説明

ゴム物品補強用スチールコードおよびタイヤ

【課題】 波形の型付けを施した場合にあっても、コード本来の健全な断面構造を保持することが可能なコード構造について提案する。
【解決手段】 1〜3本のスチールフィラメントによるコアと、このコアの周りに多数本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列したシースとから成るコードに、2次元に変化する波状またはジグザグ状の型付けを施したコードにおいて、前記コアおよびシースを同一方向かつ同一ピッチで撚り合わせたコンパクト撚り構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ、コンベアベルトおよびホース等のゴム物品の補強材として使用されるスチールコード及びこのスチールコードで補強したタイヤに関し、特にゴム物品の耐久性の向上をはかろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム物品の典型例であるタイヤにおいて、その骨格をなすカーカス、とくにトレッドが設けられるカーカスのクラウン部を補強する手段としては、タイヤの赤道面に対して小さい傾斜角度、例えば15〜35°で延びかつ隣接相互で平行に配列した複数本のコードをゴムで被覆した、プライの複数枚を、プライ間でコードが互いに交差する配置で重ね合わせて成る、ベルトがよく知られている。
【0003】
さらに、トラックおよびバス用並びにオフザロード用など高内圧で使用される重荷重用ラジアルタイヤ、特に扁平のタイヤにおいては、上記構造のベルトによっても剛性が不足するため、タイヤ幅方向に波形またはジグザグ形をなしてタイヤの赤道面に沿って延びる多数本のコードまたはフィラメントを補強素子として、これら補強素子をゴムで被覆したプライの複数層を、上記傾斜配置したコードによるベルトに代えて、または該ベルトに追加して用いることが、特許文献1に提案されている。
【0004】
かような補強素子を用いることによって、タイヤ加硫成型の拡張時にクラウン部の変形や、コードの切断を引き起すことなく、内圧による成長や走行に伴う成長を抑える事ができる。
【0005】
また、波形またはジグザグ形に延びるコードまたはフィラメント(以下、波形コードと総称する)を製造する手段としては、例えば特許文献2に記載された、歯車(ギア)を用いてワイヤーに正弦波形のくせ付け(型付け)を行う手法が知られている。
【特許文献1】特開昭63−232252号公報
【特許文献2】特開昭64−075227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の歯車の噛み込みによる型付けは、時に本来あるべきコードの断面構造を乱すことがある。つまり歯車の噛み込みによる応力により、型付け部分外側の最外層フィラメント相互間の隙間が開いてしまったり、内側の層のフィラメントが外側にはみ出したりする結果、コードの断面構造が乱されるのである。
【0007】
このコードの断面構造に乱れがあると、タイヤ内部での繰り返し疲労により歪集中を引き起こし、フィラメントの切れ、ひいてはコードの破断を招くことがある。コードの破断は、そこを核にしたセパレーションの発生へとつながる可能性があり、タイヤの耐久性を低下させる一因になっていた。
【0008】
そこで、本発明は、波形の型付けを施した場合にあっても、コード本来の健全な断面構造を保持することが可能なコード構造について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、波形の型付けを施した際にコードの型付け部分において断面構造が乱れる原因を鋭意究明したところ、型付けを行うために歯車をコードに噛み込ませた時に歯車とコードの接触圧が高いことにあること、従ってこの接触圧を低減すればよいこと、をそれぞれ見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
(I)1〜3本のスチールフィラメントによるコアと、このコアの周りに多数本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列したシースとから成るコードに、2次元に変化する波状またはジグザグ状の型付けを施したコードであって、前記コアおよびシースを同一方向かつ同一ピッチで撚り合わせたコンパクト撚り構造を有することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0011】
(II)コアのスチールフィラメントの直径が全て同一の径Dcであるとき、第1シースを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本は、下記式(1)を満足する直径Dsを有する上記(I)に記載のゴム物品補強用スチールコード。

1.0<Dc/Ds≦1.25----(1)
【0012】
(III)1〜3本のスチールフィラメントから成るコアの周りに、多数本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列したシースの少なくとも2層を配置して成るコードに、2次元に変化する波状またはジグザグ状の型付けを施したコードであって、前記コアおよびシースを同一方向かつ同一ピッチで撚り合わせたコンパクト撚り構造を有することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0013】
(IV)コアのスチールフィラメントの直径が全て同一の径Dcであるとき、第1シースおよび第2シースのそれぞれを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本は、下記式(1)を満足する直径Dsを有する上記(III)に記載のゴム物品補強用スチールコード。

1.0<Dc/Ds≦1.25----(1)
【0014】
(V)1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスのクラウン部の径方向外側にベルトおよびトレッドをそなえるタイヤであって、該ベルトは上記(I)ないし(IV)のいずれかに記載のゴム物品補強用スチールコードにて補強されたベルト層を少なくとも1枚は有することを特徴とするタイヤ。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、波形の型付けを施した場合にあっても、コード本来の健全な断面構造が保持されるために、波形に型付けしたコードが本来有する性能を十分に発揮し得るコードの提供が可能となる。従って、本発明のコードをベルトに適用したタイヤでは、所期した剛性の向上が達成される結果、耐久性に優れたタイヤの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明のスチールコードについて、図面を参照して詳しく説明する。
本発明のスチールコードは、1〜3本のスチールフィラメントによるコアと、このコアの周りに多数本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列したシースの1層または2層とから成るものであって、その典型例であるコードを図1および図2に示す。
【0017】
すなわち、図1(a)にコード断面図および同図(b)に斜視図を示すように、該コードは、交差線を付した3本のスチールフィラメントによるコア1と、このコア1の周りに斜線を付した9本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列したシース2とを有し、これらコア1およびシース2を同一方向かつ同一ピッチで撚り合わせたコンパクト撚り構造を付与した上で、例えば上述した特許文献2に記載の歯車を用いたくせ付けを施して、波形の型付けを付与したところに特徴がある。
【0018】
同様に、図2(a)および(b)に示すコードは、交差線を付した3本のスチールフィラメントによるコア1と、このコア1の周りに斜線を付した9本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列した第1シース2と、さらにこの第1シース2の周りに15本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列した第2シース3とを有し、これらコア1、第1シース2および第2シース3を同一方向かつ同一ピッチで撚り合わせたコンパクト撚り構造を付与した上で、波形の型付けを付与したところに特徴がある。なお、シースは3層以上でもよく、その場合も本発明の適用によって、後述と同様の作用効果を得ることができる。
【0019】
ここで、図1および図2のコードをコンパクト撚り構造としたのは、波形の型付けを付与する際、特に型付け部分において健全なコード断面構造を保持するために、歯車への噛みこみ時に歯車とコードとの接触圧を低減させるためである。
【0020】
すなわち、従来の一般的な複撚りコード、例えば図3に示す3+9構造や、図4に示す3+9+15構造は、それを歯車へ噛み込ませた際の様子をコンパクト撚り構造のコードと対比して図5に示すように、歯車と点で接触するために、接触圧が高くなる。その結果、局所的な型付けとなり易く、コード断面構造が崩れやすいのである。
【0021】
一方、コンパクト撚り構造のコードは、図5に示すように、歯車と線接触となるため、型付け時もコード断面構造が崩れにくいのである。
【0022】
従って、コンパクト撚り構造のコードに波形の型付けを施せば、その型付け時にコード断面構造に乱れが生じないため、波形型付けコード本来が備えるべき性能、つまりタイヤ加硫成型の拡張時におけるクラウン部の変形やコードの切断を抑制する特性を十分に備えたコードが得られる。
【0023】
なお、コードに施す波形の型付けは、図1または図2に示した、波長tが20mm以上であることが推奨される。なぜなら、波長tが20mm未満と型付ピッチが小さいと、製造が困難になるばかりか疲労性の低下につながるからである。
【0024】
また、上記のコードをゴム物品、とりわけタイヤの補強材として適用するに当り、セパレーション故障を回避するために、コード内部にまでゴムを浸入させることが肝要である。そのためには、
図5に示すように、シース2を構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本は、下記式(1)を満足する直径Dsを有するものとする。

1.0<Dc/Ds≦1.25----(1)
【0025】
同様に、シースが複層の場合は、図6に示すように、第1シース2および第2シース3のそれぞれを構成するスチールフィラメント、のうち少なくとも1本は、上記式(1)を満足する直径Dsを有するものとする。
【0026】
すなわち、各シースを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本は、コアのフィラメントより細径(1.0<Dc/Ds)とすることによって、シースフィラメント間に隙間が生ずる場所がでてくる一方、Dc/DSが1.25を超えると、補強コードとして本来必要な強力が確保しにくくなる。
【0027】
さらに、コアのフィラメント本数を1ないし3本としたのは、3本を超えると、コード形状を安定させるのが困難になり、製造が難しくなる。一方、シ−スの本数は、最密に充填し、強力を確保しつつ、歯車と線接触し、乱れを発生させないために、当該シースの内層、つまりコアまたは第1シースの本数をnとしたとき、(n+6)本とすることが好ましい。
【0028】
さて、図1および2、さらには図5および6に例示したスチールコードは、その複数本を所定の間隔を置いて互いに並行に配列してゴムシートに埋設してなるプライを、タイヤのベルトに適用してカーカスの補強に供するもので、タイヤの構造としては、在来のタイヤに則るものでよい。例えば、図7に示すタイヤ構造が有利に適合する。なお、同図において、符号20がビードコア、21がこのビードコア20にタイヤの内側から外側に巻き回したカーカス、22がこのカーカス21上に配置する少なくとも4層、図示例で6層のベルトおよび23はカーカス21のクラウン部に配置するトレッドである。
【実施例】
【0029】
図1、図2、図5および図6に示した構造のスチールコードと、比較として図3および図4に示した構造のスチールコードを、表1に示す仕様の下に作製した。ここで作製したスチールコードについて、波形に型付け後の、コード1本当りの引張り強さを測定した。その測定結果を、同じフィラメント本数のコード同士を比較するため、同本数コード群における比較例をそれぞれ基準(100)として、表1に指数表示した。
【0030】
次いで、各スチールコードを同表に示す打込み数にてベルトに適用し、図7に示した構造のタイヤをサイズ495/45 R225でスチールコード種毎に複数試作した。なお、ベルト22は、カーカス21上に、タイヤの赤道面に対してスチールコードが左67°の角度で傾斜する向きに延びるベルト層と、タイヤの赤道面に対してスチールコードが右67°の角度で傾斜する向きで延びるベルト層との積層に成る。
【0031】
かくして得られたタイヤについて、そこからコードを取り出し、コア周りのゴム被覆率を調査した。その測定結果は、比較例1を基準(10)として、表1に指数表示した。数値が大きいほどゴムが浸入したことを示している。
【0032】
さらに、残る試作タイヤについて、適用リムに装着後に規定内圧を充填してから、規定荷重の140%を負荷した状態で回転ドラム試験に供し、速度60km/hで10000km走行させたのち、タイヤを解剖してコード破断が発生しているかを確認した。コードが完全に破断していた場合を、不合格(×)として表1に表示した。
【0033】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のコードを示す断面図である。
【図2】本発明のコードを示す断面図である。
【図3】従来のコードの断面を示す図である。
【図4】従来のコードの断面を示す図である。
【図5】コードを歯車に噛み込ませた際の歯車とコードとの接触状態を示す図である。
【図6】本発明の別のコード構造を示す断面図である。
【図7】本発明の別のコード構造を示す断面図である。
【図8】本発明のコードを適用するのに好適のタイヤ構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 コア
2 シース(第1シース)
3 第2シース
20 ビードコア
21 カーカス
22 ベルト
23 トレッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜3本のスチールフィラメントから成るコアと、このコアの周りに多数本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列したシースとから成るコードに、2次元に変化する波状またはジグザグ状の型付けを施したコードであって、前記コアおよびシースを同一方向かつ同一ピッチで撚り合わせたコンパクト撚り構造を有することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項2】
コアのスチールフィラメントの直径が全て同一の径Dcであるとき、第1シースを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本は、下記式(1)を満足する直径Dsを有する請求項1に記載のゴム物品補強用スチールコード。

1.0<Dc/Ds≦1.25----(1)
【請求項3】
1〜3本のスチールフィラメントから成るコアの周りに、多数本のスチールフィラメントを相互に隣接させて配列したシースの少なくとも2層を配置して成るコードに、2次元に変化する波状またはジグザグ状の型付けを施したコードであって、前記コアおよびシースを同一方向かつ同一ピッチで撚り合わせたコンパクト撚り構造を有することを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項4】
コアのスチールフィラメントの直径が全て同一の径Dcであるとき、第1シースおよび第2シースのそれぞれを構成するスチールフィラメントのうち少なくとも1本は、下記式(1)を満足する直径Dsを有する請求項3に記載のゴム物品補強用スチールコード。

1.0<Dc/Ds≦1.25----(1)
【請求項5】
1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスのクラウン部の径方向外側にベルトおよびトレッドをそなえるタイヤであって、該ベルトは請求項1ないし4のいずれかに記載のゴム物品補強用スチールコードにて補強されたベルト層を少なくとも1枚は有することを特徴とするタイヤ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−274461(P2006−274461A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91822(P2005−91822)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】