説明

コンクリート劣化判定方法

【課題】セメントの化学組成や種類が不明な硬化後のコンクリートに対して、化学的劣抵抗性を評価することができるコンクリート劣化判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のコンクリート劣化判定方法は、分析対象のコンクリートを粉砕し、粉末にして乾燥後、前記粉末を純水または反応溶液を溶媒として各成分を溶出させた溶出量を測定することを第1の測定とし、前記粉末の各成分をX線分析により測定することを第2の測定とし、前記粉末を酸溶解させた後に残る各成分を測定することを第3の測定とし、少なくとも第1〜3の測定のいずれかによる測定値から前記コンクリートの特性値を算出して、化学的劣化抵抗性を評価することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの劣化判定方法に関するものであり、詳しくは、セメント系材料を使用したコンクリートに対する化学的劣化の影響を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、砂や砂利からなる骨材、混和材料、水などをセメント系材料で練り混ぜたものであり、強度と価格の面から、また施工の安易さから、現在最も優れている建築資材の一つである。その用途は、建築物、道路、ダム、高架橋、トンネル、港湾設備など幅広く用いられているが、このような実構造物に用いられた硬化コンクリートは、環境など様々な要因によって経年劣化が生じる。
【0003】
経年劣化の要因として、例えば海水などに含まれる硫酸塩(硫酸ナトリウム:NaSO、硫酸カルシウム(セッコウ):CaSO、硫酸マグネシウム:MgSOなど各種)が挙げられ、セメント系材料を使用したコンクリート(およびモルタル、以下略)を化学的に劣化させる可能性があることが知られている。
その劣化機構は、コンクリート中のセメントに含まれるCA(シースリーエー:3CaO・Al)と呼ばれるカルシウムアミネート系水和物が、硫酸塩と反応して膨張性物質(エトリンガイド:3CaO・Al・3CaSO・32HO)を生成するためであり、CAの含有量が多いほどこの膨張性物質の生成量が多くなり、コンクリートの劣化が激しくなると言われている。(非特許文献1参照)
そのため、CAの含有量を少なくして、化学的な抵抗性を向上させた耐硫酸塩セメントなどが開発されている。
【非特許文献1】C&Cエンサイクロペディア[セメント・コンクリート化学の基礎解説]社団法人セメント協会、1996年7月、「4.コンクリートの劣化とエトリンガイド膨張説」の項目、202頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実構造物に用いられた硬化コンクリートに対して、経年劣化における硫酸塩の影響を評価する試験方法がいまだ確立されていない。そのため、海底トンネルの覆工コンクリートなど硫酸塩が供給される環境下にあるコンクリートは、経年劣化における硫酸塩の影響が不明であり、維持管理上の課題となっている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、セメントの化学組成や種類が不明な硬化後のコンクリートに対して、化学的劣化抵抗性を評価することができるコンクリート劣化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明者は、コンクリートと硫酸塩との反応により生成する膨張性物質にはアルミニウムが含まれることに着目し、コンクリート中のアルミニウム含有率とそのコンクリートの膨張性に相関があることを見出した。すなわち、アルミニウム含有率の高いコンクリートは、海水など硫酸塩の多い環境で膨張性が高いのである。
そして、得られた知見を基に、硬化後のコンクリートに対してアルミニウム含有率を測定する測定方法を考案し、その測定値から特性値を算出して分析する評価指標を定め、この特性値によってコンクリートの硫酸塩抵抗性を評価できることを見出した。
更に、この方法を応用することで、アルカリ骨材反応など、他の化学的劣化反応においても劣化因子となる化学成分を抽出して、その含有率を推定することができることと、その劣化機構に対する抵抗性を評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明のコンクリート劣化判定方法は、分析対象のコンクリートを粉砕し、粉末にして乾燥後、前記粉末を純水または反応溶液を溶媒として各成分を溶出させた溶出量を測定することを第1の測定とし、前記粉末の各成分をX線分析により測定することを第2の測定とし、前記粉末を酸溶解させた後に残る各成分を測定することを第3の測定とし、少なくとも第1〜3の測定のいずれかによる測定値から前記コンクリートの特性値を算出して、化学的劣化抵抗性を評価することを特徴とする。
【0007】
また、本発明のコンクリートの劣化判定方法は、前記第1〜3の測定において、少なくともSiO、CaO、Al、Fe、NaO、KO、MgO、SO、Clのいずれかの含有率を測定することとした。
また、前記酸溶解は、少なくとも塩酸を含む酸に溶解させることとした。
また、前記第1の測定に用いる前記反応溶液は、pH11.8〜pH12.2の範囲からなるアルカリ溶液であることとした。
また、前記第1〜3の測定に先立って、前記粉末を75〜500μmの範囲で粒度調整し、その粒度の大きさに応じた試料を作製して、前記溶出量の測定を行うこととした。
また、前記第1の測定における溶出後、ろ過した残渣の各成分濃度を測定することを第4の測定として有することとした。
また、前記第2〜4の測定は、蛍光X線分析によって各成分濃度を測定することとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコンクリート劣化判定方法によれば、分析対象のコンクリートを粉砕し、粉末にして乾燥した後、前記粉末を純水または反応溶液を溶媒として各成分を溶出させた溶出量を測定することを第1の測定とし、前記粉末の各成分をX線分析により測定することを第2の測定とし、前記粉末を酸溶解させた後に残る各成分を測定することを第3の測定とし、少なくとも第1〜3の測定のいずれかによる測定値から前記コンクリートの特性値を算出して、化学的劣化抵抗性を評価することで、前記コンクリートに含まれる各成分の水溶性、酸溶解性などの性質や含有率がわかり、骨材やセメントの種類、劣化因子の特定とその混入量の推定(各種劣化成分の浸透量、混和材の混入量推定など)が可能となるため、実構造物などすでに硬化したコンクリートについても、化学的劣化に対する抵抗性や今後の健全性を評価することができる。また、このような評価指標と測定方法に基づいて、硬化コンクリートを用いた実建造物の維持管理を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、化学的劣化機構に対する抵抗性を評価するものであり、化学的劣化機構の具体例としては、図1に示すように、コンクリートに海水成分が浸透すると、そのコンクリートはアルミニウムを含む膨張性物質を生成するため、膨張してひび割れなどの経年劣化を起こす現象などが挙げられる。
本発明は、以下に示す試験結果から判明したデータに基づき、コンクリート中のセメントに含まれる酸化アルミニウム(Al)の量が多いほど海水の影響により膨張するという特性などを利用している。
第1の試験では、Al含有率が4.7、5.2、14.1%であるコンクリートの供試体に対し、それぞれ海水に浸漬した供試体と標準的な水(上水道水)に浸漬した供試体の膨張率を測定した。その結果を図2に示す。
なお、Al含有率は、セメントの品質表示に記載されているが、不明の供試体は蛍光X線分析により測定した。
図2に示されるように、Al含有率が14.1%で海水に浸漬した供試体のみ膨張率が高く、65週間で0.05%膨張した。
Al含有率が高くなると海水中における膨張性が高くなり、すなわち硫酸塩抵抗性が低下することが明らかとなった。
【0010】
第1の試験結果から、硫酸塩抵抗性を評価するには、Al含有率すなわちセメントのCAに含まれる酸化アルミニウムの含有率を測定すればよいことがわかったが、CA量と酸化アルミニウム量のどちらについても、硬化してしまった後のコンクリートにおいては、正確にその量を測定することは従来できなかったため、それらの値によるコンクリートの耐硫酸塩抵抗性の評価は、コンクリートの作製前、材料選定の段階などにおいて実施されていた。
そこで、本発明では、セメントの化学組成やセメントの種類が不明な硬化後のコンクリートに対して、海水などに含まれる硫酸塩に対する抵抗性を評価する指標ならびにその測定方法を考案した。
【0011】
第2の試験では、第1の試験で膨張率0.01%、0.05%であったコンクリートの粉末を供試体として、純水に48時間溶出させ、アルミニウムの溶出量を測定した。その結果は図3に示す。
膨張率0.01%の供試体はアルミニウムの溶出量が5ppmであり、膨張率0.05%の供試体は40ppm、実構造物の供試体は10ppmであった。
この結果から、膨張の大きいコンクリート(アルミニウム含有量の高いセメントを使用したコンクリート)ほど、アルミニウムの溶出量が大きくなることが明らかとなった。
実際に、実構造物のコンクリートを粉砕して粉末にし、同じ条件でアルミニウムを溶出させると、溶出量は10ppmであった。溶出量が小さいため、この供試体は過大な膨張を生じるコンクリートではないと評価される。
そして、これらの測定値から特性値を算出すると、図4に示すように、特性値(x)とセメント中のAl含有率(%)(y)は、以下の数式(1)で示される関係となり、相関があることが明らかとなった。
y=0.25x+4.2 ・・・(1)
【0012】
以上の試験結果を基に、本発明のコンクリート劣化判定方法を発明し、その一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図5に示すように、まず(1)S1工程において、分析対象のコンクリートを粉砕し、(2)S2工程において、粉砕した粉末の粒度調整を行い、(3)S3工程において、粒度調整を行なった粉末試料を乾燥し、(4)S4工程において、乾燥した粉末試料を試験項目で分類し、(5)S5工程において、粉末試料を骨材種で分類し、(6)S6工程において、(4)で分類した粉末試料について溶液反応試験を行い(第1の測定)、(7)S7工程において、(5)で分類した粉末試料について酸溶解させ、これらの処理を行なった粉末試料について、(8)S8工程において、成分濃度を蛍光X線分析などにより測定する。
成分濃度の測定は、S8−1工程において、乾燥させたままの粉末試料の各成分濃度を測定し(第2の測定)、S8−2工程において、(5)の酸溶解後の粉末試料の各成分濃度を測定し(第3の測定)、S8−3工程において、(4)の混合溶液をろ過した残渣の各成分濃度を測定する(第4の測定)。
そして、第1〜4の測定によって得られた各分析値から、(9)セメント種で分類し、(10)特性値を算出し、(11)反応性評価、セメント種推定、劣化因子抽出を行なう。
【0013】
(1)S1工程では、分析対象のコンクリートおよびセメント系の硬化体などを、例えば500グラム程度粉砕し、粉末試料を作製する。モルタルならば、200グラム程度でよい。
(2)S2工程では、粉末試料を75〜500μmの範囲で粒度調整を行なうことが好ましく、例えばメッシュ径で75、150、250、300、500μmの各ふるいでふるいわけるなど、段階的に行なうことがより好ましい。粒度の大きさの順に、粉末試料1、粉末試料2、粉末試料3、…、粉末試料nとする。
(3)S3工程では、各粉末試料の重量変化が認められなくなるまで真空乾燥し、簡易的には減圧デシケータ内で48時間程度行なえばよい。ただし、加熱すると成分が変性してしまうため、加熱は避ける。
【0014】
(4)S4工程では、粉末試料1〜nについて、例えば硫酸塩劣化抵抗性、アルカリ骨材反応性などの試験項目で分類する。
(6)S6工程では、粉末試料と、(4)で分類した純水もしくは反応性調査の目的に応じた溶液をビーカー内にて、例えば重量比1:50程度で混合して、混合溶液とする。このとき、評価する劣化状態に応じて、pHなどの調整を行なう。例えば、アルミニウムはpHによって溶解度が異なるため、硫酸塩劣化抵抗性を評価する場合は、pH11.8〜pH12.2の範囲からなるアルカリ溶液であることが好ましい。ただし、その他の劣化状態を評価する場合は、この限りではない。
そして、混合溶液の入った容器を密封し、軽く攪拌した後、評価する劣化状態に応じた環境(通常は、温度20±2℃、相対湿度60±5%)で、例えば48時間ほど静かに放置する。
その後、混合溶液をろ過してろ液と残渣に分離し、ろ液中の各成分濃度を水の各種分析手法により測定する。
例えば、陽イオンNa、K、Si4+、Ca2+、Al3+、Fe3+、Mg2+などは、原子吸光光度法により、陰イオンCl、SO2−、HCO3−などはイオンクロマトグラフィーにより、それぞれ濃度(mg/l、ppmなど)を測定する。
測定対象の具体的な成分としては、Si、Ca、Al、Fe、Na、K、Mg、SO、Clなどが挙げられる。
【0015】
(5)S5工程では、粉末試料1〜nについて、骨材種で分類する。例えば、骨材に用いられる岩石の種類のうち石灰石は酸に溶解するため、石灰石系骨材かどうかにより分類する。また、アルカリ骨材反応性を評価する場合は、岩石種を把握しておくのが望ましい。
(7)S7工程では、粉末試料を約3〜5グラムずつ、それぞれ(5)で分類した骨材種に応じた酸に溶解させる。粉末試料の重量は、0.001グラム単位で測定する。
酸の具体例として、例えば、塩酸、硫酸、グルコン酸ナトリウム、フッ化水素酸が挙げられる。特に、石灰石系骨材の場合は、グルコン酸ナトリウムもしくはフッ化水素酸を用いることが好ましい。
酸溶解後、試料をろ過するとともに、純水で充分に洗浄し、重量変化が認められなくなるまで乾燥させたのち、重量を0.001グラム単位で測定する。
【0016】
(8)S8工程では、例えばSiO、Al、CaO、Fe、NaO、KO、MgO、SO、Clなどの成分について、S8−1工程で乾燥させたままの粉末試料1〜nの各成分濃度を測定し、S8−2工程で(5)の酸溶解後の粉末試料1〜nの各成分濃度を測定し、S8−3工程で(4)の混合溶液をろ過した残渣の各成分濃度を測定する。
このように測定することで、コンクリートに含まれる各成分の水溶性、酸溶解性などの性質や含有率がわかり、骨材やセメントの種類、劣化因子の特定とその混入量の推定(各種劣化成分の浸透量、混和材の混入量推定など)が可能となる。
【0017】
(9)S9工程では、粉末試料1〜nについて、セメント種で分類する。
セメントは、水と反応(水和)して硬化する性質を有した粉体であり、一般に建築用途にはポルトランドセメントが用いられ、このポルトランドセメントをベースに各種混合材を混合したものは混合セメントと呼ばれている。
ポルトランドセメントは、CAの他、CS、CS、CAFなどの組成の違いにより、普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、低熱ポルトランドセメントなどに分類される。
混合セメントとしては、溶鉱炉で副産される溶融高炉スラグを混合材とした高炉セメントや、石炭火力発電所から出るフライアッシュを混合剤としたフライアッシュセメントなどあり、それぞれに用いられている混合材よって様々な特性がある。
その他、JISなどに規格化されていないアルミナセメント、白色セメント、急結セメントなどがある。これらを含め、各種のセメントはそれぞれ、SiO、Al、CaO、Fe、MgO、SO、NaO、KO、Clなどの成分の含有率が異なっている。
(10)S10工程では、(9)で分類したセメントの種類(未知の場合も含む)に応じて、表1〜3に示すような(5)〜(8)で得られる各分析値から特性値を算出する。
(5)、(7)で得られる値を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
(ただし、m=1、2、…、nである。)
(6)で得られる値を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
(ただし、m=1、2、…、nである。)
(8)で得られる値を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
(m=1、2、…、nであり、i=1、2、3である。)
これらの値を基に、酸残留率αm、骨材率βm、セメント率γm、およびコンクリートの特性値Pについて、以下の数式(2)〜(5)により算出する。
αm=Wm2/Wm1 ・・・(2)
βm=(Gm1−G0)/(Gm2−G0) ・・・(3)
γm=1−βm ・・・(4)
P=Σ(Exm/γm)/4 ・・・(5)
ここで、m=1、2、…、nであり、G0:使用セメントのSiO含有率(%)、Exm:粉末mの項目xの溶解量(ppm=mg/l)(x=G、C、A、F、N、K、M、S、L)である。
【0024】
(11)S11工程では、以下のようにして、反応性の評価、セメント種の推定、劣化因子の抽出を行なう。
【0025】
<反応性の評価>
特性値Pの相対評価により、反応性を相対的に評価することが可能である。また、各種コンクリートの特性値Pのデータをデータベースとして所有し、活用することで、絶対値としての評価ができる。
【0026】
<セメント種の推定>
表9に示したように、各成分の含有率を算出し、その値からセメント種が推定可能である。これは、各種セメントが種類によって各含有率が異なるためである。なお、表9の補正値とは、NaOのようにマイナス値になった測定値を補正して、最低でも0.00として計算したものである。
【0027】
<劣化因子の抽出>
前述のセメント種の推定で、NaO、KO、Cl、SOについては、各種セメントにほとんど含まれておらず、特にコンクリートの劣化因子になる成分なので、これらの含有率が大きくなっている場合に劣化因子として抽出できる。
【0028】
この方法では、硬化後のコンクリートに使用されたセメントと骨材について、アルミニウム含有率だけでなく各化学成分の含有率をそれぞれ推定しているため、セメントと骨材の化学成分組成が推定でき、セメントの種類を推定することが可能である。
また、セメントと骨材以外の由来分が推定できるため、劣化因子などの特定と混入量の推定(各種劣化成分の浸透量、混和材の混入量推定など)が可能となる。
さらに、この方法を利用し、溶出させる溶液を変更することで、アルカリ骨材反応など、他の化学的反応によるコンクリートの劣化に対しても、抵抗性を評価することが可能である。
以上説明したように、実構造物などすでに硬化したコンクリートについても、化学的劣化に対する抵抗性や今後の健全性を評価することができ、このような評価指標と測定方法に基づいて、硬化コンクリートを用いた実建造物の維持管理を行なうことができる。
【実施例】
【0029】
図5に示されるようなコンクリートの劣化判定方法により、コンクリートの劣化判定を行なった。
(1)S1工程において、分析対象のコンクリートとして、モルタル200グラムを用い粉砕した。
(2)S2工程において、粒度調整のため、メッシュ径で75、150、250、300、500μmの各ふるいでふるいわけ、粒度の大きさの順に、75μmのふるいに残ったものを粉末試料1とし、以下同様に、150μmを粉末試料2、250μmを粉末試料3、300μmを粉末試料4、500μmを粉末試料5とした。
粉末試料1〜5のそれぞれの重量(グラム)を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
(3)S3工程において、粉末試料1〜4を重量変化が認められなくなるまで真空乾燥させた。
(4)S4工程において、粉末試料1について、試験項目は硫酸塩抵抗性の試験とし、溶液は純水を用いた。
(5)S5工程において、粉末試料1〜3について、骨材種は石灰石系の有無で分類した。
(6)S6工程において、粉末試料1と純水をビーカー内にて、重量比1:50程度で混合して混合溶液とし、Al溶出量を評価するためpH12.0に調整した。
そして、混合溶液の入った容器を密封し、軽く攪拌した後、温度20±2℃、相対湿度60±5%で静かに放置した。
48時間後、混合溶液をろ過してろ液と残渣に分離し、ろ液中のAl量を原子吸光光度法により測定した。
測定値(EA1)は、1.49(ppm=mg/l)であった。
(7)S7工程において、(5)で分類した粉末試料1〜3を約3〜5グラムずつ、それぞれ塩酸に溶解させた。粉末試料の重量は、0.001グラム単位で測定した。
酸溶解後、試料をろ過するとともに、純水で充分に洗浄し、重量変化が認められなくなるまで乾燥させたのち、重量を0.001グラム単位で測定した。
酸溶解前後における重量測定の結果を表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
(8)S8工程において、SiO、Al、CaO、Fe、NaO、KO、MgO、SO、Clの各成分濃度について、蛍光X線分析装置により測定した。
S8−1工程では、乾燥させたままの粉末試料1〜3の各成分濃度を測定した結果を表6に示す。
【0034】
【表6】

【0035】
S8−2工程では、(5)の酸溶解後の粉末試料1〜3の各成分濃度を測定した結果を表7に示す。
【0036】
【表7】

【0037】
(9)S9工程において、セメント種は既知の例であり、普通ポルトランドセメントである。
(10)S10工程において、(9)で分類したセメントの種類(未知の場合も含む)に応じて、(5)〜(8)で得られた各分析値から、以下の数式(2)〜(4)により、酸残留率αm、骨材率βm、セメント率γmを算出した。
αm=Wm2/Wm1 ・・・(2)
βm=(Gm1−G0)/(Gm2−G0) ・・・(3)
γm=1−βm ・・・(4)
ここで、m=1、2、3であり、G0:使用セメントのSiO含有率(%)である。
さらに、数式(6)により、Al量についてのみ特性値を算出した。
P=Σ(EA1/γ1)/4 ・・・(6)
結果を表8に示す。
【0038】
【表8】

【0039】
(11)S11工程において、これらの分析値から、粉末試料1〜3について、セメント種は未知と仮定し、劣化因子が抽出されなかった例として、セメント組成の推定を行なった。
結果を表9に示す。
【0040】
【表9】

【0041】
以上の結果から、すでに硬化したコンクリート(モルタル)について、セメントと骨材の化学成分組成が高精度に推定でき、セメントの種類を推定できた。
また、第2、第3の測定では、Al含有率だけでなく各化学成分の含有率をそれぞれ推定しているため、第1の測定でもそれらの溶出量を測定することで、その他の試験項目についても評価を行なうことが可能である。
また、セメントと骨材以外の由来分が推定できるため、劣化因子などの特定と混入量の推定(各種劣化成分の浸透量、混和材の混入量推定など)が可能となる。
以上説明したように、実構造物などすでに硬化したコンクリートについても、化学的劣化に対する抵抗性や今後の健全性を評価することができ、このような評価指標と測定方法に基づいて、硬化コンクリートを用いた実建造物の維持管理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】海水中におけるコンクリートの経年劣化を説明するための図である。
【図2】コンクリートを浸漬させ、膨張率を測定した結果を示す図である。
【図3】コンクリートの膨張率の違いによるAl溶出量の差を示す図である。
【図4】コンクリートの特性値とセメント中のAl含有率の関係を示す図である。
【図5】本発明のコンクリート劣化判定方法の一実施形態例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象のコンクリートを粉砕し、粉末にして乾燥した後、前記粉末を純水または反応溶液を溶媒として各成分を溶出させた溶出量を測定することを第1の測定とし、前記粉末の各成分をX線分析により測定することを第2の測定とし、前記粉末を酸溶解させた後に残る各成分を測定することを第3の測定とし、少なくとも第1〜3の測定のいずれかによる測定値から前記コンクリートの特性値を算出して、化学的劣化抵抗性を評価することを特徴とするコンクリート劣化判定方法。
【請求項2】
前記第1〜3の測定において、少なくともSiO、CaO、Al、Fe、NaO、KO、MgO、SO、Clのいずれかの含有率を測定することを特徴とする請求項1記載のコンクリート劣化判定方法。
【請求項3】
前記酸溶解は、少なくとも塩酸を含む酸に溶解させることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート劣化判定方法。
【請求項4】
前記第1の測定に用いる前記反応溶液は、pH11.8〜pH12.2の範囲からなるアルカリ溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート劣化判定方法。
【請求項5】
前記第1〜3の測定に先立って、前記粉末を75〜500μmの範囲で粒度調整し、その粒度の大きさに応じた試料を作製して、前記溶出量の測定を行うこと特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート劣化判定方法。
【請求項6】
前記第1の測定における溶出後、ろ過した残渣の各成分濃度を測定することを第4の測定として有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート劣化判定方法。
【請求項7】
前記第2〜4の測定は、蛍光X線分析によって各成分濃度を測定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリート劣化判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−292187(P2008−292187A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135479(P2007−135479)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】