説明

コンクリート構造用鋼材

【課題】コンクリートとの接触面における耐食性に優れたコンクリート構造用鋼材を提供する。
【解決手段】コンクリート構造用鋼材を、少なくともコンクリートと接する面に、Mg:2〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn−Al−Mg−Si合金めっき層を有し、該Zn−Al−Mg−Si合金めっき層がAl/Zn/MgZn2の三元共晶組織の素地中にMg2Si相とAl相が混在した金属組織を有し、かつ、Al相の中にZn−Mg系金間化合物としてMgZn2を含有するものとするとともに、必要に応じてさらにZn−Al−Mg−Si合金めっき相の下層にNiめっき層を設けるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐コンクリート腐食性に優れた鋼材に関する。さらに詳しくは、コンクリート中に鉄筋やガードレールとして埋め込まれたり、コンクリートの周囲を補強体として囲んだりして、長期耐久性に優れたコンクリート構造体を形成するのに適したコンクリート構造用鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは優れた構造体であり、古くから様々な構造物に使用されている。しかし、コンクリートそのものは強度的に不十分であるため、内部に鉄筋を埋め込んだ鉄筋コンクリートの形や、コンクリートの周囲をH型鋼のような鋼材で補強した形で使用されるのが一般的である。従って、コンクリート中の鉄筋やコンクリートの周囲を囲むH型鋼等の補強材の耐食性はコンクリート構造物の長期耐久性を支配する重要な因子である。
【0003】
鉄がコンクリートに埋設されたり、接触した状態におかれた場合、通常はコンクリートのpHが12.5程度の強アルカリに保持されているため、接触面で鉄は不動態化し、鉄の腐食は抑制されている。しかし、コンクリートが中性化した場合やコンクリート中に塩化物イオンが進入した場合には、鉄に腐食が起こり、鉄とコンクリートからなる構造体の破壊が起きやすくなる。
【0004】
以上述べたような、コンクリートとの接触部での鉄の腐食の問題を解決するために、各種めっきを鉄に施す方法が提案されている。古くから検討されているのは、亜鉛めっきによる鉄筋の防食である。この亜鉛めっきにより、中性化したコンクリート中での耐食性はある程度保持されるが、亜鉛めっきでは、コンクリートの強アルカリ性条件で溶解する問題や塩化物イオンの存在化で耐食性が低下する問題がある。
【0005】
このような問題に対して、亜鉛にアルミニウムを5質量%又は55質量%添加した亜鉛−アルミニウム合金めっきも検討されている。しかし、亜鉛−アルミニウム合金めっきは、塩化物イオンの存在下での耐食性には優れるものの、アルミニウムが亜鉛よりもアルカリ性条件で溶解しやすいため、長期の耐久性の面では不十分である。
【0006】
以上述べためっき以外にも様々な合金めっきが検討されてきている。
例えば、特許文献1では、Niを主原料とした各種Ni合金めっき鋼材が耐塩性鉄筋コンクリート用鋼材として提案されている。このNi合金めっき鋼材は幅広いpH領域で鉄筋よりコンクリート中での耐食性に優れている。しかし、Niは鉄より電位的に貴な金属であるため、鉄に対する犠牲防食能力を持っていない。従って、何らかの原因でNi合金めっきにキズが入り、下地の鉄が露出した場合には鉄の腐食が促進されるという問題がある。
【0007】
特許文献2では、フラックスを工夫した鉛めっき鋼材がコンクリート構造用鋼材として提案されている。この鉛めっき処理によりコンクリート構造用鋼材の耐食性は向上する。しかし、先に述べたNi合金めっき鋼材の場合と同じく、鉛が鉄より電位的に貴な金属であるため、鉄に対する犠牲防食能力を持っていない。従って、何らかの原因で鉛めっきにキズが入り、下地の鉄が露出した場合には鉄の腐食が促進されるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−153287号公報
【特許文献2】特開平5−78805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在までに様々な防食方法が検討されてきているが、コンクリート中又はコンクリートと接触する環境で、十分な長期耐食性を有する鋼材は未だ提案されていない。本発明は、以上述べた欠点を解決し、幅広いpH範囲で安定で、鉄に対する犠牲防食能力を有し、塩化物イオンに対しても優れた耐食性を有するコンクリート用鋼材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決し、優れた耐食性を有するコンクリート構造用鋼材を開発するために、様々なめっきとコンクリートとの接触腐食試験を行った。特に種々のpHの塩化物イオンを含む水溶液に対するめっきの耐食性と腐食挙動を詳細に検討した。
その結果、亜鉛を主成分とする亜鉛系合金めっきを使用して下地の鉄に対する犠牲防食能力を担保し、添加剤として従来からのAlのほかにさらにMgとSiを加えることにより、幅広いpH領域で、塩化物イオンの存在環境下でも、耐食性に優れるコンクリート構造用鋼材を開発し、本発明を完成させた。
【0011】
そのような本発明の趣旨とするところは以下のとおりである。
(1)少なくともコンクリートと接する面に、Mg:2〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn−Al−Mg−Si合金めっき層を有し、該Zn−Al−Mg−Si合金めっき層がAl/Zn/MgZn2の三元共晶組織の素地中にMg2Si相とAl相が混在した金属組織を有し、かつ、Al相の中にZn−Mg系金間化合物を含有することを特徴とするコンクリート構造用鋼材。
(2)前記Zn−Mg系金属間化合物がMgZn2である(1)記載のコンクリート構造用鋼材。
(3)前記Zn−Al−Mg−Si合金めっき層の下層にNiめっき層を0.2〜2.0g/m2有する(1)又は(2)に記載のコンクリート構造用鋼材。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンクリート構造用鋼材は、コンクリート中又はコンクリートと接触する環境で十分な長期耐久性を有するものであり、コンクリート中の鉄筋やコンクリートの周囲を補強体として囲んだりする用途に好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
従来のZn−Al合金めっき層を形成した鋼材では、コンクリートの腐食環境、すなわち、pHが高く塩化物イオンが存在する腐食環境において、めっきの腐食生成物としてコンクリートとめっきの界面に、塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウム等が形成される。
【0014】
これらの腐食生成物は保護性の高い腐食生成物であり、めっき層のさらなる腐食を抑制する効果を有するが、コンクリートの高アルカリ条件では、容易に溶解して安定に存在することができず、かつ、コンクリートとの密着性が低くコンクリートと腐食生成物の間に隙間を生じ、腐食因子の進入を許すという問題があるため、Zn−Al合金めっきでは、これらの腐食生成物を十分に利用することができず、コンクリート鋼材としては、前述のように十分なものではなかった。
【0015】
本発明者は、これらの腐食生成物を長期間安定に保持することができれば、コンクリート構造物を長期間にわたり安定に保持することができると考えた。
そこで種々検討した結果、めっき合金にさらにMgとSiを添加し、めっき層中にMg2Si相とZn−Mg系金属間化合物が存在するようにすると、塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウムが長期間にわたり安定に保持され、なおかつコンクリートとの密着性にも優れることを新たに見出した。
【0016】
すなわち、Zn−Al−Mg−Si合金めっき層中にはAl/Zn/MgZn2の三元共晶組織が存在するが、その三元共晶組織中のMg2Si相とAl相中のZn−Mg系金属間化合物とが耐食性の向上に寄与しており、特に、コンクリートとの密着性に優れるものとすることにより、コンクリートとめっき腐食生成物の界面からの腐食因子(高pHの水分、塩化物イオン)の進入を抑制し、耐食性の向上に大きく寄与することを見出したものである。
【0017】
以下本発明について順次説明する。
本発明のめっきを施す鋼材としては、Alキルド鋼、TiやNb等を添加した極低炭素鋼、及びこれらにP、Si、Mn等の強化元素を添加した高強度鋼、従来からコンクリート中に鉄筋やH型鋼等として埋設されてきた裸鋼材等が適用できる。
【0018】
本発明のZn−Al−Mg−Si合金めっきは、Mg:2〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.01〜2質量%を満たすものである。
【0019】
Mgの含有量を限定した理由は、Mgが2質量%未満ではAl相中にZn−Mg系金属間化合物を析出させることができず、耐食性を向上させる効果が不十分であるからであり、10質量%超ではめっき層が脆くなって密着性が低下して加工部耐食性が低下するためと、簡便な溶融めっき法で作製する場合にドロスの発生量が多くなり、操業性の面で問題があるためである。より好ましくは2〜5質量%である。
【0020】
Alの含有量を限定した理由は、Alが4質量%未満では初晶としてAl相が析出しないため、Zn−Mg系金属間化合物を析出することができず、耐食性を向上させる効果が不十分であるからであり、20質量%超ではアルカリ条件で耐食性を向上させる効果が認められなくなるばかりか、耐食性に劣るようになるからである。より好ましくは4〜15質量%である。
【0021】
Siの含有量を限定した理由は、Siが0.01質量%未満ではめっき中のAlと鋼板中のFeが反応しめっき層が脆くなって密着性が低下し、厳しい加工時にめっき剥離を起こすからであり、2質量%超では密着性を向上させる効果が飽和すると同時に、2質量%を超えてめっき浴中に溶解させるためには浴温をかなり高くする必要があり、工業的に成り立たないからである。より好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0022】
Zn−Al−Mg−Si合金めっきの付着量については、一般的には、使用される部分の要求寿命に基づいて適宜設定される。従って、付着量の制約は特に設けないが、耐食性の観点から10g/m2以上が好ましく、経済性の観点から1000g/m2以下が好ましい。Zn−Al−Mg−Si合金めっきは、一般的な溶融亜鉛めっき法や蒸着めっき法により作製することが可能である。
【0023】
本発明のコンクリートと接するZn−Al−Mg−Si合金めっき層は、Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織の素地中にMg2Si相とAl相が混在した金属組織を有し、かつ、Al相の中にZn−Mg系金間化合物を含有することを特徴とする。
【0024】
上記のような組成範囲のZn−Al−Mg−Si合金めっき層では、Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織の素地中にZn相、Al相、MgZn2相、Mg2Si相の1つ以上を含む金属組織ができる。Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織の素地中にMg2Si相が混在するとコンクリートとの接触面での耐食性が向上する。これは先に述べたように、Mg2Siが、アルカリ性の腐食環境において保護性の高い腐食生成物、塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウム等を安定に保持し、これら保護性の高い腐食生成物が腐食の進行を抑制するためと、腐食生成物とコンクリートとの密着力を強固なものとして、コンクリートと腐食生成物の界面からの腐食因子の進入を抑制するためと考えられる。
【0025】
同様にAl相の中にZn−Mg系金間化合物を含有させるとコンクリートとの接触面での耐食性が向上する。これもまた、Al相中のZn−Mg系金属間化合物が、アルカリ性の高い腐食環境において保護性の高い腐食生成物、塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウム等を安定に保持し、これらの保護性の高い腐食生成物が腐食の進行を抑制するためと、腐食生成物とコンクリートとの密着力を強固なものとして、コンクリートと腐食生成物の界面からの腐食因子の進入を抑制するためと考えられる。
【0026】
Al相中にはZn−Mg系金属間化合物としてMgZn2が形成される。この金属間化合物ができると、保護性の高い腐食生成物がより安定に形成され、コンクリートと腐食生成物の密着性も高まる。
【0027】
Zn−Al−Mg−Si合金めっき層の下層に、プレめっき層としてNiめっき層を設けることは下地鋼材との密着性を向上させ、さらに加工部耐食性を向上させるため好ましい。このNiプレめっき層は0.2〜2.0g/m2以下が好ましい。0.2g/m2未満ではNiめっきの効果が現れず、2.0g/m2を超えるとZn−Al−Mg−Si合金めっき層の密着性の向上効果がみられないばかりか、厳しい加工時にめっき剥離を生じる可能性が高くなる。Niめっき層を施すことにより密着性が向上する理由は、めっき層と地鉄界面に生成したNi−Al−Fe−Zn化合物層がバインダー効果を示すためと推定される。
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
めっき鋼材として、Mg量とAl量とSi量を変化させたZn−Al−Mg−Si合金めっき鋼板を作製した。板厚0.8mmの冷延鋼板を用意し、この冷延鋼板を浴温が400〜650℃で、浴中の添加元素量を変化させためっき浴で3秒間めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面60g/m2に調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。下層にNiプレめっきを施した試料も用意した。めっき鋼板の切断端面は塗装を施してシールした。めっき鋼板の詳細を表1に示す。なお、めっき層の残部はZn及び不可避的不純物である。また、Mg2Si相やAl相中のZn−Mg系金属間化合物は、作製しためっきサンプルを研磨後、SEMとEDXを使用して解析し、元素と組成を求め定性分析することにより、存在の有無を確認した。
【0030】
コンクリートはポルトランドセメント(プレユーロックス、小野田セメント(株)製)を用いた。腐食試験用のコンクリートとしては、ポルトランドセメントにCaCl2を10kg/m3の割合で添加して塩化物イオンを含有させて調整した。このようにして作製した腐食試験用コンクリートにめっき鋼板を埋め込み腐食試験を行った。
【0031】
腐食試験用のめっき鋼板としては、幅50mm×長さ100mm×厚さ0.8mmの平板と、該めっき鋼板を90°折り曲げ加工した曲げ加工板の2種類を用い、これらを直径70mm×高さ80mmのコンクリートの円柱に突き刺した状態で硬化させたものを腐食試験体とした。
【0032】
腐食試験としては屋外暴露試験を実施した。すなわち、千葉県富津市において屋外暴露試験を1年間実施した後、試験体を破壊し、コンクリート中のめっきの腐食状況を平板では平面部に着目し、曲げ加工板では加工部に着目し、目視で評価した。
【0033】
目視の評価は、腐食無し:5点、白錆30%以下で赤錆無し:4点、白錆30%超で赤錆無し:3点、赤錆1〜5%以下:2点、赤錆5%超:1点で表し、3点以上を合格とした。
【0034】
【表1】

【0035】
耐食性の評価結果を表1に示す。Zn−Al−Mg−Si合金めっき鋼板のめっき組成が本発明の範囲にあり、Zn−Al−Mg−Si合金めっき層がAl/Zn/MgZn2の三元共晶組織の素地中にMg2Si相とAl相が混在した金属組織を有し、かつ、Al相の中にZn−Mg系金間化合物を含有し、Zn−Mg系金属間化合物がMgZn2であるものが、平板と加工板のいずれにおいても優れた耐食性を示した。また、適正量のNiプレめっきは加工部の耐食性を向上させる効果があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともコンクリートと接する面に、Mg:2〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn−Al−Mg−Si合金めっき層を有し、該Zn−Al−Mg−Si合金めっき層がAl/Zn/MgZn2の三元共晶組織の素地中にMg2Si相とAl相が混在した金属組織を有し、かつ、Al相の中にZn−Mg系金間化合物を含有することを特徴とするコンクリート構造用鋼材。
【請求項2】
前記Zn−Mg系金属間化合物がMgZn2である請求項1記載のコンクリート構造用鋼材。
【請求項3】
前記Zn−Al−Mg−Si合金めっき層の下層にNiめっき層を0.2〜2.0g/m2有する請求項1又は2に記載のコンクリート構造用鋼材。

【公開番号】特開2008−75100(P2008−75100A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252528(P2006−252528)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】