説明

サスペンションクロスメンバ

【課題】部品点数を削減し、コストダウンを図る上で有利なサスペンションクロスメンバを提供する。
【解決手段】サスペンションクロスメンバ10は、上側鋼板製部材32と下側鋼板製部材34との2枚の鋼板製部材が上下に向かい合わされて構成されている。上側前面部3204の前方に下側前面部3404が重ねられることで、双方の欠部により開口28が形成され、開口28内において左右の上側突出片40の前方に左右の下側突出片42が重ねられる。そして、下側突出片42の左右方向に延在する上縁を含む箇所が上側突出片40に溶接により接合され、この接合された箇所が突出片側溶接箇所48となっている。突出片側溶接箇所48は本体側溶接箇所36と連続状に設けられ、本体側溶接箇所36の延長上で直線状に延在し、溶接端48Aがその先端に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形され前後幅を有する2枚の鋼板製部材が上下に向かい合わされて構成され、左右方向の両端に車両の操舵輪を支持するサスペンション装置が組み付けられる車両のサスペンションクロスメンバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サスペンションクロスメンバは、エンジンルームの後部の下部に配置され、車両の前後方向に延在する左右のサイドメンバ間に架け渡され、その両端に車両の操舵輪を支持するサスペンション装置が組み付けられる。
サスペンションクロスメンバには、左右のサイドメンバへの締結部材や、サスペンション装置を構成する部材などの各種取り付け部が複数形成され複雑な形状となる関係上、プレス成形された2枚の鋼板製部材が溶接されることで構成されている。より詳細には、プレス成形され前後幅を有する2枚の鋼板製部材が上下に向かい合わされて左右方向に延在し、それらの前面どうしおよび後面どうしが重ねられ前記前面および前記後面の左右方向に延在する縁部を含む箇所が溶接により接合された溶接箇所となっており、それらの内部が中空状に形成されている。
【0003】
このようなサスペンションクロスメンバにおいて、2枚の鋼板製部材の内部の空間部に連通する開口が、前面または後面の溶接箇所を含む箇所に設けられる場合がある。
例えば、エンジンをマウントするためのエンジンロールロッドの後端が、サスペンションクロスメンバの前面の開口から内部の空間部に挿入され、サスペンションクロスメンバ前後中間部に左右方向に揺動可能に結合される場合がある。
この場合の開口60を図6に示す。すなわち、上側の鋼板製部材62の前面64と、下側の鋼板製部材66の前面68が重ねられ、下側の鋼板製部材66の前面68の縁部を含む箇所が溶接により接合された溶接箇所70となっている。そして、開口60は、溶接箇所70を含む箇所に設けられることになる。言い換えると、開口60の左右方向の両側に溶接端70Aが位置することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、車両の走行時、サスペンションクロスメンバには各種の応力が作用する。
ここで開口60に着目すると、開口60の左右方向の両側に溶接端70Aが位置している。そのため、直線状に延在している溶接箇所70は溶接端70Aにおいて断面形状が急激に変化することになり、溶接端70Aにおいて応力集中が発生し易い。また、溶接端70Aは、溶け込みなど品質の安定化が困難な箇所でもある。
このようなことから開口60の両側に位置する溶接端70Aの箇所では、耐久強度が弱くならざるを得ない。
そこで、従来では、溶接箇所70を含む箇所に開口60を設ける場合には、開口60の近傍に補強部材を設けたり、あるいは、2枚の鋼板製部材62、66の厚さを大きくすることで、サスペンションクロスメンバの耐久強度を確保するようにしている。
そのため、サスペンションクロスメンバの部品点数を削減し、コストダウンを図る上で何らかの改善が求められていた。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、部品点数を削減し、コストダウンを図る上で有利なサスペンションクロスメンバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため請求項1記載の発明は、前後幅を有しプレス成形された2枚の鋼板製部材が上下に向かい合わされて左右方向に延在し、それらの前面どうしおよび後面どうしが重ねられ前記前面および前記後面の左右方向に延在する縁部を含む箇所が溶接により接合された溶接箇所となっており、それら2枚の鋼板製部材の内部の空間部に連通する開口が前記溶接箇所を含む箇所に設けられ、左右方向の両端に車両の操舵輪を支持するサスペンション装置が組み付けられるサスペンションクロスメンバであって、前記開口の両側で前記溶接箇所を含む箇所に、互いに重ねられた前記前面または前記後面から前記開口内で左右方向に突出する突出片がそれぞれ設けられ、前記開口内において前記突出片どうしが重ねられその突出片の左右方向に延在する縁部を含む箇所が、前記溶接箇所と連続するように溶接により接合されていることを特徴とする。
また、請求項2記載の発明は、前記開口内において前記突出片どうしが重ねられその突出片の縁部を含む箇所が溶接により接合されることで、前記開口内に突出する突出片接合体が形成され、前記突出片接合体の上縁および下縁が前記開口の縁部に交わる基部に、開口の縁部から離れるにつれて前記上縁と下縁との寸法が次第に小さくする湾曲部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、溶け込みなどにより品質の安定化が困難な溶接端を突出片の先端に偏位することで、断面形状の変化が大きく外部入力による応力が集中する開口の左右両側の縁部から離すことができる。
したがって、開口の近傍に補強部材を設けたり、あるいは、2枚の鋼板製部材の厚さを大きくする必要はなくなり、サスペンションクロスメンバの耐久強度を向上しつつ、サスペンションクロスメンバの部品点数を削減し、コストダウンを図る上で有利となる。
請求項2記載の発明によれば、溶接された箇所の断面形状が開口の縁において湾曲部により穏やかに変化するため、突出片接合体の基部における応力集中を緩和する上でより有利となり、サスペンションクロスメンバの耐久強度を向上する上でより一層有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】サスペンションクロスメンバの平面図である。
【図2】車両の前方からみたサスペンションクロスメンバの斜視図である。
【図3】サスペンションクロスメンバの前面の開口部分の正面図である。
【図4】サスペンションクロスメンバの前面の開口部分の分解図である。
【図5】サスペンションクロスメンバを前後方向に延在する平面で切断した断面図であり、(A)、(B)、(C)は図3のAA線、BB線、CC線の断面図である。
【図6】従来のサスペンションクロスメンバの前面の開口部分の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
図1、図2に示すように、サスペンションクロスメンバ10は車両の車幅方向に延在し、その両端が車両の前後方向に延在する左右のサイドメンバ(不図示)に夫々連結され、エンジンルームの後部下部に配置される。
サスペンションクロスメンバ10は、上面10Aの左右両側に設けられた、サイドメンバに連結するための一対のアーム12を備えている。一対のアーム12は基端がサスペンションクロスメンバ10の左右両端の上面10Aの連結部1002に固定結合されており、それらアーム12の先端にはサイドメンバに連結するための連結部が形成されている。
【0010】
サスペンションクロスメンバ10にはパワーステアリングユニット14が搭載される。サスペンションクロスメンバ10の上面10Aにパワーステアリングユニット14を取り付けるための取り付け部1004が形成されており、この取り付け部1004にパワーステアリングユニット14の支持部1402、1404が締結されることで、パワーステアリングユニット14がサスペンションクロスメンバ10の上方に搭載される。
また、サスペンションクロスメンバ10には、左右のサスペンション装置16が装着される。サスペンションクロスメンバ10の左右両端に、それぞれサスペンション装置16のロアアーム16Aを連結するための連結部1006、1008が形成されており、この連結部1006、1008にロアアーム16Aの基端が枢着されることで、ロアアーム16Aがサスペンションクロスメンバ10に揺動可能に連結される。ロアアーム16Aの先端には前輪を支持するナックル18が回動可能に連結される。
【0011】
パワーステアリングユニット14は左右一対のタイロッド20を有しており、それらタイロッド20はそれぞれ左右のナックルアーム22に連結されており、それらタイロッド20によって前輪が操舵される。
また、サスペンションクロスメンバ10にはスタビライザ24が取り付けられる。サスペンションクロスメンバ10の上面10Aに、スタビライザ24を取り付けるための取り付け部1010、1012が形成されており、この取り付け部1010、1012にスタビライザ24の支持部2402が締結されることでスタビライザ24がサスペンションクロスメンバ10の上方に取り付けられ、スタビライザ24の両端はそれぞれロアアーム16Aに連結される。
また、サスペンションクロスメンバ10にはエンジンの前後方向の振れを抑制するためのエンジンロールロッド26の後端が連結される。サスペンションクロスメンバ10の前面10Bに、サスペンションクロスメンバ10の内部の空間部に連通する開口28が形成されており、この開口28からエンジンロールロッド26の後端が挿入され、サスペンションクロスメンバ10の連結部1014に搖動可能に結合される。
【0012】
サスペンションクロスメンバ10は、上述のように各種の連結部1002、1006、1008、取り付け部1004,1010、1012が設けられ複雑な形状を有する関係上、プレス成形され前後幅を有して左右方向に延在する上側鋼板製部材32と下側鋼板製部材34との2枚の鋼板製部材が上下に向かい合わされて構成されている。
図5に示すように、上側鋼板製部材32は、前後幅を有して左右方向に延在する上面部3202と、上面部3202の前後端から下方に屈曲された上側前面部3204および上側後面部3206とを有している。
また、下側鋼板製部材34は、前後幅を有して左右方向に延在する下面部3402と、下面部の前後端から上方に屈曲された下側前面部3404および下側後面部3406とを有している。
そして、上側鋼板製部材32と下側鋼板製部材34の前面部3204、3404どうしおよび後面部3206、3406どうしが重ねられ、前面部3204、3404および後面部3206、3406の左右方向に延在する縁部を含む箇所が溶接により接合されて構成されている。
【0013】
より詳細には、下側鋼板製部材34の内側に上側鋼板製部材32が配置され、上側前面部3204の前方に下側前面部3404が重ねられ、上側後面部3206の後方に下側後面部3406が重ねられ、左右方向に延在する下側前面部3404の縁部が上側前面部3204に溶接により接合され、また、左右方向に延在する下側後面部3406の縁部が上側後面部3206に溶接により接合されている。
したがって、上側前面部3204と下側前面部3404とが重ねられ下側前面部3404の左右方向に延在する縁部を含む箇所が溶接により接合された本体側溶接箇所36となっている。また、上側後面部3206と下側後面部3406とが重ねられ下側後面部3406の左右方向に延在する縁部を含む箇所が溶接により接合された本体側溶接箇所38となっている。
また、サスペンションクロスメンバ10の前面10Bは、本体側溶接箇所36により接合された上側前面部3204と下側前面部3404により構成されていることになる。
【0014】
また、図3に示すように、サスペンションクロスメンバ10の前面10Bの開口28は、本体側溶接箇所36を含む箇所に設けられ、開口28の左右方向の両側にそれぞれ本体側溶接箇所36が位置している。
開口28の左右方向の両側で本体側溶接箇所36を含む箇所には、上側前面部3204と下側前面部3404から開口28内に左右方向に突出する上側突出片40と下側突出片42がそれぞれ設けられている。それら上側突出片40と下側突出片42は、開口28の上下幅よりも小さい寸法の上下幅を有している。
【0015】
より、詳細には、図4に示すように、上側前面部3204の縁部3204Aを含む箇所には、開口28を形成するための下方に開放状の欠部44が設けられている。そして、上側突出片40が、欠部44の左右方向の両側に位置する上側前面部3204の縁部3204Aを含む箇所に、それぞれ左右方向で欠部44内に突出して設けられている。
上側突出片40の下縁4002は、上側前面部3204の縁部3204Aに連続する直線状に形成されている。また、上側突出片40の上縁4004が欠部44の縦縁に交差する基部に、縦縁から離れるにつれて次第に上側突出片40の上下の幅を小さくする湾曲部4006が形成され、上縁4004の基部を除く部分は下縁4002に平行し湾曲部4006の端部に連続する直線状に形成されている。
【0016】
また、下側鋼板製部材34の下側前面部3404の縁部3404Aを含む箇所には、開口28を形成するための上方に開放状の欠部46が設けられている。そして、下側突出片42が、欠部46の左右方向の両側に位置する下側前面部3404の縁部3404Aを含む箇所に、それぞれ左右方向で欠部46内に突出して設けられている。
下側突出片42の上縁4202は、下側前面部3404の縁部3404Aに連続する直線状に形成され、下側突出片42の下縁4204が欠部46の縦縁に交差する基部に、縦縁から離れるにつれて次第に下側突出片42の上下の幅を小さくする湾曲部4206が形成され、下縁4204の基部を除く部分は上縁4202に平行し湾曲部4206に連続する直線状に形成されている。
【0017】
そして、上側前面部3204の前方に下側前面部3404が重ねられることで、図3、図5(B)、(C)に示すように、双方の欠部44、46により開口28が形成され、開口28内において左右の上側突出片40の前方に左右の下側突出片42が重ねられる。そして、下側突出片42の左右方向に延在する上縁4202を含む箇所が上側突出片40に溶接により接合され、この接合された箇所が突出片側溶接箇所48となっている。突出片側溶接箇所48は本体側溶接箇所36と連続状に設けられ、本体側溶接箇所36の延長上で直線状に延在している。
【0018】
このように下側突出片42の上側の縁部(上縁4202)を含む箇所が上側突出片40に溶接により接合されることで、開口28内に突出する突出片接合体50が形成される。突出片接合体50は、開口28の上下幅よりも小さい寸法の上下幅を有している。
したがって、突出片接合体50の上縁が上側突出片40の上縁4004で構成され、突出片接合体50の下縁が下側突出片42の下縁4204で構成される。そして、突出片接合体50の上縁4004および下縁4204が開口28の縦縁に交わる基部に、開口28の縦縁から離れるにつれて上縁4004と下縁4204との寸法が次第に小さくなる湾曲部4006、4206が形成されることになる。
【0019】
次に、作用効果について説明する。
車両の走行時、サスペンションクロスメンバ10には各種の連結部1002、1006、1008、取り付け部1004,1010、1012を介して各種の応力が作用する。
開口28に着目すると、図3に示すように、開口28の左右方向の両側に本体側溶接箇所36が位置しているものの、溶接端48Aは上側突出片40および下側突出片42を介して、すなわち、突出片側溶接箇所48を介して開口28の左右両側の縁から開口28の内側に偏位した突出片接合体50の先端の箇所に位置している。開口28の縁には上側突出片40および下側突出片42の基部が位置しており、言い換えると、溶接端48Aの箇所と開口28により断面形状が急激に変化する箇所とをずらした構成としている。
【0020】
したがって、溶け込みなどにより品質の安定化が困難な溶接端48Aが、断面変化が大きく応力が集中する範囲である開口28の左右両側の縁部から離れた位置となるため溶接端48Aでの応力集中が緩和され、サスペンションクロスメンバ10の耐久強度を向上する上で有利となる。
したがって、開口28の近傍に補強部材を設けたり、あるいは、2枚の鋼板製部材の厚さを大きくする必要はなくなり、サスペンションクロスメンバ10の耐久強度を向上しつつ、サスペンションクロスメンバ10の部品点数を削減し、コストダウンを図る上で有利となる。
【0021】
また、本実施の形態では、開口28の左右両側の縁部には上側突出片40および下側突出片42の基部、すなわち突出片接合体50の基部が位置しており、突出片接合体50の基部に、開口28の縁部から離れるにつれて上縁と下縁との寸法が次第に小さくなる湾曲部4006、4206が形成されている。
すなわち、本体側溶接箇所36が設けられた上側突出片40および下側突出片42の断面形状の変化は、開口28の縁において断面形状が急激に変化することなく湾曲部4006、4206により穏やかに変化し、突出片接合体50の基部における応力集中を緩和する上でより有利となり、サスペンションクロスメンバ10の耐久強度を向上する上でより一層有利となる。
【符号の説明】
【0022】
10……サスペンションクロスメンバ、28……開口、32……上側鋼板製部材、3204……上側前面部、34……下側鋼板製部材、3404……下側前面部、36……本体側溶接箇所、40……上側突出片、4006……湾曲部、42……下側突出片、4206……湾曲部、44、46……欠部、48……突出片側溶接箇所、50……突出片接合体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後幅を有しプレス成形された2枚の鋼板製部材が上下に向かい合わされて左右方向に延在し、それらの前面どうしおよび後面どうしが重ねられ前記前面および前記後面の左右方向に延在する縁部を含む箇所が溶接により接合された溶接箇所となっており、それら2枚の鋼板製部材の内部の空間部に連通する開口が前記溶接箇所を含む箇所に設けられ、左右方向の両端に車両の操舵輪を支持するサスペンション装置が組み付けられるサスペンションクロスメンバであって、
前記開口の両側で前記溶接箇所を含む箇所に、互いに重ねられた前記前面または前記後面から前記開口内で左右方向に突出する突出片がそれぞれ設けられ、
前記開口内において前記突出片どうしが重ねられその突出片の左右方向に延在する縁部を含む箇所が、前記溶接箇所と連続するように溶接により接合されている、
ことを特徴とする車両のサスペンションクロスメンバ。
【請求項2】
前記開口内において前記突出片どうしが重ねられその突出片の縁部を含む箇所が溶接により接合されることで、前記開口内に突出する突出片接合体が形成され、
前記突出片接合体の上縁および下縁が前記開口の縁部に交わる基部に、開口の縁部から離れるにつれて前記上縁と下縁との寸法が次第に小さくする湾曲部が形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の車両のサスペンションクロスメンバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−106552(P2012−106552A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255677(P2010−255677)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】