説明

ゴム組成物の製造方法

【課題】シリカ配合のゴム組成物において、加工性と補強性と低発熱性のバランスを向上する。
【解決手段】ゴム成分にシリカとシランカップリング剤を添加し従来よりもやや低温(例えば120〜140℃)で混合することで前記シランカップリング剤の反応率が50〜80%であるノンプロゴム混合物を得て、該ノンプロゴム混合物を常温域(15〜30℃)で所定時間(例えば80〜300時間)熟成させて前記シランカップリング剤の反応率が90%以上である熟成ゴム混合物を得て、該熟成ゴム混合物に加硫剤と加硫促進剤を添加し混合することによりゴム組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関し、より詳細には、シリカ配合のゴム組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物の低発熱化などを図るために、補強性充填剤としてシリカを配合することが知られている。しかしながら、シリカは、表面に存するシラノール基の影響により凝集しやすく、分散性に劣ることから、その性能を十分に発揮させることは難しい。そのため、シリカの分散性を改良するために、シランカップリング剤が併用されている。シランカップリング剤は、シリカとともにゴム成分に添加し混合することにより、シリカ表面のシラノール基と反応するとともに、ゴム成分のポリマーと反応することで、両者の間を連結して、シリカの分散性を向上させる。
【0003】
ところで、シリカ配合のゴム組成物における混合工程は、(1)ゴム成分とシリカ、シランカップリング剤のほか、オイル、亜鉛華、ステアリン酸及び老化防止剤などの薬品を比較的高温(150〜160℃程度)で混合(ノンプロ混合)し、(2)その直後に硫黄及び加硫促進剤を比較的低温(例えば100℃以下)で混合(ファイナル混合)するのが一般的である。その際、シランカップリング剤とシリカの反応を進行させるほど、特性がよくなると考えられており、高温で混合することにより反応を進行させることが一般に行われている。しかしながら、それだけでは反応の進行が十分ではない場合がある。
【0004】
そこで、下記特許文献1では、ノンプロ混合後に高温(例えば100〜200℃)で熱処理することにより、シランカップリング剤の反応を進行させることが開示されている。また、下記特許文献2では、硫黄及び加硫促進剤を混合するファイナル混合後に、40〜100℃で熱処理することにより、シランカップリング剤の反応を進行させることが開示されている。これらの熱処理により一部の特性は改良されるものの、加工性、補強性及び低発熱性のバランスは必ずしも十分とは言えない。
【0005】
一方、下記特許文献3には、シリカ配合のゴム組成物において、添加したシランカップリング剤の反応率を測定する方法が開示されており、また、常温下でもシランカップリング剤の反応が進行することが開示されている。しかしながら、この文献では、シランカップリング剤の反応が常温で進行することを開示するにとどまり、常温で熟成させることでシランカップリング剤の反応率が向上したゴム混合物を用いて、該ゴム混合物に加硫剤等を添加してゴム組成物を調製する点についても、また、それにより加工性と補強性と低発熱性とのバランスが向上する点についても開示されていない。より詳細には、特許文献3には、未加硫段階でのシランカップリング剤の反応率が低発熱性と相関することが開示されているが、実際には、未加硫段階での反応率が高くても、それだけでは加工性と補強性と低発熱性とのバランスという点で必ずしも十分とはいえない場合があり、これら特性のバランスを向上することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−179436号公報
【特許文献2】特開平11−263878号公報
【特許文献3】特開2010−216952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、シリカ配合のゴム組成物において、加工性と補強性と低発熱性のバランスを向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係るゴム組成物の製造方法は、ゴム成分にシリカとシランカップリング剤を添加し混合することで前記シランカップリング剤の反応率が50〜80%であるノンプロゴム混合物を得て、該ノンプロゴム混合物を15〜30℃で熟成させて前記シランカップリング剤の反応率が90%以上である熟成ゴム混合物を得て、該熟成ゴム混合物に加硫剤と加硫促進剤を添加し混合するものである。
【0009】
本発明の第2の態様に係るゴム組成物の製造方法は、ゴム成分にシリカとシランカップリング剤を添加し最高混合温度を120〜140℃として混合することでノンプロゴム混合物を得て、該ノンプロゴム混合物を15〜30℃で80〜300時間熟成させて熟成ゴム混合物を得て、該熟成ゴム混合物に加硫剤と加硫促進剤を添加し混合するものである。
【0010】
本発明に係るゴム組成物は、これらの方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリカ配合のノンプロゴム混合物を常温域で熟成させることによりシランカップリング剤の反応を穏やかに進行させることができ、加工性と補強性と低発熱性のバランスを向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係るゴム組成物の製造方法は、(1)ゴム成分にシリカとシランカップリング剤を添加し混合することでノンプロゴム混合物を得るノンプロ混合工程と、(2)該ノンプロゴム混合物を常温域(15〜30℃)で熟成させることで熟成ゴム混合物を得る熟成工程と、(3)該熟成ゴム混合物に加硫剤と加硫促進剤を添加し混合するファイナル混合工程(プロ混合工程)とを含むものである。このようにノンプロゴム混合物を15〜30℃という常温域で一定時間熟成させることにより、シランカップリング剤を穏やかに反応させることができる。そして、かかる穏やかな反応により反応率を向上させたゴム混合物を用いて、ファイナル混合工程で加硫剤及び加硫促進剤を添加し混合することにより、低発熱性が良好になるだけでなく、加工性及び補強性も改善される。このように常温熟成することで、加熱処理を行うことなく、また特別な薬品を使用することもなく、上記特性のバランスに優れたゴム組成物を得ることができる。
【0014】
本実施形態において、ゴム成分としては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)及びブチルゴム(IIR)などの各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらのゴムは、単独又は2種類以上ブレンドして用いることができる。
【0015】
本実施形態において、シリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸),ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は、特に限定されず、例えば、BET法による窒素吸着比表面積(BET)80〜300m/gであるものが好ましく用いられ、より好ましくは100〜250m/gであり、更に好ましくは150〜230m/gである。なお、シリカのBET比表面積はISO 5794に記載のBET法の一点値により測定される。シリカの配合量は、特に限定されず、好ましくはゴム成分100質量部に対して5〜150質量部であり、より好ましくは10〜120質量部であり、更に好ましくは30〜100質量部である。
【0016】
本実施形態において、シランカップリング剤としては、分子中に硫黄を含むものが好ましく用いられ、ゴム組成物においてシリカとともに配合される各種の硫黄含有シランカップリング剤を用いることができる。例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン;
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン、式:HS−(CH−Si(OC(O(CO)−C1327で表されるエボニック・デグサ社製「VP Si363」(式中、m=平均1、n=平均2、k=平均5)などのメルカプトシラン;
3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン(式:CH(CHC(=O)S−(CH−Si(OC)、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシラン(即ち、メルカプト基がアシル基で保護されたチオールエステル構造を持つシラン化合物)などが挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2〜25質量部であることが好ましく、より好ましくは4〜15質量部である。
【0017】
本実施形態において、加硫剤としては、特に限定するものではないが、通常は硫黄が用いられる。加硫剤としての硫黄としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、オイル処理硫黄などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。加硫剤の配合量としては、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0018】
本実施形態において、加硫促進剤としては、特に限定されず、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DPBS)などのスルフェンアミド系、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)などのチウラム系、1,3−ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3−ジ−O−トリルグアニジン(DOTG)などのグアニジン系、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)などのチアゾール系などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量としては、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0019】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、カーボンブラックなどの他の補強性充填剤、プロセスオイルなどの軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、樹脂類など、通常ゴム工業で使用される各種添加剤を配合することができる。
【0020】
上記(1)のノンプロ混合工程では、ゴム成分に、シリカ、シランカップリング剤、及び、その他の添加剤を添加して混合することにより、未加硫のゴム組成物としてのノンプロゴム混合物を得る。混合は、ゴム分野において一般に使用される各種混合機、例えば、バンバリーミキサーやロール、ニーダーなどを用いて行うことができ、好ましくはバンバリーミキサー等の密閉式混練機を用いることである。
【0021】
該ノンプロ混合工程で添加するその他の添加剤には、加硫剤と加硫促進剤を含まないことが好ましい。すなわち、ノンプロゴム混合工程において、ゴム成分に配合するその他の添加剤には加硫剤と加硫促進剤を含めないことが好ましい。加硫剤と加硫促進剤を除くその他の添加剤については、ノンプロゴム混合段階で全て配合してもよい。
【0022】
一般に、ノンプロ混合工程では、比較的高温(150〜160℃程度)で混合するが、本実施形態においては、通常よりもやや低温で混合し排出する。すなわち、ノンプロゴム混合物を得る際の最高混合温度(排出温度)は、通常よりも低い120〜140℃であることが好ましい。最高混合温度を140℃以下に設定することにより、ノンプロ混合排出の段階でシランカップリング剤の反応が進行しすぎることを防止して、その後の熟成工程での反応の進行効果を確保することができ、またスコーチによる未加硫粘度の上昇を抑えて加工性を向上することができる。また、最高混合温度を120℃以上に設定することにより、ノンプロ混合排出の段階でのシランカップリング剤の反応率をある程度確保して、その後の常温熟成で反応率を十分に高めることが容易となる。
【0023】
本実施形態に係るノンプロ混合段階では、シランカップリング剤の反応率が50〜80%であるノンプロゴム混合物を得る。ノンプロ混合後の反応率を50%以上として、当該反応率をある程度高くしておくことにより、その後の常温熟成で反応率を更に高めたときに、補強性の改善効果を大きくすることができる。また、常温熟成に要する時間の短縮化が図られる(即ち、ノンプロ混合段階での反応率が低すぎると、常温熟成に時間がかかりすぎるため実用化は困難となる)。また、ノンプロ混合後の反応率を80%以下とすることで、常温熟成での反応率の向上代を確保して、常温熟成による有利な効果を発揮することができる。ノンプロゴム混合物の反応率は、より好ましくは60〜80%である。なお、シランカップリング剤の反応率は、シランカップリング剤やシリカの種類及び量にもよるが、ノンプロ混合工程での最高混合温度(排出温度)の影響が大きく、該混合温度を適宜に設定することにより、50〜80%の範囲内に調整することができる。
【0024】
シランカップリング剤の反応率は、特開2010−216952号公報に記載の方法により測定される。すなわち、未加硫のゴム組成物に対しゴム成分が溶解しない溶媒(但し、未反応のシランカップリング剤を含む薬品が溶解する有機溶媒)を用いて抽出処理を行うことにより、ゴム組成物中に含まれる未反応のシランカップリング剤を抽出し、抽出後のゴム組成物に含まれる硫黄量を定量することで反応済みのシランカップリング剤の含有量を求めるか、又は、抽出液に含まれる硫黄量を定量することで未反応のシランカップリング剤の含有量を求め、求めた反応済み又は未反応のシランカップリング剤の含有量を、前記シランカップリング剤の配合量と比較することによりシランカップリング剤の反応率を求めることができる。硫黄量の定量は、公知の種々の硫黄分析装置を用いて行うことができ、例えば、イオンクロマトグラフ法(日本ダイオネクス株式会社製「ICS−1500」)や、酸素気流燃焼−赤外線吸収法(LECOジャパン株式会社製硫黄炭素分析装置「SC−632」)などが挙げられる。
【0025】
詳細には、シランカップリング剤の反応率は、下記式(A)により求められる。
【0026】
反応率(%)={(S−S)/S}×(m/m)×100 …(A)
式中、Sは、抽出後のゴム組成物に含まれる硫黄分(質量%)である。Sは、シランカップリング剤を除いて同配合のゴム組成物について測定した抽出後のゴム組成物に含まれる硫黄分(質量%)である。Sは、シランカップリング剤の配合量から算出される抽出前のゴム組成物中に含まれるシランカップリング剤による硫黄分(質量%)である。mは、抽出前のゴム組成物の質量であり、mは、抽出後のゴム組成物の質量である。
【0027】
ノンプロ混合後のゴム混合物(ノンプロゴム混合物)は、ロールなどを用いてシート状に薄く引き伸ばされることが好ましい。シート状とすることで、次の熟成工程において、ゴム混合物の全体を速やかに一定の温度にすることができ、温度ムラを抑制して反応率のバラツキを抑えることができる。
【0028】
本実施形態では、上記ノンプロ混合工程においてノンプロゴム混合物を得た後、ファイナル混合工程に進む前に、上記(2)の熟成工程を行う。熟成工程では、ノンプロゴム混合物を、15〜30℃という常温域で一定時間熟成させることにより、シランカップリング剤の反応を進行させて、反応率が90%以上の熟成ゴム混合物を得る。すなわち、ノンプロ混合工程の直後では十分でなかったシランカップリング剤の反応を、常温域で熟成することにより穏やかに進行させ、反応率を90%以上に高めることが好ましい。このように常温域で熟成させることにより、シランカップリング剤をシリカ粒子表面に対して理想的に反応させることができ、分散性や補強性の向上に寄与することができる。これに対し、ノンプロ混合後に加熱処理する場合には、後記の比較例にも示されるように、シランカップリング剤の反応率は向上するものの、シリカの補強性を高めるようなシリカ粒子表面との反応よりもシランカップリング剤同士の自己縮合が起きるためと考えられ、補強性を向上することはできない。熟成ゴム混合物の反応率は、より好ましくは93〜100%であり、更に好ましくは95〜99%である。なお、熟成ゴム混合物での反応率の測定は、上記ノンプロゴム混合物での反応率の測定と同様に行うことができる。
【0029】
ノンプロゴム混合物を熟成させる熟成温度は上記のように15〜30℃であり、より好ましくは20〜30℃である。また、ノンプロゴム混合物を熟成される熟成時間は、反応率が90%以上になるまで熟成するものであれば、特に限定するものではないが、80〜300時間であることが好ましく、より好ましくは100〜250時間である。なお、従来は、ノンプロ混合による排出後、すぐにファイナル混合工程を行っており、このように長時間にわたって熟成することは、生産性の観点からなされておらず、当業者の技術常識に反するものであった。本実施形態では、かかる技術常識に反して敢えて常温域での熟成を行うことにより上記優れた効果を見出したものである。
【0030】
本実施形態では、常温域で熟成した後に、熟成ゴム混合物に加硫剤と加硫促進剤を添加し混合するファイナル混合工程を行う。常温域での熟成による穏やかな反応により反応率を向上させたゴム混合物を用いて、ファイナル混合工程で加硫剤及び加硫促進剤を添加し混合することにより、後記実施例に示されるように、加工性と補強性と低発熱性のバランスを向上することができる。ファイナル混合工程での混合も、ゴム分野において一般に使用される各種混合機、例えば、バンバリーミキサーやロール、ニーダーなどを用いて行うことができる。ファイナル混合は、比較的低温(100℃以下)で行うことが好ましく、これにより、架橋の進行による未加硫ゴム組成物のムーニー粘度の上昇を抑えることができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、ノンプロ混合工程として1回の混合工程の場合について説明したが、ノンプロ混合工程を複数回に分けて複数回の混合工程の後に、熟成工程を行ってもよい。また、ノンプロ混合工程の後に、添加剤を添加せずに再練りを行うリミル工程を実施し、その後、上記熟成工程を行うようにしてもよい。また、熟成工程の後に、追加のノンプロ混合工程を実施し、その後ファイナル混合工程を行うようにしてもよい。
【0032】
本実施形態では、ノンプロゴム混合物及び熟成ゴム混合物について上記所定の反応率のものを得るが、反応率を測定すること自体はゴム組成物の製造方法において必須ではない。すなわち、ゴム組成物の製造工程を定める際に上記各段階での反応率を測定して、該反応率が上記所定範囲内に入るように排出温度や熟成条件などを決定しておけば、実際のゴム組成物の製造に際しては反応率を測定する必要はない。もちろん、ゴム組成物の製造方法として、上記反応率の測定ステップを含むものであってもよい。
【0033】
このようにして得られるゴム組成物の用途は、特に限定されず、タイヤ(例えば、トレッドやサイドウォール、ビード部などの各部位)、防振ゴム(例えば、エンジンマウント、ストラットマウント、ボディマウント、サスペンションブッシュなど)、免震ゴム(建築用免震ゴムなど)、コンベアベルトなどのベルトなど、各種ゴム製品に用いることができる。好ましくは、タイヤに用いることであり、常法に従い、例えば140〜200℃で加硫成形することにより、各種空気入りタイヤのゴム部分(トレッドゴムやサイドウォールゴムなど)を構成することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
[第1実施例]
ゴム組成物の配合は下記表1に示す通りであり、実施例及び比較例ともに共通の配合とした。
【0036】
【表1】

【0037】
下記表2に示す条件に従い、各ゴム組成物を調製した(該当する処理条件に「○」を付している)。詳細には、まず、ノンプロ混合工程において、硫黄と加硫促進剤を除く成分をバンバリーミキサーで混合し、表2に示す排出温度にて排出して、ノンプロゴム混合物を得た。得られたノンプロゴム混合物は、ロールを用いて厚さ=2mmのシート状に形成した。次いで、比較例1,6,8,10,11,12及び14では、常温熟成も加熱処理も行うことなく、ノンプロ混合後、直ちにファイナル混合工程を行うことでゴム組成物を調製した。ファイナル混合は、ノンプロゴム混合物に硫黄及び加硫促進剤を加えて、オープンロールにより60℃で5分間練り込んで行った。これに対し、実施例1〜3及び比較例7,9,13及び15では、上記シート状のノンプロゴム混合物を常温(25℃)で168時間熟成させた後、比較例1と同様にファイナル混合工程を行うことでゴム組成物を調製した。比較例2では、上記シート状のノンプロゴム混合物を常温(25℃)で24時間熟成させた後、比較例1と同様にファイナル混合を行った。比較例3は、上記シート状のノンプロゴム混合物を、170℃で3分間加熱処理を行った後、比較例1と同様にファイナル混合を行ったものであり、上記特許文献1に記載された技術に対応する。比較例4では、比較例1と同様に、常温熟成も加熱処理も行うことなく、ノンプロ混合後、直ちにファイナル混合工程を行った後、得られたファイナルゴムをロールにより厚さ=2mmのシート状に形成し、該シート状のファイナルゴムを常温(25℃)で168時間熟成させてゴム組成物を得た。比較例5は、比較例4と同様にファイナルゴムをシート状に形成した後、該シート状のファイナルゴムを50℃で96時間加熱処理してゴム組成物を調製したものであり、上記特許文献2に記載された技術に対応する。
【0038】
上記ゴム組成物の調製過程において、ノンプロ混合直後のゴム組成物(ノンプロゴム混合物)について、シランカップリング剤の反応率を測定した。また、該ノンプロゴム混合物について常温熟成又は加熱処理を行った実施例及び比較例については、かかる処理後におけるシランカップリング剤の反応率も測定した。
【0039】
得られた各ゴム組成物について、未加硫状態でのムーニー粘度を測定するとともに、160℃×30分間で加硫した所定形状の試験サンプルについて、300%モジュラスを測定した。また、該ゴム組成物を用いて、キャップ/ベース構造のトレッドを有するタイヤのキャップトレッドに適用し、205/65R15 94Hの空気入りラジアルタイヤを常法に従い製造し、転がり抵抗を評価した。各測定・評価方法は以下の通りである。
【0040】
(シランカップリング剤の反応率)
特開2010−216952号公報に記載の方法に従い、質量m=1.00gに調整した厚み1mm以下のシート状の試料を、アセトンで8時間ソックスレー抽出を行い、抽出後のゴム組成物を30℃で5時間真空乾燥して質量mを測定した。次いで、日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフ「ICS−1500」により、抽出後のゴム組成物に含まれる硫黄分S(硫黄濃度:質量%)を求めた。また、表1に示す配合においてシランカップリング剤を配合しない以外は同一のゴム組成物を同様の操作により作製し、抽出後のゴム組成物に含まれる硫黄分S(質量%)を求め、上記式(A)によりシランカップリング剤の反応率を求めた。なお、シランカップリング剤の配合量から算出される抽出前のゴム組成物中に含まれるシランカップリング剤による硫黄分S(質量%)は0.587である。
【0041】
(ムーニー粘度)
JIS K6300に準拠して東洋精機(株)製ロータレスムーニー測定機を用い、未加硫ゴムを100℃で1分間余熱後、4分後のトルク値をムーニー単位で測定した値であり、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど粘度が低く、加工性に優れることを示す。
【0042】
(300%モジュラス)
JIS K6251に準じて引張試験(ダンベル3号形)を実施し、300%伸長時のモジュラス値を比較例1の数値を100とした指数で表示した。300%モジュラスは値が大きいほどシランカップリング剤がシリカ補強に対して効果があることを示しており、従って、上記指数が大きい程、補強性に優れ、望ましいことを示す。
【0043】
(転がり抵抗)
使用リムを15×6.5JJとしてタイヤを装着し、空気圧230kPa、荷重4.4kNとして、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機にて23℃で80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。結果は、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、転がり抵抗が小さく(低発熱性に優れ)、従って燃費性に優れることを示す。
【0044】
結果は表2に示す通りである。ノンプロ混合工程での排出温度を140℃として、ノンプロ混合後あるいはファイナル混合後に、常温熟成あるいは加熱処理を行って比較したところ、熟成や加熱処理のいずれも行わない比較例1に対し、ノンプロ混合後に十分な常温熟成を行った実施例1では、ムーニー粘度が低くなり、300%モジュラスは高くなり、転がり抵抗が低くなっていた。これはいずれも特性として優れており、シランカップリング剤が常温で穏やかにシリカ粒子表面と反応することにより理想的に働いていることが分かる。これに対し、比較例2では、常温熟成が不十分であり、改善効果はほとんど見られなかった。ノンプロ混合後に加熱処理を行った比較例3では、300%モジュラスが低くなっていた。これは、加熱処理によりシランカップリング剤の反応は進行するが、シリカの補強性を高めるようなシリカ粒子表面との反応よりもシランカップリング剤同士の自己縮合が起きているためであると考えられる。一方、ファイナル混合後に常温熟成した比較例4や、加熱処理した比較例5では、いずれもムーニー粘度が大きくなっており、これはスコーチが起きてしまっているためと考えられる。また、比較例4,5では、300%モジュラスも低下しており、シランカップリング剤が自己縮合していると考えられる。
【0045】
ノンプロ混合工程での排出温度が120℃の場合(比較例10,実施例2)、及び130℃の場合(比較例11,実施例3)も、140℃の場合と同様に、常温熟成により特性改良の効果が現れていた。
【0046】
一方、排出温度が100℃の場合(比較例6,7)、及び110℃の場合(比較例8,9)には、ノンプロ混合排出後のシランカップリング剤の反応率が低すぎるため、常温熟成を行った後も反応が十分進行しておらず、特性の改良が十分でなかった。また、排出温度が150℃の場合(比較例12,13)、及び160℃の場合(比較例14,15)は、シランカップリング剤の反応がノンプロ混合排出の段階で進行してしまっているため、常温熟成による反応の進行の効果が得られないばかりか、排出温度が高いため、スコーチが生じてしまい、ムーニー粘度が増加していた。
【0047】
【表2】

【0048】
[第2実施例]
ゴム組成物の配合は、シランカップリング剤として、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン(GEシリコーンズ社製「NXT」)を用い、その他は第1実施例と同様とした。下記表3に示す条件に従い、第1実施例と同様にして、比較例16及び実施例4のゴム組成物を調製した。詳細には、比較例16では、常温熟成も加熱処理も行うことなく、ノンプロ混合後、直ちにファイナル混合工程を行うことでゴム組成物を調製した。実施例4では、シート状のノンプロゴム混合物を常温(25℃)で168時間熟成させた後、ファイナル混合工程を行うことでゴム組成物を調製した。その他の調製方法は第1実施例と同様である。
【0049】
比較例16及び実施例4について、ノンプロ混合直後及び常温熟成後のシランカップリング剤の反応率を、第1実施例と同様にして測定した。なお、この場合、S(質量%)=0.224である。
【0050】
また、各ゴム組成物について、ムーニー粘度、300%モジュラス、及び転がり抵抗を、第1実施例と同様に測定評価した(但し、比較例16をコントロールとして、その値を100とした指数で表示した)。
【0051】
結果は、表3に示す通りであり、シランカップリング剤として保護化メルカプトシランを用いた場合についても、スルフィドシランを用いた第1実施例と同様に、ノンプロ混合後に常温熟成を行った実施例4では、ムーニー粘度が低くなり、300%モジュラスは高くなり、転がり抵抗が低くなっており、すなわち、加工性と補強性、低燃費性のバランスに優れていた。
【0052】
【表3】

【0053】
[第3実施例]
ゴム組成物の配合は、シランカップリング剤として、3−メルカプトプロピルトリエキシシラン(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製「A−1891」)を用い、その他は第1実施例と同様とした。下記表4に示す条件に従い、第1実施例と同様にして、比較例17及び実施例5のゴム組成物を調製した。詳細には、比較例17では、常温熟成も加熱処理も行うことなく、ノンプロ混合後、直ちにファイナル混合工程を行うことでゴム組成物を調製した。実施例5では、シート状のノンプロゴム混合物を常温(25℃)で168時間熟成させた後、ファイナル混合工程を行うことでゴム組成物を調製した。その他の調製方法は第1実施例と同様である。
【0054】
比較例17及び実施例5について、ノンプロ混合直後及び常温熟成後のシランカップリング剤の反応率を、第1実施例と同様にして測定した。なお、この場合、S(質量%)=0.343である。
【0055】
また、各ゴム組成物について、ムーニー粘度、300%モジュラス、及び転がり抵抗を、第1実施例と同様に測定評価した(但し、比較例17をコントロールとして、その値を100とした指数で表示した)。
【0056】
結果は、表4に示す通りであり、シランカップリング剤としてメルカプトシランを用いた場合についても、スルフィドシランを用いた第1実施例と同様に、ノンプロ混合後に常温熟成を行った実施例5では、ムーニー粘度が低くなり、300%モジュラスは高くなり、転がり抵抗が低くなっており、すなわち、加工性と補強性、低燃費性のバランスに優れていた。
【0057】
【表4】

【0058】
以上のように、ノンプロ混合排出段階でのシランカップリング剤の反応率が50〜80%のゴムを常温熟成させ、熟成後の反応率が90%以上となるようにしたものを用いてファイナル混合を行うことにより、燃費性がよくなるだけでなく、加工性と補強性も改善され、これらの特性のバランスに優れたゴム組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分にシリカとシランカップリング剤を添加し混合することで前記シランカップリング剤の反応率が50〜80%であるノンプロゴム混合物を得て、該ノンプロゴム混合物を15〜30℃で熟成させて前記シランカップリング剤の反応率が90%以上である熟成ゴム混合物を得て、該熟成ゴム混合物に加硫剤と加硫促進剤を添加し混合することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ノンプロゴム混合物を得る際の最高混合温度が120〜140℃であることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ノンプロゴム混合物を熟成させる時間が80〜300時間であることを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
ゴム成分にシリカとシランカップリング剤を添加し最高混合温度を120〜140℃として混合することでノンプロゴム混合物を得て、該ノンプロゴム混合物を15〜30℃で80〜300時間熟成させて熟成ゴム混合物を得て、該熟成ゴム混合物に加硫剤と加硫促進剤を添加し混合することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造されたゴム組成物。

【公開番号】特開2012−255048(P2012−255048A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127467(P2011−127467)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】