説明

サーチュイン調節性イミダゾチアゾール化合物

新規なサーチュイン調節化合物およびその使用法が提供される。サーチュイン調節化合物は、細胞寿命の増加のために、および例えば、加齢またはストレスに関連する疾患または障害、糖尿病、肥満、神経変性疾患、心臓血管疾患、血液凝固障害、炎症、癌、および/または紅潮ならびにミトコンドリア活性の増加により利益を得る疾患または障害を包含する幅広く種々の疾患および障害の治療および/または予防のために使用されうる。また、別の治療剤と組み合わせたサーチュイン調節化合物を含む組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、米国仮出願第60/936,633号(2007年6月20日出願)の利益を主張し、その内容は、出典明示により全体として本明細書の一部とされる。
【背景技術】
【0002】
遺伝子のサイレント情報調節因子(SIR)ファミリーは、始原細菌から種々の真核生物にわたる生物のゲノムに存在する高度に保存された一群の遺伝子を代表する(Frye,2000)。コード化されたSIRタンパク質は、遺伝子サイレンシングの調節からDNA修復までの多様なプロセスに関与する。SIR遺伝子ファミリーのメンバーによってコードされたタンパク質は、250個のアミノ酸からなるコアドメインにおいて高い配列保存を示す。該ファミリーにおけるよく特徴付けられた遺伝子は、エス・セレビシエ(S.cerevisiae)SIR2であり、酵母接合型、テロメア位置効果および細胞加齢を特定する情報を含有するHM遺伝子座のサイレンシングに関与する(Guarente,1999;Kaeberleinら、1999;Shore,2000)。酵母のSir2タンパク質は、ヒストンデアセチラーゼのファミリーに属する(Guarente,2000の総説;Shore,2000)。サルモネラ・チフィムリアム(Salmonella typhimurium)におけるSir2ホモログCobBは、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)依存性ADP−リボシルトランスフェラーゼとして機能する(TsangおよびEscalante−Semerena,1998)。
【0003】
Sir2タンパク質は、共基質としてNADを使用するクラスIIIデアセチラーゼである(Imaiら、2000;Moazed,2001;Smithら、2000;Tannerら、2000;TannyおよびMoazed,2001)。その多くが遺伝子サイレンシングに関与する他のデアセチラーゼとは異なり、Sir2は、トリコスタチンA(TSA)のようなクラスIおよびIIヒストンデアセチラーゼ阻害剤に非感受性である(Imaiら、2000;Landryら、2000a;Smithら、2000)。
【0004】
Sir2によるアセチル−リジンの脱アセチル化は、NAD加水分解に密接に関連しており、ニコチンアミドおよび新規なアセチル−ADPリボース化合物を産生する(Tannerら、2000;Landryら、2000b;TannyおよびMoazed,2001)。Sir2のNAD依存性デアセチラーゼ活性は、その生物学的役割と酵母における細胞代謝とを結びつけることのできるその機能に不可欠である(Guarente,2000;Imaiら、2000;Linら、2000;Smithら、2000)。哺乳動物のSir2ホモログは、NAD依存性ヒストンデアセチラーゼ活性を有する(Imaiら、2000;Smithら、2000)。Sir2に媒介される機能についての大抵の情報は、酵母での研究に由来する(Gartenberg,2000;Gottschling,2000)。
【0005】
生物化学的研究は、Sir2がヒストンH3およびH4のアミノ末端尾部を容易に脱アセチル化することができ、それにより、1−O−アセチル−ADP−リボースおよびニコチンアミドの形成をもたらすことを示した。SIR2の付加的なコピーを有する株は、rDNAサイレンシングの増加および30%長い寿命を示す。近年、シー・エレガンス(C.elegans)SIR2ホモログ、sir−2.1、およびディー・メラノガスター(D.melanogaster)dSir2遺伝子の付加的なコピーがそれらの生物における寿命を大きく延ばすことが示された。これは、加齢に関するSIR2依存性調節経路が進化の早期に現れ、よく保存されていることを意味する。今日、Sir2遺伝子は、進化の結果、生物の健康およびストレス耐性を増進して、逆境に生き残るチャンスを増加させると考えられている。
【0006】
SIRT3は、原核生物および真核生物に保存されるSIRT1のホモログである(P.Onyangoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:13653−13658(2002))。SIRT3タンパク質は、N末端に位置する独特のドメインによって、ミトコンドリアのクリスタを標的とする。SIRT3は、NAD+依存性タンパク質デアセチラーゼ活性を有し、遍在的に発現し、特に、代謝上活性な組織に発現する。ミトコンドリアへの移動時に、SIRT3は、ミトコンドリアマトリックスプロセッシングペプチド(MPP)によって、小さな活性形態に切断されると考えられる(B.Schwerら、J.Cell Biol.158:647−657(2002))。
【0007】
70年以上もの間、カロリー制限は、健康を改善し、哺乳動物の寿命を延ばすことが知られている(Masoro,2000)。酵母の寿命もまた、後生動物の寿命と同様に、低グルコースなどのカロリー制限に似た介入により延長される。SIR2遺伝子を欠く酵母およびハエのどちらも、カロリーを制限したときに長く生存しないという知見により、該食餌の有益な健康上の効果をSIR2遺伝子が媒介する証拠が提供される(Andersonら、2003;HelfandおよびRogina,2004)。さらに、酵母グルコース応答性cAMP(アデノシン3’,5’−モノホスフェート)依存性(PKA)経路の活性を減少させる変異は、野生型細胞において寿命を延長するが、変異体sir2株において延長しないことにより、SIR2がカロリー制限経路の主要な下流成分である可能性が立証された(Linら、2001)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P.Onyangoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:13653−13658(2002)
【非特許文献2】B.Schwerら、J.Cell Biol.158:647−657(2002)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願明細書において、新規なサーチュイン調節化合物およびその使用方法が提供される。
一の態様において、本発明は、下記に詳細に記載される式I〜VIのサーチュイン調節化合物を提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、サーチュイン調節化合物を使用する方法、またはサーチュイン調節化合物を含む組成物を提供する。ある特定の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加させるサーチュイン調節化合物が例えば、細胞寿命の増加、および例えば、加齢またはストレスに関連する疾患または障害、糖尿病、肥満、神経変性疾患、化学治療誘導性ニューロパシー、虚血事象に関連するニューロパシー、眼疾患および/または障害、心臓血管疾患、血液凝固障害、炎症、および/または紅潮等を包含する幅広く種々の疾患および障害の治療および/または予防を包含する種々の治療的応用に使用されうる。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加させるサーチュイン調節化合物は、また、ミトコンドリア活性の増加により利益を得る対象における疾患または障害の治療、筋肉パフォーマンスの増進、筋肉ATPレベルの増加、または低酸素症もしくは虚血に関連する筋肉組織損傷の治療または予防に使用されうる。他の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を減少させるサーチュイン調節化合物は、例えば、ストレスに対する細胞感受性の増加、アポトーシスの増加、癌の治療、食欲の刺激、および/または体重増加の刺激などを包含する種々の治療的応用に使用されうる。さらに下記するように、該方法は、医薬上有効量のサーチュイン調節化合物を対象に投与することを特徴とする。
【0011】
ある特定の態様において、サーチュイン調節化合物は、単独で、または他のサーチュイン調節化合物もしくは他の治療剤を包含する他の化合物と組み合わせて投与されうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、熱重量分析(TGA)および示差走査熱量測定(DSC)によって特徴付けられた化合物1の塩化物塩形態を示す。
【図2】図2は、熱重量分析(TGA)および示差走査熱量測定(DSC)によって特徴付けられた化合物1の遊離塩基形態を示す。
【図3】図3は、化合物1の遊離塩基を投与されたDIOマウスモデルにおける2週間摂食時血中グルコースを示す。
【図4】図4は、化合物1の遊離塩基を投与されたDIOマウスモデルにおける3週間空腹時血中グルコースを示す。
【図5】図5は、化合物1の遊離塩基を投与されたDIOマウスモデルにおける4週間摂食時血中グルコースを示す。
【図6】図6は、化合物1の遊離塩基を投与されたOb/obマウスモデルにおける1週間空腹時血中グルコースを示す。
【図7】図7は、化合物1の遊離塩基を投与されたOb/obマウスモデルにおける2週間空腹時血中グルコースを示す。
【図8】図8は、化合物1の遊離塩基を投与されたOb/obマウスモデルにおける3週間摂食時血中グルコースを示す。
【図9】図9は、化合物1の遊離塩基または塩化物塩形態を投与されたOb/obマウスモデルにおける1週間空腹時血中グルコースを示す。
【図10】図10は、化合物1の遊離塩基または塩化物塩形態を投与されたOb/obマウスモデルにおける2週間空腹時血中グルコースを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な記載
1.定義
本明細書中で使用される場合、下記の用語および句は、下記に示す意味を有する。別記しないかぎり、本明細書中で使用される全ての技術的および科学的用語は、当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに別のものを意図しないかぎり、複数形を包含する。
【0014】
「剤」なる語は、本明細書中で使用される場合、化学的化合物、化学的化合物の混合物、生物学的巨大分子(例えば、核酸、抗体、タンパク質またはその部分、例えば、ペプチド)、または生物学的材料、例えば、細菌、植物、カビ、または動物(特に、哺乳動物)細胞または組織から得られる抽出物を示す。かかる剤の活性により、それは、対象において局所的または全身的に作用する生物学的、生理学的または薬理学的に活性な物質である「治療剤」として適当になりうる。
【0015】
「生物学的に利用可能」なる語は、化合物に対して言及する場合、当該分野において認識されており、投与される対象または患者によって吸収される、取り込まれる、または生理学的に利用可能になる化合物の形態、または投与される化合物の量の一部をいう。
【0016】
「サーチュインの生物学的に活性な部分」とは、生物学的活性、例えば、脱アセチル化能力を有するサーチュインタンパク質の部分をいう。サーチュインの生物学的に活性な部分は、サーチュインのコアドメインを含んでいてもよい。NAD+結合ドメインおよび基質結合ドメインを含むGenBank Accession No.NP 036370を有するSIRT1の生物学的に活性な部分は、例えば、限定するものではないが、GenBank Accession No.NM 012238のヌクレオチド237〜932によってコード化されるGenBank Accession No.NP 036370のアミノ酸62−293を含みうる。したがって、該領域は、時折、コアドメインと呼ばれる。SIRT1の他の生物学的に活性な部分もまた、時折、コアドメインと呼ばれ、GenBank Accession No.NM 012238のヌクレオチド834〜1394によってコード化されるGenBank Accession No.NP 036370のアミノ酸約261〜447、GenBank Accession No.NM 012238のヌクレオチド777〜1532によってコード化されるGenBank Accession No.NP 036370のアミノ酸約242〜493、またはGenBank Accession No.NM 012238のヌクレオチド813〜1538によってコード化されるGenBank Accession No.NP 036370のアミノ酸約254〜495を包含する。
【0017】
「コンパニオン動物」なる語は、ネコおよびイヌを示す。本明細書中で使用される場合、「イヌ」なる語は、Canis familiaris種のいずれかのメンバーを示し、多数の種々の品種が存在する。「ネコ」なる語は、飼い猫およびFelidae科、Felis属の他のメンバーを包含するネコ科の動物をいう。
【0018】
「含む(comprise)」および「含んでいる(comprising)」なる語は、包括的なオープンな意味で使用され、付加的な要素を含んでいてもよいことを意味する。
【0019】
「糖尿病」は、高血糖またはケトアシドーシス、ならびに長期にわたる高血糖状態またはグルコース耐性の減少により生じる慢性的な一般的代謝異常をいう。「糖尿病」は、I型およびII型(非インスリン依存性真性糖尿病またはNIDDM)の両方を包含する。糖尿病の危険因子は、下記の因子:ウエスト寸法が男性で40インチを超えるか、または女性で35インチを超える、血圧が130/85mmHg以上、トリグリセリドレベルが150mg/dlを超える、空腹時血中グルコースレベルが100mg/dlを超える、または高密度リポタンパク質が男性で40mg/dl未満もしくは女性で50mg/dl未満を包含する。
【0020】
サーチュインの「直接的アクチベーター」とは、それに結合することによってサーチュインを活性化する分子である。サーチュインの「直接的阻害剤」とは、それに結合することによってサーチュインを阻害する分子である。
【0021】
「ED50」なる語は、当該分野で認識されている。ある特定の具体例において、ED50は、その最大の応答または効果の50%を生じる薬物の投与量、あるいは試験対象または調製物の所定の応答の50%を生じる投与量を意味する。「LD50」なる語は、当該分野で認識されている。ある特定の具体例において、LD50は、試験対象の50%が致死する薬物の投与量を意味する。「治療指数」なる語は、当該分野で認識されており、LD50/ED50として定義される薬物の治療指数をいう。
【0022】
「高インスリン血症」なる語は、血中インスリンレベルが正常より高い個体の状態をいう。
【0023】
「包含する」なる語は、「限定するものではないが・・・を包含する」という意味で使用される。「包含する」および「限定するものではないが・・・を包含する」なる語は、交換可能に使用される。
【0024】
「インスリン耐性」なる語は、正常量のインスリンが、インスリン耐性のない対象における生物学的応答と比べて、正常より劣る生物学的応答をもたらす状態をいう。
【0025】
「インスリン耐性障害」なる語は、本明細書中で論じる場合、インスリン耐性によって引き起こされるか、またはインスリン耐性が寄与するいずれかの疾患または障害をいう。例えば、糖尿病、肥満、メタボリックシンドローム、インスリン耐性シンドローム、シンドロームX、インスリン耐性、高血圧、高血中コレステロール、脂質異常症、脂質過剰症、卒中を包含するアテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患または心筋梗塞、高血糖症、高インスリン血症および/または高プロインスリン血症、耐糖能異常、インスリン放出の遅延、冠状動脈性心疾患を包含する糖尿病性合併症、狭心症、鬱血性心疾患、卒中、認知症における認識機能、網膜症、末梢性ニューロパシー、腎障害、糸球体腎炎、糸球体硬化症、ネフローゼ症候群、高血圧性腎硬化症、いくつかの型の癌(例えば、子宮内膜癌、乳癌、前立腺癌、および結腸癌)、妊娠合併症、女性生殖健康障害(例えば、生理不順、不妊症、異常排卵、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS))、リポジストロフィー、コレステロール関連障害、例えば、胆石、胆嚢炎および胆石症、痛風、閉塞性睡眠時無呼吸および呼吸障害、骨関節炎、および骨喪失、例えば、骨粗鬆症の予防および治療を包含する。
【0026】
「家畜」なる語は、飼い慣らされた四肢動物をいい、肉および種々の副産物のために育てられている動物、例えば、蓄牛および他のBos属のメンバーを包含するウシ、飼い慣らされたブタおよびSus属の他のメンバーを包含するブタ、ヒツジおよびOvis属の他のメンバーを包含するヒツジ、飼い慣らされたヤギおよびCapra属の他のメンバー;荷役用の動物としての使用などの特殊化された仕事のために育てられている飼い慣らされた四肢動物、例えば、飼い慣らされたウマおよびEquidae科、Equus属の他のメンバーを包含するウマ科の動物を包含する。
【0027】
「哺乳動物」なる語は、当該分野で知られており、例示的哺乳動物は、ヒト、霊長類、家畜(ウシ、ブタなどを包含する)、コンパニオン動物(例えば、イヌ、ネコなど)、および齧歯類(例えば、マウスおよびラット)を包含する。
【0028】
肥満を患った「肥満」した個体は、一般に、ボディー・マス・インデックス(BMI)が少なくとも25以上の個体である。肥満は、インスリン耐性に関連していても、していなくてもよい。
【0029】
「非経口投与」なる語は、当該分野で認識されており、通常、経腸投与および局所投与以外の注射による投与様式をいい、限定するものではないが、静脈内、筋内、動脈内、くも膜下、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、アーティキュラーレ内、皮膜下、くも膜下、髄空内、および胸骨内注射および注入を包含する。
【0030】
「患者」、「対象」、「個体」または「宿主」とは、ヒトまたは非ヒト動物をいう。
【0031】
「医薬上許容される担体」なる語は、当該分野で認識されており、いずれか対象組成物またはその成分の運搬または輸送に関与する医薬上許容される材料、組成物またはビヒクル、例えば、液体または固体増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒またはカプセル化材料をいう。各担体は、対象組成物およびその成分と適合性であり、かつ、患者に有害ではないという意味で「許容され」なければならない。医薬上許容される担体として作用しうる材料のいくつかの例は、(1)糖、例えば、ラクトース、グルコースおよびシュークロース、(2)デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン、(3)セルロース、およびその誘導体、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロースおよびセルロースアセテート、(4)粉末化したトラガカントゴム、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)賦形剤、例えば、ココア脂および座剤用ワックス、(9)油、例えば、ピーナツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、およびダイズ油、(10)グリコール、例えば、プロピレングリコール、(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール、(12)エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル、(13)寒天、(14)緩衝化剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム、(15)アルギン酸、(16)発熱物質不含水、(17)等張セーライン、(18)リンガー溶液、(19)エチルアルコール、(20)リン酸緩衝液、および(21)医薬処方に使用される他の非毒性適合性物質を包含する。
【0032】
「予防」または「治療」処置なる語は、当該分野で認識されており、宿主への薬物投与をいう。望まれない状態(例えば、宿主動物の疾患または他の望まれない状態)の臨床症状前に投与する場合、該処置は予防である。すなわち、それは、望まれない状態の発現から宿主を保護する。一方、望まれない状態の発現後に投与する場合、該処置は治療である(すなわち、存在する望まれない状態またはその副作用を減少、改善または維持することを意図する)。
【0033】
組成物に言及した「発熱物質不含」なる語は、組成物が投与された対象において悪影響(例えば、刺激、熱、炎症、下痢、呼吸困難、内毒素性ショックなど)を導く量で発熱物質を含有しない組成物をいう。例えば、該用語は、内毒素、例えば、リポポリサッカライド(LPS)を含まない、または実質的に含まない組成物を包含することを意味する。
【0034】
細胞の「複製寿命」なる語は、個々の「母細胞」によって産生される娘細胞の数をいう。一方、「暦年齢」または「暦寿命」なる語は、貧栄養分下で非分裂細胞の集団が生き延びる時間をいう。「細胞の寿命の増加」または「細胞の寿命の延長」なる語は、細胞または生物に応用する場合、1つの細胞によって生産される娘細胞の数が増加すること、細胞または生物のストレスに対抗し、例えば、DNA、タンパク質に対する損傷と闘う能力を増加すること、および/または細胞または生物の、特定の条件下、例えば、ストレス(例えば、熱ショック、浸透圧ストレス、高エネルギー照射、化学誘導性ストレス、DNA損傷、不適当な塩レベル、不適当な窒素レベル、または不適当な栄養分レベル)下でより長く生存し、生きた状態で存在する能力を増加することをいう。寿命は、本明細書に記載の方法を用いて、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%または20%〜70%、30%〜60%、40%〜60%またはそれ以上増加させることができる。
【0035】
「サーチュイン活性化化合物」なる語は、サーチュインタンパク質のレベルを増加させ、および/またはサーチュインタンパク質の少なくとも1つの活性を増加させる化合物をいう。例示的具体例において、サーチュイン活性化化合物は、サーチュインタンパク質の少なくとも1つの生物学的活性を少なくとも約10%、25%、50%、75%、100%またはそれ以上増加させうる。サーチュインタンパク質の例示的生物学的活性は、例えば、ヒストンおよびp53の脱アセチル化、寿命の延長、ゲノム安定性の増加、サンレンシング転写、および母細胞と娘細胞間での酸化タンパク質分離の調節を包含する。
【0036】
「サーチュイン阻害化合物」なる語は、サーチュインタンパク質のレベルを減少し、および/またはサーチュインタンパク質の少なくとも1つの活性を減少させる化合物をいう。例示的具体例において、サーチュイン阻害化合物は、サーチュインタンパク質の少なくとも1つの生物学的活性を少なくとも約10%、25%、50%、75%、100%またはそれ以上減少させうる。サーチュインタンパク質の例示的生物学的活性は、例えば、ヒストンおよびp53の脱アセチル化、寿命の延長、ゲノム安定性の増加、サンレンシング転写、および母細胞と娘細胞間での酸化タンパク質分離の調節を包含する。
【0037】
「サーチュイン調節化合物」なる語は、本明細書に記載の式(I)〜(VI)の化合物をいう。例示的具体例において、サーチュイン調節化合物は、サーチュインタンパク質の機能的特性または生物学的活性をアップレギュレーション(例えば、活性化または刺激)、ダウンレギュレーション(例えば、阻害または抑制)あるいは変化させうる。サーチュイン調節化合物は、サーチュインタンパク質を直接または間接的に調節するように作用しうる。ある特定の具体例において、サーチュイン調節化合物は、サーチュイン活性化化合物またはサーチュイン阻害化合物であってもよい。
【0038】
「サーチュインタンパク質」なる語は、サーチュインデアセチラーゼタンパク質ファミリーのメンバーをいい、または好ましくは、sir2ファミリーを示し、酵母Sir2(GenBank Accession No.P53685)、シー・エレガンス(C.elegans)Sir−2.1(GenBank Accession No. NP 501912)、およびヒトSIRT1(GenBank Accession No. NM 012238およびNP 036370(またはAF083106))およびSIRT2(GenBank Accession No. NM 012237、NM 030593、NP 036369、NP 085096、およびAF083107)タンパク質を包含する。他のファミリーのメンバーには、「HST遺伝子」(omologues of Sir two)と称する4つの付加的な酵母Sir2様遺伝子 HST1、HST2、HST3およびHST4、および5つの他のヒトホモログ hSIRT3、hSIRT4、hSIRT5、hSIRT6およびhSIRT7がある(Brachmannら、(1995) Genes Dev. 9:2888およびFryeら、(1999)BBRC 260:273)。好ましいサーチュインは、SIRT1、すなわち、hSIRT1と、および/またはSIRT2とよりもSir2と、より多くの類似点を共有するものであり、例えば、SIRT1に存在し、SIRT2に存在しない、例えばSIRT3が有するような、N末端配列の少なくとも一部を有するメンバーである。
【0039】
「SIRT1タンパク質」なる語は、サーチュインデアセチラーゼのsir2ファミリーのメンバーをいう。一の具体例において、SIRT1タンパク質は、酵母Sir2(GenBank Accession No. P53685)、シー・エレガンスSir−2.1(GenBank Accession No. NP 501912)、ヒトSIRT1(GenBank Accession No. NM 012238またはNP 036370(またはAF083106))、およびヒトSIRT2(GenBank Accession No. NM 012237、NM 030593、NP 036369、NP 085096、またはAF083107)タンパク質、およびその等価物およびフラグメントを包含する。別の具体例において、SIRT1タンパク質は、GenBank Accession Nos. NP 036370、NP 501912、NP 085096、NP 036369、またはP53685に示されるアミノ酸配列からなる、または実質的に該アミノ酸配列からなる配列を含むポリペプチドを包含する。SIRT1タンパク質は、GenBank Accession Nos. NP 036370、NP 501912、NP 085096、NP 036369、またはP53685に示されるアミノ酸配列;1ないし約2、3、5、7、10、15、20、30、50、75またはそれ以上の保存的アミノ酸置換を有するGenBank Accession Nos. NP 036370、NP 501912、NP 085096、NP 036369、またはP53685に示されるアミノ酸配列;GenBank Accession Nos. NP 036370、NP 501912、NP 085096、NP 036369、またはP53685と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一のアミノ酸配列の全てまたは一部を含むポリペプチド、およびその機能的フラグメントを包含する。本発明のポリペプチドは、また、GenBank Accession Nos. NP 036370、NP 501912、NP 085096、NP 036369、またはP53685のホモログ(例えば、オルソログおよびパラログ)、変種、またはフラグメントを包含する。
【0040】
「SIRT3タンパク質」なる語は、サーチュインデアセチラーゼタンパク質ファミリーのメンバーおよび/またはSIRT1タンパク質のホモログをいう。一の具体例において、SIRT3タンパク質は、ヒトSIRT3(GenBank Accession No. AAH01042、NP 036371、またはNP 001017524)およびマウスSIRT3(GenBank Accession No. NP 071878)タンパク質、およびその等価物およびフラグメントを包含する。別の具体例において、SIRT3タンパク質は、GenBank Accession Nos. AAH01042、NP 036371、NP 001017524、またはNP 071878に示されるアミノ酸配列からなる、または本質的に該アミノ酸配列からなる配列を含むポリペプチドを包含する。SIRT3タンパク質は、GenBank Accession AAH01042、NP 036371、NP 001017524、またはNP 071878に示されるアミノ酸配列;1ないし約2、3、5、7、10、15、20、30、50、75またはそれ以上の保存的アミノ酸置換を有するGenBank Accession AAH01042、NP 036371、NP 001017524、またはNP 071878に示されるアミノ酸配列;GenBank Accession AAH01042、NP 036371、NP 001017524、またはNP 071878と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一のアミノ酸配列の全てまたは一部を含むポリペプチド、およびその機能的フラグメントを包含する。本発明のポリペプチドは、また、GenBank Accession AAH01042、NP 036371、NP 001017524、またはNP 071878のホモログ(例えば、オルソログおよびパラログ)、変種、またはフラグメントを包含する。一の具体例において、SIRT3タンパク質は、ミトコンドリアマトリックスプロセッシングペプチダーゼ(MPP)および/またはミトコンドリア媒介ペプチダーゼ(MIP)で切断されることによって産生されるSIRT3タンパク質のフラグメントを包含する。
【0041】
「全身性投与」、「全身に投与」、「末梢投与」および「末梢に投与」なる語は、当該分野で認識されており、対象組成物、治療剤または他の物質が患者の系に入って、代謝や他のプロセスに付されるような中枢神経系への直接的投与以外の対象組成物、治療剤または他の物質の投与をいう。
【0042】
「治療剤」なる語は、当該分野で認識されており、対象において局所的または全身的に作用する生物学的、生理学的または薬理学的に活性な物質であるいずれかの化学物質をいう。該用語は、また、疾患の診断、治癒、緩和、治療または予防において、または動物またはヒトにおける所望の物理学的または精神的発達および/または状態の促進において使用される目的のいずれかの物質を意味する。
【0043】
「治療的効果」なる語は、当該分野で認識されており、薬理学的に活性な物質によって引き起こされる動物、特に哺乳動物、より特別にはヒトにおける局所的または全身的効果をいう。「治療上有効量」なる語は、いずれかの治療に適用可能な妥当な利益/リスク比にていくらかの所望の局所的または全身的な効果を生じるような物質量を意味する。かかる物質の治療上有効量は、治療されている対象および病態、対象の体重および年齢、病態の重篤度、投与様式などに依存して変更され、当業者によって容易に決定できる。例えば、本明細書に記載のある特定の組成物は、かかる治療に適用可能な妥当な利益/リスク比にて所望の効果を生じるのに十分な量で投与されうる。
【0044】
病態または疾患を「治療する」なる語は、病態または疾患の少なくとも1の症状を治癒ならびに緩和することをいう。
【0045】
「視力障害」なる語は、視力の減少をいい、しばしば、治療(例えば、手術)において部分的にのみ可逆的または非可逆的である。特に、重篤な視力障害は、「盲目」または「失明」と称し、完全な視力喪失、補正レンズで改善できない20/200以下の視力、または直径20度(半径10度)未満の視野をいう。
【0046】
2.サーチュインモジュレーター
一の態様において、本発明は、例えば、加齢またはストレスに関連した疾患または障害、糖尿病、肥満、神経変性疾患、眼疾患および障害、心臓血管疾患、血液凝固障害、炎症、癌、および/または紅潮などを包含する幅広く種々の疾患および障害を治療および/または予防するための新規なサーチュイン調節化合物を提供する。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、ミトコンドリア活性の増加によって利益を得る対象における疾患または障害の治療、筋肉パフォーマンスの増進、筋肉ATPレベルの増加、または低酸素症もしくは虚血に関連する筋肉組織損傷の治療または予防に使用されうる。本明細書に開示される他の化合物は、本明細書に開示される医薬組成物および/または1以上の方法における使用に適当でありうる。
【0047】
一の具体例において、本発明のサーチュイン調節化合物は、式(I):
【化1】

[式中、
Xは、NまたはSであり;
XがNのとき、YはSであるか、またはXがSのとき、YはNであり;
Rは、−Hまたは置換もしくは非置換アルキル基であり;
は、可溶化基であり;
は、−Hまたは置換もしくは非置換アルキル基であり;
は、置換または非置換単環式アリール基であり;
は、−H、ハロゲンまたは置換もしくは非置換アルキルである]
またはその塩で示される。
【0048】
ある特定の具体例において、Rは−Hまたは−CHである。
ある特定の具体例において、Rは−Hまたは−CHである。
ある特定の具体例において、Rは−H、ハロゲンまたは−CHである。
【0049】
ある特定の具体例において、式(I)の化合物は、式(II):
【化2】

によって示される。
【0050】
ある特定の具体例において、RおよびRは、各々、独立して、−Hまたは−CHである。
ある特定の具体例において、Rは、置換または非置換ヘテロアリール基、例えば、置換または非置換含窒素ヘテロアリール基、特に、置換または非置換ピリジル基(例えば、非置換ピリジル)である。
【0051】
ある特定の具体例において、Rは、置換または非置換フェニル基、例えば、メチルフェニル、ハロフェニルまたは非置換フェニル基である。
【0052】
ある特定の具体例において、Rは、典型的にはヘテロシクリル部分がヘテロ原子によってアルキル部分に結合している、置換または非置換ヘテロシクリルアルキル基である。ある特定の具体例において、Rは、置換または非置換ヘテロシクリルメチル基、例えば、置換または非置換含窒素ヘテロシクリルメチル基であり、例えば、窒素原子を含有し、かつ、窒素および酸素から選択される第2のヘテロ原子を含有していてもよいヘテロシクリルメチル基を包含する。特定のヘテロシクリルアルキル基は、モルホリノメチルおよび1,2,4−トリアゾリルメチル基を包含する。Rにおける複素環部分の置換基の例は、1以上のヒドロキシル、ハロまたはメチル基を包含する。
【0053】
ある特定の具体例において、式(I)の化合物は、式(III)または(IV):
【化3】

によって示される。
【0054】
RおよびR−Rの適当な値は上記の通りである。
【0055】
式(I)によって示される化合物の例は、式(V)および(VI):
【化4】

によって示される化合物を包含する。
【0056】
本発明の化合物は、また、本発明の新規な化合物を含め、本明細書の記載の方法において使用できる。
【0057】
本発明のサーチュイン調節化合物は、有利には、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性、特に、サーチュインタンパク質のデアセチラーゼ活性を調節する。
【0058】
上記の特徴とは別に、本発明のある特定のサーチュイン調節化合物は、サーチュインタンパク質(例えば、SIRT1および/またはSIRT3タンパク質)の脱アセチル化活性を調節するのに有効な化合物濃度にて、実質的に1以上の下記の活性:PI3−キナーゼの阻害、アルドレダクターゼの阻害、チロシンキナーゼの阻害、EGFRチロシンキナーゼのトランス活性化、冠血管拡張、または鎮痙活性を有しない。
【0059】
アルキル基は、完全に飽和した直鎖、分枝鎖または環状非芳香族炭化水素である。典型的には、直鎖または分枝鎖アルキル基は、1〜約20個の炭素原子、好ましくは、1〜約10個の炭素原子を有し、環状アルキル基は、3〜約10個の炭素原子、好ましくは3〜約8個の炭素原子を有する。直鎖および分枝鎖アルキル基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ペンチルおよびオクチルを包含する。C1−C4直鎖または分枝鎖アルキル基は、また、「低級アルキル」基とも呼ばれる。
【0060】
芳香族(アリール)基は、炭素環芳香族基、例えば、フェニル、ナフチルおよびアントラシル、およびヘテロアリール基、例えば、イミダゾリル、チエニル、フリル、ピリジル、ピリミジル、ピラニル、ピラゾリル、ピロリル、ピラジニル、チアゾリル、オキサゾリル、およびテトラゾリルを包含する。
【0061】
芳香族基は、また、炭素環式芳香環またはヘテロアリール環が1以上の他のヘテロアリール環に縮合した縮合多環式芳香族環系を包含する。例えば、ベンゾチエニル、ベンゾフラニル、インドリル、キノリニル、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイミダゾール、キノリニル、イソキノリニル、およびイソインドリルが包含される。
【0062】
非芳香族複素環は、1以上のヘテロ原子、例えば、窒素、酸素または硫黄を環中に含む非芳香族炭素環である。該環は、5、6、7または8員である。例えば、テトラヒドロフリル、テトラヒドロチオフェニル、モルホリノ、チオモルホリノ、ピロリジニル、ピペラジニル、ピペリジニルおよびチアゾリジニルを糖の環状形態と共に包含する。
【0063】
第2の環に縮合した環は、少なくとも1つの共通の結合を有する。
【0064】
アルキル、非芳香族複素環またはアリール基(炭素環およびヘテロアリール)上の適当な置換基は、開示された化合物が本明細書中に開示される1以上の特性を有する能力と実質的に干渉しないものである。置換基のない化合物と比べて置換基のある化合物において約50%以上特性の大きさが減少する場合、置換基は、実質的に、化合物の特性と干渉する。適当な置換基の例は、−OH、ハロゲン(−Br、−Cl、−Iおよび−F)、−OR、−O−COR、−COR、−C(O)R、−CN、−NO、−COOH、−COOR、−OCO、−C(O)NR、−OC(O)NR、−SOH、−NH、−NHR、−N(R)、−COOR、−CHO、−CONH、−CONHR、−CON(R)、−NHCOR、−NRCOR、−NHCONH、−NHCONRH、−NHCON(R)、−NRCONH、−NRCONRH、−NRCON(R)、−C(=NH)−NH、−C(=NH)−NHR、−C(=NH)−N(R)、−C(=NR)−NH、−C(=NR)−NHR、−C(=NR)−N(R)、−NH−C(=NH)−NH、−NH−C(=NH)−NHR、−NH−C(=NH)−N(R)、−NH−C(=NR)−NH、−NH−C(=NR)−NHR、−NH−C(=NR)−N(R)、−NRH−C(=NH)−NH、−NR−C(=NH)−NHR、−NRd_C(=NH)−N(R)、−NR−C(=NR)−NH、−NR−C(=NR)−NHR、−NR−C(=NR)−N(R)、−NHNH、−NHNHR、−NHR、−SONH、−SONHR、−SONR、−CH=CHR、−CH=CR、−CR=CR、CR=CHR、−CR=CR、−CCR、−SH、−SO(kは0、1または2)、−S(O)OR(kは0、1または2)および−NH−C(=NH)−NHを包含する。R−Rは、各々、独立して、脂肪族、ベンジルまたは芳香族基から選択される置換されていてもよい基、好ましくは、アルキル、ベンジリックまたはアリール基である。R−R上の任意の置換基は、NH、NH(C1−4脂肪族)、N(C1−4脂肪族)、ハロゲン、C1−4脂肪族、OH、O(C1−4脂肪族)、NO、CN、COH、CO(C1−4脂肪族)、O(ハロC1−4脂肪族)、またはハロC1−4脂肪族から選択され、ここに、上記C1−4脂肪族基の各々は非置換である。さらに、−NRは、一緒になって、置換または非置換非芳香族複素環基を形成することもできる。非芳香族複素環基、ベンジリック基またはアリール基は、また、脂肪族または置換脂肪族基を置換基として有することができる。置換脂肪族基は、また、非芳香族複素環、置換非芳香族複素環、ベンジル、置換ベンジル、アリールまたは置換アリール基を置換基として有することができる。置換脂肪族非芳香族複素環基、置換アリール、または置換ベンジル基は、1以上の置換基を有することができる。
【0065】
アリール環上の典型的な置換基は、可溶化基、ハロゲン;−R°;−OR°;−SR°;1,2−メチレンジオキシ;1,2−エチレンジオキシ;R°で置換されていてもよいフェニル(Ph);R°で置換されていてもよい−O(Ph);R°で置換されていてもよい−(CH1−2(Ph);R°で置換されていてもよい−CH=CH(Ph);−NO;−CN;−N(R°);−C(O)C(O)R°;−C(O)CHC(O)R°;−COR°;−C(O)R°;−S(O)R°;−SON(R°);−S(O)R°;−NR°SON(R°);−NR°SOR°;−C(=S)N(R°);または−C(=NH)−N(R°)から選択され、またはここに、R°の各々独立した存在は、水素、置換されていてもよいC1−6脂肪族、非置換5−6員ヘテロアリールまたは複素環、フェニル、−O(Ph)、または−CH(Ph)から選択され、または、上記の定義にもかかわらず、R°の2つの独立した存在は、同じ置換基または異なる置換基上で、各R°基が結合している原子と一緒になって、3−8員シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、または窒素、酸素または硫黄から独立して選択される0−3個のヘテロ原子を有するヘテロアリール環を形成する。R°の脂肪族基上の任意の置換基は、NH、NH(C1−4脂肪族)、N(C1−4脂肪族)、ハロゲン、C1−4脂肪族、OH、O(C1−4脂肪族)、NO、CN、COH、CO(C1−4脂肪族)、O(ハロC1−4脂肪族)、またはハロC1−4脂肪族から選択され、ここに、R°の上記C1−4脂肪族基の各々は、非置換である。
【0066】
本発明によって創造される置換基および変数の組み合わせは、安定な化合物の形成をもたらすもののみである。本明細書中で使用される場合、「安定」なる語は、製造に十分な安定性を有し、かつ、本明細書に詳述される目的で有用であるために十分な期間、化合物の完全性を維持する化合物をいう。
【0067】
本明細書中で使用される場合、「可溶化基」は、その基を含まない類似の化合物と比べた場合、その基を含む化合物の水溶性を改善または増加させるのに十分な親水性を有する基である。親水性は、いずれかの手段、例えば、電荷基(例えば、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、アミンなど)、永久荷電を含む基(例えば、第4級アンモニウム基)、および/またはヘテロ原子またはヘテロ原子基(例えば、O、S、N、NH、N−(CH−R、N−(CH−C(O)R、N−(CH−C(O)OR、N−(CH−S(O)−、N−(CH−S(O)OR、N−(CH−C(O)NRなど(ここに、Rは、水素、低級アルキル、低級シクロアルキル、(C6−C14)アリール、フェニル、ナフチル、(C7−C20)アリールアルキルおよびベンジルから選択され、Rは置換されていてもよく、yは、0〜6の整数である)、置換されていてもよい複素環基(例えば、−(CH−R、−(CH−C(O)−R、−(CH−O−(CH−R、ここに、Rは、置換されていてもよい飽和単環式複素環、置換されていてもよい飽和二環式縮合複素環、置換されていてもよい飽和二環式スピロ複素環、置換されていてもよい部分飽和非アリール複素環から選択され、nは0〜2の整数である)を形成するために、使用条件かでイオン化する官能基を包接することによって達成できる。RまたはR上に存在する置換基は、該定義の範囲内に入るべき非置換の対応する基よりも、水溶性を改善または増加させる必要がないことを理解すべきである。必要なことと言えば、かかる置換基が非置換RまたはR基によって得られた水溶性の改善を有意に逆転しないことのみである。
【0068】
一の具体例において、可溶化基は、可溶化基を欠く対応する化合物の水溶性を少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも20倍、最も好ましくは少なくとも50倍増加させる。
【0069】
1の好ましい具体例において、可溶化基は、式:
−(CH−R100−N(R101)(R101
[式中、
nは、0、1、または2から選択され、
100は、結合、−C(O)−、または−O(CHから選択され、
各R101は独立して、
a.水素;
b.C−C直鎖または分枝鎖アルキル(ここに、該アルキルは、ハロ、CN、OH、O−(C−C直鎖または分枝鎖アルキル)、N(R’)(R’)、または=Oで置換されていてもよい);
【化5】

または
f.両方のR101基がそれらが結合している窒素原子と一緒になって構造
【化6】

または
【化7】

の環を形成し、
g.両方のR101基がそれらが結合している窒素原子と一緒になって、1〜3個の付加的なN原子を含有する5員のヘテロアリール環を形成し、ここに、該ヘテロアリール環はR’で置換されていてもよく;
各Zは、独立して、−O−、−S−、−NR’−、または−C(R50)(R50)−から選択される、(ここに、
20、Z21、Z22およびZ23の少なくとも3つが−C(R50)(R50)−であり;
24、Z25、Z26、Z27およびZ28の少なくとも3つが−C(R50)(R50)−であり;
30、Z31、Z32およびZ33の少なくとも4つが−C(R50)(R50)−であり; Z34、Z35、Z36、Z37およびZ38の少なくとも4つが−C(R50)(R50)−であり;
各R’は独立して、水素、あるいはハロ、−CN、−OH、−OCH、−NH、−NH(CH)、−N(CHまたは=Oから独立して選択される1以上の置換基で置換されていてもよいC−C直鎖または分枝鎖アルキルから選択され;
各R50は、独立して、R’、ハロ、CN、OH、O−(C−C直鎖または分枝鎖アルキル)、N(R’)(R’)、=CR’、SR’、=NR’、=NOR’、または=Oから選択され;
いずれか2つの適当な非環状R50は、互いに直接またはCないしCアルキレン、アルケニレンまたはアルカンジイリデン架橋を介して結合していてもよく、二環式縮合またはスピロ環を生成し、
【化8】

のいずれかの環構造は、二環式環を生成するように、ベンゾ縮合または単環式ヘテロアリールに縮合していてもよい)から独立して選択される]
で示される基である。
【0070】
明確にするために、「CないしCアルキレン、アルケニレンまたはアルカンジイリデン架橋」なる語は、多価構造−CH−、−CH−CH−、−CH=、=CH−、−CH=CH−、または=CH−CH=を意味する。互いに結合していてもよい2つのR50基は、同じ炭素原子または異なる炭素原子上にあってもよい。前者は、スピロ二環式環を生じ、一方、後者は縮合二環式環を生じる。2つのR50が互いに結合して環を形成(直接または上記の架橋の1つを介して)するとき、各R50上の1以上の末端水素原子が失われることは、当業者には明らかであろう。したがって、環の形成に利用可能な「適当な非環状R50」基は、少なくとも1つの末端水素原子を含む非環状R50である。
【0071】
別の好ましい具体例において、可溶化基は、式:−(CH−O−R101
[式中、nおよびR101は上記の通りである]
の基である。
【0072】
別の好ましい具体例において、可溶化基は、式:−(CH−C(O)−R
[式中、nおよびR’は上記の通りである]
の基である。
【0073】
より好ましい具体例において、可溶化基は、−(CH−R102(ここに、nは、0、1または2であり、R102は、
【化9】

【化10】

【化11】

から選択され、R’は上記の通りである)
から選択される。
【0074】
またより好ましい具体例において、可溶化基は、2−ジメチルアミノエチルカルバモイル、ピペラジン−1−イルカルボニル、ピペラジニルメチル、ジメチルアミノメチル、4−メチルピペラジン−1−イルメチル、4−アミノピペリジン−1−イル−メチル、4−フルオロピペリジン−1−イル−メチル、モルホリノメチル、ピロリジン−1−イルメチル、2−オキソ−4−ベンジルピペラジン−1−イルメチル、4−ベンジルピペラジン−1−イルメチル、3−オキソピペラジン−1−イルメチル、ピペリジン−1−イルメチル、ピペラジン−1−イルエチル、2,3−ジオキソプロピルアミノメチル、チアゾリジン−3−イルメチル、4−アセチルピペラジン−1−イルメチル、4−アセチルピペラジン−1−イル、モルホリノ、3,3−ジフルオロアゼチジン−1−イルメチル、2H−テトラゾール−5−イルメチル、チオモルホリン−4−イルメチル、1−オキソチオモルホリン−4−イルメチル、1,1−ジオキソチオモルホリン−4−イルメチル、1H−イミダゾール−1−イルメチル、3,5−ジメチルピペラジン−1−イルメチル、4−ヒドロキシピペリジン−1−イルメチル、N−メチル(1−アセチルピペリジン−4−イル)−アミノメチル、N−メチルキヌクリジン−3−イルアミノメチル、1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル、1−メチルピペリジン−3−イル−オキシメチル、または4−フルオロピペリジン−1−イルから選択される。
【0075】
上記の定義のいずれかに含まれない範囲内で、「可溶化基」なる語は、また、PCT公報WO 2005026165、WO 2005049602、およびWO 2005033108、および欧州特許公報EP 0343524、EP 0688772、EP 0153163、EP 0159174に開示される1−シクロプロピル−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソキノリン−3−カルボン酸(シプロフロキサシン)およびその誘導体の7位に結合していると開示された基、ならびに米国特許公報2006/0035891に記載の「水溶性化基」を包含する。これらの特許公報の各々の開示は、出典明示により本明細書の一部とされる。
【0076】
本明細書中に開示される化合物は、また、部分的および完全に重水素化した変種を包含する。ある特定の具体例において、1以上の重水素原子が動力学研究のために存在する。当業者は、かかる重水素原子が存在する部位を選択することができる。
【0077】
また、本発明には、本明細書に記載のサーチュイン調節化合物の塩、特に医薬上許容される塩が包含される。十分に酸性、十分に塩基性または両方の官能基を有する本発明の化合物は、いくつかの無機塩基ならびに無機および有機酸のいずれかと反応して塩を形成することができる。別法では、本質的に荷電した化合物、例えば、第4級窒素を有する化合物は、適当な対イオン(例えば、ブロミド、クロリドまたはフルオリドなどのハロゲン化物、特にブロミド)と塩を形成することができる。
【0078】
本明細書に記載の化合物およびその塩は、また、水和物(例えば、半水和物、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物)および該化合物の溶媒和物およびその塩を包含する。溶媒和物および水和物の調製に適当な溶媒は、一般に、当業者によって選択されることができる。
【0079】
化合物およびその塩は、非晶質または結晶(共結晶および多形を包含する)形態で存在することができる。
【0080】
酸付加塩の形成に一般に使用される酸は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸など、および有機酸、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸などである。かかる塩の例は、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリン酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スべリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−ジオエート、ヘキシン−1,6−ジオエート、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ガンマ−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホネート、ナフタレン−2−スルホネート、マンデル酸塩などを包含する。
【0081】
塩基付加塩は、無機塩基例えば、アンモニウムまたはアルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などから得られたものを包含する。本発明の塩の調製に有用なかかる塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸カリウムなどを包含する。
【0082】
別の具体例によると、本発明は、上記サーチュイン調節化合物を製造する方法を提供する。該化合物は、従来の技術を用いて合成されうる。有利には、これらの化合物は、容易に入手可能な出発物質から好都合に合成される。
【0083】
一の具体例において、本発明のある特定の化合物は、下記の方法によって調製される。まず、下記式:
【化12】

[式中、R100は、脱離基、例えば、アルコキシカルボニル(例えば、エトキシカルボニル)で置換されたアルキル(例えば、メチル)基に変換可能な基である]
の化合物を2−脱離基、2’−ニトロアセトフェノン(例えば、2−ハロ、2’−ニトロアサエトフェノン、ここに、ハロは典型的にブロモまたはクロロである)と反応させて、下記化合物:
【化13】

を得る。次いで、該化合物を反応させて−R100を−Rに変換する。−R100がアルコキシカルボキシルである具体例において、該基は典型的にまず、カルボン酸に変換し(例えば、塩基、例えば、アルカリ金属水酸化物、例えば、NaOHまたはKOHを用いて)、次いで、適当な還元剤(例えば、NaBH)を用いてヒドロキシルメチルに還元する。次いで、該基を、ヒドロキシメチル基をRと反応させることによって、[必要に応じ、Rとの反応前にヒドロキシメチル基の反応性を増加させる中間工程(例えば、SOClまたはメタンスルホニルクロリドを用いてヒドロキシメチルをクロロメチルに変換することによって)を経て]Rに変換する。Rの例示的な値は、モルホリンおよび1H−1,2,4−トリアゾールを包含する。これらの工程後、該化合物は下記構造式:
【化14】

によって示される。該ニトロ基を適当な還元剤、例えば、Pd/Hまたは水硫化ナトリウムとの反応によって還元して、下記化合物:
【化15】

を形成する。該化合物を所望のR,R−置換チアゾールカルボン酸(例えば、4−メチル−2−ピリジル−3−イルチアゾールカルボン酸)と、典型的には、触媒化剤(例えば、SOCl)の存在下で反応させて生成化合物を形成する。
【0084】
本明細書中に記載のサーチュイン調節化合物の合成に有用な合成化学変換および方法は、当該分野で知られており、例えば、R. Larock, Comprehensive Organic Transformations (1989)、T. W. GreeneおよびP. G. M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 2d. Ed. (1991)、L. FieserおよびM. Fieser, Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis (1994)、およびL. Paquette編, Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis (1995)に記載されるものを包含する。
【0085】
例示的具体例において、サーチュイン調節化合物は、細胞の細胞質膜を横断しうる。例えば、化合物は、少なくとも約20%、50%、75%、80%、90%または95%の細胞透過性を有しうる。
【0086】
本明細書中に記載のサーチュイン調節化合物は、また、1以上の下記の特徴を有しうる。すなわち、該化合物は本質的に細胞または対象に対して非毒性である。サーチュイン調節化合物は、有機分子であるか、または2000amu以下、1000amu以下の小型分子でありうる。化合物は、通常大気圧条件下で少なくとも約30日、60日、120日、6月または1年の半減期を有しうる。化合物は、溶液中で、少なくとも約30日、60日、120日、6月または1年の半減期を有しうる。サーチュイン調節化合物は、レスベラトロルよりも溶液中で、少なくとも約50%、2倍、5倍、10倍、30倍、50倍または100倍安定でありうる。サーチュイン調節化合物は、DNA修復因子Ku70の脱アセチル化を促進しうる。サーチュイン調節化合物は、RelA/p65の脱アセチル化を促進しうる。化合物は、一般的なターンオーバー速度を増加し、細胞のTNF誘導性アポトーシスに対する感受性を増幅しうる。
【0087】
ある特定の具体例において、サーチュイン調節化合物は、サーチュインのデアセチラーゼ活性を調節するのに有効な(例えば、イン・ビボでの)濃度にて、ヒストンデアセチラーゼ(HDACs)クラスI、HDACクラスII、またはHDACs IおよびIIを阻害する実質的な能力を有しない。例えば、好ましい具体例において、サーチュイン調節化合物は、サーチュイン活性化化合物であり、サーチュインデアセチラーゼ活性の活性化に関して、HDAC Iおよび/またはHDAC IIの阻害に関するEC50よりも少なくも5倍小さい、より好ましくは少なくとも10倍、100倍、または1000倍小さいEC50を有するように選択される。HDAC Iおよび/またはHDAC II活性をアッセイする方法は、当該分野でよく知られており、かかるアッセイを実施するためのキットは、商業的に購入できる。例えば、BioVision, Inc.(Mountain View, CA; world wide web at biovision.com)およびThomas Scientific (Swedesboro, NJ; world wide web at tomassci.com)を参照のこと。
【0088】
ある特定の具体例において、サーチュイン調節化合物は、サーチュインホモログを調節する実質的な能力を有しない。一の具体例において、ヒトサーチュインタンパク質のアクチベーターは、ヒトサーチュインのデアセチラーゼ活性を活性化するのに有効な(例えば、イン・ビボでの)濃度にて、下等真核生物、特に、酵母またはヒト病原菌由来のサーチュインタンパク質を活性化する実質的な能力を有していなくてもよい。例えば、サーチュイン活性化化合物は、ヒトサーチュイン、例えば、SIRT1および/またはSIRT3デアセチラーゼ活性の活性化に関して、酵母サーチュイン、例えば、Sir2(例えば、カンジダ、エス・セレビシエなど)の活性化に関するEC50よりも少なくも5倍小さい、より好ましくは少なくとも10倍、100倍、または1000倍小さいEC50を有するように選択される。別の具体例において、下等真核生物、特に、酵母またはヒト病原菌由来のサーチュインタンパク質の阻害剤は、下等真核生物由来のサーチュインタンパク質のデアセチラーゼ活性を阻害するのに有効な(例えば、イン・ビボでの)濃度にて、ヒト由来のサーチュインタンパク質を阻害する実質的な能力を有しない。例えば、サーチュイン阻害化合物は、ヒトサーチュイン、例えば、SIRT1および/またはSIRT3デアセチラーゼ活性の阻害に関して、酵母サーチュイン、例えば、Sir2(例えば、カンジダ、エス・セレビシエなど)の阻害に関するIC50よりも少なくも5倍小さい、より好ましくは少なくとも10倍、100倍、または1000倍小さいIC50を有するように選択されうる。
【0089】
ある特定の具体例において、サーチュイン調節化合物は、1以上のサーチュインタンパク質ホモログ、例えば、1以上のヒトSIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6またはSIRT7を調節する能力を有しうる。一の具体例において、サーチュイン調節化合物は、SIRT1およびSIRT3タンパク質の両方を調節する能力を有する。
【0090】
一の具体例において、SIRT1モジュレーターは、ヒトSIRT1のデアセチラーゼ活性を調節するのに有効な(例えば、イン・ビボでの)濃度にて、他のサーチュインタンパク質ホモログ、例えば、1以上のヒトSIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、またはSIRT7を調節する実質的な能力を有しない。例えば、サーチュイン調節化合物は、ヒトSIRT1デアセチラーゼ活性の調節に関して、1以上のヒトSIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、またはSIRT7の調節に関するED50より少なくとも5倍小さい、より好ましくは、少なくとも10倍、100倍、または1000倍小さいED50を有するように選択されうる。一の具体例において、SIRT1モジュレーターは、SIRT3タンパク質を調節する実質的な能力を有しない。
【0091】
他の具体例において、SIRT3モジュレーターは、ヒトSIRT3のデアセチラーゼ活性を調節するのに有効な(例えば、イン・ビボでの)濃度にて、他のサーチュインタンパク質ホモログ、例えば、1以上のヒトSIRT1、SIRT2、SIRT4、SIRT5、SIRT6、またはSIRT7を調節する実質的な能力を有しない。例えば、サーチュイン調節化合物は、ヒトSIRT3デアセチラーゼ活性の調節に関して、1以上のヒトSIRT1、SIRT2、SIRT4、SIRT5、SIRT6、またはSIRT7の調節に関するED50より少なくとも5倍小さい、より好ましくは100倍、または1000倍小さいED50を有するように選択されうる。一の具体例において、SIRT3モジュレーターは、SIRT1タンパク質を調節する実質的な能力を有しない。
【0092】
ある特定の具体例において、サーチュイン調節化合物は、サーチュインタンパク質に対し、約10−9M、10−10M、10−11M、10−12Mまたはそれ以下の結合アフィニティーを有しうる。サーチュイン調節化合物は、サーチュインタンパク質のその基質またはNAD+(または他のコファクター)に対する見かけのKmを少なくとも約2、3、4、5、10、20、30、50または100倍減少(アクチベーター)または増加(阻害剤)させうる。ある特定の具体例において、Km値は、本明細書中に記載の質量分析アッセイを用いて決定される。好ましい活性化化合物は、サーチュインのその基質またはコファクターに対するKmを、同様の濃度のレスベラトロルによって引き起こされるよりも、より大きな程度にまで減少させ、またはサーチュインのその基質またはコファクターに対するKmを、より低濃度のレスベラトロルによって引き起こされるのと同様に減少させる。サーチュイン調節化合物は、サーチュインタンパク質のVmaxを少なくとも約2、3、4、5、10、20、30、50または100倍増加させうる。サーチュイン調節化合物は、SIRT1および/またはSIRT3タンパク質のデアセチラーゼ活性の調節に関する約1nM未満、約10nM未満、約100nM未満、約1μM未満、約10μM未満、約100μM未満、または約1−10nM、約10−100nM、約0.1−1μM、約1−10μMまたは約10−100μMのED50を有しうる。サーチュイン調節化合物は、細胞アッセイまたは細胞ベースのアッセイにおいて測定した場合、SIRT1および/またはSIRT3タンパク質のデアセチラーゼ活性を少なくとも約5、10、20、30、50または100倍調節しうる。サーチュイン活性化化合物は、サーチュインタンパク質のデアセチラーゼ活性を同じ濃度のレスベラトロルと比べて少なくとも約10%、30%、50%、80%、2倍、5倍、10倍、50倍、または100倍大きく誘導しうる。サーチュイン調節化合物は、SIRT5の調節に関して、SIRT1および/またはSIRT3の調節に関するED50より少なくとも約10倍、20倍、30倍、50倍大きいED50を有しうる。
【0093】
3.例示的使用
ある特定の態様において、本発明は、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を調節する方法およびその使用方法を提供する。
【0094】
ある特定の具体例において、本発明は、サーチュイン調節化合物がサーチュインタンパク質を活性化する、例えば、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を用いる方法を提供する。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、例えば、細胞寿命の増加、ならびに加齢またはストレスに関連する疾患または障害、糖尿病、肥満、神経変性疾患、心臓血管疾患、血液凝固障害、炎症、癌、および/または紅潮などを包含する幅広く種々の疾患および障害の治療および/または予防を包含する種々の治療的応用に有用でありうる。該方法は、対象に、医薬上有効量のサーチュイン調節化合物、例えば、サーチュイン活性化化合物を投与することを特徴とする。
【0095】
出願人は理論に縛られることを望まないが、本発明のアクチベーターは、サーチュインタンパク質内の同じ位置(例えば、活性部位または活性部位のKmまたはVmaxに影響を及ぼす部位)でサーチュインと相互作用しうると考えられる。そのため、ある特定のクラスのサーチュインアクチベーターおよび阻害剤が実質的な構造類似性を有することができると考えられる。
【0096】
ある特定の具体例において、本明細書中に記載のサーチュイン調節化合物は、単独で用いてもよく、または他の化合物と組み合わせて用いてもよい。一の具体例において、2以上のサーチュイン調節化合物の混合物を対象に投与してもよい。別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を1以上の下記の化合物、すなわち、レスベラトロル、ブテイン、フィセチン、ピセアタノール、またはケルセチンと共に投与してもよい。例示的具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物をニコチン酸と組み合わせて投与してもよい。別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を減少させるサーチュイン調節化合物を1以上の下記化合物、すなわち、ニコチンアミド(NAM)、スラニム;NF023(G−タンパク質アンタゴニスト);NF279(プリン受容体アンタゴニスト);トロロックス(6−ヒドロキシ−2,5,7,8,テトラメチルクロマン−2−カルボン酸);(−)−エピガロカテキンガレート(3,5,7,3’,4’,5’部位にヒドロキシ);(−)−エピガロカテキンガレート(ヒドロキシ部位5,7,3’,4’,5’および部位3にガレートエステル);シアニジンクロリド(3,5,7,3’,4’−ペンタヒドロキシフラビリウムクロリド);デルフィニジンクロリド(3,5,7,3’,4’,5’−ヘキサヒドロキシフラビリウムクロリド);ミリセチン(カンナビスセチン;3,5,7,3’,4’,5’−ヘキサヒドロキシフラボン);3,7,3’,4’,5’−ペンタヒドロキシフラボン;ゴシペチン(3,5,7,8,3’,4’−ヘキサヒドロキシフラボン)、シルチノール;およびスプリトマイシンと共に投与してもよい。また別の具体例において、1以上のサーチュイン調節化合物は、例えば、癌、糖尿病、神経変性疾患、心臓血管疾患、血液凝固、炎症、紅潮、肥満、加齢、ストレスなどを包含する種々の疾患の治療または予防のための1以上の治療剤と共に投与してもよい。種々の具体例において、サーチュイン調節化合物を含む組み合わせ療法は、(1)1以上のサーチュイン調節化合物を1以上の治療剤(例えば、本明細書中に記載の1以上の治療剤)と組み合わせて含む医薬組成物、および(2)1以上のサーチュイン調節化合物と1以上の治療剤との共同投与であって、ここに、サーチュイン調節化合物および治療剤が同じ組成物中に処方されていないもの(しかしながら、同じキットまたはパッケージ、例えば、ブリスターパックまたは他のマルチチャンバーパッケージ、使用者によって分離されることのできる連なった別々に密封された容器(例えば、ホイルパウチ)、またはサーチュイン調節化合物および他の治療剤が別々の容器中にあるキット内に存在していてもよい)を示していてもよい。別々の処方を用いる場合、サーチュイン調節化合物は、別の治療剤の投与と同時に、断続的に、交互に、前後に、またはそれらの組み合わせで投与してもよい。
【0097】
ある特定の具体例において、サーチュイン調節化合物を用いて疾患または障害を減少、予防または治療する方法は、また、サーチュイン、例えば、ヒトSIRT1、SIRT2および/またはSIRT3、またはそのホモログのタンパク質レベルを増加させることを含む。タンパク質レベルの増加は、サーチュインをコードする核酸の1以上のコピーを細胞中に導入することによって達成できる。例えば、サーチュインのレベルは、サーチュインをコードしている核酸を哺乳動物細胞中に導入することによって、例えば、GenBank Accession No. NP 036370に示されるアミノ酸配列をコードしている核酸を導入することによってSIRT1レベルを増加させ、および/またはGenBank Accession No. AAH01042に示されるアミノ酸配列をコードしている核酸を導入することによってSIRT3レベルを増加させることによって、哺乳動物細胞中で増加させることができる。
【0098】
サーチュインのタンパク質レベルを増加させるために細胞中に導入される核酸は、サーチュイン、例えば、SIRT1および/またはSIRT3タンパク質の配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%または99%同一のタンパク質をコードしうる。例えば、該タンパク質をコードする核酸は、SIRT1(例えば、GenBank Accession No. NM 012238)および/またはSIRT3(例えば、GenBank Accession No. BC001042)タンパク質をコードしている核酸と少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%または99%同一であってもよい。該核酸は、また、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、野生型サーチュイン、例えば、SIRT1および/またはSIRT3タンパク質をコードしている核酸にハイブリダイズする核酸であってもよい。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーションおよび65℃にて0.2 x SSC中での洗浄を含みうる。野生型サーチュインタンパク質と異なるタンパク質、例えば、野生型サーチュインのフラグメントであるタンパク質をコードする核酸を用いる場合、該タンパク質は、好ましくは、生物学的に活性であり、例えば、脱アセチル化が可能である。細胞中、生物学的に活性なサーチュインの一部を発現すれば足りる。例えば、GenBank Accession No. NP 036370を有する野生型SIRT1と異なるタンパク質は、好ましくは、そのコア構造を含有する。該コア構造は、時々、GenBank Accession No. NP 036370のアミノ酸62−293を示し、GenBank Accession No. NM 012238のヌクレオチド237〜932によってコードされており、それは、NAD結合ならびに基質結合ドメインを包含する。SIRT1のコアドメインは、また、GenBank Accession No. NM 012238のヌクレオチド834〜1394によってコードされるGenBank Accession No. NP 036370のアミノ酸約261〜447;GenBank Accession No. NM 012238のヌクレオチド777〜1532によってコードされるGenBank Accession No. NP 036370のアミノ酸約242〜493、またはGenBank Accession No. NM 012238のヌクレオチド813〜1538によってコードされるGenBank Accession No. NP 036370のアミノ酸約254〜495を示していてもよい。タンパク質が生物学的機能、例えば脱アセチル化能を保持するか否かは、当該分野で既知の方法にしたがって決定できる。
【0099】
ある特定の具体例において、サーチュイン調節化合物を用いて疾患または障害を減少、予防または治療する方法は、また、サーチュイン、例えば、ヒトSIRT1、SIRT2および/またはSIRT3、またはそのホモログのタンパク質レベルを減少させることを含んでいてもよい。サーチュインタンパク質レベルの減少は、当該分野で既知の方法にしたがって達成できる。例えば、siRNA、アンチセンス核酸またはサーチュインを標的とするリボザイムを細胞中に発現させることができる。また、ドミナント・ネガティブ・サーチュイン変異体、例えば、脱アセチル化できない変異体を用いてもよい。例えば、変SIRT1の変異体H363Y(例えば、Luoら、(2001) Cell 107:137に記載される)を用いることができる。別法では、転写を阻害する剤を使用することができる。
【0100】
サーチュインタンパク質レベルを調節する方法は、また、サーチュインをコードしている遺伝子の転写を調節する方法、対応するmRNAsを安定化/脱安定化する方法、および当該分野で既知の他の方法を包含する。
【0101】
加齢/ストレス
一の具体例において、本発明は、細胞と、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加する本発明のサーチュイン調節化合物とを接触させることによって、細胞寿命を延長、細胞の増殖能力を延長、細胞加齢を減速、細胞生存を促進、細胞における細胞老化を遅延、カロリー制限効果を模倣、細胞のストレス耐性を増加、または細胞のアポトーシスを予防する方法を提供する。例示的具体例において、該方法は、細胞とサーチュイン調節化合物との接触を特徴とする。
【0102】
本明細書中に記載の方法は、細胞、特に一次細胞(すなわち、生物、例えば、ヒトから得られる細胞)が細胞培養中で生き続ける時間量を増加させるために用いられうる。胚性幹(ES)細胞および多能性細胞、およびそこから分化した細胞もまた、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物で処理して、該細胞またはその子孫を培養中でより長期間維持しうる。かかる細胞は、また、例えば、生体外修飾後、対象中に移植するために使用することもできる。
【0103】
一の具体例において、長期間保存する目的の細胞をサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物で処理してもよい。該細胞は、懸濁(例えば、血液細胞、血清、生物学的成長培地など)中、または組織もしくは器官中にあってもよい。例えば、輸血の目的で個体から収集した血液をサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物で処理して血液細胞を長期間保存してもよい。さらに、法医学的な目的で使用されるべき血液をサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を用いて保存してもよい。その寿命を延長するため、またはアポトーシスに対して保護するために処理されうる他の細胞は、消費目的の細胞、例えば、非ヒト哺乳動物(例えば、肉)由来の細胞または植物細胞(例えば、野菜)を包含しうる。
【0104】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、例えば、発達および/または成長過程を変化、遅延または促進するために、哺乳動物、植物、昆虫または微生物における発達および成長段階の間に適用してもよい。
【0105】
別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、例えば、固形組織移植片、器官移植、細胞懸濁、幹細胞、骨髄細胞などを包含する移植または細胞療法に有用な細胞を処理するために使用してもよい。該細胞または組織は、自家移植片、同種異系移植片、同種移植片または異種移植片であってもよい。対象中への投与/移植前、投与/移植と同時、および/または投与/移植後に、該細胞または組織をサーチュイン調節化合物で処理してもよい。ドナー個体から細胞を除去する前、ドナー個体から細胞または組織を除去した後に生体外で、またはレシピエント中への移植後に、該細胞または組織を処理してもよい。例えば、ドナーまたはレシピエント個体は、サーチュイン調節化合物で全身的に処理してもよく、またはサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物で局所的に処理した細胞/組織の細部セットを有していてもよい。ある特定の具体例において、細胞または組織(またはドナー/レシピエント個体)は、さらに、移植片生存を延長するために有用な別の治療剤、例えば、免疫抑制剤、サイトカイン、血管新生因子などで処理してもよい。
【0106】
また別の具体例において、例えば、細胞寿命を増加またはアポトーシスを防止するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物で細胞をイン・ビボで処理してもよい。例えば、皮膚または表皮細胞をサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物で処理することによって、皮膚を加齢(例えば、しわの発現、弾力性の喪失など)から保護することができる。例示的具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を含む医薬組成物または美容組成物と皮膚を接触させる。本明細書中に記載の方法にしたがって処理されうる例示的な皮膚の苦痛または皮膚の状態は、炎症、日焼けによる損傷または自然な加齢に関連するか、またはそれらにより引き起こされた障害または疾患を包含する。例えば、該組成物は、接触皮膚炎(刺激性接触皮膚炎およびアレルギー性接触皮膚炎を包含する)、アトピー性皮膚炎(アレルギー性湿疹としても知られる)、光線性角化症、角質化障害(湿疹を包含する)、表皮水疱症(天疱瘡(penfigus)を包含する)、剥脱性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、紅斑(多形性紅斑および結節性紅斑を包含する)、太陽また他の光源によって引き起こされる損傷、円板状エリテマトーデス、皮膚筋炎、乾癬、皮膚癌および自然な加齢の影響の予防または治療において有用性が見出される。別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、治癒を促進するために、例えば、一度、二度または三度の火傷および/または熱傷、化学火傷または電気火傷を包含する創傷および/または火傷の治療に用いてもよい。該処方は、皮膚または粘膜組織に局所的に投与すればよい。
【0107】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加する1以上のサーチュイン調節化合物を含む局所的処方は、また、予防組成物、例えば、化学予防組成物として使用してもよい。化学予防法において使用される場合、特定の個体におけるいずれかの視覚的な状態の前に感受性の皮膚を処理する。
【0108】
サーチュイン調節化合物は、局所的または全身的に対象にデリバリーすればよい。一の具体例において、サーチュイン調節化合物は、注射、局所的処方などによって、対象の組織または器官に局所的にデリバリーする。
【0109】
別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、対象における細胞老化によって誘導されるかまたは悪化される疾患または状態の治療または予防、例えば老化発症後に、対象の老化速度を減少させる方法、対象の寿命を延長する方法、寿命に関連する疾患または状態を治療または予防する方法、細胞の増殖能に関連する疾患または状態を治療または予防する方法、および細胞損傷または死に由来する疾患または状態を治療または予防する方法に使用されうる。ある特定の具体例において、該方法は、対象の寿命を短縮する疾患の発生率を減少することによって作用するものではない。ある特定の具体例において、方法は、疾患、例えば、癌によって引き起こされる死亡率を減少させることによって作用するものではない。
【0110】
また別の具体例において、細胞の寿命を一般的に増加させるために、およびストレスおよび/またはアポトーシスに対して細胞を保護するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を対象に投与してもよい。本明細書中に記載の化合物での対象の処理は、対象をホルメシスに付すこと、すなわち、生物に有益であり、かつ、その寿命を延長しうる穏やかなストレスに対象を付すことに似ていると考えられる。
【0111】
加齢および加齢に関連する結果または疾患、例えば、卒中、心臓病、心不全、関節炎、高血圧、およびアルツハイマー病を予防するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を対象に投与してもよい。治療可能な他の状態は、眼疾患、例えば、眼の加齢に関連する眼疾患、例えば、白内障、緑内障、および黄斑変性症を包含する。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、疾患、例えば、細胞死に関連した慢性疾患の治療のために対象に投与して、細胞を細胞死から保護することもできる。例示的疾患には、神経細胞死、神経機能障害、または筋肉細胞死もしくは機能障害に関連するもの、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、および筋ジストロフィー;AIDS;劇症肝炎;脳の変性に関連する疾患、例えば、クロイツフェルド−ヤコブ病、網膜色素変性症および小脳変性症;骨髄異形症(myelodysplasis)、例えば、無形成性貧血;虚血性疾患、例えば、心筋梗塞および卒中;肝疾患、例えば、アルコール性肝炎、B型肝炎およびC型肝炎;関節疾患、例えば、骨関節炎;アテローム性動脈硬化症;脱毛症;UV光による皮膚の損傷;扁平苔癬;皮膚の萎縮;白内障;および移植片拒絶を包含する。細胞死は、また、手術、薬物療法、化学物質曝露または放射線曝露によって引き起こされることもある。
【0112】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、急性疾患、例えば、器官または組織への損傷を患っている対象、例えば、卒中または心筋梗塞を患っている対象あるいは骨髄損傷を患っている対象に投与することもできる。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、アルコール性肝臓の修復に使用してもよい。
【0113】
心臓血管疾患
別の具体例において、本発明は、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を対象に投与することによって、心臓血管疾患を治療および/または予防する方法を提供する。
【0114】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を用いて治療または予防されることのできる心臓血管疾患には、心筋ミオパチーまたは心筋炎、例えば、特発性心筋ミオパチー、代謝性心筋ミオパチー、アルコール性心筋ミオパチー、薬物誘導性心筋ミオパチー、虚血性心筋ミオパチー、および高血圧性心筋ミオパチーがある。また、主要血管、例えば、大動脈、冠動脈、頸動脈、脳血管動脈、腎動脈、腸骨動脈、大腿動脈、および膝窩動脈のアテローム性障害(大血管性疾患)も、本明細書中に記載の化合物および方法を用いて治療可能または予防可能である。治療または予防可能な他の血管疾患は、血小板凝集、網膜細動脈、糸球体細動脈、神経の脈管、心臓細動脈に関連する疾患、および眼の毛細血管床、腎臓、心臓、および中枢および末梢神経系に関連する疾患を包含する。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、個体の血漿中のHDLレベル増加に用いてもよい。
【0115】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物で治療されうる他の障害は、再狭窄、例えば、冠状動脈インターベンション後の再狭窄、および異常なレベルの高密度および低密度コレステロールに関連する障害を包含する。
【0116】
一の具体例において、別の心臓血管剤との組み合わせ治療の一部として、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を投与してもよい。一の具体例において、抗不整脈剤との組み合わせ治療の一部として、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を投与してもよい。別の具体例において、別の心臓血管剤との組み合わせ治療の一部としてサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を投与してもよい。
【0117】
細胞死/癌
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、放射線または毒素を最近受けたまたは受けようとしている対象に投与してもよい。一の具体例において、放射線または毒素の投与量は、仕事に関連した処置または医学的処置の一部として受け、例えば、予防対策として投与される。別の具体例において、放射線または毒素への曝露は、故意ではなく受ける。かかる場合、好ましくは、曝露後できるだけ早くに該化合物を投与して、アポトーシスおよびその後の急性放射線症候群の発症を阻害する。
【0118】
サーチュイン調節化合物は、また、癌の治療および/または予防のために使用してもよい。ある特定の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を癌の治療および/または予防に使用してもよい。カロリー制限は、癌を包含する加齢に関連した障害の発病率の減少に関連している。したがって、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性の増加は、加齢に関連した障害、例えば、癌の発病率を治療および/または予防するのに有用でありうる。サーチュイン調節化合物を用いて治療されうる例示的癌は、脳および腎臓のもの;乳癌、前立腺癌、精巣癌および卵巣癌を包含するホルモン依存性癌;リンパ腫、および白血病である。充実性腫瘍に関連する癌において、調節化合物は、腫瘍に直接投与してもよい。血液細胞の癌、例えば、白血病は、調節化合物を血流中または骨髄中に投与することによって治療できる。良性細胞成長、例えば、疣贅も治療することができる。治療可能な他の疾患は、自己免疫疾患、例えば、自己免疫細胞が除去されるべき全身性エリテマトーデス、強皮症、および関節炎を包含する。ウイルス性感染、例えば、ヘルペス、HIV、アデノウイルス、およびHTLV−1関連悪性および良性障害もまた、サーチュイン調節化合物の投与によって治療できる。別法では、細胞を対象から得、生体外で治療して特定の望ましくない細胞、例えば、癌細胞を除去し、同じまたは異なる対象に戻すことができる。
【0119】
化学療法剤は、本明細書中に抗癌活性を有すると記載される調節化合物、例えば、アポトーシスを誘導する化合物、寿命を減少させる化合物、または細胞をストレス感受性にする化合物と共に投与してもよい。化学療法剤は、それら自体によって、本明細書中に細胞死を誘導または寿命を減少またはストレスに対する感受性を増加すると記載されたサーチュイン調節化合物と共に単独で、および/または他の化学療法剤と組み合わせて、使用してもよい。従来の化学療法剤のほかに、本明細書中に記載のサーチュイン調節化合物は、また、アンチセンスRNA、RNAiまたは望まれない細胞増殖に寄与する細胞成分の発現を阻害するための他のポリヌクレオチドと共に使用してもよい。
【0120】
サーチュイン調節化合物および従来の化学療法剤を含む組み合わせ治療は、該組み合わせは従来の化学療法剤により低投与量でより大きな効果を発揮させるので、当該分野で既知の組み合わせ治療を超えて有益でありうる。好ましい具体例において、化学療法剤または従来の化学療法剤の組み合わせの有効投与量(ED50)は、サーチュイン調節化合物と組み合わせて使用される場合、化学療法剤単独の場合のED50よりも少なくとも2倍小さく、より好ましくは5倍、10倍、または25倍も小さい。逆に言えば、かかる化学療法剤またはかかる化学療法剤との組み合わせの治療指数(TI)は、本明細書中に記載のサーチュイン調節化合物と組み合わせて使用して場合、化学療法剤単独の場合のTIよりも少なくとも2倍大きく、より好ましくは5倍、10倍または25倍も大きい。
【0121】
神経疾患/障害
ある特定の態様において、神経変性疾患、および中枢神経系(CNS)、脊髄または末梢神経系(PNS)に対する外傷または機械的傷害を患っている患者を治療するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を使用することができる。神経変性疾患は、典型的には、脳細胞の萎縮および/または死に起因しうるヒトの脳の質量および容量の減少を含み、それらは、健康な人における加齢に起因するよりも遙かに根深い。神経変性疾患は、長期間の正常な脳機能の後、特定の脳領域の進行性の変性(例えば、神経細胞機能不全および死)のために、徐々に生じることがある。別法では、神経変性疾患は、例えば、外傷または毒素に関連する疾患など、迅速に発症することもある。脳変性の急性発症は、何年も臨床上の発現に先立つ場合もある。神経変性疾患の例は、限定するものではないが、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS;ルーゲーリック病)、広汎性レヴィー小体病、舞踏病−有棘赤血球病、原発性側索硬化症、眼疾患(眼神経炎)、化学療法誘導性ニューロパシー(例えば、ビンクリスチン、パクリタキセル、ボルテゾミブ由来)、糖尿病誘導性ニューロパシー、およびフリードライヒ失調症を包含する。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、これらの障害および下記の他の障害を治療するために使用することができる。
【0122】
ADは、記憶喪失、異常行動、人格変化、および思考能力の低下をもたらすCNS障害である。これらの喪失は、特定の型の脳細胞の死およびそれらの間の結合および支持ネットワーク(例えば、グリア細胞)の崩壊に関連する。最も初期の症状は、最近の記憶の喪失、誤った判断、および人格変化を包含する。PDは、制御されない身体運動、硬直、震えおよび運動異常をもたらすCNS障害であり、ドーパミンを産生する脳の領域における脳細胞の死に関連する。ALS(運動ニューロン疾患)は、運動ニューロン、脳を骨格筋に連結するCNSの成分を攻撃するCNS障害である。
【0123】
HDは、制御されない運動、知能の喪失、および情緒不安定を引き起こす別の神経変性疾患である。テイ・サックス疾患およびサンドホッフ疾患は、GM2ガングリオシドおよびβ−ヘキソサミニダーゼの関連する糖脂質基質が神経系に蓄積し、急性の神経変性を引き起こす糖脂質蓄積疾患である。
【0124】
アポトーシスは、免疫系におけるAIDS病因において役割を果たすことがよく知られている。しかしながら、HIV−1は、また、神経学的疾患も包含し、それは、本発明のサーチュイン調節化合物で治療することができる。
【0125】
ニューロン喪失は、また、ヒトのクロイツフェルド−ヤコブ病、ウシのBSE(狂牛病)、ヒツジおよびヤギのスクレイピー病、およびネコの猫海綿状脳症(FSE)などのプリオン病の顕著な特徴でもある。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、これらの先の疾患が原因のニューロン喪失を治療または予防するのに有用でありうる。
【0126】
別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、軸索変性症を含むいずれかの疾患または障害を治療または予防するために使用してもよい。遠位の軸索変性症は、末梢神経系(PNS)ニューロンのいくらかの代謝性または毒性異常から生じる一種の末梢性ニューロパシーである。それは、代謝性または毒性障害に対する神経の最も一般的な応答であり、それ自体、糖尿病、腎不全、不全症候群、例えば、栄養不良およびアルコール中毒、または毒物もしくは薬物の影響などの代謝性疾患によって引き起こされうる。遠位軸索変性症患者は、通常、対称的な手袋−靴下型の知覚−運動障害を呈する。深部腱反射および自律神経系(ANS)機能もまた、患部において喪失または減少する。
【0127】
糖尿病性ニューロパシーは、真性糖尿病に関連するニューロパシー障害である。糖尿病性ニューロパシーに関連しうる比較的一般的な状態は、第3神経麻痺、単発ニューロパシー、多発性単神経炎、糖尿病性筋萎縮症、痛みを伴う多発ニューロパシー、自律性ニューロパシー、および胸腹部ニューロパシーを包含する。
【0128】
末梢性ニューロパシーは、末梢神経系の神経損傷のための医学用語であり、神経疾患によって引き起こされるか、または全身病の副作用から引き起こされうる。末梢性ニューロパシーの主要な原因は、発作、栄養不足、およびHIVを包含するが、糖尿病が最も可能性の高い原因である。
【0129】
例示的具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、再発性MSおよび単一症状性MSを包含する多発性硬化症(MS)、および他の脱髄性状態、例えば、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、またはそれに関連する症状を治療または予防するために使用してもよい。
【0130】
また別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、疾患が原因の外傷、傷害(手術的介入を包含する)、または環境的外傷(例えば、神経毒、アルコール中毒など)を包含する神経外傷を治療するために使用してもよい。
【0131】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、種々のPNS障害を予防、治療および改善するのに有用でありうる。「末梢性ニューロパシー」なる語は、脳および脊髄の外側の神経−末梢神経が損傷を受けている幅広い範囲の障害を含む。末梢性ニューロパシーは、また、末梢性神経炎ともいい、多くの神経が関与する場合、多発ニューロパシーまたは多発性神経炎なる語を使用してもよい。
【0132】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物で治療可能なPNS疾患は、糖尿病、ライ病、シャルコー・マリー・ツース病、ギラン・バレー症候群および腕神経叢ニューロパシー(腕神経叢の頚部および第一胸根、神経幹、索、および末梢神経成分の疾患)を包含する。
【0133】
別の具体例において、サーチュイン活性化化合物は、ポリグルタミン病を治療または予防巣ために使用してもよい。例示的なポリグルタミン病は、球脊髄性筋萎縮症(ケネディー病)、ハンチントン病(HD)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(ハウ・リバー症候群)、脊髄小脳失調1型、脊髄小脳失調2型、脊髄小脳失調3型(マチャド−ジョセフ病)、脊髄小脳失調6型、脊髄小脳失調7型、および脊髄小脳失調17型を包含する。
【0134】
ある特定の具体例において、本発明は、細胞への血流減少に応答する損傷を予防するために、中枢神経系細胞を治療する方法を提供する。典型的には、予防されうる損傷の重篤度は、大部分、細胞への血流減少の度合いおよび減少存続期間に依存するであろう。一の具体例において、アポトーシスまたはネクローシスによる細胞死を予防しうる。またさらなる具体例において、虚血媒介性損傷、例えば、細胞毒性浮腫または中枢神経系組織無酸素血症を予防しうる。各具体例において、中枢神経系細胞は、脊髄細胞または脳細胞であってもよい。
【0135】
別の態様は、中枢神経系虚血状態を治療するために、サーチュイン活性化化合物を対象に投与することを含む。多くの中枢神経系虚血状態は、本明細書中に記載のサーチュイン活性化化合物によって治療されうる。一の具体例において、虚血状態は、いずれかの型の虚血性中枢神経系損傷、例えば、アポトーシスまたはネクローシスによる細胞死、細胞毒性浮腫または中枢神経系組織無酸素血症をもたらす卒中である。卒中は、脳のいずれかの領域に影響を与えうるか、または卒中の発生をもたらすことが一般に知られているいずれかの病因によって引き起こされうる。該具体例の別の例において、卒中は脳幹卒中である。別の具体例において、卒中は、小脳卒中である。また別の具体例において、卒中は、塞栓性卒中である。また別の具体例において、卒中は、出血性卒中であってもよい。さらなる具体例において、卒中は血栓性卒中である。
【0136】
また別の態様において、サーチュイン活性化化合物は、中枢神経系虚血性状態後に、虚血中心部の梗塞サイズを減少させるために投与してもよい。さらに、サーチュイン活性化化合物は、また、中枢神経系虚血性状態後に、虚血周縁部または移行ゾーンのサイズを減少させるために有益に投与されうる。
【0137】
一の具体例において、組み合わせ薬物療法は、神経変性障害またはこれらの障害に関連した二次的状態を治療または予防するための薬物または化合物を包含しうる。かくして、組み合わせ薬物療法は、1以上のサーチュインアクチベーターおよび1以上の抗神経変性剤を包含しうる。
【0138】
血液凝固障害
他の態様において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、血液凝固障害(または止血障害)を治療または予防するために使用することができる。本明細書中で相互に交換可能に使用される場合、「止血」、「血液凝固(coagulation)」および「血液凝固(clotting)」なる語は、出血の調節を示し、血管収縮および凝固の生理学的特性を包含する。血液凝固は、傷害、炎症、疾患、先天性欠損症、機能不全または他の崩壊後の哺乳動物血液循環の完全性を維持する助けとなる。さらに、血餅の形成は、傷害の場合の出血を制限する(止血)だけでなく、重要な動脈または静脈の閉塞によってアテローム性動脈硬化症との関連で重大な器官損傷および死を導きうる。かくして、血栓症は、良くない時期および場所での血餅形成である。
【0139】
したがって、本発明は、血液凝固障害、例えば、心筋梗塞、卒中、末梢動脈疾患または肺塞栓による手足の喪失を予防または治療するために、血餅の形成を阻害する目的で抗凝固および抗血栓症治療を提供する。
【0140】
本明細書中で相互に交換可能に使用される場合、「止血の調節(modulation)」および「止血の調節(regulation)」なる語は、止血の誘導(例えば、刺激または増加)、ならびに止血の阻害(例えば、減少)を包含する。
【0141】
一の態様において、本発明は、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を投与することによって、対象において止血を減少または阻害する方法提供する。本明細書中に開示される組成物および方法は、血栓障害の治療または予防に有用である。本明細書中で使用される場合、「血栓障害」なる語は、過剰または望まれない凝固または止血活性あるいは凝固高進状態によって特徴付けられるいずれもの障害または状態を包含する。血栓障害は、血小板付着および血栓形成を伴う疾患または障害を包含し、血栓形成傾向の増加として、例えば、血栓数の増加、若年齢での血栓症、血栓症に対する家族性傾向、および異常な部位での血栓症として発現しうる。
【0142】
別の具体例において、組み合わせ薬物療法は、血液凝固障害またはこれらの状態に関連した二次的状態を治療または予防するための薬物または化合物を含んでいてもよい。かくして、組み合わせ薬物療法は、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加する1以上のサーチュイン調節化合物および1以上の抗凝固または抗血栓症剤を含んでいてもよい。
【0143】
体重調節
別の態様において、対象における体重増加または肥満を治療または予防するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を使用してもよい。例えば、遺伝性肥満、食事性肥満、ホルモン関連肥満、薬物投与に関連した肥満を治療または予防するために、対象の体重を減少させるために、または対象における体重増加を減少または予防するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を使用してもよい。かかる治療の必要な対象は、肥満した対象、肥満になりそうな対象、標準体重を超えた対象、または標準体重を超えそうな対象であってもよい。肥満になりそうな、または標準体重を超えそうな対象は、例えば、家族歴、遺伝、食事、活動レベル、薬物摂取、または種々のその組み合わせに基づいて、同定することができる。
【0144】
また他の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、対象における体重喪失を促進することによって治療または予防されうる種々の他の疾患および状態を患っている対象に投与してもよい。かかる疾患は、例えば、高血圧、高血中コレステロール、脂質異常症、2型糖尿病、インスリン耐性、耐糖性異常、高インスリン血症、冠状動脈性心疾患、狭心症、鬱血性心不全、卒中、胆石、胆嚢炎および胆石症、痛風、骨関節炎、閉塞性睡眠時無呼吸および呼吸障害、いくつかの種類の癌(例えば、子宮内膜癌、乳癌、前立腺癌、および結腸癌)、妊娠合併症、女性生殖健康障害(例えば、生理不順、不妊症、異常排卵)、膀胱抑制障害(例えば、緊張性尿失禁)、尿酸性腎石症、精神学的障害(例えば、鬱病、摂食障害、歪んだ身体イメージ、および低い自己評価)を包含する。最終的に、AIDS患者は、AIDSの組み合わせ療法に応答してリポジストロフィーまたはインスリン耐性を発症することがある。
【0145】
別の具体例において、イン・ビトロまたはイン・ビボであっても、脂質生成または脂肪細胞分化を阻害するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を使用してもよい。かかる方法は、肥満の治療または予防に用いてもよい。
【0146】
他の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、食欲減少および/または満腹増加のために使用してもよく、それにより、体重喪失を引き起こすか、または体重増加の回避を引き起こす。かかる治療が必要な対象は、標準体重を超えた対象、肥満の対象または標準体重超過または肥満になりそうな対象であってもよい。該方法は、毎日、または1日おきに、または週1回、丸薬の形態で投与量を対象に投与することを含んでいてもよい。該投与量は、「食欲減少量」であってもよい。
【0147】
例示的具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、体重増加または肥満を治療または予防するための組み合わせ療法として投与してもよい。例えば、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加する1以上のサーチュイン調節化合物を1以上の抗肥満剤と組み合わせて投与してもよい。
【0148】
別の具体例において、薬物誘導性体重増を減少するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を投与してもよい。例えば、食欲を刺激しうるか、または体重増加を引き起こしうる、特に、水分保持以外の因子による体重増加を引き起こしうる薬物療法との組み合わせ療法として、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を投与してもよい。
【0149】
代謝障害/糖尿病
別の具体例において、代謝障害、例えば、インスリン耐性、前糖尿病状態、II型糖尿病、および/またはその合併症を治療または予防するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を使用してもよい。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物の投与は、対象におけるインスリン感受性を増加し、および/またはインスリンレベルを減少しうる。かかる治療を必要とする対象は、インスリン耐性またはII型糖尿病の他の前症状を有する患者、II型糖尿病患者、またはこれらの状態のいずれかを発症しそうな対象であってもよい。例えば、対象は、インスリン耐性を有する対象であってもよく、例えば、インスリンの高循環レベルおよび/または関連状態、例えば、脂質異常症、異常脂質生成、高コレステロール血症、耐糖性異常、高血糖値、シンドロームXの他の兆候、高血圧、アテローム性動脈硬化症およびリポジストロフィーを有する対象であってもよい。
【0150】
例示的具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、代謝障害を治療または予防するための組み合わせ療法として投与してもよい。例えば、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加する1以上のサーチュイン調節化合物を1以上の抗糖尿病剤と組み合わせて投与してもよい。
【0151】
炎症性疾患
他の態様において、炎症に関連する疾患または障害を治療または予防するために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を使用することができる。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、炎症の発症前、炎症の開始時または炎症の開始後に投与してもよい。予防的に使用する場合、該化合物は、好ましくは、いずれかの炎症性応答または症状に前もって提供される。該化合物の投与は、炎症応答または症状を予防または減弱しうる。
【0152】
別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、喘息、気管支炎、肺線維症アレルギー性鼻炎、酸素中毒、気腫、慢性気管支炎、急性呼吸窮迫症候群、およびいずれかの慢性閉塞性肺疾患(COPD)を包含するアレルギーおよび呼吸疾患を治療または予防するために使用してもよい。該化合物は、B型肝炎およびC型肝炎を包含する慢性肝炎感染を治療するために使用してもよい。
【0153】
さらに、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、自己免疫疾患および/または自己免疫疾患に関連する炎症、例えば、器官−組織自己免疫疾患(例えば、レイノー症候群)、強皮症、重症筋無力症、移植拒絶、内毒素ショック、肺血症、感染、浮腫、皮膚炎、多発硬化症、自己免疫甲状腺炎、ブドウ膜炎、全身性紅斑性エリテマトーデス、アジソン病、多腺性自己免疫疾患(多腺性自己免疫症候群ともいう)、およびグレーブ病を治療するために使用してもよい。
【0154】
ある特定の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加する1以上のサーチュイン調節化合物を単独で用いてもよく、または炎症を治療または予防するために有用な他の化合物と組み合わせて用いてもよい。
【0155】
紅潮
別の態様において、障害の症状である紅潮および/またはホットフラッシュの発生率または重症度を減少させるために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を使用してもよい。例えば、対象の方法は、癌患者の紅潮および/またはホットフラッシュの発生率または重症度を減少させるために、単独または他の剤と組み合わせたサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物の使用を含む。他の具体例において、該方法は、更年期および閉経後の女性における紅潮および/またはホットフラッシュの発生率または重症度を減少させるために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物の使用を提供する。
【0156】
別の態様において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、薬物療法の副作用である紅潮および/またはホットフラッシュ、例えば、薬物誘導性の紅潮の発生率または重症度を減少させるための治療として使用してもよい。ある特定の具体例において、薬物誘導性の紅潮を治療および/または予防する方法は、その患者に、少なくとも1つの紅潮誘導化合物および少なくとも1つのサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物を含む処方を投与することを含む。他の具体例において、薬物誘導性の紅潮の治療方法は、1以上の紅潮を誘導する化合物および1以上のサーチュイン調節化合物を別々に投与することを含む。例えば、サーチュイン調節化合物および紅潮誘導剤は同じ組成物中に処方されていない。別々の処方を用いる場合、サーチュイン調節化合物は、(1)紅潮誘導剤の投与と同時、(2)紅潮誘導剤と間欠的に、(3)紅潮誘導剤の投与に対して時差的に、(4)紅潮誘導剤の投与前に、(5)紅潮誘導剤の投与に続いて、および(6)その種々の組み合わせで投与してもよい。例示的な紅潮誘導剤は、例えば、ナイアシン、ファロキシフェン、抗鬱剤、抗精神病剤、化学療法剤、カルシウムチャネルブロッカー、および抗生物質を包含する。
【0157】
一の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、血管拡張剤または脂質異常症治療剤(高コレステロール血症剤および抗脂肝剤を包含する)の紅潮副作用を減少させるために使用してもよい。例示的具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、ナイアシン投与に関連する紅潮を減少させるために使用してもよい。
【0158】
別の具体例において、本発明は、紅潮副作用を減少した脂質異常症を治療および/または予防する方法を提供する。別の代表的な具体例において、該方法は、ラロキシフェンの紅潮副作用を減少させるために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物の使用を含む。別の代表的具体例において、該方法は、抗鬱剤または抗精神病剤の紅潮副作用を減少させるために、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物の使用を含む。例えば、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、セロトニン再取込阻害剤、または5HT2受容体アンタゴニストと共に(別々または一緒に投与して)使用することができる。
【0159】
ある特定の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、紅潮を減少させるために、セロトニン再取込阻害剤(SRI)での治療の一部として使用してもよい。また別の代表的具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、化学療法剤、例えば、シクロホスファミドおよびタモキシフェンの紅潮副作用を減少させるために使用してもよい。
【0160】
別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、カルシウムチャネルブロッカー、例えば、アムロジピンの紅潮副作用を減少させるために使用してもよい。
【0161】
別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、抗生物質の紅潮副作用を減少させるために使用してもよい。例えば、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、レボフロキサシンと組み合わせて使用することができる。
【0162】
眼障害
本発明の一の態様は、本明細書中に開示される化合物から選択されるサーチュインモジュレーターまたはその医薬上許容される塩、プロドラッグもしくは代謝誘導体の治療的投与量を患者に投与することによる、視力障害を阻害、減少あるいは治療する方法である。
【0163】
本発明のある特定の態様において、視力障害は、眼神経または中枢神経系への損傷によって引き起こされる。特定の具体例において、眼神経損傷は、例えば、緑内障によって生じるような、高い眼圧によって引き起こされる。他の特定の具体例において、眼神経損傷は、しばしば視神経炎におけるような感染または免疫(例えば、自己免疫)応答に関連する神経の膨張によって引き起こされる。
【0164】
本発明のある特定の態様において、視力障害は、網膜損傷によって引き起こされる。特定の具体例において、網膜損傷は、眼への血流障害(例えば、動脈硬化、脈管炎)によって引き起こされる。特定の具体例において、網膜損傷は、斑の崩壊(例えば、滲出性または非滲出性の黄斑変性)によって引き起こされる。
【0165】
例示的な網膜疾患は、滲出性加齢黄斑変性、非滲出性加齢黄斑変性、網膜電子的プロテーゼおよびRPE移植加齢黄斑変性、急性多発性小板状色素上皮症、急性網膜壊死、ベスト病、網膜動脈分枝閉塞症、癌関連自己免疫網膜症、網膜中心動脈閉塞、中心性漿液性脈絡網膜症、イーレス(Eales)病、黄斑上膜、格子様変性、動脈瘤、糖尿病性黄斑浮腫、アーヴィン・ガス黄斑浮腫、黄斑円孔、網膜下新生血管膜、広汎性片側性亜急性神経網膜炎、非偽水晶体類嚢胞黄斑浮腫、推定の眼ヒストプラスマ症候群、滲出性網膜剥離、術後網膜剥離、増殖性網膜剥離、裂孔原性網膜剥離、牽引性網膜剥離、網膜色素変性、CMV網膜炎、網膜芽腫、未熟児網膜症、バードショット網膜症、バックグラウンド糖尿病性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、異常ヘモグロビン症網膜症、プルチェル網膜症、バルサルバ網膜症、若年性網膜分離症、老年性網膜分離症、テルソン症候群および白点症候群を包含する。
【0166】
他の例示的疾患は、眼細菌感染(例えば、結膜炎、角膜炎、結核、梅毒、淋病)、ウイルス感染(例えば、眼単純ヘルペスウイルス、水疱帯状ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス網膜炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV))ならびにHIVの二次的な進行性網膜外層壊死または他のHIV関連および他の免疫不全関連眼疾患を包含する。さらに、眼疾患は、真菌感染(例えば、カンジダ脈絡膜炎、ヒストプラスマ症)、原虫感染(例えば、トキソプラズマ症)など、例えば、眼トキソカラ症およびサルコイドーシスを包含する。
【0167】
本発明の一の態様は、本明細書中に開示されるサーチュインモジュレーターの治療的投与量を治療の必要な対象に投与することによる、化学療法剤(例えば、神経毒薬、眼圧を上げる薬物、例えば、ステロイド)での治療を受けている対象において視力障害を阻害、減少または治療する方法である。
【0168】
本発明の別の態様は、本明細書中に開示されるサーチュインモジュレーターの治療的投与量を治療の必要な対象に投与することによる、眼または脊髄手術などの腹臥位で行われる他の手術を包含する手術を受けている対象において視力障害を阻害、減少または治療する方法である。眼手術は、白内障、虹彩切開術、および水晶体交換を包含する。
【0169】
本発明の別の態様は、本明細書中に開示されるサーチュインモジュレーターの治療的投与量を治療の必要な対象に投与することによる、白内障、ドライアイ、加齢網膜剥離(AMD)、網膜損傷などを包含する加齢眼疾患の治療(抑制および予防的処置を包含する)である。
【0170】
本発明の別の態様は、本明細書中に開示されるサーチュインモジュレーターの治療的投与量を治療の必要な対象に投与することによる、ストレス、化学的傷害または放射線によって引き起こされる眼への損傷の予防または治療である。放射線または電磁気による眼への損傷は、CRTによるものまたは日光またはUVへの曝露によって引き起こされるものを包含する。
【0171】
一の具体例において、組み合わせ薬物療法は、眼障害またはこれらの状態に関連する二次的状態の治療または予防のための薬物または化合物を包含しうる。かくして、組み合わせ薬物療法は、1以上のサーチュインアクチベーターおよび眼障害の治療のための1以上の治療剤を含みうる。
【0172】
一の具体例において、サーチュインモジュレーターは、眼圧を減少させる治療と共に投与することができる。別の具体例において、サーチュインモジュレーターは、緑内障を治療および/または予防するための治療と共に投与することができる。また別の具体例において、サーチュインモジュレーターは、視神経炎を治療および/または予防するための治療と共に投与することができる。一の具体例において、サーチュインモジュレーターは、CMV網膜症を治療および/または予防するための治療と共に投与することができる。別の具体例において、サーチュインモジュレーターは、多発性硬化症を治療および/または予防するための治療と共に投与することができる。
【0173】
ミトコンドリア関連疾患および障害
ある特定の具体例において、本発明は、ミトコンドリア活性増加によって利益を得る疾患または障害の治療方法を提供する。該方法は、治療上有効量のサーチュイン活性化化合物を対象に投与することを含む。ミトコンドリア活性の増加は、ミトコンドリアの全体数(例えば、ミトコンドリア質量)を維持しながらミトコンドリアの活性を増加すること、ミトコンドリア数を増加することによって(例えば、ミトコンドリ発生を刺激することによって)ミトコンドリア活性を増加すること、またはその組み合わせをいう。ある特定の具体例において、ミトコンドリ活性の増加により利益を得る疾患および障害は、ミトコンドリ機能不全に関連する疾患または障害を包含する。
【0174】
ある特定の具体例において、ミトコンドリ活性の増加により利益を得る疾患および障害は、ミトコンドリア機能不全を患っている対象を同定することを含んでいてもよい。ミトコンドリア機能不全を診断する方法は、分子遺伝的、病理学的および/または生物化学的分析を含んでいてもよい。ミトコンドリア機能不全に関連する疾患および障害は、ミトコンドリア呼吸鎖活性の欠損が哺乳動物におけるかかる疾患または障害の病態生理学の発現に寄与する疾患および障害を包含する。ミトコンドリ活性の増加により利益を得る疾患および障害は、例えば、フリーラジカルによって媒介される酸化傷害が組織変性を導く疾患、細胞が不適切にアポトーシスを被る疾患、および細胞がアポトーシスを被らない疾患を包含する。
【0175】
ある特定の具体例において、本発明は、1以上のサーチュイン活性化化合物を別の治療剤、例えば、ミトコンドリア機能不全の治療に有用な剤またはミトコンドリア機能不全を伴う疾患または障害に関連した症状を減少させるのに有用な剤と共に対象に投与することを含む、ミトコンドリ活性の増加により利益を得る疾患および障害を治療する方法を提供する。
【0176】
例示的具体例において、本発明は、治療上有効量のサーチュイン活性化化合物を対象に投与することによる、ミトコンドリ活性の増加により利益を得る疾患および障害を治療する方法を提供する。例示的疾患または障害は、例えば、神経筋障害(例えば、フリードライヒ失調症、筋ジストロフィー、多発性硬化症など)、ニューロン不安定性の障害(例えば、発作性疾患、偏頭痛など)、発育遅延、神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)、虚血、尿細管性アシドーシス、加齢に関連した神経変性および認識低下、化学療法疲労、加齢または化学療法誘導性月経停止または月経サイクルもしくは排卵の不規則、ミトコンドリア筋疾患、ミトコンドリア損傷(例えば、カルシウム蓄積、興奮毒性、硝酸曝露、低酸素症など)、およびミトコンドリアの脱制御を包含する。
【0177】
筋ジストロフィーは、神経筋構造および機能の低下を含む疾患のファミリーをいい、しばしば、骨格筋の萎縮およびミトコンドリア機能不全、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーをもたらす。ある特定の具体例において、サーチュイン活性化化合物は、筋ジストロフィー患者における筋肉機能能力低下率を減少させ、筋肉機能状態を改善するために使用してもよい。
【0178】
ある特定の具体例において、サーチュイン調節化合物は、ミトコンドリア筋疾患の治療に有用でありうる。ミトコンドリア筋疾患は、外眼筋の軽度の緩徐進行性の虚弱から、重篤で致命的な乳児性筋疾患および多系脳筋症までの範囲を含む。いくつかの症候群がそれらの間でいくらか重複しつつ、定義されている。筋肉に影響を及ぼす確立された症候群は、進行性外眼筋麻痺、キーンズ・セイアー症候群(眼筋麻痺、色素網膜症、心伝導系障害、小脳性運動失調症、および感音難聴を伴う)、MELAS症候群(ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、および卒中様エピソード)、MERFF症候群(ミオクローヌス癲癇および赤色ぼろ線維)、肢帯分布虚弱、および乳児性筋疾患(良性または重篤および致命的)を包含する。
【0179】
ある特定の具体例において、サーチュイン活性化化合物は、ミトコンドリアに対する毒性損傷、例えば、カルシウム蓄積に起因する毒性損傷、興奮毒性、酸化窒素曝露、薬物誘導性毒性損傷、または低酸素症を受けている患者を治療するために有用でありうる。
【0180】
ある特定の具体例において、サーチュイン活性化化合物は、ミトコンドリアの脱制御に関連する疾患または障害を治療するために有用でありうる。
【0181】
筋肉パフォーマンス
他の具体例において、本発明は、治療上有効量のサーチュイン活性化化合物を投与することによって、筋肉パフォーマンスを増加させる方法を提供する。例えば、サーチュイン活性化化合物は、物理的耐久力(例えば、エクササイズ、肉体労働、スポーツアクティビティーなどの肉体作業を行う能力)を改善する、肉体疲労を阻害または遅延させる、血中酸素レベルを増加させる、健康な個体においてエネルギーを増加させる、作業能力および耐久力を増加させる、筋肉疲労を減少させる、ストレスを減少する、心臓機能および心血管機能を増加させる、性的能力を改善する、筋肉ATPレベルを増加させる、および/または血中乳酸を減少させるために有用でありうる。ある特定の具体例において、該方法は、ミトコンドリア活性を増加させ、ミトコンドリア発生を増加させ、および/またはミトコンドリア質量を増加させる量のサーチュイン活性化化合物を投与することを含む。
【0182】
スポーツパフォーマンスとは、スポーツアクティビティーに参加した時のアスリートの筋肉パフォーマンスをいう。増加したスポーツパフォーマンス、体力、スピードおよび耐久力は、筋収縮力の増加、筋収縮幅の増加、刺激と収縮の間の筋肉反応時間の短縮によって測定される。アスリートとは、いずれの水準においてもスポーツに参加している個体であって、そのパフォーマンスにおいて改善されたレベルの体力、スピードおよび耐久力を達成しようと努める個体、例えば、ボディービルダー、自転車選手、長距離ランナー、短距離ランナーなどをいう。スポーツパフォーマンスの増加は、筋肉疲労を克服する能力、より長い期間活動を維持する能力、およびより効果的な練習をする能力によって表される。
【0183】
アスリートの筋肉パフォーマンスの領域において、長期間、高い抵抗レベルで競争またはトレーニングを可能とする状態を創造することが望ましい。
【0184】
本発明の方法は、また、急性サルコペニア、例えば、筋萎縮および/または火傷、ベッド休養、四肢固定、または主要な胸郭、腹部および/または整形外科手術に関連したカヘキシーを包含する筋肉に関連した病理学的状態の治療に有効であると考えられる。
【0185】
ある特定の具体例において、本発明は、サーチュインモジュレーターを含む新規な食事組成物、その調製法、およびスポーツパフォーマンスの改善のための該組成物の使用方法を提供する。したがって、耐久力を要するスポーツおよび反復筋肉作業を必要とする労働を包含する幅広く定義されたエクササイズに関与する人々のために、身体持久力を改善し、および/または肉体疲労を阻害する作用を有する治療組成物、食物および飲料が提供される。かかる食事組成物は、さらに、電解質、カフェイン、ビタミン、炭水化物などを含んでいてもよい。
【0186】
他の使用
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、ウイルス感染(例えば、インフルエンザ、ヘルペスまたはパピローマウイルスあるいは抗真菌剤による感染)を治療または予防するために、および/または抗真菌剤として使用されうる。ある特定の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、ウイルス疾患の治療のための別の治療剤との組み合わせ薬物療法の一部として投与してもよい。別の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、別の抗真菌剤との組み合わせ療法の一部として投与してもよい。
【0187】
本明細書中に記載の治療されうる対象は、真核生物、例えば、哺乳動物、例えば、ヒト、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒト以外の霊長類、マウス、およびラットを包含する。治療されうる細胞は、真核生物細胞、例えば、上記の対象由来の細胞、または植物細胞、酵母細胞および原核生物細胞、例えば、細菌細胞を包含する。例えば、調節化合物は、飼育状態をより長く持ちこたえる能力を改善するために、家畜に投与してもよい。
【0188】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、植物における寿命、ストレス耐性、およびアポトーシスに対する抵抗を増加させるために使用してもよい。一の具体例において、化合物は、植物に、例えば、定期的に、または真菌に施用する。別の具体例において、植物は、化合物を産生するように遺伝子操作される。別の具体例において、植物および果物は、輸送の間の損傷に対する耐性を増加させるために、収穫および輸送の前に化合物で処理する。植物種子もまた、例えば貯蔵のために、本明細書中に記載の化合物と接触させてもよい。
【0189】
他の具体例において、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、酵母細胞における寿命を調節するために使用してもよい。酵母細胞の寿命を延長させることが望ましい状況には、酵母を使用するいずれのプロセスも包含され、例えば、ビール、ヨーグルトおよびベーカリーアイテム、例えば、パンの製造工程を包含する。寿命の延びた酵母の使用は、少量の酵母の使用または長期間の酵母活性の維持をもたらすことができる。組み換え技術によりタンパク質を産生させるために使用される酵母または他の哺乳動物細胞もまた、本明細書に記載のように処理されうる。
【0190】
サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、昆虫における寿命、ストレス耐性、およびアポトーシスに対する抵抗を増加させるために使用してもよい。該具体例において、化合物は、有用な昆虫、例えば、ミツバチおよび植物の受粉に関与する他の昆虫に施用する。特定の具体例において、化合物は、ハチミツの生産に関与するミツバチに施用する。一般に、本明細書に記載の方法は、商業的に重要ないずれの生物、例えば、真核生物に適用してもよい。例えば、それらは、魚(水産養殖)および鳥(例えば、鶏および家禽)に適用することができる。
【0191】
より高投与量のサーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、また、サイレンス遺伝子の調節および発達の間のアポトーシスの調節に干渉することによって、殺虫剤として使用されうる。該具体例において、化合物は、該化合物が植物にではなく、昆虫の幼虫にとって生物学的に利用可能になることを保証する当該分野で既知の方法を用いて植物に施用されうる。
【0192】
少なくとも増殖および寿命の間の関連を考慮して、サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、生物、例えば、昆虫、動物および微生物の増殖に影響を及ぼすために施用することができる。
【0193】
4.アッセイ
サーチュイン活性を測定するための種々の型のアッセイが記載されている。例えば、サーチュイン活性は、蛍光に基づくアッセイ、例えば、Biomolから市販されるアッセイ、例えば、SIRT1 Fluorimetric Drug Discovery Kit (AK−555)、SIRT2 Fluorimetric Drug Discovery Kit (AK−556)、またはSIRT3 Fluorimetric Drug Discovery Kit (AK−557)(Biomol International, Plymouth Meeting, PA)を用いて測定してもよい。他の適当なサーチュインアッセイは、ニコチンアミド放出アッセイ(Kaeberleinら、J.Biol.Chem.280(17):17038(2005))、FRETアッセイ(Marcotteら、Anal.Biochem.332:90(2004))、およびC14 NADホウ素樹脂結合(McDonaghら、Methods 36:346(2005))を包含する。また他の適当なサーチュインアッセイは、ラジオイムノアッセイ(RIA)、シンチレーション近接アッセイ、HPLCに基づくアッセイ、および受容体遺伝子アッセイ(例えば、転写因子ターゲットのための)を包含する。
【0194】
サーチュイン活性を測定するための例示的アッセイは、蛍光偏光アッセイである。蛍光偏光アッセイは、本明細書中に記載されており、また、PCT公開第WO 2006/094239号にも記載されている。他の具体例において、サーチュイン活性は、質量分析に基づくアッセイを用いて測定してもよい。質量分析に基づくアッセイの例は、本明細書中に記載されており、また、PCT公開第WO 2007/064902号にも記載されている。細胞に基づくアッセイもまた、サーチュイン活性の測定に使用されうる。サーチュイン活性を測定するための細胞に基づくアッセイの例は、PCT公開第WO 2007/064902号および第WO 2008/060400号に記載されている。
【0195】
本明細書中で考慮される他の方法は、サーチュインを調節する化合物または剤を同定するためのスクリーニング方法を包含する。剤は、核酸、例えばアプタマーであってもよい。アッセイは、細胞に基づく様式で、または細胞なしの様式で行えばよい。例えば、アッセイは、サーチュインがサーチュインを調節することが知られている剤によって調節されることができる条件下で、サーチュインを試験剤とインキュベートし(または接触させ)、次いで、試験剤が不在の場合と比べた、試験剤の存在下でのサーチュインの調節レベルをモニターまたは測定することを特徴としうる。サーチュインの調節レベルは、基質を脱アセチル化する能力を測定することによって決定することができる。例示的な基質は、BIOMOL(Plymouth Meeting,PA)から入手可能なアセチル化ペプチドである。好ましい基質は、p53のペプチド、例えば、アセチル化K382を含むものを包含する。特に好ましい基質は、Fluor de Lys−SIRT1(BIOMOL)、すなわち、アセチル化ペプチドArg−His−Lys−Lysである。他の基質は、ヒトのヒストンH3およびH4またはアセチル化アミノ酸由来のペプチドである。基質は、蛍光性であってもよい。サーチュインは、SIRT1、Sir2、SIRT3、またはその部分であってもよい。例えば、組み換えSIRT1は、BIOMOLから入手することができる。該反応は、約30分間行い、例えば、ニコチンアミドを用いて停止させてもよい。HDAC蛍光活性アッセイ/薬物ディスカバリーキット(AK−500,BIOMOL Research Laboratories)は、アセチル化レベルの測定に使用してもよい。同様のアッセイがBittermanら(2002) J.Biol.Chem.277:45099に記載されている。アッセイにおけるサーチュイン調節レベルは、本明細書中に記載の1以上の(別々または同時)化合物の存在下でのサーチュイン調節レベル(陽性または陰性対照として作用しうる)と比較してもよい。アッセイに有用なサーチュインは、全長サーチュインタンパク質またはその部分でありうる。本明細書中に活性化化合物がSIRT1のN末端と相互作用するようであることを示したので、アッセイに有用なタンパク質は、サーチュインのN末端、例えば、SIRT1のアミノ酸約1−176または1−255、Sir2のアミノ酸約1−174または1−252を包含する。
【0196】
一の具体例において、スクリーニングアッセイは、(i)試験剤の不在下で基質を脱アセチル化するためにサーチュインに適当な条件下で、サーチュインを試験剤およびアセチル化基質と接触させ、次いで、(ii)基質のアセチル化レベルを測定することを含み、ここに、試験剤の不在の場合と比べて試験剤の存在下での基質アセチル化レベルが低い場合、試験剤がサーチュインによる脱アセチル化を刺激することを示し、一方、試験剤の不在の場合と比べて試験剤の存在下での基質アセチル化レベルが高い場合、試験剤がサーチュインによる脱アセチル化を阻害することを示すことを特徴とする。
【0197】
イン・ビボでサーチュインを調節、例えば、刺激する剤を同定する方法は、(i)試験剤の不在下で基質を脱アセチル化するためにサーチュインに適当な条件下で、クラスIおよびクラスIIHDACsの阻害剤の存在下、試験剤および細胞に侵入することのできる基質と細胞を接触させ、次いで、(ii)基質のアセチル化レベルを測定することを含んでいてもよく、ここに、試験剤の不在の場合と比べて試験剤の存在下での基質アセチル化レベルが低い場合、試験剤がサーチュインによる脱アセチル化を刺激することを示し、一方、試験剤の不在の場合と比べて試験剤の存在下での基質アセチル化レベルが高い場合、試験剤がサーチュインによる脱アセチル化を阻害することを示す。好ましい基質は、アセチル化ペプチドであり、さらに本願明細書中に記載のように、それは好ましくは蛍光性でもある。該方法は、さらに、基質のアセチル化レベルを測定するために、細胞を溶解させることを含んでいてもよい。基質は、約1μM〜約10mM、好ましくは約10μM〜1mM、より好ましくは約100μM〜1mM、例えば、約200μMの濃度で細胞に加えてもよい。好ましい基質は、アセチル化リジン、例えば、ε−アセチルリジン(Fluor de Lys,FdL)またはFluor de Lys−SIRT1である。クラスIおよびクラスII HDACsの好ましい阻害剤は、トリコスタチンA(TSA)であり、それは、約0.01〜100μM、好ましくは約0.1〜10μM、例えば、1μMの濃度で使用してもよい。試験化合物および基質との細胞のインキュベーションは、約10分〜5時間、好ましくは約1−3時間行えばよい。TSAは、クラスIおよびクラスII HDACsを阻害し、ある種の基質、例えば、Fluor de Lysは、SIRT2に対して不十分な基質であり、SIRT3−7に対しても劣った基質であるので、かかるアッセイは、SIRT1のモジュレーターをイン・ビボで同定するために使用しうる。
【0198】
5.医薬組成物
本明細書中に記載のサーチュイン調節化合物は、1以上の生理学的に許容される担体または賦形剤を用いて従来の方法で処方されうる。例えば、サーチュイン調節化合物およびその生理学上許容される塩および溶媒和物は、例えば、注射(例えば、SubQ,IM,IP)、吸入または吹込(経口または経鼻のいずれか)または経口、バッカル、舌下、経皮、経鼻、非経口または直腸投与による投与のために処方されうる。一の具体例において、サーチュイン調節化合物は、標的細胞が存在する部位に、すなわち、特定の組織、器官、または流体(例えば、血液、脳脊髄液など)中に、局所的に投与されうる。
【0199】
サーチュイン調節化合物は、全身および局所または局在投与を包含する種々の投与様式のために処方することができる。技術および処方は、一般に、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Meade Publishing Co.,Easton,PAに見ることができる。非経口投与の場合、注射が好ましく、筋内、静脈内、腹膜内、および皮下注射を包含する。注射の場合、化合物は、液体溶液、好ましくは、生理学的に適合性のバッファー、例えば、ハンク溶液またはリンガー溶液中で処方されることができる。さらに、化合物は、固体形態に処方してもよく、使用直前に再溶解または懸濁してもよい。凍結乾燥形態も包含される。
【0200】
経口投与の場合、医薬組成物は、例えば、医薬上許容される賦形剤、例えば、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、増量剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム)、または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を用いて従来の手段によって調製された錠剤、ロゼンジまたはカプセルの形態を取ってもよい。錠剤は、当該分野でよく知られた方法によって被覆してもよい。経口投与用の液体調製物は、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液の形態を取ってもよく、またはそれらは、使用前に水または他の適当なビヒクルで復元するための乾燥製品として提供されうる。かかる液体調製物は、医薬上許容される添加剤、例えば、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂)、乳化剤(例えば、レシチンまたはアラビアゴム)、非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコールまたは分別植物油)、および保存料(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピルあるいはソルビン酸)を用いて、従来の手段によって調製されうる。該調製物は、また、バッファー塩、フレーバー、着色料および甘味剤を適宜含有していてもよい。経口投与用調製物は、活性化合物の制御放出を与えるように適当に処方してもよい。
【0201】
吸入(例えば、肺デリバリー)による投与の場合、サーチュイン調節化合物は、好都合には、適当なプロペラント、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適当な気体を用いて、加圧パックまたはネブライザーからのエーロゾルスプレー提供の形態でデリバリーされうる。加圧エーロゾルの場合、投与単位は、測定量をデリバリーするためのバルブを提供することによって測定されうる。吸入器または吹入器において使用するための、例えばゼラチンからなる、カプセルおよびカートリッジは、該化合物および適当な粉末基剤、例えば、ラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含有させて処方させうる。
【0202】
サーチュイン調節化合物は、注射による、例えば、ボーラス注射または連続的注入による、非経口投与のために処方されうる。注射用処方は、単位投与形態、例えば、アンプルまたは多数回投与量コンテナーにおいて、添加された保存料と共に提供されうる。該組成物は、油性または水性ビヒクル中における懸濁液、溶液またはエマルジョンの形態を取ってもよく、処方剤、例えば、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤を含有していてもよい。別法では、活性成分は、適当なビヒクル、例えば、滅菌発熱物質不含水を用いて、使用前に復元するための粉末形態であってもよい。
【0203】
サーチュイン調節化合物は、また、例えば通常の座剤基剤、例えば、ココア脂または他のグリセリドを含有する、直腸組成物、例えば、座剤または滞留浣腸において処方されうる。
【0204】
上記の処方に加えて、サーチュイン調節化合物は、また、デポー調製物として処方されてもよい。かかる長期作用処方は、埋め込みによって(例えば、皮下または筋内に)、または筋内注射によって投与されうる。かくして、例えば、サーチュイン調節化合物は、適当なポリマーまたは疎水性材料(例えば、許容される油中のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂と共に、または貧溶性誘導体、例えば、貧溶性塩として処方されうる。また、放出制御処方には、パッチが包含される。
【0205】
ある特定の具体例において、本明細書中に記載の化合物は、中枢神経系(CNS)にデリバリーするために処方することができる(Begley,Pharmacology & Therapeutics 104:29−45(2004)に概説される)。CNSへの薬物デリバリーのための通常なアプローチは、脳神経外科的戦略(例えば、大脳内注射または脳室内注入);BBBの内在性輸送経路の1つを活用しようとする試みにおける、剤の分子的操作(例えば、それ自体がBBBを通過することのできない剤と組み合わせて、内皮細胞表面分子に対してアフィニティーを有する輸送ペプチドを含むキメラ融合タンパク質の生産);剤の脂溶性を向上させるよう計画された薬理学的戦略(例えば、水溶性剤の脂肪またはコレステロール担体へのコンジュゲーション);および高浸透圧性崩壊によるBBBの完全性の一時的崩壊(頸動脈中へのマンニトール溶液の注入または生物学的に活性な剤、例えば、アンジオテンシンペプチドの使用に起因する)を包含する。
【0206】
リポソームは、容易に注射可能なさらなる薬物デリバリー系である。したがって、本発明の方法において、活性化合物は、また、リポソームデリバリー系の形態で投与されることができる。リポソームは、当業者によく知られている。リポソームは、種々のリン脂質、例えば、コレステロール、ホスファチジルコリンのステアリルアミンから形成することができる。本発明の方法で使用可能なリポソームは、限定するものではないが、小型単層ベシクル、大型単層ベシクル、および多層ベシクルを包含する全ての型のリポソームを包含する。
【0207】
サーチュインモジュレーター、例えば、レスベラトロールまたはその誘導体の処方、特に溶液を製造する別の方法は、シクロデキストリンの使用を介する。シクロデキストリンにより、α−、β−またはγ−シクロデキストリンが意味される。シクロデキストリンは、Pithaら、米国特許第4,727,064号(出典明示により本明細書の一部とされる)に詳細に記載される。シクロデキストリンは、グルコースの環状オリゴマーであり、これらの化合物は、シクロデキストリン分子の脂肪親和要求性キャビティー中にその分子がフィットすることのできるいずれかの薬物と共に包接複合体を形成する。
【0208】
即時崩壊性または溶解性投与形態は、医薬上活性剤の迅速な吸収、特にバッカルおよび舌下吸収に有用である。即時溶融投与形態は、典型的な固形投与形態、例えば、キャプレットおよび錠剤を嚥下するのが困難な患者、例えば高齢および小児患者に有益である。さらに、即時溶融投与形態は、例えば、チュアブル投与形態(ここに、活性剤が患者の口内に滞在する時間が味のマスキングの量および患者が活性剤を飲み込む勇気に反しうる程度を決定する重要な役割を果たす)と関連する欠点を回避する。
【0209】
医薬組成物(美容調製物を包含する)は、本明細書中に記載の1以上のサーチュイン調節化合物を約0.00001〜100重量%、例えば、0.001〜10重量%または0.1%〜5重量%含みうる。
【0210】
一の具体例において、本明細書中に記載のサーチュイン調節化合物は、一般に局所薬物投与に適した局所担体を含有し、かつ、いずれかの当該分野で知られたそのような材料を含む局所処方中に組み込まれる。局所担体は、所望の形態、例えば、軟膏、ローション、クリーム、マイクロエマルジョン、ゲル、油、溶液などにおいて組成物が提供されるように選択すればよく、天然または人工のいずれの材料から構成されてもよい。選択された担体が局所処方の活性剤または他の成分に不都合な影響を及ぼさないことが好ましい。本明細書中で使用するのに適当な局所担体の例は、水、アルコールおよび他の非毒性有機溶媒、グリセリン、鉱物油、シリコン、ワセリン、ラノリン、脂肪酸、植物油、パラベン、ワックスなどを包含する。
【0211】
処方は、無色、無臭の軟膏、ローション、クリーム、マイクロエマルジョンおよびゲルであってもよい。
【0212】
サーチュイン調節化合物は軟膏中に組み込まれていてもよく、それは一般に、典型的にはペトロラタムまたは他のペトロリューム誘導体に基づいた半固体調製物である。使用されるべき特定の軟膏基剤は、当業者には明らかであるが、最適な薬物デリバリーを提供するもの、好ましくは、他の所望の特徴、例えば、皮膚軟化性などをよく提供するものである。他の担体またはビヒクルと同様に、軟膏基剤は、不活性で、安定で、非刺激性で、かつ非感作性でなければならない。
【0213】
サーチュイン調節化合物は、ローション中に組み込まれていてもよく、それは一般に、摩擦することなく皮膚表面に塗布されるべき調製物であり、典型的には、活性剤を含む固体粒子が水またはアルコール基剤中に存在する液体または半液体調製物である。ローションは、通常、固体の懸濁液であり、水中油型の液体油性エマルジョンからなっていてもよい。
【0214】
サーチュイン調節化合物は、クリーム中に組み込まれていてもよく、それは一般に、粘性液体または水中油型もしくは油中水型の半固体エマルジョンである。クリーム基剤は、水洗可能であり、油相、乳化剤および水相を含有する。油相は、一般に、ペトロラタムおよび脂肪性アルコール、例えば、セチルまたはステアリルアルコールからなり、水相は通常、必須ではないが、油相を超える容量を有し、一般に、湿潤剤を含有する。クリーム処方中の乳化剤は、上掲のRemington’sに説明されているように、一般に、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性界面活性剤である。
【0215】
サーチュイン調節化合物は、マイクロエマルジョン中に組み込まれていてもよく、それは一般に、界面活性剤分子の界面フィルムによって安定化された、2つの不混和性液体の、例えば、油および水の熱力学的に安定な等方性透明分散液である(Encyclopedia of Pharmaceutical Technology(New York:Marcel Dekker,1992),volume 9)。
【0216】
サーチュイン調節化合物は、ゲル処方中に組み込まれていてもよく、それは一般に、小型無機粒子(2相系)または担体液体を介して実質的に均一に分散された大型有機分子(単層ゲル)のいずれかからなる懸濁液からなる半固体系である。ゲルは、一般に、水性担体液体を利用するが、同様にアルコールおよび油を担体液体として使用することができる。
【0217】
他の活性剤、例えば、他の抗炎症剤、鎮痛剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗生物質、ビタミン、抗酸化剤、および限定するものではないが、アントラニレート、ベンゾフェノン(特にベンゾフェノン−3)、カンファー誘導体、シンナメート(例えば、オクチルメトキシシンナメート)、ジベンゾイルメタン(例えば、ブチルメトキシジベンゾイルメタン)、p−アミノ安息香酸(PABA)およびその誘導体、およびサリチレート(例えば、オクチルサリチレート)を包含する一般にサンスクリーン処方において見出される日焼け防止剤もまた、処方中に含まれていてもよい。
【0218】
ある特定の局所処方中、活性剤は、処方の約0.25重量%〜75重量%、好ましくは処方の約0.25重量%〜30重量%、より好ましくは処方の約0.5重量%〜15重量%、最も好ましくは約1.0重量%〜10重量%の量で存在する。
【0219】
眼の状態は、例えば、サーチュイン調節化合物の全身、局所、眼球内注射によって、またはサーチュイン調節化合物を放出する徐放性装置の挿入によって、治療または予防することができる。サーチュインタンパク質のレベルおよび/または活性を増加するサーチュイン調節化合物は、医薬上許容される眼用ビヒクル中でデリバリーしてもよく、その結果、該化合物は、該化合物が眼の角膜および内部領域、例えば、前房、後房、硝子体、房水、硝子体液、角膜、虹彩/睫毛、水晶体、脈絡膜/網膜および強膜を浸透するのに十分な時間、眼の表面と接触したまま維持される。医薬上許容される眼用ビヒクルは、例えば、軟膏、植物油またはカプセル化剤であってもよい。別法では、本発明の化合物は、硝子体液または房水中に直接注射してもよい。さらなる別法において、該化合物は、眼の治療のために、全身投与、例えば、静脈内注入または注射によって投与してもよい。
【0220】
本明細書中に記載のサーチュイン調節化合物は、酸素を含まない環境中に貯蔵してもよい。例えば、レスベラトロールまたはその類似体は、経口投与用の密閉カプセル、例えば、Pfizer Inc.社製のCapsugel中で調製することができる。
【0221】
例えば生体外でサーチュイン調節化合物で処理された細胞は、対象に移植片を投与するための方法にしたがって投与することができ、それは、例えば、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンAの投与を伴ってもよい。医学的処方における一般的な原理について、読者は、Cell Therapy:Stem Cell Transplantation,Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy、G.Morstyn & W.Sheridan編、Cambridge University Press,1996;およびHematopoietic Stem Cell Therapy,E.D.Ball,J.Lister & P.Law,Churchill Livingstone,2000を参照のこと。
【0222】
サーチュイン調節化合物の毒性および治療的効力は、細胞培養または実験動物における標準的な医薬的手法によって測定することができる。LD50は、集団の50%に対する致死投与量である。ED50は、集団の50%において治療効果のある投与量である。毒性および治療効果の間の投与比率(LD50/ED50)は、治療指数である。大きい治療指数を示すサーチュイン調節化合物が好ましい。毒性副作用を示すサーチュイン調節化合物を使用してもよいが、非感染細胞に対する損傷の可能性を最小限にし、それにより副作用を減少させるために、かかる化合物が罹患組織部位を標的とするようなデリバリー系を設計するよう注意しなければならない。
【0223】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投与量範囲を処方するのに使用することができる。かかる化合物の投与量は、わずかな毒性または非毒性を伴うED50を含む循環濃度範囲内にあればよい。該投与量は、使用される投与形態および利用される投与経路に依存して該範囲内で変化してもよい。いずれかの化合物について、治療上有効投与量は、最初、細胞培養アッセイから概算することができる。細胞培養中で測定されたIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する試験化合物の濃度)を包含する循環血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて投与量を処方してもよい。かかる情報は、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定するために使用することができる。血漿レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定すればよい。
【0224】
6.キット
また、本明細書中では、キット、例えば、治療目的のキットまたは細胞の寿命またはアポトーシスを調節するためのキットが提供される。キットは、例えば予め測定した投与量において、1以上のサーチュイン調節化合物を含んでいてもよい。キットは、細胞を化合物と接触させるための装置および使用説明書を含んでいてもよい。装置は、シリンジ、ステント、および対象中(例えば、対象の血管)にサーチュイン調節化合物を導入する、または対象の皮膚に該化合物を塗布するための他の装置を包含する。
【0225】
また別の具体例において、本発明は、本発明のサーチュインモジュレーターおよび別の治療剤(組み合わせ治療および組み合わせ組成物において使用される同じもの)を互いに関連しているが、分離した投与形態で含む物体の組成物を提供する。「互いに関連した」なる語は、本明細書中で使用する場合、分離した投与形態が一緒にパッケージされるか、または分離した投与形態が同じ計画の一部として販売さて、投与される目的であることが容易に理解されるように、互いに接着していることを意味する。剤およびサーチュイン調節化合物は、好ましくは、ブリスターパックまたは他のマルチチャンバーパッケージ中に一緒にパッケージされ、または使用者によって(例えば、2つのコンテナー間の分割線上を裂くことによって)分離されることができる連結した別々に密封されたコンテナー(例えば、ホイルパウチなど)としてパッケージされる。
【0226】
また別の具体例において、本発明は、分離した容器中に、a)本発明のサーチュインモジュレーター、およびb)本明細書中の他の箇所に記載されたような別の治療剤を含むキットを提供する。
【0227】
本発明の方法の実施には、別記しないかぎり、当該分野の技術範囲内の細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組み換えDNA、および免疫学の通常の技術を用いる。かかる技術は、文献中に十分に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版、Sambrook、FritschおよびManiatis編(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989);DNA Cloning,ボリュームIおよびII(D.N.Glover編、1985);Oligonucleotide Synthesis (M.J.Gait編、1984);Mullisら、米国特許第4,683,195号;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins編、1984);Transcription And Translation(B.D.Hames & S.J.Higgins編、1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);論文、Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.MillerおよびM.P.Calos編、1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,ボリューム154および155(Wuら編)、Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(MayerおよびWalker編、Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,ボリュームI−IV(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編、1986);Manipulating the Mouse Embryo(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照のこと。
【0228】
実施例
本発明は、ここに一般的に記載されており、本発明のある特定の態様および具体例の単なる説明目的で包含するのであって、如何なる方法においても本発明を制限しようとするものではない下記の実施例を参照することにより、より容易に理解されるであろう。
【0229】
実施例1: 4−メチル−N−(2−(3−(モルホリノメチル)イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)フェニル)−2−(ピリジン−3−イル)チアゾール−5−カルボキサミド(化合物1)の製造
【0230】
6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−カルボン酸エチルエステルの製造
【化16】

典型的には、2−アミノチアゾール−4−カルボン酸エチル2.1g(Combi−Blocks、0.0123mol)を2−ブロモ−2’−ニトロアセトフェノン(3.0g、0.0123mol)とともにメチルエチルケトン25mLと混合した。反応混合物を還流下で18時間撹拌した。次いで、室温に冷却し、濾過して一部の固体を除去した。濾液を濃縮して、6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−カルボン酸エチルエステル3.10gを得た(MS,M+H=318)。
【0231】
[6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イル]−メタノールの製造:
【化17】

6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−カルボン酸エチルエステル(14.50g、0.0458mol)をTHF 100mL、およびNaOH7.3g(4当量)を含有する水100mLと混合した。反応混合物を室温で18時間撹拌した。次いで、濃縮した。水性層をCHClで1回洗浄し、次いで、6N HClで酸性化した。濾過により固体を回収し、乾燥させて、酸中間体7.4gを得た。この物質(7.4g、0.0256mol)をN−メチルモルホリン(NMM)(2.8mL、0.0256mol)とともに無水THF 200mLと混合し、0℃に冷却した。クロロギ酸イソブチル(3.35mL、0.0256mol)を添加し、反応混合物を氷浴中にて3時間撹拌した。NaBH(0.97g、0.0256mol)を水30mL中の溶液として添加した。反応混合物を0℃で45分間撹拌した。次いで、室温に冷却し、濃縮した。水性層をCHClで抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、濃縮して、粗生成物を得た。クロマトグラフィー(Isco、ペンタン/酢酸エチルの混合物を使用)によって精製して、[6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イル]−メタノール5.20g(収率74%)を得た。
【0232】
2−(3−モルホリン−4−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニルアミンの製造:
【化18】

[6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イル]−メタノール(435mg、1.58mmol)を1当量のトリエチルアミン(0.330mL)とともにCHCl 25mLに溶解した。メタンスルホニルクロリド(1当量、0.12mL)を添加し、反応混合物を室温に加温し、15分間撹拌した。次いで、ブラインでクエンチし、CHClで抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、濃縮して、メシラート中間体を得た。この物質をトリエチルアミン0.33mLおよびモルホリン0.14mLとともにCHCN 6mLと混合した。反応混合物を室温で18時間撹拌した。翌日、それを濃縮し、得られた残留物をCHClと水との間で分配させた。有機層を乾燥させ(NaSO)、濃縮して、本質的に定量的な収量の生成物を得た。この物質を水硫化ナトリウム・水和物200mgとともにメタノール6mLおよび水1mLと混合した。得られた反応混合物を還流下にて6時間撹拌した。次いで、室温に冷却し、無水エタノール100mLで希釈し、濃縮した。得られた残留物をCHCl/メタノール(9:1)20mLと混合し、濾過した。濾液を濃縮して、2−(3−モルホリン−4−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニルアミンを得た。
【0233】
化合物1の製造:
【化19】

2−(3−ピリジル)−4−メチルチアゾール−5−カルボン酸(0.61g、2.8mmol)を塩化チオニル(2mL)に溶解し、混合物を加熱しながら撹拌した(82℃、3時間)。冷却後、溶媒を除去し、残留物を高真空下にて乾燥させた。次いで、該酸塩化物をピリジン5mLに懸濁し、2−(3−モルホリノメチル)イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)アニリン(0.87g、2.8mmol)を充填したマイクロ波バイアルに加えた。反応物にマイクロ波照射した(160℃、15分)。該溶液をメタノールとともにトリチュレートし、得られた固体を濾過し、さらなるメタノールで洗浄した。該固体を乾燥させて、4−メチル−N−(2−(3−モルホリノメチル)イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)フェニル)−2−(ピリジン−3−イル)チアゾール−5−カルボキサミド0.97g(68%)を得た。
該生成物(0.16g)を10%HCl/CHCN(4mL)に溶解することによって、4−メチル−N−(2−(3−モルホリノメチル)イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)フェニル)−2−(ピリジン−3−イル)チアゾール−5−カルボキサミドのHCl塩形態を製造した。次いで、溶液を凍結乾燥させて、該塩(0.17g)を黄−橙色の固体として得た。他の塩(硫酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、リン酸、L−酒石酸、クエン酸、およびリンゴ酸)を同様の方法で製造した。
【0234】
実施例2: N−(2−(3−(ピペラジン−1−イルメチル)イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)フェニル)キノキサリン−2−カルボキサミド(化合物2)の合成
【0235】
6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−カルボン酸エチルエステルの製造:
【化20】

典型的には、2−アミノチアゾール−4−カルボン酸エチル(2.1g、0.0123mol)を2−ブロモ−2’−ニトロアセトフェノン(3.0g、0.0123mol)とともにメチルエチルケトン(25mL)に溶解した。反応混合物を還流下にて18時間撹拌した。次いで、室温に冷却し、濾過して、一部の固体を除去した。濾液を濃縮して、6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−カルボン酸エチルエステル3.10gを得た(C1412Sの計算値:318.3、[M+H]+測定値:319)。
【0236】
[6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イル]−メタノールの製造:
【化21】

6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−カルボン酸エチルエステル(14.50g、0.0458mol)をTHF(100mL)、およびNaOH(7.3g、4当量)を含有する水(100mL)に溶解した。反応混合物を室温で18時間撹拌した。次いで、濃縮した。水性層をCHClで1回洗浄し、次いで、6N HClで酸性化した。濾過により固体を回収し、乾燥させて、酸中間体7.4gを得た。この物質(7.4g、0.0256mol)をN−メチルモルホリン(2.8mL、0.0256mol)とともに無水THF(200mL)に溶解し、0℃に冷却した。クロロギ酸イソブチル(3.35mL、0.0256mol)を添加し、反応混合物を氷浴中にて3時間撹拌した。NaBH(0.97g、0.0256mol)を水(30mL)中の溶液として添加した。反応混合物を0℃で45分間撹拌した。次いで、室温に加温し、濃縮した。水性層をCHClで抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、濃縮して、粗生成物を得た。クロマトグラフィー(Isco、ペンタン/酢酸エチルの混合物を使用)により精製して、[6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イル]−メタノール5.20g(収率74%)を得た(C1211OSの計算値:245.3、[M+H]+測定値:246)。
【0237】
4−[6−(2−アミノ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イルメチル]−ピペラジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルの製造:
【化22】

[6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イル]−メタノール(1.0g、3.64mmol)をトリエチルアミン(0.51mL、3.64mmol)とともにCHCl(100mL)に溶解した。メタンスルホニルクロリド(1当量、0.28mL)を添加し、反応混合物を室温に加温にし、15分間撹拌した。次いで、ブラインでクエンチし、CHClで抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、、濃縮させて、メシラート中間体を得た。この物質をトリエチルアミン(0.51mL、3.64mmol)およびBocc−ピペラジン(680mg、3.64mmol)とともにCHCN(4mL)に溶解し、室温で1日間撹拌した。反応混合物を濃縮し、得られた残留物をCHClと水との間で分配させた。有機層をNaSOで乾燥させ、濃縮して、本質的に定量的な収量の生成物を得た。この物質を水硫化ナトリウム・水和物(200mg)とともにメタノール(6mL)および水(1mL)に溶解した。得られた反応混合物を還流下にて24時間撹拌した。次いで、室温に冷却し、濃縮した。得られた残留物を水(2mL)で希釈し、CHClで抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、濃縮して、4−[6−(2−アミノ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イルメチル]−ピペラジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル0.90gを得た(C2127Sの計算値:413.5、[M+H]+測定値:414)。
【0238】
化合物2の製造:
【化23】

4−[6−(2−アミノ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イルメチル]−ピペラジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(0.25mmol)を1当量(50mg)の塩化2−キノキサロイルとともにピリジン1mLに溶解した。反応混合物をBiotageマイクロ波反応器中にて加熱した(160℃で10分間)。次いで、室温に冷却し、濃縮した。得られた粗生成物をクロマトグラフィー(Isco、勾配溶離、CHClから95%CHCl、4%メタノールおよび1%トリエチルアミン)によって精製した。次いで、精製した生成物をCHCl(2mL)中に25%トリフルオロ酢酸(TFA)を含有する溶液で2時間処理した。次いで、濃縮し、得られた残留物をエチルエーテルと一緒にトリチュレートして、所望の生成物をTFA塩として得た(C2523OSの計算値:469.5、[M+H]測定値:470)。HNMR(300MHz,DMSO−d)δ:13.9(br s,1H)、9.8(br s,1H)、9.6(br s,1H)、8.9−7.2(m,11H)、4.8(br s,2H)。以下の条件で3.5um Eclipse XDB−C18(4.6mm×100mm)カラムを装着したAgilent 1100 Series HPLCで分析的HPLCを行った:CHCN/HO、0.1%ギ酸移動相で変更。勾配溶離:5%保持(2分)、5%から95%への勾配(11分)、95%から5%への勾配(0.3分)、5%保持(2.7分)、総操作時間15分間。流速:0.8ml/分。保持時間=3.04分。
【0239】
実施例3: 4−メチル−2−ピリジン−3−イル−チアゾール−5−カルボン酸[2−(3[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニル]−アミドの製造
【0240】
3−クロロメチル−6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾールの製造:
【化24】

[6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−3−イル]−メタノール(165g、0.6mol)のジクロロメタン(1.65L)中溶液にSOCl(400mL、5.5mol)を室温で添加した。DMF(0.3mL)を添加し、反応混合物を30℃で撹拌した(2時間)。反応混合物を0℃に冷却し、濾過により沈殿物を回収し、真空乾燥させて、3−クロロメチル−6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾールを白色固体として得た(174g、収率99%)。
【0241】
6−(2−ニトロ−フェニル)−3−[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾールの製造:
【化25】

3−クロロメチル−6−(2−ニトロ−フェニル)−イミダゾ[2,1−b]チアゾール(64.0g、0.22mol)をDMF(600mL)に溶解し、次いで、1H−[1,2,4]トリアゾール(30.4g、0.44mol)、KCO(91.0g、0.66mol)およびNaI(20mg)を添加した。反応混合物を室温で一夜撹拌し、次いで、35℃で(8時間)撹拌した。混合物をシリカゲルパッドに通し、濾液を真空濃縮して、黄色固体を得た。固体を酢酸エチルで洗浄して、6−(2−ニトロ−フェニル)−3−[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾールを黄色固体として得た(54g、収率75%)。H−NMR(DMSO−d6,400MHz):δ5.75(s,2H)、7.40(s,1H)、7.52(m,1H)、7.68(m,1H)、7.79(m,2H)、8.05(s,1H)、8.19(s,1H)、8.83(s,1H)。
【0242】
2−(3−[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニルアミンの製造:
【化26】

6−(2−ニトロ−フェニル)−3−[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール(54g、165mmol)をエタノール(2.0L)に溶解した。Pd/C(10%、20g)を添加し、フラスコを排気し、Hを充填した。反応混合物をH下にて室温で撹拌した(2日間)。次いで、反応混合物をシリカゲルパッドに通し、濾液を真空濃縮して、黄色の固体を得た。該固体をエタノールで洗浄して、2−(3−[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニルアミンを黄色の固体として得た(46g、収率94%)。
【0243】
4−メチル−2−ピリジン−3−イル−チアゾール−5−カルボン酸[2−(3[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニル]−アミドの製造:
【化27】

2−(3−[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニルアミン(60g、202mmol)、4−メチル−2−ピリジン−3−イル−チアゾール−5−カルボン酸(54g、245mmol)、HATU(154g、405mmol)、およびDIEA(132mL、800mol)のDMF(850mL)中混合物を室温で一夜撹拌した。TLCは反応が完全であることを示した。濾過により沈殿物を回収し、多量の水、アセトン、メタノールおよびDCMで洗浄して、白色の固体を得た(79g、収率79%)。固体を酢酸から再結晶し、NaCO飽和溶液(1.0L×2)、水(2L)およびエタノール(1.0L)で洗浄し、真空オーブン中にて45℃で一夜乾燥させて、4−メチル−2−ピリジン−3−イル−チアゾール−5−カルボン酸[2−(3[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニル]−アミドを白色固体として得た(62g、収率62%)。1HNMR(DMSO−d6,400MHz):δ2.79(s,3H)、5.78(s,2H)、7.22(m,1H)、7.36(m,1H)、7.51(s,1H)、7.60(m,1H)、7.79(d,J=6.4Hz,1H)、8.04(s,1H)、8.38(m,1H)、8.41(s,1H)、8.54(d,J=8.0Hz,1H)、8.75(m,1H)、8.86(s,1H)、9.19(s,1H)、12.78(s,1H)。ESI−MS:499.3(M+1)、521.4(M+23(Na))。
該遊離塩基5.20gをメタノール(350mL)に懸濁することによって、4−メチル−2−ピリジン−3−イル−チアゾール−5−カルボン酸[2−(3[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニル]−アミドのHCl塩を製造した。これに4N HCl(35mL)を添加し、該混合物を溶解するまで加熱した。該溶液を−78℃に冷却し、凍結乾燥により乾燥させて、4−メチル−2−ピリジン−3−イル−チアゾール−5−カルボン酸 [2−(3[1,2,4]トリアゾール−1−イルメチル−イミダゾ[2,1−b]チアゾール−6−イル)−フェニル]−アミド−HCl塩(7.49g)を黄色の固体として得た。
【0244】
実施例4: 塩形成、スクリーニングおよび特徴付け
化合物1から8種類の許容される(制御性およびpKa)塩、すなわち、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、リン酸、L−酒石酸、クエン酸およびリンゴ酸との塩を調製した。次いで、得られた塩または遊離塩基を以下のことに対してスクリーニングした:
1)プロセシング、形態、多形;
2)結晶の形状、単一の安定な多形;
3)物理的安定性;
4)オープンディッシュ加速安定性(40℃/75%RH);および
5)生物学的に関連した溶解。
【0245】
図1は、化合物1のHCl塩形態に対する示差走査熱量測定(DSC)の結果を示しており、111℃および192℃付近で小さな吸熱転移を示す。熱重量分析(TGA)の結果は、潜在的に溶媒の損失に関連している(このHCl塩の吸湿性に基づく水損失による可能性が最も高い)加熱時の一般的な減量を示しているが、どの減量事象も111℃および192℃の同定されたDSC転移温度に対応していない。したがって、これら2つのDSC熱事象は分子レベル相変化に関連するようであり、加熱による化合物1塩の多形形態間の転移を示唆しているであろう。200℃以上では、DSCの結果は化合物1塩の分解を示す。
図2は、化合物1の遊離塩基形態が単一の結晶融点に関連する236℃での単一の吸熱事象を有することを立証している。DSCまたはTGAの結果では他の熱転移が観察されないので、化合物1は評価された熱範囲にわたって単一の相としてのみ存在する(すなわち、多形ではない)ようである。
HCl塩について上記図1に示されるように、0〜125℃の熱範囲にわたる潜在的な多形相変化は、共通の貯蔵およびプロセシング条件下で製剤原料を変化させ得た。多形転移は製剤原料の溶解および生物学的利用能に顕著な影響を及ぼすことが可能なので、相転移の可能性を最小にするかまたは排除する製剤原料の形態を選択するのが現実的である。したがって、図1および2から得られた結果を総合すれば、薬物の遊離塩基形態が、化合物1の見掛けの単一の結晶形態に基づいて製剤原料として優れていることを示している。
【0246】
実施例5: イン・ビボ試験
この実施例の目的は、2種類の異なる糖尿病マウスモデル、すなわち食餌性肥満モデル(DIO)およびOb/obマウスにおいて化合物1の塩および遊離塩基の製剤の効力を比較することであった。血糖は効力の実験による主要な決定因子であった。
食餌性肥満モデルについては、体重が約40gになるまで約6週間、6週齢C57BL/6雄性マウス(Charles River Labs)に高脂肪の食餌(脂肪由来のカロリー60%;Research Diets)を与えた。毎日、試験化合物を所定の投与量で経口栄養法により投与した。使用したビヒクルは、2%HPMCおよび0.2%DOSSであった。個々のマウスの体重を週2回測定した。血糖測定のために、実験の間じゅう2週間ごとに各グループのマウスの尾静脈から採血した。JMPプログラム(バージョン6)を用いて統計学的分析が完了した。データは、ダネット検定を用いて対照と比較して一方向ANOVAによって分析された。p値<0.05は、グループ間に有意な差異があることを示した。
Ob/obマウスは、飢餓の終わりを神経学的にシグナル伝達する重要な満腹タンパク質であるレプチンを欠いている遺伝子操作されたノックアウトマウスである。レプチン変異はホモ変異的であり、ヘテロ変異株は対照として含まれる(Ob/+);このグループは、高脂肪の食餌による正常な影響を除けば体重または血糖の増加を示さない。
次いで、化合物1の遊離塩基形態をDIOモデルにて試験した。100mg/kg/日の化合物1の遊離塩基についての血糖試験の結果は、1000mg/kg/日のリスベラトロールのもの、400mg/kg/日のメトホルミンのもの、および100mg/kg/日の化合物2のものと類似しており、全て、第2週を超えると血糖の有意な低下を示した(図3〜5)。化合物1についての血糖試験の結果は、リスベラトロールのもの、メトホルミンのもの、および化合物2のものと類似しており、全て、第2週を超えると血糖の有意な低下を示した(図3〜5)。2週間目および3週間目の化合物1グループについて、p値は0.01よりも小さく、ビヒクルグループから有意に低下していた。第4週摂食時グルコース試験について血糖はビヒクルよりも低いままであるが、化合物2およびリスベラトロールについては有意さが失われた。
遊離塩基として100mg/kgが投与された化合物1は、図6〜8によって立証されているように、ob/obモデルにおいて改善された効力を示した。第1週の間に、すでに、ビヒクルグループからほとんど60mg/dLの血糖の低下がある。ビヒクルグループにおける285.3mg/dLグルコースと比べると化合物1グループが158.3mg/dLを有していたので、第2週に絶食時グルコースについてこの傾向が続いた。ANOVA検定によると、p値は0.0001よりも小さく、ビヒクルグループからの非常に有意な低下を示した。第3週に血糖値が上昇したが、ビヒクルグループと比べて有意に(p<0.01)低い。
化合物1の遊離塩基対HCl塩および化合物2を全て100mg/kgで直接比較する第2のob/ob実験を行った。第1週および第2週の絶食時血糖データをそれぞれ図9および10に示す。
【0247】
均等
本発明は、とりわけサーチュイン活性化化合物およびその使用方法を提供する。対象発明の具体例が記載されているが、上記明細書は例示するものであって、限定するものではない。本発明の多くのバリエーションは、この明細書を精査した当業者には明らかになるであろう。本発明の全ての範囲は、特許請求の範囲およびそれらの均等物の全ての範囲、ならびに明細書およびかかるバリエーションを参照することによって決定されるべきである。
【0248】
文献の引用
以下に挙げられたものを含む本明細書に記載された全ての刊行物および特許は、各刊行物または特許が出典明示により本明細書の一部を構成することを具体的かつ個別的に明示されているかのように出典明示によりその全体として本明細書の一部を構成する。
また、ゲノム研究所(TIGR)(www.tigr.org)および/または全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)(www.ncbi.nlm.nih.gov)によって維持されているもののような公共データーベースへの登録に対応するアクセス番号を付けたポリヌクレオチドおよびポリペプチドも出典明示によりその全体として本明細書の一部を構成する。
以下のものもまた出典明示によりその全体として本明細書の一部を構成する: PCT公開WO 2005/002672;2005/002555;および2004/016726。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(III):
【化1】

[式中、
Rは、−Hまたは−CHであり;
は、置換または非置換の含窒素ヘテロシクリルメチル基であり;
は、−Hまたは−CHであり;
は、非置換ピリジル基である]
で示される化合物またはその塩。
【請求項2】
が窒素原子を含有し、かつ、窒素および酸素から選択される第2のヘテロ原子を含有していてもよいヘテロシクリルメチル基である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
が置換または非置換の非芳香族複素環式メチル基である請求項2記載の化合物。
【請求項4】
がモルホリノメチル基である請求項3記載の化合物。
【請求項5】
が1,2,4−トリアゾリルメチル基である請求項1記載の化合物。
【請求項6】
構造式(IV):
【化2】

で示される請求項1記載の化合物。
【請求項7】
が窒素原子を含有し、かつ、窒素および酸素から選択される第2のヘテロ原子を含有していてもよいヘテロシクリルメチル基である請求項6記載の化合物。
【請求項8】
が置換または非置換の非芳香族複素環式メチル基である請求項7記載の化合物。
【請求項9】
構造式(VI):
【化3】

で示される請求項6記載の化合物。
【請求項10】
構造式(V):
【化4】

で示される化合物またはその塩。
【請求項11】
遊離塩基である請求項10記載の化合物。
【請求項12】
塩である請求項10記載の化合物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項記載の化合物またはその医薬上許容される塩および医薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
医薬組成物が発熱物質不含である請求項13記載の組成物。
【請求項15】
付加的な活性剤をさらに含む請求項13記載の組成物。
【請求項16】
治療上有効量の請求項13記載の少なくとも1つの医薬組成物を対象に投与することを特徴とする、インスリン耐性、メタボリックシンドローム、糖尿病、またはその合併症を治療または予防するか、または対象におけるインスリン感受性を増加する方法。
【請求項17】
化合物がサーチュインタンパク質のレベルまたは活性の少なくとも1つを増加させる、請求項16のいずれか1つの方法。
【請求項18】
化合物がサーチュインタンパク質のデアセチラーゼ活性を増加させる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
サーチュインタンパク質が哺乳動物タンパク質である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
サーチュインタンパク質がヒトSIRT1である請求項17記載の方法。
【請求項21】
SIRT1および/またはSIRT3タンパク質の脱アセチル化活性を増加するのに有効な化合物濃度にて、化合物が下記の活性:PI3−キナーゼの阻害、アルドレダクターゼの阻害、チロシンキナーゼの阻害、EGFRチロシンキナーゼのトランス活性化、冠血管拡張、または鎮痙作用の1以上を実質的に有さない請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−530431(P2010−530431A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513266(P2010−513266)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/007771
【国際公開番号】WO2008/156866
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(507239341)サートリス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (32)
【Fターム(参考)】