説明

コンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法

【課題】構造が簡単で施工が容易かつ迅速にでき、しかも、低コストな補強筋により、コンクリート系建物の梁貫通孔の周囲に発生するひび割れやせん断強度低下等を効果的に抑制することができ、同時に、貫通孔の上下主筋の付着強度および座屈強度を向上させることができるコンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法を提供する。
【解決手段】「く」の字状に折り曲げ形成された一対の「く」の字筋を、貫通孔3を左右から挟む状態で、しかも、該「く」の字筋の中間折曲部が外方に位置するように向かい合わせ状態で配筋して、上記「く」の字筋の上下端部を梁主筋1に掛止せしめると共に、定着補助筋5の内端部により上記中間折曲部を掛止するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄筋コンクリート(RC)建物の梁を貫通する孔(以下、梁貫通孔という)部分は、ひび割れが生じ易く、また、せん断強度が低下する。
これらのひび割れやせん断強度低下等を防止するために、従来、図6に示すように、梁貫通孔Hの周囲に、孔際せん断補強筋Sと斜め補強筋Nを配筋したり、また、図7に示すように、梁貫通孔Hの周囲に、開孔補強金物Uを配筋していた。
【0003】
しかし、上記斜め補強筋Nを使用する場合には、配筋が複雑で施工性が悪いという問題点があり、また、上記開孔補強金物Uを使用する場合には、開孔補強金物Uが高価であってコストがかかるという問題点があった。
【0004】
さらに従来、特許第3272530号特許公報に開示されているように、中間部に外膨らみの曲折部35Kを有する半矩形状体32の2つの縦棒材35を、相互に向かいあわせた状態で貫通孔を挟むように配筋するものがあった。
【0005】
しかし、上記縦棒材35は、貫通孔の上下部を補強する補強筋であって、貫通孔周囲補強金物Dと併用してその死角部分を補強する目的で使用され、この縦棒材35の上下端部は梁主筋に緊結固定されるが、該縦棒材35だけで貫通孔部分の梁を補強することはできない等の問題点があった。
【特許文献1】特許第3272530号特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、構造が簡単で施工が容易かつ迅速にでき、しかも、低コストな補強筋により、コンクリート系建物の梁貫通孔の周囲に発生するひび割れやせん断強度低下等を効果的に抑制することができ、同時に、貫通孔の上下主筋の付着強度および座屈強度を向上させることができるコンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法は、「く」の字状に折り曲げ形成された一対の「く」の字筋を、貫通孔を左右から挟む状態で、しかも、該「く」の字筋の中間折曲部が外方に位置するように向かい合わせ状態で配筋して、上記「く」の字筋の上下端部を梁主筋に掛止せしめると共に、定着補助筋の内端部により上記中間折曲部を掛止することを特徴とする。また、上記一対の「く」の字筋の上下端部同士を、緊結筋により緊結することを特徴とする。さらに、上記一対の定着補助筋の内端部同士を、緊結筋により緊結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法は、下記のような利点がある。
1)施工性に優れた補強方法により、梁貫通孔の周りの梁の剛性、強度および変形性能を向上させることができる。
2)安価な補強筋を使用するため、施工コストも安い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の補強方法の第1実施例を説明する梁貫通孔部分の配筋図であって、1は梁主筋、2は孔際せん断補強筋、3は貫通孔である。他のせん断補強筋(肋筋)は図示していない。
【0011】
4は補強筋であって、「く」の字状に折り曲げられて梁の幅方向に平行に配置される一対の「く」の字筋4aと、該「く」の字筋4aの上下端を内側に折り曲げられて上記梁主筋1に掛止する上下端部4a′と、これら上下端部4a′同士を相互に一体的に緊結する緊結筋4bから構成される。2つの補強筋4、4は、上記貫通孔3を左右から挟む状態で、しかも、上記「く」の字筋4aの中間折曲部4a″が外方に位置するように向かい合わせ状態で、配筋される。
【0012】
5は定着補助筋であって、梁の長手方向に延びる2本の平行な定着筋5aと、該定着筋5aの内端から内側に折り曲げられて上記補強筋4の中間折曲部4a″に掛止する内端部5a′と、これら内端部5a′同士を相互に一体的に緊結する緊結筋5bから、全体として、「コ」の字状に構成される。
【0013】
一般に、貫通孔3の両側には孔際せん断補強筋2が配筋される場合が多いため、上記「く」の字筋4aが該孔際せん断補強筋2と交錯してしまう。これを避けるため、図2(A)で明らかにするように、上記「く」の字筋4aは、梁主筋1に掛止する上下端部4a′から中間折曲部4a″にかけて、該孔際せん断補強筋2の内側に絞るように予め加工しておくか、或いは、上記定着補助筋5により絞り状態を保持させておく。
【0014】
本第1実施例の梁貫通孔の補強筋4および定着補助筋5の施工方法としては、まず、補強筋4を従来の肋筋と同様に上下の梁主筋1に緊結し、該補強筋4の中間折曲部4a″に上記定着補助筋5の内端部5a′を掛け止める。上記補強筋4は、梁貫通孔3の周りに発生するひび割れの進展・拡大を防止し、梁耐力を確保する。また、該補強筋4は、梁貫通孔3の上下に位置する梁主筋1の付着および座屈の強度向上にも有効に機能する。さらに、上記定着補助筋5は、上記補強筋4に発生する張力を維持するために定着筋として機能する。
【実施例2】
【0015】
図3は、本発明の補強方法の第2実施例を説明する梁貫通孔部分の配筋図であって、梁主筋1、孔際剪断補強筋2および貫通孔3は、上記第1実施例と同じである。
【0016】
6は、「く」の字補強筋であって、上記第1実施例の「く」の字筋4aと基本的に同じ形状を有し、その上下端部6aはフック状に形成されていて、梁主筋1に掛止する。
7は定着補助筋であって、その内端部7aはフック状に形成されていて、上記「く」の字補強筋6の中間折曲部6bに掛止する。
【0017】
本第2実施例の定着補助筋7に代えて、上記第1実施例の定着補強筋5を配筋したり、また、上記第1実施例の定着補助筋5に代えて、本第2実施例の定着補強筋7を配筋することもできる。
【0018】
図4は、上記補強筋4(6)をダブルに配置した、更に別の実施例のモデル配筋図を示すものであり、その解析によるせん断力−変位の関係を図5に実線で示す。図5から明らかなように、図7に示す従来の補強方法(図5に破線で表示)と同程度に、本発明補強方法(図5に太実線で表示)でも十分な耐力が得られることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のコンクリート系建物の梁は、上記実施例の鉄筋コンクリート造(RC)梁だけでなく、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)梁の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の補強方法の第1実施例を説明する梁貫通孔部分の配筋図である。
【図2】図1の実施例の平面図(A)および正面図(B)である。
【図3】本発明の補強方法の第2実施例を説明する梁貫通孔部分の配筋図である。
【図4】本発明の更に別の実施例のモデル配筋図である。
【図5】図4のモデルの解析によるせん断力−変位の関係を示すグラフである。
【図6】従来の補強方法を示す配筋図である。
【図7】従来の別の補強方法を示す配筋図である。
【符号の説明】
【0021】
1 梁主筋
2 孔際せん断補強筋
3 貫通孔
4 補強筋
4a 「く」の字筋
4a′上下端部
4a″中間折曲部
4b 緊結筋
5 定着補助筋
5a 定着筋
5a′内端部
5b 緊結筋
6 「く」の字補強筋
6a 上下端部
6b 中間折曲部
7 定着補助筋
7a 内端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
「く」の字状に折り曲げ形成された一対の「く」の字筋を、貫通孔を左右から挟む状態で、しかも、該「く」の字筋の中間折曲部が外方に位置するように向かい合わせ状態で配筋して、上記「く」の字筋の上下端部を梁主筋に掛止せしめると共に、定着補助筋の内端部により上記中間折曲部を掛止することを特徴とするコンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法。
【請求項2】
上記一対の「く」の字筋の上下端部同士を、緊結筋により緊結することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法。
【請求項3】
上記一対の定着補助筋の内端部同士を、緊結筋により緊結することを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート系建物における梁貫通孔の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−161307(P2006−161307A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350784(P2004−350784)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【Fターム(参考)】