説明

コロナイグナイタの意図的なアーク放電

可燃性混合気に点火するためのコロナ点火システムおよび方法は、アーク放電が発生すると、アーク放電が検出されるとともに期間中のアーク放電が確実に持続するようにイグナイタへの電圧が上昇されるようなアーク放電、ならびに、期間中に火花点火による混合気の燃焼が生じる品質の検出および制御を含み、その後コロナ放電のみによる点火に復帰するように電圧が低下される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本発明は、2010年2月12日に出願された米国仮出願第61/304,130号の優先権の利益を主張し、その全体の内容は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、一般に、自動車用アプリケーションなどで空気/燃料混合気に点火するために使用されるコロナ放電イグナイタに関し、特に、コロナ放電イグナイタにおけるアーク放電を検出し、意図的にイグナイタにアークを生じさせるシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術
米国特許第6,883,507号は、コロナ放電による空気/燃料の点火システムで使用するためのイグナイタを開示している。図1は、典型的なコロナ放電点火システムの要素の一例を示す。点火システムは、高周波ステップアップトランス20をはさんで高電圧回路30に結合された低電圧回路10を含み、高電圧回路30は、燃焼室50の室内にある電極40にさらに結合される。
【0004】
上述のように、コロナ点火システムでは、高周波高電圧信号は、燃焼室50の室内に配置された電極40に印加される。この信号が印加されると、燃焼室50の室内に電界が発生する。電界は、室内のイオンの数を大幅に増加させるのに十分な強度を有する。特定の条件において、イオンは、電極からシリンダヘッドまたはピストンへの導電経路を形成することができる。電圧が十分に高い場合は、この経路を流れる電流は、この経路を加熱して、さらに多くのイオンを形成する。これは、確立されたアークをもたらすカスケードプロセスとなり得る。このアークは、電極40を加熱する。同時に、アーク放電は、室内の燃料の点火に対してコロナ放電よりも効果的ではない。したがって、アークの抑制が必要である。アークを抑制し、点火を確実にするために使用されるいくつかの従来方法がある。アークの形成を抑制するには、回路の接地に対するインピーダンスを測定し、それに応じて電圧を調整する必要がある。
【0005】
図2は、先行技術に係るアーク形成抑制のフローチャートを示す。図示されるように、コロナが開始されるとともに(200)、システムはコロナの状態を監視する。コロナが残っているイベントでは(202)、RFトランスでのDC電圧は維持され(204)、点火が成功する可能性が高い(206)。一方、コロナがアークを形成し始めると(208)、RFトランスでのDC電圧が低減されて、さらなるアークの形成の防止が試みられる(210)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的な用語では、本発明は、自動車用炉、および、点火されるべき可燃混合気を有する他のアプリケーションにおける空気/燃料混合気を点火するために使用されるコロナ放電点火システムおよび方法を提供し、特に、コロナ放電イグナイタにおいてアーク放電が検出されたときに、ある期間アーク放電を意図的に強化するための調整が行われるシステムおよび方法を提供する。
【0007】
本発明は、(1)インダクタへの電流の急激な変化、(2)インダクタへの電圧の急激な変化、(3)インダクタの共振周波数の急激な変化、(4)計算されたコロナ群抵抗の急激な変化、および(5)電離検出およびクランクシャフトの速度変化による失火検出を含むいくつかの方法のいずれかでアーク放電を検出する。検出方法は開示された方法に限定されず、当業者によって容易に理解されるような多くの数の検出方法が用いられてもよいことが理解される。
【0008】
本発明の一実施形態では、コロナイベント時のアークを検出したときに、回路への電圧が増加されて、アーク放電の発生が確実に行われる。電圧の増加は、燃焼室に接続された点火装置への最大電圧を提供する。その後の点火イベントのために回路に適用されるように決定された電圧値は、同時に所定量まで減少し、メモリに記録される。ソフトウェアまたは制御プログラム(たとえば、アルゴリズム)は、アーク放電を検出するよう、電子ハードウェアとともに点火制御ソフトウェアにおいて動作し、その後改訂された記録値をテストする。
【0009】
本発明におけるこれらならびに他の特徴および利点は、好ましい実施形態の詳細な説明から当業者にはより明らかになるであろう。詳細な説明に付随する図面が以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】先行技術に従うコロナ放電点火システムの一例の構成を示す。
【図2】先行技術に従うアーク形成抑制のフローチャートを示す。
【図3】本発明に従うコロナ点火回路の回路図の一例を示す。
【図4】本発明に従うコロナ点火回路の回路図の一例を示す。
【図5】本発明に従うコロナ点火回路の回路図の一例を示す。
【図6】本発明に従う意図的なアーク放電方法のフローチャートを示す。
【図7】本発明に従う制御プログラムにおける上位のフローチャートの一例を示す。
【図8A】制御プログラムによって点火イベントのための低減された電圧を計算するために用いられる一般的なルックアップテーブルの一例を示す。
【図8B】制御プログラムによって点火イベントのための低減された電圧を計算するために用いられる一般的なルックアップテーブルの一例を示す。
【図9】本発明に従う制御プログラムの詳細なフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
コロナ点火システムでは、高周波信号が電子回路で生成され、同軸ケーブルを介してイグナイタへ伝送される。電圧が高すぎる場合には、望ましくないアークが電極先端からヘッドに形成されることがある。本発明の背景に記載された公知のコロナシステムの1つでは、アーク放電および点火の失敗を防ぐために、積極的にインピーダンスを計測および監視する複雑なシステムが採用される。しかしながら、コロナイベントの開始を試みる間にアーク放電を抑制することは必ずしも可能ではなく、そのような場合には、ある期間における適正な点火のためにアークエネルギーを確実に最大化することが好ましいことが判明した。本発明の一局面に従うコロナ点火システムは、コロナイベントを監視し、アーク放電が発生すると、回路への電圧を増加させるために、ある期間におけるアーク放電およびアーク放電の品質を最大化するような調整が行われ、これにより、点火が成功する可能性を高くすることができる。
【0012】
図3〜図5は、本発明の一実施形態に従うコロナ点火回路の回路図の一例を示す。図面において、同様の参照符号は、同様の要素を表す。回路は、接地105と、点火駆動電子装置100と、イグナイタインダクタ110と、燃焼室ガス125を介したイグナイタティップから接地への抵抗と、イグナイタ並列容量130と、イグナイタティップ135とを含む。イグナイタティップ135は、イグナイタの一部であって、特に、単一の中心電極に結合され、かつ、内燃機関のエンジンブロックに結合されるシリンダヘッドのイグナイタボアの中に取り付けられてもよい。第2の電極にあたるものはなく、コロナの生成は、いくつかのプラズマジェットタイプの点火システムのように2つの電極間で行われるのではなく、イグナイタティップで行われる。エンジンブロックは、ピストンが往復する燃焼シリンダを含む。エンジンは、複数の燃焼シリンダと関連するピストンを有してもよい(図示せず)。
【0013】
回路は、外部のエンジンコンピュータ(図示せず)から点火信号を受ける、電力増幅器のような点火駆動電子装置100によって駆動される。点火駆動電子装置100は、イグナイタインダクタ110へ固有振動数において印加される電圧を出力する。イグナイタインダクタ110は、入力電圧をイグナイタティップに印加される高電圧へ増幅する。
【0014】
動作においては、駆動電子装置は、インダクタに印加される交流電圧を生成する。インダクタンス、抵抗、およびキャパシタンスからなるLRCは、固有振動数を有しており、印加される交流電圧がLRCの固有振動数の成分を含む場合は、イグナイタティップでのインダクタ電圧は、印加される電圧の倍数になる。図3は、真空において動作する回路を示す。図4は、コロナイベントにおいてイグナイタティップが端燃焼室内に配置された図3のシステムを示し、特に点火の時点で室内に存在するガスは、電流に対する抵抗を有する。駆動電圧がインダクタに印加されると、イグナイタティップにおいてコロナが形成される。イオン化されたガスのこの領域は、さらに低減された抵抗を有する。さらに、いくらかの電流が燃焼端から接地へ流れる可能性がある。
【0015】
イグナイタティップとシリンダヘッドとの間のイオンの濃度が特定の値を超えると、この領域における抵抗は、イグナイタティップから接地へ電流が直接流れることができるレベルに低下する。これは、カスケード現象であり、一旦流れる電流が特定の値を超えると、これがガスを加熱し、イオンの数を増加させて、さらに抵抗を低減させる。このカスケードの間、イオン化された領域における温度が上昇するとともに、アークを形成する(図5)。アークの高温は、イグナイタティップを損傷する可能性があり、混合気を点火する機能を低下させる。
【0016】
寒冷気候または悪動作条件などの特定のイベントは、コロナが発生しない、または、アークが抑制されないような、動作に悪影響を与える。これが発生すると、本発明は、図6に示すように、点火を発生するためにアークの可能性および品質を最大化することを目指す。図6は、本発明に従う意図的なアーク放電方法のフローチャートを示す。図示するように、コロナが開始されるとともに(214)、システムはコロナの状態を監視する。コロナが残っているイベントでは(216)、システムのRFトランスにおいてDC電圧が維持され(218)、点火が成功する可能性が高くなる(220)。一方、コロナがアークを形成し始めると(222)、RFトランスにおいてDC電圧が増加されて、アークが強制的に維持される(224)。すなわち、コロナイベント中にアークが検出されると、回路への電圧が増加されてアーク放電の発生を確実にするとともに、点火の可能性が最大化されるレベルを保証する(226)。後続の点火イベントのために回路に印加されるように決定された電圧値は、コロナ点火のみに戻るように同時に所定量まで減少し、メモリに記録され、フラグがセットされる(228)。ソフトウェアまたは制御プログラム(たとえば、アルゴリズム)は、アーク放電を検出するよう、電子ハードウェアとともに点火制御ソフトウェアにおいて動作し、その後改訂された記録値をテストする。
【0017】
図7は、本発明に従う制御プログラムにおける上位のフローチャートの一例を示す。制御プログラム(または学習アルゴリズム)は、初めに、メモリに記憶されたテーブルからコロナ継続時間およびDC電圧を読み出す(25)。テーブルの一例は図8に示され、それは電圧、コロナ継続時間、およびシリンダ情報を記憶する。以下においてより詳細に述べるように、時間およびDC電圧が、α、β、およびζを用いて調整され(252)、燃焼状態が決定され(254)、そして、α、β、およびζが修正される(256)。
【0018】
図9は、本発明に従う制御プログラムの詳細なフローチャートの一例である。車両のイグニション(キーオン)をオンにすると(260)、コントローラを含む電子回路に電力が供給され(262)、制御プログラムが起動する(264)。動作中、制御プログラムは、設定チャネルXがX1と等しいか否かを決定する(266)。チャネルXがX1に設定されている場合は、制御プログラムは処理を進めて、印加電圧が特定の限界値間にあるか否かを決定し、チャネルXを増加させる(272)。チャネルXがX1に設定されていない場合は、低DC電圧(VDC)がセンタータップチャネルXに印加され(268)、RFトランスの出力チャネルXにおける電圧が計測される(270)。そして、制御プログラムは、処理を進めて、電圧が特定の限界値間にあるか否かを決定し、チャネルXを増加させる(272)。計測された電圧が特定の限界値間にない場合は、点火不良があり、エンジン制御ユニット(ECU)は、通知を受ける(274)。一方、計測された電圧が特定の限界値間にある場合は、制御プログラムは、ECUからのアクティブエッジ用の入力信号を監視する(276)。一旦アクティブエッジが検出されると、制御プログラムは、エンジン速度、負荷、およびチャネル番号(総称して、エンジン情報)を取得する(278)。エンジン情報が取得されると、図8に一般的に示される記憶されたテーブルがアクセスされて、エンジン情報に対応する継続時間およびDC電圧が取得される(280)。そして、継続時間およびDC電圧が、α、β、およびζを用いて調整される(282)。継続時間およびDC電圧が調整された後に、DC電圧がセンタータップチャネルXに印加されるとともに(284)、制御プログラムは、継続時間が終了したか否かを決定する(286)。そうでない場合は、DC電圧が再度印加される。継続時間が終了した場合は、制御プログラムはECUからの信号のアクティブエッジがあるか否かを決定する処理に戻る。並行して、継続時間およびDC電圧を調整した後に、制御プログラムは、燃焼状態を決定し(288)、α、β、およびζを修正する(290)。修正された計算値は、次のサイクルの間に使われる。
【0019】
上述の発明は、関連する法的基準に準拠して記載されており、したがって、記載は、本来限定的というよりは、例示的なものである。開示された実施形態への変形及び変更は、当業者にとって自明であり、本発明の範囲に含まれる。したがって、本発明に与えられる法的保護の範囲は、以下の特許請求の範囲を検討することによってのみ決定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナイベント中にアークを検出する方法であって、
前記アークが検出されたときに、RFトランスへの電圧を上昇させることによって前記アークを意図的に実行するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記電圧の増加は、現在のサイクル中に実行され、
前記電圧は、後続のサイクル中に低減される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電圧の増加および低減は、テーブルベースのマッピング手法に基づいている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記テーブルは、前記アークイベントに応じて適合される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コロナイベントが開始されると、前記RFトランスへの前記電圧を維持するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記テーブルから時間および電圧を読み出すステップと、
パラメータを用いて前記時間および電圧を調整するステップと、
燃焼状態を決定するステップと、
前記パラメータを修正するステップとをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
燃焼室内の可燃混合気に点火する方法であって、
イグナイタに電圧を印加して、アークを形成することなく前記イグナイタからコロナ放電を生成し、それによって、第1の期間において前記コロナ放電を用いて前記室内の前記可燃混合気に点火するステップと、
前記コロナの誘電破壊が発生するとともに、前記イグナイタからのアーク放電が発生するように条件を変更するステップと、
前記アーク放電イベントの発生を検出するステップと、
前記イグナイタへ印加する前記電圧を増大させて点火サイクルの第2の期間においてさらなるアーク放電イベントを生じさせ、前記第2の期間中に火花点火によって前記混合気に点火するステップとを含む、方法。
【請求項8】
アーク放電による点火の前記第2の期間に続いて、アーク放電を伴わないコロナ放電に復帰するレベルに前記印加電圧を低下させて、コロナ放電点火による前記混合気への点火を継続する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
電子制御装置を有する車両のマイクロプロセッサで実行可能であり、有形的媒体に記録されたコンピュータプログラム製品であって、
コロナイベント中にアークを検出し、前記アークが検出されたときに、RFトランスへの電圧を上昇させることによって前記アークを意図的に実行するステップを含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項10】
チャネルを設定するとともに、低電圧を印加するステップと、
トランスでの電圧を計測するステップと、
前記電圧が所定の限界値の間にある場合に、前記チャネルを増加させるとともに、前記電子制御装置からのアクティブエッジが検出されたか否かを決定するステップと、
エンジンパラメータを収集するステップとをさらに含む、請求項9に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項11】
前記テーブルから時間および電圧を読み出すステップと、
パラメータを用いて前記時間および電圧を調整するステップと、
燃焼状態を決定するステップと、
電圧を印加するステップと、
前記パラメータを修正するステップとをさらに含む、請求項9に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項12】
前記エンジンパラメータは、速度、負荷、温度、およびチャネル番号を含む、請求項7に記載のコンピュータプログラム製品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−520598(P2013−520598A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553019(P2012−553019)
【出願日】平成23年2月11日(2011.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2011/024478
【国際公開番号】WO2011/100516
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(506146389)フェデラル−モーグル・イグニション・カンパニー (38)
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL IGNITION COMPANY
【Fターム(参考)】