説明

コンクリート床版防水施工方法及びコンクリート床版防水構造体

【課題】長期に亘ってコンクリート床版の劣化を防ぐ事が可能な優れた床版防水システムを提供する。
【解決手段】コンクリート床版に浸透型防水材を塗布した上に硅砂を撒布し、更に加熱塗布型アスファルト塗膜防水材を塗布する組み合わせを提案している。即ち、本発明は、コンクリートに含浸した後硬化して床版と一体化した防水層を形成するアクリル系ラジカル硬化性液状樹脂組成物の上に、硅砂が撒布され且つ、加熱塗布系アスファルト防水材を施工してなることを特徴とするコンクリート床版防水工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は道路橋の鉄筋コンクリート床版の損傷、劣化を防ぐ目的で採用されているコンクリート床版防水に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路橋の鉄筋コンクリート床版は他のコンクリート構造物と比較して部材厚が薄く且つ直接交通荷重を絶え間なく受ける等非常に厳しい条件下に晒されている。近年、実際の交通を再現する耐久性能評価試験装置が考案され、様々な条件下での劣化メカニズムが明らかになって来た。その中で、湿潤状態にある床版は乾燥状態と比較しその疲労寿命が1/100まで短くなる事が指摘されおり(非特許文献1参照)、水の存在がコンクリート床版の劣化を著しく促進することが明らかとなってきた。重要な社会資本の一つである道路橋は、損傷に伴う補修や打ち替えはそれに掛かる費用のみでなく、社会に与える影響が大きいため、損傷を防ぐための維持・管理手法即ち予防保全手法が注目されているなか、様々なコンクリート床版の防水手法が検討されている。
【非特許文献1】「移動荷重を受ける道路RC床版の疲労強度と水の影響について」コンクリート工学年次論文集9−2(1982)
【0003】
一般的にコンクリート床版防水に用いられている防水材はシート防水材、舗装系防水材、塗膜系防水材に分類できる。シート系防水層としては、合成繊維不織布に特殊アスファルトを含浸させて成型した1.5〜4mm厚み程度のアスファルト系の防水シートを床版に加熱溶融しながら床版に接着したり、またはプライマーや接着剤等で貼り付けるものがある。舗装系防水材としては、硬質アスファルトに骨材と石粉を混ぜた物がある。
又、塗膜系防水層としては、合成ゴム塗膜系防水層、アスファルト塗膜系防水層、エポキシ樹脂塗膜系防水層がある。
【0004】
シート系防水層はアスファルト系の柔らかい材料を用いているため、床版にクラックが生じた場合のクラック追従性に優れ、またアスファルト舗装との接着性に優れる等の長所を有する。しかしながら、シートに厚みがあるためコンクリート床版の不陸に沿って防水層を形成しにくく空気を巻き込み易い、防水層の上にアスファルト合材を舗設する際に骨材によってシートに孔が開き易く、又一旦防水層の一部が破れて水が浸入した場合水が廻り易い等の問題点があった。
【0005】
舗装系防水材としては、ストレートアスファルトに精製トリニダットアスファルトを配合した硬質アスファルトに骨材や砂粉を混合した物で、15〜25mm程度の厚さに施工されるものである。通常の舗装機器・設備で施工できる等の特徴はあるが、他の防水材に比べ防水性能の確実性に欠ける。特にコンクリート床版に不陸がある場合に防水層に薄い箇所が発生するため防水性能を確保しにくいという問題点があった。
【0006】
塗膜系防水材としては、クロロプレンゴムなどの合成ゴムに無機質フィラー、加硫剤、顔料などを添加し、揮発性溶剤を加えた高粘度溶液の合成ゴム系塗膜防水材やアスファルトに合成ゴムを10〜40質量%添加したゴム入りアスファルトを主成分とし、加熱溶融してコンクリート床版に塗布して防水層を形成するアスファルト系塗膜防水材。エポキシ樹脂からなる主剤と変性ポリアミンからなる硬化剤の2成分から構成され、このほかに軟化剤、充填材、顔料などが添加されたエポキシ系塗膜防水材が知られている。何れもコンクリート床版に数回に分けて塗布し、最終的な膜厚として0.4〜1.5mm程度の防水層を形成するものであるが、ピンホールが発生し易く、防水性能の確実性が低い。防水材自体や併用するプライマーに溶剤を含む事が多いため、残留溶剤により舗装材料のカットバックを引き起こす可能性がある。又、エポキシ系塗膜防水材は床版に対する接着性は充分だが、舗装材料に対する接着性を確保するのが現場施工では難しいという問題点があった。
【0007】
また、新たな提案として特許文献1には熱硬化性樹脂防水層として伸び率の大きなラジカル硬化性樹脂を用いる方法が、また特許文献2には床版上に合成樹脂防水層を形成する工程と、合成樹脂防水層上に熱可塑性樹脂粒状物を散布する工程と、合成樹脂防水層上に加熱アスファルト混合物を用いて舗装する工程を有する床版の防水工法が提案されている。
【特許文献1】特開平8−311805号公報
【特許文献2】特開平9−021113号公報
【0008】
以上の背景技術で述べた床版防水工法は何れもコンクリート床版上に厚みが 0.2〜4.0mmの防水層を形成するものであり、これらの接着層を含む防水層には必ずコンクリート表面との界面が存在する。また床版コンクリートそのものに防水性能を付与しているものではないため、防水層の一部に欠損が発生した場合、その欠陥部分を通して水がコンクリート床版全体に広がる可能性がある等の問題点がある。さらに、防水層の端部の界面部分から水分が浸入しやすいという問題点もあり、防水性能の確実性に問題があった。
【0009】
以上の様な問題点を解決するため、本発明者はコンクリートに含浸した後硬化して床版と一体化した防水層を形成する浸透型防水材とアスファルト塗膜防水材を分子内に不飽和二重結合基を有する加熱軟化型樹脂粒状物を介して密着させる二重防水システムを提案している。本防水工法は床版のクラック補修を同時に行う事で床版の耐久性改善に効果があると同時に、加熱溶融アスファルト塗膜防水材が後から発生するクラックに対する追従性を持っているため、長期間防水性能を維持する優れた防水工法である。
【0010】
しかしながら、熱軟化性樹脂粒状物は分子量が低いため脆いという欠点があり、取り扱い中に微粉が発生し散布時に飛散するという問題点や、熱軟化性樹脂粒状物を散布後、人や工事車両が通ると靴やタイヤに付着し周囲を汚染するという問題点があった。又、アスファルト合材の温度が低いと十分軟化しないため、浸透型防水材と加熱溶融アスファルト塗膜防水材の間の密着力が低下するという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、コンクリート床版を防水するだけでなくコンクリート床版のひび割れ補修を同時に行なう事で耐久性に優れ、更に塗布された加熱溶融アスファルトにより施工後の交通荷重により発生するクラックへの追従性を確保する事で、長期に亘ってコンクリート床版の劣化を防ぐ事が可能な優れた床版防水システムを飛散や周囲の汚染等の施工上の問題やアスファルト合材の付着力の低下等の品質上の問題を起こす事無く実際の現場へ適応する事を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決するため本発明は、コンクリート床版に浸透型防水材を塗布した上に硅砂を撒布し、更に加熱塗布型アスファルト塗膜防水材を塗布する組み合わせを提案している。即ち、本発明は、コンクリートに含浸した後硬化して床版と一体化した防水層を形成するアクリル系ラジカル硬化性液状樹脂組成物の上に、硅砂が撒布され且つ、加熱塗布系アスファルト防水材を施工してなることを特徴とするコンクリート床版防水工法であり、好ましくは、前記アクリル系ラジカル硬化性樹脂組成物の塗布時の粘度が2000mPa・s以下であり且つ、塗布量が50g/m以上500g/m以下であり、更に好ましくは、前記ラジカル硬化性液状樹脂組成物がJIS A 1106.3(供試体)により作製した100mm×100mm×400mmのコンクリートブロックの中央部付近に曲げ荷重を加え2片に破断した後、その2片の破断面を0.2mmの間隔をあけて突き合わせ対向させた状態で固定することにより試験片を作製し、水平方向に維持し、該ラジカル硬化性樹脂組成物を試験片上面に200g/m塗布した際に、該ラジカル硬化性樹脂組成物がひび割れに含浸硬化してコンクリートを一体化する深さが10mm以上であり、更に好ましくは、前記ラジカル硬化性樹脂組成物がアクリル系及び/又はメタアクリル系樹脂を主成分とする液状樹脂組成物であることを特徴とする前記のコンクリート床版防水施工方法である。加えて、本発明は、前記の床版防水施工方法で施工されたコンクリート床版防水構造体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリート床版にラジカル硬化性液状樹脂組成物を塗布、含浸硬化させる事で床版と一体化した防水層を形成すると同時にひび割れを一体化する工程と、硅砂を散布する工程と、加熱溶融型アスファルト防水材の施工工程からなる床版防水施工方法は、硅砂の替わりに不飽和二重結合基を有する熱軟化性樹脂粒状物を使う床版防水施工方法の持つ問題点、即ち熱軟化性樹脂粒状物を散布するときの飛散、靴やタイヤを介した周辺の汚染や、アスファルト合材温度が低下した時のアスファルト合材との付着力低下等の問題を防ぎ、長期に亘って防水性能を確保する事が可能な床版防水工法並びに床版防水構造体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で提案している床版防水方法及び床版防水構造体は新設床版に舗装を行なう場合、又は既設床版の舗装打ち替えの場合双方に適応が可能である。
【0015】
本発明では、アクリル系ラジカル硬化性液状樹脂組成物として、塗布時の粘度が2000mPa・s以下の物を使用する。該ラジカル硬化性液状樹脂組成物の塗布時の粘度が2000mPa・s以下であれば、コンクリート床版への含浸性が極端に悪くなり防水性が劣るということが防げるし、本発明の特徴である床版に含浸し表層と一体化した防水層の形成が確保できる。更に、浸透せず表面に塗膜を形成するためピンホールが発生し易くなることも防げる。又、該アクリル系ラジカル硬化性液状樹脂組成物の塗布量が50g/m以上であれば、床版と一体化する防水層が塗り斑により部分的に防水層の形成が出来ない等の不具合が生じることも防げるし、コンクリート表面に樹脂硬化物の皮膜が形成され加熱アスファルト系防水層との密着力が低下してしまうことも防止できる。
【0016】
前記ラジカル硬化性液状樹脂組成物の硬化時間は特に制限は無いが、施工時間の制限が厳しい既設コンクリート床版に適用する場合は30分以内が好ましい。
【0017】
又、前記ラジカル硬化性液状樹脂組成物がJIS A 1106.3 (供試体)により作製した100mm×100mm×400mmのコンクリートブロックの中央部付近に曲げ荷重を加え2片に破断した後、その2片の破断面を0.2mmの間隔をあけて突き合わせ対向させた状態で固定することにより試験片を作製し、水平方向に維持し、該アクリル系ラジカル硬化性樹脂組成物を試験片上面に200g/m塗布した際に、該ラジカル硬化性樹脂組成物がひび割れに含浸硬化してコンクリートを一体化する深さが10mm以上であるクラック含浸性に優れた物が好ましい。該ラジカル硬化性液状樹脂組成物の上記クラック浸透性が10mm以上であれば、細かいクラックに充分深く浸透して一体化する事ができず、床版のクラック補修効果が小さくなるという現象を防止できる。
【0018】
前記硅砂として、天然に石英砂の状態で存在する物を採取し水洗・乾燥篩い分けした天然硅砂、岩石状硅砂を人工的に粉砕し篩い分けした人造硅砂や、ガラス粉砕品等を使うことができるが、コストや入手し易さを基準に選定することができる。しかし、散布時の飛散を防ぐため、予めメーカーで篩い分けして製品化している物を使う事が好ましい。具体的には、粒子径が2.4mm〜1.2mm(8メッシュ〜18メッシュ)である3号硅砂、粒子径が1.2mm〜0.6mm(10メッシュ〜23メッシュ)である4号硅砂や、粒子径が0.8mm〜0.3mm(18メッシュ〜50メッシュ)である5号硅砂が散布時の飛散が少なく好ましい。これらの硅砂は各々単独又は2種以上を組み合わせて使用する事ができる。
【0019】
硅砂の散布量は使用する粒度や散布する床版の不陸の程度により異なるが、0.3Kg/mから1.5Kg/mの範囲で散布することができる。0.3Kg/m以上でアスファルト塗膜防水材との密着力が安定し、且つ浸透型防水材が硬化するまでの間、靴やタイヤによる周辺の汚染も可能性が低くすることができるし、1.5Kg/m以下であればアスファルト塗膜防水材との間の密着力が著しく低下することもない。又、硅砂を散布するタイミングは浸透型防水材が硬化するまでに散布する事が出来るが、浸透型防水材を塗付した直後が好ましい。
【0020】
本発明に係るラジカル硬化性液状樹脂組成物としては“ハードロック DK 550−003”(電気化学工業社製アクリル樹脂),“ハードロック DK 550−007”(電気化学工業社製アクリル樹脂)等があるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
未硬化のラジカル硬化性液状樹脂組成物の塗布方法は特に制限は無いがローラー、コテ、吹き付け方法等が挙げられる。
【0022】
本発明に関わる加熱塗布型アスファルト防水材としては、ニチレキ株式会社製“セロシールSS-B”、東亜道路株式会社“タフシール”などがあるが特にこれらに限定される物ではなく、一般的に床版防水材に使用されている加熱塗布型アスファルト防水材を使用する事ができる。
【0023】
加熱塗布型アスファルト防水材を塗布した後、アスファルト防水材の粘着性を低減し舗装用の重機の通行を確保すると同時に、アスファルト塗膜防水材の損傷を防ぐため、硅砂を撒布する事ができる。
【実施例1】
【0024】
次に実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
本実施例では、ラジカル硬化型樹脂組成物として、電気化学工業製アクリル系含浸接着剤 DK 550−003を20℃の恒温室の中で使用した。DK 550−003の20℃における粘度は300mPa・sである。20℃の雰囲気で硬化時間を約30分に調整した物を使用した。試験体として表面をブラスト処理して表面のレイタンスを除去した30×30×6cmのコンクリート平板を7枚用意した。DK 550−003を200g/mの割合でゴムベラを使用して7枚全てに塗布し、直に4号硅砂を0.7Kg/mとなるよう手で均一に撒布した。30分放置して硬化させた後、供試体6枚に東亜道路工業製アスファルト塗膜防水材“タフシール”を230℃に加熱して完全に溶解し、試験体の表面に1.2Kg/mになる様バーナーで加熱した金ゴテを用いて素早く平らに均し、4号硅砂を1.0Kg/mとなるように手で撒布した。1 時間放置した後試験体5枚に、160℃に加熱した最大粒径13mmのSMAを厚さ4cmとなる様にコンパクターを使用して舗設を行なった。同時に、厚さ0.5mmの鉄板を280番の研磨紙で金属光沢が出るまで研磨した物を準備してアセトンで充分表面を脱脂した後、コンクリート平板と同じ様にDK 550−003と4号硅砂、タフシールを塗布した。試験体は1日放置した後、社団法人日本道路協会「道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計・施工資料」に記載されている床版防水材品質基準項目の試験を行なった。又、アスファルト塗膜防水材塗布時にタイヤや靴による周囲への汚染を定性的に評価するため、日本道路公団試験研究所規格JHERI 410−3“はがれ負荷方法”に準拠した評価を行なった。
【0026】
(実施例2)
本実施例では、ラジカル硬化型樹脂組成物として同じく電気化学工業製アクリル系含浸接着剤DK 550−007を実施例1と同じく 20℃の恒温室の中で使用した。DK 550−007の20℃における粘度は約700mPa・sである。20℃の雰囲気下で硬化時間を約30分に調整した物を用いた。実施例1と同様にブラスト処理した30×30×6cmのコンクリート平板7枚にDK 550−007を400g/mの割合でゴムベラを用いて塗布した。塗布直後、実施例1と同じく4号硅砂を1.0Kg/mとなるよう手で撒布した。実施例1と同じく約30分間放置して硬化させた後、230℃に加熱して溶融した東亜道路工業株式会社製アスファルト塗膜防水材“タフシール”を試験体の表面に1.2Kg/mになる様塗布し、バーナーで加熱した金ゴテを使用して平らに均した。次に4号硅砂を 1.0Kg/mとなるように手で撒布した。1時間放置した後、試験体5枚に160℃に加熱した最大粒径13mmのSMAを厚さ4cmとなる様にコンパクターを使用して舗設を行なった。同時に、厚さ0.5mmの鉄板を280番の研磨紙で金属光沢が出るまで研磨した物を準備してアセトンで充分表面を脱脂した後、コンクリート平板と同じ様にDK 550−007、硅砂、タフシールを塗布した。試験体は1日放置した後、社団法人日本道路協会「道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計・施工資料」に記載されている床版防水材品質基準項目の試験を行なった。又、実施例1と同様に「はがれ負荷試験」を行いタイヤや靴による周辺への汚染の可能性を定性的に評価した。
【0027】
(実施例3)
本実施例では、ラジカル硬化型樹脂組成物であるDK 550−003の塗布量を50g/mとし、5号硅砂を0.4Kg/mとなる様手で撒布し、アスファルト系塗膜防水材としてニチレキ株式会社製“セロシールSS-B”を使用した以外は実施例1と同様に試験体を作成し評価試験を行なった。
【0028】
(実施例4)
本実施例では、はラジカル硬化型樹脂組成物であるDK 550−007に石油樹脂(三井化学製ハイレッツG−100X)を溶解して20℃における粘度が1800mPa・sとなる様に調整した。(以下、DK−Xと標記する。)DK−Xを塗布量が150g/mとなるように塗布した後、5号硅砂を0.8Kg/mとなる様手で撒布した以外は実施例2と同様にアスファルト系塗膜防水材を塗布して床版防水材品質基準項目の試験を行なった。
【0029】
(実施例5)
本実施例では、ラジカル硬化型樹脂組成物であるDK 550−003の塗布量を150g/mとし、3号硅砂を1.0Kg/mとなる様手で撒布した以外は実施例1と同様に試験体を作成し評価試験を行なった。
【0030】
(実施例6)
本実施例では、屋外ヤードに打設した厚さ30cmの模擬床版を1m×2mに区分し、表面の埃、水分、レイタンスを除去した後、DK 550−003をローラーで200g/m塗布した後、4号硅砂を0.7Kg/m手で撒布したが、その際飛散の有無を目視で評価した。約30分養生して硬化を確認した後、230℃に加熱溶融したアスファルト塗膜防水材“タフシール”を1.2Kg/mとなる様ひしゃくで撒布し、素早くゴム製レーキ他で均した。次に4号硅砂を1.0Kg/mとなる様手で撒布した。次に、一部防水層を残しながら、アスファルトフフィニッシャーで最大粒径が13mmのSMAを厚さ50mmとなる様舗設し、マカダムローラーとタイヤローラーで押し固めを行なった。翌日、コアリングマシンでアスファルト舗装が舗設されていない場所から直径100mmのコアを抜き防水試験を行なった。又、舗装を掛けた場所のほぼ中央の部分から同じく直径100mmのコアを採取し引張付着試験を行なった。
【0031】
(実施例7)
本実施例は、実施例6に使用した模擬床版と同様の床版を作成し1m×2mに区分した後、小型の切削機で切削し、補修工事を想定した床版(1m×2m)を作成した。その上に、ラジカル硬化型樹脂組成物としてDK 550−003を300g/mでローラーで塗布した後、3号硅砂を1.5Kg/mになる様手で散布したが、その際飛散の有無を目視で観察した。約30分養生して硬化を確認した後、実施例6と同様にタフシールと4号硅砂を施工後、実施例6と同じ手順で一部防水層を残しながら最大粒径が13mmの改質II型を使用した密粒アスファルト混合物を厚さ5cmとなる様に舗設を行なった。翌日、実施例6と同様に、未舗装の部分からコアリングマシンで直径100mmのコアを抜き防水試験を行ない、舗装した部分からも同様にコアリングを行い引張付着試験を実施した。
【0032】
(実施例8)
本実施例では、JIS A 1106.3(供試体)で規定されている方法で作成した10×10×40cmのコンクリート供試体をほぼ中心部で割裂し、割れ部分に0.2mmのスペーサーを挟み込み、0.2mm幅のクラックを有するコンクリート供試体を12本準備した。次に、各4本づつ、DK 550−003、DK 550−007と実施例4で使用したDK−Xを200g/mとなるようにゴムベラで塗布し、一夜経過後再びクラック部分から破断させ、アクリル系ラジカル硬化型樹脂組成物が0.2mm幅のクラックに10mm以上含浸している事を確認した。残りの各3本は「財団法人社団法人日本道路協会」が道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計・施工資料に定めている試験法に則り防水試験を行った。具体的には、クラック部分が防水試験器の中心を通る様に装置をセットして測定を行ない、漏水量が0.0mlである事を確認した。
【0033】
以上の実施例の試験条件を表1、表2に記載する。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
(比較例1)
比較例として、はアクリル系ラジカル硬化型樹脂組成物の20℃における粘度が4000mPa・sである電気化学工業製アクリル系接着剤DK 550−04を使用した事以外は実施例1と同様の手順・方法で供試体を作成して評価を行なった。
【0037】
(比較例2)
他の比較例として、アクリル系ラジカル硬化型樹脂組成物の塗布量が40g/mであること以外は実施例2と同様の方法で供試体を作成して評価を行なった。
【0038】
(比較例3)
他の比較例として、硅砂の散布量が0.2Kg/mである事以外は実施例3と同様に供試体を作成して評価を行なった。
【0039】
(比較例4)
他の比較例として、アクリル系ラジカル硬化型樹脂組成物として電気化学工業社製DK 550−007を200g/m塗布して床版に充分含浸させた後、直ちに5号硅砂を1.6Kg/m散布した以外は実施例4と同様に供試体を作成し評価を行なった。
【0040】
(比較例5)
他の比較例として、屋外ヤードに打設した厚さ30cmのコンクリート模擬床版を1×2m に区分し、表面の埃、レイタンス、水分を除去した後、実施例6と同様にDK 550−003を200g/mとなるように塗布した後、6号硅砂を0.8Kg/mの割合で散布した。その際、目視で飛散の有無を評価した。約30分間養生してDK 550−003の硬化を確認した後、実施例6と同様にタフシールを塗付して一部防水層を残す様に最大粒径が13mmのSMAを厚さ50mmとなる様舗装した。翌日、コアリングマシンで防水層が剥き出しの箇所から直径100mmのコアを抜き防水試験を行った。又、アスファルト舗装を真中付近から同様に直径100mmのコアを抜き引張り付着試験を行なった。
【0041】
(比較例6)
この比較例に於いては、比較例5と同様に厚さ30cmのコンクリート製模擬床版を1×2mに区分しDK 550−003を200g/mとなる様塗布した後、硅砂の替わりに予め7メッシュの金網(目開き2.83mm)で篩った石油樹脂(三井化学製ハイレッツ G−100X)を100g/mとなるように散布した。その際目視で飛散の有無を評価した。約30分養生してDK 550−003の硬化を確認した後、タフシールを塗布して最大粒径13mmのSMAを厚さ50mmとなる様一部防水層を残して舗設した。翌日、コアリングマシンで防水層の部分と舗装の中央部分からコアを採取し、それぞれ防水試験と引張り付着試験を行った。これら比較例に関して試験条件を表3、表4に示した。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
実施例1〜5、及び比較例1〜4で作成した供試体は全て、社団法人 日本道路協会が定める、「道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計。施工資料に示されている防水材品質基準評価方法に準拠して評価試験と日本道路公団試験研究所規格JHERI 410−3“はがれ負荷方法”によるタイヤや靴を介する周辺への汚染の可能性評価を行なった。実施例6〜8、比較例5〜6は防水層が露出している箇所をコアリングした供試体と舗装箇所をコアリングした供試体は夫々、日本道路協会「道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計・施工資料」に規定されている防水試験並びに引っ張り接着試験に準拠して評価した。又、硅砂並びに石油樹脂散布時の飛散の有無に関して目視で評価した。
【0045】
各実施例及び比較例で作成した供試体のうち、厚さ0.5mmの脱脂した研磨鉄板に夫々の条件で防水層を施工した供試体は−10℃の恒温槽の中に一日以上放置し、同じく−10℃に冷却していた直径10mm鉄製マンドレルに押さえ付けて180°曲げ、塗布層の剥離や破損の無い場合を合格。ある場合を不合格として判定した。本試験は3回試験を行ない、その内2個が合格の場合合格と判定した。
【0046】
防水試験は各実施例及び比較例で作成した、アスファルト合材を舗設していない供試体の2箇所で試験を行なった。測定開始後3分から33分までの30分間の漏水量が0.5ml以下の場合合格と判定した。
【0047】
剪断試験はアスファルト舗設を行なったコンクリート平板の周囲を約5cm幅でトリミングを行い、10×10cmに切り出して試験体とした。試験体は測定温度(20℃、−10℃)にセットした恒温槽に一夜以上放置した後、所定の冶具で載荷速度1mm/min.で剪断強度を測定した。測定は各温度条件で夫々試験体3個の剪断強度を求め、その平均値を求めた。
【0048】
引張試験はアスファルト混合物を舗設したコンクリート平板の中央部分にコアリングマシンで直径100mmの切込みをコンクリート板に達するまで入れ、直径100mmの鉄製冶具を接着剤で貼り付ける。接着剤の硬化を待って測定温度に調整している恒温層へ入れ一夜放置後、建研式引張試験機で引張強度を測定する。測定は各温度条件で夫々3箇所測定し、その平均値を示した。
【0049】
水浸7日後の引張接着試験は引張試験と同様に、コアリングマシンで直径100mmの切込みをコンクリート板まで入れ、直径100mmの鉄製冶具を接着材で貼り付けた物を20℃の水中に7日間浸漬した後、建研式引張試験機で引張強度を測定する。測定は各温度条件で3箇所行いその平均値を求め、水浸試験を行なわない場合の引張強度に対する保持率を算出した。
【0050】
はがれ負荷試験は アクリル系ラジカル硬化型樹脂組成物を塗布し、硅砂又は熱軟化性樹脂粒状物を散布した後、樹脂組成物の硬化を確認した供試体に、硬度55〜60のゴム板100×100×10mmと100×100mmの鋼製載荷板を載せて5kN(500Kg)の荷重を1分間保持する。速やかに鉄製載荷板とゴム板を取り外し、ゴム板の汚損状況を目視で評価する。
【0051】
以上の測定結果を表5、表6、表7、表8に示した。
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【実施例2】
【0056】
(比較例7)
比較例として、JIS A 1106.3(供試体)で規定されている方法で作成した10×10×40cmのコンクリート供試体をほぼ中心部で割裂し、割れ部分に0.2mmのスペーサーを挟み込み、0.2mm幅のクラックを有するコンクリート供試体を4本準備した。次に、この試験体の表面にラジカル硬化型樹脂組成物としてDK−550−04を200g/mゴムベラで塗布し、一夜経過後4個の供試体の中の一体を選びクラック部分から破断させ、ラジカル硬化型樹脂組成物が0.2mm幅のクラックに10mm以上含浸していない事を確認した。残りの供試体三体は日本道路協会「道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計・施工資料」に規定されている防水性能評価試験方法に準じて防水試験を行った。具体的には、クラック部分が防水試験器の中心を通る様に装置をセットして測定を行なった。その結果、漏水量が0.5mlを上回ることを確認した。
【0057】
【表9】

【実施例3】
【0058】
(実施例9)
本実施例としては、30×30×6cmのコンクリート平板3枚にDK 550−003を 200g/mとなる様塗布した後直ちに4号硅砂を0.7Kg/m散布して約30分養生した。次に、230℃に加熱して溶解したタフシールを1.2Kg/mとなるように塗布し、素早く熱した金属ヘラで均した。その上に4号硅砂を1Kg/mの割合で散布した。次に160℃、135℃、110 ℃に加熱した最大粒径13mmのSMAをコンパクターを用いて厚さ4cmになる様舗設した。翌日、社団法人日本道路協会「道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計・施工資料」に準拠した方法で20℃の引張り接着強度を測定した。
【0059】
(比較例8)
比較例として、DK 550−003を200Kg/mとなる様塗布した後に散布する4 号硅砂の替わりに、予め7メッシュの金網(目開き2.83mm)で篩った石油樹脂(三井化学製ハイレッツG−100X)を100g/mとなる様に散布した以外は実施例9と同様に供試体を作成し20℃の引張り接着力強度を測定した。
【0060】
これらの結果を表10、表11に示す。
【0061】
【表10】

【0062】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、道路橋の鉄筋コンクリート床版を始めとするいろいろな建築、土木分野の防水工法として有効であり、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートに含浸した後硬化して床版と一体化した防水層を形成するアクリル系ラジカル硬化性液状樹脂組成物の上に、硅砂が撒布され且つ、加熱塗布系アスファルト防水材を施工してなることを特徴とするコンクリート床版防水工法。
【請求項2】
前記アクリル系ラジカル硬化性樹脂組成物の塗布時の粘度が2000mPa・s以下であり且つ、塗布量が50g/m以上500g/m以下であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート床版防水工法。
【請求項3】
前記ラジカル硬化性液状樹脂組成物がJIS A 1106.3(供試体)により作製した100mm×100mm×400mmのコンクリートブロックの中央部付近に曲げ荷重を加え2片に破断した後、その2片の破断面を0.2mmの間隔をあけて突き合わせ対向させた状態で固定することにより試験片を作製し、水平方向に維持し、該ラジカル硬化性樹脂組成物を試験片上面に200g/m塗布した際に、該ラジカル硬化性樹脂組成物がひび割れに含浸硬化してコンクリートを一体化する深さが10mm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート床版防水施工方法。
【請求項4】
前記ラジカル硬化性樹脂組成物がアクリル系及び/又はメタアクリル系樹脂を主成分とする液状樹脂組成物であることを特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3記載のコンクリート床版防水施工方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の床版防水施工方法で施工されたコンクリート床版防水構造体。

【公開番号】特開2007−85013(P2007−85013A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271666(P2005−271666)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】