説明

シアノアクリレート系ポリマー粒子及びその製造方法

【課題】粒径の均一性が高い粒子を製造することができる、シアノアクリレート系ポリマー粒子の製造方法及びそれにより製造されるシアノアクリレート系ポリマー粒子を提供すること。
【解決手段】シアノアクリレート系ポリマー粒子の製造方法は、シアノアクリレート系モノマーをアニオン重合させてシアノアクリレート系ポリマーから成る粒子を製造する方法であって、前記アニオン重合を、シアノアクリレート系モノマーと、水酸基を有する単糖類及び二糖類から成る群より選ばれる少なくとも1種の糖の共存下において行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬等の所望の物質を内部に抱合することができるシアノアクリレート系ポリマー粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアノアクリレート系ポリマーから成る粒子は、内部に医薬等の所望の物質を抱合できることが知られており、この性質を利用して、これを薬剤送達システム(DDS)として利用することも知られている(非特許文献1)。シアノアクリレート系ポリマー粒子は、シアノアクリレート系モノマーのアニオン重合により製造されている。このアニオン重合の重合開始剤及び安定剤として、多糖類であるデキストラン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(商品名Tween)のような界面活性剤、シクロデキストリン等が用いられている(非特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】Douglas et al., Journal of Colloid and Interface Science, Vol.103, No. 1, January 1985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、公知のシアノアクリレート系ポリマー粒子の製造方法では、製造される粒子の粒径にばらつきがある。粒子をDDSとして用いる場合、組織や細胞に取り込まれやすいサイズの粒子を用いることが好ましいので、粒子の粒径が揃っていれば有利である。また、粒子の粒径が揃っている方が、取扱いが便利であり、また、DDSとして利用した場合に、実際に組織や細胞に取り込まれる医薬の量をコントロールしやすい。しかしながら、公知の方法では、製造される粒子のサイズの均一性が必ずしも満足できるものではない。
【0005】
従って、本発明の目的は、粒径の均一性が高い粒子を製造することができる、シアノアクリレート系ポリマー粒子の製造方法及びそれにより製造されるシアノアクリレート系ポリマー粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、鋭意研究の結果、シアノアクリレート系モノマーのアニオン重合の開始・安定剤として、水酸基を有する単糖類又は二糖類を用いることにより、シアノアクリレート系ポリマー粒子の粒径のばらつきを小さくすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、シアノアクリレート系モノマーをアニオン重合させてシアノアクリレート系ポリマーから成る粒子を製造する方法であって、前記アニオン重合を、シアノアクリレート系モノマーと、水酸基を有する単糖類及び二糖類から成る群より選ばれる少なくとも1種の糖の共存下において行なう、シアノアクリレート系ポリマー粒子の製造方法を提供する。また、本発明は、上記本発明の方法において、前記アニオン重合を、前記シアノアクリレート系モノマー、前記糖、及び製造される粒子内に抱合すべき所望の物質の共存下において行なう、前記所望の物質を抱合したシアノアクリレート系ポリマー粒子の製造方法を提供する。さらに、本発明は、上記本発明の方法により製造されたシアノアクリレート系ポリマー粒子を提供する。さらに、本発明は、上記本発明の方法により製造された、所望の物質を抱合するシアノアクリレート系ポリマー粒子を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、粒径の均一性が高い粒子を製造することができる、シアノアクリレート系ポリマー粒子の新規な製造方法及びそれにより製造された、粒径の均一性が高いシアノアクリレート系ポリマー粒子が提供された。本発明の方法により製造されるシアノアクリレート系ポリマー粒子は、粒径の均一性が高いので、DDSとして用いた場合の有効性が高く、取扱いが便利である。また、製造される粒子内には、重合開始・安定剤として用いる単糖及び/又は二糖も少量含まれるが、これらの糖は、生体由来であるので、人体に対する安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法に用いられるシアノアクリレート系モノマーは、アルキルシアノアクリレート系モノマー(アルキル基の炭素数は好ましくは1〜8)が好ましく、特に、外科領域において傷口の縫合のための接着剤として用いられている、下記式で表されるn-ブチル-2-シアノアクリレート(nBCA)が好ましい。
【0010】
【化1】

【0011】
本発明の方法では、シアノアクリレート系モノマーがアニオン重合により重合されるが、その際の重合開始及び重合の安定化のために水酸基を有する単糖類及び二糖類から成る群より選ばれる少なくとも1種の糖を用いる。用いる糖は、水酸基を有する単糖又は二糖であればいずれの糖でもよく、好ましい例として、グルコース、マンノース、リボース、フルクトース、マルトース、トレハロース、ラクトース及びスクロースを挙げることができる。これらの糖は、環状、鎖状のいずれの形態であってもよく、また、環状の場合、ピラノース型やフラノース型等のいずれであってもよい。また、糖には種々の異性体が存在するがそれらのいずれでもよい。通常、単糖は、ピラノース型又はフラノース型の形態で存在し、二糖は、それらがα結合又はβ結合したものであり、このような通常の形態にある糖をそのまま用いることができる。単糖及び二糖は、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0012】
重合反応の溶媒は、通常、水が用いられる。アニオン重合は、水酸イオンにより開始されるので、反応液のpHは、重合速度に影響する。反応液のpHが高い場合には、水酸イオンの濃度が高くなるので重合が速く、pHが低い場合には重合が遅くなる。通常、pHが2〜4程度の酸性下で適度な重合速度が得られる。反応液を酸性にするために添加する酸としては、特に限定されないが、反応に悪影響を与えず、反応後に揮散する塩酸を好ましく用いることができる。
【0013】
反応開始時の重合反応液中のシアノアクリレート系モノマーの濃度は、特に限定されないが、通常、0.5重量%〜2重量%程度、好ましくは0.8重量%〜1.2重量%程度である。また、反応開始時の重合反応液中の糖の濃度(複数種類用いる場合はその合計濃度)は、特に限定されないが、通常、2w/v%〜10w/v%、好ましくは4w/v%〜6w/v%程度である。また、反応温度は、特に限定されないが、室温で行なうことが簡便で好ましい。反応時間は、特に限定されないが、通常、1時間〜6時間程度、好ましくは、2時間〜4時間程度である。重合反応は、撹拌下に行なうことが好ましい。なお、粒子は、通常、中性の粒子として用いられるので、反応終了後、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基を反応液に添加して中和することが好ましい。
【0014】
上記の重合反応により、シアノアクリレート系モノマーがアニオン重合し、シアノアクリレート系ポリマーから成る粒子が生成する。上記方法により得られる粒子のサイズ(直径)は、特に限定されないが、通常、ナノサイズ(1μm未満)、好ましくは40nm〜500nm程度である。なお、粒子のサイズは、反応液中のシアノアクリレートモノマーの濃度や反応時間を調節することにより調節することが可能である。また、用いる糖の種類によっても異なり、他の条件が同じであれば、通常、単糖を用いた場合には二糖を用いた場合よりも粒径が小さくなる(下記実施例参照)。生成した粒子は、遠心式限外ろ過等の常法により回収することができる。
【0015】
上記方法により製造されるシアノアクリレート系ポリマー粒子は多孔性であり、内部に所望の物質を抱合させることが可能であるので、DDS等として用いることが知られている。上記方法により粒子を形成した後、粒子を所望の物質の水溶液中に浸漬する等により粒子の内部に所望の物質を抱合させることも可能であるが、所望の物質の共存下において、上記したアニオン重合を行なうことにより、生成される粒子中に所望の物質を抱合させることができる。後者の方法の方が、簡便であり、また、抱合率も高くなるので好ましい。
【0016】
粒子内に抱合させる所望の物質は、特に限定されないが、組織に直接投与することが望まれる薬剤、例えば、アンピシリン、バンコマイシン、レボフロキサンシン等の抗菌剤、各種抗癌剤、iRNAやアンチセンスRNA等の各種核酸、各種抗体医薬、各種ワクチン、及び生理活性を有する蛋白やケミカルメディエーター等を挙げることができる。また、医薬に限定されるものではなく、生体内での物質を検出又は測定する各種試薬ないしは診断薬、化粧品分野に用いられるホルモンやヒアルロン酸等の各種化粧品成分、消臭剤、芳香剤、塗装分野に用いられる金属や顔料そして有機金属色素等を挙げることができる。
【0017】
重合反応液中に共存させる所望の物質の濃度は、該所望の物質の性質、使用時に必要な用量等に応じて適宜設定することができる。例えば、抗菌剤の場合には、通常、0.1〜0.5重量%程度、核酸の場合には、通常、0.001重量%〜0.01重量%等であるが、これらの範囲に限定されるものではない。
【0018】
本発明の粒子のサイズは、上記の通り、通常、ナノサイズ(1μm未満)であるので、組織や細胞に適用した場合に膜を通過して組織や細胞の内部に入りやすい。そして、粒子内部に抱合されている物質は、徐々に放出される。従って、医薬を内包した本発明の粒子は、DDSに用いた場合に優れた効果を発揮する。
【0019】
所望の物質を抱合させた粒子の使用量は、抱合された所望の物質の性質に応じて適宜設定され、所望の物質が医薬の場合には、その医薬について定められた適用量の医薬が抱合される量である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1〜4 単糖類を用いた粒子の製造
糖として、単糖類であるD(+)-グルコース(実施例1)、D(+)-マンノース(実施例2)、L(+)-リボース(実施例3)又はD(-)-フルクトース(実施例4)を用いた。
【0022】
各糖1.00gを用時0.01NHCl溶液20ml(pH2.10)にそれぞれ溶解した。撹拌下、nBCA 0.20mlを加え、室温で3時間撹拌重合させた。反応溶液に0.1N NaOHを滴下し、中和後10分撹拌した。5μmサイズのMilexフィルター(商品名)を通過しなかったので、蒸留水にてx5倍希釈しフィルター濾過後、市販の遠心式限外ろ過装置(商品名Centriprep)を用いて2000rpmで10分間で遠心濾過した。沈査に、蒸留水5mlを加えて再度遠心式限外ろ過装置(商品名Centriprep)を用いて2000rpmで10分間で遠心濾過した。さらに毎回5mlの蒸留水を加えて遠心濾過の操作を3回行い、洗浄粒子を得た。
【0023】
得られた粒子の粒子径をレーザー散乱光にて測定した。結果を下記表1に示す。また、電子走査型顕微鏡にて粒子の観察を行なったところ、粒径の均一性の高い球状の粒子が生成したことが確認された。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例5〜8 二糖類を用いた粒子の製造
糖として、二糖類であるマルトース(実施例5)、D(+)-トレハロース(実施例6)、ラクトース(実施例7)又はスクロース(実施例8)を用いたことを除き、実施例1〜4と同じ操作により粒子を製造した。
【0026】
得られた粒子の粒子径をレーザー散乱光にて測定した。結果を下記表1に示す。また、電子走査型顕微鏡にて粒子の観察を行なったところ、粒径の均一性の高い球状の粒子が生成したことが確認された。
【0027】
【表2】

【0028】
実施例9 アンピシリン抱合粒子の製造
0.001N塩酸溶液50mlに、グルコース2.5gを加えて溶解した。アンピシリン(ABPC) 100mgを、得られた塩酸グルコース溶液に加え、完全に溶解した。その溶液に、攪拌下、nBCA 500μlを加え、室温で2時間重合反応を続けた。その反応溶液に0.1N NaOHを滴下し、中和後10分撹拌した。5μmのフィルターでろ過後、濾液をCentriprep(商品名)フィルターを用いて2000rpmで10分間遠心濾過した。
【0029】
Centriprep(商品名)フィルター通過液をa、通過しなかった液をbとする。ABPC抱合率を求めるため、得られたa液の吸光度(254nm)を測定し、抱合されなかったABPC量を吸光度法により求めた。従って、
ABPC抱合量=ABPC投薬量−抱合されなかったABPC量
ABPC抱合率=ABPC抱合量÷ABPC投薬量
によって算出した。
【0030】
b液については更に2000rpmで10分間の遠心操作を毎回蒸留水を加えて遠心後、同様の操作を4回行い、ABPC抱合粒子を得た。
【0031】
得られたABPC抱合粒子の平均粒径は207nmであった。また、電子走査型顕微鏡にて粒子の観察を行なったところ、粒径の均一性の高い球状の粒子が生成したことが確認された。また、上記の通り抱合率を求めたところ、32.3%であった。
【0032】
実施例10 DNA抱合粒子の製造
0.001N塩酸溶液20mlに、グルコース1gを加えて溶解した。大腸菌由来DNA 1mgを含む生理食塩水溶液を、得られた塩酸グルコース溶液に攪拌下加えた。その溶液に、攪拌下、nBCA 200μlを加え、2時間重合反応を続けた。その反応溶液に0.1N NaOHを滴下し、中和後10分撹拌した。5μmのフィルターでろ過後、濾液をCentriprep(商品名)フィルターを用いて2000rpmで10分間遠心濾過した。
【0033】
Centriprep(商品名)フィルター通過液をa、通過しなかった液をbとする。
DNA抱合率を求めるため、得られたa液の吸光度(260nm)を測定し、抱合されなかったDNA量を吸光度法により求めた。従って、
DNA抱合量=DNA添加量−抱合されなかったDNA量
DNA抱合率=DNA抱合量÷DNA添加量
によって算出した。
【0034】
b液については更に2000rpm、10分間の遠心操作を毎回5%グルコース溶液を加えて遠心後、同様の操作を4回行い、DNA抱合粒子を得た。
【0035】
上記方法により求めた抱合率は87.6%であった。
【0036】
比較例1〜3 デキストランを用いた粒子の製造
糖として、分子量10kDa(比較例1)、70kDa(比較例2)又は150kDa(比較例3)のデキストランを用いた。
【0037】
1gのデキストランを100mLの0.01N塩酸に加えた点、Centriprep(商品名)による遠心ろ過を15分間行なった点を除き、実施例1〜8と同様にして粒子を製造した。粒径の測定結果を下記表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
比較例4 デキストランを用いたアンピシリン抱合粒子の製造
2.5gのグルコースに代えて、500mgの分子量70kDaのデキストランを用いたことを除き、実施例9と同様な操作により、アンピシリン抱合粒子を製造した。抱合率は28.7%であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノアクリレート系モノマーをアニオン重合させてシアノアクリレート系ポリマーから成る粒子を製造する方法であって、前記アニオン重合を、シアノアクリレート系モノマーと、水酸基を有する単糖類及び二糖類から成る群より選ばれる少なくとも1種の糖の共存下において行なう、シアノアクリレート系ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
前記糖が、グルコース、マンノース、リボース、フルクトース、マルトース、トレハロース、ラクトース及びスクロースから成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記シアノアクリレート系モノマーが、n-ブチルシアノアクリレートである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
製造される粒子の平均粒径が40nm〜500nmである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法において、前記アニオン重合を、前記シアノアクリレート系モノマー、前記糖、及び製造される粒子内に抱合すべき所望の物質の共存下において行なう、前記所望の物質を抱合したシアノアクリレート系ポリマー粒子の製造方法。
【請求項6】
前記所望の物質が医薬又は核酸である請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法により製造されたシアノアクリレート系ポリマー粒子。
【請求項8】
請求項5又は6記載の方法により製造された、所望の物質を抱合するシアノアクリレート系ポリマー粒子。


【公開番号】特開2008−127538(P2008−127538A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317336(P2006−317336)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月23日 「日経産業新聞」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年10月26〜27日 日本感染症学会・日本化学療法学会主催の「第55回日本感染症学会東日本地方会総会 第53回日本化学療法学会東日本支部総会 合同学会」において文書をもって発表
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】