説明

コールドスプレー装置用エジェクタノズル及びコールドスプレー装置

【課題】噴射する皮膜材料(原料粉末)の速度分布の適正化を可能にし、これによって所望品質の皮膜が得られるようにしたコールドスプレー装置用エジェクタノズルと、このエジェクタノズルを備えたコールドスプレー装置を提供する。
【解決手段】皮膜材料を作動ガスとともに固相状態のまま対象物に衝突させ、皮膜を形成するコールドスプレー装置1におけるエジェクタノズル3である。皮膜材料及び作動ガスを供給する側となるコンバージェント部11と、コンバージェント部11の先端側に設けられたダイバージェント部12とを有する。コンバージェント部11は内管13と外管14とからなる二重配管構造とされ、ダイバージェント部12は外管14に連続して形成されている。内管13内には皮膜材料及び作動ガスが供給されるように構成され、内管13と外管14との間には作動ガスが供給されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドスプレー装置用エジェクタノズル及びコールドスプレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば製鉄プロセスで用いる鋳型やロール、自動車のホイール、ガスタービンの構成部品等の各種金属部材の、減肉の修復や耐摩耗性や耐食性を向上させて金属部材の長寿命化を図ることを目的とし、ニッケル、銅、アルミニウム、クロム又はこれらの合金等の皮膜を形成することが知られている。このような皮膜を形成する方法として、金属メッキ法や溶射法が用いられている。
【0003】
しかし、金属メッキ法を用いた場合には、大面積に施工することが困難であり、また、クラックが発生しやすいといった課題がある。
また、溶射法で皮膜を形成した場合には、溶射中に金属が酸化するため緻密な皮膜の形成が難しく、さらに、形成した皮膜の導電率及び熱伝導率が低くなるといった課題がある。また、付着率が低く、不経済である等の課題もある。
【0004】
そこで、これらに代わり皮膜を形成する新たな技術として、近年、固相状態の原料粉末(皮膜材料)を用いて皮膜を形成する「コールドスプレー」が注目されている。このコールドスプレーでは、原料粉末の融点よりも低い温度の作動ガス中に原料粉末を投入する。そして、このように作動ガスで搬送した原料粉末をコンバージョントノズルに供給し、さらにダイバージョントノズルで原料粉末を超音速に加速し固相状態のまま基材(対象物)に噴射し、衝突させることにより、皮膜を形成する技術である。つまり、金属、合金、金属間化合物、セラミックス等の原料粉末を、固相状態のまま高速(超音速)で基材表面に噴射し、衝突させて皮膜を形成する技術である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−1891号公報
【特許文献2】特開2009−136870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記のコールドスプレーを実施するコールドスプレー装置では、形成する皮膜の品質等に応じて超音速ノズルの形状やその形状に適した作動ガスの圧力を設定し、作動ガスの速度(流速)を決定している。すなわち、基材表面に形成する皮膜の品質は、原料粉末を衝突させる速度、つまり超音速ノズルから噴射する速度によって決定される。このとき、超音速形状ノズルの形状により膨張比が決定され、適正膨張した場合の粉末のマッハ数が決定されるため、超音速ノズルの形状とその形状により決定される作動ガスの膨張比及びノズルに供給する作動ガスの圧力が重要になっている。従来は、超音速ノズルとして形状のシンプルなコニカル超音速ノズルを使用している。
【0007】
しかし、コニカルノズルでは、その出口から噴射される作動ガス(原料粉末を含む)の流速に分布が生じ、通常はノズル出口の中央部では流速が遅く、外周部では流速が速くなる。したがって、このような流速の分布により、特にノズル出口の中央部では、必ずしも設定した圧力に対応した所望の速度が得られない。なお、前記の流速は、コニカルノズル内を流れてこれから噴射される作動ガスの膨張比により、主に決定される。この膨張比は、コニカルノズルにおいて最も内径が小となるスロート部の開口面積と、出口部における開口面積との比(面積比)によって決まる。
【0008】
また、コニカルノズルは、これに供給する作動ガスの圧力は調整可能であるものの、通常、スロート部と出口部との面積比が一定である1種類のものに固定されている。そのため、例えば作動ガスの圧力を変えた場合では、コニカルノズルから噴射する作動ガス(原料粉末を含む)の速度が変えた圧力に対応する所望の速度にならず、この所望の速度と大きく異なる速度になってしまうことがある。
【0009】
これは、使用するコニカルノズルが供給する作動ガスの圧力に対応しておらず、したがってコニカルノズルに供給された作動ガスが適正膨張することなく不適切な膨張比で膨張し、これによってコニカルノズル内を流れる原料粉末の速度が適正にならなくなってしまうからである。そして、このように原料粉末の速度が適正にならなくなると、結果的に所望品質の皮膜が得られなくなってしまう。
【0010】
また、一般に原料粉末は、コニカルノズルの内壁面が高温になっているとここに付着してしまう。すると、作動ガスの流れに乱れが生じることで原料粉末の速度分布が目的とする速度分布と異なってしまい、前記したように所望品質の皮膜が得られなくなってしまう。
【0011】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、形成する皮膜の品質の低下を防止するべく、噴射する皮膜材料(原料粉末)の速度分布の適正化を可能にし、これによって所望品質(高品質)の皮膜が得られるようにしたコールドスプレー装置用エジェクタノズルと、このエジェクタノズルを備えたコールドスプレー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は前記課題を解消するべく鋭意検討した結果、従来のコールドスプレー装置では使用されていなかったエジェクタノズルを、従来のコニカルノズルに代えて使用することに思い至り、さらに研究を重ねて結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明のコールドスプレー装置用エジェクタノズルは、皮膜材料を作動ガスとともに固相状態のまま対象物に衝突させ、皮膜を形成するコールドスプレー装置におけるエジェクタノズルであって、
前記皮膜材料及び前記作動ガスを供給する側となるコンバージェント部と、該コンバージェント部の先端側に設けられたダイバージェント部とを有し、
前記コンバージェント部は内管と外管とからなる二重配管構造とされ、
前記ダイバージェント部は前記コンバージェント部の外管に連続して形成され、
前記内管内には前記皮膜材料及び前記作動ガスが供給されるように構成され、
前記内管と前記外管との間には、前記作動ガスのみが供給されるよう構成されていることを特徴としている。
【0013】
このコールドスプレー装置用エジェクタノズルによれば、コンバージェント部の内管内にインナー流路を形成し、内管と外管との間にアウター流路を形成し、インナー流路には作動ガスとともに皮膜材料を供給し、アウター流路には作動ガスのみを供給するようにしたので、アウター流路に供給する作動ガスの流量をインナー流路に供給する皮膜材料及び作動ガスの流量に対して適宜に設定することにより、インナー流路を出てダイバージェント部に流入した皮膜材料及び作動ガスの膨張が適正化される。すなわち、アウター流路を出てダイバージェント部に流入した作動ガスにより、インナー流路を出てダイバージェント部に流入した皮膜材料及び作動ガスの流れがサポートされ、これにより、皮膜材料及び作動ガスの流れの膨張が適正化されて皮膜材料の速度分布も適正化される。
【0014】
また、アウター流路を出てダイバージェント部に流入した作動ガスも、インナー流路を出てダイバージェント部に流入した皮膜材料及び作動ガスと同様に超音速で流れるので、ダイバージェント部ではこれらの流れが混ざりにくくなっている。したがって、インナー流路を出てダイバージェント部に流入した皮膜材料は、アウター流路を出た作動ガスの流れに遮られ、ダイバージェント部の内壁面に接触することが妨げられることから、皮膜材料がダイバージェント部の内壁面に付着するのが防止される。
【0015】
また、本発明のコールドスプレー装置は、前記コールドスプレー装置用エジェクタノズルを備えたコールドスプレー装置であって、
前記内管内に供給する作動ガスの圧力を調整する第1圧力調整部と、前記内管と前記外管との間に供給する作動ガスの圧力を調整する第2圧力調整部と、を有してなることを特徴としている。
【0016】
このコールドスプレー装置によれば、前記コールドスプレー装置用エジェクタノズルを備え、さらに第1圧力調整部と第2圧力調整部とを有しているので、これら第1圧力調整部と第2圧力調整部とによって内管内(インナー流路)に供給する作動ガスの圧力と内管と外管との間(アウター流路)に供給する作動ガスの圧力とを適宜に調整することで、インナー流路を出た皮膜材料及び作動ガスの、ダイバージェント部での膨張を良好に適正化することができる。
【0017】
また、前記コールドスプレー装置においては、前記作動ガスを加熱するヒーターが備えられ、前記ヒーターは、前記内管内に供給される作動ガスの温度を、前記内管と前記外管との間に供給される作動ガスの温度より高くするように構成されているのが好ましい。
このようにすれば、ヒーターにより、前記インナー流路(内管内)に供給される作動ガスの温度が、前記アウター流路(内管と外管との間)に供給される作動ガスの温度より高くされ、したがってアウター流路に供給される作動ガスの温度が、インナー流路に供給される作動ガスの温度より低くされているので、フィルム冷却と同様の冷却効果が得られるためダイバージェント部の内壁面が加熱されるのが抑えられ、皮膜材料がダイバージェント部の内壁面に付着するのがより確実に防止される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコールドスプレー装置用エジェクタノズル、及びこれを備えたコールドスプレー装置にあっては、インナー流路を出た皮膜材料及び作動ガスの膨張を適正化し、皮膜材料の速度分布を適正化することができるので、所望品質、すなわち高品質の皮膜を形成することができる。
また、皮膜材料がダイバージェント部の内壁面に付着するのを防止することができるので、作動ガスの流れの乱れを防止して原料粉末の速度分布を目的とする速度分布にすることができ、したがって高品質の皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るコールドスプレー装置の概略構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のコールドスプレー装置用エジェクタノズル、及びこれを備えたコールドスプレー装置について詳しく説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1は、本発明に係るコールドスプレー装置の概略構成を模式的に示す図である。図1において符号1はコールドスプレー装置である。
【0021】
このコールドスプレー装置1は、作動ガス及び原料粉末(皮膜材料)を供給する装置本体2と、この装置本体2に接続されたエジェクタノズル3とを備えて構成されたものである。
装置本体2は、作動ガス供給源4と、粉末供給部5と、複数のヒーター8a〜8cと、複数のバルブ7a〜7dと、これらを接続する配管系6a〜6dとを有して構成されている。
【0022】
作動ガス供給源4は、窒素やヘリウムなどの不活性ガスを貯留するガスボンベもしくはカードル等からなるもので、作動ガスとなる不活性ガスを例えば40気圧以上の高圧状態で貯留し、したがって不活性ガスを高圧で導出可能にしたものである。なお、ヘリウムは、音速が速いため窒素に比べてその流速をより高速(超音速)にすることができ好ましい。
【0023】
作動ガス供給源4には、第1配管系6aと第2配管系6bとが接続されており、第1配管系6aには、第1バルブ7aを介して第1ヒーター8a、粉末供給部5がこの順に設けられている。第1バルブ7aは、作動ガス供給源4から導出される作動ガス(不活性ガス)の圧力を調整し、したがって第1配管系6aに流れる不活性ガスの流量を決定するようになっている。
【0024】
第1ヒーター8aは、作動ガス供給源4から導出された作動ガスを加熱するためのものである。すなわち、作動ガス供給源4から導出された作動ガスは、高圧状態から所定圧に急激に減圧され膨張するため、温度が低下する。したがって、後述するようにエジェクタノズル3から比較的高温で作動ガスを噴射するべく、不活性ガスを、後述する原料粉末の融点よりも低い温度となる所定温度、例えば800℃に加熱するようになっている。
【0025】
粉末供給部5は、皮膜材料の原料粉末を貯留し、この貯留した原料粉末(皮膜材料)を作動ガス供給源4から導入された作動ガスに搬送(同伴)させて、エジェクタノズル3のインナー流路20に導入させるものである。皮膜材料としては、Cu、Al、Ti、Ag、Ni、Zn、Sn、Mo、Fe、Ta、Nb、Si、Cr等の金属や、ニッケルクロム合金、ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金等の合金、Al等のセラミックスなど、各種の材料が用いられる。
【0026】
そして、第1配管系6aは、この粉末供給部5を介してエジェクタノズル3のインナー流路20に接続されている。このような構成のもとに、作動ガス供給源4から第1配管系6aに導出された作動ガスは、第1ヒーター8aで加熱され、さらに粉末供給部5で原料粉末(皮膜材料)を同伴し、その後エジェクタノズル3のインナー流路20に流入するようになっている。
【0027】
第2配管系6bには、第2バルブ7bを介して第2ヒーター8bが設けられている。また、この第2配管系6bは、第2ヒーター8bを出た後、第3配管系6cと第4配管系6dとに分岐している。第2バルブ7bは、作動ガス供給源4から導出される作動ガスの圧力を調整し、したがって第2配管系6aに流れる不活性ガスの流量を決定するようになっている。
【0028】
第2ヒーター8bは、前記第1ヒーター8aと同様に、作動ガス供給源4から導出された作動ガスを加熱するためのものである。ただし、この第2ヒーター8bでは、これに接続する第3配管系6cから作動ガスを、後述するようにエジェクタノズル3のアウター流路に流入させるため、比較的低い温度、例えば400℃に加熱するようになっている。
【0029】
第3配管系6cは、第3バルブ7cを介してエジェクタノズル3のアウター流路30に接続されている。このような構成のもとに、作動ガス供給源4から第2配管系6bに導出され、さらに第2ヒーター8bで加熱された不活性ガス(作動ガス)の一部は、第3配管系6cを経て例えば400℃程度の温度でアウター流路30に流入するようになっている。
【0030】
第4配管系6dは、第4バルブ7dを介して第3ヒーター8cに接続し、その後、エジェクタノズル3のインナー流路20に接続されている。第3ヒーター8cは、前記第2ヒーター8bで400℃程度に加熱された作動ガスを、前記第1ヒーター8aと同様に前記原料粉末の融点よりも低い温度となる所定温度、例えば800℃程度にまで加熱するものである。このような構成のもとに、作動ガス供給源4から第2配管系6bを経て第4配管系6dに導出され、さらに第3ヒーター8cで加熱された不活性ガス(作動ガス)は、例えば800℃程度の温度でインナー流路20に流入するようになっている。
【0031】
なお、第1ヒーター8a、第2ヒーター8b、第3ヒーター8cとしては、例えば一般的な抵抗加熱式のものが用いられ、加熱温度の設定も可変なものが用いられる。そして、本実施形態では、これら3つのヒーターにより、本発明のヒーターが構成されている。
すなわち、これら3つのヒーターにより、エジェクタノズル3のインナー流路20に導入される不活性ガスは、エジェクタノズル3のアウター流路30に導入される不活性ガスより高い温度に加熱されるようになっている。
【0032】
また、第1バルブ7a、第2バルブ7b、第3バルブ7c、第4バルブ7dは、本発明における第1圧力調整部、第2圧力調整部を構成するものとなっている。第1圧力調整部は、後述するエジェクタノズル3の内管13内に形成されるインナー流路20に供給する作動ガスの圧力を調整するものであり、第2圧力調整部は、後述するエジェクタノズル3の内管13と外管14との間に形成されるアウター流路30に供給する不活性ガスの圧力を調整するものである。
【0033】
したがって、本実施形態では、第1配管系6aから原料粉末とともに作動ガスをインナー流路20に導入するための第1バルブ7aと、第2配管系6bを経て第4配管系6dから作動ガスをインナー流路20に導入するための第2バルブ7b及び第4バルブ7dにより、第1圧力調整部が構成されている。また、第2配管系6bを経て第3配管系6cから不活性ガスをアウター流路30に導入するための第2バルブ7b及び第3バルブ7cにより、第2圧力調整部が構成されている。
【0034】
エジェクタノズル3は、前記装置本体2に接続する側となるコンバージェント部11と、該コンバージェント部11の先端側に設けられたダイバージェント部12とを有するものである。コンバージェント部11は、内管13とこれに外挿された外管14とからなる二重配管構造のもので、内管13内に前記のインナー流路(メイン流路)20を形成し、内管13と外管14との間に前記のアウター流路(サブ流路)30を形成したものである。このコンバージェント部11は、装置本体2に接続する側では内管13及び外管14はほぼ円筒状になっており、その後、ダイバージェント部12側に向かうに連れて、内管13及び外管14は共に漸次縮径するテーパー形状(先細り形状)になっている。
ここで、本実施形態では内管13の先端部が、内管13において最も内径が小となるスロート部13aとなっており、このスロート部13aの開口面積A1が、後述するようにインナー流路20を流出した作動ガス(原料粉末を含む)の膨張比を決定する要素の一つとなっている。
【0035】
ダイバージェント部12は、コンバージェント部11の外管に連続して形成されたもので、漸次拡径するテーパー形状(先太り形状)になっている。
このような構成のもとに、インナー流路20に導入された不活性ガスは、コンバージェント部11を通過してダイバージェント部12に流入し、その後ダイバージェント部12の出口12aから噴射されるようになっている。また、アウター流路30に導入された不活性ガスは、コンバージェント部11を通過してダイバージェント部12に流入し、その後ダイバージェント部12の出口12aから噴射されるようになっている。
【0036】
ここで、インナー流路20、アウター流路30に導入される不活性ガスは、いずれも40気圧〜50気圧程度の高圧で流入させられるため、エジェクタノズル3出口ではその流速が例えばマッハ3程度の超音速になる。したがって、このような超音速では、図1中に矢印で示すようにインナー流路20を流出した一次流れ21とアウター流路30を流出した二次流れ31とは互いに混ざりにくくなっている。すなわち、ダイバージェント部12では、図1中二点鎖線で示すようにその内壁面側に、一次流れ21と二次流れ31との間の境界15が形成されるようになる。
【0037】
このような境界15が形成されることにより、特にダイバージェント部12の出口12aから流出する一次流れ21の断面積A2は、出口12aの開口面積より小さくなる。また、境界15が形成される位置を適宜に変化させることにより、出口12aでの一次流れ21の断面積A2も変化するようになる。よって、この断面積A2を変化させることで、エジェクタノズル3での一次流れ21の膨張比を、適宜に調整することができるようになっている。すなわち、一次流れ21の膨張比は、前記のスロート部13aの開口面積A1と前記断面積A2との比(面積比)によって決まる。したがって、開口面積A1は固定されているため、断面積A2を変化させること、つまり境界15の形成位置を変化させることにより、一次流れ21の膨張比を調整し、この一次流れ21の速度分布を適正化することができるようになっている。
【0038】
また、前記第1バルブ7a、第2バルブ7b及び第4バルブ7dからなる第1圧力調整部と、第2バルブ7b及び第3バルブ7cからなる第2圧力調整部とは、これらを適宜に調整することにより、前記インナー流路20を流れる作動ガスの単位時間当たりの流量と、前記アウター流路30を流れる作動ガスの単位時間当たりの流量との比(以下、流量比と記す)を、所望の比、例えば20:1〜1:1となるように調整できるようになっている。
【0039】
すなわち、インナー流路20とアウター流路30との間の流量比は、基本的(近似的)には、インナー流路20に流入する作動ガスの圧、及びインナー流路20のスロート部13aの開口面積A1によって決まる流量と、アウター流路30に流入する作動ガスの圧、及びダイバージェント部の途中に空力的に形成されるアウター側の境界15によって形成される二次流れ31のスロート断面積A3(二次流れ31の断面積が最小になる点の断面積)によって決まる流量との比によって決まる。したがって、インナー流路20のスロート部13aの開口面積A1は予め設計され、形成されて固定されていることから、第1圧力調整部と第2圧力調整部とを適宜に調整して前記境界15によって形成される二次流れ31のスロート断面積A3を調節することで、前記の流量比を所望の比、例えば20:1〜1:1となるように調整することができる。これにより、ダイバージェント部12の内壁面に対する前記境界15の形成位置も、適宜に調整することができる。つまり、アウター流路30での流量をインナー流路20での流量に対して相対的に大きくすることにより、前記境界15の形成位置をダイバージェント部12の内壁面側からダイバージェント部12の中心側に移動させることができる。逆に、アウター流路30での流量をインナー流路20での流量に対して相対的に小さくすることにより、前記境界15の形成位置をダイバージェント部12の中心側からダイバージェント部12の内壁面側に移動させることができる。
【0040】
このような構成からなるコールドスプレー装置1によって対象物9の対処箇所に皮膜を形成するには、まず、対象物9に形成する皮膜の品質等を考慮し、作動ガスの圧力を設定する。すなわち、前記の一次流れ21の膨張比が適正膨張となるようにし、この一次流れ21の速度分布を適正化するべく、前記第1圧力調整部と前記第2圧力調整部とを制御し、インナー流路20を流れる作動ガスの流量とアウター流路30を流れる作動ガスの流量との比を適宜に設定する。具体的には、前記各バルブ7a〜7dを適宜な開度で開くことにより、作動ガスをインナー流路20及びアウター流路30の両方に流入させつつ、原料粉末を所定の量(濃度)でインナー流路20に流入させる。
【0041】
その際、前記の流量比については、20:1〜1:1となるように調整するのが好ましい。流量比が20:1より大きくなると、アウター流路30を流れる作動ガスの単位時間当たりの流量が、インナー流路20を流れる作動ガスの単位時間当たりの流量より相対的に小さくなり過ぎることにより、アウター流路30を出た二次流れ31によってインナー流路20を出た一次流れ21を十分にサポート(規制)できなくなり、一次流れ21を適正に膨張させられなくなるおそれがあるからである。また、一次流れ21と二次流れ31との間の境界15が良好に形成されず、一次流れ21中の原料粉末がダイバージェント部12の内壁面に接触し、ここに付着するおそれが生じるからである。
【0042】
また、流量比が1:1より小さくなると、インナー流路20を流れる作動ガスの単位時間当たりの流量が、全噴射流量に対して相対的小さくなり過ぎ、インナー流路20を出た一次流れ21中の原料粉末の噴射量が少なくなり、原料粉末の噴射効率が低下するからである。
【0043】
このように前記流量比を適宜に設定し、その状態で作動ガス供給源4から作動ガスを導出すると、作動ガスは一部粉原料粉末を同伴し搬送してエジェクタノズル3に流入し、設定した流量比でインナー流路20、アウター流路30を超音速で流れる。
そして、コンバージェント部11を出てダイバージェント部12に出ると、アウター流路30を出た作動ガスは二次流れ31を作り、ダイバージェント部12の内壁面に沿うようにして流れる。すると、アウター流路30に流入する作動ガスは、前記したようにインナー流路20に流入する作動ガスより低温(例えば400℃)になっており、ダイバージェント部12で膨張することによってさらに低温下するため、ダイバージェント部12を流れることでその内壁面を冷却する効果を発揮する。
【0044】
一方、インナー流路20を出た原料粉末及び作動ガスは、一次流れ21を作り、ダイバージェント部12の中央部を流れる。その際、この一次流れ21は、前述したように二次流れ31と混ざりにくくなっているため、二次流れ31との間に境界15を形成する。したがって、一次流れ21は、ダイバージェント部12において二次流れ31の影響を受け、これにサポートされることにより、その膨張が規制される。
【0045】
すなわち、第1圧力調整部と第2圧力調整部とで前記流量比を適宜に調整しておくことにより、一次流れ21に対する二次流れ31の影響力(規制力)を適正に発揮させ、一次流れ21と二次流れ31との間の境界15を、ダイバージェント部12の内壁面に対して適宜な位置に形成させておく。これにより、一次流れ31を形成する作動ガスの膨張を適正化し、これに搬送される原料粉末の速度分布を適正化することができる。そして、このように原料粉末は適正化された速度分布で噴射され、作動ガスとともに対象物9に衝突させられることにより、対象物9に形成される皮膜は、その厚さ等について、予め設定された通りの良好な品質のものとなる。
【0046】
したがって、本実施形態のエジェクタノズル3及びこれを備えたコールドスプレー装置1によれば、インナー流路20を出た原料粉末(皮膜材料)及び作動ガスの膨張を適正化し、原料粉末の速度分布を適正化することができるので、所望の高品質の皮膜を形成することができる。
【0047】
また、二次流れ31を形成することで、原料粉末を同伴する一次流れ21がダイバージェント部12の内壁面に接触するのを抑制し、該内壁面に原料粉末が付着するのを防止することができる。したがって、作動ガスの流れの乱れを防止して原料粉末の速度分布を目的とする速度分布にすることができ、これにより、高品質の(所望の)皮膜を形成することができる。
【0048】
また、ヒーター8a〜8cにより、アウター流路30に供給する作動ガスの温度をインナー流路20に供給する作動ガスの温度より低くし、したがってアウター流路30に流入する作動ガスがダイバージェント部12の内壁面を冷却する効果を発揮するようにしたので、ダイバージェント部12の内壁面が加熱されるのを抑えて原料粉末(皮膜材料)がダイバージェント部12の内壁面に付着するのをより確実に防止することができる。よって、作動ガスの流れの乱れや、つまりを防止して原料粉末の速度分布を目的とする速度分布にすることができ、所望の高品質の皮膜を形成することができる。
【0049】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では本発明に係るヒーターを、第1ヒーター8a、第2ヒーター8b、第3ヒーター8cによって構成したが、本発明はこれに限定されることはない。基本的には、インナー流路20に供給する作動ガスの温度が、アウター流路30に供給する作動ガスより高くなるように加熱できる構成であれば、いずれの構成も採用可能である。
【0050】
また、作動ガス供給源4からエジェクタノズル3への作動ガスの流路についても、第1配管系6a〜第4配管系6dに限定されることなく、種々の構成が採用可能である。
さらに、第1圧力調整部、第2圧力調整部についても、これらを構成する各バルブが前記した第1バルブ7a〜第4バルブ7dに限定されることなく、種々の構成が採用可能である。
【0051】
また、前記実施形態では、エジェクタノズル3のコンバージェント部11を構成する内管11を、コンバージェント部11とダイバージェント部12との境目まで延びるように形成しているが、例えばダイバージェント部12側に僅かに延び出て形成してもよい。このように構成しても、インナー流路20とアウター流路30とを形成し、これによって一次流れ21と二次流れ31を形成することにより、前述したように高品質の皮膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…コールドスプレー装置、2…装置本体、3…エジェクタノズル、4…作動ガス供給源、5…粉体供給部、6a…第1配管系、6b…第2配管系、6c…第3配管系、6d…第4配管系、7a…第1バルブ、7b…第2バルブ、7c…第3バルブ、7d…第4バルブ、8a…第1ヒーター、8b…第2ヒーター、8c…第3ヒーター、9…対象物、11…コンバージェント部、12…ダイバージェント部、13…内管、14…外管、15…境界、20…インナー流路、21…一次流れ、30…アウター流路、31…二次流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膜材料を作動ガスとともに固相状態のまま対象物に衝突させ、皮膜を形成するコールドスプレー装置におけるエジェクタノズルであって、
前記皮膜材料及び前記作動ガスを供給する側となるコンバージェント部と、該コンバージェント部の先端側に設けられたダイバージェント部とを有し、
前記コンバージェント部は内管と外管とからなる二重配管構造とされ、
前記ダイバージェント部は前記コンバージェント部の外管に連続して形成され、
前記内管内には前記皮膜材料及び前記作動ガスが供給されるように構成され、
前記内管と前記外管との間には、前記作動ガスのみが供給されるよう構成されていることを特徴とするコールドスプレー装置用エジェクタノズル。
【請求項2】
請求項1記載のコールドスプレー装置用エジェクタノズルを備えたコールドスプレー装置であって、
前記内管内に供給する作動ガスの圧力を調整する第1圧力調整部と、前記内管と前記外管との間に供給する作動ガスの圧力を調整する第2圧力調整部と、を有してなることを特徴とするコールドスプレー装置。
【請求項3】
前記作動ガスを加熱するヒーターが備えられ、
前記ヒーターは、前記内管内に供給される作動ガスの温度を、前記内管と前記外管との間に供給される作動ガスの温度より高くするように構成されていることを特徴とする請求項2記載のコールドスプレー装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−52186(P2012−52186A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195748(P2010−195748)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】