説明

コーン・エミッタの形成方法

【課題】工程中の制御パラメータを少なくして、製造手順を簡素化するとともに、容易にコーン・エミッタの分布を制御し得る。
【解決手段】BN薄膜の表面にコーン・エミッタを形成する方法であって、基板表面に形成した平坦な表面を持つアモルファスBN薄膜表面に紫外光を照射して、結晶化することを特徴とするコーン・エミッタの形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BN薄膜の表面にコーン・エミッタを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1に示すようにsp3−結合性BNコーン・エミッタが開発されており、ディスプレイ、電子写真、照明等、幅広い応用範囲を持つ電界電子放出の材料として用途開発がなされている。
この従来のコーン・エミッタの製造方法では、レーザとプラズマを複合化したCVDプロセスを用いるため、プロセス自体の制御パラメータが多く、作製プロセス自体の制御と最適化に努力を要する。又、コーン・エミッタの分布の制御が必ずしも容易ではないなどの難点があった。
【特許文献1】特許第3783057号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記のような問題を解決し、工程中の制御パラメータを少なくして、製造手順を簡素化するとともに、容易にコーン・エミッタの分布を制御し得るようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を以下の発明により解決した。
【0005】
発明1は、 BN薄膜の表面にコーン・エミッタを形成する方法であって、基板表面に形成した平坦な表面を持つアモルファスBN薄膜表面に紫外光を照射して、結晶化することを特徴とするコーン・エミッタの形成方法
【0006】
発明2は、発明1のコーン・エミッタの形成方法において、前記紫外光は、一定の周期をもってパルス照射することを特徴とする。
【0007】
発明3は、 発明1又は2のコーン・エミッタの形成方法において、紫外光の照射は、ガス雰囲気中で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、BN薄膜の生成とコーン・エミッタの生成とを同時に行う必要はないとの知見に基づきなされたものであり、予め得られたアモルファスBN薄膜を用いることで、コーン・エミッタを容易に生成し得るとの知見に基づくものである。
ここでは、予めプラズマCVD等により作製した平滑な(アモルファス)BN薄膜を、後に紫外光照射することによりコーン形状をもつ電子エミッター薄膜として形成し直すもので、特にコーン・エミッタの配列制御に威力を発揮し、電界電子放出素子としての性能強化と、プロセスの制御性の向上・簡易化をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
アモルファスBN薄膜の作製。
コーン・エミッタを有しないアモルファスBN薄膜を形成する従来周知の方法を用いることが可能である。代表例としては、プラズマCVD,熱CVD等により、ホウ素原料ガスとしてB2H6、BCl3等、窒素原料ガスとしてNH3等を用いる。基板としては、シリコン等の半導体材料、ステンレス、ニッケルなどの金属材料、ガラス、サファイヤ等を用いる。
基板上に作製された上記アモルファスBN薄膜を、光導入用光学窓を持つ合成チャンバーに設置し、チャンバー内雰囲気を不活性ガス(Arなど)、又は、不活性ガスにNH3ガスなどを混入したもので満たし、チャンバー外から光学窓を通して紫外光(代表的にはArFレーザ光:波長193nm)を薄膜表面に照射する。この際、NH3等の窒素を含有するガスを推奨するのはBNの組成変化(Nが抜けやすい)を抑制する効果があるためである。又、これらの雰囲気は、プラズマ化することで、プロセス時間の短縮などの効果がある。また、生成されるコーン・エミッタの形状、配置、大きさなどは、以下のようにして制御することが可能である。
(形状・大きさの制御)
レーザ光エネルギー密度(フルエンス)により、著しくコーン形成速度が異なる。したがって、形成に必要な時間はフルエンスに依存する。この際、コーン形状(アスペクト比)もフルエンスに依存する。一方、コーン形成には、レーザ照射により一時的に表面上で遊離した原子の拡散・再配置が大きな役割を果たす。この遊離原子の発生・表面密度はレーザフルエンス及びレーザ繰り返し周波数に依存し、表面遊離原子の拡散は基板温度に依存する。したがって、レーザフルエンス、レーザ周波数、及び基板温度の3者の最適化により、所望の形状と大きさ(これはプロセス時間に依存)のコーン形成が可能になる。(配置の制御)
例1:半導体プロセスの常套手段により(例:フォトレジストを用いたマスキングパターンの形成・アモルファスBN薄膜デポジション・メカニカルエッチング・マスクパターン除去)等により、数十μm径の正方形のアモルファスBN薄膜単位を基板上に望ましい格子間隔に形成し、その薄膜に現行手法を用いることにより、格子状の規則的な分布を持つコーン・エミッタレイの作成が可能になる。同様に、予めもとになるアモルファスBN薄膜単位を望みの配置に分布させておけば、レーザ照射によって、その配置を反映したコーン・エミッタ分布が得られる。
例2:照射レーザ光をマスキングパターンを透過させることで、レーザ光強度分布自体を例えば格子状にパターン化し、その格子パターンを反映したエミッター分布が形成できる。
図1は、以下の実施例を実施するために使用した装置の概略図である。
ガスプラズマとレーザ照射とは異なるタイミングで行われ、アモルファスBN薄膜を生成するときにガスプラズマを使用し、コーン・エミッタを生成するときにレーザ照射を行えるようにしてある。
そして、これらの操作を、チャンバー内から基板を出し入れしなくとも連続して順次行えるようにしてある。
なお、アモルファスBN薄膜とレーザ照射とを別個の装置で行うことを妨げるものではない。
【実施例】
【0010】
以下の本発明を実証するための実験例を示す。
アモルファスBN薄膜の作成
本実施例では、表1に示す条件にてモルファスBN薄膜を得た。
【0011】
【表1】


LOT No.1の表面写真を図3に示す。 他のロットのアモルファスBN薄膜も同様な表面であった。
【0012】
コーン・エミッタの生成
前記表1にて得られたモルファスBN薄膜を表2に示すようにして、コーン・エミッタを生成した。
【0013】
【表2】

得られたコーン・エミッタの内LOT No.1を走査型電子顕微鏡で撮影した結果を図2に示す。
【0014】
得られた薄膜表面を走査型電子顕微鏡で撮影した結果(図2参照)
ミクロンオーダーサイズのコーン・エミッタが自己組織的に形成していることが分かる。この形状はコーン先端での電界集中を高めるため、電子が出やすくなる。一方、電界電子放出自体は本BN材料の物性と表面構造により可能となっている。
なお、この薄膜の結晶構造はx線回折によりsp3−結合性6H−BN、sp3−結合性10H−BNの混合相であった。
この薄膜の電界電子放出特性を測定した結果、レーザプラズマ複合化プロセスによる既知のsp3−結合性BN薄膜同様の優れた特性(特許文献1の記載参照)が得られていることが分かった。
図4に表2のLot No.1の電界電子放出特性測定データを示す。電流値のリミッターまで出たため、飽和しているが、実際はさらなる電流密度I(mA/cm2)の増加が見込める。
【産業上の利用可能性】
【0015】
(1)FED(ディスプレイ)。エミッター・アレイ化(配列の規則化)が容易になる。
(2)特殊光源。エミッター素子の作成が容易になり、低コスト化につながる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製法に用いる装置の概略図。
【図2】実施例中表2のLot No.1の高密度BN薄膜の走査型電子顕微鏡像を示す写真
【図3】実施例中表1のLot No.1のモルファスBN薄膜表面の走査型電子顕微鏡像を示す写真
【図4】表2のLot No.1の試料からの電界電子放出特性を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BN薄膜の表面にコーン・エミッタを形成する方法であって、基板表面に形成した平坦な表面を持つアモルファスBN薄膜表面に紫外光を照射して、結晶化することを特徴とするコーン・エミッタの形成方法
【請求項2】
請求項1に記載のコーン・エミッタの形成方法において、前記紫外光は、一定の周期をもってパルス照射することを特徴とする。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコーン・エミッタの形成方法において、紫外光の照射は、 ガス雰囲気中で行うことを特徴とする。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−238504(P2009−238504A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81441(P2008−81441)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】