説明

ゴム組成物及びゴム組成物の製造方法

【課題】ゴム成分とミクロフィブリル化植物繊維との相互作用を高めることにより、破断特性が向上したゴム組成物を提供する。また、ゴム成分中に分散させるミクロフィブリル化植物繊維における表面処理を行う際に、多くのプロセスが必要とせず、簡便に行うことのできるゴム組成物の製造方法を提供する。さらに、ゴム組成物の破断特性の向上により、耐久性の高いタイヤを提供する。
【解決手段】(A)ゴム成分、及び(B)アミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを機械的に解繊処理することにより得られるミクロフィブリル化植物繊維を含むゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成分及びシランカップリング剤で処理されたミクロフィブリル化植物繊維を含有するゴム組成物、及びゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物において、ゴム成分中に配合される充填剤としてセルロース繊維を含有することにより、ゴムの物理的特性の向上させることは、従来から知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、セルロース短繊維の水分散液とゴムラテックスとを撹拌混合し、その混合液から水を除去して得られるゴム/短繊維マスターバッチ、及びその製造方法、並びにそれらを用いた空気入りタイヤについて提案している。
【0003】
しかしながら、セルロース短繊維はゴムとの相溶性が悪く、ゴム組成物として配合した場合に、破断特性や界面におけるエネルギーロス等の面で十分な効果が得られず、これらの特性を改善しなければ、各種用途への実用化は難しい。そのため、アセチル化等の表面処理を行ったセルロース短繊維の利用が提案されている。しかしながら、セルロース短繊維を表面処理する際には、別途溶剤中で反応させる必要があり、多くのプロセスが必要となる。また、該表面処理により、セルロース短繊維のゴム成分との親和性が向上するが、界面での結合が生じないため、十分な補強効果が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−206864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ゴム成分とミクロフィブリル化植物繊維との相互作用を高めることにより、破断特性が向上したゴム組成物を提供することを目的とする。また、ゴム成分中に分散させるミクロフィブリル化植物繊維における表面処理を行う際に、多くのプロセスを必要とせず、簡便に行うことのできるゴム組成物の製造方法を提供することも目的とする。さらに、ゴム組成物の破断特性の向上により、耐久性の高いタイヤを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、アミノ基を有するシランカップリング剤で化学的処理を施したパルプを用いたミクロフィブリル化植物繊維を、ゴム成分中に分散させることによって、得られるゴム組成物の破断特性を改善できることを見出した。
【0007】
本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0008】
項1.(A)ゴム成分、及び
(B)アミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを機械的に解繊処理することにより得られるミクロフィブリル化植物繊維を含む
ゴム組成物。
【0009】
項2.ゴム成分(A)が、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を含む項1に記載のゴム組成物。
【0010】
項3.アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)の含有割合が、ゴム成分(A)中、0.1〜50質量%である請求項2に記載のゴム組成物。
【0011】
項4.アミノ基と反応する官能基を含有するゴム成分(A1)が、二塩基酸基、エポキシ基、及びカルボキシル基よりなる少なくとも1種の置換基を有することを特徴とする項2又は3に記載のゴム組成物。
【0012】
項5.ミクロフィブリル化植物繊維(B)の含有量が、ゴム成分(A)100質量部に対して、1〜50質量部である項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【0013】
項6.ミクロフィブリル化植物繊維(B)における機械的な解繊処理が磨砕処理である項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物。
【0014】
項7.ミクロフィブリル化植物繊維(B)の繊維径の平均値が、10μm以下である項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物。
【0015】
項8.(a)パルプをアミノ基を有するシランカップリング剤で処理する工程、
(b)アミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを、機械的に解繊処理することにより、ミクロフィブリル化植物繊維(B)を調製する工程、
(c)工程(b)により得られたミクロフィブリル化植物繊維(B)とゴムラテックスを混合し、ゴムラテックス中にミクロフィブリル化植物繊維(B)を分散させる工程、及び
(d)工程(c)により得られた分散液を乾燥させ、マスターバッチを得る工程を含むゴム組成物の製造方法。
【0016】
項9.さらに、(e)工程(d)により得られたマスターバッチと、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を混合する工程を含む
項8にゴム組成物の製造方法。
【0017】
項10.工程(a)におけるアミノ基を有するシランカップリング剤の添加量が、パルプ100質量部に対して、0.005〜20質量部である項8又は9に記載のゴム組成物の製造方法。
【0018】
項11.工程(a)における処理後、さらに水洗する工程を含む項8〜10のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【0019】
項12.工程(b)における機械的な解繊処理が、磨砕処理である項8〜11のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【0020】
項13.工程(e)におけるアミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)の添加量が、ミクロフィブリル化植物繊維100質量部に対して、0.1〜100質量部である項9〜12のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【0021】
項14.タイヤ用に用いられる項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物。
【0022】
項15.項1〜7及び14のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明のゴム組成物は、(A)ゴム成分、及び(B)アミノ基を有するシランカップリング剤によって処理されたミクロフィブリル化植物繊維を含有する。
【0025】
ゴム成分(A)としては、ジエン系ゴム成分のものが挙げられ、具体的には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等が挙げられる。また、ジエン系ゴム成分以外のゴム成分としては、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらのゴム成分は、単独で使用してもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。ブレンドする場合のブレンド比においても、各種用途に応じて適宜配合すればよい。
【0026】
さらに、後述するアミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを用いて得られるミクロフィブリル化植物繊維とゴム成分(A)との相溶性を向上させるために、ゴム成分(A)として、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を含むことが好ましい。
【0027】
アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)における官能基としては、二塩基酸基、エポキシ基、カルボキシル基等が挙げられ、具体的には、官能基を付与するために、前記で挙げたゴム成分を変性することにより得られる。変性する方法としては、例えば、マレイン化、エポキシ化、カルボキシル化等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)の具体例としては、例えば、マレイン化天然ゴム、マレイン化イソプレンゴム、エポキシ化天然ゴム(ENR)、エポキシ化イソプレンゴム等の改質天然ゴム及び改質合成天然ゴム等が挙げられるが、これらの中で、反応性がよく汎用品として入手しやすいという観点から、マレイン化イソプレンゴム、エポキシ化天然ゴム(ENR)が好ましい。
【0029】
アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)の含有割合は、ゴム成分(A)中、最終的な加硫ゴムの物性の悪化を抑制できること、後述するゴム組成物の製造方法における工程(d)の作業性において良好であるという点から、0.1〜50質量%の範囲内が好ましく、0.2〜35質量%の範囲内がより好ましく、0.3〜20質量%の範囲内がさらに好ましい。
【0030】
また、後述するゴム組成物の製造方法において、マスターバッチを製造する際に用いられるゴムラテックスとして、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を用いることが可能であれば、ゴム成分(A)を全てアミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)とすることも可能である。
【0031】
本発明のゴム組成物に含有するミクロフィブリル化植物繊維(B)は、アミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを機械的に解繊処理することにより得られる。
【0032】
パルプとしては、従来のミクロフィブリル化セルロースの製造に使用されていたパルプであればよく、リグニンが除去されていないもの、一部除去されているもの、又は完全に除去されたもののいずれであってもよい。
【0033】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)を製造する際に用いられるパルプを供給するための植物原料としては、従来のミクロフィブリル化セルロースの製造に使用されていたパルプを供給するための植物原料を広く使用でき、例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、再生パルプ、古紙が挙げられる。好ましくは、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物である。
【0034】
植物原料をパルプ化する方法は、特に限定されるものではなく、従来の方法によって行われる。例えば、植物原料を機械的にパルプ化するメカニカルパルプ化法等が適用できる。メカニカルパルプ化法により得られるメカニカルパルプ(MP)としては砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等を挙げることができる。
【0035】
また、植物原料を塩素処理、アルカリ処理、酸素酸化処理、次亜塩素酸ナトリウム処理、亜硫酸塩処理等により化学的に或いは化学的及び機械的にパルプ化することにより得られるケミカルパルプ(CP)(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP)等)、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)を用いることも可能である。また、パルプは、必要に応じてパルプ分野で慣用されている化学変性処理されていても良く、例えば、エステル化処理、エーテル化処理、アセタール化処理、リグニンの芳香環が処理されたパルプ等を施されたパルプが例示される。エステル化処理、エーテル化処理、アセタール化処理は、主として、セルロース、ヘミセルロース、リグニンに存在する水酸基をエステル化、エーテル化、アセタール化処理することを包含する。また、リグニンの芳香環の処理は、リグニンの芳香環に所望の置換基を導入することも本願発明の効果を損なわない範囲で包含する。
【0036】
パルプを処理する際に用いられるアミノ基を有するシランカップリング剤としては、トリアルコキシシランを有しているものが好ましく、アミノ基としては、第1級又は第2級のいずれでもよく、具体的には、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記シランカップリング剤において、カップリング剤添加効果とコストの両立の点、ゴム成分(A1)との反応性が良好である点から、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が好ましい。
【0038】
前記パルプをアミノ基を有するシランカップリング剤で処理した後、後述する機械的な解繊処理によりミクロフィブリル化植物繊維(B)が得られる。
【0039】
ゴム組成物中におけるミクロフィブリル化植物繊維(B)の含有量は、ゴム中でのミクロフィブリル化植物繊維の分散性を悪化させずにゴム補強効果を発現できるという観点から、ゴム成分(A)100質量部に対して、1〜50質量部の範囲内が好ましく、2〜35質量部の範囲内がより好ましく、3〜20質量部の範囲内がさらに好ましい。
【0040】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)の繊維径の平均値(以下、平均繊維径ともいう)は、10μm以下が好ましく、4nm〜1μmであることがより好ましく、4nm〜200nmであることがさらに好ましく、4nm〜100nmであることがより一層好ましい。平均繊維径が10μmを超えると、ゴム成分中に分散させたときに、凝集しやすくなり、ゴムの破壊特性を悪化させる、また、繊維自体が大きいため、ゴムが変形した際に破壊の起点となりやすく、結果としてゴムの破壊特性が悪化する等の傾向がある。なお、平均繊維径の下限については、特に限定されるものではないが、水系でゴムとマスターバッチ化する際の操作性において良好である(スラリーの流動性が担保できる)という点から、4nm以上が好ましい。
【0041】
本発明は、(a)パルプをアミノ基を有するシランカップリング剤で処理する工程、(b)アミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを、機械的に解繊処理することにより、ミクロフィブリル化植物繊維(B)を調製する工程、(c)工程(b)により得られたミクロフィブリル化植物繊維(B)とゴムラテックスを混合し、ゴムラテックス中にミクロフィブリル化植物繊維(B)を分散させる工程、及び(d)工程(c)により得られた分散液を乾燥させ、マスターバッチを得る工程を含むゴム組成物の製造方法にも関する。
【0042】
工程(a)において用いられるパルプ、及びアミノ基を有するシランカップリング剤は、前記で挙げられたものを用いることができる。
【0043】
アミノ基を有するシランカップリング剤の配合量は、ゴムの破断特性を高める効果を発現できるという点から、原料パルプ100質量部に対して、0.005質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、0.02質量部以上がさらに好ましい。また、シランカップリング剤の配合量は、ゴムの破断特性を高める効果の発現及びコストと効果のバランスにおいて良好であるという点から、原料パルプ100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0044】
パルプとアミノ基を有するシランカップリング剤を混合し、反応させる際の反応温度は、シランカップリング剤とパルプの縮合反応以外の副反応が生じにくいという観点から、5〜90℃の範囲内が好ましく、10〜85℃の範囲内がより好ましく、20〜80℃の範囲内がさらに好ましい。
【0045】
パルプとアミノ基を有するシランカップリング剤との反応時間は、シランカップリング剤中のアルコキシ基の反応が充分に進行する点から、0.1〜48時間の範囲内が好ましく、0.5〜36時間の範囲内がより好ましく、1〜24時間の範囲内がさらに好ましい。
【0046】
アミノ基を有するシランカップリング剤によって処理されたパルプは、さらに水洗することによって、未反応のアミノ基を有するシランカップリング剤を除去させることが、シランカップリング剤同士が縮合した凝集物の発生を未然に防ぐ観点から好ましい。
【0047】
工程(a)における機械的な解繊処理は、水の存在下で行われる。解繊処理の方法としては、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、二軸混錬押出機、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により機械的に磨砕ないし叩解する方法が挙げられる。これらの方法により、パルプが解繊又は微細化され、ミクロフィブリル化植物繊維とされる。解繊処理における好ましい温度は0〜99℃、より好ましくは0〜90℃である。解繊処理の原料となるパルプは、このような解繊処理に適した形状(例えば粉末状等)であることが望ましい。また、解繊処理に先立って、パルプを蒸気で蒸す(例えば、圧力釜中、水分存在下で加熱する)と解繊エネルギーの低減の点で有利である。
【0048】
好ましい解繊方法は磨砕処理であり、石臼式磨砕機、二軸混練押出機を用いることが好ましい。磨砕は繊維径が所望の大きさになるまで行えばよい。
【0049】
なお、パルプをアミノ基を有するシランカップリング剤で処理せず、原料パルプを機械的に解繊処理し、その後に、得られる植物繊維をアミノ基を有するシランカップリング剤で処理することによって、前記のミクロフィブリル化植物繊維を得ることも可能であるが、該方法では、化学的処理後の粘度の向上が生じてしまうため、粘度をコントロールしなければならない、反応処理後のミクロフィブリル化植物繊維の洗浄処理を行う場合に、濾水性が悪く作業性が大幅に悪化する等の観点から、工程が煩雑化する傾向がある。
【0050】
なお、ミクロフィブリル化植物繊維(B)に含有するリグニンについては、化学的に除去したものであっても、除去していなくともよい。
【0051】
化学的にリグニンを完全には除去しない場合、ミクロフィブリル化セルロースの間を埋めているリグニン及びヘミセルロースからなるマトリックス部分が壊れて微小繊維化(ミクロフィブリル化)していると推測される。したがって、機械的な解繊処理により得られるミクロフィブリル化植物繊維(B)は、植物原料が本来有しているセルロース、ヘミセルロース及びプロトリグニン(植物組織中に存在する状態でのリグニン)から構成される構造を保持していると推測される。セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲の一部又は全部をヘミセルロース及び/又はリグニンが被覆した構造、特に、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロースが覆い、さらにこれをリグニンが覆った構造を有していると推測される。ただし、ヘミセルロース及び/又はリグニンが取れてヘミセルロース又はセルロース繊縦が表面に露出する部分も存在するであろうと推測される。
【0052】
なお、特開2001−342353号公報には、木粉を脱脂処理(エタノール:ベンゼン=1:2溶液)した脱脂木粉に、フェノール誘導体のアセトン溶液を加えてフェノール誘導体を収着させ、リン酸処理して得られる組成物が記載されているが、この組成物は、ミクロフィブリル化されていない点で、本発明で用いられるミクロフィブリル化植物繊維(B)とは相違する。
【0053】
工程(c)において、工程(b)により得られたミクロフィブリル化植物繊維とゴムラテックスを混合し、ゴムラテックス中にミクロフィブリル化植物繊維を分散させる。
【0054】
工程(c)において分散されるミクロフィブリル化植物繊維の固形分濃度は、凝固時の各材料の歩留まりが良好であるという観点から、分散液中、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。ミクロフィブリル化植物繊維の固形分濃度は、ゴム成分(A)との混合効率が良好であるという点から、分散液中、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0055】
工程(c)において分散されるゴムラテックス中のゴム成分の固形分濃度は、凝固時の各材料の歩留まりが良好であるという点から、分散液中、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。ゴム成分の固形分濃度は、ミクロフィブリル化植物繊維との混合効率が良好であるという点から、分散液中、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0056】
ミクロフィブリル化植物繊維の添加量は、凝固時のゴム中でのミクロフィブリル化植物繊維の分散性を悪化させず、最終的にゴム補強効果を発現できるという観点から、分散液中に含まれるゴム成分100質量部に対して、1〜50質量部の範囲内が好ましく、2〜35質量部の範囲内がより好ましく、3〜20質量部の範囲内がさらに好ましい。
【0057】
工程(c)において得られる分散液は、酸により凝固させ、その後、乾燥させることによりゴム組成物(マスターバッチ)が得られる。
【0058】
分散液中の固形分を凝固させる際の酸は、ギ酸、酢酸、塩酸、硫酸等が挙げられる。
【0059】
さらに、工程(d)により得られたマスターバッチと、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を混合する工程により、ミクロフィブリル化植物繊維がゴム成分に良好に分散されたゴム組成物が得られる。
【0060】
なお、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)は、工程(c)において混合されるゴムラテックスとして用いられるゴム成分として含有させて、工程(d)により得られるマスターバッチ中に含有させても良いが、ゴム成分(A1)が水中で微分散しにくいものである場合には、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を一部含む又はゴム成分(A1)を含まないマスターバッチを調製した後に、さらに該マスターバッチと、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を混合してゴム組成物を調製することが好ましい。
【0061】
工程(e)におけるアミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)の添加量は、ゴムの破断特性を高める効果とコスト、加工性のバランスから、ミクロフィブリル化植物繊維100質量部に対して、0.1〜100質量部の範囲内が好ましく、0.5〜50質量部の範囲内がより好ましく、1〜20質量部の範囲内がさらに好ましい。
【0062】
前記の方法により得られるゴム組成物(マスターバッチ)は、さらに、カーボンブラック、シリカ等の補強用充填剤;本願発明のシランカップリング剤以外のシラン化合物;プロセスオイル;ワックス;老化防止剤;硫黄及び加硫促進剤等の加硫剤;酸化亜鉛、ステアリン酸等の加硫助剤等を適宜配合することができる。
【0063】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分とミクロフィブリル化植物繊維との相互作用を高め、破断特性が向上する。そのため、タイヤ用として好適に用いられる。
【0064】
本発明のゴム組成物をタイヤ用として用いる場合、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等で前記のゴム成分(A)、及びアミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを機械的に解繊処理することにより得られるミクロフィブリル化植物繊維(B)を含有するゴム組成物に、さらに、所望の添加剤を混練することによりタイヤ用ゴム組成物として適用することができる。該タイヤ用ゴム組成物を加硫させる際に、ミクロフィブリル化植物繊維中に存在するシランカップリング剤由来のアミノ基がアミノ基と反応する官能基を有するゴム成分と反応し、ゴム成分とミクロフィブリル化植物繊維との間でも、架橋が生じる。そのため、ゴム成分とミクロフィブリル化植物繊維との界面での結合による十分な補強効果が得られる。
【0065】
また、本発明は、前記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤにも関する。空気入りタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、本発明のゴム組成物にさらに、所望の配合剤を配合して混練し、得られる混練物を、未加硫の段階でタイヤの各種部材の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得ることができる。
【発明の効果】
【0066】
本発明のアミノ基を有するシランカップリング処理をしたパルプを機械的に解繊処理して得られるミクロフィブリル化植物繊維とゴム成分とのゴム組成物は、複雑な工程を要せずとも、ミクロフィブリル化植物繊維とゴムの界面相互作用を改善させることができる。そのため、破断特性を向上させることができる。また、該ゴム組成物をタイヤに用いた場合、耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0067】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0068】
・実施例1、比較例1、及び参考例1
<ミクロフィブリル化植物繊維1の調製>
固形分濃度30質量%の含水針葉樹由来非漂白クラフトパルプ(平均繊維径:およそ50μm)の固形分100質量部に対して、10質量部の3−アミノプロピルトリエトキシシランを1質量%の濃度に水で希釈して添加し、23℃で24時間反応させた。ついで得られた含水パルプの固形分をおよそ30質量%に再調整し、400rpm、0℃の操業条件の二軸混練押出機で処理することでミクロフィブリル化植物繊維1を調製した。得られたミクロフィブリル化植物繊維1の平均繊維径は、電子顕微鏡による観察結果からおよそ100nmであった。
【0069】
<ミクロフィブリル化植物繊維2の調製>
前記<ミクロフィブリル化植物繊維1の調製>と同様の固形分濃度30質量%の針葉樹由来非漂白クラフトパルプにおいて、3−アミノプロピルトリエトキシシランを添加せずにそのまま400rpm、0℃の操業条件の二軸混練押出機で処理することでミクロフィブリル化植物繊維2を調製した。得られたミクロフィブリル化植物繊維2の平均繊維径は、電子顕微鏡による観察結果からおよそ100nmであった。
【0070】
<マスターバッチの調製>
マスターバッチ1の調製
表1に記載の量のミクロフィブリル化植物繊維1(固形分濃度:30質量%)を、表1に記載の量の水中に高速ホモジナイザー(IKA製バッチ式ホモジナイザーT25ウルトラタラックス(Ultraturrax T25))を用いて、24,000rpm、1時間撹拌分散させ、ついで表1に記載の量の天然ゴムラテックス(ゴールデン・ホープ・プランテーションズ社製、HYTEX-HA、固形分濃度60質量%)を添加し、さらに30分撹拌分散させた。得られた混合液にさらに5%ギ酸水溶液で凝固し、水洗後、40℃の加熱オーブン中で乾燥させることでマスターバッチ1を得た。
【0071】
マスターバッチ2の調製
ミクロフィブリル化植物繊維2を用いた以外は、マスターバッチ1の調製と同様の方法で調製した。
【0072】
マスターバッチ3の調製
ミクロフィブリル化植物繊維を使用せず、マスターバッチ1の調製で使用した固形分濃度60質量%の天然ゴムラテックス250gを5%ギ酸水溶液で凝固し、水洗後、40℃の加熱オーブン中で乾燥させることでマスターバッチ3を得た。
【0073】
前記マスターバッチ1〜3におけるミクロフィブリル化植物繊維、水、及び天然ゴムラテックスの配合量を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
<加硫ゴム組成物の調製>
表2の配合に従い、各種マスターバッチと変性イソプレンゴム(実施例1及び比較例1のみ配合)を135℃に加熱した250ccに加温したインターナルミキサーで88rpm、3分間混練りした後、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛を追加投入して2分間混練りした。混練りしたゴムを排出して、60℃、24rpmの条件で6インチオープンロールにより5分間加硫促進剤と硫黄を添加、混練した後、150℃でプレス加熱することで実施例1、比較例1、及び参考例1に対応する加硫ゴム組成物を得た。
【0076】
加硫ゴム組成物を調製する際に用いた各配合成分の詳細を以下に示す。
【0077】
変性イソプレンゴム((株)クラレ製LIR−403)
老化防止剤:ノクラック6C(大内新興化学工業(株)製)
ステアリン酸:ビーズステアリン酸つばき(日本油脂(株)製)
酸化亜鉛:酸化亜鉛2種(三井金属鉱業(株)製)
硫黄:粉末硫黄(鶴見化学工業(株)製)
加硫促進剤:ノクセラーDM(大内新興化学工業(株)製)
【0078】
【表2】

【0079】
<物性評価>
上記の方法で作製した加硫ゴム組成物を用い、以下に示す評価を行った。なお、表3に示す特性データの各指数については、参考例1を基準配合とし、下記記載の計算式でそれぞれ算出した。
【0080】
<引張試験>
JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従い、破断応力、破断伸びを測定した。下記の計算式、
引張強度指数=(各配合の破断応力)÷(基準配合の破断応力)×100
破断伸び指数=(各配合の破断伸び)÷(基準配合の破断伸び)×100
破壊エネルギー指数=(各配合の破断応力×破断伸び÷2)÷(基準配合の破断応力×破断伸び÷2)×100
により引張強度指数、破断伸び指数、破壊エネルギー指数を算出した。これらの指数が大きい程、加硫ゴム組成物が良好に補強されており、ゴムの破壊特性に優れることを示す。またこれらの指数が大きいほど空気入りタイヤに高い耐久性をもたらすことを示す。
【0081】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム成分、及び
(B)アミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを機械的に解繊処理することにより得られるミクロフィブリル化植物繊維を含む
ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム成分(A)が、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を含む請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)の含有割合が、ゴム成分(A)中、0.1〜50質量%である請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
アミノ基と反応する官能基を含有するゴム成分(A1)が、二塩基酸基、エポキシ基、及びカルボキシル基よりなる少なくとも1種の置換基を有することを特徴とする請求項2又は3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)の含有量が、ゴム成分(A)100質量部に対して、1〜50質量部である請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)における機械的な解繊処理が磨砕処理である請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項7】
ミクロフィブリル化植物繊維(B)の繊維径の平均値が、10μm以下である請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
(a)パルプをアミノ基を有するシランカップリング剤で処理する工程、
(b)アミノ基を有するシランカップリング剤で処理したパルプを、機械的に解繊処理することにより、ミクロフィブリル化植物繊維(B)を調製する工程、
(c)工程(b)により得られたミクロフィブリル化植物繊維(B)とゴムラテックスを混合し、ゴムラテックス中にミクロフィブリル化植物繊維(B)を分散させる工程、及び
(d)工程(c)により得られた分散液を乾燥させ、マスターバッチを得る工程を含むゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
さらに、(e)工程(d)により得られたマスターバッチと、アミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)を混合する工程を含む
請求項8にゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
工程(a)におけるアミノ基を有するシランカップリング剤の添加量が、パルプ100質量部に対して、0.005〜20質量部である請求項8又は9に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項11】
工程(a)における処理後、さらに水洗する工程を含む請求項8〜10のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項12】
工程(b)における機械的な解繊処理が、磨砕処理である請求項8〜11のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項13】
工程(e)におけるアミノ基と反応する官能基を有するゴム成分(A1)の添加量が、ミクロフィブリル化植物繊維100質量部に対して、0.1〜100質量部である請求項9〜12のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項14】
タイヤ用に用いられる請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項15】
請求項1〜7及び14のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−231204(P2011−231204A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102108(P2010−102108)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】