説明

ゴム物品用補強材およびそれを用いたタイヤ

【課題】製造加工時における伸張性を確保しつつ、特にタイヤに適用した際に周方向剛性を高めることが可能なゴム物品用補強材およびそれを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】芯線材1と、その周りに巻き付けられた6本以上の巻付け線材dとからなるゴム物品用補強材である。芯線材1が3%以上の切断伸びを有し、巻付け線材2の外接円の平均直径をdとしたとき、隣接する巻付け線材2間の距離の最大値Gmaxが、ゴム物品中で、下記式、
0<Gmax≦3×d
を満足し、かつ、隣接する巻付け線材2間の距離の総和Gtotalが、加工前またはゴム物品から取り出してゴムを除去した状態で、下記式、
total≧6×d
を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品用補強材(以下、単に「補強材」とも称する)およびそれを用いたタイヤに関し、詳しくは、タイヤをはじめとする各種ゴム物品に好適に適用可能なゴム物品用補強材およびそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイヤやホースなどのような円管状のゴム物品において、その円管周方向の剛性や強度を補強するために、繊維材料が使用されている。例えば、空気入りタイヤのクラウン部分には、繊維で補強されたベルト層が配置されており、これにより、タイヤが高速回転した際に働く遠心力でタイヤのクラウン部分がせり出すことを防止するなどによって、タイヤ耐久性を向上させている。また、コーナリングの際には、タイヤ周方向の剛性がベルトの面内剛性にも寄与し、横力発揮に寄与している。
【0003】
ベルト層として、コード方向が互いに交錯するベルト層を、そのコード角度をタイヤ周方向に向けて配置することで、周方向剛性を高めることは可能であるが、さらなる周方向剛性を得るために、タイヤ周方向に新たな補強層を設けることもある(例えば、特許文献1等)。
【特許文献1】特開2007−137199号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように、補強線材を高角度で設置したり、タイヤ周方向に別途設けると、タイヤ周方向の剛性は得られるものの、タイヤ製造工程での作業性や歩留まりは悪化することになる。
【0005】
これに対し、複撚りのHE(High Elongation)コードや、波形に型付けしたコードをタイヤ周方向に螺旋巻きしたコード層が提案されているが、この場合、製造工程での作業性は改善されるものの、一方で剛性が低下してしまう。そのため、充分な剛性を得るためには、通常のスチールコードより多くの量を巻きつけなければならず、製品の重量が増大するという問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、製造加工時における伸張性(伸縮性)を確保しつつ、特にタイヤに適用した際に周方向剛性を高めることが可能であって、タイヤの重量増等の他の問題を生ずることがないゴム物品用補強材およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、下記構成とすることにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のゴム物品用補強材は、芯線材と、該芯線材の周りに巻き付けられた6本以上の巻付け線材とからなるゴム物品用補強材において、
前記芯線材が3%以上の切断伸びを有し、前記巻付け線材の外接円の平均直径をdとしたとき、隣接する該巻付け線材間の距離の最大値Gmaxが、ゴム物品中で、下記式、
0<Gmax≦3×d
を満足し、かつ、隣接する該巻付け線材間の距離の総和Gtotalが、加工前またはゴム物品から取り出してゴムを除去した状態で、下記式、
total≧6×d
を満足することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の補強材においては、前記芯線材の1.5%伸張時における張力が、破断荷重の1/3以下であることが好ましい。また、全線材のうち少なくとも1本が金属線材であることが好ましく、この場合、好適には、前記金属線材がスチールからなる。さらに、本発明においては、前記芯線材が、波形若しくは螺旋状に型付けされた1本の線材からなるか、または、波形若しくは螺旋状に型付けされた複数本の線材を撚り合わせずに束ねてなることが好ましい。
【0010】
また、本発明のタイヤは、上記本発明のゴム物品用補強材を用いた補強層が、周方向に少なくとも1層配設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、加硫前の製造加工時における良好な伸張性(伸縮性)を確保しつつ、加硫後には高剛性となって、特にタイヤに適用した際に周方向剛性を高めることが可能なゴム物品用補強材およびそれを用いたタイヤを実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の一好適例に係るゴム物品用補強材の幅方向断面図を示す。図示するように、本発明のゴム物品用補強材は、芯線材1と、その周りに巻き付けられた6本以上、図示例では6本の巻付け線材2とからなる。
【0013】
本発明のゴム物品用補強材においては、芯線材1として、3%以上の切断伸びを有するものを用いることが必要である。芯線材1の切断伸びは、好適には4%以上、例えば、4〜15%とする。これにより、補強材をゴム物品に適用する際の成型加硫加工時において、補強材の伸縮性を確保することができ、作業性が確保される。芯線材1の切断伸びが3%未満であると、特に、タイヤの加圧加硫工程におけるモールドフィットが悪化し、トレッドの加硫不良を起こす場合がある。
【0014】
また、本発明の補強材においては、巻付け線材2の外接円の平均直径をdとしたとき、隣接する巻付け線材2間の距離の最大値Gmaxが、ゴム物品中で、下記式、
0<Gmax≦3×d
を満足することが必要である。Gmax>3×dであると、コード内部にゴムが閉じ込められず、伸張時にバネのような変形をしてしまい、十分な剛性が得られなくなる。ここで、隣接する巻付け線材2間の距離とは、隣接する巻付け線材2の外周円間の最短距離(図中のG〜GおよびGmax)である。この距離は、具体的には、ゴム物品を、補強繊維の垂直方向に切断して、補強材断面が観察できるように研磨した後、顕微鏡で拡大し、図1に示すように隣接する巻付け線材間の距離を測定することにより得られる。また、「ゴム物品中で」とは、補強材をゴム物品中に埋設して加硫した後の製品の中での状態を意味し、加工により引っ張られたりすると補強材の断面形状が変化するので、ゴム等に拘束されず、コードに負荷がかかっていない状態を規定したものである。さらに、巻付け線材2の外接円直径として平均値を用いているのは、様々な直径のものが混在している可能性もあるため、より厳密に平均値としたものである。
【0015】
さらに、本発明においては、隣接する巻付け線材2間の距離の総和Gtotalが、加工前またはゴム物品から取り出してゴムを除去した状態で、下記式、
total≧6×d
を満足することが必要である。Gtotal<6×dであると、伸張されたときに巻付け線材同士が接触して、伸張性がなくなり、作業性が悪化する。また、ゴムがコード内部に浸透しにくくなり、製品とした際にコード内部に空間ができてしまう。製品中でコード内にこのような空間があると、コードとして十分な剛性を得られなくなる。ここで、「加工前」とは、補強材をゴム物品中に埋設する前の状態を意味する。
【0016】
本発明の補強材は、上記条件を満足するものであれば、その具体的な構造や材質等については、特に制限されるものではない。芯線材1は、例えば、1〜3本とすることができ、図示するように、螺旋状に型付けされた1本の線材からなるものとする他、波形に型付けされた1本の線材からなるものとすることも好適である。また、芯線材1は、波形若しくは螺旋状(図示例では波形)に型付けされた複数本の線材を撚り合わせずに束ねてなるものとしてもよく、複数本の線状体を撚り合わせてなる撚り構造を有するものとしてもよい。この場合の撚り構造を構成する線状体の本数や撚りピッチは、特に制限されるものではない。巻付け線材についても構造や材質等は芯線材1と同様であり、その本数としては、例えば、6〜15本とすることができる。本発明の補強材としては、具体的には例えば、図1に示すような1+n構造で6≦n≦15である補強材を好適に挙げることができる。
【0017】
また、芯線材および巻付け線材の材質としては、好適には金属、より好適にはスチールを用いる。全線材のうち金属線材を少なくとも1本用いることで、強度および剛性を得易くなるメリットがある。特には、波形または螺旋状に型付けされた金属線材を、芯線材として用いることで、生産性を向上することができる。
【0018】
さらに、本発明においては、芯線材1の1.5%伸張時における張力が、破断荷重の1/3以下であることが好ましい。これにより、補強材が加工工程で拡張されたときにも伸び易く、内側の部材に食い込んで接触する不良も起こしにくくなる。
【0019】
本発明のタイヤは、かかる本発明のゴム物品用補強材を用いた補強層が、周方向に少なくとも1層配設されているものであり、これにより、補強層において所望の高剛性を発揮させて、周方向剛性に優れたタイヤを実現することができる。
【0020】
図2に、本発明のゴム物品用補強材を用いた本発明のタイヤの一例の幅方向片側断面図を示す。図示するタイヤは、少なくとも一対のビードコア21間に跨ってトロイド状に延在する少なくとも1層のカーカス22を骨格とし、その外周に、コード方向が層間で互いに交錯する少なくとも2層の交錯ベルト23a,23bと、上記補強材を略タイヤ周方向に螺旋巻き形成してなる周方向ベルト24a,24bとを、順次配置した構造を有している。図中、符号11はトレッド部、符号12はサイドウォール部、符号13はビード部をそれぞれ示す。
【0021】
本発明のタイヤにおいては、かかる周方向ベルト等の周方向の補強層に、上記本発明の補強材が適用されているものであればよく、これにより本発明の所期の効果を得ることができるものであり、周方向補強層における補強材の打ち込み数や、周方向補強層以外の具体的なタイヤ構造や材質等については、常法に従い適宜設定することができ、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
下記表1中に示す条件に従う芯線材および巻付け線材からなるゴム物品用補強材を作製し、これを、図2に示す構造を有するタイヤサイズ225/45ZR17の乗用車用空気入りラジアルタイヤの周方向ベルト24a,24bに適用して、各供試タイヤを作製した。各供試タイヤは、交錯ベルト23をそれぞれ複数本のスチールコードから構成し、その外周側に、補強コードをタイヤ周方向に対して実質的に0°で螺旋巻き形成した周方向ベルト24a,24bを設けた構造を有している。なお、比較例2の補強コードとしては、下記表1中に示す条件のナイロンコードを用いた。
【0023】
得られた各供試タイヤにつき、製造時におけるトレッドの加硫不良の有無、および、静粛性につき評価した(タイヤ周方向の引張り剛性を高くすると、静粛性が良好となる)。その結果を、下記の表1中に併せて示す。
【0024】
【表1】

*1)Gmax:ゴム物品中での隣接する巻付け線材間の距離の最大値である。
*2)Gtotal:ゴム物品から取り出してゴムを除去した状態での隣接する巻付け線材間の距離の総和である。
【0025】
上記表1に示すように、本発明に係る条件を満足する実施例1,2のタイヤにおいては、トレッドの加硫不良を生ずることなく優れた静粛性を有するタイヤが得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態に係るゴム物品用補強材を示す幅方向断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るタイヤを示す幅方向片側断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係るゴム物品用補強材を示す幅方向断面図である。
【図4】比較例1のゴム物品用補強材を示す幅方向断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 芯線材
2 巻付け線材
11 トレッド部
12 サイドウォール部
13 ビード部
21 ビードコア
22 カーカス
23a,23b 交錯ベルト
24(24a,24b) 周方向ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線材と、該芯線材の周りに巻き付けられた6本以上の巻付け線材とからなるゴム物品用補強材において、
前記芯線材が3%以上の切断伸びを有し、前記巻付け線材の外接円の平均直径をdとしたとき、隣接する該巻付け線材間の距離の最大値Gmaxが、ゴム物品中で、下記式、
0<Gmax≦3×d
を満足し、かつ、隣接する該巻付け線材間の距離の総和Gtotalが、加工前またはゴム物品から取り出してゴムを除去した状態で、下記式、
total≧6×d
を満足することを特徴とするゴム物品用補強材。
【請求項2】
前記芯線材の1.5%伸張時における張力が、破断荷重の1/3以下である請求項1記載のゴム物品用補強材。
【請求項3】
全線材のうち少なくとも1本が金属線材である請求項1または2記載のゴム物品用補強材。
【請求項4】
前記金属線材がスチールからなる請求項3記載のゴム物品用補強材。
【請求項5】
前記芯線材が、波形若しくは螺旋状に型付けされた1本の線材からなるか、または、波形若しくは螺旋状に型付けされた複数本の線材を撚り合わせずに束ねてなる請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム物品用補強材。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム物品用補強材を用いた補強層が、周方向に少なくとも1層配設されていることを特徴とするタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−133011(P2009−133011A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307973(P2007−307973)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】