説明

コーティング装置及び方法

【課題】 市販の塗工液を用いて、様々な材質の基材に対し、塗工液層を数十〜数百ミクロンの範囲の厚みとした、任意の形状のパターンコーティングを行うこと。
【解決手段】 基材4のコーティング面4a側に設けたロール1と、コーティング面4aの裏面4b側に設けた版ロール2とを備え、コーティング面4aに塗工液5を供給しながらロール1と版ロール2の隙間から基材4と塗工液5を送り出し、塗工液層6を形成するコーティング装置Cである。版ロール2の周面に、未塗工領域6aの形状に対応した凸部2aを有する所要の凹凸パターン2bを形成した構成である。
【効果】 凸部2aに対応する部分には塗工液層6が形成されないので、任意の形状のパターンコーティングができる。塗工液5や基材4の種類は限定されない。塗工液層6の厚みは凸部2aの高さなどで調整でき、数十〜数百ミクロンの範囲とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば離型紙等のシート状の基材の表面に、高分子溶液を含有した粘着剤等の塗工液をコーティングし、基材の表面に塗工液層が形成された壁紙等の内装材、皮膚貼付剤などを製造するためのコーティング装置、及びその装置を用いたコーティング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、離型紙等の長尺の基材の表面に、粘着剤等の高粘度の塗工液を数十〜数百ミクロンの厚みでコーティングする場合、例えば図6に示すような、基材101のコーティング面側に設けたロール102と、コーティング面の裏面側に設けたロール103とで構成されるコーター104を備えたコーティング装置100が使用されていた。
【0003】
図6において、106は基材101を供給するローラ、107は基材101が通過する間に塗工液を乾燥させる乾燥装置、108は塗工液層が形成された製品を巻き取るローラを示している。また、109は、塗工液を溜めておくタンク110から塗工液供給手段105に塗工液を送るためのポンプを示している。
【0004】
このコーティング装置100は、塗工液供給手段105によって基材101のコーティング面に塗工液を供給しながらロール102とロール103の間の隙間から基材101と塗工液を同時に送り出すことにより、基材101のコーティング面に塗工液を所要の厚みでコーティングした塗工液層を形成することができる。
【0005】
上記のような従来のコーティング装置100では、基材の一方の面に塗工液層が均一かつ全面にコーティングされた製品が得られる。しかし、例えば不織布に薬効成分を含んだ粘着剤をコーティングした皮膚貼付剤を製造する際に、特定の部分には粘着剤の層を設けずに皮膚の通気性を確保したい場合がある。
【0006】
このように、塗工液層に部分的に任意の形状の未塗工領域を設けて製品に機能性を付与することは、「パターンコーティング」とも呼ばれている。従来、シート状の基材にパターンコーティングを行う場合は、例えば以下のような方法が用いられていた。
【0007】
(1)筋状塗工による方法
塗工液をコーティングする際の厚みを規制するクリアランス設定壁などに仕切部材等の遮蔽物を部分的に設けることにより、筋状に未塗工領域を作る方法である(例えば、特許文献1)。仕切部材に、基材の移動方向と直交する向きに、基材の表面に接触し得る位置に固定された複数の分割部が列設されているため、塗工液は分割部の存在しない出口のみを通過し、基材表面に塗布されたときにライン状パターンが形成される。
【0008】
(2)グラビアコーティングによる方法
グラビアコーティングは、グラビア印刷の技術をベースに基材の表面にパターンコーティングを行う方法である(例えば、特許文献2)。例えば、図7に示すように、グラビアコーティング装置200は、塗布ロール201と、インプレッションロール202と、塗布ロール201の周面に摺接するドクターブレード203と、塗布ロール201にコーティング液を供給する供給槽204とを備えた構成である。塗布ロール201の周面には、多数の塗布用セル201aが形成されている。
【0009】
そして、供給槽204に貯留したコーティング液を、回転する塗布ロール201の周面に付着させて塗布用セル201a内にコーティング液を供給し、塗布ロール201の周面にドクターブレード203のブレード先端203aを摺接させることによって塗布用セル201a以外の余剰のコーティング液を掻き取り、掻き取られた塗布ロール201の周面と、対向する位置に配置したインプレッションロール202との間に基材205を導入して、この基材205の表面に塗布用セル201a内のコーティング液を転写することによりコーティングを行うものである。
【0010】
(3)スクリーン印刷による方法
スクリーン印刷は、スクリーン版を用いてパターンコーティングを行う方法である(例えば、特許文献3)。例えば、光化学的方法などで形成した版被膜によって塗工液が押し出されないようにマスクした部分を設けると共に、周囲に枠を取付けたスクリーン版を使用し、このスクリーン版の枠内に塗料を入れ、スクリーン上をスクイジーで加圧摺動することにより版被膜のない部分からスクリーン目を通して塗工液を押出し、基材上に所望のパターンの画線を塗装するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−5674号公報
【特許文献2】特開平8−25607号公報
【特許文献3】特開平7−251119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来のパターンコーティングの方法には、夫々、以下のような問題点があった。
【0013】
(1) 先ず、筋状塗工による方法は、筋状に決まった位置にしか未塗工領域を作成できなかった。そのため、この方法によるパターンコーティングでは、例えば基材の送り出し方向と直交する向きに帯状の未塗工領域を設けることは困難であり、用途が限定されるという問題があった。
【0014】
(2) また、グラビアコーティングは、塗布用セルに供給可能な低粘度のコーティング液しか使用できず、コーティング可能な塗工液層の厚みは、最大20ミクロン程度が限界であった。そのため、グラビアコーティングによる方法では、化粧シートの粘着剤や耐摩耗性用保護膜などのように、塗工液層に物理的な機能を付与するために通常必要となる数十〜数百ミクロンの厚みでのコーティングには対応できないという問題があった。
【0015】
(3) さらに、スクリーン印刷では、数十〜数百ミクロンの厚みでコーティングすることは可能であるものの、塗工液の溶剤が乾燥してスクリーン目が詰まりやすいため、これを避けるために塗工液の溶剤は特定のものを用いる必要があった。
【0016】
具体例を挙げると、スクリーン印刷の溶剤としては、例えば沸点200℃程度の高沸点溶剤か、水を媒質に使ったエマルジョンが適している。しかし、高沸点溶剤を用いる場合は、基材の方も十分な耐熱性を有する材質を用いる必要があるため、基材の材質が限定されてしまうという問題があった。また、市販の粘着剤は有機溶剤系のものが多く、水溶性のエマルジョンは少ないため、エマルジョンを利用する場合は、専用に開発したものが必要となり、塗工液の選択の幅が狭まるという問題があった。
【0017】
本発明が解決しようとする問題点は、従来のコーティング装置を用いたパターンコーティングでは、一般に市販されている溶剤系の塗工液を用いて、様々な材質の基材の表面に対して、任意のパターンで、塗工液層を数十〜数百ミクロンの範囲の厚みでコーティングすることは困難であった点である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のコーティング装置は、
一般に市販されている溶剤系の塗工液を用いて、様々な材質の基材の表面に対して、任意のパターンで、塗工液層を数十〜数百ミクロンの範囲の厚みでコーティングするという目的を達成するために、
基材のコーティング面側に設けたロールと、前記コーティング面の裏面側に設けた版ロールとを備え、前記コーティング面に塗工液を供給しながら前記ロールと前記版ロールの間から前記基材と前記塗工液を送り出し、前記コーティング面に前記塗工液を所要の厚みでコーティングした塗工液層を形成するコーティング装置であって、
前記コーティング面に前記塗工液層が存在しない未塗工領域を設けるべく、前記版ロールの周面に、前記未塗工領域の形状に対応した凸部を有する所要の凹凸パターンを形成したことを最も主要な特徴としている。
【0019】
本発明のコーティング装置を使用して、基材のコーティング面にパターンコーティングを行うには、コーティング面に供給する塗工液の粘度は、3000mpa・s以上15000mpa・s以下の範囲に調整すれば良い。これが本発明コーティング方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、基材のコーティング面の裏面側に設けた版ロールの周面に、塗工液層を設けない未塗工領域の形状に対応した凸部を有する所要の凹凸パターンを形成したので、ロールと版ロールの間の隙間から基材と塗工液が同時に送り出されるときに、コーティング面の裏面側から凹凸パターンを押し当てる状態となる。そのため、本発明では、凹凸パターンの凸部に対応する部分には塗工液層が形成されず、未塗工領域とすることができるので、基材の表面に任意の形状のパターンコーティングを行うことができる。
【0021】
しかも、本発明は、塗布用セルに供給可能な低粘度の塗工液しか使用できないグラビアコーティングとは異なり、塗布用セルは使用しないので、数十〜数百ミクロンの厚みでのコーティングが可能である。また、本発明は、塗工液が乾燥してスクリーン目が詰まり易いスクリーン印刷とも異なり、スクリーン版は使用しないので、塗工液の種類や基材の材質が限定されることはない。
【0022】
したがって、本発明によれば、パターンコーティングの形状が筋状に限定されるという問題、塗工液層の厚みが最大20ミクロン程度に限定されるという問題、塗工液の種類や基材の材質が限定されるといった問題は何れも解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のコーティング装置の構成を説明する概略的側面図である。
【図2】版の凸部の高さと塗工液層のウェット厚み及びドライ厚みの関係を説明する図である。
【図3】版ロールに凹凸パターンを設ける手段を説明する図であり、(a)は凹凸パターンを形成した平板状の版を版ロールの周面に巻き付けて取り付ける構成、(b)はロールの周面に凹凸パターンを直接刻設する構成を示す図である。
【図4】本発明で使用する版の一例であり、アルファベット文字を凸部として凹凸パターンを形成した例を示す図である。
【図5】未塗工領域を内装材用基材の端部と連続した形状に配置する例を説明する図であり、(a)は短冊状の塗工液層を、(b)は6角形状の塗工液層を用いる場合の図である。
【図6】従来のコーティング装置の構成を説明する概略図である。
【図7】従来のグラビアコーティング装置の構成を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、例えば長尺のシート状基材にパターンコーティングを行う場合に、コーティングのパターンが筋状に限定される問題、塗工液層の厚みが最大20ミクロン程度に限定される問題、さらに、塗工液の種類や基材の材質が限定される問題などを解決するという目的を、
基材のコーティング面側に設けたロールと、前記コーティング面の裏面側に設けた版ロールとを備え、前記コーティング面に塗工液を供給しながら前記ロールと前記版ロールの間から前記基材と前記塗工液を送り出し、前記コーティング面に前記塗工液を所要の厚みでコーティングした塗工液層を形成するコーティング装置において、前記版ロールの周面に、塗工液層を設けない未塗工領域の形状に対応した凸部を有する所要の凹凸パターンを形成することで実現した。
【0025】
本発明において、版ロールの円筒状のロールの周面に設ける凹凸パターンは、例えば、文字、数字、記号、幾何模様、任意の図形など、どのような形状のものであっても良く、製品の目的や求められる機能に応じて適宜選択することができる。
【0026】
また、版ロールの周面に凹凸パターンを形成する手段は特に限定されず、例えば円筒状のロールの周面に所要の凹凸形状を直接刻設した版ロールを使用しても良い。もっとも、凹凸形状を直接刻設する場合は、1つの凹凸パターンに対応した専用の版ロールとなってしまい、汎用性に欠けるという問題がある。また、必要な凹凸パターン毎に版ロール自体を複数製作していたのではコストアップとなる。
【0027】
そこで、本発明では、平板状の版に前記凹凸パターンを形成し、前記版を、前記版ロールの周面に巻き付けて取り付けた構成を採用する方がより好ましい。このようにすれば、複数の凹凸パターンが必要な場合は、版を交換するだけで対応できるので経済的である。また、既存のコーティング装置がある場合は、コーティング面の裏面側から圧力をかけるロールの周面に上記版を取付けることで、本発明のコーティング装置の構成とすることができる。
【0028】
なお、版ロールの周面に凹凸パターンを形成する手段として平板状の版を用いる場合、版の材質は金属製、樹脂製など適宜選択することができる。また、版を、版ロールの周面に巻き付けて取り付ける手段についても特に限定されず、例えば接着剤により固着させれば良い。
【0029】
本発明では、基材の材質は特に限定されないが、厚みは10μm以上のものを使用する方がより望ましい。厚みが薄くなりすぎると、基材の裏面側から版ロールの凸部を押し当てた時に、基材が破れるなどの不具合が発生する虞があるからである。
【0030】
もっとも、このような破損の虞がある薄い基材については、一旦、離型性を有するフィルム等にコーティングした後、目的とする基材に転写加工すれば良い。また、布地や平板状の材料など、そのままコーティングすることが困難なものについても、上記のような転写加工法を用いれば、パターンコーティングを行うことができる。
【0031】
一方、基材の厚みが厚くなりすぎると柔軟性が失われて、塗工領域と未塗工領域の境界が不明瞭になる虞がある。但し、基材の厚みの上限値は材質によって異なるため、一律に規定することはできず、材質毎に上限値を検討する必要がある。
【0032】
本発明のコーティング方法は、上記のような構成の本発明のコーティング装置を使用して、基材のコーティング面に、粘度を3000mpa・s以上15000mpa・s以下の範囲に調整した塗工液を供給しながらパターンコーティングを行う方法である。
【0033】
塗工液の粘度を上記の範囲とした理由は、3000mpa・s未満とした場合、粘度が不足して塗工液層が崩れてしまう虞があるからである。一方、15000mpa・sよりも大きくした場合は、ロールと版ロールの間の隙間に塗工液がスムーズに入らない虞が生じるからである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施するための最良の形態と共に各種の形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。図1に示した本発明のコーティング装置Cは、例えば以下のような構成である。
【0035】
3はコーターで、基材4のコーティング面4aの上方の位置に設けたロール1と、このロール1と所定の隙間を空けてコーティング面4aの裏面4bの下方の位置に設けた版ロール2とを備えている。そして、塗工液供給手段からコーティング面4aに塗工液5を供給しながらロール1と版ロール2の間の隙間に基材4を導入し、その隙間から基材4と塗工液5を同時に送り出して、コーティング面4aに塗工液5を所要の厚みでコーティングした塗工液層6を形成するようになっている。
【0036】
2aは、基材4のコーティング面4aに塗工液層6が存在しない未塗工領域6aを設けるべく、版ロール2の円筒形のロール部の周面に未塗工領域6aの形状に対応して設けた凸部を示している。つまり、版ロール2の周面には、パターンコーティングにおいて未塗工領域となる部分6aの形状に対応させた凸部2aを有する凹凸パターン2bが形成されいる。そして、上記のような凹凸パターン2bを備えた版ロール2の上に基材4をテンションをかけた状態で配置している。なお、矢印Xはロール1の回転方向、矢印Yは版ロール2の回転方向、矢印Zは基材4の移送方向を示している。また、5aは、塗工液5を一時的に貯留させてコーティング面4aに連続的に供給するために設けた貯留部を示している。
【0037】
上記のような構成のコーティング装置Cを用いて、基材4のコーティング面4aに塗工液5を供給しながらロール1と版ロール2の間の隙間に基材4を導入すると、凸部2aを設けた部分は、ロール1と版ロール2の間にクリアランスがない状態となるため、塗工液層6は形成されず、未塗工領域6aとなる。一方、凸部2aを設けていない凹部2cの部分は、ロール1と版ロール2の間に凸部2aの高さに応じたクリアランスがある状態となるため、塗工液層6が形成された領域となる。こうすることにより、本発明では、基材4の表面に所望のパターンコーティングを施すことができる。
【0038】
なお、図1では、図示を省略しているが、コーティング装置Cは、基材4の移送方向の上流側には基材4を供給する巻取りローラが存在し、下流側には基材4が通過する間に塗工液層6を乾燥させる乾燥装置や、塗工液層6を形成した後の製品を巻き取るローラが存在する。また、コーティング装置Cは、塗工液5を溜めておくタンクや、貯留部5aまで塗工液5を送るためのポンプなどを備えている。
【0039】
また、図1は、版ロール2を側面方向から見た状態を模式的に示したものであるが、平面視した場合、凹凸パターン2bは、例えば文字、数字、記号、幾何模様、任意の図形など所要の形状を構成している。それによって、塗工液層6は、任意のパターンで基材4の表面にコーティングされることになる。
【0040】
図1の実施例では、版ロール2に凹凸パターン2bを設ける手段として、平板状の版2dに凹凸パターン2bを形成し、前記版2dを、版ロール2の周面に巻き付けて取り付けた構成を採用している。このように構成する場合は、凹凸パターン2bが異なる数種類の版2dを準備しておけば、必要時に版2dを交換するだけでコーティングのパターンを変更することができる。
【0041】
図7に示すような、従来のグラビアコーティング装置200によるパターンコーティングでは、凹状の塗布用セル201aを設けたロール201に直接塗工液を塗ることになるが、本発明は、図1に示すように、基材4のコーティング面4aの裏面4bの側から版ロール2の凸部2aを押し当てる点に特徴がある。したがって、本発明では、版ロール2に塗工液5が直接触れないため、版ロール2やその周面に取り付ける版2dは、塗工液5の影響を考慮する必要がなく、種々の材質の中から選択することができる。
【0042】
本発明では、塗工液層6の厚みは、版2dの凸部2aの高さと塗工液5の固形分濃度によって決められる。図2は、その設計概念を説明する図である。
【0043】
図2に示すように、版2dの凸部2aの高さhに対し、塗工直後の塗工液層6のウェット厚みWは、塗工液の成分によっても異なるが、通常40〜70%の範囲の値となる。その後、乾燥プロセスを経て塗工液層6の溶剤成分が蒸発して無くなったときの塗工液層6のドライ厚みDは、塗工直後のウェット厚みWよりも収縮して小さくなる。このとき、塗工液5の固形分濃度をA%とすると、D=W×Aの関係がある。
【0044】
すなわち、本発明では、基材4の表面にコーティングする塗工液層6の最終的なドライ厚みDは、塗工液5に含まれる固形分濃度Aと版2dの凸部2aの高さhを調整することにより設計することができる。
【0045】
凸部2aの高さの修正は、版2dの交換を伴うので、塗工直前の微調整は難しいが、予め版2dを数パターン準備しておいて最も適切なものを使用することが考えられる。これに対して、塗工液5に含まれる固形分濃度Aは、塗工直前であっても溶剤などを加えて希釈することにより、比較的容易に微調整が可能である。
【0046】
但し、あまり希釈量を増やして固形分濃度Aを下げすぎると、塗工液5の粘度が最低粘度を下回り、コーティングが困難となる虞がある。そこで、本発明のコーティング方法では、塗工液5の粘度については3000mpa・s以上15000mpa・s以下の範囲を維持しつつ、その範囲内で固形分濃度Aを調整することになる。
【0047】
図3は、版ロール2の周面に凹凸パターンを形成する手段の例を説明する図である。(a)は、図1の実施例と同様、凹凸パターン2bを形成した平板状の版2dを、版ロール2の円筒状のロール部の周面21に巻き付けて接着剤で固定した構成を示している。22は、平板状の版2dの両端部が接している位置を示している。これに対して、(b)は、円筒状のロール部の周面21に凹凸パターン2bを直接刻設した版ロール2の構成を示している。
【0048】
以下、本発明のコーティング装置及び方法を用いて基材4に塗工液層6をパターンコーティングした実施例について、さらに具体的に説明する。なお、以下の実施例は実施形態の一例であり、本発明のコーティング方法はこれらに限られるものではない。
【0049】
(実施例1)
塗工液5は、市販されているアクリル系粘着剤(綜研化学社製 SK−1717)を使用した。粘度は6000mPa・s、固形分濃度は40%であり、酢酸エチルとトルエンの混合溶剤で希釈されている。
【0050】
基材4は、離型紙(住化加工紙製 SL−73)を用いた。この離型紙は73g/m2 の重量を有する上質紙の片面に厚さ20ミクロンのポリエチレンをラミネートし、その上にシリコーン離型剤をコーティングしたものである。
【0051】
版ロール2の周面には、高さを200ミクロンの凸部2aを有する樹脂製の版2dを巻き付けて接着剤で取り付けた。版2dの表面に設ける凹凸パターン2bとしては、図4に示すように、「(公序良俗違反につき、不掲載)」の文字列を上下及び左右方向に連続的に並べた構成を用いた。
【0052】
版2dは、各アルファベット文字自体が凸部2a、背景の部分が凹部2cとなるようにし、各文字のサイズは2cm×2cmとし、1700mmの機械幅に対して1250mmまで文字を形成した。そして、基材4として用いた1230mm幅の離型紙に対し、塗工速度5m/分で幅方向一面にコーティングを行った。
【0053】
以上の条件でコーティングを行ったところ、基材4のコーティング面4aには、凸部2aに対応したの各アルファベット文字の部分には塗工液層6(粘着剤)が全く塗工されておらず、各アルファベット文字以外の背景の部分にのみ塗工液層6(粘着剤)が塗工された状態となった。なお、塗工液層6上では、「(公序良俗違反につき、不掲載)」の文字は左右が逆転した状態となった。乾燥後、塗工液層6(粘着剤)が塗られている部分の厚みを測定すると、45±5μmの範囲で均一に塗工されており目的としたパターンコーティングが行われていることを確認した。
【0054】
(実施例2)
版ロール2に取り付ける版2dの凸部2aの高さを500ミクロンに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でコーティングを行った。実施例1と同様、凸部2aに対応したの各アルファベット文字の部分には塗工液層6(粘着剤)が塗工されておらず、それ以外の部分にのみ塗工液層6(粘着剤)が塗工された状態で、文字が逆に転写された構成のパターンが形成された。
【0055】
乾燥後、塗工液層6(粘着剤)が塗られている部分の厚みを測定すると、105±10μmの範囲で均一に塗工されており目的としたパターンコーティングが行われていることを確認した。
【0056】
(実施例3)
版2dの凹凸パターン2bを「(公序良俗違反につき、不掲載)」の文字を左右に反転させた状態に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で、転写用の基材4として用いた離型紙に一旦コーティングを行った。その後、不織布(旭化成製 ベンリーゼ(登録商標))と貼り合わせて、塗工液層6(粘着剤)を基材4側から不織布の方に転写した。なお、転写後に不織布上に表れる文字はさらに反転し、通常の「(公序良俗違反につき、不掲載)」の文字となった。
【0057】
上記実施例で使用した不織布は通気性を有し、皮膚貼付剤の基布として使用することができるが、薬効成分を含む粘着剤を従来の方法で基材4上に均一にコーティングしたものを不織布上に転写した場合、粘着剤自体には通気性がないため、不織布の通気性が失われてしまう。
【0058】
これに対して、本発明のコーティング方法を用いて転写用の基材4に塗工液層6(粘着剤)を形成後、不織布に転写した場合は、未塗工領域(上記実施例の場合は各アルファベット文字の部分)には薬効成分を含む粘着剤が塗られていない状態となるため、皮膚の通気性を確保することができる。
【0059】
このように、本発明のコーティング方法を応用した1つの実施形態は、本発明のコーティング装置を使用して、例えば皮膚貼付剤用の通気性又は透湿性を有する不織布、布、フィルム等の素材に、薬効成分を含む粘着剤、膏剤等からなる塗工液層をコーティングする方法であって、前記未塗工領域を皮膚の通気性又は透湿性を確保する部分に配置してコーティング後、前記塗工液層を前記基材側から前記素材側に転写するコーティング方法である。このコーティング方法は、皮膚貼付剤等の医療用の素材に限らず、生理用ナプキン、失禁パッド等の衛生材料用の素材にも適用できる。
【0060】
また、本発明は、壁紙、化粧シート等の内装材の製造にも利用できる。つまり、本発明のコーティング方法を応用した他の実施形態は、本発明のコーティング装置を使用して、壁紙、化粧シート等の内装材用基材に粘着剤からなる塗工液層をコーティングする方法であって、前記未塗工領域を前記内装材用基材の端部と連続した形状に配置してコーティングすることを特徴とするコーティング方法である。
【0061】
このようなコーティング方法を用いれば、壁紙、化粧シートなどの内装材を壁面等に貼り合わせる際に、基材の端部に通じている空気の抜け道が確保されるため、内装材の中央部に空気だまりが生じるのを防止できるので好適である。
【0062】
図5は、未塗工領域6aを内装材用基材40の端部41と連続した形状に配置する例を示したものである。(a)の例では、横方向に連続的に設けた短冊状の塗工液層6(接着剤)が一列おきに位置をずらして上下方向にも配置されているが、縦横に未塗工領域6aが存在して内装材用基材40の端部41まで一続きに連続しているため、この経路が空気の抜け道として機能し、内装材の貼り合せ時の空気を噛み込みを防止できる。
【0063】
また、(b)の例は、塗工液層6(接着剤)を6角形状にし、その周囲に未塗工領域6aを設けたものであるが、この場合も(a)と同様、内装材用基材40の端部41まで通じる経路が十分に確保されているので、内装材を貼り合せる際に中央部に生じる空気だまりを防止できる。
【0064】
なお、上記した本発明のコーティング方法を利用した1つの実施形態(皮膚貼付剤への応用)や他の実施形態(内装材への応用)についても、基材のコーティング面に供給する塗工液の粘度は、3000mpa・s以上15000mpa・s以下の範囲に調整することがより望ましい。
【0065】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0066】
例えば上記実施例では、ロール1は上方に、版ロール2はロール1の直下に対設させる例を開示したが、ロール1と版ロール2の位置関係はこれに限らない。本発明では、基材のコーティング面側にロール1を、コーティング面の裏面側に版ロール2を設けるようにするが、ロール1と版ロール2の位置関係については、例えば斜めに配置しても良いし、横並びの配置であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のコーティング装置及び方法は、求められる機能に応じて任意の形状のパターンコーティングができるので、壁紙、化粧シート等の内装材の製造において利用できることは勿論、皮膚貼付剤等の医療品や衛生材料などの製造においても利用できるなど、広い分野で利用可能なものである。
【符号の説明】
【0068】
1 ロール
2 版ロール
2a 凸部
2b 凹凸パターン
2d 版
4 基材
4a コーティング面
4b コーティング面の裏面
40 内装材用基材
41 端部
5 塗工液
6 塗工液層
6a 未塗工領域
C コーティング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材のコーティング面側に設けたロールと、前記コーティング面の裏面側に設けた版ロールとを備え、前記コーティング面に塗工液を供給しながら前記ロールと前記版ロールの間から前記基材と前記塗工液を送り出し、前記コーティング面に前記塗工液を所要の厚みでコーティングした塗工液層を形成するコーティング装置であって、
前記コーティング面に前記塗工液層が存在しない未塗工領域を設けるべく、前記版ロールの周面に、前記未塗工領域の形状に対応した凸部を有する所要の凹凸パターンを形成したことを特徴とするコーティング装置。
【請求項2】
平板状の版に前記凹凸パターンを形成し、前記版を、前記版ロールの周面に巻き付けて取り付けたことを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコーティング装置を用いたコーティング方法であって、前記基材のコーティング面に、粘度を3000mpa・s以上15000mpa・s以下の範囲に調整した塗工液を供給することを特徴とするコーティング方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のコーティング装置を使用して、通気性又は透湿性を有する不織布、布、フィルム等の素材に、粘着剤、膏剤等からなる塗工液層をコーティングする方法であって、前記未塗工領域を皮膚の通気性又は透湿性を確保する部分に配置してコーティング後、前記塗工液層を前記基材側から前記素材側に転写することを特徴とするコーティング方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のコーティング装置を使用して、壁紙、化粧シート等の内装材用基材に粘着剤からなる塗工液層をコーティングする方法であって、前記未塗工領域を前記内装材用基材の端部と連続した形状に配置してコーティングすることを特徴とするコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−98283(P2011−98283A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254337(P2009−254337)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【公序良俗違反の表示】
特許法第64条第2項第4号の規定により明細書の一部または全部を不掲載とする。
特許法第64条第2項第4号の規定により図面の一部または全部を不掲載とする。
【出願人】(591119598)東洋ケミテック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】