説明

コンバインのエンジンカバー除塵構造

【課題】冷却ファンをエンジン動力で駆動させるコンバインにおいても、簡単な構成でエンジンカバーの除塵を可能にする。
【解決手段】エンジンカバー14の吸気口を介してエンジンルーム7内に冷却風を吸入する冷却ファン10と、エンジン動力で冷却ファン10を駆動させる冷却ファン駆動機構11とを備え、冷却ファン10の逆転駆動にもとづいてエンジンカバー14の除塵を行うコンバイン1において、冷却ファン駆動機構11に遊星歯車機構15を設け、該遊星歯車機構15のリングギヤ15aにエンジン8のクランク軸8aと同一方向に回転する動力を伝動すると共に、遊星歯車機構15のサンギヤ15bに冷却ファン10を連動させ、遊星歯車機構15のキャリア15dの回転制御にもとづいて冷却ファン10を正逆転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却ファンの逆転駆動にもとづいてエンジンカバーの除塵を行うコンバインのエンジンカバー除塵構造に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却ファンの逆転駆動にもとづいてエンジンカバーの除塵を行うコンバインが提案されている。例えば、特許文献1には、電動機(ファンモータ)の逆転制御にもとづいて冷却ファンを逆転させることが示されている。しかしながら、このような冷却ファン逆転構造は、冷却ファンをエンジン動力で駆動させるコンバインには適用できないため、冷却ファンの駆動軸とエンジンの出力軸との間に、機械的な正逆転機構として遊星歯車機構を設けることも提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭56−62220号公報
【特許文献2】実開昭62−184136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に示されるものでは、遊星歯車機構のキャリアにエンジン動力を伝動すると共に、遊星歯車機構のサンギヤに冷却ファンを連動させ、遊星歯車機構のリングギヤをブレーキで選択的に制動するように構成されているので、冷却ファンを逆転させることは困難である。つまり、キャリアに正転動力が入力されている状態で、リングギヤが仮にキャリアと同回転で連れ回りしているとすると、サンギヤもキャリア及びリングギヤと同回転で回り、冷却ファンは正転駆動されるが、ここでブレーキをONしてリングギヤを停止しても、サンギヤは正転のまま増速されるので、冷却ファンを逆転させることはできない。
尚、特許文献2の構成であっても、リングギヤを増速すれば、冷却ファンを逆転させることが可能であるが、この場合、別途増速機構が必要になるので、コストアップを招来するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、エンジンカバーの吸気口を介してエンジンルーム内に冷却風を吸入する冷却ファンと、エンジン動力で冷却ファンを駆動させる冷却ファン駆動機構とを備え、冷却ファンの逆転駆動にもとづいてエンジンカバーの除塵を行うコンバインにおいて、前記冷却ファン駆動機構に遊星歯車機構を設け、該遊星歯車機構のリングギヤにエンジンのクランク軸と同一方向に回転する動力を伝動すると共に、遊星歯車機構のサンギヤに冷却ファンを連動させ、遊星歯車機構のキャリアの回転制御にもとづいて冷却ファンを正逆転させることを特徴とする。
また、前記キャリアは、冷却ファン正転時にエンジンのクランク軸と同一方向に回転され、冷却ファン逆転時に停止されることを特徴とする。
また、前記キャリアを回転及び停止させる制御は、ベルトテンションクラッチを用いて行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、遊星歯車機構のキャリアを減速又は停止させることにより、冷却ファンの逆転が可能になるので、冷却ファンをエンジン動力で駆動させるコンバインにおいても、簡単な構成でエンジンカバーの除塵を行うことができる。
また、請求項2の発明によれば、遊星歯車機構のキャリアを停止させることにより、冷却ファンを確実に逆転できる。しかも、キャリアの停止制御は、ブレーキ機構を用いて簡単に行うことができるので、キャリアの回転速度を細かくコントロールする場合に比べて、コストダウンが図れると共に、制御を簡略化することができる。
また、請求項3の発明によれば、簡単な構成のベルトテンションクラッチを用いてキャリアの回転及び停止制御を行うことにより、コストをさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】コンバインの右側面図である。
【図2】エンジンルーム内を示す正面図である。
【図3】冷却ファン駆動機構を示す動力伝動系統図である。
【図4】ベルトテンションクラッチの作動パターンを示す説明図である。
【図5】遊星歯車機構の作用を示すグラフである。
【図6】遊星歯車機構の作用を示す説明図である。
【図7】冷却ファン逆転制御の制御例を示すタイミングチャートである。
【図8】ベルトテンションクラッチの作用を示す説明図である。
【図9】冷却ファン駆動機構の第二実施形態を示す動力伝動系統図である。
【図10】冷却ファン駆動機構の第三実施形態を示す動力伝動系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はコンバインであって、該コンバイン1は、茎稈を刈り取る前処理部2と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀して選別する脱穀部(図示せず)と、選別した穀粒を貯留する穀粒タンク3と、脱穀済みの排稈を後処理する後処理部4と、オペレータが乗車する操縦部5と、クローラ式の走行部6とを備えて構成されている。
【0009】
操縦部5の後下方には、エンジンルーム7が形成されている。図2に示すように、エンジンルーム7には、クランク軸8aが左右を向くように機体フレーム9上に搭載されるエンジン8と、エンジン8の動力で冷却ファン10を駆動させる冷却ファン駆動機構11と、冷却ファン10の外側方に立設されるラジエータ12と、ラジエータ12の外側方に配置されるオイルクーラ13と、エンジンルーム7の外側面部を覆うエンジンカバー14とが設けられており、冷却ファン10は、その正転駆動により、エンジンカバー14の吸気口(図示せず)を介してエンジンルーム7内に冷却風を吸入するようになっている。
【0010】
本発明のコンバイン1は、冷却ファン10の逆転駆動にもとづいてエンジンカバー14の除塵を行う機能を備えている。この機能は、冷却ファン駆動機構11に設けられる遊星歯車機構15により実現されるようになっており、以下、遊星歯車機構15による冷却ファン10の正逆転制御について、図3〜図8を参照して説明する。
【0011】
図3及び図6に示すように、遊星歯車機構15は、内歯ギヤからなるリングギヤ15aと、外歯ギヤからなり、リングギヤ15aの中心部に配置されるサンギヤ15bと、外歯ギヤからなり、リングギヤ15a及びサンギヤ15bに噛み合う複数の遊星ギヤ15cと、遊星ギヤ15cを自転及び公転自在に支持するキャリア15dとを備えており、リングギヤ15a、サンギヤ15b及びキャリア15dは、いずれも同一の軸心を中心として回転するように構成されている。
【0012】
図3に示すように、遊星歯車機構15においては、リングギヤ15aにエンジン8と同一方向に回転する動力を伝動すると共に、サンギヤ15bに冷却ファン10を連動させる。そして、キャリア15dの回転を制御することにより、冷却ファン10を正逆転させるようになっている。つまり、遊星歯車機構15のキャリア15dを減速又は停止させることにより、冷却ファン10の逆転が可能になるので、冷却ファン10をエンジン動力で駆動させるコンバイン1においても、簡単な構成でエンジンカバー14の除塵を行うことができる。
【0013】
上記のような構成で冷却ファン10を正逆転させる場合、キャリア15dは、図4〜図6に示すように、冷却ファン正転時にエンジン8のクランク軸8aと同一方向に回転させ、冷却ファン逆転時に停止させることが好ましい。つまり、リングギヤ15a及びキャリア15dにエンジン8のクランク軸8aと同一方向の回転を伝動すると、遊星ギヤ15cの自転が抑えられるので、サンギヤ15bもエンジン8のクランク軸8aと同一方向に回転し、冷却ファン10を正転させる。ここで、キャリア15dを停止させると、公転が制限された遊星ギヤ15cは、リングギヤ15aの回転に応じて自転し、サンギヤ15bを高速で逆回転させる。これにより、冷却ファン10を逆転させ、エンジンカバー14の除塵を行うことができる。
【0014】
このようにすると、キャリア15dの停止により、冷却ファン10を確実に逆転させることができ、しかも、キャリア15dの停止制御は、ブレーキ機構を用いて簡単に行うことができるので、キャリア15dの回転速度を細かくコントロールする場合に比べて、コストダウンが図れると共に、制御を簡略化することができる。
【0015】
さらに、冷却ファン正転時には、キャリア15dにリングギヤ15aと同一回転の動力を伝動することが好ましい。つまり、キャリア15dにリングギヤ15aと同一回転の動力を伝動すると、遊星ギヤ15cの自転を停止させることができるので、遊星歯車機構15の耐久性を向上させることができると共に、騒音の発生も抑えることができる。
【0016】
また、冷却ファン正転時にリングギヤ15a及びキャリア15dに同一回転の動力を伝動する場合は、リングギヤ15a及びキャリア15dに対し、エンジン8のクランク軸8aからベルト伝動機構16、17を介して同一回転の動力を伝動することが好ましい。このようにすると、エンジン動力のみで冷却ファン10の正逆転を実現することが可能となる。
【0017】
また、リングギヤ15aにエンジン動力を伝動するベルト伝動機構16は、ウォータポンプ18(冷却水循環用ポンプ)及びオルタネータ19(交流発電機)にエンジン動力を伝動するベルト伝動機構と兼用することが好ましい。このようにすると、ベルトラインの増加を回避し、コストを抑制することができる。
【0018】
また、リングギヤ15aのベルトラインと、ウォータポンプ18及びオルタネータ19のベルトラインを兼用する場合は、リングギヤ15aとウォータポンプ18の駆動軸を同一軸心とすることが好ましい。このようにすると、遊星歯車機構15をウォータポンプ18と同一軸心上にコンパクトに配置することができる。尚、リングギヤ15aとオルタネータ19の駆動軸を同一軸心としてもよい。
【0019】
図7及び図8に示すように、キャリア15dを回転及び停止させる制御は、ベルトテンションクラッチ21、22を用いて行うことが好ましい。このようにすると、簡単な構成のベルトテンションクラッチ21、22を用いてキャリア15dの回転及び停止制御を行うことにより、コストをさらに低減することができる。
【0020】
本実施形態の冷却ファン駆動機構11は、第一及び第二のベルトテンションクラッチ21、22を備え、両ベルトテンションクラッチ21、22を背反的にON/OFFすることにより、冷却ファン10の正逆転切り換えを行うようになっている。
【0021】
第一のベルトテンションクラッチ21は、キャリア15dに対するエンジン動力の伝動をON/OFFするためのもので、エンジン動力をキャリア15dに伝動するベルト伝動機構17にクラッチプーリ23を付設して構成される。具体的には、クランク軸8aに設けられるクランクプーリ17aと、キャリア15dに設けられるキャリアプーリ17bと、両プーリ17a、17bに懸回されるベルト17cとからなるベルト伝動機構17に、ベルト17cに対して進退自在なクラッチプーリ23を付設し、該クラッチプーリ23の進退操作により、ベルト17cを張り状態と弛み状態とに切換えるように構成されている。
【0022】
第二のベルトテンションクラッチ22は、キャリア15dに対する制動力の伝動をON/OFFするためのもので、機体側に固定される固定プーリ22aと、キャリア15dに設けられるキャリアプーリ22bと、両プーリ22a、22bに懸回されるベルト22cと、ベルト22cに対して進退自在なクラッチプーリ23とを備え、該クラッチプーリ23の進退操作により、ベルト22cを張り状態と弛み状態とに切換えるように構成されている。
【0023】
第一及び第二のベルトテンションクラッチ21、22を上記のように構成する場合は、両ベルトテンションクラッチ21、22のクラッチプーリ23を兼用化することが好ましい。例えば、クラッチプーリ23を幅広とし、各ベルトテンションクラッチ21、22のベルト17c、22cに選択的に当接させる。このようにすると、部品点数を削減してコストをさらに低減できるだけでなく、両ベルトテンションクラッチ21、22が同時にONになるといった不都合も防止することができる。
【0024】
クラッチプーリ23は、手動で切り換え操作することも可能であるが、電動モータの駆動力で切り換えることが好ましい。このようにすると、上記の電動モータをマイコンなどで制御することにより、冷却ファン10を所定のタイミングで自動的に逆転駆動し、エンジンカバー14の除塵を行うことができる。例えば、図7に示すように、作業機クラッチ(脱穀クラッチ)がONした後、T時間毎にt時間だけ冷却ファン10を自動的に逆転駆動させる。尚、図8のように第一及び第二ベルトテンションクラッチ21、22のクラッチプーリ23を兼用化した場合は、クラッチプーリ23を正転側にスプリングで付勢し、電動モータでスプリングに抗して逆転側にクラッチプーリ23を駆動することにより、冷却ファン10を逆転させることが可能になる。
【0025】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、エンジンカバー14の吸気口を介してエンジンルーム7内に冷却風を吸入する冷却ファン10と、エンジン動力で冷却ファン10を駆動させる冷却ファン駆動機構11とを備え、冷却ファン10の逆転駆動にもとづいてエンジンカバー14の除塵を行うコンバイン1において、冷却ファン駆動機構11に遊星歯車機構15を設け、該遊星歯車機構15のリングギヤ15aにエンジン8のクランク軸8aと同一方向に回転する動力を伝動すると共に、遊星歯車機構15のサンギヤ15bに冷却ファン10を連動させ、遊星歯車機構15のキャリア15dの回転制御にもとづいて冷却ファン10を正逆転させるので、冷却ファン10をエンジン動力で駆動させるコンバイン1においても、簡単な構成でエンジンカバー14の除塵を行うことができる。
【0026】
また、キャリア15dは、冷却ファン正転時にエンジン8のクランク軸8aと同一方向に回転され、冷却ファン逆転時に停止されるので、キャリア15dの停止により冷却ファン10を確実に逆転させることができ、しかも、キャリア15dの停止制御は、ブレーキ機構を用いて簡単に行うことができるので、キャリア15dの回転速度を細かくコントロールする場合に比べて、コストダウンが図れると共に、制御を簡略化することができる。
【0027】
また、キャリア15dを回転及び停止させる制御は、簡単な構成のベルトテンションクラッチ21、22を用いて行われるので、コストをさらに低減することができる。
【0028】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、例えば、前記実施形態では、キャリア15dの制動をベルトテンションクラッチ22でON/OFFしているが、図9に示すように、爪クラッチ30を用いてキャリア15dの制動をON/OFFするようにしてもよい。また、ベルトテンションクラッチ22や爪クラッチ30に代えて電磁クラッチを用いてもよい。
【0029】
また、前記実施形態では、遊星歯車機構15をウォータポンプ18と同一軸心に配置しているが、図10に示すように、遊星歯車機構15及びベルトテンションクラッチ22を別置き可能なユニット31とし、任意の位置に配置できるようにしてもよい。
【0030】
また、前記実施形態では、冷却ファン10をウォータポンプ18と同一軸心に配置しているが、図10に示すように、エンジン8のクランク軸8aと同軸軸心に配置してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 コンバイン
7 エンジンルーム
8 エンジン
8a クランク軸
10 冷却ファン
11 冷却ファン駆動機構
14 エンジンカバー
15 遊星歯車機構
15a リングギヤ
15b サンギヤ
15d キャリア
16 ベルト伝動機構
17 ベルト伝動機構
21 ベルトテンションクラッチ
22 ベルトテンションクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンカバーの吸気口を介してエンジンルーム内に冷却風を吸入する冷却ファンと、エンジン動力で冷却ファンを駆動させる冷却ファン駆動機構とを備え、冷却ファンの逆転駆動にもとづいてエンジンカバーの除塵を行うコンバインにおいて、
前記冷却ファン駆動機構に遊星歯車機構を設け、該遊星歯車機構のリングギヤにエンジンのクランク軸と同一方向に回転する動力を伝動すると共に、遊星歯車機構のサンギヤに冷却ファンを連動させ、遊星歯車機構のキャリアの回転制御にもとづいて冷却ファンを正逆転させることを特徴とするコンバインのエンジンカバー除塵構造。
【請求項2】
前記キャリアは、冷却ファン正転時にエンジンのクランク軸と同一方向に回転され、冷却ファン逆転時に停止されることを特徴とする請求項1記載のコンバインのエンジンカバー除塵構造。
【請求項3】
前記キャリアを回転及び停止させる制御は、ベルトテンションクラッチを用いて行われることを特徴とする請求項1又は2記載のコンバインのエンジンカバー除塵構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−279308(P2010−279308A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136173(P2009−136173)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】