説明

ゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド

【課題】座屈性とゴムのペネトレ−ションを改良した新規なスチールコードに関するものであり、特にゴムクロ−ラの耐久性を向上したものである。
【解決手段】複数のフィラメントからなる1本のコアストランドの周辺に、複数のフィラメントからなるシ−スストランドを撚り合わせてなるスチ−ルコ−ドであって、シ−スストランドの巻き付け角度θが12度以上であることを特徴とするゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ドであり、好ましくは、シ−スストランドの巻き付け角度θが、12〜25度であるスチ−ルコ−ド。1‥コアストランド、2‥シ−スストランド、3‥コアフィラメント、4‥シ−スフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴムクロ−ラに埋設されるスチ−ルコ−ドに関するものであり、更に言えば、ゴムのペネトレ−ションと座屈性を改良したスチールコードにかかるものである。
【背景技術】
【0002】
無端状のゴムクロ−ラは車両等に装着されて使用に供される際、大きな張力がかかる。このため、抗張体としてスチ−ルコ−ドが列状をなしてその長手方向に埋設されている。即ち、ゴムクロ−ラは、一般的には内部にスチ−ルコ−ドを埋設した有端状のゴムクロ−ラ基体を得、その両端から突出させたスチ−ルコ−ドを重ね合わせ、この部位を更にゴム加硫して無端状のゴムクロ−ラとしている。
【0003】
用いられるスチ−ルコ−ドは内部にゴムの侵入(ゴムのペネトレ−ション)性の良いスチールコードが好んで用いられるものであり、接着性の向上や腐食の原因となるスチ−ルコ−ド内の水分をなくす目的である(特許文献1)。このため、使用されるスチ−ルコ−ドはゴムのペネトレ−ション性を良くするため、コアストランド径とシースストランド径とを同径とし、シースストランドの巻き付け角度は約6〜12度程度にしている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−114143号公報
【0005】
ゴムクロ−ラのエンドレス部位はかかるスチ−ルコ−ドが重なり合っている部位であり、スプロケット及びアイドラ−に巻き掛けして使用に供する際に、スチ−ルコ−ドのオーバラップ部の内側に位置するスチ−ルコ−ドがスプロケット等に巻き掛かった際の圧縮力を受けて座屈し、巻き掛かっていない際には正常な状態に戻るという繰り返しの歪みを受ける。このため、スチ−ルコ−ドのオ−バ−ラップ部の内側に位置するスチ−ルコ−ドが繰り返しの座屈のためにフィラメントが疲労切断することがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術に鑑みてなされたものであり、座屈性とゴムのペネトレ−ションを改良したスチールコードを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、複数のフィラメントからなる1本のコアストランドの周辺に、複数のフィラメントからなるシ−スストランドを撚り合わせてなるスチ−ルコ−ドであって、シ−スストランドの巻き付け角度θが12度以上であることを特徴とするゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ドであり、好ましくは、シ−スストランドの巻き付け角度θが、12〜25度であるスチ−ルコ−ドである。
【0008】
一方、シ−スストランドの巻き付け密度ρは、0.96以下であり、好ましくは、密度ρが、0.90〜0.96であるスチ−ルコ−ドがよい。
【0009】
更に具体的には、巻き付け角度θ及び巻き付け密度ρを複合的に考慮すれば、複数のフィラメントからなる1本のコアストランドの周辺に、複数のフィラメントからなるシ−スストランドを撚り合わせてなるスチ−ルコ−ドであって、シ−スストランドの巻き付け角度θが14.3度以上であり、シ−スストランドの巻き付け密度ρが0.96以下であることを特徴とするゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド(請求項7)にかかるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上の通りであり、座屈性とゴムのペネトレ−ションが改良されたスチールコードが提供できたものであり、ゴムクロ−ラの耐久性が著しく向上したものである。(請求項1〜2)の構成により、座屈によるフィラメント切断を抑制することができ、かつ、そのためのコアストランド径とシースストランド径(請求項5)を特定し、更には、シースストランドピッチPを適切に設定することができる。そして、(請求項3〜4)の構成により、ゴムのペネトレ−ション性が良いスチールコードを設定することができたものである。
【0011】
勿論、座屈性とゴムのペネトレ−ションの両方が同時に改良されたスチールコ−ドであるのが最も好ましく、(請求項7)の規定によって両者が満足できるものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、上記したようにゴムクローラに使用されるスチールコードのフィラメントが疲労切断することがあるため、切断が起きない巻き付け角度を規定し、かつゴムペネ性が確保される巻き付け密度を規定してそれを満たすコードの径を明確にしたものである。
【0013】
一般に、スチ−ルコードを構成するシースストランドの巻き付け角度は、スチ−ルコード長手方向に対して大きければ大きいほど巻き付け数も多くなるので,折れにくさという点では向上する。しかしスチ−ルコードの巻き付け数が多くなるということは、その分スチ−ルコード間にゴムが侵入しにくくなり、侵入するゴムの量も少なくなるので、水分が入ると錆やすくなる。本発明はフィラメントの疲労座屈が発生せず、かつゴムペネトレ−ション性が良いスチールコードを確保できるようにしたものである。
【0014】
本発明の目的を達成するために選択された構成は、シ−スストランドの巻き付け角度θ(請求項1〜2)と巻き付け密度である(請求項3〜4)。先ず、巻き付け角度θについていえば、図1に示すようにコアストランド1の長手方向とシ−スストランド2の交差角度であり、1ピッチの巻き付け長さをPとすれば、特に展開図より分かる通り、tanθ=π(D1+D2)/Pとなり、これよりθ=tan−1π(D1+D2)/Pで求められる。尚、コアストランドの直径をD1、シ−スストランドの直径をD2とする。
【0015】
かかる巻き付け角度θの値(請求項1〜2)としては、角度θが大きくなれば座屈の現象が少なくなるが、一方で、シ−スストランド同士の隙間が減ってゴムペネトレ−ションが悪くなるという問題が生じる。数多くの実験値から座屈の現象が少なくなる実用的な数値としては、12〜25度の数値が特に優れていることが判明した。
【0016】
次に、巻き付け密度ρ(請求項3〜4)についていえば、図1に示すLにシ−スストランド(n本)が並ぶこととなるので、cosθ=L/π(D1+D2)、L・ρ=nD2より、ρ=nD2/π(D1+D2)cosθとなる。そして、通常のゴムクロ−ラに用いられるスチ−ルコ−ドにあってはn=6であるので、ρ=6・D2/π(D1+D2)cosθが得られる。かかる巻き付け密度ρは上記したシ−スストランド同士の隙間を表すものといってよく、巻き付け密度ρは1未満であり、実用的なペネトレ−ションを考えると、ρは0.90〜0.96の範囲である。
【0017】
コアストランド径Daとシ−スストランド径Dbの比Da/Dbが、1.01〜1.15であり(請求項5)、通常のゴムクロ−ラ用のスチ−ルコ−ドにあっては、n=6であり(請求項6)、実際の使用に供されるスチ−ルコ−ドの具体例としては、(3+9)×7、(3+8)×7、(3+9+15)×7、7×7である。
【実施例】
【0018】
図2は本発明のスチ−ルコ−ド((3+9)×7)の断面図であり、コアストランド1及びシ−スストランド2共にコアフィラメント3が3本、シ−スフィラメント4が9本であった。ストランド径としては、コアストランド径が1.16mm、シ−スストランド径が1.08mmであった。又、シスストランドピッチPは27mmであった。
【0019】
ここで、スチ−ルコ−ドの巻き付け角度θ及び巻き付け密度ρを変化させて得られたスチ−ルコ−ドを実際のゴムクロ−ラに使用し、座屈の発生及びゴムのペネトレ−ションを観察した。尚、試験に用いたクロ−ラは幅寸法が30cm、長さ方向に埋設された芯金の数は90本、芯金の中央間隔が52.5mmであり、クロ−ラの用途はミニショベル用のものである。実験の結果は表1に示す通りである。
【0020】
座屈試験方法は屈曲試験機で30万回屈曲試験を行ったものであり、対抗するスプロケットの歯数は21であった。屈曲後、スチ−ルコ−ドのオ−バ−ラップ部を解剖してスチ−ルコ−ドの切断の有無を確認した。一方、ゴムのペネトレ−ション試験は、クロ−ラから取り出したスチ−ルコ−ドをほぐして確認した。
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、コアストランドに対してシ−スストランドの巻き付け角度θ及び巻き付け密度ρを選択することにより、従来技術ににはない大きな効果を奏することが判明したものである。このことから、本発明のスチ−ルコ−ドは全てのゴムクロ−ラに採用することが可能であり、これによってゴムクロ−ラの耐久性が特に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1はコアストランドに対するシ−スストランドの巻き付け角度θ、及び巻き付け密度ρを説明する図である。
【図2】図2は本発明のスチ−ルコ−ド((3+9)×7)の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1‥コアストランド、
2‥シ−スストランド、
3‥コアフィラメント、
4‥シ−スフィラメント、
D1‥コアストランドの直径、
D2‥シ−スストランドの直径、
P‥1ピッチの巻き付け長さ、
θ‥シ−スストランドの巻き付け角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィラメントからなる1本のコアストランドの周辺に、複数のフィラメントからなるシ−スストランドを撚り合わせてなるスチ−ルコ−ドであって、シ−スストランドの巻き付け角度θが12度以上であることを特徴とするゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド。
【請求項2】
シ−スストランドの巻き付け角度θが、好ましくは12〜25度である請求項1記載のゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド。
【請求項3】
シ−スストランドの巻き付け密度ρが、0.96以下である請求項1又は2記載のゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド。
【請求項4】
シ−スストランドの巻き付け密度ρが、好ましくは0.90〜0.96である請求項1又は2記載のゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド。
【請求項5】
コアストランド径Daとシ−スストランド径Dbの比Da/Dbが、1.01〜1.15である請求項1乃至3いずれか1記載のゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド。
【請求項6】
シ−スストランドの本数が6本である請求項1乃至4いずれか1記載のゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド。
【請求項7】
複数のフィラメントからなる1本のコアストランドの周辺に、複数のフィラメントからなるシ−スストランドを撚り合わせてなるスチ−ルコ−ドであって、シ−スストランドの巻き付け角度θが14.3度以上であり、シ−スストランドの巻き付け密度ρが0.96以下であることを特徴とするゴムクロ−ラ用スチ−ルコ−ド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−25050(P2008−25050A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198135(P2006−198135)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】