説明

サブポルフィリン化合物およびその製造法並びにその応用

【課題】吸光係数、吸収極大波長および吸収形状に優れ、青色レーザー光を用いた光記録にも対応可能な光学記録媒体の記録層形成用色素として有用なサブポルフィリン化合物およびその製造法を提供する。
【解決手段】2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体およびホウ素化合物を混合して反応させる工程を含む該サブポルフィリン化合物の製造法及び該製造法により得られる特定のサブポルフィリン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサブポルフィリン化合物およびその製造法並びにその応用に関するものである。特に、本発明は青色レーザー光対応の光学記録媒体の記録層形成用に用いられる色素として有用なサブポルフィリン化合物及びその製造法に関するものである。本発明はまた、このサブポルフィリン化合物を含む光学記録媒体の記録層形成用色素と、この色素を用いた記録層を有する光学記録媒体とその記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高密度での情報の記録保存/再生が可能なことから、レーザー光を用いた光学記録媒体、特に光ディスクについての開発が取り進められている。光ディスクの中でも最近注目を集めているものに、書き込み型コンパクトディスク(CD−R)がある。CD−Rは、通常、案内溝を有する円形のプラスチック基板上に、色素を主成分とする記録層、金属反射膜および保護膜が順次積層された構造をしている。CD−Rへの情報の記録は、レーザー光を照射し、その照射エネルギーが記録層で吸収されることにより、レーザー光照射部分の記録層、反射層または基板に分解、蒸発、溶解等の熱的変形を生じさせる方法(ヒートモード)や、レーザー光照射部分の記録層に含まれる色素の構造を可逆的に変化させる方法(フォトンモード)などにより行なわれる。また、記録された情報の再生は、レーザー光照射による熱的変形や色素構造の変化が起きている部分と起きていない部分のレーザー光に対する反射率の差を読み取ることにより行われる。従って、光学記録媒体の記録層はレーザー光のエネルギーを効率良く吸収する必要があり、記録層には一般的にレーザー光吸収色素が用いられている。
【0003】
レーザー光吸収色素として有機色素を利用した光学記録媒体は、有機色素溶液を塗布するという簡単な方法で記録層を形成し得るため、安価な光学記録媒体として今後益々普及することが期待されている。
【0004】
また、近年、記録の高密度化のため、記録に用いるレーザー光の波長を従来の半導体レーザーの発光波長である780nmを中心としたものから、405nm前後以下の青色光領域へと短波長化することが検討されつつある。
更に、近年、記録媒体の高容量化のため、記録媒体に記録層を2層作成することによって記録容量の倍増を図った2層記録媒体の作成が検討されている。
【0005】
光学記録媒体では、記録データの形成、すなわち記録前後における記録層の反射率変化を、一般的に記録レーザー照射前後において色素の吸収強度が低下することに起因する反射率の上昇を用いる方法(吸収変化方式)もしくは記録レーザー照射前後において色素の複素屈折率強度が低下することに起因する反射率の低下を用いる方法(屈折率変化方式)によって行うが、これらのうち、上記2層記録媒体には、屈折率変化方式による記録が有利である。これは次の理由による。
【0006】
一般的に、吸収変化方式では、未記録状態の記録層はレーザー光を良く吸収するため、1層目の記録層を透過し、2層目に至るレーザー光の強度が低くなる。従って、2層目の記録層には低いレーザー光強度で記録可能な著しく高い記録感度が求められる。更に、1層目でレーザー光が良く吸収され、2層目に至るレーザー光の強度が低くなるということは、2層目においては照射光量に対するレーザー光反射率が未記録部・記録部の別なく極端に小さくなること意味するため、記録後の反射率変化の低下を招き、記録信号の信頼性を低下させる要因ともなる。
【0007】
一方、屈折率変化方式では、色素の吸収極大近傍に存在する複素屈折率極大を用いるため、色素によるレーザー光の吸収は少なく、1層目の記録層を透過し2層目に至る光の量はそれほど低減しない。このことから、2層記録媒体であっても2層目に用いられる記録層用色素化合物のレーザー光に対する記録感度は吸収変化方式で用いられる色素ほど高くなくて良く、また、2層目における記録後の反射率変化が著しく小さくなる懸念はない。更に、色素によるレーザー光の吸収が少ないということは、再生光劣化に強いことも併せて意味するため、記録媒体に好適である。
【0008】
先述したように、屈折率変化方式による記録の際には色素の吸収極大近傍に存在する複素屈折率極大を用いるが、特に記録前後の反射率変化を大きくとるには、吸収極大より長波長側に存在する正の屈折率極大を用いることが好ましい。従って、405nm前後の青色レーザー光を記録光として用いる場合、その吸収極大は405nm以下、特に380〜390nm以下である必要がある。また、屈折率変化方式による記録の際には、記録前後における色素の光吸収変化に伴う反射率変化が無視できるほど小さいことが記録前後の反射率変化を大きくとるために好ましく、従って上記のレーザー光を記録光として用いる場合、405nmにおける色素の光吸収が極端に小さいか、もしくはほぼゼロである必要がある。更に、吸収形状がシャープであり、かつモル吸光係数(ε)が大きいほど、複素屈折率極大が増大し記録後の反射率変化が大きくなるため好ましい。
【0009】
青色光領域のレーザーを用いた光学記録媒体用の有機色素としてかねてから注目されてきた化合物として、ポルフィリン系化合物がある。この化合物が注目されてきた理由としては、モル吸光係数の高さが挙げられる。一般に、405nm前後の短波長領域に吸収極大を有する化合物は分子内共役構造が短いためεの値が小さくなる傾向があり、その値は一般に20,000〜50,000以下である。しかしながらポルフィリン系化合物は広大な芳香環構造を有し、更に高い対称性を有するため吸光係数が大きく、εの値が100,000を越えることも珍しくない。
【0010】
以上の理由からポルフィリン系化合物の光学記録媒体用色素としてのポテンシャルは広く知られており、これまでにも例えば特許文献1〜10などのように、多数の報告がなされている。
【0011】
しかしながら、従来のポルフィリン系化合物のうち、例えばテトラアリールポルフィリン化合物は吸収形状がシャープであるものの主に405nm以上に吸収ピークを有するという問題を有しており、β−置換ポルフィリンは405nm以下に吸収極大を有しているものの吸収スペクトルのブロード化により405nmに相応の吸収を有していることが問題となっている。その他のポルフィリノイド誘導体についても同様で、結局ポルフィリン系化合物は吸収極大が長波長過ぎて、青色レーザー光対応の光学記録媒体に不適であると考えられていた。
【特許文献1】特開平8−127174号公報
【特許文献2】特開2003−182223号公報
【特許文献3】特開平6−295469号公報
【特許文献4】特開平7−304256号公報
【特許文献5】特開平8−169182号公報
【特許文献6】特開平10−330632号公報
【特許文献7】特開平11−221964号公報
【特許文献8】特開2001−138633号公報
【特許文献9】特開2003−300983号公報
【特許文献10】特開2004−160742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、吸光係数、吸収極大波長および吸収形状に優れ、青色レーザー光を用いた光記録にも対応可能な光学記録媒体の記録層形成用色素として有用なサブポルフィリン化合物およびその製造法を提供することを目的とする。
本発明はまた、このサブポルフィリン化合物を含む光学記録媒体の記録層形成用色素と、この色素を用いた記録層を有する光学記録媒体およびその記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の一般式(1)で表される新規サブポルフィリン化合物を開発し、該化合物が、吸光係数、吸収極大波長および吸収形状に著しく優れ、かつこれを記録層に用いた光学記録媒体が青色レーザー光を記録光として用いる記録手法に良好に対応可能であることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下を要旨とする。
【0014】
[1] 下記一般式(1)で表されるサブポルフィリン化合物を製造する方法であって、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体およびホウ素化合物を混合して反応させる工程を含むことを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造法。
【化4】

(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、または置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、Mは2個の水素原子もしくは2価以上のカチオン原子を表し、該カチオン原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。なお、RおよびR、RおよびR、RおよびRはそれぞれ結合して環を形成していても良く、該環は更に置換基を有していても良い。)
【0015】
[2] [1]に記載の製造法において、反応温度が300℃以上であることを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造法。
【0016】
[3] [1]または[2]に記載の製造法において、ホウ素化合物が置換または無置換のホウ酸であることを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造法。
【0017】
[4] [1]〜[3]に記載の製造法において、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体がイソインドリノン−3−酢酸誘導体であることを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造法。
【0018】
[5] [1]〜[4]に記載の製造法において、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体とホウ素化合物を混合して反応させる工程に次いで、該反応で得られたサブポルフィリンホウ素錯体のホウ素を、ホウ素以外の前記Mに置換する工程を有することを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造方法。
【0019】
[6] 下記一般式(1)で表されるサブポルフィリン化合物。
【化5】

(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、または置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、Mは2個の水素原子もしくは2価以上のカチオン原子を表し、該カチオン原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。なお、RおよびR、RおよびR、RおよびRはそれぞれ結合して環を形成していても良く、該環は更に置換基を有していても良い。)
【0020】
[7] 下記一般式(2)で表されるサブポルフィリン化合物。
【化6】

(一般式(2)中、R10〜R25は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、または炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、Xは周期表16族原子を表す。)
【0021】
[8] [6]または[7]に記載のサブポルフィリン化合物を含むことを特徴とする光学記録媒体の記録層形成用色素。
【0022】
[9] [8]に記載の記録層形成用色素を含む記録層を有することを特徴とする光学記録媒体。
【0023】
[10] 波長350〜530nmのレーザー光を用いて記録することを特徴とする[9]に記載の光学記録媒体の記録方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のサブポルフィリン化合物は、モル吸光係数、吸収極大波長および吸収形状に優れる。従って、このサブポルフィリン化合物を光学記録媒体の記録層形成用色素として用いることにより、青色レーザー光による記録特性に優れた高密度光学記録媒体を、安価に提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0026】
[サブポルフィリン化合物]
本発明のサブポルフィリン化合物は下記一般式(1)ないし下記一般式(2)で表されるものである。なお、一般式(2)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物に含まれる。
【0027】
【化7】

(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、または置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、Mは2個の水素原子もしくは2価以上のカチオン原子を表し、該カチオン原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。なお、RおよびR、RおよびR、RおよびRはそれぞれ結合して環を形成していても良く、該環は更に置換基を有していても良い。)
【0028】
【化8】

(一般式(2)中、R10〜R25は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、または炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、Xは周期表16族原子を表す。)
【0029】
{語句の説明}
本発明において「芳香環」とは、芳香族性を有する環、すなわち(4n+2)π電子系(nは自然数)を有する環を意味し、従って、「芳香族炭化水素環」と「芳香族複素環」とを含み、「炭化水素環」とは「芳香族炭化水素環」と「非芳香族炭化水素環」の両方を意味し、「複素環」とは、「芳香族複素環」と「非芳香族複素環」の両方を意味する。芳香環の骨格構造は、通常、5または6員環の、単環または2〜6縮合環からなり、該芳香環には、芳香族炭化水素環、芳香族複素環の他、アントラセン環、カルバゾール環、アズレン環のような縮合環も含まれる。「芳香環基」等の「………環基」とは、このような芳香環等の環から水素原子を1個取った1価の置換基である。
また、「(ヘテロ)アリール」とは「アリール」と「ヘテロアリール」の両方を意味し、「(ヘテロ)アラルキル」とは「アラルキル」と「ヘテロアラルキル」の両方を意味する。
また、本発明において、「置換基を有していても良い」とは置換基を1以上有していても良いことを意味する。
【0030】
{R〜R,R10〜R25
前記一般式(1)中のR〜R、前記一般式(2)中のR10〜R25は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、もしくは置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表す。
【0031】
<R〜R,R10〜R25の芳香環基>
(芳香環の骨格構造)
〜R,R10〜R25が芳香環基である場合、その芳香環の骨格構造の具体例としては、5員環単環としてフラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、6員環単環としてベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、縮合環としてナフタレン環、フェナンスレン環、アズレン環、ピレン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、ジベンゾチオフェン環、アントラセン環等が挙げられる。これらのうち、合成上の理由から単環が好ましく、更に好ましくは6員環の単環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
【0032】
<R〜R,R10〜R25の芳香環基が有する置換基>
〜R,R10〜R25が芳香環基である場合、該芳香環基は更に置換基を有していても良い。
該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘテロ)アラルキルオキシ基、更に置換基を有していても良いアミノ基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、カルバモイル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、アミノ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基、カルバモイル基、炭素数2〜20のアルキルカルバモイル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数2〜20のエステル基、ハロゲン原子、水酸基などである。
【0033】
炭素数1〜20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルケニル基の例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、2−メチル−1−プロピニル基、ヘキシニル基、オクチニル基などが挙げられる。
炭素数3〜20の炭化水素環基としてはシクロプロピル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、テトラデカヒドロアントラニル基、フェニル基、アントラニル基、フェナンスリル基、フェロセニル基などが挙げられる。
5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基としては、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、キノリニル基、2−ピペリジニル基、2−ピペラジニル基、オクタヒドロキノリニル基などが挙げられる。
炭素数1〜9のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
炭素数2〜18のアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基などが挙げられる。
炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基や、2−チエニルオキシ基、2−フリルオキシ基、2−キノリルオキシ基等のヘテロアリールオキシ基などが挙げられる。
炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基の例としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメトキシ基等のアラルキルオキシ基や、2−チエニルメトキシ基、2−フリルメトキシ基、2−キノリルメトキシ基等のヘテロアラルキルオキシ基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキルアミノ基の例としては、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ピペリジル基などが挙げられる。
炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアリールアミノ基や、ジ(2−チエニル)アミノ基、ジ(2−フリル)アミノ基、フェニル(2−チエニル)アミノ基等のヘテロアリールアミノ基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキルカルバモイル基としては、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N−エチル−N−シクロヘキシルカルバモイル基などが挙げられる。
炭素数2〜20のエステル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
【0034】
〜R,R10〜R25が芳香環基であり、かつ該芳香環基が2つ以上の置換基を有する場合、該置換基同士が結合してR〜R,R10〜R25の芳香環に縮合する環状構造をなしても良い。例えば、R〜Rがベンゼン環由来の基である場合、該ベンゼン環が有する置換基同士が結合して環状構造を形成している例として以下に示す構造が挙げられる。なお、以下において、aがサブポルフィリン骨格への結合位置である。
【0035】
【化9】

【0036】
なお、R〜Rが芳香環基である場合は、これらの置換基を有している方が前記一般式(1)で表されるサブポルフィリン化合物の溶媒への溶解性および記録層を形成する際の膜性向上の観点から好ましいが、置換基を有していない方が合成上の観点から好ましい。特に、テトラフルオロプロパノールやメチルセロソルブなどの極性溶媒に対しては、N,N−二置換カルバモイル基やエステル基などの極性置換基を有することが該溶媒に対する溶解性向上の面で好ましく、塩化メチレン、ジブチルエーテルやメチルシクロヘキサンなどの非極性溶媒に対しては、アルキル基やアルキルオキシ基などの非極性置換基を有することが該溶媒に対する溶解性向上の面で好ましい。
また、該芳香環基に対する置換基の置換位置については、よりサブポルフィリン骨格に近接するように置換することが溶解性および膜性向上の面で好ましいが、離れている方が合成上の理由から好ましい。
【0037】
<R〜R,R10〜R25の非芳香環置換基>
〜R,R10〜R25が炭素数0〜20の非芳香環置換基、即ち、芳香環基以下の置換基である場合、その具体例としては、上述のR〜R,R10〜R25の芳香環基が有していても良い置換基として挙げた具体例のうち、芳香環基以外の官能基が、それぞれ相当する。
【0038】
なお、RおよびR、RおよびR、RおよびRはそれぞれ結合して環を形成していても良い。その具体例としては、例えばRおよびRが結合して環を形成している例として、以下に示すものが挙げられる。なお、以下において点線で示される部分が本発明におけるサブポルフィリン骨格の一部を表し、更にこれらの環構造は炭素数20以下の置換基を有していても良く、その置換基の具体例は上述のR〜Rの芳香環基が更に有していても良い置換基として挙げた具体例が相当する。
【0039】
【化10】

【0040】
<R〜R,R10〜R25の好ましい組み合わせ>
上述の例示置換基のうち、R〜R,R10〜R12はそれぞれ独立に、水素原子であることが合成面で好ましく、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、もしくはRおよびR、RおよびR、RおよびRがそれぞれ結合して環を形成していることが合成面で好ましく、形成された環が置換基を有していても良いベンゼン環であることが特に好ましい。
また、R13〜R24は水素原子であることが好ましく、X25は、後述のカウンターアニオンであることが好ましい。
【0041】
<R〜R,R10〜R25の分子量>
〜Rの分子量は吸光度低下による記録感度低下を防止する観点から、更に置換基を有する場合はその置換基も含めて、合計で1,500以下であることが好ましい。
同様に、R10〜R25の分子量も吸光度低下による記録感度低下を防止する観点から、更に置換基を有する場合はその置換基も含めて、合計で1,500以下であることが好ましい。
【0042】
{M}
Mは、2個の水素原子もしくは2価以上のカチオン原子を表す。Mとして挙げられるカチオン原子はサブポルフィリン骨格の窒素原子に結合し得るものであれば何でも良く、具体例としてはBe、B、Mg、Al、Si、P、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Zn等が挙げられる。
Mは、前記一般式(1)で表される化合物の安定性の面から2個の水素原子もしくは周期表第2周期の原子、特にBであることが好ましい。
【0043】
なお、Mがカチオン原子であり、該カチオン原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。該カウンターアニオンの具体例としては、水、アルコール、フェノール、カルボン酸、ホスホン酸、ハロゲン、過塩素酸、過沃素酸、シアン酸、イソシアン酸、イソチオシアン酸、アジド、硝酸、炭酸、炭酸水素酸、置換または無置換の硫酸(硫酸、硫酸水素酸、メチル硫酸など)、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トシル酸、置換または無置換のリン酸(リン酸、リン酸水素酸、リン酸二水素酸、フェニルリン酸など)、六フッ化リン、六フッ化アンチモン、置換または無置換のホスフィン酸(ホスフィン酸、メチルホスフィン酸など)、置換または無置換のボロン酸(テトラフェニルボロン酸など)、ベンゼンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸などをそれぞれアニオン化したもの等が挙げられる。これらのうち、合成上の観点から水、アルコールもしくはフェノールのいずれかをアニオン化したものを有することが好ましい。
【0044】
{X
は周期表第16族原子であり、好ましくは酸素原子、硫黄原子である。
【0045】
{分子量}
前記一般式(1)ないし一般式(2)で表される本発明のサブポルフィリン化合物は、吸光度低下による感度低下防止の点から、カウンターイオンが存在する場合はそれも含めて、通常分子量2,000以下、中でも1,500以下であることが好ましい。
尚、一般式(1)または一般式(2)で表される本発明のサブポルフィリン化合物は、通常水不溶性であることが好ましい。
【0046】
{具体例}
前記一般式(1)ないし一般式(2)で表わされる本発明のサブポルフィリン化合物の具体例を以下に例示するが、本発明はその要旨をこえない限りこれらに限定されるものではない。なお、以下においてEtはエチル基を、Acはアセチル基を表す。
【0047】
【化11】

【0048】
{合成法}
一般式(1)または一般式(1)で表される本発明のサブポルフィリン化合物のうち、Mがホウ素であるものは、本発明の製造法に従って、次のようにして製造される。
2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体、好ましくはイソインドリノン−3−酢酸誘導体、およびホウ素化合物を混合し、窒素やアルゴンなどの不活性ガス下で加熱する。ここで、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体は1種のみを用いても良く、2種以上を用いてもよい。また、ホウ素化合物についても、1種のみを用いても良く、2種以上を用いてもよい。
【0049】
例えば、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体としてイソインドリノン−3−酢酸を用い、ホウ素化合物としてホウ酸を用いた場合、以下のようなスキームによってサブポルフィリンホウ素錯体を得ることができる。
【0050】
【化12】

【0051】
この際、加熱温度は300℃以上、例えば350〜500℃であることが好ましく、反応系が該条件を達成するためには、次のような方法を採用することが好ましい。
(1)2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体およびホウ素化合物を乳鉢などで混合し、溶媒の非存在下常圧もしくは10MPa以下程度の加圧条件下で加熱する。
(2)常圧もしくは加圧条件下で300℃以上の沸点を有する溶媒を用いる。
(3)マイクロ波などで一時的に急加熱する。
反応時間は反応温度にもよるが、通常1〜24時間程度である。
溶媒を用いる場合、常圧もしくは加圧条件下で沸点が300℃以上の溶媒であれば特に限定されず、例えば、スルホラン、高級炭化水素、高級アルコール、ポリエチレングリコール、油脂等の常圧で高沸点である溶媒の他、ニトロベンゼンやクロロベンゼンなど加圧条件で沸点が300℃を超える溶媒等の中から1種又は2種以上を用いることができ、その使用量は2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体に対して重量比で5〜1000倍程度であることが好ましい。
【0052】
また、この合成の際、目的のサブポルフィリン化合物とともにポルフィリン誘導体などが得られることから、分離のためにシリカゲルカラムクロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィーなどの分離手段を用いることが好ましい。また、ホウ素上のカウンターアニオンは比較的容易に他のアニオンと置換するため、精製には細心の注意が必要である。
【0053】
Mがホウ素である場合、ホウ素上のカウンターアニオンは比較的容易に置換させることができる。例えば、前記反応で得られたサブポルフィリンホウ素錯体をアルコールと不活性雰囲気下で加熱還流などを行うと、ホウ素上のカウンターアニオンがアルコキシアニオンである化合物が得られる。また、カルボン酸の共存下に再結晶を行うことでカルボキシルアニオンがホウ素上に置換した化合物が得られる。
【0054】
Mがホウ素以外である化合物は、前記反応で得られたサブポルフィリンホウ素錯体を酸などを用いてホウ素を外した後、金属塩と溶媒の存在もしくは非存在下常温または加熱条件で反応させることによって得ることができる。
【0055】
なお、ここで、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体とは下記一般式(3)で表される化合物を指し、イソインドリノン−3−酢酸誘導体とは下記一般式(4)で表される化合物を指す。下記式においてR31〜R33およびR38は、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、もしくは置換基を有していても良い炭素数20以下の非芳香環置換基を表し、R34〜R37はそれぞれ水素原子、もしくは置換基を有していても良い炭素数20以下の非芳香環置換基を表す。その具体例としては、R〜R,R10〜R25の具体例として挙げられた、置換基を有していても良い芳香環基、もしくは置換基を有していても良い炭素数0〜20の芳香環置換基の具体例がそれぞれ相当する。
【0056】
【化13】

【0057】
また、ホウ素化合物はサブポルフィリンの合成が進行する化合物であれば特に規定されないが、ホウ酸、フェニルホウ酸、メトキシフェニルホウ酸のような置換または無置換のホウ酸を用いることが合成面で好ましい。置換されたホウ酸の置換基としては、フェニル基等のアリール基、エチル基等のアルキル基等が挙げられる。
【0058】
反応に用いる2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体とホウ素化合物との混合比は反応当量比程度で良いが、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体3モルに対して、ホウ素化合物を1モル以上、特に1〜10モル用いることが好ましい。
【0059】
{特徴}
前記一般式(1)ないし一般式(2)で表される本発明のサブポルフィリン化合物は吸光係数、吸収極大波長および吸収形状に優れるという特徴がある。ここで、吸光係数に優れるとは、後述の如くモル吸光係数が大きいことを言い、吸収極大波長に優れるとは、吸収極大波長が300〜380nmの範囲であることを言い、吸収形状に優れるとは、塩化メチレンやクロロホルムなどの非極性溶媒中で測定した紫外可視吸収スペクトルにおいて、吸収極大波長と長波長側の裾野(吸収極大の5%の吸収を有する点)の波長との波長差が40nm以内であることを言う。
【0060】
なお、本発明の新規サブポルフィリン化合物が吸光係数、吸収極大波長および吸収形状に優れる理由は、14π電子系を有する芳香族化合物であることおよび高い対称性を有していることによると推定される。
【0061】
[光学記録媒体の記録層形成用色素]
本発明の光学記録媒体の記録層形成用色素は、上述のような本発明の新規サブポルフィリン化合物を含むものである。
なお、本発明の記録層形成用色素中には、本発明の新規サブポルフィリン化合物の1種が単独で含まれていても良く、2種以上が混合して含まれていても良い。
【0062】
[記録層]
本発明の記録層形成用色素を用いて光学記録媒体の記録層を形成するには、真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等の一般に行われている薄膜形成法を用いることができる。これらのうち、量産性、コスト面からスピンコート法が好ましい。スピンコート法により記録層を成膜する場合、回転数は500〜5000rpmが好ましく、スピンコート後、必要に応じて、加熱または溶媒蒸気にさらす等の処理を行っても良い。記録層の膜厚は、特に限定されないが、通常10nm〜5μm、好ましくは20nm〜2μmである。
【0063】
記録層は成膜性を向上させるためにバインダーを含有していても良い。バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ケトン樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート等既知のものが1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いられる。記録層に占めるバインダーの割合が高すぎると記録感度が著しく低下するので、バインダー、更には後述の各種添加剤を用いる場合、形成された記録層に占める本発明の記録層形成用色素の割合が、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは90重量%以上となるようにする。
【0064】
また、記録層は、安定性や耐光性向上のための一重項酸素クエンチャーや記録感度向上剤などを含有していても良い。
【0065】
一重項酸素クエンチャーとしては、アセチルアセトナート、ビスフェニルジチオール、サリチルアルデヒドオキシム、ビスジチオ−α−ジケトン等と遷移金属とのキレート化合物などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0066】
記録感度向上剤としては、遷移金属等の金属が原子、イオン、クラスター等の形で化合物に含まれる金属系化合物等が挙げられ、例えばエチレンジアミン系錯体、アゾメチン系錯体、フェニルヒドロキシアミン系錯体、フェナントロリン系錯体、ジヒドロキシアゾベンゼン系錯体、ジオキシム系錯体、ニトロソアミノフェノール系錯体、ピリジルトリアジン系錯体、アセチルアセトナート系錯体、メタロセン系錯体のような有機金属化合物などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。金属原子の種類は特に限定されないが、遷移金属が好ましい。
【0067】
記録層には、必要に応じて更に他系統の色素を併用することもできる。併用し得る他系統の色素としては、記録用のレーザー光波長域に吸収を有し、照射されたレーザー光のエネルギーを吸収して、照射部分の記録層、反射層または基板に、分解、蒸発、溶解等の熱的変形を伴うピットを形成させるものが好ましい。また、CD−R向けの770〜830nmの範囲から選ばれた波長の近赤外レーザー光やDVD−R向けの620〜690nmの範囲から選ばれた赤色レーザー光での記録に適する色素を併用して、複数の波長域のレーザー光での記録に対応する光学記録材料とすることもできる。他系統の色素としては、具体的には、含金属アゾ系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、アゾ系色素、スクアリリウム系色素、含金属インドアニリン系色素、トリアリールメタン系色素、メロシアニン系色素、アズレニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、インドフェノール系色素、キサンテン系色素、オキサジン系色素、ピリリウム系色素等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0068】
記録層をドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等により形成する場合には、まず、本発明の記録層形成用色素、バインダー、一重項酸素クエンチャー、記録感度向上剤および他の色素等を溶媒に溶解させ、塗布液を作成する。溶媒としては、基板を侵さない溶媒であれば、特に限定されず、ジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、n−ヘキサン、n−オクタン等の鎖状炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロブタノール等のパーフルオロアルキルアルコール系溶媒、乳酸メチル、乳酸エチル、イソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル系溶媒等が挙げられるが、テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロブタノール等のパーフルオロアルキルアルコール系溶媒を用いることが工業面から更に好ましく、現在一般に工業的に用いられている溶媒であるTFPを用いることが特に好ましい。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0069】
塗布液中の本発明の記録層形成用色素の濃度は、その溶媒溶解性に応じて適宜決定されるが、通常0.7重量%以上、好ましくは1.0重量%以上で、通常10重量%以下、好ましくは3.0重量%以下とされる。塗布液中の色素濃度が過度に低いと、記録層の形成効率が悪くなる。塗布液中の色素濃度が過度に高いと成膜工程において、色素の結晶化等の問題が発生する。
【0070】
なお、一重項酸素クエンチャーは色素に対して通常5〜30重量%程度、記録感度向上剤は色素に対して通常10〜30重量%程度用いられる。
【0071】
[光学記録媒体]
本発明の光学記録媒体は、本発明の記録層形成用色素を用いて上述のようにして形成された記録層を有するものである。
【0072】
記録層を形成する光学記録媒体の基板としては、ガラスや種々のプラスチックなど、使用するレーザー光に対して透明なものが好ましく用いられる。プラスチックとしては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ニトロセルロース、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるが、生産性、コスト、耐吸湿性などの点からポリカーボネート樹脂を射出成形したものが好ましい。
【0073】
通常、基板上には、必要に応じて更に、反射層、保護層、下引き層などの記録層以外の層が設けられ、光学記録媒体として使用される。
【0074】
反射層としては、金、銀、アルミニウムまたはそれらの合金のような金属からなるもの等が挙げられるが、550nm以下の波長のレーザー光に対する反射率から、金やアルミニウムより、銀の方が好ましい。金属反射層は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などによって記録層上に成膜される。ここで、金属反射層と記録層との間に層間の密着力を向上させるため、または、反射率を高める等の目的で中間層を設けても良い。
【0075】
反射層の上に形成する保護層の材料としては、例えば、紫外線硬化型樹脂組成物などが挙げられる。
【0076】
更に、上記構成の光学記録媒体を接着層を介して2枚貼りあわせ、両面記録型光学記録媒体としても良いし、記録層を基板の両面に設けても良いし、片面に設けても良い。
【0077】
上述のようにして得られた光学記録媒体への情報の記録は、通常、記録層に0.4〜0.6μm程度に集束したレーザー光を照射することにより行う。記録層がレーザー光のエネルギーを吸収すると、レーザー光照射部分では、分解、発熱、溶融等の熱的変形が起こる。記録された情報の再生は、レーザー光による上記熱的変形が起きている部分と起きていない部分の反射率の差を読み取ることにより行う。
【0078】
高密度記録のためには、使用するレーザー光の波長が短いほど好ましく、特に、波長350nm〜530nmのレーザー光が好ましい。かかるレーザー光の代表例としては、例えば、中心波長405nm、410nmなどの青色レーザー光、中心波長515nmの青緑色の高出力半導体レーザー光が挙げられる。これら以外にも(a)基本発振波長が740〜960nmの連続発振可能な半導体レーザー光、または(b)半導体レーザー光によって励起されかつ基本発振波長が740〜960nmの連続発振可能な固体レーザー光のいずれかを、第二高調波発生素子(SHG)により波長変換することによって得られる光なども挙げられる。
【0079】
上記のSHGとしては、反射対称性を欠くピエゾ素子であればいかなるものでも良いが、KDP、ADP、BNN、KN、LBO、化合物半導体などが好ましい。第二高調波の具体例としては、基本発振波長が860nmの半導体レーザーの場合は、その倍波の波長430nm、また半導体レーザー励起の固体レーザーの場合は、CrドープしたLiSrAlF6結晶(基本発振波長860nm)からの倍波の波長430nmなどが挙げられる。
これらのうち、中心波長405nmの青色レーザー光を使用することが特に好ましい。
【0080】
なお、本発明の光学記録媒体は、当該光学記録媒体が有する吸収波長および吸光度のうち、光学記録媒体の吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)が300〜380nmであり、該λmaxにおけるモル吸光係数が50,000以上であることが好ましい。また、405nmにおける吸収強度は、λmaxにおける吸収強度の通常0.001〜15%であり、特に好ましくは0.01〜10%である。
【0081】
{その他の用途}
前記一般式(1)ないし一般式(2)で表される本発明の新規サブポルフィリン化合物は、波長350nmおよび510nm前後に鋭い吸収ピークを持つことから、光学記録媒体用途以外にも、UV−B紫外光を選択的に除去するフィルタ材料用途、2光子吸収材料やホログラム材料などの情報材料用途、フォトダイナミックセラピーなどの医療材料用途、有機半導体レーザー材料用途、光触媒や有機太陽電池などの触媒材料用途等にも好適である。また、該サブポルフィリン化合物がカウンターアニオンを有する場合、アニオンを交換させる性質を利用して、分子キャリア材料用途や分子捕集・貯蔵材料用途にも適用可能である。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
[合成例]
<実施例1:例示化合物(A−1)の合成>
イソインドリノン−3−酢酸(3.0g:0.016モル)およびホウ酸(0.47g:0.006モル)を、乳鉢用いて粉砕、混合した後、該粉体を窒素雰囲気下、350℃で3時間加熱した。反応生成物を放冷した後、反応生成物を10重量%水酸化ナトリウム水溶液(20ml)で洗浄した後、塩化メチレン/ジエチルエーテル(混合容量比1:1)混合溶媒に溶解させ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することでサブポルフィリン−ヒドロキシホウ素錯体(前記例示化合物(A−1))の橙色粉末(30mg)を得た。
【0084】
この化合物(A−1)の紫外可視吸収スペクトルを図1に示す。
化合物の同定はH NMR、13C NMR、11B NMR、X線結晶構造解析およびESI TOF−MSにより行った。
H NMR(600MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=9.44(s、3H)、8.86(dd、J=5.9、3.2Hz、6H)、7.88(dd、J=5.9、3.2Hz、6H)、−2.6(br、1H)
13C NMR(150MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=137.0、131.6、127.2、121.5、97.3
11B NMR(193MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=−14.6
ESI TOF−MS(ポジティブモード) 実測値:409.1387、計算値:409.1386
X線結晶構造解析:図5に示す。
【0085】
<実施例2:例示化合物(A−2)の合成>
化合物(A−1)を窒素雰囲気下、メタノール中で30分加熱還流させることにより前記例示化合物(A−2)を定量的に得た。
【0086】
化合物の同定はH NMR、13C NMR、11B NMR、ESI TOF−MSおよびX線結晶構造解析により行った。
H NMR(600MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=9.43(s、3H)、8.86(dd、J=5.9、2.8Hz、6H)、7.87(dd、J=5.9、2.8Hz、6H)、0.81(br、s、3H)
13C NMR(150MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=137.7、131.5、127.2、97.5、46.9
11B NMR(193MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=−14.1
ESI TOF−MS(ポジティブモード) 実測値:423.1543、計算値:423.1542
X線結晶構造解析:図6に示す。
【0087】
<例示化合物(A−3)の合成>
化合物(A−1)を無水クロロホルム中に溶解させ過剰量(3当量以上)のトリフルオロ酢酸をクロロホルムで10倍に希釈した溶液を滴下した。この溶液に少量のヘキサンを加え、減圧下でゆっくりと溶媒を留去することで定量的に化合物(A−3)を得た。
【0088】
この化合物(A−3)の紫外可視吸収スペクトルを図2に示す。
化合物の同定はH NMR、13C NMR、11B NMR、19F NMR、ESI TOF−MSおよびX線結晶構造解析により行った。
H NMR(600MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=9.59(s、3H)、8.91(dd、J=5.9、3.2Hz、6H)、7.92(dd、J=6.0、2.8Hz、6H)
13C NMR(150MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=137.6、131.4、127.7、121.7、98.7
11B NMR(193MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=−13.7
19F NMR(565MHz、CDCl、298K):δ(ppm)=−78.0
ESI TOF−MS(ポジティブモード) 実測値:505.1210、計算値:505.1209
X線結晶構造解析:図7に示す。
【0089】
<比較例1,2>
比較のため、下記構造式で表されるテトラフェニルポルフィリン化合物(B−1)と、オクタエチルポルフィリン化合物(B−2)を準備した。化合物(B−1)の紫外可視吸収スペクトルを図3に、化合物(B−2)の紫外可視吸収スペクトルを図4に示す。
【0090】
【化14】

【0091】
[吸収スペクトル比較]
化合物(A−1)、(B−1)、(B−2)の吸収極大波長(λmax)、λmaxにおけるモル吸光係数ε、波長405nmにおける吸光強度のλmaxにおける吸光強度に対する比率、裾野までの波長差(吸収極大から長波長側であって、吸収強度が吸収極大の5%となる波長と吸収極大波長との波長差)を表1にまとめて示した。
表1より、化合物(B−1)および(B−2)に比して、化合物(A−1)が、吸光係数、吸収極大波長および吸収形状の全ての面において好ましい範囲に収まっており、青色レーザー光を用いた光学記録媒体に好適であることが明らかである。
【0092】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】実施例1で合成した化合物(A−1)の塩化メチレン中での紫外可視吸収スペクトルを表す図である。
【図2】実施例3で合成した化合物(A−3)の1重量%のトリフルオロ酢酸を含む無水塩化メチレン溶液中での紫外可視吸収スペクトルを表す図である。
【図3】比較例1で準備した化合物(B−1)のクロロホルム中での紫外可視吸収スペクトルを表す図である。
【図4】比較例2で準備した化合物(B−2)のクロロホルム中での紫外可視吸収スペクトルを表す図である。
【図5】実施例1で合成した化合物(A−1)のX線結晶構造解析による結晶構造を表す図である。
【図6】実施例2で合成した化合物(A−2)のX線結晶構造解析による結晶構造を表す図である。
【図7】実施例3で合成した化合物(A−3)のX線結晶構造解析による結晶構造を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるサブポルフィリン化合物を製造する方法であって、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体およびホウ素化合物を混合して反応させる工程を含むことを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造法。
【化1】

(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、または置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、Mは2個の水素原子もしくは2価以上のカチオン原子を表し、該カチオン原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。なお、RおよびR、RおよびR、RおよびRはそれぞれ結合して環を形成していても良く、該環は更に置換基を有していても良い。)
【請求項2】
請求項1に記載の製造法において、反応温度が300℃以上であることを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造法において、ホウ素化合物が置換または無置換のホウ酸であることを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の製造法において、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体がイソインドリノン−3−酢酸誘導体であることを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の製造法において、2−(5−オキソ−1H−ピロール−2−イル)酢酸誘導体とホウ素化合物を混合して反応させる工程に次いで、該反応で得られたサブポルフィリンホウ素錯体のホウ素を、ホウ素以外の前記Mに置換する工程を有することを特徴とするサブポルフィリン化合物の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるサブポルフィリン化合物。
【化2】

(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、または置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、Mは2個の水素原子もしくは2価以上のカチオン原子を表し、該カチオン原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。なお、RおよびR、RおよびR、RおよびRはそれぞれ結合して環を形成していても良く、該環は更に置換基を有していても良い。)
【請求項7】
下記一般式(2)で表されるサブポルフィリン化合物。
【化3】

(一般式(2)中、R10〜R25は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良い芳香環基、または炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、Xは周期表16族原子を表す。)
【請求項8】
請求項6または7に記載のサブポルフィリン化合物を含むことを特徴とする光学記録媒体の記録層形成用色素。
【請求項9】
請求項8に記載の記録層形成用色素を含む記録層を有することを特徴とする光学記録媒体。
【請求項10】
波長350〜530nmのレーザー光を用いて記録することを特徴とする請求項9に記載の光学記録媒体の記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−39588(P2007−39588A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226900(P2005−226900)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】