説明

ゴム積層体

【課題】有害な鉛化合物を含有せず、未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物層と未加硫NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層または未加硫H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層とを加熱・接着することにより、両ゴム層が強固に接着され、耐候性・耐摩耗性に優れた自動車ホース用積層体を提供する。
【解決手段】(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物層と、(B)未加硫NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層または未加硫H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層とが加熱・接着されてなる積層体において、前記(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物が以下(a)〜(d)を含有し、(A)層が他部材と接触する自動車ホース用積層体。(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体(b)遅延剤(c)加硫剤(d)受酸剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ホース用ゴム積層体に関する。更に詳細には、鉛化合物を含有せず、遅延剤、受酸剤、加硫剤を含有する未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物層と、未加硫NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層、又は未加硫H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層とを加熱・接着することにより、両層が強固に接着され、耐候性、耐摩耗性に優れた自動車ホース用ゴム積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の分野ではCO2排出規制等により、低燃費型エンジンが主流となってきており、それに伴い、エンジンルーム内の環境はゴム材料にとって非常に厳しい環境となってきている。また、メンテナンスフリーの観点から耐熱性、耐油性、耐候性、耐摩耗性に優れたゴム材料が選択されている。
【0003】
例えば、耐熱性・耐油性に優れたゴム材料としてフッ素ゴム・アクリルゴム等がその使用環境に応じて選択されてきた。しかしながら、これらのゴムは非常に高価であり、安価で耐油性に優れたNBR等のゴム材料への転換が図られつつある。
【0004】
一般的にNBR等のジエン系ゴムは主鎖に2重結合を持つことから耐候性に乏しく、使用するにつれて亀裂が生じ、ホースとしての役目を果たさなくなる傾向がある。そこで耐候性に優れたエピクロルヒドリン系ゴムを保護層としようとする試みが行われてきた。
【0005】
しかし、エピクロルヒドリン系ゴムは一般的に耐摩耗性に乏しく、ホースの保護層として使用した場合、他と接触しているとエンジンの振動等により擦れ、その部分が破れてしまうといった不具合もあった。
【0006】
また、一般に高分子の異種材料同士の接着性は乏しく、ホースを製造する場合、通常は接着剤層をさらに設けることが多く、接着剤を使用せず加熱加硫時に接着する方法が望まれてきた。
【0007】
特許文献1には、エピクロルヒドリン系ゴムとNBRとのゴム積層体について開示されている。しかし、エピクロルヒドリン系ゴム組成物に鉛化合物が配合されており、毒性に問題があった。
【0008】
また、非特許文献1にはニトリルゴムで用いられる老化防止剤はエピクロルヒドリン系ゴムのオゾン劣化を促進させると記述されており、積層体とした場合にはニトリルゴム側からの老化防止剤の移行によりオゾン劣化を促進させる懸念があった。
【0009】
また、非特許文献2には一般的に知られているゴム特性が記述されており、エピクロルヒドリン系ゴムの耐摩耗性は他のゴムと比較しても良好とは言えず、ホースの保護層としては不具合があった。
【0010】
上記理由により鉛化合物を含有せず、耐候性、耐摩耗性に優れたエピクロルヒドリン系ゴムとNBR系ゴムとの積層体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−128388号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】合成ゴム加工技術全書12 アクリルゴム エピクロルヒドリンゴム P101大成社発行
【非特許文献2】ゴム試験法[第3版] P8〜P9 日本ゴム協会編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は鉛化合物を含有せず、エピクロルヒドリン系ゴムとNBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層またはH-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層とを加熱・接着することにより、両層が強固に接着され、耐候性、耐摩耗性に優れた自動車ホース用ゴム積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体、遅延剤、加硫剤、及び受酸剤を含有する未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物層と、NBR系ゴムおよび/またはH-NBR系ゴム層を加熱・接着することにより、両層が強固に接着され、耐候性、対磨耗性に優れた加硫ゴム積層体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物層と、(B)NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層またはH-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層とが加熱・接着されてなる積層体において、前記(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物が以下(a)〜(d)を含有する積層体であることを特徴とする。
(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体
(b)遅延剤
(c)加硫剤
(d)受酸剤
【0016】
本発明では、(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体のアリルグリシジルエーテルの含有量が2mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明では、(b)遅延剤がN−シクロヘキシルチオフタルイミド、無水フタル酸、有機亜鉛化合物、酸性シリカ、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、O,O’−ジベンズアミドジフェニルジスルフィドからなる少なくとも一種の遅延剤が選択されることが好ましい。
【0018】
本発明では、(c)加硫剤がキノキサリン系加硫剤、チオウレア系加硫剤、トリアジン系加硫剤、ビスフェノール系加硫剤から選択されることが好ましく、2,3−ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチカーボネートからなるキノキサリン系加硫剤、2−メルカプトイミダゾリン(エチレンチオウレア)、1,3−ジエチルチオウレア、1,3−ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレアからなるチオウレア系加硫剤、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジエチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−シクロヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、2−アニリノ−4,6−ジメルカプトトリアジン、1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジンからなるトリアジン系加硫剤、ビスフェノールAF、ビスフェノールSからなるビスフェノール系加硫剤から選択されることがより好ましい。
【0019】
本発明では、(d)受酸剤は金属化合物および/または無機マイクロポーラス・クリスタルが好ましく、無機マイクロポーラス・クリスタルの1種である合成ハイドロタルサイトがより好ましい。
【0020】
本発明では、(B)NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層またはH-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層の加硫剤としては硫黄および/または過酸化物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により得られた加硫ゴム積層体は、両加硫ゴム間の接着性が非常に優れており、接着面は強固である。また、(A)エピクロルヒドリン系ゴム層の耐候性・耐摩耗性が優れており、(A)層が外側に配置され、他部材と接触するような自動車用ホースに極めて有効である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0023】
第一に、本発明の(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物について詳細に述べる。(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物は、鉛化合物を含有せず、少なくともアリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体、遅延剤、加硫剤、受酸剤を含有する。
【0024】
(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物における前記(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体中のアリルグリシジルエーテル量は、好ましくは0.1mol%〜10mol%、より好ましくは2mol%〜10mol%、さらに好ましくは3mol%〜7mol%である。
【0025】
(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体としては、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル二元重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体といったエピクロルヒドリン−アルキレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル多元共重合体を例示することができ、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体が最も好ましい。アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体は単独で用いても、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体などのアリルグリシジルエーテル構成単位を含まないエピクロルヒドリン系重合体とアリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体をブレンドして用いてもかまわない。
【0026】
エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体の組成割合は、例えば、エピクロルヒドリンが5mol〜85mol%が好ましく、より好ましくは10mol%〜65mol%、さらに好ましくは10〜58mol%である。また、エチレンオキサイドは、好ましくは5mol%〜94.9mol%、より好ましくは25mol%〜88mol%、さらに好ましくは35mol%〜87mol%である。アリルグリシジルエーテルは、好ましくは0.1mol%〜10mol%、より好ましくは2mol%〜10mol%、さらに好ましくは3mol%〜7mol%である。これら重合体の分子量は特に制限されないが、通常ムーニー粘度表示でML1+4(100℃)=30〜150程度である。
【0027】
本発明の(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物における前記(b)遅延剤としてはN−シクロヘキシルチオフタルイミド、無水フタル酸、ステアリン酸亜鉛等の有機亜鉛化合物、酸性シリカ、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、O,O’−ジベンズアミドジフェニルジスルフィドからなる群より選択される少なくとも1種が使用される。
【0028】
本発明に用いられる(b)遅延剤の配合量は加工温度、加工方法により決定されるもので特に限定はされないが、通常、(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。この範囲であれば、加工前に加硫が始まることなく、加硫時には適度な加硫速度が得られるので好ましい。
【0029】
本発明の(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物における前記(c)加硫剤としては、キノキサリン系加硫剤、チオウレア系加硫剤、トリアジン系加硫剤、ビスフェノール系加硫剤からなる群より選択される少なくとも1種が使用される。
【0030】
前記キノキサリン系加硫剤としては、2,3−ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチカーボネート等が挙げられ、好ましくは6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネートである。
【0031】
前記チオウレア系加硫剤としては、2−メルカプトイミダゾリン(エチレンチオウレア)、1,3−ジエチルチオウレア、1,3−ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレア等が挙げられ、好ましくは、2−メルカプトイミダゾリン(エチレンチオウレア)である。
【0032】
前記トリアジン系加硫剤としては、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジエチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−シクロヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、2−アニリノ−4,6−ジメルカプトトリアジン、1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン等を挙げられ、好ましくは2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジンである。
【0033】
前記ビスフェノール系加硫剤としては、ビスフェノールAF、ビスフェノールS等が挙げられる。
【0034】
これらの加硫剤は本発明の効果をそこなわない限り、2種以上を併用しても良い。
【0035】
前記(c)加硫剤の配合量は、(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。これらの範囲であれば、十分に架橋し、且つ加硫物が剛直になりすぎることがなく、エピクロルヒドリン系ゴム加硫物として通常期待される物性が得られるため好ましい。
【0036】
本発明の(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物における前記(d)受酸剤としては金属化合物および/または無機マイクロポーラス・クリスタルが用いられる。このような金属化合物としては、周期律表第II族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩、周期律表第IVA族金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜リン酸塩、塩基性亜硫酸塩、三塩基性硫酸塩等が挙げられる。
【0037】
前記(d)受酸剤となる金属化合物の具体例としては、マグネシア、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ナトリウム、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜鉛華、酸化錫、ステアリン酸錫、塩基性亜リン酸錫等を挙げることができる。特に好ましい受酸剤としてはマグネシア、炭酸カルシウム、消石灰、生石灰、炭酸ナトリウムが挙げられる。
【0038】
前記無機マイクロポーラス・クリスタルとは、結晶性の多孔体を意味し、無定型の多孔体、例えばシリカゲル、アルミナ等とは明瞭に区別できるものである。このような無機マイクロポーラス・クリスタルの例としては、ゼオライト類、アルミノホスフェート型モレキュラーシーブ、層状ケイ酸塩、合成ハイドロタルサイト、チタン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。特に好ましい受酸剤としては、合成ハイドロタルサイトが挙げられる。
【0039】
前記ゼオライト類は、天然ゼオライトの外、A型、X型、Y型の合成ゼオライト、ソーダライト類、天然ないしは合成モルデナイト、ZSM−5などの各種ゼオライトおよびこれらの金属置換体であり、これらは単独で用いても2種以上の組み合わせで用いても良い。また金属置換体の金属はナトリウムであることが多い。ゼオライト類としては酸受容能が大きいものが好ましく、A型ゼオライトが好ましい。
【0040】
前記合成ハイドロタルサイトは下記一般式(1)で表される。
MgZnAl(OH)(2(X+Y)+3Z−2)CO・wHO (1)
[式中、xとyはそれぞれx+y=1〜10の関係を有する0〜10の実数、zは1〜5の実数、wは0〜10の実数をそれぞれ示す。]
【0041】
前記一般式(1)で表されるハイドロタルサイト類の例として、Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO、Mg4.5Al(OH)13CO、MgAl(OH)12CO・3.5HO、MgAl(OH)16CO・4HO、MgAl(OH)14CO・4HO、MgAl(OH)10CO・1.7HO、MgZnAl(OH)12CO・3.5HO、MgZnAl(OH)12CO等を挙げることができる。
【0042】
前記(d)受酸剤の配合量は、(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体100重量部に対して好ましくは0.2〜50重量部、更に好ましくは0.5〜50重量部、特に好ましくは1〜20重量部である。これらの範囲であれば、十分に架橋し、且つ加硫物が剛直になりすぎることがなく、エピクロルヒドリン系ゴム加硫物として通常期待される物性が得られるため好ましい。
【0043】
また、本発明においては、通常これらの加硫剤と共に使用される公知の加硫促進剤を用いることができる。
【0044】
本発明に用いられる前記加硫促進剤としては、例えば、硫黄、モルホリンスルフィド類、アミン類、アミンの弱酸塩類、塩基性シリカ、四級アンモニウム塩類、四級ホスホニウム塩類、脂肪酸のアルカリ金属塩、チウラムスフィド類、多官能ビニル化合物、メルカプトベンゾチアゾール類、スルフェンアミド類、ジメチオカーバメート類等を挙げることができる。キノキサリン系加硫剤を本発明の組成物に適用した場合の特に好ましい促進剤として1, 8−ジアザビシクロ(5, 4, 0)ウンデセン−7(以下DBUと略)塩、1, 5−ジアザビシクロ(4, 3, 0)ノネン−5(以下DBNと略)塩、塩基性シリカ、脂肪酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0045】
前記DBU塩としては、DBU−炭酸塩、DBU−ステアリン酸塩、DBU−2−エチルヘキシル酸塩、DBU−安息香酸塩、DBU−サリチル酸塩、DBU−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、DBU−フェノール樹脂塩、DBU−2−メルカプトベンゾチアゾール塩、DBU−2−メルカプトベンズイミダゾール塩等が挙げられる。また、前記DBN塩としては、DBN−炭酸塩、DBN−ステアリン酸塩、DBN−2−エチルヘキシル酸塩、DBN−安息香酸塩、DBN−サリチル酸塩、DBN−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、DBN−フェノール樹脂塩、DBN−2−メルカプトベンゾチアゾール塩、DBN−2−メルカプトベンズイミダゾール塩等が挙げられる。これらDBU塩および/またはDBN塩を促進剤として用いた場合の配合量は、(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体100重量部に対して0.1〜5重量部が好ましく、より好ましくは、0.5〜3重量部である。
【0046】
前記塩基性シリカとは、pHが9〜13のナトリウムを含有するシリカであり、前記塩基性シリカを促進剤として用いる場合、(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体100重量部に対して2〜30重量部が好ましく、より好ましくは5〜20重量部である。
【0047】
前記脂肪酸のアルカリ金属塩とは、高級脂肪酸、樹脂酸、ナフテン酸などのアルカリ金属塩(好ましくはナトリウム塩、カリウム塩)を挙げることができ、より好ましくは炭素数6以上の高級脂肪酸のアルカリ金属塩である。更に具体的には、半硬化牛脂脂肪酸、ステアリン酸、オレイン酸、セバシン酸、ひまし油等のナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。好ましい塩として、半硬化牛脂脂肪酸のナトリウム塩、ステアリン酸ナトリウム、半硬化牛脂脂肪酸のカリウム塩、ステアリン酸カリウムが挙げられ、さらに好ましくはステアリン酸ナトリウム及び/又はステアリン酸カリウムが挙げられる。特に、半硬化牛脂脂肪酸のナトリウム塩、ステアリン酸ナトリウム等のナトリウム塩を使用する場合は保存安定性が良好であり好ましい。これら脂肪酸のアルカリ金属塩を促進剤として用いた場合、(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体100重量部に対して、0.2〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜7重量部である。
【0048】
本発明に用いられる(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物には、当該技術分野において、通常使用される各種配合剤、例えば老化防止剤、充填剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、顔料、難燃剤等を任意に配合することができる。
【0049】
第二に、本発明の(B)NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層またはH−NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層について詳細に述べる。
【0050】
前記(B)NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層またはH−NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層としては、通常、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の水素化物、又はそれらと塩化ビニル樹脂またはエチレン-プロピレン共重合体とのブレンドゴム等が挙げられる。
【0051】
前記(B)NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層またはH-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層としては、耐熱性の観点からニトリル含量31%以上のNBRまたはH−NBR、又はそれらと塩化ビニル樹脂とのブレンドが好適に用いられる。
【0052】
本発明の(B)NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層および/またはH-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層の加硫剤としては硫黄および/または過酸化物が好適に用いられる。
【0053】
本発明の(B)NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)系ゴム層および/またはH-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層としては、アミン系老化防止剤が好適に用いられる。アミン系老化防止剤の具体例としてフェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、p−(p−トルエン・スルホニルアミド)−ジフェニルアミン、4,4’−(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、ジフェニルアミンとアセトンの高温反応生成品、ジフェニルアミンとアセトンと低温反応生成品、ジフェニルアミン、アニリン、アセトンの低温反応品、ジフェニルアミンと、ジイソブチレンの反応生成品、オクチル化ジフェニルアミン、ジオクチル化ジフェニルアミン、p,p’−ジオクチル・ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミンの混合品、置換ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミンの混合品、アラルキル化ジフェニルアミンによるアルキルおよびアラルキル置換フェノールの混合品、ジフェニルアミン誘導体、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−エチル−3−メチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ジアリル−p−フェニレンジアミンの混合品、フェニル,ヘキシル−p−フェニレンジアミン、フェニル,オクチル−p−フェニレンジアミンなどがあり、その他のアミン系として芳香族アミンと脂肪族ケトンの縮合品、ブチルアルデヒド−アニリン縮合品、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなどが例示される。
【0054】
本発明における積層体の製造方法としては、同時押出成形、逐次押出成形により両組成物を積層せしめ、次いで加熱加硫もしくは加熱加硫成型を行うか、金型を用いて両ゴム組成物を積層と同時に加熱加硫成型を行う方法等がある。また一方のゴム組成物を型くずれしない程度に弱く加熱加硫した後に両者を積層して十分に加熱加硫成型せしめる方法も採用できる。上記押出成形により積層された積層体を加熱加硫成型する方法としては金型による成型があり、加熱加硫の方法としてはスチーム缶、エアーバス、赤外線、マイクロウェーブ、被鉛加硫等の公知の方法が任意に採用できる。加硫に際しては、加熱温度は通常100〜200℃であり、加熱時間は温度によって異なるが、0.5〜300分間の範囲が選ばれる。
【0055】
本発明の積層体を燃料油系ホースに適用する場合の態様としては、ホースの内層にNBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層またはH-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム、その外層にエピクロルヒドリン系ゴムを配した2層ホース、その両層の間に編組補強層を配した3層ホース等を代表的に挙げることができる。上記3層ホース等に用いられる編組材料としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、綿等の編組したものが通常用いられる。
【0056】
以下において代表的な例として、実施例として挙げるが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0057】
表1に示されるエピクロルヒドリン系ゴム組成物をニーダーおよびオープンロールで混練し、厚さ2〜2.5mmのシート(i)を得た。一方、表2に示されるNBR系ゴム、H-NBR系ゴムも同様にシート(ii)を得た。上記シート(i)及びシート(ii)を貼り合わせ、170℃、20〜25kg/cmで15分間加圧し、厚さ4.2〜4.5mmの加硫ゴム積層体を得た。
また、耐候性の評価のために上記(i)のシートを170℃で15分プレス加硫し、2mm厚の一次加硫物を得た。さらにこれをエア・オーブンで150℃で2時間加熱し、二次加硫物を得た。得られた二次加硫物を用い耐オゾン性の評価を行った。評価試験はJIS K 6259に記載の方法に準じて行った。評価結果は表3に示した。またオゾン試験における記号はJIS K 6259の亀裂の下記状態を意味する。
N-C:亀裂なし
A-1:肉眼では見えないが10倍の拡大鏡で確認できる亀裂が少数ある
A-2:肉眼で確認できる亀裂が少数ある
【0058】
さらに、耐摩耗性の評価のために上記(i)のシートを同様にプレス加硫し、直径63.5mm、厚さ12.7mm、中心孔12.7mmの円盤状試験片を得た。さらにこれをエア・オーブンで150℃で2時間加熱し、二次加硫物を得た。得られた二次加硫物を用い耐摩耗性の評価を行った。評価試験はJIS K 6264−2アクロン磨耗試験A法で行った。評価結果は表4に示した。
【0059】
(接着性評価)
上記積層体を1.0×10cmの短冊状に切断して接着試験用試験片を作製した。試験は、25℃において50mm/minの引張速度でT剥離試験を行い、剥離状態を目視にて観察した。評価基準を以下に示し、評価結果は表5に示した。
◎:強固に接着しており、層間はゴム破壊を起こしている。
○:剥離強度は比較的良好だが、ゴム破壊までは至っていない。
×:全く接着しておらず、界面での剥離が生じている。
【0060】
以下に用いた配合剤を示す。
*1 ダイソー株式会社製「エピクロロヒドリン−エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル3元共重合体:エピクロマーCG」
*2 ダイソー株式会社製「エピクロロヒドリン−エチレンオキシド共重合体:エピクロマーC」
*3 協和化学工業株式会社製「DHT−4A」
*4 ダイソー株式会社製「P−152」
*5 ダイソー株式会社製「ダイソネットXL-21S」
*6 JSR社株式会社製「N-230S」
*7 日本ゼオン株式会社製「ニポール1203JNS」
*8 日本ゼオン株式会社製「ゼットポール2020」
*9 大内新興株式会社製「ノクラックODA」
*10 Crompton Corporation社製「ナウガード445」
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
表3の配合1〜3は、エピクロルヒドリン系ゴム組成物層のエピクロルヒドリン系ゴムにアリルグリシジルエーテルを含有しているものであり、配合4〜6はそれを含まないものである。アリルグリシジルエーテルを含有する配合1〜3は耐候性の指標であるオゾン試験の結果が良好である。
また、表4は耐摩耗性の結果である。アリルグリシジルエーテルを含有する配合1〜3は、アリルグリシジルエーテルを含有しない配合4〜6より磨耗量が少なく耐摩耗性に優れている。
また、表5はエピクロルヒドリン系ゴム組成物層とNBR系ゴム層またはH-NBR系ゴム層の接着性を評価したものである。配合4〜6のエピクロルヒドリン層とNBR系ゴム、H-NBR系ゴム層の接着性に比べて、配合1〜3のエピクロルヒドリン層とNBR系ゴム、H-NBR系ゴム層の接着性は同等かそれ以上の接着性を示している。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のゴム積層体は以上のように構成されており、その積層体は鉛化合物を含有せず、両層間の接着性が非常に優れており、耐候性・耐摩耗性に優れたものである。従って、エピクロルヒドリン系ゴムを保護層とするような自動車用ホースに極めて有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物層と、(B)未加硫NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層または未加硫H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層とが加熱・接着されてなる積層体において、前記(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物が鉛化合物を含有せず以下(a)〜(d)を含有し、(A)層が他部材と接触する自動車ホース用積層体。
(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体
(b)遅延剤
(c)加硫剤
(d)受酸剤
【請求項2】
(a)アリルグリシジルエーテル構成単位を含むエピクロルヒドリン系重合体のアリルグリシジルエーエル含有量が2mol%以上10mol%以下である請求項1に記載の自動車ホース用積層体。
【請求項3】
(b)遅延剤がN−シクロヘキシルチオフタルイミド、無水フタル酸、有機亜鉛化合物、酸性シリカ、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、O,O’-ジベンズアミドジフェニルジスルフィドから選択される少なくとも一種の遅延剤を含有する請求項1〜2に記載の自動車ホース用積層体。
【請求項4】
(c)加硫剤がキノキサリン系加硫剤、チオウレア系加硫剤、トリアジン系加硫剤、ビスフェノール系加硫剤から選択される少なくとも一種の加硫剤を含有する請求項1〜3に記載の自動車ホース用積層体。
【請求項5】
(c)加硫剤が、2,3−ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチカーボネートからなるキノキサリン系加硫剤、2−メルカプトイミダゾリン(エチレンチオウレア)、1,3−ジエチルチオウレア、1,3−ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレアからなるチオウレア系加硫剤、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジエチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−シクロヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、2−アニリノ−4,6−ジメルカプトトリアジン、1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジンからなるトリアジン系加硫剤、ビスフェノールAF、ビスフェノールSからなるビスフェノール系加硫剤から選択される少なくとも一種の加硫剤を含有する請求項4に記載の自動車ホース用積層体。
【請求項6】
(d)受酸剤が金属化合物および/または無機マイクロポーラス・クリスタルであることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の自動車ホース用積層体。
【請求項7】
前記(B)未加硫NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層または未加硫H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層がニトリル含量31%以上のNBRまたはH−NBRまたはそれらと塩化ビニル樹脂とのブレンドであることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の自動車用ホース積層体。
【請求項8】
前記(B)未加硫NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)系ゴム層または未加硫H−NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層の加硫剤が硫黄および/または過酸化物である請求項1〜7いずれかに記載の自動車ホース用積層体。
【請求項9】
前記(B)未加硫NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層または未加硫H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)系ゴム層がアミン系老化防止剤を含有する請求項1〜8いずれかに記載の自動車ホース用積層体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の積層体を用いた積層ホース。
【請求項11】
前記(A)層が外側に配置されている請求項10に記載の積層ホース。

【公開番号】特開2011−46151(P2011−46151A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198137(P2009−198137)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】