説明

サスペンションアームの取付け構造

【課題】 サスペンションメンバの形状、材質等の制約を受け難く、サスペンションアームの同メンバに対する取付け位置の調整が容易なサスペンションアームの取付け構造を提供する。
【解決手段】 サスペンションアーム10は、ブッシュ11、ボルト12およびナットを介してサスペンションメンバ20に取り付けられる。ブッシュ11の内筒11bは、略楕円状をなしており、軸線方向両端部には位置決めプレート13,13がそれぞれ圧入嵌合される。内筒11bの貫通孔11b1は、ボルト12の貫通を許容し、かつボルト12の径方向に長い長孔に形成されている。貫通孔11b1の長軸方向はサスペンションアーム10の長手方向(調整方向)に一致している。位置決めプレート13,13がゴムプレート14,14を介してサスペンションメンバ20に係合した状態にて、ブッシュ11はボルト12およびナットにより同メンバ20に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるサスペンションアームの取付け構造に係り、特にサスペンションアームのサスペンションメンバに対する取付け位置を調整することによりアライメント調整が可能なサスペンションアームの取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のサスペンションアームの取付け構造の一つとしては、例えば下記特許文献1に記載されているように、サスペンションアームがサスペンションメンバに対して外筒と内筒間にゴム等の弾性体を一体的に有するブッシュを介して所定量移動可能に取り付けられていて、サスペンションアームのサスペンションメンバに対する取付け位置を調整することによりアライメント調整(キャンバ、キャスタ、トーなどの調整)可能なものが知られている。このサスペンションアームの取付け構造においては、アライメント調整がカム機構を用いて行われる。カム機構は、カムボルト、カムプレートおよびカムプレート用ガイドで構成されていて、カムボルトおよびカムプレートがサスペンションアームと一体的に移動可能に取り付けられ、カムプレート用ガイドがサスペンションメンバに固着されている。そして、カムボルトおよびカムプレートの回動によりサスペンションアームがサスペンションメンバに対して調整方向に移動して、アライメントが調整されるようになっている。
【特許文献1】特開平7−232662号公報
【0003】
しかし、上記特許文献1に記載されたサスペンションアームの取付け構造においては、カムプレート用ガイドをサスペンションメンバに設ける必要があるが、サスペンションメンバの形状、材質等によっては、例えば、サスペンションメンバがアルミ材であってそれ自体で形状加工によってカムプレート用のガイドを形成しなければならないような場合には、カムプレート用のガイドをサスペンションメンバに設けることが困難である。この場合には、アライメントを調整するための方法として、カム機構を採用できないという問題がある。
【発明の開示】
【0004】
したがって、本発明では、上記問題に対処するために、サスペンションメンバの形状、材質等の制約を受け難く、しかもサスペンションアームのサスペンションメンバに対する取付け位置の調整が容易なサスペンションアームの取付け構造を提供することをその目的としている。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明においては、サスペンションアームがサスペンションメンバに対して外筒と内筒間にゴム等の弾性体を一体的に有するブッシュを介して所定量移動可能に取り付けられていて、前記サスペンションアームの前記サスペンションメンバに対する取付け位置を調整することによりアライメント調整が可能なサスペンションアームの取付け構造において、前記サスペンションアームが前記サスペンションメンバに取り付けられるときに同サスペンションメンバに対する同サスペンションアームの調整方向における位置を同サスペンションメンバとの係合によって規定する位置決めプレートを前記ブッシュの前記内筒に一体的に設けたことに特徴がある。
【0006】
この場合には、サスペンションメンバに対するサスペンションアームの調整方向における設定長さがそれぞれ異なる複数の位置決めプレートを用意しておき、サスペンションアームのサスペンションメンバに対する取付け位置に応じて最適な位置決めプレートを選択使用することにより、同取付け位置を所定位置に容易に規定することが可能である。
【0007】
また、本発明の実施に際して、前記位置決めプレートと前記サスペンションメンバが係合する部位には、設定板厚のゴムプレートが介在していることも可能である。この場合には、設定板厚のそれぞれ異なるゴムプレートを備えた複数の位置決めプレートを用意しておき、サスペンションアームのサスペンションメンバに対する取付け位置に応じて最適な位置決めプレートを選択使用することにより、同取付け位置を所定位置に容易に規定することが可能である。また、このときには、サスペンションアームの調整方向における長さが異なる位置決めプレートと、板厚の異なるゴムプレートとを適宜組み合わせることにより、広い範囲のアライメント調整に対応することが可能である。
【0008】
また、本発明の実施に際して、前記ゴムプレートは、前記位置決めプレートに対して着脱可能であることも可能である。この場合には、設定板厚が異なる複数のゴムプレートを用意しておき、位置決めプレートは変えずにゴムプレートのみを選択使用すればよいため、調整作業がより簡単になる。
【0009】
また、本発明の実施に際して、前記位置決めプレートに、前記サスペンションアームの前記サスペンションメンバに対する移動量を弾撥的に規制するストッパゴムを設けることも可能である。この場合には、サスペンションアームとサスペンションメンバとの干渉を避けるために両者間の隙間を無用に大きく設ける必要がないため、サスペンションアームの取付け構造を小型化することが可能である。また、サスペンションアームの移動規制をストッパゴムによってなし得るため、ブッシュにおける弾性体の素材を任意に選定することが可能であり、ブッシュにおける弾性体の特性を最適な値に設定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係るサスペンションアームの取付け構造を適用したサスペンション装置の一部を示していて、このサスペンション装置においては、サスペンションアーム10がその一端にてブッシュ11、ボルト12およびナット(図示省略)を介してサスペンションメンバ20(車体の一部)に取り付けられている。なお、サスペンションアーム10は図示省略したその他端にて周知な手段を用いてナックル等に接続されている。
【0011】
ブッシュ11は、外筒11aおよび内筒11bを備えるとともに、外筒11aと内筒11b間にゴム11cを一体的に備えている。外筒11aは、周知の円筒状をなしており、その外周にてサスペンションアーム10に形成された貫通孔10aに圧入嵌合されている。
内筒11bは、略楕円状をなしており、その軸線方向長さが外筒11aの軸線方向長さよりも長く形成されていて、両端部が外筒11aの両端面から突出している。内筒11bの両端部には、位置決めプレート13,13がそれぞれ組み付けられている(図3参照)。
【0012】
また、内筒11bは、ボルト12の軸線方向に貫通した貫通孔11b1を有している。
貫通孔11b1は、ボルト12の径方向(図1の左右方向)に長い長孔に形成されていて、その長軸方向がサスペンションアーム10の長手方向(調整方向)に一致している。貫通孔11b1の短軸方向の内径は、ボルト12の外径よりも僅かに大きく形成されている。ゴム11cは、外筒11aと内筒11b間に介装されていて、その外周および内周にて外筒11aの内周および内筒11bの外周にそれぞれ加硫接着されている。
【0013】
ボルト12は、サスペンションメンバ20に形成された貫通孔20aおよび内筒11bの貫通孔11b1を貫通していて、図示を省略する雄ねじ部にてナットと螺合している。このボルト12とナットとの螺合によって、内筒11bの両端部はサスペンションメンバ20の内壁面に強く押し付けられており、サスペンションメンバ20に対するサスペンションアーム10の長手方向における移動が規制された状態になっている。
【0014】
各位置決めプレート13,13は、略L字状をなしており、長壁部13a,13aおよび短壁部13b,13bをそれぞれ備えている。長壁部13a,13aには内筒11bの外寸法とほぼ同じ寸法の貫通孔13a1,13a1がそれぞれ形成されている。各位置決めプレート13,13は、各貫通孔13a1,13a1にて内筒11bの両端部の外周にそれぞれ圧入嵌合されている。
【0015】
各位置決めプレート13,13の短壁部13b,13bとサスペンションメンバ20が係合する部位には、ゴムプレート14,14がそれぞれ介在している。ゴムプレート14,14は、所定の板厚に設定されており、短壁部13b,13bのサスペンションメンバ20に対向する面にそれぞれ加硫接着されている。
【0016】
各位置決めプレート13,13の長壁部13a,13aにおけるブッシュ11の外筒11aに対向する面には、ストッパゴム15a,15aがそれぞれ加硫接着されている。ストッパゴム15a,15aは、ブッシュ11の外筒11aの軸線方向における移動量をそれぞれ弾撥的に規制している。
【0017】
また、各位置決めプレート13,13の短壁部13b,13bにおけるブッシュ11の外筒11aに対向する面には、ストッパゴム15b,15bがそれぞれ加硫接着されている。ストッパゴム15b,15bは、ブッシュ11の外筒11aの径方向における移動量をそれぞれ弾撥的に規制している。これらストッパゴム15a,15a,15b,15bによって、サスペンションアーム10のサスペンションメンバ20に対するブッシュ11の軸線方向および径方向の移動量が弾撥的に規制されるようになっている。
【0018】
ところで、上記したサスペンションアーム10は、下記の工程(第1工程〜第4工程)を経てサスペンションメンバ20に取り付けられている。第1工程では、ブッシュ11がサスペンションアーム10に圧入嵌合により組み付けられる。第2工程では、サスペンションアーム10に組み付けたブッシュ11に、位置決めプレート13,13が圧入嵌合により組み付けられる(図3参照)。第3工程では、位置決めプレート13,13がゴムプレート14,14を介してサスペンションメンバ20の内壁に係合した状態で、サスペンションアーム10およびブッシュ11がサスペンションメンバ20に組み合わされる。第4工程では、上記係合状態にてブッシュ11がボルト12およびナットによりサスペンションメンバ20に固定される(図1および図2参照)。
【0019】
この実施形態においては、ブッシュ11に組み付けた位置決めプレート13,13がゴムプレート14,14を介してサスペンションメンバ20に係合することによって、サスペンションアーム10の取付け位置が、例えば図1および図2に示すように、サスペンションメンバ20の内壁面からブッシュ11の中心軸線までの長さをAとする所定位置に規定される。したがって、位置決めプレート13,13の短壁部13b,13bにおけるゴムプレート14,14との貼り付け面から貫通孔13a1,13a1の中心軸線までの長さが異なる複数の位置決めプレート13,13を用意しておき、サスペンションアーム10のサスペンションメンバ20に対する取付け位置に応じて最適な位置決めプレート13,13を選択使用することにより、同取付け位置を所定位置に容易に規定することが可能である。
【0020】
また、この実施形態においては、位置決めプレート13,13の長壁部13a,13aおよび短壁部13b,13bに、ストッパゴム15a,15a,15b,15bがそれぞれ加硫接着されていて、サスペンションアーム10のサスペンションメンバ20に対する移動量をそれぞれ弾撥的に規制している。このため、位置決めプレート13,13を用いない場合に比して、サスペンションアーム10とサスペンションメンバ20との干渉を避けるために両者間の隙間を無用に大きく設ける必要がないため、サスペンションアーム10の取付け構造を小型化することが可能である。また、この場合には、サスペンションアーム10の移動規制をストッパゴム15a,15a,15b,15bによってなし得るため、ブッシュ11におけるゴム11cの素材を任意に選定することが可能であり、ブッシュ11におけるゴム11cの特性を最適な値に設定することが可能である。
【0021】
また、この実施形態においては、アライメント調整のために必要とされる新たな部材は、実質的に位置決めプレート13,13のみに過ぎないため、カム機構のように部品点数が多くならず、安価かつ簡易に構成することが可能である。
【0022】
上記実施形態においては、位置決めプレート13,13において、短壁部13b,13bのゴムプレート14,14との貼り付け面から貫通孔13a1,13a1の中心軸線までの長さが異なるものを用いて、サスペンションアーム10のサスペンションメンバ20に対する取付け位置を所定位置に規定するようにしたが、異なる設定板厚を有するゴムプレート14,14を備えた複数の位置決めプレート13,13を用いるようにしても、サスペンションアーム10のサスペンションメンバ20に対する取付け位置を所定位置に容易に規定することが可能である。また、この場合には、短壁部13b,13bのゴムプレート14,14との貼り付け面から貫通孔13a1,13a1の中心軸線までの長さが異なる位置決めプレート13,13と、板厚の異なるゴムプレート14,14とを適宜組み合わせることにより、広い範囲のアライメント調整に対応することが可能である。
【0023】
また、上記した実施形態およびその変形例においては、ゴムプレート14,14が位置決めプレート13,13に対して着脱可能でないものに本発明を適用した場合について説明したが、ゴムプレート14,14が位置決めプレート13,13に対して着脱可能であるものに本発明を適用することも可能である。
【0024】
この場合には、設定板厚が異なる複数のゴムプレート14,14を用意しておき、サスペンションアーム10のサスペンションメンバ20に対する取付け位置に応じて最適な板厚のゴムプレート14,14を選択使用することにより、同取付け位置を所定位置に容易に規定することが可能である。このときには、位置決めプレート13,13は変えずにゴムプレート14,14のみを選択して貼り替えればよいため、調整作業がより簡単になる。また、この場合には、ゴムプレート14,14をサスペンションメンバ20側に貼り付けるようにしてもよい。
【0025】
また、上記した実施形態およびその各種変形例においては、位置決めプレート13,13とサスペンションメンバ20が係合する部位に、ゴムプレート14,14が介在しているものに本発明を適用した場合について説明したが、位置決めプレート13,13とサスペンションメンバ20が係合する部位にゴムプレート14,14が介在していないものに本発明を適用することも可能である。
【0026】
この場合には、位置決めプレート13,13における短壁部13b,13bのサスペンションメンバ20との係合部位(当接部位)から長壁部13a,13aの貫通孔13a1,13a1の中心軸線までの長さがそれぞれ異なる複数の位置決めプレート13,13を用意しておき、サスペンションアーム10のサスペンションメンバ20に対する取付け位置に応じて最適な位置決めプレート13,13を選択使用することにより、同取付け位置を所定位置に容易に規定することが可能である。
【0027】
また、上記した実施形態およびその各種変形例においては、ブッシュ11の内筒11bに楕円状の貫通孔11b1を形成し、サスペンションメンバ20に円状の貫通孔20aを形成することにより、サスペンションアーム10およびブッシュ11がサスペンションメンバ20およびボルト12に対して調整方向にて異なる位置に取り付けられるものに本発明を適用した場合について説明したが、これとは逆に、ブッシュ11の内筒11bに円状の貫通孔を形成し、サスペンションメンバ20に楕円状の貫通孔を形成することにより、サスペンションアーム10、ブッシュ11およびボルト12がサスペンションメンバ20に対して調整方向にて異なる位置に取り付けられるものに本発明を適用することも可能である。そして、この場合には、位置決めプレート13,13をボルト12に一体的に設けることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるサスペンションアームの取付け構造を適用したサスペンション装置を概略的に示す部分破断平面図である。
【図2】図1の2−2線に沿った縦断面図である。
【図3】図1および図2に示したサスペンションアームに、ブッシュおよび位置決めプレートを組付けた状態を概略的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10…サスペンションアーム、11…ブッシュ、11a…外筒、11b…内筒、11c…ゴム、12…ボルト、13,13…位置決めプレート、14,14…ゴムプレート、15a,15b…ストッパゴム、20…サスペンションメンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションアームがサスペンションメンバに対して外筒と内筒間にゴム等の弾性体を一体的に有するブッシュを介して所定量移動可能に取り付けられていて、前記サスペンションアームの前記サスペンションメンバに対する取付け位置を調整することによりアライメント調整が可能なサスペンションアームの取付け構造において、
前記サスペンションアームが前記サスペンションメンバに取り付けられるときに同サスペンションメンバに対する同サスペンションアームの調整方向における位置を同サスペンションメンバとの係合によって規定する位置決めプレートを前記ブッシュの前記内筒に一体的に設けたことを特徴とするサスペンションアームの取付け構造。
【請求項2】
請求項1に記載したサスペンションアームの取付け構造において、
前記位置決めプレートと前記サスペンションメンバが係合する部位には、設定板厚のゴムプレートが介在していることを特徴とするサスペンションアームの取付け構造。
【請求項3】
請求項2に記載したサスペンションアームの取付け構造において、
前記ゴムプレートは、前記位置決めプレートに対して着脱可能であることを特徴とするサスペンションアームの取付け構造。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちのいずれか一つに記載したサスペンションアームの取付け構造において、
前記位置決めプレートに、前記サスペンションアームの前記サスペンションメンバに対する移動量を弾撥的に規制するストッパゴムを設けたことを特徴とするサスペンションアームの取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−123613(P2006−123613A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311647(P2004−311647)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】