説明

サスペンションワイヤ

【課題】ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤと同等の引張強さを有し且つベリリウムによる発ガン性などの危険性が無いサスペンションワイヤを提供する。
【解決手段】Cu−Ni−Si系合金(コルソン合金)の丸線(1a)に対して、伸線ダイス(135)により断面積減少率0.1%〜15%の引抜加工を加えるのと同時に引抜長1mm当たり1回転〜15回転で前記伸線ダイス(135)を回転させて直線矯正を加える。
【効果】ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤと同等の引張強さを有し且つベリリウムによる発ガン性などの危険性が無いサスペンションワイヤが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションワイヤに関し、さらに詳しくは、ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤと同等の引張強さを有し且つベリリウムによる発ガン性などの危険性が無いサスペンションワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−94111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤは、引張強さが例えば1250N/平方mmと大きく、光ピックアップ用サスペンションに使用するのに好適である。
しかし、近年、発ガン性などのベリリウムの危険性が指摘されている。
そこで、本発明の目的は、ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤと同等の引張強さを有し且つベリリウムによる発ガン性などの危険性が無いサスペンションワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、Cu−Ni−Si系合金(コルソン合金)からなり、曲率半径が4000mm以上であることを特徴とするサスペンションワイヤを提供する。
上記構成に0おいて、コルソン合金は、Ni:1.0wt%〜4.0wt%、Si:0.1%〜1.0%を含有するものが好ましい。
上記第1の観点によるサスペンションワイヤでは、コルソン合金を用いて、曲率半径が4000mm以上のサスペンションワイヤを構成した。これによれば、ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤと同等の引張強さを得ることが出来た。また、ベリリウムを含まないため、ベリリウムによる発ガン性などの危険性が無くなる。また、曲率半径が4000mm以上であるから、例えば光ピックアップ用サスペンションワイヤとして利用できる。
なお、コルソン合金を用いた銅合金線材は例えば特開2008−266764号公報などにおいて知られているが、従来は自動車用ワイヤハーネスやその他の信号線として用いられており、サスペンションワイヤとしては用いられていない。
【0006】
第2の観点では、本発明は、Cu−Ni−Si系合金(コルソン合金)の丸線に対して、伸線ダイスにより断面積減少率0.1%〜15%の引抜加工を加えるのと同時に引抜長1mm当たり1回転〜15回転で前記伸線ダイスを回転させて直線矯正を加えることを特徴とするサスペンションワイヤの製造方法を提供する。
上記第2の観点によるサスペンションワイヤの製造方法では、伸線ダイスを通過させて断面積減少率0.1%〜15%の引抜加工を加えるのと同時に引抜長1mm当たり1回転〜15回転で伸線ダイスを回転させて直線矯正を加える。これにより、曲率半径が4000mm以上のサスペンションワイヤを冷間で製造でき、ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤよりも優れた引張強さを有するサスペンションワイヤを得ることが出来た。
なお、断面積減少率を0.1%より小さくすると、縮径の際、線材の表面を僅かに加工変形させることになり、線材周囲に均一な歪みを形成させることが不可能になる。その結果、良好な伸直度が得られない。断面積減少率を15%より大きくすると、縮径の際の引き抜き抵抗力が線材の抗張力に近くなり、しばしば断線が発生し、生産性が低下してしまう。また、引抜長1mm当たりの回転数を1回転より少なくすると、線材周囲に均一な歪みが加わらず、伸直度が低下してしまう。引抜長1mm当たりの回転数を15回転より多くすると、線材の過度の捻れが加わり、断線が発生してしまう。
【発明の効果】
【0007】
本発明のサスペンションワイヤによれば、ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤと同等の引張強さを得ることが出来る。また、ベリリウムによる発ガン性などの危険性が無くなる。
本発明のサスペンションワイヤの製造方法によれば、ベリリウム銅を用いたサスペンションワイヤよりも優れた引張強さを有するサスペンションワイヤを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1に係るサスペンションワイヤを示す斜視図である。
【図2】実施例2に係るサスペンションワイヤの製造方法を示す説明図である。
【図3】実施例3に係るサスペンションワイヤの製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0010】
−実施例1−
図1は、実施例1に係るサスペンションワイヤ1の斜視図である。
このサスペンションワイヤ1は、Ni:1.0wt%〜4.0wt%,Si:0.1wt%〜1.0wt%を含有するCu−Ni−Si系合金製であり、曲率半径が4000mm以上、直径が0.3mm以下、引張強度が1200N/平方mm以上である。
【0011】
−実施例2−
図2は、実施例2に係るサスペンションワイヤの製造方法を示す説明図である。
直径が0.105mmのCu−Ni−Si系合金製丸線1aを供給ボビン100からバックテンション50g〜1000gで繰り出し、0.100mm伸線ダイス135を通過させて断面積減少率9.3%の引抜加工を加え、引取速度2m/minで巻枠130に巻き取る。また、0.100mm伸線ダイス135をギヤ140およびモータ145により2500rpm(引抜長1mm当たり1.25回転に相当する)で回転させて直線矯正を加える。これにより、引張強さ:1345N/平方mm,真直度(試料長さ40mmのときのそり高さ):0.05mm以下,導電率(%IACS):15のサスペンションワイヤ1を得ることが出来た。
なお、直径が0.105mmのCu−Ni−Si系合金製丸線1aは、直径が0.3mmの古河電気工業社製コルソン合金線材(商品名:EFTEC−98W)を伸線して得たものである。
【0012】
−実施例3−
図3は、実施例3に係るサスペンションワイヤの製造方法を示す説明図である。
直径が0.105mmのCu−Ni−Si系合金製丸線1aを供給ボビン100からバックテンション50g〜1000gで繰り出し、炉温450℃:非酸素雰囲気(窒素100%)の電気炉120を通過させて、引取速度15m/minで巻枠130に巻き取る。また、供給ボビン100をモータ110により横回転させて、丸線1bに捻りを加える。これにより、引張強さ:1205N/平方mm,真直度(試料長さ40mmのときのそり高さ):0.07mm以下,導電率(%IACS):20のサスペンションワイヤ1を得ることが出来た。
【0013】
−比較例−
実施例3に係るサスペンションワイヤの製造方法におけるCu−Ni−Si系合金製丸線1bの代わりにベリリウム銅(JIS C 1720W)を用いて製造したサスペンションワイヤは、引張強さ:1250N/平方mm,真直度(試料長さ40mmのときのそり高さ):0.05mm以下,導電率(%IACS):18であった。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明のサスペンションワイヤは、光ピックアップ用サスペンションワイヤとして利用することが出来る。
【符号の説明】
【0015】
1 サスペンションワイヤ
1a Cu−Ni−Si系合金(コルソン合金)製丸線
110 モータ
112 リング
120 電気炉
135 伸線ダイス
140 ギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Ni−Si系合金からなり、曲率半径が4000mm以上であることを特徴とするサスペンションワイヤ。
【請求項2】
Cu−Ni−Si系合金の丸線に対して、伸線ダイスにより断面積減少率0.1%〜15%の引抜加工を加えるのと同時に引抜長1mm当たり1回転〜15回転で前記伸線ダイスを回転させて直線矯正を加えることを特徴とするサスペンションワイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−260082(P2010−260082A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113119(P2009−113119)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】