説明

コード及び空気入りタイヤ

【課題】コード端部の接着性を強固にし、コード端部からのセパレーションを抑制し、耐久性を向上させるコード及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】本実施形態に係るコードは、高強力スチールフィラメント11及びブラスフィラメント12を複数本撚り合わせて構成される。本実施形態に係る空気入りタイヤは、1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスのタイヤ径方向外側にベルト層を備え、上述したコードをカーカス又はベルト層に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの補強材として好適のコード及びこのコードを適用した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラック及びバス用タイヤに代表される、大型のスチールラジアルタイヤにおいて、その骨格をなすカーカスは、ブラスめっきを施したスチールフィラメントの複数本を撚り合わせたスチールコードを多数本並列させてゴム引きしてなるプライによって構成されている。
【0003】
このカーカスにおけるスチールコードの補強効果を発揮させるには、スチールコードとゴムとが強固に接着していることが肝要である。スチールコードにブラスめっきを施すことにより、コードとゴムとの接着性を強固に維持することが可能となる。このため、ブラスめっきについて、銅と亜鉛との割合やめっき厚さなどを調整することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−192987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ブラスめっきを施したスチールコードの端部、即ち切断面は、スチールが表面にあらわれることにより、ゴムとの接着性が希薄になる。このようにコード端部が接着していないため、コード補強ゴムに入力、例えば軸方向に引っ張り入力やせん断入力が作用すると、コード端部が破壊の起点となり、耐久性が低下するという問題があった。
【0005】
これを解決するため、コード端部にめっきを施すことも考えられるが、その方法が困難であり、例えば、空気入りタイヤのベルトやカーカスプライ材のような多大な補強コードの1本1本の切断面にめっきを施すことは、現実的ではなく、採算性も合わない。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑み、コード端部の接着性を強固にし、コード端部からのセパレーションを抑制し、耐久性を向上させるコード及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、コード断面の接着性をある程度確保し、破壊の起点となる非接着部分の面積を減少させるため、ブラスめっきしたスチールフィラメントの代わりに、一部ブラスフィラメントを用いることについて、鋭意研究を行った。
【0008】
よって、本発明の第1の特徴は、高強力スチールフィラメント及びブラスフィラメントを複数本撚り合わせて構成されるコードであることを要旨とする。
【0009】
第1の特徴に係るコードによると、従来製法でコードを作成、裁断しても、ブラスフィラメントの断面はすべてブラスであるため、この部分はゴムと接着することができる。このため、コード端部の接着性を強固にし、コード端部からのセパレーションを抑制し、耐久性を向上させることができる。
【0010】
又、「高強力スチールフィラメント」とは、軽量化の視点より、抗張力が300kgf/mm2以上であることが好ましい。
【0011】
又、コード断面積におけるブラスフィラメント断面積の占める割合は、10%以上50%未満であることが好ましい。非接着部の断面積が減少すればするだけ、破壊の核が小さくなるため、そこからのセパレーションを抑制することができる。このため、10%未満では、破壊核面積の減少効果が十分には発揮されない。一方、50%を超えると、破壊核面積の減少効果は十分に発揮されるが、補強材としての強力が著しく低下するため、本来の補強効果を発揮することが困難となる。
【0012】
又、ブラスフィラメントは、同一コード内で互いに隣接しないように配置されることが好ましい。コード断面の接着部は、均等に配置されるほうが、より強固な接着性を確保することができるからである。更には、強力発揮率においても、均等にバランス良く配置される方がより好ましいと言える。
【0013】
本発明の第2の特徴は、1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスの径方向外側にベルト層を備える空気入りタイヤであって、上述したコードをカーカス又はベルト層に用いる空気入りタイヤであることを要旨とする。
【0014】
第2の特徴に係る空気入りタイヤによると、従来製法でコードを作成、裁断しても、ブラスフィラメントの断面はすべてブラスであるため、この部分はゴムと接着することができる。このため、コード端部の接着性を強固にし、コード端部からのセパレーションを抑制し、耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コード端部の接着性を強固にし、コード端部からのセパレーションを抑制し、耐久性を向上させるコード及び空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0017】
(空気入りタイヤの構成)
本発明の実施の形態に係る空気入りラジアルタイヤ100は、図1に示すように、一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2相互間にわたりトロイド状に連なるトレッド部3とを備える。カーカス5は、ビード部1内に埋設した一対のビードコア4相互間にわたってビード部1、サイドウォール部2及びトレッド部3を補強する骨格となる、トロイド状ラジアルカーカスである。カーカス5のタイヤ径方向外側(クラウン部周上)には、1層以上のベルト層6を配置し、トレッド部3を強化する。図1では、ベルト層6を2層積層している。
【0018】
カーカス5は1枚のカーカスプライからなり、当該カーカスプライは、ビードコア4においてタイヤ内側から外側へ折り返される。又、カーカスプライは、スチールフィラメント及びブラスフィラメントを複数本撚り合わせたコードを多数本並列させてゴム引きして形成される。
【0019】
このコードを図2に示す。図2は、3本のフィラメントを撚り合わせたコア16と、8本のフィラメントを撚り合わせたシース15からなる3+8構造のコードである。シース15のフィラメントは、スチールフィラメント11及びブラスフィラメント12を撚り合わせたものであり、コア16のフィラメントは、スチールフィラメント11を撚り合わせたものである。ここで、スチールフィラメント15は、抗張力が300kgf/mm2以上の高強力スチールフィラメントであることが好ましい。尚、スチールフィラメント11とブラスフィラメントの径は同一であるが、それに限定されるものではない。
【0020】
又、本実施形態に係るコードは、コード断面積における、ブラスフィラメント12断面積の占める割合が10%以上50%未満である。
【0021】
又、ブラスフィラメント12は、同一コード内で互いに隣接しないように配置される。即ち、図2では、一つおきにスチールフィラメント11とブラスフィラメント12が配置されている。
【0022】
以上の説明において、図2に示すコードを用いたカーカスプライについて説明したが、上述したコードをゴム中に埋設し、ベルト層6を形成してもよい。
【0023】
尚、カーカス5及びベルト層6の形成方法等は、上述したコードを用いる他は、通常用いられる手法、材料が採用される。
【0024】
(作用及び効果)
本実施形態に係るコードは、ブラスめっきしたスチールフィラメントの代わりに、一部ブラスフィラメント12を用いることにより、従来製法でコードを作成、裁断しても、ブラスフィラメントの断面はすべてブラスであるため、このコード端部はゴムと接着することができる。よって、コード端部の接着性を強固にし、コード端部からのセパレーションを抑制し、耐久性を向上させることができる。
【0025】
又、本実施形態に係るコードは、コード断面積におけるブラスフィラメント12断面積の占める割合が、10%以上50%未満である。非接着部の断面積が減少すればするだけ、破壊の核が小さくなるため、そこからのセパレーションを抑制することができる。このため、10%未満では、破壊核面積の減少効果が十分には発揮されない。一方、50%を超えると、破壊核面積の減少効果は十分に発揮されるが、補強材としての強力が著しく低下するため、本来の補強効果を発揮することが困難となる。
【0026】
又、本実施形態に係るコードにおけるブラスフィラメント12は、同一コード内で互いに隣接しないように配置される。即ち、図2に示すように、ブラスフィラメント12の隣りは、スチールフィラメント11となる。このように、コード断面の接着部(ブラスフィラメント12の断面部)は均等に配置されるため、より強固な接着性を確保することができる。
【0027】
本実施形態に係る空気入りタイヤ100は、上述したコードをカーカス又はベルト層に用いる。このため、コード端部の接着性を強固にし、コード端部からのセパレーションを抑制し、耐久性を向上させることができる。
【0028】
又、上述したように、本実施形態に係る空気入りタイヤは耐久性に優れるので、トラック、バス等の重荷重車両に好適に用いることができる。
【0029】
又、上述したコードをベルト層6に用いた場合、BES(ベルトエッジセパレーション)性が向上するため、この向上した分、コードの打ち込み数を増加させることができる。従って、引っ張り剛性を向上させたベルト層を提供することができるため、従来品に対し、操縦安定性を向上させることも可能となる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
(1)TBRプライコードに適用した場合
本発明の効果を確かめるために、本発明が適用された実施例のタイヤ4種、比較例のタイヤ1種を製造し、耐PES(プライエッジセパレーション)性を調べた。実施例、比較例共に、タイヤサイズは1100R20であり、内圧は9.0kgf/cm2とした。又、コードの打ち込み数は、実施例、比較例共に34本/50mmとした。
【0032】
耐PES性は、各タイヤを室内のドラム試験機にかけ、ビード部にセパレーションを起こしてタイヤが故障するまでの走行距離により評価した。走行距離の測定は、最初の144時間は6270kgf、続く72時間毎に荷重を増やしていき、60km/hの速度で行った。耐PES性は、故障までの走行距離について、比較例を100とした指数表示とし、値が大きいほど耐PES性に優れるとした。
【0033】
条件及び結果を表1に示す。尚、3+8構造のコードにおいて、実施例1は、3本のコアのフィラメントのうち、1本がブラスフィラメントであり、実施例2は、8本のシースのフィラメントのうち、隣り合う2本がブラスフィラメントであり、実施例3は、8本のシースのフィラメントのうち、均等に配置された(3本おきに配置された)2本がブラスフィラメントであり、実施例4は、8本のシースのフィラメントのうち、均等に配置された(1本おきに配置された)4本がブラスフィラメントであった。
【表1】

【0034】
(結果)
実施例1〜4は、比較例と比較すると、全体的に、耐PESが向上していた。よって、ブラスめっきしたスチールフィラメントの代わりに、一部ブラスフィラメントを用いることにより、耐PESが向上することが確認できた。
【0035】
又、実施例2〜4は、実施例1と比較すると、より耐PES性が向上していた。よって、コード断面積におけるブラスフィラメント断面積の占める割合が10%以上50%未満であると、耐PESが向上することが確認できた。
【0036】
又、実施例3及び4は、実施例2と比較すると、より耐PES性が向上していた。よって、コードにおけるブラスフィラメントは、同一コード内で互いに隣接しないように配置されと、耐PESが向上することが確認できた。
【0037】
又、実施例4は、実施例3と比較すると、より耐PES性が向上していた。よって、コード断面積におけるブラスフィラメント断面積の占める割合が30%以上50%未満であると、耐PESが向上することが確認できた。
【0038】
(2)PSRベルトコードに適用した場合
本発明の効果を確かめるために、本発明が適用された実施例のタイヤ3種、比較例のタイヤ1種を製造し、耐BES(ベルトエッジセパレーション)性を調べた。実施例、比較例共に、タイヤサイズは185/70R14であり、内圧は1.5kgf/cm2とした。又、コードの打ち込み数は、実施例、比較例共に18本/50mmとした。
【0039】
耐BES性は、各タイヤを5.00Bのリムに装着し、乗用車に装着し、一般路を6万km走行させた後、タイヤを解剖して、ベルトの端縁に発生している亀裂の長さを測定することにより評価した。耐BES性は、各測定値の逆数を求め、比較例を100とした指数表示とし、値が大きいほど耐BES性に優れるとした。
【0040】
条件及び結果を表2に示す。尚、1+5構造のコードにおいて、実施例1は、5本のシースのフィラメントのうち、1本がブラスフィラメントであり、実施例2は、5本のシースのフィラメントのうち、隣り合う2本がブラスフィラメントであり、実施例3は、5本のシースのフィラメントのうち、均等に配置された(1本おきに配置された)2本がブラスフィラメントであった。
【表2】

【0041】
(結果)
実施例1〜3は、比較例と比較すると、全体的に、耐BESが向上していた。よって、ブラスめっきしたスチールフィラメントの代わりに、一部ブラスフィラメントを用いることにより、耐BESが向上することが確認できた。
【0042】
又、実施例2及び3は、実施例1と比較すると、より耐BES性が向上していた。よって、コード断面積におけるブラスフィラメント断面積の占める割合が30%以上50%未満であると、耐BESが向上することが確認できた。
【0043】
又、実施例3は、実施例2と比較すると、より耐BES性が向上していた。よって、コードにおけるブラスフィラメントは、同一コード内で互いに隣接しないように配置されると、耐BESが向上することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る空気入りタイヤのタイヤ回転軸心を含む断面図である。
【図2】本実施形態に係る空気入りタイヤに用いられるコードの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1…ビード部
2…サイドウォール部
3…トレッド部
4…ビードコア
5…カーカス
6…ベルト層
11…スチールフィラメント
12…ブラスフィラメント
15…シース
16…コア
100…空気入りタイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強力スチールフィラメント及びブラスフィラメントを複数本撚り合わせて構成されるコード。
【請求項2】
コード断面積における、前記ブラスフィラメント断面積の占める割合が10%以上50%未満であることを特徴とする請求項1に記載のコード。
【請求項3】
前記ブラスフィラメントは、同一コード内で互いに隣接しないように配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のコード。
【請求項4】
1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスのタイヤ径方向外側にベルト層を備える空気入りタイヤであって、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコードを前記カーカス又は前記ベルト層に用いることを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−28651(P2006−28651A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204971(P2004−204971)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】