説明

コラーゲン産生促進剤、化粧料、コラーゲン産生促進方法

【課題】植物の抽出物を有効成分とするコラーゲン産生促進剤を提供する。
【解決手段】ローマンカモミール(学名:Anthemis nobilis)を水蒸気蒸留法により抽出して得られる精油(エッセンシャルオイル)を有効成分として含有することで、コラーゲン産生促進作用を有するコラーゲン産生促進剤を提供する。また、コラーゲン産生促進剤を使用したコラーゲン産生促進法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維芽細胞のコラーゲン産生を促進する作用を有する天然由来の物質に関し、特に植物の精油(エッセンシャルオイル)を有効成分とするコラーゲン産生促進剤及び化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の真皮には、皮膚の弾力性を保つ役割を果たすコラーゲンが豊富に含まれている。真皮におけるコラーゲンは真皮の繊維芽細胞によって合成され、コラーゲン合成が活発に行われている皮膚では、弾力性に優れた張りのある肌が維持される。しかし、真皮中のコラーゲンは、紫外線や活性酸素などによって変性したり、加齢により線維芽細胞によって合成される量が減少してしまう。このような理由で真皮中のコラーゲン量が減少すると、真皮の厚みが減少し、皮膚の弾力性が失われていき、結果としてシワやたるみなどの肌の老化現象が引き起こされる。そのため、弾力性に優れた若々しい肌を保つためには、真皮の線維芽細胞によるコラーゲン合成を促進することが有効である。
【0003】
従来、皮膚のコラーゲン合成を促進する作用を有する物質としては、L−アスコルビン酸などが知られている。また、天然物としては、シソ科のタイム、スイカズラ科のエルダーおよびカンラン科カンラン属のエレミなどの植物を水蒸気蒸留して得られる精油がコラーゲン合成促進作用を有することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−232740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、弾力性のある肌を維持するためにコラーゲンが重要な役割を果たすことから、コラーゲン産生促進作用を有するさらなる有用な物質が望まれていた。そこで、本願発明は、コラーゲン産生促進作用を有する物質として、天然物である植物を原料とする精油を有効成分とするコラーゲン産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、線維芽細胞のコラーゲン産生を促進させる作用を有する物質を鋭意研究した結果、特定の植物を水蒸気蒸留して得られる精油がコラーゲン産生を促進することに関し優れた効果を奏するものであることを見出した。
【0007】
すなわち、(1)本願発明に係るコラーゲン産生促進剤は、キク科のローマンカモミール(学名:Anthemis nobilis)を水蒸気蒸留して得られる精油からなることを特徴とする。
【0008】
(2) (1)のコラーゲン産生促進剤において、前記精油は真皮の線維芽細胞のコラーゲン産生を促進することを特徴とする。
【0009】
(3) 本願発明に係る化粧料は、(1)又は(2)のコラーゲン産生促進剤を含有することを特徴とする。
【0010】
(4) 本願発明のコラーゲン産生促進方法は、(1)又は(2)のコラーゲン産生促進剤を使用してコラーゲンの産生を促進させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願発明にかかる、ローマンカモミールの精油を有効成分とするコラーゲン産生促進剤及び当該コラーゲン産生促進剤を使用したコラーゲン産生促進方法によれば、皮膚のコラーゲン産生を促進する効果を得ることができる。特に、真皮の線維芽細胞において合成されるI型コラーゲンについて、優れた産生促進作用を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に係るコラーゲン産生促進剤として用いる精油の原料には、ローマンカモミール(Roman chamomile)(学名:Anthemis nobilis)を使用する。ローマンカモミールは、キク科の多年草でローマカミツレとも呼ばれる。
【0014】
そして、本発明に係るコラーゲン産生促進剤に使用するローマンカモミールの精油(エッセンシャルオイル)は、ローマンカモミールを水蒸気蒸留法により抽出して得られる精油を用いるのが好ましい。抽出する抽出部位は特に限定されないが、花の部分を水蒸気蒸留により抽出するのが好ましい。
【0015】
ここで、精油(エッセンシャルオイル)とは、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した、芳香を有する天然の揮発性の物質であり、水蒸気蒸留法、圧搾法、溶剤抽出法、超臨界流体抽出法などの所定の抽出方法により抽出・分離される。本発明に係るコラーゲン産生促進剤に使用するローマンカモミールの精油は、上記の抽出方法のうち、上述のように水蒸気蒸留法を用いて抽出・分離するのが好ましい。
【0016】
本発明のローマンカモミールの精油を抽出する水蒸気蒸留法を説明する。まず、原料の植物であるローマンカモミールの花を蒸留器の釜に入れ、水蒸気を下から送り込んで植物にあてると、精油が植物から遊離して気化し、水蒸気と共に蒸留器内を上昇する。それを冷却管に通して冷やすと精油が混入した液体が得られる。そして、精油は水より軽く、水に溶けないために、精油と水が分離するため、上記精油が混入した液体から精油だけ採取することができる。
【0017】
以上の方法により抽出したローマンカモミールの精油は、通常、肌荒れやかぶれ等を防ぐために、様々な用途に合わせて希釈して用いたり、他の基剤と配合して化粧料などの製剤として利用することが好ましい。ローマンカモミールの精油のコラーゲン促進剤としての利用例としては、例えば、本発明に係るコラーゲン産生促進剤をオリーブオイルやホホバオイルやスイートアーモンドオイルなどの植物性のキャリアオイルで希釈することにより、皮膚に塗布して用いるスキンケア用のオイルとして使用することができる。また、本発明に係るコラーゲン産生促進剤を各種化粧料基剤に配合することで、クリーム、乳液、化粧水、洗顔料、ジェル、パックなど、本発明に係るコラーゲン合成促進剤を成分の一つとする様々な外用の化粧料を得ることができる。もちろん、ローマンカモミールの精油は、肌荒れなどが起こらない範囲で、そのままコラーゲン産生促進剤として皮膚に塗布して使用することも可能である。
【0018】
なお、本発明に係るコラーゲン産生促進剤をスキンケア用オイルやその他の化粧料の成分として使用する場合の配合量は特に限定されず、コラーゲン産生促進剤のみを配合して構成してもよいが、例えば、精油の成分の配合量が化粧料などの全量に対して、0.001質量%〜5質量%となる範囲で配合し、好ましくは、0.001質量%〜1質量%となる範囲で配合する。
【0019】
以上のような、本発明に係るコラーゲン産生促進剤あるいはコラーゲン産生促進剤を含有する化粧料などの組成物は、ヒトの真皮中の線維芽細胞におけるコラーゲン産生を促進する効果を有しており、弾力性のある肌を維持するために有効である。また、本発明に係るコラーゲン産生促進剤はローマンカモミールの精油を有効成分としているため、精油の芳香によって、アロマテラピー(芳香療法)効果も得ることができる。
【0020】
このようなコラーゲン産生促進剤を使用したコラーゲン産生促進方法としては、コラーゲン産生促進剤や、上記のようなコラーゲン産生促進剤を含むオイルや化粧料などを、肌に塗布することにより行うことができる。
【実施例1】
【0021】
以下、実施例を示すとともに、実施例についてコラーゲン産生促進作用の評価を行った試験について説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、コラーゲン産生促進作用を評価する試験では、比較例として、ジャーマンカモミール(学名:Matricaria chamomilla)の精油、そして、ローマンカモミール及びジャーマンカモミールの抽出エキスについて、ローマンカモミールの精油と同様の試験を行い、コラーゲン産生促進作用の比較を行った。
【0022】
1.実施例
ローマンカモミール(学名:Anthemis nobilis)の花を蒸留器の釜に入れ、水蒸気を下から送り込み植物にあてて、精油を気化させた。気化した精油を冷却管に通して冷やし、精油が混入した液体を回収した。回収した液体において、精油は水より軽く、水に溶けないために精油と水が分離しており、分離した精油成分を採取することでローマンカモミールの精油を得た。
【0023】
2.比較例
(i) ジャーマンカモミールの精油
ジャーマンカモミール(学名:Matricaria chamomilla)の花から、上記ローマンカモミールの精油の場合と同様の水蒸気蒸留法によりジャーマンカモミールの精油を得た。
【0024】
(ii) ローマンカモミールエキス
ローマンカモミール(Anthemis nobilis L.(Compositae))の頭花100gに、エキスの抽出媒体である50%の1,3−ブチレングリコール水溶液を1L加えて、ローマンカモミールの頭花を抽出媒体に3昼夜浸漬させた。ローマンカモミールを浸漬した溶液をろ過し、ろ液としてローマンカモミールエキスを約1.0kg得た。
【0025】
(iii) ジャーマンカモミールエキス
ジャーマンカモミール(Matricaria chamomilla L.(Compositae))の花を細切し、自然乾燥した。この乾燥品100gに30w/v%エタノール溶液を1L加えて3昼夜浸漬した後、花の細片等の残渣と抽出を行った溶液とを圧搾分離し、第1の抽出液を約1.0kg得た。一方、上記残渣に30w/v%エタノール溶液を1L加え、残渣を上記と同様の方法で浸漬、分離した後、溶媒を減圧下で蒸発除去し、軟エキスを0.1〜2.0g得た。先に得られた抽出液にこの軟エキスを加えてよく攪拌した後、静置した。これをろ過し、そのろ液に1,3−ブチレングリコールを2L加えてよく攪拌した後、静置し、ろ過して、ろ液としてジャーマンカモミールエキスを約2.0kg得た。
【0026】
3.線維芽細胞のコラーゲン合成に対する促進作用の評価試験方法
(i) 線維芽細胞の培養
正常ヒト真皮線維芽細胞(クラボウ社製)を96穴プレートに播種し、5%子牛血清(FBS)含有ダルベッコ変法MEM(Minimum Essential Medium)(DMEM)(SIGMA−ALDRICH社製)を加えて、2×10 cells/wellの細胞密度で培養した。培養開始から24時間後に、上記培地(DMEM)を、各試料を下記表1に示す濃度でそれぞれ含有する0.5% FBS含有DMEMと交換した。試料含有培地で48時間、培養した後、培地上清を回収して、下記ELISA法により培地上清中のI型コラーゲン量を測定した。培地除去後にプレート穴に接着して残っている細胞は、0.5% Triton X−100溶液にて溶解した後、溶液内に含まれるタンパク質の量を定量した。タンパク質の量は、ビシンコニン酸(BCA)法でピアス製測定キットを用いて測定した。なお、I型コラーゲン産生促進作用を有するアスコルビン酸リン酸マグネシウム塩(VC−PMg)を、陽性コントロール(P.C.)として用いた。
【0027】
(ii) I型コラーゲン量の測定
上記培養方法により合成された、培地上清中のI型コラーゲンの量は、以下のELISA法にて測定した。回収した上記培地と、I型コラーゲン量を求めるために用いる検量線を作成するための検量線用I型コラーゲンを、高吸着型ELISAプレートの別々の穴に入れ、37℃にて2時間コーティングした後、1%牛血清アルブミン(BSA)(Sigma製)溶液を用いて37℃にて1時間ブロッキングした。
【0028】
一次抗体反応は、抗ヒト・コラーゲンI型抗体(ウサギ)を0.3% BSA溶液で希釈し、37℃にて1.5時間反応させた。二次抗体ヒストファインペルオキシダーゼ(ウサギ)(ニチレイ製)を0.3% BSA溶液で希釈し、37℃にて1.5時間反応させた。
【0029】
次に0.3 mg/mlの2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム(2,2'−Azinobis (3−ethylbenzothiazoline−6−sulfonic acid) diammonium salt)(ABTS)および0.03%の過酸化水素を含むリン酸−クエン酸バッファー溶液(0.1M、pH4.0)を加えて20分間反応させ、マイクロプレートリーダーにて405 nmの吸光度を測定した。
【0030】
培地中のI型コラーゲン量は、上記培養した検量線用I型コラーゲンを用いて同じプレートで測定した検量線から算出した。そして、ビシンコニン酸(BCA)法で定量した全細胞のタンパク質の量で、上記算出した培地中のI型コラーゲン量を除することによって、単位タンパク質の量あたりのI型コラーゲン産生量を求めた。
【0031】
なお、コラーゲン産生促進作用を評価するための基準であるコントロールとして、試料を加えないで上記培養方法により培養した線維芽細胞について、合成されたコラーゲン量を測定した。また、陽性コントロールとして、試料の精油に代えて、25 μMのアスコルビン酸リン酸マグネシウム塩を加えたものについてコラーゲン量を測定した。
【0032】
また、下記表1に示した各試料の濃度は、各試料ごとに細胞毒性が認められない最高濃度を、本試験の最高濃度として設定している。ジャーマンカモミールの精油は、他の試料と同等の濃度では細胞毒性が認められ、コラーゲンの産生促進作用の評価ができないため、細胞毒性の影響が少ない低濃度の範囲で試験をした。
【0033】
(iii) 結果
以上の試験の結果を表1に示す。なお上記のように、コラーゲン産生量は全細胞のタンパク質の量あたりのI型コラーゲン量であり、増加率は、コントロールのコラーゲン量(35.94 μg/mgタンパク質)に対する培養後の各実施例、比較例において産生されたコラーゲン量の比(%)である。
【0034】
表1に示すように、実施例、比較例のうち、ローマンカモミール精油の濃度が1000μg/mLである実施例4が、最もコラーゲン産生量が多かった。また、実施例と比較例とを、試料濃度が同一のもの同士で比較した場合についても、ローマンカモミールの精油を使用した実施例のほうが比較例に比べI型コラーゲンの産生量が多かった。
【0035】
また、実施例は、精油ではない抽出物である、ローマンカモミールエキス、ジャーマンカモミールエキスを使用した比較例5〜12に比べてコラーゲン産生量が多かった。このことから、ローマンカモミール抽出物のうち、特に水蒸気蒸留法により得られた精油がコラーゲン産生促進作用に優れていることが分かる。
【0036】
以上より、ローマンカモミールの精油は線維芽細胞に対するコラーゲン産生促進作用に優れていることがいえる。
【0037】
【表1】


【実施例2】
【0038】
化粧料の実施例として、下記成分を配合し、皮膚に塗布して使用するトリートメントオイルを調製した。なお、ホホバオイルの比重は0.91〜0.918、ローマンカモミールの比重はおよそ0.905であり、ローマンカモミールの精油の1滴は、0.05ml程度である。
【0039】
成分 配合量
(1)ホホバオイル 30ml
(2)ローマンカモミール精油 1滴〜3滴

【実施例3】
【0040】
化粧料の実施例として、下記成分を配合し、皮膚に塗布して使用するクリームを調整した。なお、スイートアーモンドオイルの比重は、0.91〜0.918である。
【0041】
成分 配合量
(1)スイートアーモンドオイル 10ml
(2)ミツロウ 2g
(3)ローマンカモミール精油 1〜2滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローマンカモミール(学名:Anthemis nobilis)を水蒸気蒸留して得られる精油からなることを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
前記精油は真皮の線維芽細胞のコラーゲン産生を促進することを特徴とする請求項1に記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコラーゲン産生促進剤を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のコラーゲン産生促進剤を使用してコラーゲンの産生を促進させることを特徴とするコラーゲン産生促進方法。


【公開番号】特開2010−180179(P2010−180179A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26715(P2009−26715)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(505139654)社団法人日本アロマ環境協会 (1)
【Fターム(参考)】