説明

コンクリート型枠保持部材

【課題】コンクリート型枠保持部材に外力を加えて傾倒させる場合でも筒状連結体での屈曲を抑制することにより強度の低下を抑制して適正に屈曲させることができる。
【解決手段】両端部にネジ部13,14を有する取付用ボルト1と、取付用ボルト1の他端ネジ部14に一端部が取り付けられ他端部にセパレータ3が取り付けられる調整筒体2とを備える。取付用ボルト1は、両端ネジ部13,14の間に、一端ネジ部13及び調整筒体2に比べて曲げ強度が低い部材により構成された曲げ誘発軸部19を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばH型鋼にねじ込まれる取付用ボルトとこのボルトに取り付けられる筒状の連結金具とを備え、筒状の連結金具に取り付けられるセパレータとともにコンクリート型枠を保持するためのコンクリート型枠保持部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のコンクリート型枠保持部材は、セパレータとともにコンクリート型枠パネルを所定間隔で保持するために各種建設現場などで広く用いられている。
【0003】
具体的には、コンクリート型枠保持部材として、例えば特許文献1に示されるように、両端部にネジ部を有する取付用ボルト(文献では連結部6)と、この取付用ボルトの他端部に螺着される筒状連結金物(文献ではコンクリート型枠保持用金物7)とを備えたものが知られている。このコンクリート型枠保持部材は、その取付用ボルトの一端ネジ部がH型鋼の取付け穴にねじ込まれるとともに、取付用ボルトの他端ネジ部に筒状連結金物が螺着され、これによりH型鋼に取り付けられる。そして、この筒状連結金物の他端部にセパレータの一端部が螺着され、セパレータの他端部にコンクリート型枠パネルが取り付けられることにより、上記コンクリート型枠パネルがH型鋼に対して所定間隔を保った状態で保持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3099757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンクリート型枠パネルの内側には、コンクリートが打設されることから、これらの型枠パネルの間に骨組みが配置されることがある。この骨組みがコンクリート型枠保持部材に取り付けられたセパレータと干渉することがあり、このような干渉が生じる場合には現場においてコンクリート型枠保持部材を例えば軸方向に垂直な方向から叩いて傾倒させ、セパレータの配設経路を迂回させることにより上記干渉を回避することがあった。
【0006】
このように、外力を加えて上記コンクリート型枠保持部材を傾倒させた場合には、取付用ボルトは焼入れ等により剛性が高くなっていることから、専ら筒状連結金物が屈曲することが多い。この筒状連結金物は元々屈曲させることを想定して製作されたものではないので、外力の大きさや傾倒角度等によっては上記屈曲により亀裂等が発生することがあった。このような亀裂が発生すると、コンクリート型枠保持部材の強度が低下し、場合によってはコンクリート打設時にコンクリート型枠保持部材が破断するなどの不具合を発生する虞がある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、コンクリート型枠保持部材に外力を加えて傾倒させる場合でも、筒状連結金物などの筒状連結体での屈曲を抑制することにより強度の低下を抑制して適正に屈曲させることができるコンクリート型枠保持部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係るコンクリート型枠保持部材は、両端部にネジ部を有しその一端ネジ部が取付対象物にねじ込まれる取付用ボルトと、この取付用ボルトの他端ネジ部に一端部が取り付けられ他端部にセパレータ部材が取り付けられる筒状連結体とを備えるコンクリート型枠保持部材において、上記取付用ボルトは、上記両端ネジ部の間に、上記一端ネジ部及び筒状連結体に比べて曲げ強度が低い部材により構成された曲げ誘発軸部を備えることを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、上記取付用ボルトは、上記両端ネジ部の間に曲げ誘発軸部を備え、この曲げ誘発軸部が上記一端ネジ部及び筒状連結体に比べて曲げ強度が低い部材により構成されているので、コンクリート型枠保持部材を傾倒させるように外力が作用すると、この取付用ボルトの曲げ誘発軸部において屈曲する。このため、一端ネジ部および筒状連結体での屈曲が抑制されるため、この一端ネジ部や筒状連結体の屈曲に伴う亀裂の発生を抑制することができ、コンクリート型枠保持部材に外力を加えて傾倒させた場合でも強度の低下を抑制することができる。
【0010】
すなわち、この発明のコンクリート型枠保持部材によれば、外力を加えて傾倒させる場合でも、予め屈曲させることを想定して取付用ボルトに曲げ誘発軸部が設けられているので、一端ネジ部及び筒状連結体での屈曲を抑制することにより適正に屈曲させることができる。
【0011】
なお、この場合、上記曲げ誘発軸部の曲げ強度は、上記一端ネジ部及び筒状連結体に比べて低ければ特に限定されるものではないが、10N・m〜100N・mに設定されるのが好ましい。更に、下限については20N・m以上であり、上限については50N・m以下であるのが好適である。
【0012】
また、この発明において、上記曲げ誘発軸部の具体的構成は特に限定されるものではなく、例えば取付用ボルトを一体成形して両端ネジ部と曲げ誘発軸部とを一部材として構成し、一端ネジ部にのみを焼き入れするなど剛性を高める処理を施してもよいが、上記曲げ誘発軸部は、上記一端ネジ部と別部材から構成され、連結することによりこの一端ネジ部と一体化されるのが好ましい。なお、言うまでもないが「一体化」には、溶接や螺着等の接合を含み、両部材だけで接合するものの他、他の部材を介在させて接合する場合も含まれる。
【0013】
このように構成すれば、曲げ誘発軸部の曲げ強度を含む強度を一端ネジ部の強度と容易に変更することができ、このため該コンクリート型枠保持部材を容易に製作することができる。曲げ誘発軸部と一端ネジ部の強度とを変更する具体的手法については、両部材を異なる素材から構成したり、一方について焼き入れを行い他方については焼き入れを行わないなどの加工の仕方を調整したり、またはこれらを組み合わせることなどを例示することができる。
【0014】
具体的には、上記取付用ボルトは、上記一端ネジ部を含む第1分割ボルトと、上記曲げ誘発軸部及び他端ネジ部を含み上記第1分割ボルトに連結される第2分割ボルトとを備えて構成されるのが好ましく、両分割ボルトを溶接またはネジ接合等により連結して構成されるのが好ましい。また、この場合、第2分割ボルトの具体的構成は特に限定するものではないが、第2分割ボルトは上記他端ネジ部の基端部に径方向外方に突出して上記筒状連結体の先端面が当接する連結体用フランジ部を有するのが好ましい。ここで、他端ネジ部の基端部とは、他端ネジ部の遊端部と反対側の端部をいう。
【0015】
このように、比較的応力集中が生じ易い取付用ボルトと筒状連結体との間に連結体用フランジ部が設けられ、この連結体用フランジ部の一方側面に筒状連結体の先端面が当接しているので、応力を分散させることができ、曲げ誘発軸部以外の部分での屈曲を一層効果的に抑制することができる。
【0016】
この場合、上記第1分割ボルトは、上記一端ネジ部の基端部に径方向外方に突出して上記取付対象物に当接する対象物用フランジ部を有し、上記曲げ誘発軸部は、この対象物用フランジ部と上記連結体用フランジ部との間に配置されているのが好ましい。
【0017】
このように構成すれば、対象物用フランジ部の一方側面が取付対象物に当接するため、一端ネジ部に応力が集中するような事態を避けることができ、これらのフランジ間に応力が作用し易くなり、曲げ誘発軸部で安定して屈曲させることができる。
【0018】
また、この発明において、上記曲げ誘発軸部の具体的形状は特に限定されるものではなく、雄ネジ部や鼓型(軸線方向中央部の径が細く、両端部に向かって漸次、径が太くなるもの)、和太鼓型(軸線方向中央部の径が太く、両端部に向かって漸次、径が細くなるもの)として構成されるものであってもよいが、寸胴形状に構成されているのが好ましい。
【0019】
このように構成すれば、曲げ誘発軸部を均等に曲げることができ、曲げ誘発軸部の亀裂の発生を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るコンクリート型枠保持部材によれば、外力を加えて傾倒させる場合でも、筒状連結体での屈曲を抑制することにより強度を保ちながら適正に屈曲させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンクリート型枠保持部材を含むコンクリート型枠保持装置の全体を示す断面図である。
【図2】同保持部材の取付用ボルトを示す正面図である。
【図3】同保持部材の取付用ボルトを分解した状態で示す正面図である。
【図4】同保持部材を分解した状態で示す斜視図である。
【図5】同保持部材の使用状態を示す一部断面図である。
【図6】同保持部材の取付用ボルトの変形例を示す正面図である。
【図7】同保持部材の取付用ボルトの他の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態のコンクリート型枠保持用金具(コンクリート型枠保持部材に相当)9は、H型鋼6に取り付けられるものについて説明するが、型枠パネルに取り付けられるものであってもよく、その取付対象物は特に限定されるものではない。
【0023】
図1は、本実施形態に係るコンクリート型枠保持用金具(以下、単に「保持用金具」という)9を含むコンクリート型枠保持装置の全体を示す横断面図である。
【0024】
本実施形態におけるコンクリート型枠保持装置Aは、地中にコンクリート壁を形成する場合のコンクリート型枠を保持するためのものであり、土留め壁又は連続地中壁等の壁体5側に配設されたH型鋼6(金属部分)又は型枠パネル(不図示)と、これらのH型鋼6等と所定の間隔を隔てて配設された型枠パネル7とを保持するものである。このコンクリート型枠保持装置Aは、H型鋼6に取り付けられる保持用金具9と、この保持用金具9に取り付けられるセパレータ3とを備えて構成される。
【0025】
具体的には、この型枠保持装置Aは、両端にネジ部13,14を有し一端ネジ部13がH型鋼6等にねじ込み固定される取付用ボルト1と、この取付用ボルト1の他端ネジ部14に螺合される調整筒体2(筒状連結体に相当)と、調整筒体2の他端部に一端部が螺合されるセパレータ3(セパレータ部材に相当)とを備え、セパレータ3の調整筒体2に対するねじ込み量によってセパレータ3の調整筒体2からの突出長さを調整し、図1におけるH型鋼6と型枠パネル7との間隔を調整しつつ、型枠パネル7等を保持するものとなされている。
【0026】
取付用ボルト1については、後に詳細に説明するが、まずこの型枠保持装置Aにおける取付用ボルト1以外の各部材について簡単に説明する。
【0027】
調整筒体2は、図1におけるH型鋼6又は不図示の型枠パネルとこれらに対向配置された型枠パネル7との間隔に応じて、セパレータ3の突出長さを調整するものである。この調整筒体2は、取付用ボルト1に一端部が螺合される第1筒体21と、この第1筒体21の他端縮径部211に一端部が外嵌される第2筒体22とを備える。なお、調整筒体2の具体的構造についてはセパレータ3の突出長さを調整可能な筒状体であれば特に限定されるものではなく、例えば第2筒体22を適宜省略することもでき、或いは第1筒体21と第2筒体22とを一体的に設けるものであってもよい。
【0028】
第1筒体21は、筒本体210と、この筒本体210に延設され該筒本体210の外径よりも小径の縮径部211とを備える。筒本体210は、縮径部211と反対側の端部の内周面に雌ネジ部210aが設けられ、この雌ネジ部210aに取付用ボルト1が螺合されるようになっている。また、この筒本体210の内径はセパレータ3の外径よりも大きく形成され、セパレータ3が挿通されるように設定されている。一方、縮径部211は、その略全長の内周面に雌ネジ部211aが設けられ、この雌ネジ部211aにセパレータ3の一端部が螺合される。そして、この縮径部211に対するセパレータ3のねじ込み量を調整することにより、調整筒体2からのセパレータ3の突出量を調整する。
【0029】
第2筒体22は、その一端部(図1では右端部)内周面が、第1筒体21の縮径部211に外嵌されるように寸法設定されるとともに、その内周面が他端部にかけて拡径するように構成されている。従って、第2筒体22の内周面は、一端部所定位置から他端にかけてテーパー状に形成されたテーパー部221として構成され、セパレータ3の挿入がし易く設計されている。この第2筒体22は、第1筒体21の縮径部211に、外嵌状態で溶接等により連結固定されている。この第2筒体22は、軸方向に沿うスリット(不図示)が周方向に複数本有し、このスリットに電動工具が係合することにより調整筒体2を回転できる。
【0030】
この調整筒体2は、ステンレス鋼、炭素鋼などの鋼材から構成されている。この調整筒体2の曲げ強度は、外径が最も小さい部分、すなわち第1筒体21の筒本体210部分で最低となり、本実施形態では90N・mに設定されている。なお、この調整筒体2の曲げ強度は、その素材や寸法等に応じて異なるものの、一般的には80N・m〜150N・mの範囲内に設定される。
【0031】
セパレータ3は、図1に示すように所定長さの丸棒状のもので、調整筒体2側の端部に雄ねじが所定長さ範囲にわたって形成されている。このセパレータ3の他端部(図1では左端部)には、板状の型枠パネル7を内側から支持するピーコン32が取り付けられている。ピーコン32は、そのネジ部321が型枠パネル7に設けられた貫通孔71に挿通され、ナット4により型枠パネル7に固定される。このセパレータ3については、予め使用強度が定められており、本実施形態のセパレータ3では、その引っ張り時の許容強度は14kNに設定されている。
【0032】
なお、セパレータ3の具体的形状については、丸棒状のものだけでなく、平板状のものや異形棒鋼など棒状のもの等であってもよい。
【0033】
次に取付用ボルト1について説明する。図2は取付用ボルトの正面図であり、図3は同ボルトを分解した状態で示す正面図である。また、図4は、取付用ボルトを調整筒体の一部とともに分解した状態で示す斜視図である。
【0034】
取付用ボルト1は、両端部に設けられたネジ部13,14と、この各ネジ部13,14の基端部(遊端部と反対側の端部)に径方向外方に突設されたフランジ部15,16とを有し、これら各部13〜16が軸心を一致させた状態で配設されている。
【0035】
具体的には、取付用ボルト1は、一端ネジ部13を含む第1分割ボルト11と、他端ネジ部14を含みこの第1分割ボルト11に螺着される第2分割ボルト12とを備え、これらの分割ボルト11,12が螺着連結されることにより構成されている。
【0036】
第1分割ボルト11は、外周面に雄ネジが刻設された一端ネジ部13と、一端ネジ部13の基端部に連設され軸線方向に直交する径方向外方に突設された第1フランジ部15(対象物用フランジ部に相当)と、この第1フランジ部15に連設された連結用ボス部17とを備える。この第1分割ボルト11は、炭素鋼、合金鋼などの鉄鋼等の公知のネジ素材により構成されるとともに、本実施形態では全体的に焼き入れを行って剛性が高められている。
【0037】
一端ネジ部13は、H型鋼6の取付穴8にねじ込まれるタッピングネジとして構成され、先端部が面取りされて取付穴8に差し込む際の導入部として機能する。なお、一端ネジ部13は、本実施形態ではタッピングネジとして構成されているが、このネジの種類は特に限定されるものではなく、ボルトネジ、ドリリングネジ等であってもよい。この一端ネジ部13の外径、軸長等は、取付対象物、取付条件等に応じて適宜設定される。
【0038】
第1フランジ部15は、一端ネジ部13の径方向外方に突出して設けられ、その先端面(H型鋼6側の平面)がH型鋼6に当接するものとなされている。この第1フランジ部15は、本実施形態では第1分割ボルト11をH型鋼6にねじ込む際の工具取付部として機能する。すなわち、第1フランジ部15は、平面視(軸線方向から見て)6角形状を呈し、外側形状がナット状に構成されている。この第1フランジ部15には、例えばインパクトレンチなどの工具が装着される。
【0039】
連結用ボス部17は、一端ネジ部13及び第1フランジ部15と軸線を一致させ、一端ネジ部13の径よりも大径の円柱状体である。この連結用ボス部17は、端面から軸線方向に沿って連結用ネジ孔17aを有し、この連結用ネジ孔17aに第2分割ボルト12の後述する連結用ネジ部18が螺入されることにより第1及び第2分割ボルト11,12が連結されるようになっている。
【0040】
一方、第2分割ボルト12は、第1分割ボルト11の連結用ボス部17の連結用ネジ孔17aに螺入される連結用ネジ部18と、この連結用ネジ部18に連設された曲げ誘発軸部19と、曲げ誘発軸部19の他端部に連設され径方向外方に突設された第2フランジ部16(連結体用フランジ部に相当)と、この第2フランジ部16に連設された他端ネジ部14とを備える。この第2分割ボルト12は、第1分割ボルト11に比べて強度の低い部材として構成されており、例えば炭素鋼、合金鋼などの鉄鋼等の公知のネジ素材ではあるものの、焼き入れが行われていない素材が用いられる。このように本実施形態では、焼き入れの有無によって第1分割ボルト11と第2分割ボルト12の曲げ強度を含めた強度の調整を行っているが、これに限定されるものではない。この強度調整は、素材の選択や断面形状の選択等の公知の強度調整手法によっても行うことができる。
【0041】
連結用ネジ部18は、第1分割ボルト11の連結用ネジ孔17aに螺入されるものである。本実施形態では、一端ネジ部13に比べて軸径の大きなものが採用されている。
【0042】
この連結用ネジ部18の軸長は、連結用ネジ孔17aの長さに比べて1〜3ピッチ分(本実施形態では2ピッチ分)短く設定されている。このように連結用ネジ部18の軸長を連結用ネジ孔17aに比べて短く設定しておくことにより、電動工具でこの保持用金具9を締め付ける際に、連結用ネジ孔17aに連結用ネジ部18に続いて曲げ誘発軸部19も当該ネジ孔17a内に導入される。このため、連結用ネジ部18の露出を確実に防止してこのネジ部18への応力集中を回避するとともに、第1及び第2分割ボルト11,12を確実、かつ強固に一体化することができる。
【0043】
曲げ誘発軸部19は、上記のように、連結用ネジ部18に連続して設けられ、軸径が連結用ネジ部18と同等に設定されている。この曲げ誘発軸部19の具体的形状については特に限定するものではなく、軸線方向中央部が太くて上下両端部にむかうに従い漸次細くなるように構成されるものであっても良いし、逆に軸線方向中央部が細くて上下両端部にむかうに従い漸次太くなるように構成されるものであっても良いが、本実施形態では円柱状体として構成され、一端から他端まで一定の径を有する寸胴形状を呈している。このように、曲げ誘発軸部19を寸胴形状に形成することにより形状に基づく応力集中を回避することができ、このため均等に曲げて亀裂の発生についても効果的に抑制することができる。
【0044】
また、曲げ誘発軸部19は、第1分割ボルト11の一端ネジ部13及び調整筒体2に比べて曲げ強度が低く、セパレータ3の許容強度に比べて引っ張り強度が高い部材により構成されている。具体的には、曲げ誘発軸部19の曲げ強度は、本実施形態のような第1分割ボルト11及び調整筒体2を用いる場合には、下限が10N・m以上に設定されるのが好ましく、上限が100N・m以下に設定されるのが好ましい。より好ましくは、20N・m〜50N・mの範囲内に設定されるのが良い。なお、この曲げ強度については、例えば、取付用ボルト1に調整筒体2を取り付けた状態で、単管パイプを差込み、この状態で曲げ誘発軸部19から1mの位置に作用させる外力の大きさをもって測定することができる。
【0045】
なお、この曲げ誘発軸部19の曲げ強度Sは、一端ネジ部13の曲げ強度S1、調整筒体2の曲げ強度S2(軸方向について最小となる曲げ強度)とすると、S<S2<S1
の関係を満足するのが好ましい。
【0046】
また、この曲げ誘発軸部19の曲げ強度Sは、当然のことながら、調整筒体2の曲げ強度S2に対して30%〜85%の範囲内で設定されるのが好ましい。
【0047】
一方、この曲げ誘発軸部19は、セパレータ3の許容強度に比べて引っ張り強度が高い部材により構成され、これによりコンクリート型枠保持部材として十分な強度を担保するものとなされている。曲げ誘発軸部19の引っ張り強度は、本実施形態では20kN〜30kNの範囲内に設定されるのが良い。
【0048】
第2フランジ部16は、他端ネジ部14の径方向外方に突出して設けられ、その調整筒体2側の一端面が調整筒体2の端面に当接するものとなされている。なお、本実施形態では第2フランジ部16の端面と曲げ誘発軸部19の側面とが直角に交わるように設定されているが、両者の境にアールを設けるものであっても良い。この場合には、曲げ誘発軸部19と第2フランジ部16との継ぎ目は外力が作用した場合に応力集中が生じやすいが、このようにアール処理を施した場合には応力集中を緩和して曲げ誘発軸部19に満遍なく応力を作用させて均等に曲げることができる。
【0049】
他端ネジ部14は、調整筒体2の雌ネジ部210aに螺入されるものであり、この雌ネジ部210aに係合する雄ネジが形成されている。
【0050】
次に、本実施形態におけるコンクリート型枠保持装置Aの設置方法について説明する。図5は保持用金具をH型鋼に取付け、傾倒させた状態で示す一部断面図である。
【0051】
まず、H型鋼6に、ドリル等で下穴である取付穴8を形成する。なお、一端ネジ部13がドリリングネジで構成されている場合には、この下穴の穿孔工程を省略してもよい。
【0052】
次に、第1分割ボルト11の連結用ボス部17の連結用ネジ孔17aに、第2分割ボルト12の連結用ネジ部18を螺合することにより両分割ボルト11,12を連結一体化する。なお、この螺合作業は手作業等であってもよい。
【0053】
そして、このように形成された取付用ボルト1の第1フランジ部15に電動工具を装着して、H型鋼6の取付穴8に一端ネジ部13を位置合わせし、その状態で電動工具を作動させる。この作動に伴い、一端ネジ部13に回転トルクが付与され、当該一端ネジ部13が回転して取付穴8に螺入される。このとき、一端ネジ部13により取付穴8の内周面に雌ネジが形成される。
【0054】
一端ネジ部13を取付穴8に螺入していくと、第1フランジ部15の一端面(図1で右側面)が取付穴8の周縁部に当接する。これにより、取付用ボルト1のH型鋼6への取付作業が完了する。
【0055】
続いて、この取付用ボルト1の他端ネジ部14に調整筒体2における第1筒体21の雌ネジ部210aを螺合することにより、取付用ボルト1に調整筒体2を取り付ける。本実施形態では、この螺合にあたって、調整筒体2の第2筒体22のスリット(不図示)に装着する電動工具を用いている。このように電動工具で調整筒体2螺合させると、この螺合の際にこの調整筒体2を介して第2分割ボルト12にもトルクが伝達される。そして、第2分割ボルト12の連結用ネジ部18の軸長が連結用ネジ孔17aに比べて短く設定されていることと相俟って、連結用ネジ孔17aに連結用ネジ部18に続いて曲げ誘発軸部19の一端部もネジ孔17a内に緊密状態に導入される。このため、連結用ネジ部18の露出を確実に防止できるとともに、第1及び第2分割ボルト11,12を確実かつ強固に一体化することができる。
【0056】
この調整筒体2を取付用ボルト1に取り付けることにより、H型鋼6に対する保持用金具9の取付が完了する。この状態においては、第1フランジ15の一端面(H型鋼6側の面)がH型鋼6に当接しているとともに、第2フランジ15の一端面(セパレータ3側の面)が調整筒体2の一端面に当接している。
【0057】
そして、この状態でセパレータ3を調整筒体2に取り付ける。このとき、第2筒体22の内周面がテーパー状に形成されているため、この内周面に案内されてセパレータ3の一端部が第1筒体21の縮径部211に案内される。続いて、セパレータ3を回転することにより、セパレータ3を第1筒体21の縮径部211にねじ込み、このねじ込み量を調整することによりセパレータ3の調整筒体2からの突出長さを調整する。
【0058】
このとき、セパレータ3が型枠パネル間に配設された骨組み(例えば鉄筋)と干渉する場合には、次のようにして回避する。
【0059】
すなわち、セパレータ3の取付前に、調整筒体2の第2筒体22を、例えば図5に示すように、軸線方向と直交する方向(図5の矢印方向)からハンマーなどで打撃したり、単管パイプで曲げたりする。すると、保持用金具9は、曲げ誘発軸部19の曲げ強度が、調整筒体2や第1分割ボルト11に比べて低く設定されているので、この曲げ誘発軸部19で曲げ変形する。これにより第1分割ボルト11の軸線に対して調整筒体2の軸線が屈曲する。なお、調整筒体2の傾倒は、第1分割ボルト11の軸線に対して30度以内の範囲内で設定されるのが好ましい。
【0060】
このように、保持用金具9を傾倒させる場合に、調整筒体2をハンマーなどで打撃しても、一端ネジ部13を含む第1分割ボルト11や調整筒体2での屈曲が抑制され、予め屈曲させることを想定して製作された曲げ誘発軸部19において積極的に屈曲する。従って、第1分割ボルト11や調整筒体2の屈曲に伴う亀裂の発生を抑制でき、これにより屈曲させない場合に比べて性能を良好なまま維持することができる。しかも、曲げ誘発軸部19は、セパレータ3の引っ張り許容強度に比べて引っ張り強度が高い部材により構成されるので、コンクリート型枠保持部材として十分な強度を担保することができる。
【0061】
つまり、本実施形態の保持用金具9では、外力を加えて傾倒させる場合でも、予め屈曲させることを想定して取付用ボルト1に曲げ誘発軸部19が設けられているので、一端ネジ部13及び調整筒体2での屈曲を抑制することにより強度を保ちながら適正に屈曲させることができる。
【0062】
次に、この保持用間具Aの調整筒体2における第1筒体21の縮径部211に、セパレータ3の先端部をねじ込む。そして、このねじ込み後に、セパレータ3を屈曲させて(図1参照)軸線方向を調整する。
【0063】
最後に、セパレータ3の他端側に取り付けられたピーコン32を型枠パネル7に取り付ける。これにより、型枠パネル7をH型鋼6から所定間隔隔てた状態で保持することができる。
【0064】
なお、以上に説明した保持用金具9は、本発明に係るコンクリート型枠保持部材の一実施形態であり、その具体的構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、その変形例を説明する。
【0065】
(1)上記実施形態では、取付用ボルト1を第1及び第2分割ボルト11.12によって2部材から分割構成したが、分割構成する場合の部材個数については特に制限されるものでなく、例えば両端部にネジ部を有するスタッドボルトと、上記実施形態の第2分割ボルトとを長尺の六角ナットにより連結するものであってもよい。
【0066】
このように、取付用ボルト1を分割構成することにより、曲げ誘発軸部19の曲げ強度を含む第2分割ボルト12の強度を一端ネジ部13を含む第1分割ボルト11の強度と容易に変更することができる。従って、タッピングネジとしての機能を果たす一端ネジ部13の剛性を高く保持しつつ、曲げ誘発軸部19を簡単に構成することができ、ひいては保持用金具を容易に製作することができる。
【0067】
一方、この取付用ボルト1について、上記のように分割構成するものだけではなく、図6に示すように、取付用ボルト101を一体成形するものであってもよい。この場合、一端ネジ部113や他端ネジ部114、及び曲げ誘発軸部119等は切削加工により切り出される。この図6の取付用ボルト101では、曲げ誘発軸部119の両端部と、第1及び第2フランジ部115,116との境界部分はアール加工が施されている。また、この場合には、一端ネジ部113にのみ焼き入れ加工を施して、タッピングネジとしての機能を担保するものとなされている。
【0068】
(2)上記実施形態において、更に曲げ誘発軸部19に止水筒体250を被覆させるものであってもよい。この止水筒体250は、保持用金具9を伝ってコンクリート壁体の内部に水が浸入するのを防止するものであり、曲げ誘発軸部19に緊密状態に外嵌されている。この止水筒体250は、例えば天然ゴム、合成ゴム(例えばブチルゴム、水膨潤性ゴム)等のゴム素材や、ベントナイト等から構成されている。
【0069】
この止水筒体250を用いる場合は、例えば図7に示すように、第1分割ボルト211の連結用ボス部217に連結用ネジ孔217aを設けるとともに、連結用ボス部217の先端部に径方向外方に突出する止水用フランジ部217bを設けるのが好ましい。このように止水用フランジ部217bにより、止水筒体250の位置決めを正確に行うことができるとともに、フランジ部217b,16との間で止水筒体250を確実に挟着することができる。
【0070】
なお、図7において、上記実施形態と同様の構成については、同符号を付してその説明を省略している。
【符号の説明】
【0071】
A コンクリート型枠保持装置
1 取付用ボルト
9 保持用金具(コンクリート型枠保持部材に相当)
11 第1分割ボルト
12 第2分割ボルト
13 一端ネジ部
14 他端ネジ部
15 第1フランジ部(対象物用フランジ部に相当)
16 第2フランジ部(連結体用フランジ部に相当)
19 曲げ誘発軸部
2 調整筒体(筒状連結体に相当)
3 セパレータ(セパレータ部材に相当)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部にネジ部を有しその一端ネジ部が取付対象物にねじ込まれる取付用ボルトと、この取付用ボルトの他端ネジ部に一端部が取り付けられ他端部にセパレータ部材が取り付けられる筒状連結体とを備えるコンクリート型枠保持部材において、
上記取付用ボルトは、上記両端ネジ部の間に、上記一端ネジ部及び筒状連結体に比べて曲げ強度が低い部材により構成された曲げ誘発軸部を備えることを特徴とするコンクリート型枠保持部材。
【請求項2】
上記曲げ誘発軸部は、上記一端ネジ部と別部材から構成され、連結することによりこの一端ネジ部と一体化されることを特徴とする請求項1記載のコンクリート型枠保持部材。
【請求項3】
上記取付用ボルトは、上記一端ネジ部を含む第1分割ボルトと、上記曲げ誘発軸部及び他端ネジ部を含み上記第1分割ボルトに連結される第2分割ボルトとを備え、第2分割ボルトは上記他端ネジ部の基端部に径方向外方に突出して上記筒状連結体の先端面が当接する連結体用フランジ部を有することを特徴とする請求項2記載のコンクリート型枠保持部材。
【請求項4】
上記第1分割ボルトは、上記一端ネジ部の基端部に径方向外方に突出して上記取付対象物に当接する対象物用フランジ部を有し、上記曲げ誘発軸部は、この対象物用フランジ部と上記連結体用フランジ部との間に配置されていることを特徴とする請求項3記載のコンクリート型枠保持部材。
【請求項5】
上記曲げ誘発軸部は、寸胴形状に構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート型枠保持部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−122219(P2012−122219A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272474(P2010−272474)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(398034319)エヌパット株式会社 (7)
【Fターム(参考)】