説明

コンクリート構造物の非破壊検査装置及びコンクリート構造物の非破壊検査方法

【課題】
長距離に亘って検査を必要とする場合であっても、剥離の位置又は鉄筋や鉄骨等の金属体の腐食状態等について移動しつつ連続的に検査が行え、検査時間の短縮を図ることができるコンクリート構造物の非破壊検査装置及び非破壊検査方法の提供。
【解決手段】
コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を渦電流により加熱する誘導加熱コイル16と、インバータ装置17とを有する加熱機と、コンクリート構造物の表面温度分布を測定する赤外線カメラ等の測定器22により測定された表面温度分布を画像化することによりコンクリート構造物の状態を検知できるサーモグラフィと、誘導加熱コイルをコンクリート構造物に沿って移動させるコイル用移動台車18と、測定器22をコンクリート構造物に沿って移動させる測定器用移動台車23とを備え、測定器用台車23は、コイル用移動台車18を常に一定時間遅れて追尾するように制御されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にRC鉄筋コンクリート構造物等の内部に鉄筋構造を有するコンクリート構造物の検査を行う為のコンクリート構造物の非破壊検査装置及びコンクリート構造物の非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛来塩分の浸透や海砂の使用、中性化の進行等によりコンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体が腐食した場合、その構造物の耐荷・耐久性能の低下を招き、また、鉄筋等に腐食が発生すること等により鉄筋の断面積が膨張し、かぶりコンクリート部分の浮きや剥離等が発生する原因にもなるので、このような鉄筋等の腐食が生じた場合には速やかに対処することが求められる。
【0003】
しかし、このようなコンクリート構造物は、外観からその状態を検知することができない為、例えば、コンクリート構造物を検査する方法として、例えば、赤外線サーモグラフィ装置を使用したコンクリート構造物の非破壊検査方法が利用されている。
【0004】
この赤外線サーモグラフィ装置を用いた検査方法は、空洞や浮き等が生じた箇所では熱伝導率が変化し、それによってその部分と他の部分との間に温度差が生じることを利用しており、コンクリート構造物表面の表面温度分布を測定し、それを画像処理することにより、視覚的にコンクリート構造物に生じた空洞や浮き・剥離等の有無及びその位置を検知できるようになっている。
【0005】
尚、この赤外線サーモグラフィ装置を用いた検査方法においては、日射熱を利用するのが一般的であるが、トンネル坑口付近や橋台等の日射熱の影響を受け難い場所では、ヒータやハロゲンランプ等によりコンクリート構造物を人工的に加熱するようにしている。
【0006】
しかし、この赤外線サーモグラフィ装置を用いた検査方法では、コンクリート構造物内に生じた空洞や浮き、剥離等の有無及びその位置を検知することはできるが、コンクリート構造物内の鉄筋の位置やその腐食状態等を検知することはできなかった。
【0007】
また、人工的にコンクリート構造物を加熱する場合、ヒータやハロゲンランプ等による加熱では、コンクリート構造物全体を広範囲に加熱することが困難であるという問題があった。
【0008】
一方、鉄筋等の金属体の腐食に関する検査方法には、鉄筋に電極を設置しその鉄筋の自然電位を測定することにより検査する自然電位法が知られているが、この方法では、鉄筋や鉄骨等の金属体に電極を設置する必要がある為、コンクリート構造体の一部を斫る必要があるという問題があり、また、かぶりコンクリートの塩分含有量や温度などにより測定精度に影響を受け易いという問題があった。
【0009】
そこで、上述の如き問題を解決すべく新しい検査方法が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0010】
この検査方法では、コンクリート構造物内に縦横に配置された複数の鉄筋等の金属体を加熱することによりコンクリート構造物全体を加熱し、そのコンクリート構造体の表面温度分布をサーモグラフィ装置により測定し、それを画像処理することにより鉄筋等の金属体の位置及び腐食の状態等を検知できるようになっている。
【特許文献1】特開2003−139731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述の如き従来技術では、赤外線カメラ等の測定器を固定して使用する為、一定の限られた範囲、即ち赤外線カメラの測定範囲内しか検査することができず、トンネルのコンクリート内壁面等のように長距離に亘って検査を行う必要がある場合に連続して検査することができず、検査に多大な時間が費やされるという問題があった。
【0012】
そこで本発明は、上述の従来技術の問題を鑑み、トンネルのコンクリート内壁面等のように長距離に亘って検査を必要とする場合であっても、剥離の位置又は鉄筋や鉄骨等の金属体の腐食状態等について移動しつつ連続的に検査が行え、検査時間の短縮を図ることができるコンクリート構造物の非破壊検査装置及びコンクリート構造物の非破壊検査方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を渦電流により加熱する誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに高周波交流電流を供給するインバータ装置とを有する加熱機と、前記コンクリート構造物の表面温度分布を測定する赤外線カメラ等の測定器により測定された表面温度分布を画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知できるサーモグラフィ装置と、前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物に沿って移動させるコイル用移動台車と、前記測定器を前記コンクリート構造物に沿って移動させる測定器用移動台車とを備え、前記測定器用台車は、前記コイル用移動台車を常に一定時間遅れて追尾するように制御されているコンクリート構造物の非破壊検査装置であることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成に加え、前記測定器用移動台車の後端部に、前記コンクリート構造物表面の任意の位置にマーキング可能なマーキング手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成に加え、コイル用移動台車及び測定器用移動台車を一台の移動台車で兼用し、該移動台車の前端部に誘導加熱コイルを支持させ、後端部に測定器を設置したことを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を渦電流により加熱する誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに高周波交流電流を供給するインバータ装置と、前記コンクリート構造物の表面温度分布を測定する赤外線カメラ等の測定器と、該測定器により測定された表面温度分布を画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知できるサーモグラフィ装置と、前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物に沿って移動させるコイル用移動台車と、前記測定器を前記コンクリート構造物に沿って移動させる測定器用移動台車とを備えた装置を使用し、前記金属体を加熱しながら前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物の一端側より他端側へ向けて移動させるとともに、該誘導加熱コイルをそれより一定時間遅れて前記測定器に追尾させ、前記誘導加熱コイルで加熱した位置における一定時間経過後の表面温度分布を測定し、それを画像化する作業を前記コンクリート構造物の一端側より他端側まで繰り返し、各位置における前記表面温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知するコンクリート構造物の非破壊検査方法であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4の構成に加え、かぶりコンクリート厚及び加熱温度に基づいて前記測定器が誘導加熱コイルを追尾する際の間隔時間を決定することを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項4の構成に加え、移動台車の移動時間毎に前記測定器により測定されたコンクリート構造物表面部の温度分布画像を複数の分割画像に分割し、各移動時間の対応する分割画像を並べて合成することにより加熱後時間毎のコンクリート構造物表面部の温度分布画像を形成し、該温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知することを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項4又は5の構成に加え、コンクリート構造物の認識した欠陥部分にマーキングを施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査装置は、コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を渦電流により加熱する誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに高周波交流電流を供給するインバータ装置とを有する加熱機と、前記コンクリート構造物の表面温度分布を測定する赤外線カメラ等の測定器により測定された表面温度分布を画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知できるサーモグラフィ装置と、前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物に沿って移動させるコイル用移動台車と、前記測定器を前記コンクリート構造物に沿って移動させる測定器用移動台車とを備え、前記測定器用台車は、前記コイル用移動台車を常に一定時間遅れて追尾するように制御されていることにより、トンネルの内壁等のように長く連続する検査対象を連続的に検査することができる。
【0021】
前記測定器用移動台車の後端部に、前記コンクリート構造物表面の任意の位置にマーキング可能なマーキング手段を備えたことにより、欠陥部を好適に可視化できる。
【0022】
コイル用移動台車及び測定器用移動台車を一台の移動台車で兼用し、該移動台車の前端部に誘導加熱コイルを支持させ、後端部に測定器を設置したことにより、制御が簡便となる。
【0023】
本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を渦電流により加熱する誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに高周波交流電流を供給するインバータ装置と、前記コンクリート構造物の表面温度分布を測定する赤外線カメラ等の測定器と、該測定器により測定された表面温度分布を画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知できるサーモグラフィ装置と、前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物に沿って移動させるコイル用移動台車と、前記測定器を前記コンクリート構造物に沿って移動させる測定器用移動台車とを備えた装置を使用し、前記金属体を加熱しながら前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物の一端側より他端側へ向けて移動させるとともに、該誘導加熱コイルをそれより一定時間遅れて前記測定器に追尾させ、前記誘導加熱コイルで加熱した位置における一定時間経過後の表面温度分布を測定し、それを画像化する作業を前記コンクリート構造物の一端側より他端側まで繰り返し、各位置における前記表面温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知することにより、トンネルの内壁等の長く連続する検査対象を好適に検査することができる。
【0024】
かぶりコンクリート厚及び加熱温度に基づいて前記測定器が誘導加熱コイルを追尾する際の間隔時間を決定することにより、健全か否かの判断を明確に行うことができる。
【0025】
移動台車の移動時間毎に前記測定器により測定されたコンクリート構造物表面部の温度分布画像を複数の分割画像に分割し、各移動時間の対応する分割画像を並べて合成することにより加熱後時間毎のコンクリート構造物表面部の温度分布画像を形成し、該温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知することにより、広い範囲を連続的に検査することができる。
【0026】
コンクリート構造物の認識した欠陥部分にマーキングを施すことにより、コンクリート構造物の欠陥部分を可視化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査装置について説明する。
【0028】
図1は、本発明に係る非破壊検査装置の一例を示し、図中符号10はコンクリート構造物である。
【0029】
コンクリート構造物10は、RC構造やSRC構造等の構造を有し、複数の鉄筋や鉄骨等の金属体12,12…が縦横に間隔をおいて配置され、トンネル内壁のように長く連続した検査対象部分を有する。
【0030】
この非破壊検査装置は、コンクリート内部の金属体12,12…を加熱する誘導加熱機と、サーモグラフィ装置とを備え、金属体12を加熱することによりコンクリート構造物10を加熱し、該加熱されたコンクリート構造物10の表面部の温度分布を測定し、それを画像化することにより視覚的にコンクリート構造物10の状態、即ち、金属体12の腐食状態、かぶりコンクリートの浮き・剥離の状態等を検知できるようになっている。
【0031】
また、この非破壊検査装置は、コンピュータからなる制御演算部13を備え、この制御演算部13により装置全体を制御するようになっている。
【0032】
加熱機は、誘導加熱コイル16と、インバータ装置17とを有し、インバータ装置17より高周波交流電流を供給して誘導加熱コイル16に通電させることにより、鉄筋等の金属体12に渦電流を生じさせ、それにより金属体12を発熱させるようになっている。
【0033】
この加熱機、即ち誘導加熱コイル16とインバータ装置17とは、コイル用移動台車18に搭載され、誘導加熱コイル16はコンクリート構造物10の表面部に沿って移動できるようになっている。
【0034】
誘導加熱コイル16は、銅管等の導電性部材が互いに平行に配置された部分(平行部分)を有する形状となるように、導電性部材を矩形状に巻いて形成され、長手方向を縦向きにしてコンクリート構造物10の表面部に面するように固定手段19によりコイル用移動台車18に支持されている。
【0035】
このように誘導加熱コイル16が平行部分を有することによって、金属体12,12…に対し誘導加熱コイル16を横向きに配置し、複数の金属体12,12…に亘って加熱する場合、円形や楕円形状のように各位置でコイル幅が異なるコイルと異なり、平行部分においてはコイル幅や巻数等がどの位置でも同じであるので、各金属体12,12を均等に加熱することができ、加熱むらを無くすことができる。
【0036】
また、金属体12に対し誘導加熱コイル16を縦向きに配置した場合においても、平行部分に係る部分を均等に加熱することができる。
【0037】
インバータ装置17は、商用電源を変換し、誘導加熱コイル16に高周波交流電流を出力する。
【0038】
このインバータ装置17は、制御演算部13に対し有線又は無線により制御されるようになっており、制御演算部13により交流電流の周波数及び電流の出力が制御されるとともに、周波数及び電流値を制御演算部13にフィードバックするようになっている。
【0039】
尚、このインバータ装置17を構成する回路に含まれるコンデンサ及び抵抗と、誘導加熱コイル16とによってRLC共振回路が形成されている。
【0040】
サーモグラフィ装置は、赤外線カメラ等の測定器22を備え、制御演算部13が画像処理部として機能し、コンクリート構造物10表面部の温度分布を画像表示するようになっている。
【0041】
制御演算部13は、測定器22より出力された電気信号に各種の信号処理を施し、コンクリート構造物10の表面温度をそれに対応する色で表示し、コンクリート構造物10表面部の温度分布を画像で表示させるようになっている。
【0042】
この測定器22と制御演算部13は、測定器用移動台車23に搭載され、赤外線カメラ等の測定器22がコンクリート構造物10の表面部に沿って移動できるようになっている。
【0043】
また、この測定器用移動台車23には、後端部にマーキング手段24が搭載され、サーモグラフィ装置により検知されたコンクリート構造物10の欠陥部をマーキングし、欠陥部を可視化できるようになっている。
【0044】
更に、この測定器用移動台車23は、制御演算部13によりコイル用移動台車18を一定時間遅れて追尾するように制御され、コイル用移動台車18と測定器用移動台車23とは、常に一定時間間隔をおいて移動するようになっている。
【0045】
この追尾間隔時間は、制御演算部13が既存データより検査対象であるコンクリート構造物における温度最大時刻を得て、それに基づいて決定するようになっている。即ち、加熱機により加熱した位置を温度最大時刻の数分前に測定器22により測定するように追尾間隔時間を決定するようになっている。
【0046】
尚、コンクリート構造物の温度最大時刻は、かぶりコンクリート厚及びコイルへの負荷電力とコンクリート構造物の最大温度時刻に至るまでの時間との関係を示す既知のデータに基づいて決められている。
【0047】
また、コイル用移動台車18及び測定器用移動台車23には、温度計24及び車輪エンコーダ25を備え、温度計24より外気温等を測定し、車輪エンコーダ25により移動台車18,23の移動距離を測定するようになっている。
【0048】
このように構成された非破壊検査装置は、コイル用移動台車18により誘導加熱コイル16を移動させつつ、誘電加熱コイル16によりコンクリート構造物10内の鉄筋等の金属体12,12…を均等に加熱するとともに、測定器用移動台車23が、コイル用移動台車18より常に一定時間遅れてコイル用移動台車18を追尾するように制御され、どの位置であっても同一条件下でコンクリート構造物の表面温度分布を測定できるようになっている。
【0049】
よって、トンネル等のコンクリート内壁のように長く連続した範囲であっても、別々に測定された各温度分布画像を繋げることによりコンクリート構造物の状態を一体的に表示することができ、その画像を解析することによりコンクリート構造物10全体の状態、即ち、鉄筋等の金属体12の位置及び腐食状態、かぶりコンクリート部の浮き・剥離の有無及びその位置等を検知できるようになっている。
【0050】
次に上述の非破壊検査装置を使用したコンクリート構造物の非破壊検査方法について説明する。
【0051】
この非破壊検査方法は、誘導加熱コイル16と測定器22とを所定時間間隔をおいて移動させることにより、誘導加熱コイルで加熱した位置のコンクリート表面温度分布を加熱後所定時間後に測定し、そのコンクリート表面温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の浮きや剥離等の欠陥部分を判定するものであり、以下の手順により行う。
【0052】
まず、検査対象であるコンクリート構造物10の表面前部に、コイル用移動台車18を設置し、移動台車18に搭載したインバータ装置17より高周波交流電流を誘導加熱コイル16に供給し、金属体12,12…の加熱を開始する。
【0053】
この誘導加熱コイル16による金属体12,12…の加熱は、コイル用移動台車18を一定速度(4km/h程度)で移動させつつ、瞬時に一定の電力を供給し、その位置のかぶりコンクリート厚を算出する作業と、そのかぶりコンクリート厚に基づいて、一定時間高周波交流電流を誘導加熱コイル16に供給する作業とを繰り返すことにより行われる。尚、図2はその際のコイル出力の状態を示している。
【0054】
即ち、インバータ装置17出力を所定値に固定した状態で一瞬、高周波交流電流AC1を通電させ、その際に周波数を加熱に最も適した周波数、即ち共振周波数に同調させ、その共振周波数を測定し、制御演算部13にフィードバックする。
【0055】
また、それと同時にレーザーによる距離測定方式等を利用して誘導加熱コイル16とコンクリート表面との間の距離を測定し、そのデータを制御演算部13にフィードバックする。
【0056】
制御演算部13は、コイル−金属体間距離の変化と共振周波数が比例関係にあることを利用し、フィードバックされた共振周波数及びコイル−コンクリート間距離データに基づいて測定位置におけるかぶりコンクリート厚を算出する。
【0057】
そして、制御演算部13は、このかぶりコンクリート厚に応じてインバータ装置17を制御し、周波数を前述した共振周波数に固定するとともに、かぶりコンクリート厚に対応した所定の高周波交流電流AC2を一定時間出力させて誘導加熱コイル16に通電し、金属体12を初期の状態より20℃〜30℃上昇させるように加熱する。
【0058】
尚、出力する高周波交流電流AC2は、実験等により予め得られた、かぶり厚と所定の金属体12が一定温度に達するまでに必要な電力量との関係に基づいて決められている。
【0059】
このようにすることによって、かぶりコンクリート厚が大きい場合には、インバータ装置17の出力が大きく、かぶりコンクリート厚が小さい場合には、インバータ装置17の出力が小さくなるように制御される。
【0060】
従って、このような作業をコンクリート構造物10の一端から他端まで、移動する毎に繰り返すことによって、どの位置においても金属体12を同じ温度に加熱することができ、金属体12全体を均等に加熱することができる。
【0061】
一方、コイル用移動台車18が発進してから一定時間(5〜10分)が経過した後、測定器用移動台車23の移動を開始し、コンクリート構造物各位置における表面温度分布の測定を開始する。
【0062】
そして、測定器用移動台車23は、コイル用移動台車18を常に一定時間遅れて追尾させ、測定器22は、各位置における加熱後一定時間を経過した状態の表面温度分布を計測する。
【0063】
尚、追尾間隔時間は、予め検査対象であるコンクリート構造物における温度最大時刻を算定し、それに基づいて決定する。即ち、加熱機により加熱した位置を温度最大時刻の数分前に測定器22により測定するように追尾間隔時間を決定する。
【0064】
この各位置における表面温度分布を画像化(図3)し、それを画像処理することによって、各位置におけるコンクリート構造物の状態、即ち、浮き、剥離又は金属体腐食等の欠陥部を検知する。
【0065】
そして、欠陥位置と判定された部分には、マーキング手段24によりマーキングがされる。
【0066】
このような一連の作業をコンクリート構造物の一端から他端まで順次繰り返し、それによりトンネルの内壁面等の長く連続する検査対象であっても連続して検査を行うことができる。
【0067】
以上で検査が完了する。
【0068】
次に、本発明に係る非破壊検査装置の他の実施例について説明する。尚、上述の実施例と同一の部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0069】
図4は、本発明に係る非破壊検査装置の第2実施形態の概略を示し、図中符号10はコンクリート構造物である。
【0070】
コンクリート構造物10は、上述の実施例と同様に、RC構造やSRC構造等の構造を有し、複数の鉄筋等の金属体12,12が縦横に間隔をおいて配置されている。
【0071】
この非破壊検査装置は、コイル用移動台車と測定器用移動台車を兼ねる移動台車31を有し、この移動台車31に誘導加熱機、サーモグラフィ装置及び制御演算部13(コンピュータ)が搭載されている。
【0072】
また、この非破壊検査装置には、マーキング手段33も搭載されている。
【0073】
また、移動台車31には、温度計35及び車輪エンコーダ36を備え、温度計35より外気温等を測定し、車輪エンコーダ36により移動台車31の移動距離を測定するようになっている。
【0074】
誘導加熱機は、誘導加熱コイル16と、誘導加熱コイル16に高周波交流電流を供給するインバータ装置17とを備え、インバータ装置17は、制御演算部13により出力、即ち周波数及び電流出力が制御されるようになっている。
【0075】
誘導加熱コイル16は、上述の実施例と同様に銅管等の導電性部材が互いに平行に配置された部分を有する形状に形成され、支持体37を介して移動台車31の前方部に縦向きに支持されている。
【0076】
一方、インバータ装置17は、制御演算部13を構成するコンピュータと共に移動台車31の荷台部31aに搭載されている。
【0077】
また、移動台車31の荷台部31aには、その略中央部分にサーモグラフィ装置の赤外線カメラ22が設置され、この赤外線カメラ22は、図中一点鎖線で示す範囲(横幅約4m)fで撮像できるようになっている。尚、誘導加熱コイル16と上述の範囲との間の距離は約6mとなっている。
【0078】
マーキング手段33は、支持柱39に上下に移動可能に支持されたマーキング用スプレーをもって構成されている。このマーキング手段33は、制御演算部13によって上下移動及びスプレー液吐出量を制御し、検査装置により検出された欠陥部にスプレーでマーキング40,40…をするようになっている。
【0079】
このように構成された非破壊検査装置は、一定速度で誘導加熱コイル16を移動させつつ、インバータ出力、周波数を制御することにより、コンクリート構造物10内の鉄筋等の金属体12を均一に加熱することができる。
【0080】
また、コンクリート構造物10の表面温度分布を画像処理により視覚的に表示することができ、その画像を熱伝導解析することによりコンクリート構造物10の状態、即ち、鉄筋等の金属体12の位置及び腐食状態、かぶりコンクリート部の浮き・剥離の有無及びその位置等を検知できるようになっている。
【0081】
更には、マーキング手段33によりコンクリート構造物10の表面に欠陥部分を表示することができるようになっている。
【0082】
次にこの非破壊検査装置を使用した非破壊検査方法について説明する。
【0083】
この非破壊検査方法は、誘導加熱コイル16と測定器22とを所定の間隔をおいて搭載した移動台車31を移動させることにより、誘導加熱コイル16で加熱した位置のコンクリート表面温度分布を加熱後所定時間後に測定し、そのコンクリート表面温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の浮きや剥離等の欠陥部分を判定するものであり、以下の手順により行う。
【0084】
まず、移動台車31をコンクリート構造物10の一端側(初期位置)に配置する。
【0085】
次に、誘導加熱コイル16にインバータ装置17より高周波交流電流を供給して誘導加熱により鉄筋等の金属体12を加熱しつつ、移動台車31を一定速度、例えば、0.6m/minでコンクリート構造物10表面に沿って移動させる。
【0086】
このとき、移動台車31の車輪部に設置された車輪エンコーダ36により移動距離を計測し、制御演算部13(コンピュータ)に出力する。
【0087】
また、制御演算部13は、瞬時にかぶりコンクリート厚を算出する作業と、それに基づいてインバータ装置出力及び周波数を制御して、鉄筋等の金属体12を加熱させる作業を行い、移動中にこの一連の作業を繰り返すことにより、金属体12全体を均一に加熱するようになっている。その際のコイル出力は、図2に示す場合と同様に出力されるようになっている。
【0088】
即ち、インバータ装置17の出力を所定値に固定したまま瞬間的に高周波交流電流AC1を出力し、周波数を加熱に最も適した周波数、即ち共振周波数に同調させ、その共振周波数を測定し、制御演算部13にフィードバックする。
【0089】
また、それと同時にレーザーによる距離測定方式等を利用して誘導加熱コイル16とコンクリート表面との間の距離を測定し、そのデータを制御演算部13にフィードバックする。
【0090】
制御演算部13は、コイル−金属体間距離と共振周波数とが比例関係にあることを利用し、フィードバックされた共振周波数及びコイル−コンクリート間距離データに基づいて測定位置におけるかぶりコンクリート厚を算出する。
【0091】
そして、制御演算部13は、このかぶりコンクリート厚に応じてインバータ装置17を制御し、周波数を前述した共振周波数に固定するとともに、かぶりコンクリート厚に対応した所定の高周波交流電流AC2を一定時間出力させて誘導加熱コイル16に通電し、金属体12を初期の状態より20℃〜30℃上昇させるように加熱する。
【0092】
尚、出力する高周波交流電流は、実験等により予め得られた、かぶり厚と所定の金属体12が一定温度に達するまでに必要な電力量との関係に基づいて決められている。
【0093】
このようにすることによって、かぶりコンクリート厚が大きい場合には、インバータ装置17の出力が小さく、かぶりコンクリート厚が小さい場合には、インバータ装置17の出力が大きくなるように制御される。
【0094】
このような作業をコンクリート構造物10の一端から他端まで移動毎に繰り返す。
【0095】
一方、移動開始から約10分後に赤外線カメラ22の位置が加熱位置に到達し、赤外線カメラ22によるコンクリート構造物10表面から放射される赤外線の測定を開始し、移動台車31が1m移動する毎に赤外線カメラ22による測定(撮像)を行う。
【0096】
また、赤外線カメラ22による撮影と平行してコンクリート構造物10の表面温度変化を測定し、温度ピーク時刻を算定する。
【0097】
測定された表面温度分布画像データf1,f2…は、図5に示すように、所定の間隔(1m毎)に4分割し、それぞれ分割画像a〜分割画像dとし、以下のように処理を行う。
【0098】
まず、移動台車移動開始10分後以降各時間における各位置のコンクリート構造物10表面を赤外線カメラ22により撮影すると、撮影箇所が1m毎にずれた画像f1,f2…が撮影される。一方、誘導加熱コイル16と赤外線カメラ22との間の距離は一定であるので、分割画像aの部分は常に加熱10分後の温度状態、同様に分割画像bの部分は加熱11分後の温度状態、分割画像cの部分には加熱12分後の温度状態、分割画像dの部分には加熱13分後の温度状態がそれぞれ撮影される。
【0099】
従って、誘導加熱コイル通過10分後〜13分後位置における分割画像a1〜a3を合成すると、位置xにおける加熱10分後のコンクリート構造物表面部の温度分布画像ga1が作成される。
【0100】
同様に、分割画像b2〜b4、分割画像c3〜c5及び分割画像d4〜d6を合成することにより、それぞれ加熱11分後、12分後、13分後の位置xにおける表面温度分布画像gb1、gc1、gd1が作成される。
【0101】
そして、加熱10分後の温度分布画像及び加熱13分後(温度ピーク時)の温度分布画像を画像処理することによって、コンクリート構造物10の状態を検査する。
【0102】
この画像処理に基づき位置xにおけるコンクリート構造物10の欠陥箇所、即ち、金属体12の腐食部、コンクリートの浮き・剥離等の位置が検出され、その位置を移動台車31後端に設置されたマーキング手段33によりマーキング40をする。
【0103】
これにより位置xにおける検査が終了する。
【0104】
次に、移動台車31を移動させつつ各時間における各位置のコンクリート構造物表面を赤外線カメラ22により撮影し、上述した作業と同一の作業を繰り返すことによって、位置yにおける加熱10分後〜加熱13分後の温度分布画像ga2〜gd2が得られる。このとき、位置yにおける温度分布画像の分割画像a4が位置xにおける温度分布画像の分割画像a3と連続するので、位置xのおける温度分布画像と位置yにおける温度分布画像とが切れ目無く繋がる。
【0105】
この位置yにおいて上述の実施例と同様にコンクリート構造物10の状態を検査する。
【0106】
以上の作業を繰り返すことにより、検査範囲の広いコンクリート構造物10を連続して検査することができる。
【0107】
尚、上述の実施例では、誘導加熱コイル16から赤外線カメラ22の撮像範囲fまでの距離を6mとし、撮像範囲fの横幅を4mとした例について説明したが、この数値は、それぞれ6m又は4mに拘泥されず、任意の値であってよい。
【0108】
更に、上述の実施例では、金属体加熱時にインバータ装置の電流出力及び周波数、又は電流周波数及びコイル移動速度を調整する方法について説明したが、周波数及び電流出力を一定としコイル移動速度のみを調整するようにしてもよく、電流出力及びコイル移動速度を一定とし周波数のみを調整するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明に係る非破壊検査装置を示す概略図である。
【図2】インバータ装置出力と時間との関係を示すグラフである。
【図3】温度ピーク時刻の数分前における表面温度分布画像である。
【図4】本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査装置の他の実施形態の概略を示すブロック図である。
【図5】画像処理方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0110】
10 コンクリート構造物
11 非破壊検査装置
12 金属体
13 制御演算部
16 誘導加熱コイル
17 インバータ装置
18 コイル用移動台車
19 固定手段
22 測定器
23 測定器用移動台車
24 マーキング手段
31 移動台車
31a 荷台部
33 マーキング手段
35 温度計
36 車輪エンコーダ
37 支持体
38 誘導検査コイル
39 支持柱
40 マーキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を渦電流により加熱する誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに高周波交流電流を供給するインバータ装置とを有する加熱機と、
前記コンクリート構造物の表面温度分布を測定する赤外線カメラ等の測定器により測定された表面温度分布を画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知できるサーモグラフィ装置と、
前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物に沿って移動させるコイル用移動台車と、前記測定器を前記コンクリート構造物に沿って移動させる測定器用移動台車とを備え、
前記測定器用台車は、前記コイル用移動台車を常に一定時間遅れて追尾するように制御されていることを特徴としてなるコンクリート構造物の非破壊検査装置。
【請求項2】
前記測定器用移動台車の後端部に、前記コンクリート構造物表面の任意の位置にマーキング可能なマーキング手段を備えた請求項1に記載のコンクリート構造物の非破壊検査装置。
【請求項3】
コイル用移動台車及び測定器用移動台車を一台の移動台車で兼用し、該移動台車の前端部に誘導加熱コイルを支持させ、後端部に測定器を設置した請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の非破壊検査装置。
【請求項4】
コンクリート構造物内の鉄筋や鉄骨等の金属体を渦電流により加熱する誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに高周波交流電流を供給するインバータ装置と、前記コンクリート構造物の表面温度分布を測定する赤外線カメラ等の測定器と、該測定器により測定された表面温度分布を画像化することにより前記コンクリート構造物の状態を検知できるサーモグラフィ装置と、前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物に沿って移動させるコイル用移動台車と、前記測定器を前記コンクリート構造物に沿って移動させる測定器用移動台車とを備えた装置を使用し、
前記金属体を加熱しながら前記誘導加熱コイルを前記コンクリート構造物の一端側より他端側へ向けて移動させるとともに、該誘導加熱コイルをそれより一定時間遅れて前記測定器に追尾させ、前記誘導加熱コイルで加熱した位置における一定時間経過後の表面温度分布を測定し、それを画像化する作業を前記コンクリート構造物の一端側より他端側まで繰り返し、各位置における前記表面温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知することを特徴としてなるコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項5】
かぶりコンクリート厚及びコイル負荷電力に基づいて前記測定器が誘導加熱コイルを追尾する際の間隔時間を決定する請求項4に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項6】
移動台車の移動時間毎に前記測定器により測定されたコンクリート構造物表面部の温度分布画像を複数の分割画像に分割し、各移動時間の対応する分割画像を並べて合成することにより加熱後時間毎のコンクリート構造物表面部の温度分布画像を形成し、該温度分布画像に基づいてコンクリート構造物の状態を検知する請求項4に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項7】
コンクリート構造物の認識した欠陥部分にマーキングを施す請求項4又は5に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−337232(P2006−337232A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163614(P2005−163614)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(501424031)
【Fターム(参考)】