することによって所期の効果が得られることから、天然のコラーゲンをそのまま配合する場合などとは違って、香粧品などの皮膚外用剤の基本処方を大幅に変更する必要がない。しかも、この発明で用いるオニウム塩及びL−アスコルビン酸類は、いずれも、低分子の物質であって、生体組織に対する親和性も大きいことから、表皮から経皮的に適用しても容易に有効量を皮下へ浸透させることができる。
【0026】
次に、この発明によるコラーゲン生成促進剤のコラーゲン生成促進能につき、実験例に基づいて説明する。
【実験例1】
【0027】
〈生体外におけるコラーゲン生成促進〉
人新生児の包皮に由来する正常線維芽細胞(商品名『NHDF』、倉敷紡績株式会社販売)を20体積%仔ウシ血清を補足したダルベッコ変法イーグル培地(pH7.4)に分散させ、培養プレートへ播種した。その後、常法にしたがって、培地を適宜交換しながら、均一な細胞単層を形成するまで培養した後、培養物に対して、化学式1で表されるピリジニウム塩(「感光素301号」、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)又は化学式2で表されるオキサゾリウム塩(「感光素401号」、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造」)のいずれかと、2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸(商品名『アスコルビン酸 2−グルコシド』、純度98%以上、株式会社林原生物化研究所製造、以下、「AA−2G」と略記する。)とを表1に示す濃度にそれぞれ溶解させた上記と同様の培地を添加し、37℃でさらに6日間培養した。
【0028】
培養物から細胞を採取し、常法にしたがってペプシンで処理した後、市販のコラーゲン定量キット(商品名『Sircol Collagen Assay Kit』、フナコシ株式会社販売)を用いて細胞表面の可溶性コラーゲンの量を調べた。併行して、オニウム塩又はAA−2Gのいずれかを省略した以外は上記と同様に処理する4種類の系を別に設け、対照とした。結果を表1に併記する。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果に見られるとおり、本例の試験に供したオニウム塩は、いずれも、単独では検出し得るレベルのコラーゲンを生成しなかった。また、宮田聡美ら『ナチュラル・メディスンズ』、第56巻、第5号、191乃至194頁(2002年)などにコラーゲンの生成促進作用が報告されているAA−2Gも、単用によるコラーゲンの生成量は6乃至12μg/ウェル程度にすぎなかった。ところが、培地にAA−2Gと化学式1又は化学式2のいずれかで表されるオニウム塩とを添加すると、細胞表面におけるコラーゲンレベルが著増し、コラーゲンレベルがAA−2G単用の場合の3乃至5倍にも達した。
【0031】
これらの実験結果は、一般式1又は一般式2のいずれかで表されるオニウム塩とL−アスコルビン酸類とを組み合わせて生体へ適用すると、後者のL−アスコルビン酸類だけでは達成されない、極めて高レベルのコラーゲン生成がもたらされることを物語っている。なお、固相酵素免疫測定法による数値データは割愛するけれども、化学式1又は化学式2で表されるオニウム塩とAA−2Gとを組み合わせて適用した系の培養上清は、哺乳類において、コラーゲン関連遺伝子の転写を促進することによってコラーゲンの生成を促進すると考えられている形質転換成長因子(TGF−β1)を著量含んでいた。L−アスコルビン酸類は、例えば、林照伸ら『フラグランス・ジャーナル』、第20巻、第2号、32乃至40頁(1992年)に記載されているように、コラーゲンにおけるプロリン残基及びリジン残基の水酸化を触媒する酵素の補助因子としてコラーゲンの生成を促進することが知られている。本例の実験において、著量のTGF−β1が特定の培養上清に検出されたことは、生体へ適用された一般式1又は一般式2で表されるオニウム塩が、L−アスコルビン酸類の存在下において、先ず、TGF−β1の産生を誘発し、次いで、その誘発されたTGF−β1がコラーゲンの生成を誘発する、別のコラーゲン生成機構の存在を示唆している。
【実験例2】
【0032】
〈生体内におけるコラーゲン生成促進〉
一群の成熟白色家兎の背部に2cm前後の切創をつくり、直ちに手術糸で縫合した。その後、2週間に亙って切創部へ化学式1で表されるピリジニウム塩(「感光素301号」、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)又は化学式2で表されるオキサゾリウム塩(「感光素401号」、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)のいずれかと、2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸(商品名『アスコルビン酸 2−グルコシド』、純度98%以上、株式会社林原生物化研究所製造)とを、それぞれ、0.005質量%及び5質量%になるように蒸留水に溶解せしめてなる液状コラーゲン生成促進剤を毎日1回塗布した。併行して、蒸留水のみを塗布する系を設け、対照とした。
【0033】
塗布を開始してから2週間目に、常法にしたがって、切創部位の組織を摘出し、染色した後、顕微鏡により組織検査したところ、この発明によるコラーゲン生成促進剤を塗布した系は、いずれにおいても、対照と比較して、切創部を中心に有意により顕著な新生肉芽組織が増生し、コラーゲンがその随所に浮腫状に染出された。この実験結果は、この発明によるコラーゲン生成促進剤が、生体において、表皮から経皮的に適用して有効であることを物語っている。
【0034】
以下、この発明の実施の形態につき、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0035】
〈化粧水〉
次に示す化粧水の基本処方に対して、常法にしたがって、化学式1で表されるピリジニウム塩(「感光素301号」、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)、化学式2で表されるオキサゾリウム塩(「感光素401号」、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)、化学式3で表されるピリジニウム塩(商品名『NK−417』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)、化学式4で表されるピリジニウム塩(商品名『NK−764』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)、化学式5で表されるピリジニウム塩(商品名『NK−772』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)、化学式6で表されるオキサゾリウム塩(商品名『NK−935』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)、化学式7で表されるオキサゾリウム塩(商品名『NK−1624』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)又は化学式8で表されるオキサゾリウム塩(商品名『NK−974』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)のいずれかと、市販の化粧品製造用L−アスコルビン酸又は2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸(商品名『アスコルビン酸 2−グルコシド』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)のいずれかとを、それぞれ、0.001質量%及び0.5質量%になるように配合することによって、16種類の液状皮膚外用剤を得た。
【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
クエン酸 0.1質量部
p−フェノールスルホン酸亜鉛 0.2質量部
ソルビトール 2.0質量部
α,α−トレハロース 0.3質量部
グリセリン 3.0質量部
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20EO)
1.0質量部
エタノール 15.0質量部
香料 0.2質量部
防腐剤 適量
精製水 78.2質量部
【0043】
皮膚洗浄能を兼備する本例の皮膚外用剤は、いずれも、化粧水として有用である。
【実施例2】
【0044】
〈バニシングクリーム〉
次に示すバニシングクリームの基本処方に対して、常法に従って、実施例1におけると同様の化学式1乃至化学式8で表されるオニウム塩のいずれかと、市販の化粧品製造用L−アスコルビン酸又は2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸(商品名『アスコルビン酸 2−グルコシド』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)のいずれかとを、それぞれ、0.005質量%及び1質量%になるように配合することによって、16種類のクリーム状皮膚外用剤を得た。
【0045】
ステアリン酸 10.0質量部
ステアリルアルコール 4.0質量部
ステアリン酸ブチル 8.0質量部
モノステアリン酸グリセリン(自己乳化型)
2.0質量部
香料 1.0質量部
防腐剤 適量
酸化防止剤 適量
プロピレングリコール 10.0質量部
グリセリン 4.0質量部
α,α−トレハロース 0.3質量部
水酸化カリウム 0.4質量部
精製水 60.3質量部
【0046】
皮膚洗浄能を兼備する本例の皮膚外用剤は、いずれも、バニシングクリームとして有用である。
【実施例3】
【0047】
〈パック〉
次に示すピールオフ型パックの基本処方に対して、常法にしたがって、実施例1におけると同様の化学式1乃至化学式8で表されるオニウム塩のいずれかと、市販の化粧品製造用L−アスコルビン酸ナトリウム又は2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸(商品名『アスコルビン酸 2−グルコシド』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)のいずれかとを、それぞれ、0.001質量%及び0.1質量%になるように配合することによって、16種類のペースト状皮膚外用剤を調製した。
【0048】
酢酸ビニル樹脂エマルジョン 15.0質量部
ポリビニルアルコール 10.0質量部
オリーブ油 3.0質量部
ソルビトール 5.0質量部
酸化チタン 8.0質量部
カオリン 7.0質量部
エタノール 5.0質量部
香料 0.5質量部
防腐剤 適量
精製水 46.5質量部
【0049】
抗菌作用を兼備する本例の皮膚外用剤は、いずれも、美白パックとして有用である。
【実施例4】
【0050】
〈ファンデーション〉
次に示すファンデーションの基本処方に対して、常法にしたがって、実施例1におけると同様の化学式1乃至化学式8で表されるオニウム塩のいずれかと、市販の化粧品製造用L−アスコルビン酸又は2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸(商品名『アスコルビン酸 2−グルコシド』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)のいずれかとを、それぞれ、0.0005質量%及び0.1質量%になるように配合することによって、16種類の油性軟膏状皮膚外用剤を得た。
【0051】
流動パラフィン 24.5質量部
パルミチン酸イソプロピル 15.0質量部
ラノリルアルコール 2.0質量部
酢酸ラノリン 3.0質量部
マイクロクリスタリンワックス 7.0質量部
オゾケライト 8.0質量部
キャデリラロウ 0.5質量部
酸化チタン 15.0質量部
カオリン 15.0質量部
タルク 6.0質量部
色材 4.0質量部
防腐剤 適量
酸化防止剤 適量
香料 適量
【0052】
殺菌作用を兼備し、化粧くずれし難い本例の皮膚外用剤は、いずれも、ファンデーションとして有用である。
【実施例5】
【0053】
〈浴用剤〉
次に示す浴用剤の基本処方に対して、常法にしたがって、実施例1におけると同様の化学式1乃至化学式8で表されるオニウム塩のいずれかと、市販の化粧品製造用L−アスコルビン酸又は2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸(商品名『アスコルビン酸 2−グルコシド』、純度98%以上、株式会社林原生物化学研究所製造)のいずれかとをとを、それぞれ、0.003質量%及び3質量%になるように配合することによって、16種類の粉末状皮膚外用剤を得た。
【0054】
セスキ酸ナトリウム 40.0質量部
食塩 10.0質量部
硫酸ナトリウム 49.3質量部
液体ラノリン 0.5質量部
色材 0.2質量部
香料 適量
【0055】
抗菌作用を兼備し、溶解し易い本例の皮膚外用剤は、いずれも、浴用剤として有用である。本例の皮膚外用剤を浴用剤として用いる場合には、温水1リットルに対して、10乃至50gを目安に溶解する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したごとく、この発明は、特定のオニウム塩が、生体において、L−アスコルビン酸類と組み合わせて適用すると、後者だけでは容易に達成されない、高レベルのコラーゲン生成をもたらすという独自の知見に基づくものである。この発明のコラーゲン生成促進剤におけるオニウム塩及びL−アスコルビン酸類は、人をはじめとする哺乳類の表皮へ経皮的に適用すると、コラーゲンの生成を著明に促進することから、香粧品などの皮膚外用剤へ含有せしめることによって、例えば、生理的老化(加齢)や光老化などによるコラーゲンの欠乏が直接又は間接の要因となる皮膚の不都合、例えば、肌あれ、小じわ、しみ、そばかす、くすみ、かさつき、湿疹、かぶれなどの予防や解消に著明な効果を発揮することとなる。また、この発明のコラーゲン生成促進剤は、比較的少量で著明な効果を発揮することから、香粧品などの皮膚外用剤へ適用する場合、香粧品における基本処方を大幅に変更しなくても済む実益がある。さらに、この発明のオニウム塩を、コラーゲンの生成促進を使用目的の一つとする、L−アスコルビン酸類を含有する香粧品などの皮膚外用剤へ配合するときには、皮膚外用剤へ本来配合すべきL−アスコルビン酸類の量を著減することができる。
【0057】
斯く顕著な効果を奏するこの発明は、斯界に貢献すること誠に多大な、意義のある発明であると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、一般式1又は一般式2のいずれかで表されるオニウム塩と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体とからなる、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体単独の場合よりもコラーゲン生成促進作用が増強されていることを特徴とするコラーゲン生成促進剤。
【化13】

【化14】

(一般式1及び一般式2において、R乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を、また、X及びXは対イオンを表す。)
【請求項2】
オニウム塩が化学式1又は化学式2のいずれかで表される請求項1に記載のコラーゲン生成促進剤。
【化15】

【化16】

【請求項3】
有効成分として、一般式1又は一般式2のいずれかで表されるオニウム塩と、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体とをそれぞれ含んでなる、L−アスコルビン酸又はその塩若しくは誘導体単独の場合よりもコラーゲン生成促進作用が増強されていることを特徴とする、蛋白質分解酵素を含まない皮膚外用剤。
【化17】

【化18】

(一般式1及び一般式2において、R乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を、また、X及びXは対イオンを表す。)
【請求項4】
オニウム塩が化学式1又は化学式2のいずれかで表される請求項3に記載の皮膚外用剤。
【化19】

【化20】

【請求項5】
コラーゲン生成を促進するために用いられる旨の表示が付されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2009−102414(P2009−102414A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23261(P2009−23261)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【分割の表示】特願2003−9329(P2003−9329)の分割
【原出願日】平成15年1月17日(2003.1.17)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】