説明

コンクリート構造物の内部診断方法

【課題】 コンクリート構造物の壁部に埋設された鉄筋等の金属物から影響を受けることがなくかつコンクリート壁の片側からでも診断が行える。
【解決手段】 コンクリート構造物の壁面に少なくとも2つ以上の調査孔を相互に間隔をあけて設け、一方の調査孔内に超音波発信子を設置するとともに、他方の調査孔内に超音波受信子を設置し、前記超音波発信子から発信され前記超音波受信子で受信される超音波を受信し観測することで、コンクリート壁の前記調査孔間を調査するコンクリート構造物の内部診断方法であって、前記一方の調査孔及び前記他方の調査孔は、前記壁面に対して垂直に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の内部にひび割れや腐食、強度低下、空洞部などの欠陥部がないかどうか外部から診断する方法に関し、特に超音波を使って診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の壁内部にひび割れや腐食、強度低下、空洞部などの欠陥部がないかどうかを診断する方法として、コンクリート構造物の一部を切り抜き、これを目視により診断する方法がある。しかし、この診断方法は、調査する毎にコンクリート構造物を傷つけなければならないとともに、切り抜いた部分しか調査することができず、あまり合理的な方法とは言えない。そこで、最近では、超音波による非破壊方法が採用されている。
【0003】
この非破壊方法は、コンクリート構造物の壁内に超音波を伝播させてその伝播状態を観測して欠陥部がないかどうか診断する方法である。この方法には、透過法と反射法との2種類ある。透過法は、コンクリート壁の両側に超音波発信子と超音波受信子とをそれぞれ配置し、超音波発信子から超音波を発信し、コンクリート壁を伝播してくる超音波を反対側の超音波受信子で受信し、コンクリート壁の内部状態を調べる。コンクリート壁内に欠陥部があれば、超音波の伝播速度など、超音波の伝播状態が他の部分と異なり、コンクリート壁を傷つけることなく外部から簡単に調べることができる。
【0004】
一方、反射法は、超音波発信子と超音波受信子の両方をコンクリート壁の片側に配置し、その反対側に鋼板などの金属板を配置して調査する方法である。超音波発信子から発信された超音波は金属板により反射されるため、反射されてくる超音波を超音波受信子で受信し観測することで、コンクリート壁内に欠陥部がないかどうか調べることができる。この方法は、超音波発信子と超音波受信子とをコンクリート壁の同じ側に配置することができる。従って、壁の反対側に前記金属板がある場合には、壁の片側からしか調査をすることができない構造物、例えばトンネル内壁やタンク外壁、土留壁などでも調査を実施することができ、非常に有効な方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリート壁に鉄筋などの金属物が埋め込まれていると、この金属物により超音波の伝播が阻まれ反射されて、それよりも奥部に到達させることは困難であった。このため、構造物の壁部に例えば鉄筋が格子状に組まれて埋設されていると、壁表面からでは、壁の内奥部全体が鉄筋に阻まれ、透過法または反射法などをもってしても調査を行うことはできなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、コンクリート構造物に鉄筋等の金属物が埋設されていてもこれに影響されずに超音波により調査を行えるようなコンクリートの内部診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明にかかるコンクリート構造物の内部診断方法にあっては、コンクリート構造物の壁面に少なくとも2つ以上の調査孔を相互に間隔をあけて設け、一方の調査孔内に超音波発信子を設置するとともに、他方の調査孔内に超音波受信子を設置し、前記超音波発信子から発信され前記超音波受信子で受信される超音波を受信し観測することで、コンクリート壁の前記調査孔間を調査するコンクリート構造物の内部診断方法であって、前記一方の調査孔及び前記他方の調査孔は、前記壁面に対して垂直に形成されることを特徴とする。
また、前記一方の調査孔及び前記他方の調査孔は、前記壁面の同じ側から、当該壁面の中心部に向かって形成されることとしてもよい。
また、前記一方の調査孔の大きさは前記超音波発信子よりも大きく、前記他方の調査孔の大きさは前記超音波受信子よりも大きく、前記超音波発信子は前記一方の調査孔内に挿入され、前記超音波受信子は前記他方の調査孔内に挿入されることとしてもよい。
また、前記超音波発信子から延出されたケーブルは、前記一方の調査孔を通じて前記壁面の外部に導出され、前記超音波受信子から延出されたケーブルは、前記他方の調査孔を通じて前記壁面の外部に導出されることとしてもよい。
また、前記コンクリート壁の前記調査孔間を調査した後に、前記超音波発信子を前記一方の調査孔から抜き出し、前記超音波受信子を前記他方の調査孔から抜き出すこととしてもよい。
さらに、前記調査孔を壁面に3箇所以上設ければ、1つの調査孔につき複数の調査孔との間で調査を行うことができるから、少ない孔数で多く区間を調査対象とすることができる。特に、1つの調査孔内に超音波発信子を設置し、他の調査孔内に超音波受信子を設置してその超音波発信子から超音波を発信し他の各超音波受信子でこれを受信すれば、複数の区間をまとめて同時に調査することができる。
【0008】
さらにこれらの方法にあっては、次の各事項(A)〜(C)により実施されるのが好ましい。
(A)前記超音波発信子の発信面または前記超音波受信子の受信面が、前記調査孔の内面形状に対応すべく曲面形状に形成されている。この場合、超音波発信子または超音波受信子を調査孔内面との間にあまり隙間をつくらずに密着させることができ、超音波を良好に発信または受信することができる。
(B)治具を介して一体的に連結された前記超音波発信子と前記超音波受信子とを前記調査孔に挿入し、これら超音波発信子と超音波受信子とを前記調査孔内に沿って平行に移動させつつ前記超音波発信子から発信された超音波を前記超音波受信子で捕捉する。この場合、超音波発信子と超音波受信子とを平行に移動させながら逐次、超音波を発信しこれを受信することで、コンクリート壁内を2次元的に調査することができる。
(C)前記調査孔を設ける際に、診断対象であるコンクリート壁内に埋設されている鉄筋等の金属物の位置を金属探査装置で調査しておく。この場合、鉄筋等の金属物の埋設ポイントを事前に調べておくことで、調査孔を設ける際に、金属物とぶつかる心配がない。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート構造物の内部診断方法によれば、コンクリート壁面に2つの調査孔を設け、且つこれらの調査孔が壁面に対して垂直に形成し、これら調査孔内にそれぞれ超音波発信子と超音波受信子とを設置し、調査孔内から超音波を発信して他の調査孔内でこれを受信するから、構造物に鉄筋などの金属物が埋設されていても、これに影響されずに内部診断を実施することができる。したがって、コンクリート構造物をくまなく詳しく診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかるコンクリート構造物の内部診断方法により壁部を診断しているときの様子を示した斜視図である。
【図2】本発明にかかるコンクリート構造物の内部診断方法により壁部を診断しているときの様子を示した断面図である。
【図3】本発明のコンクリート構造物の内部診断方法で使用される超音波発信子または超音波受信子の一例を示した正面図である。
【図4】本発明にかかるコンクリート構造物の内部診断方法で使用される診断器具の一例を示した外観図である。
【図5】本発明にかかるコンクリート構造物の内部診断方法の応用例を示す説明図である。
【図6】本発明にかかるコンクリート構造物の内部診断方法の他の応用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1および図2は、本発明にかかるコンクリート構造物の内部診断方法の一実施形態を示したものである。このコンクリート構造物1は、鉄筋コンクリート構造であり、その壁2の内部には、縦筋6と横筋8とからなる格子状の鉄筋9が1対相互に間隔をあけて埋設されている。
【0012】
本発明にかかる診断方法では、まず、このコンクリート壁2の壁面4に2つの調査孔10を設ける。調査孔10は、超音波発信子12と超音波受信子14とを挿入するためのもので、診断対象とする領域を両側から挟み込む形で相互に間隔をあけて設けられる。各調査孔10のサイズは超音波発信子12もしくは超音波受信子14が十分に余裕をもって挿入できるような寸法、例えば直径5cmや10cm等に形成される。その孔の形状は円形状や楕円形状、矩形状であってもかまわない。構造物に対し与える悪影響、例えば強度低下などを考慮すると、調査孔の大きさはなるべく小さくするのが好ましい。なお、2つの調査孔10の大きさ及び形状は必ずしも等しくする必要はない。
【0013】
調査孔10の間隔は、コンクリート壁2の性状や温度、保水状態、湿度などの環境的要件の他に、超音波発信子12の発信性能や超音波受信子14の受信感度などに応じて適宜変更される。ここでは、調査孔10の間隔が具体的に50cm〜60cmぐらいに設定されている。
【0014】
調査孔10はコンクリート壁2内部に埋設された鉄筋等の金属物を避ける形で穿設され、壁面4から垂直に壁2の中心部に向かって真っ直ぐに形成される。その深さは、壁2の肉厚の半分程度に達するように形成される。例えば、壁2の厚さが60cmであれば、調査孔10の深さは約30cmに達するように設定される。
【0015】
このように形成した2つの調査孔10のうちの一方に超音波発信子12を挿入し、他方に超音波受信子14を挿入する。超音波発信子12および超音波受信子14は、ロッド16の先端部に取付けられて、調査孔10の奥深くにまで差し込まれる。超音波発信子12および超音波受信子14は、コンクリート壁2の中央位置付近にコンクリート壁面4からの距離がほぼ等しい位置に設置される。その位置は2つの格子状の鉄筋9間に位置することになる。超音波発信子12または超音波受信子14から延出されたケーブル12a,14aは各調査孔10を通じて壁2外部に導出される。
【0016】
超音波発信子12および超音波受信子14の設置を完了した後、超音波発信子12から超音波受信子14に向けて超音波を発信する。超音波発信子12から発信された超音波はコンクリート壁2を伝播して超音波受信子14に到達する。ここで超音波は格子状の鉄筋9間を伝播するから、格子状の鉄筋9で囲まれた部分の欠陥状況について調べることができる。超音波受信子14の受信結果はケーブル14aを介して外部に出力される。
【0017】
超音波受信子12から得られた受信結果は、コンピュータ装置などから構成される計測部(図示外)により分析され、超音波発信子12から発信されて超音波受信子14に到達するまでにかかる時間等に基づき、構造物内部の状態を示す画像が作成され、テレビモニタなどに映し出される。これによって、鉄筋よりも内側の部分の様子がわかり、ここにひび割れや腐食、強度低下などの欠陥部がないかどうか診断することができる。
【0018】
以上、本実施の形態にかかるコンクリート構造物の内部診断方法によれば、構造物の壁面4に2つの調査孔10を設け、各調査孔10内にそれぞれ超音波発信子12と超音波受信子14を設置するから、コンクリート構造物内部に鉄筋が存在しても、これに影響されずに超音波により診断を行うことができる。これによって、鉄筋等の金属物により遮蔽された部分においても欠陥部がないかどうか調べることができる。欠陥部による各種悪影響を未然に防止することができる。
【0019】
なお、金属物として構造物内部に鉄骨や鋼板などその他の金属物が埋設されている場合でも、前記と同様な効果を得ることができる。すなわち、SRC構造やSC構造、その他のコンクリート構造物についても本発明にかかる内部診断方法を好適に適用することができる。
【0020】
診断後、超音波発信子12または超音波受信子14については、各調査孔10から抜き出して他の部分の調査に使用する以外、そのまま存置しておくのもよい。そのまま存置し調査孔10内に超音波発信子12または超音波受信子14を残しておけば、これを利用して継続的に診断を行うことができる。調査孔10にモルタルなどの充填材を充填したり、調査孔10の開口部を保護材で覆ったりして、調査孔10を通じてコンクリート壁2に腐食などの不具合が発生するのを防止した方がよい。
【0021】
また、調査孔10は、診断終了後、他の測定や診断に利用してもよい。具体的には、調査孔内に他の測定や診断で使用するセンサ類、例えば自然電位測定センサ、X線線源またはレーザ源などを設置する。
【0022】
===超音波発信子・受信子の形態===
前記調査孔10の内面形状が断面円形状などに形成されている場合など、前記超音波発信子または前記超音波受信子と調査孔10内面とがうまく密着せず、これらの間に形成された大きな隙間に大量のグリースなどの充填材を詰め込む必要が生じることがある。このような場合には、図3に示すような形態の超音波発信子12または超音波受信子14を使用する。この超音波発信子12または超音波受信子14は、コンクリートと接触する発信面12bまたは受信面14bが調査孔10の内面形状に対応して曲面形状に形成されている。このため、超音波発信子12または超音波受信子14を調査孔10内面に隙間をつくらずに良好に密着することができる。これにより、超音波発信子12または超音波受信子14と調査孔内面10との間にグリース等の充填材を大量に介設しなくても、超音波を良好に発信または受信することができる。
【0023】
===治具===
もっと作業をスムーズに行うために、図4に示すように超音波発信子12と超音波受信子14とを、取手20aの付いたコの字形の治具20で連結する。このように超音波発信子12と超音波受信子14とを連結すれば、これらを各調査孔10に同時に差し込むことができ、作業の簡便化が図れる。また、超音波発信子12と超音波受信子14とを平行に保持するとともに、両者の調査孔10の開口部から距離を等しく保つことができる。さらに、挿入した超音波発信子12と超音波受信子14とを調査孔10内から徐々に引き出してゆけば、調査位置を変更しつつ壁2内を2次元的に調査することができる。
【0024】
===調査孔を複数設けた場合===
図5(a)〜(c)は、前記調査孔10をコンクリート壁面4に3箇所以上設けて調査を行う場合を示したものである。図5(a)は3箇所、図5(b)は4箇所、図5(c)は5箇所、調査孔が設けられた場合をそれぞれ示している。このように調査孔10が3箇所以上設けられると、1つの調査孔10に対し他の複数の調査孔10との間に調査対象となる区間が形成され、一度に多くの区間を調査対象とすることができる。例えば、調査孔10が3箇所あれば3区間、4箇所あれば6区間、5箇所あれば10区間が調査対象として確保できる。調査孔10の数が増えれば増える程、増えた数以上に調査対象となる区間を確保できる。なお、各調査孔10間の間隔は必ずしも等しくする必要はない。
【0025】
さらにここで、図6(a)〜(c)に示すように、調査孔10のうちの1つに超音波発信子を設置し、他の複数の調査孔10内にそれぞれ超音波受信子14を設置し、1つの超音波発信子12から複数の超音波受信子14へ向けて超音波を発信すれば、複数の調査孔10間を一度にまとめて調査することができる。この場合、調査効率がよくなり作業性の向上や作業時間の短縮を図ることができる。
【0026】
===事前調査===
調査孔を穿設する前に、予め診断対象となるコンクリート構造物の壁面について鉄筋等の金属物を金属探査装置で調査する。鉄筋等の金属物の位置を事前に調べておけば、調査孔を設ける位置を鉄筋などの金属物の埋設部から逸らすことができる。もちろん、構築時の設計図面などにより鉄筋等の金属物の位置が事前に明らかな場合には、金属探査装置により調査をする必要はない。
【0027】
===特殊な構造物の場合===
診断する構造物が特殊な場合、すなわち、例えば液化天然ガス(LNG)の備蓄タンクの外壁など、通常の構造物と比べて温度環境等の診断条件が異なる構造物の場合には、コンクリート供試体を同じ環境条件下に置き、必要な校正情報を取得して、調査の際にキャリブレーションをかけると、より精度の良い調査を実施できる。
【符号の説明】
【0028】
2 コンクリート壁
4 コンクリート壁面
6 縦筋
8 横筋
10 調査孔
12 超音波発信子
14 超音波受信子
16 ロッド
20 治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の壁面に少なくとも2つ以上の調査孔を相互に間隔をあけて設け、一方の調査孔内に超音波発信子を設置するとともに、他方の調査孔内に超音波受信子を設置し、前記超音波発信子から発信され前記超音波受信子で受信される超音波を受信し観測することで、コンクリート壁の前記調査孔間を調査するコンクリート構造物の内部診断方法であって、
前記一方の調査孔及び前記他方の調査孔は、前記壁面に対して垂直に形成されることを特徴とする。
【請求項2】
前記一方の調査孔及び前記他方の調査孔は、前記壁面の同じ側から、当該壁面の中心部に向かって形成されることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の内部診断方法。
【請求項3】
前記一方の調査孔の大きさは前記超音波発信子よりも大きく、前記他方の調査孔の大きさは前記超音波受信子よりも大きく、前記超音波発信子は前記一方の調査孔内に挿入され、前記超音波受信子は前記他方の調査孔内に挿入されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート構造物の内部診断方法。
【請求項4】
前記超音波発信子から延出されたケーブルは、前記一方の調査孔を通じて前記壁面の外部に導出され、前記超音波受信子から延出されたケーブルは、前記他方の調査孔を通じて前記壁面の外部に導出されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の内部診断方法。
【請求項5】
前記コンクリート壁の前記調査孔間を調査した後に、前記超音波発信子を前記一方の調査孔から抜き出し、前記超音波受信子を前記他方の調査孔から抜き出すことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の内部診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−236926(P2009−236926A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165926(P2009−165926)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【分割の表示】特願平11−297351の分割
【原出願日】平成11年10月19日(1999.10.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】